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俺は彼女を監禁する / 白銀の剣閃  作者: 清水
叛逆 〜 The Silver Ring and Swirling Black Doubts.
20/26

LVNH//O//2038/04/14/21/47//TE-01/2021/05/22/FCE

 電脳間脳少女の澄鈴。

 今亡き藤原衛世が撒いた厄介な種の中でも、より厄介で厄介な種。

その種とはセキエイシステムとかいうワケのわからんシステム、というか我が父の自作パソコンに住み着く電脳少女だ。

 しかし、澄鈴という少女の本質は元々人間であった時に持っていた間脳と大脳新皮質のいくつかの破片だったのだ。

 彼女の残骸たちは衛世の遺物の中に混ざったジャム用の瓶、更にその中のやや特殊な試験管内に厳重に保管されていた。件の試験管をしまっていたジャム用の瓶のラベルには未だにこの残骸たちは生命活動を続けて、パソコンの中の電脳少女に命を吹き込んでいると衛世の汚い筆跡で刻み込まれている。

 いや、吹き込まれているものは命ではなく、単純に脳みそと、その活動だけかもしれない。脳みその残骸だけで彼女はパソコンの内部から外界に接触してきているのだ。人間としての肉体もその脳の残骸しかない。文字通りの電脳間脳少女を果たして、命ある人間、として認められるのか。俺は容易にイエスとは言えない。だが、ノーとも言えない。困った問題だ。

 つまり、どういう事かと言うと、我が父の藤原衛世は再び一人の少女を俺に託したのだ。彼女が死んでいるとすれば死体遺棄だか死体損壊の罪に、彼女が生きているとすれば誘拐だが監禁の罪に問われる可能性がある。

 これは、ルナという監禁罪の塊を背負った俺には更なる重みだ。あの馬鹿野郎は、ルナに加えてまたもや爆弾級の問題を俺に押し付けてきやがったのだ。またもや監禁罪か、もう懲り懲りだね。

 自作パソコンのディスプレイの上方に搭載されているカメラ、つまり澄鈴に向かって俺は引き攣った笑みで運んできた試験管を軽く振る。これで彼女にも見えるのだろうか。いまいち自信が無かったが、彼女はしっかりと火花を散らすような電子的な金切り声で反応してくれた。


「なあ、澄鈴。コレ、マジなの? この衛世のきったないメモの内容と、この……脳みそとか」


Sumire.S > [RFS] こ、こらこらこらぁぁ〜〜〜〜ヽ(`Д´#)ノ! え、ええええーきっ! 女の子の脳みそを見ちゃダメだよおおおおー!

Sumire.S > [RFS] えーせーもそうだったけど、デリカシー無さ過ぎ! 分かる? 女の子の裸を覗くのと同じことなんだよー!(# ゜Д゜)▄︻┻┳═一


「悪いけど、何も分からん。脳みそを見て恥ずかしいと訴えられたことは我が人生において一度も無いもんでな」


 銃器のアスキーアート付きの絵文字で脅された俺は澄鈴に見えるように両手を挙げて降参のポーズ。階下から数本のワインボトルを運んできたルナに試験管は渡すことにしたが、澄鈴はそれでも「いやぁっ、ルナちゃんに私の大切なトコロ見られちゃってるゥ」なんて言い出すから良く分からない。

 確かに間脳視床下部は人間にとって自律神経の中枢、人体にとって非常に大切な所ではあるのだが、やはり彼女は電脳間脳少女というよりはただの官能少女なのだろう。女の子に見られて興奮するなんて、やっぱり、レズだな。

 はあ、生物の授業をまともに聞いておいて良かった。ここで間脳視床下部って何ぞ、大脳新皮質って何ぞ、なんて言ったら恥ずかしいからな。

 間脳視床下部というのは間脳の下半分に位置する部位で、人体の神経の中枢であり、体温調節や下垂体ホルモンの制御を司る。一方、大脳新皮質というのは大脳の表面にある部位で、人間特有の分析能力や感情を司るのだ。

 更に、ここだけの話だが、我的(アートマン)魔術の中枢は間脳視床下部にあると港元市は考えているのだ。衛世の走り書きのメモにあった通りだ。これ、機密情報だからな。他国の人間に言ったら奴らに消されちまう。

