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誰かを想うこと


 いつの間にか眠っていたようだった。

 腕は鈍く痛い。

 ぼんやりと、夜中にセアラと話したことを思い出した。本当のことだったのか、夢だったのか。

 周りを見回して夢ではなかったとわかった。

 昨日確かに自分が横たわっていたベッドだ。セアラが座った椅子がある。

 側には若い女官が控えていた。

「おはようございます。」

 女官はリタと名乗った。

「カーテンを開けてもよろしいですか。」

「お願い。」

 小さく、けれど丁寧に頭を下げられる。部屋に光が入ると、さすが王城と思わされる内装が目の前に現れた。

 磨き上げられた家具、落ち着いた色彩でまとめられた調度品、美しい絵画。

 昨日見た椅子には、北の隣国の伝統的な幾何学模様が織り込まれた、淡いオレンジを主としたクッションが乗っていた。王太后様がその国の王女だったことを思い出す。

「お着替えをお手伝い致します。」

 リタが手にしていたのは寝衣だ。ひと目見ただけでわかる。上質な布を使っている。

もちろんシンシアのものではない。

「それは?」

「お客様のために王城でお準備させて頂いているものでございます。お帰りの際にはどうぞお持ちください。」

 元々準備されていたものなのだろうか。

「常備してあるのですか?」

「真新しいものでございます。他の意匠のものをお持ち致しましょうか。」

「いいえ。それで結構です。」

 窓から入る陽射しをみると、昼前に近いと思えた。

「随分眠ってしまったようね。」

「眠れてよろしゅうございました」

 リタが慎重に、右腕から着ていた寝衣の袖を抜いてくれる。

「夜中にお目を覚まされたと聞いております。」

「今夜眠れるかしら。」

 少し軽い調子で言ってみた。

「お休みになれるまで、ご本をお読みいたしますよ。わたくしではありませんが。」

 真面目な顔だったが目がきらめいていて、冗談だとわかった。

「リストを作るわ。」

 大きな痛みを起こさずに服を着替え終えた時はほっとした。さすがは王城の女官だ。

 顔を清めるとすっきりとした気持ちになれた。

「朝食をお持ち致します。」

 リタが一歩下がる。

「ケルター子爵夫人が、早くお会いになりたいと仰せですが。」

「呼んでください。」

「はい。それからセアラ・ディパンド伯爵ご令嬢より、本日夕方訪問しますと言付かっております。」

「お返事がいるようでしたか?」

「いえ、お伝えすればわかって頂けると承っております。」

「ありがとう。」

 部屋を出て行くリタを見送って、セアラとの昨夜の会話を思い出す。

 信じられないような話を聞かされた。本当のことだったのだろうか。

「シンシア」

 母が輝くような笑顔でやって来た。

「昨晩は本当に劇的な夜だったわ。」

 声を弾ませながら、セアラが昨夜座った椅子にすべるように収まる。キラキラした瞳に圧倒されて、少し身を引いてしまった。

「キルティ侯爵のご嫡男に求婚されるなんて、あなた、いつお知り合ったの?」