 だが、部屋に帰った澄鈴からの説明はそんな生物の授業よりも実に明々白々かつ非常にシンプルだったのだ。

 それは、どうして間脳視床下部やら大脳新皮質だけでこの自作パソコンを介して意思疎通、及び生命活動が出来るのか、という疑問の答えだ。

 彼女は導線を駆ける一筋の電流のような電子音ボイスでサラリと説明した。それはズバリ、テレパスの応用だと言う。テレパスというものは、ローゼンクロイツ的弁別法の主に第Ⅳ種魔術群(ヴィッセンシャフト)に属するもので、一種の効果器となった脳が特定の脳波を発信し、一種の受容体となった他の脳が発信された脳波を受信するというものだ。

 脳波の発信も魔術で、脳波の受信も魔術。これらを俺たち魔術師たちは総じてテレパスと簡単に呼ぶ。ほら、昨晩も斬殺魔に襲われた時にフィリップさんや衛世が俺に使った魔術のことだ。俺は発信側のテレパスは使えないが、受信側なら出来るのだ。受け専門だ。誰かが喜びそうな語句だな。

 んで、そのテレパスがどう応用されているのかは、澄鈴自身が言うには彼女の脳の残骸の発信する脳波を、彼女自身の我的(アートマン)魔術の補助を受けて機械であるパソコンが受信しているということらしい。

 ええと、ややこしいな。簡単に言おう。脳波の発信側は澄鈴の試験管の中身の脳の残骸、脳波の受信側は衛世の自作パソコン、というわけだ。でも、流石に衛世の自作パソコンでも人間の脳と同様の働き、つまり、受容器とは成り得ない。そこを無理矢理接続する、接続させるのが澄鈴の我的(アートマン)魔術の効果らしい。

 そして、衛世の自作パソコンは受信した澄鈴の脳波を解析し、それを文字として表出させ、可愛らしい声で読み上げているということらしい。何でも衛世の自作パソコンの内、八割が澄鈴の脳の残骸からの脳波を受信する機能に割かれているという。

 まあ、それでも脳波を解析する仕組みなんてものは、港元市以外の国の科学の領域でも充分に進められているからな。それ自体はとりわけ驚きに値することではない。いわゆる、魔術技術と科学技術が上手く組み合わさった一例というわけだ。実にシンプルな事だった。

 分からないのは澄鈴の脳自体が脳波を発信するだけの魔力がどこにあるのかとか、澄鈴の我的(アートマン)魔術がどのようにテレパスを補助しているのか、とかだ。


「おい、澄鈴。何が電脳間脳少女だ。電脳間脳といくつかの大脳新皮質の破片少女に改名しやがれ。さもなくば、お前の間脳視床下部と愉快な仲間たちが住んでいる試験管にナニを突っ込むぞ」


Sumire.S > [RFS] んひぃぃいいいい! えーきが鬼畜過ぎだよぉーщ(゜д゜щ)! 助けてルナちゃん! えーせーでもそんなことしなかったのにー!

Sumire.S > [RFS] 大体、何よー! 『いくつかの大脳新皮質』ってフレーズはー! “some”を上手に訳せない中学生かよー! やーい、ちゅーぼー!


 マジウゼェ。本当にウザッタイ。このウザさ、どんなに高度な人工知能では再現出来まい。コイツはやっぱり生きた人間だ。そう認識せざるを得ない。少女特有の駄々を捏ねるようで、大人を小馬鹿にするようなカウンターカルチャーの息吹を感じさせる電脳間脳少女の澄鈴は、どうしようもなく生きた人間の活動そのものであった。

 たとえ、澄鈴には俺たちのような目に見える肉体が無くとも、ディスプレイの中身で文字を吐き、読むだけの存在でも、だ。そもそも、目に見える肉体の身体があることが人間の条件なのだろうか。何が人間としての条件なのだろうか。そんなことは、俺には分からない。

 だが、この澄鈴が人間であることは明確な理由も無しに理解させられた。理由を強いて言うなら、先も述べたような人間のような雰囲気が彼女から放出されているからだ。

 それと、人間の脳波を解析してその脳波を文字として表している以上、それは人間と呼んでも良いだろう。魔術だとかパソコンが介されているだけで、実質は喋れない人間がスケッチブックで会話しているのと同じことだ。彼女はある種の身体障害者であって、一人の人間、そういったところだ。

 澄鈴本人からしてみれば、彼女自身が人間であることなど呼吸をする程当たり前の事実なのだろう。だから、彼女は頑なに人工知能と呼ばれるのを嫌がったのだ。それはどこか、不死身の怪物と恐れられる俺の心理と似たようなものだろう。俺は先程の軽率な行動を反省した。俺自身も、この特性から命の重さ軽さだなんていう倫理的テーマでどうこう言われるのが大嫌いだからな。気持ちは分かる。

 つまり、俺は衛世から死体遺棄や死体損壊の罪ではなく、監禁の罪をバトンタッチすることになった。またしても監禁か。厄介なこった。


「……で、澄鈴様は八年前に身体を失ったところを衛世様に助けられて、今の形としてこの世に生を留めているのですね?」


Sumire.S > [RFS] そーそー、ルナちゃんの言う通りだよー。いやあ、私を必死に助けてくれたえーせーカッコ良かったなあ(´∀`*)

Sumire.S > [RFS] でもでもー、澄鈴が覚えているのはそれだけー。澄鈴がここに入るまでの記憶はありませーんΣ(・∀・)

Sumire.S > [RFS] ハッキリ言うと、ここに入る前の澄鈴という女の子がどんな格好だったのかも、どんな性格だったのかも、当時の年齢も、住所も、本名もなーんにも知りませーん!


 今の澄鈴は頭の回転が素晴らしいルナからいつくかの質問を受けていたが、結局、八年前に藤原衛世の自作パソコンと共に作られたという事以外で目ぼしい情報は得られなかった。

 それもそうだろう、今の澄鈴出生の秘密は澄鈴自体も知らず、鍵を握っていた今の澄鈴を生んだ藤原衛世は既にこの世から去っているのだから。

 というわけで、俺とルナは澄鈴が身体を持って生きていた時にどんな姿をしていたのか、澄鈴がどうして身体を失ったのか、どうして衛世によって助けられたかが分からなかった。

 港元市での出来事はあんまり覚えていないが、そんな人間の身体が丸ごと吹き飛ぶような事故が起きればそれなりにニュースになるはずだし、それをこのような形であれ助けた衛世は表彰モノのはずだ。それなのに、彼女をこんな隠すような形で保存し、港元市の外にまで連れてくるだなんて考えれば考えるほど変な話だ。自慢癖の酷い衛世が今まで俺に紹介しないのも異常に不自然だし、何よりこんな高度な魔術技術と科学技術の結晶を港元市が放っておくとも考えられない。開発者の衛世は市の功労者だかなんだかに表彰されるはずだ。

 事実、市の魔術技術や、魔術技術をサポートする非魔術技術に貢献した者にはそれなりな待遇が与えられたはずだ。意味不明だ。考えるの止め止め。

 ああ、澄鈴自身も言っていたが、今、こうしてくっちゃべっている澄鈴が果たして肉体を持っていた時の澄鈴と同じような存在かは分からないから、「今の澄鈴」と定義付けさせてもらった。

 そう言えば、身体を持っていた頃の澄鈴はレズとか彼女は言っていたな。今日のお昼もそうだった(矢吹遥&霧谷優梨)が、昨今の俺はレズに巡り会う機運が高まっているとでも言うのか。キマシタワー!


「つまり、澄鈴よ。お前は、身体を失う前の記憶を何も覚えていない、というワケか?」


Sumire.S > [RFS] そのとーりだ! でもさー、その時、えーきもえーせーが澄鈴ちゃんを作っている時に何回かは澄鈴ちゃんを見ていたんだよーm9(・∀・)ビシッ!