 説明の出来ないことは、聞き返すしかない。

「キルティ卿が?」

「そうよ。シンシアは気を失ってしまっていたけれど。肩は? 痛みはどう?」

 母が痛ましそうな顔をした。

「痛いです。」

「そうよね。ロークはどうしてあんな勘違いをしたのか。本当にわからないわ。」

 怒りが母の顔に浮かんだ。

「なにより、何の非もない私の娘に手を上げるなんて、許せない。」

 声がどんどん大きくなる。

「騎士が女性に手をあげるなんて、あり得ないでしょう!」

「お、お母さま。」

 シンシアは慌てて声をかける。ここは自分の館ではなく、王城である。どこで誰が聞いているかわからない。母が暴言を口にする前に止めたい。

「朝食をお持ち致しました。ケルター子爵夫人。お茶をどうぞ。」

 リタが、見計らったようにワゴンを押してやって来た。

「あら、ありがとう。」

 怒っていたこのなど嘘のように、母は淑やかにカップを受け取った。

 変わり身の早さに思わず見入っていると、リタはシンシアにも声をかけた。

「お嬢さま、他にも何か召し上がりやすいものをお持ちいたしましょうか。」

 朝食に目を落とした。柔らかめのリゾットと野菜のスープだった。食欲はあるとはいえない。

「十分です。ありがとう。呼ぶまで席をはずしてもらえる?」

「かしこまりました。では、後ほど薬湯をお持ちいたします。」

 リタが出て行くのを待ち構えていた母が、また身を乗り出してきた。

「キルティ侯爵のご子息と、いつお知り合いになったの?」

 期待に満ちた目で見られるが、シンシアに言えることは少ない。

 困惑した顔を向けるしかない。

「昨日、初めてお知り合いになりました。セアラさまの紹介で。ダンスのお誘いを受けて、一曲踊ってくださっただけです。」

「ダンスをしたの? なんてこと、それを見逃したなんて。あぁ、でも大丈夫ね。これからまだまだ見る機会はあるわ。」

「お母さま?」

「侯爵家のご子息に一目惚れさせて、その日のうちに求婚されるなんて、物語のようではないの。すごいわ。」

 それより前に会っている事を話すわけにはいかない。シンシアは、眉を下げるしかない。

「お母さま、その話、他では…」

 してほしくないと言う前に、大きく頷かれた。

「わかっているわ。しないわよ。キルティ侯爵のご承諾がなければ結婚は無理ですものね。」

 思わず目を見開いたが、俯くことで何とか驚きを隠した。昨日のセアラの話では、キルティ侯爵は承知しているということだったのに。

 理由はすぐにわかった。

「昨日、カイル様が求婚をされた時、お父さまが口を開く前に、セアラ様がカイル様の腕を引いたのよ。」

「セアラ様が?」

「カイル様は物凄く嫌そうなお顔をされていたけど、セアラ様に何かささやかれると、お父さまに頭を下げて一度部屋を出られたの。」

「セアラ様と?」

「そうよ。私、もしかしてセアラ様とお付き合いをしていらしたのかと思ったわ。」

 この言葉はシンシアの心を大きく揺さぶった。ふたりとも互いに距離をとっているのは、もしかして本当は好きだから?