 済まないな、俺もさっき言った通りだ。七年前以上の記憶、つまり港元市での記憶は無いと言っても過言ではない。別に、澄鈴のように身体を失って記憶を失ったとかじゃないけど。

 ぶっちゃけ、澄鈴がどうやって生命活動を維持しているかよりも、どうして衛世が今のお前を作ったのかが気になるんだがなあ。まあ、『暁月の環』(グレモリー)を使えば一発で真実を出せるんだが、それは奥の手だ。最初に指輪でしなきゃならないのはあの女の罪を炙り出すことだからな。澄鈴には悪いが、そんな余計なことで魔力を搾取されちまうのは惜しい。後回しだ。

 とか言っておいて、後で暁月先生から無料使用の期間が過ぎましたとか言われたらどうしようか。この宝具が課金アイテムでないことを祈るしかない。


「そんで、お前がさっきから繰り返し言っているセキエイシステムってのは何だ。これが最後の疑問だ」


Sumire.S > [RFS] あー……本当だ。えーせー、死ぬっつーのにえーきにセキエイシステムについて何のメモも残してないのかー(;・∀・)

Sumire.S > [RFS] ほら、えーき。そもそも、何で、ベーシックコードで『SKEI』のコードを入力して澄鈴のプライベートな空間を抉じ開けたのよー?


「ん? ベーシックコードで他のコードが入れられたのか? 俺はそのコードしか知らなかったというか……」


Sumire.S > [RFS] えーせーの馬鹿。ちゃーんと教えておかないと、澄鈴ちゃんの負担が増えるじゃないかー……。

Sumire.S > [RFS] 良いかなえーき、このパソコンのベーシックコードは『WNDS』でWindowsを、『RRKZ』でRuriKazeを開けたんだよー?


 な、何だと……? この自作パソコンに要求されていた"Basic Code"という英字、つまり、ベーシックコードとはOSの選択をするものだったのだ。道理でパソコンの起動直後であれこれ聞かれたわけだ。

 あの段階で「SKEI」ではなく、澄鈴の言った通りのコードを入力すればWindowsやらRuriKazeと言った割りかし慣れ親しんだOS(そもそもパソコンに俺は慣れ親しんでいないが)を起動出来たのだ。一つのパソコンに開発社が別々のOSが二つもあるなんて俺は聞いたことがない。意外にあるものなのか?

 まあ、RuriKazeだけは絶対に使いたくないんだけどね。それもそのはず、RuriKazeはWindowsの普及していない港元市におけるメジャーなOSだからだ。RuriKazeの開発は港元市の御三家とかいう気取ったお家の一つ、経済運営の瑠璃颱(るりかぜ)家によるものだ。

 港元市建国以前、瑠璃颱家は港元の漁業を中心に活動し、それから付近の市場をあれこれ管理するようになって、晴れて港元市の経済運営の役目を背負うことになったお家だ。だから当然、滅茶苦茶な金持ちのお家で、又の名を瑠璃颱財閥という。読みにくい字を使いやがって、大嫌いだ。

 っつうか、父さん、OSまで全部手作りだとか言っていたが、WindowsもRuriKazeも市販のOSじゃないか。嘘つきめ。息子としては大変悲しい思いでありますぞ。私、藤原衛紀はこの件に関しては藤原衛世様を大変評価なさっていたのですよ。って、何様だ、この俺は。


「いや、澄鈴。それじゃあ答えになってないぞ。セキエイシステムってのが何なのか俺は聞いているんだ。それと、俺はRuriKazeのことなんて金輪際聞きたくもない」


Sumire.S > [RFS] だーかーらーっ! えーきは何でベーシックコードに『SKEI』を入れて、澄鈴ちゃんを起こしたのかって聞いてるのー(#・∀・)!


「そ、それはだな……。このパソコンで調べたいデータがあって……これ、これだ。この、USBだ。この中身を見たいんだ」


Sumire.S > [RFS] そうそう、それだよーm9(^Д^)

Sumire.S > [RFS] 実際に見せた方がきっと分かりやすいからねー。ほら、それを澄鈴に挿れて♡ 早く早くー♡

Sumire.S > [RFS] あ、でもー、優しく挿れてねー。挿れられるのは、初めてじゃないんだけど、ね♡


「……うざってえ」


 ムカつくけれども、こちらは一応教えを請う立場なので優しく衛世の自作パソコンのUSBポートに問題の例のブツを突っ込む。ブツと言うのは、改めて言うまでもない。港元市の『例外』(インダルジェンス)を纏った魔女からルナが奪ってきた問題のUSBメモリだ。

 例の金属の板をポートに入れる時にVOICEROIDとVOCALOIDの中間点のような可愛らしい嬌声を嫌味ったらしく上げる澄鈴はアレだが、それに対して紅の和服の大きな袖で顔をあわあわと隠しているルナは大変可愛らしい。寧ろ、官能少女の澄鈴本人もルナの可愛らしい声を聞くために色っぽい声をあげているといった感じだ。これが真のレズ魂なのか。いいぞ、もっとやれ。俺のメイドは可愛いだろう、澄鈴よ。

 だが、流石に早く目的のデータを見なければならない。時は刻一刻と進み、あの女が風呂から上がるまで三十分切ったところだ。それまでになんとか港元市の魔女から掻っ攫ったUSBと衛世のTwitterアカウントを確認しなければならないのだ。

 俺は焦らすような手付きを止め、一気にガチリとUSBを差し込む。最後によりいやらしい嬌声を上げた澄鈴は画面上に澄鈴の脳波を表出させたセリフ群を一つのウィンドウにまとめ、遂に本当のデスクトップを表示させた。

 デスクトップは相変わらず真っ暗だったが、すぐに緑色と青色を混ぜた色……日本の伝統色である白群色の六角形の図形を浮かび上がらせ、その下部には同じく白群色のある英字が走る。それは、見覚えのある英字だ。


 SEKIEI SYSTEM


 そう、その文字は思い出すのも痛々しくて恥ずかしいセキエイシステムの文字だ。痛くて恥ずかしい語句であるセキエイというのは、父のTwitterのアカウント名に則って漢字に直すと「隻影」だったはずだ。しかし、画面中央に表示された白群色の六角形の記号はどこかモース硬度7を示す鉱物、「石英」を表しているようだった。

 とは言え、真っ暗な画面にくっきりと映える白群色の六角形の記号と英字は様になっているように見えた。隻影だろうと石英だろうと、結局は父の好きそうな厨二病っぽいデザインであることに変わりはない。

 だけど、なんとなく、気に入った。俺も父に負けず劣らず厨二病患者というわけか。悲しいね。いや、だが、世界には俺たち親子の理解出来ないとんでもない厨二病患者がいるはずだ。一人称が「余」で、十字架だらけのゴスロリに縦ロールを決めている美少女がいる事を信じている。そんなのいるわけねえ。

 皆さんは白群色だなんて言われても想像出来ないだろうから、是非とも#75C6C3のカラーコードで探してみてくれ。日本の古き良き伝統色が皆さんのパソコンの画面一杯に広がり、「ああ、この色のことか!」と手を打ち、首を振り納得してくれるはずだ。

 って、俺はまたこんなクッソどうでも良いことに『暁月の環』(グレモリー)の知識を使っちまったじゃないか。これで余計な魔力を吸収されて本当に使いたい時に魔力切れを起こすのだ。やられた。明日も知識そのものを引き出す使い方が出来るかどうか分からないぞ……。


「これが……父さんの作ったセキエイシステム、なのか」


 そこで俺はある一つの考えを想起させた。澄鈴が言っていたベーシックコードについてだ。

 「WNDS」のベーシックコードでWindowsのOSを起動させ、「RRKZ」のベーシックコードでRuriKazeのOSを起動させるのであれば、「SKEI」のベーシックコードなら……!