 物語によくあることだ。

「でもすぐに戻ってこられて、必ず侯爵様の許しを得ると言いきられたの。セアラ様の様子も見ていたけれど、ただ眺めているという感じだったわ。」

 母は確信を持って結論づけた。

「きっとセアラ様が、侯爵の許しを得ると言った方が説得力があると、言って下さったのね。」

 夜中にセアラと話したことが夢でないなら、どういうことなのか。

 ザラザラとしたものが心の中で動く。夕方まで待たなくてはセアラとは話せない。

「シンシア、お食事を頂きなさいな。ひとりで食べられる?」

 痛いけれど、左手は使える。

「大丈夫です。」

 見守られるのに少し緊張したが、多くを食べられなかったのはそのせいではない。

「熱のせいかしらね。」

 心配そうな母をみていると、小さな子供に戻ったような気持ちになる。

 長くは起きていられず、女官を呼ぶことになった。

 リタが朝食を下げて、薬湯を差し出してくれている。しっかりと見守られ、これだけは全部飲む。

 ワゴンだけが部屋の外に出され、リタが向き直った。

「お見舞いが届きました。お飾りしてもよろしいでしょうか。」

 母と顔を見合わせてから、頷く。

 三人の女官が、ピンクの薔薇が活けられた大きな花瓶を持ち込んできた。

 シンシアから良く見えるように、元々置いてあった飾りものが、少し位置を変えられる。それまで活けられていた花は部屋の隅へと移動された。

 優雅ともいえる仕草で行われた作業は、美しい礼をして女官たちが出て行くことで終わった。

「さすが王城の女官ねぇ。」

 母の感心したような呟きに頷きつつ、シンシアは、リアからカードを受け取った。

『シンシア。あなたが好きな花をまだひとつしか知らない。もっと知りたい。カイル』

 鼓動が跳ね上がる。熱が上がって行くのがわかる。

 昨日の話したことを覚えてくれていたのが嬉しい。シンシアは自分が真っ赤になってしまったのを自覚した。

 カードの内容は恋文のようだ。

 ピンクの薔薇ばかりなんて、ひねりがないし、カードの内容も言い訳と取れる。心のどこかで、センスがあるのかどうか良くわからないと思いつつも、やっぱり嬉しい。

 考えながら、目が潤んでくる。

「シンシア。どなたから?」

 母がまた目をきらめかせている。

 一瞬迷ってから、手渡した。

「まぁ、素敵!」

 素敵で正解だったらしい。

 痛くて痛くて仕方がないけれど、心は少し弾んでいた。

 カイル・キルティが、シンシアの近くに本当にやって来たのだ。

 踊っただけではない。医務室まで抱きあげられて運ばれた。

 今度会った時、まともに顔を合わせられるか自信がなかった。


「ピンクの薔薇。」

 昼下がり、やって来た兄が驚いて言った。

 その兄の手にもピンクの薔薇がある。けれど他の花も彩りよく添えられた綺麗な花束だ。

「ありがとう。お兄さま。」

 受け取ってから、女官に渡した。

 兄はピンクの薔薇だけが活けられた花瓶を眺めながら言った。

「母上は一度屋敷に戻ってドレスを持ってくるって言っていたけど?」

 シンシアはため息を返す。

「そう。侍従長がここにいらして、怪我が癒えるまでお泊りくださいって言われたけど、早く帰りたいってお願いしたの。三日で帰ることにしたわ。」

「大丈夫か。馬車で揺れるぞ。そうでなくても痛むんだろう。」

「我慢する。自分の部屋でゆっくりしたい。キリカもいないし。」

 キリカは貴族ではないので、王城に滞在するとなると面倒な申請が必要になる。

「キリカ、こんな時にこそお世話がしたいのにって、泣きそうになってたよ。」

 大きなため息が出た。

「ここの女官はみんな静かで……、余計に屋敷のメイドたちが恋しいわ。」

「シンシアが怪我人だから静かなんだよ。世話係はみんな、看護の経験者ばかりだそうだよ。」

 兄の言葉に目を見開いた。

「そこまで配慮してもらっているとは知らなかったわ。確かにとても行き届いたお世話をしてもらってる。」

 でもやっぱり早く家に帰りたい。

「お母さまが十日分のドレスを持ってきても、三日で帰るから。」

 宣言すると、兄は少し笑ってから、真顔になった。

「実はエレーナなんだけど。」

 もちろん兄が彼女のことを話さないわけがないと思っていた。

「今回の件、言ってないんだ。」

 これは相談されているのだろうか。兄が自分からエレーナに言うべきか否か。

「言わなくても、カティス家の誰かが言うんじゃない?」

「言わないかもしれない。みんな過保護だから。」

 そうかもしれない。けれど、それはカティス家の問題だ。

 肩が痛い。エレーナのことはもう正直どうでもいい。

 けれど兄はエレーナと仲良くしてほしいと言っていた。

「成り行きに任せたら?」

 そういうのが精一杯だった。

 それからあとは、母と散々した会話が繰り返されることになった。

 カイル・キルティからのカードまで見られた。


「ピンクの薔薇。」

 夕方、やっと来てくれたセアラが、呆れたように言った。

 起きなくていいわよと言ってから、彼女は部屋を見回し言い当てた。

「あの花瓶三つはカイルからね。」

 セアラの口調にからかいはなかったけれど、シンシアの頬はやっぱり紅潮した。

「そう。」

「なんて面白みのない人なの。ピンクばっかり。しかも全部同じ種類、同じピンク。ピンクの薔薇だって色々あるでしょうに。」

「それはカードと対になっているのだもの。」

 自分も似たようなことを思ったが、他の人から言われたら何だか悔しい。

「カード?」

 言い出してしまったからには、見せるしかない。セアラはそれを見て納得はしたようだった。

 リタから引き継ぎを受けた女官がお茶を置いて出て行くと、セアラは、シンシアが一番聞きたかったことを切り出してくれた。

「まず、カイルの求婚の事だけど、まだキルティ侯爵の同意は得ていないことになっているから。」

「セアラとお母さまの話が違うから、どういうことかって思っていたの。」

「ごめんなさい。言葉がたりなかったわね。領地の件があるからよ。」

 領地の件というと、監査のことだろうか。怪訝な顔を向けると、セアラは困った顔をしていた。

「今、シンシアと許婚になられると、利害関係ができてしまうでしょう。カイルが、監査部でケルター領の件から外されるかもしれない。小さな危険も排除したかったの。例の件を実行するまでは、カイルには監査部の役人としてケルター領に関わってもらっていないと。」

 そう聞かされれば、セアラの心配も分かる。けれど、大きなため息がでてしまうのは止められなかった。

「どんな決着がつくにせよ、二か月先には終わるわ。それに、カイルの勢いに押されてしまうのを防げるわよ。彼を良く知る機会が増える。」

「キルティ卿の方が、私だと駄目だと思うかも。ケルター子爵領の問題が公になったら……」

「『まだよく知らない人。今のところは好き』とか言っていたのに。」

 セアラが呆れてる。

「なんだかすっかり恋する乙女じゃない。」

「そ、それは……。」

 指摘されると落ち着かなくて、視線がさまようのを止められない。

 セアラが大きなため息をついた。

「正直に言うと、私も驚いているの。昨夜の夜会で、カイルはシンシアを助けに来たでしょう。求婚もした。会合の後の馬車の中の彼には、間違いなく『打算』が見えていたのに、昨夜の騒ぎが終わる頃にはそれだけじゃないように見えた。」

 打算というのは、有能な方が良いというキルティ卿の奥方の条件のことだろう。それ以外の何をセアラはみたのか。

「今はただ、カイルがシンシアにふさわしい殿方になって欲しいと思うだけよ」

 おかしな言い方をされた。

「私がキルティ卿にふさわしいかどうか、じゃなくて?」

 セアラは小さく笑って軽い調子になった。

「そう。少なくとも、自分が内偵向きじゃないってことぐらいは、自分でわかるようになって欲しいわ。」

 似顔絵を思い出した。今はシンシアの部屋の中にある。

 シンシアはぼんやりと思ったことを口にした。

「やっぱり、まだ、良く知らない人だわ。」

「好きだけど?」

 聞かれて真っ赤になってしまう。

「セアラがそんなに意地悪だとは知らなかったわ。」

「あら、シンシア。それはとても有名な話よ。」

 明るく笑って、セアラは椅子の背に体を預けた。

「聞くのが遅くなったわ。怪我の具合はどう? 一ヶ月は安静だって聞いたけど。」

「痛いわ。けど三日後には家に帰る。なんだか落ち着かないもの。」

「そうなの? じゃあ急いでアルティアにお見舞いに来るよう知らせなきゃ。」

 アルティアには怖い思いをさせてしまった。

「アルティア、来てくれるかしら。」

 心配になって口にすると、セアラは大きく頷いた。

「来るわよ。アルティアは、オーガス侯爵夫人と一緒に証言をしてくれたそうよ。」

「本当? カース子爵がよく許してくれたわね。」

 カース子爵は、女性は常に控え目であることを望む人のはずだ。

「騎士にあるまじき行為について、カース家の者が黙っているわけにはいかない。そうカース子爵は言ったらしいわ。」

「そういうことなら理解できるわ。」

「だから心配はいらない。王城の客室よ。見たがるに決まっているわ。」

「それってもう、お見舞いじゃないわよね。」

 少し拗ねて見せたが、セアラは笑顔のままだ。

「早く家に帰るのもいいかもね。ここでは仕事が出来ないわ。」

「オレンジとカレイド・ジャム…」

 今月の終わり頃にアミタと雑貨の打ち合わせをする約束がある。来月には一度領地に帰る予定だったが、それは無理だろう。

「ケルター邸に帰って、キリカにお茶を淹れてもらってから考えれば?」

 セアラは明るい。

「大丈夫。アミタと約束している日までには、肩は今より楽になってる。来月領地に帰るって言っていたわよね。それは無理かもしれないけど、領地にいる人たちに代わりをしてもらえるでしょう。取り引き相手は王都にいるのだから、あなたは王都で話をまとめたらいい。他にもいい方法があるかもしれないしね。」

 他の方法と言われ、道はひとつと限らないだろうと思うことにした。

 セアラがお茶に手を出しているのを見て、聞いておかなければいけないことを思い出した。

「セアラ、昨夜の女官の名前わかる? 今日の女官の名前は聞いたのだけど、お礼をしたいの。」

「シンシアの世話をした人たちは他にもいるわよ。今回のことで仕事の担当が変わって影響を受けた人もいる。お礼の方法は、女官長がお見舞いに来た時に、聞いてみたら?」

「そうね。目の前にいる人だけにお世話になったのではないわよね。思い至らないなんて情けないわ。」

 穏やかな声がかけられる。

「怪我をして、熱もまだあるのでしょう。深刻に考えなくてもいいわよ。」

「大変なことをしてしまったのね。」

「大変なことをしたのはシンシアではないでしょう。」

 そう、ローク・カティスだ。

「ロークの処罰って決まったの?」

 珍しくセアラの顔がくもった。

「揉めてる。彼は王城騎士でしょ。それを王都見廻りにするか、北方辺境送りにするか。」

「……なんだかすごく差が大きい選択のような気がするけど…。」

「『政治』とか『名誉』とか。いろいろ物申す人が多いのよ。傷害事件は明らかで、シンシアに非がないのはわかってる。治療費や王城での費用はカティス家が支払うことになるわ。」

 政治や名誉と言う言葉を出されて不安になった。

「お母さまはカティス子爵夫人とお友達だし、お兄さまはエレーナのことを気にしてたわ。」

「シンシアはロークのこと、怒ってないの?」

 怒っていないわけがない。

「怒ってるわ。あんなことを言われて、暴力もふるわれた。怖いし、会いたくない。」

 声が震えた。怒りか、恐怖かわからない。

「それなら、カティス家のことで他のことを心配する必要はない。我慢することない。」

 我慢しているだろうか。よくわからなかった。

 セアラが心配そうに見ていた。

「自分の気持ちを大事にして。お母さまやお兄さまに気を遣いすぎないで。」

 そう言ってもらっても、気持ちは複雑なままだ。

 大事な事が急に心配になった。

「セアラ、ケルター領の資金計画には影響ないわよね。」

 セアラの顔からくもりが晴れた。

「それは大丈夫。法律できちんと決まっていることを利用するんだから。」

「私たち、間違った選択をしていないわよね。」

 今まで一度もしたことのない確認だった。

 しばらく返事は帰ってこなかった。沈黙は、話があちらこちらに飛んでしまったせいだけではないような気がした。

「辛い選択をしたことは確かよ。」

 それはわかっている。

 薄闇が迫って来ていた。セアラが、部屋に灯りをともして回ってくれた。

「私たち、考えることが多すぎるわね。」

 微笑んで、セアラは帰っていった。

 確かにたくさんの物事をシンシアは抱え込んでいる。けれどそれはシンシアの問題で、セアラに責任はない。

 内宮の侍女であるセアラは、そこに住む方々の意を受けて行動することもあるようだ。セアラの考えることは、政治とか名誉とかに関わることなのだろうか。

シンシアには想像がつかなかった。


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