「セキエイシステムというのは、衛世様がお作りになられたというOSのことですか? どうなのでしょうか、澄鈴様」


Sumire.S > [RFS] そーいうことだよ、ルナちゃん! えーせーによるさいこー傑作、それがこの独自OSのセキエイシステムだよー( ・∀・)ノ


 見事、俺の活躍の場面は二人の女の子(主に我がメイド)によって奪われてしまった。辛い。この雀程度の脳みそしかない俺がせっかく弾き出した答えがあっさりと目の前で奪われてしまったのだ。

 ええと、はい。衛世の自作パソコンの起動直後に要求されたベーシックコードがOSの選択をするものであれば、「SKEI」というベーシックコードに対応するOSがこのパソコンの中身にあるはずなのだ。それが、マイクロソフト社によるWindowsでも、瑠璃颱家によるRuriKazeでもなく、衛世が自作したという真のOSであるSEKIEI SYSTEM、つまり、セキエイシステムの正体だったのだ。

 これで、彼の自作パソコンにはWindowsにRuriKaze、加えて謎に満ちた衛世作のSEKIEI SYSTEM、合わせて三つのOSが導入されていることが分かった。

 だが、つまり、これが衛世の作成したOSというわけなのだが、服や髪型のセンスが皆無な彼の割に、画面に表示されている六角形のロゴはかっこいいのだ。大変な違和感を覚える。

 いや、しかし、そんなロゴよりも知らなくてはならないことがある。果たして、そのセキエイシステムというわざわざ衛世が手ずから作成した独自OSの機能のようなものだ。セキエイシステムが極有り触れたOSであれば、世界で認められたWindowsや港元市で開発されたRuriKazeを最初から使えば良いのだ。WindowsやRuriKazeと言った市販のOSには出来ない、衛世作のセキエイシステムにしか出来ない特別の機能があるはずなのだ。まさか、それがかのハッキング能力だとでも言うのか?

 真っ黒なデスクトップには白群色のセキエイシステムのロゴと英字がゆっくりとフェードアウトした。残された真っ黒なデスクトップには澄鈴のセリフのログが表示されたやや小さめのウィンドウと外部接続がされていることを示したUSBの形をしたアイコン、それから画面の左端にはCDやらDC、TC……いくつかの英字を組み合わせたシンプルなアイコンがあった。DCはドキュメント、TCは表計算ソフトか。ドキュメントのDCと前後をひっくり返しただけのCDは……CDプレイヤーだろうか。CDなんていう代物はここ最近見かけないけどな。この時代では化石級アイテムだ。

 澄鈴はその中でもUSBのアイコンを鼻歌と共に操作したようで、こちらが何か操作する前にそのアイコンの中身がウィンドウ内に表示される。

 そう、遂に港元市の魔女から奪ってきたUSB、その『例外』(インダルジェンス)の中身が露わになるのだ。


   ***


 The Indulgence File


 1. Browse the following data.

   ・ http://ja.wikipedia.org/wiki/kogoroshi/...

   ・ http://ja.wikipedia.org/wiki/nagashibina/...

   ・ http://sharekowa.jp/05/06/06.html


 2. Browse the following date. But use only the EAFH – type CODE DISPATCHING #92652.

   ・ http://testofcourage.jp/kanto/kanagawa/37/01/13/01/14/...


   ***


 かくして港元市の魔女たちが藤原衛世に調べさせようとしたデータが姿を現したが……その中身はこれっきりだった。二つの項目と、その下に続くURLがいくつかあるだけだった。

 項目の二つ目の"the EAFH - type"とか"CODE DISPATHING"とかその辺は意味不明だが、各項目に共通する英字の内容は簡単だ。要は以下のデータを閲覧しろ、そんなところだ。

 澄鈴には"some"も上手に訳せない厨房と罵られたが、これでも晴れてこの四月から高校二年生に進級したのだ。流石にこの程度の英文が読めないと舐められては困る。

 それに、何がデータだ。どれもURL、ネット上に転がっているただのページじゃないか。しかも、項目の一つ目に続くURLの頭二つだなんてウィキペディアのページだ。こんなページ、いちいち藤原衛世のハッキング能力がどうのこうので調べさせなければならない内容とは思えない。こんなの、港元市の中からだって簡単に調べられるはずだ……。

 だから、正直言って、このUSBメモリの中身を見た第一の感想は、どうしようもない空虚感だった。だが、次にやってきたのは言いようもない焦りだった。

 それもそうだろう、特別の誰かじゃなくても調べられるようなデータの入ったUSBメモリが、市によるブラフだと考えるのも。それとも、ルナが奪ってきたUSBメモリだけがブラフなのかもしれない。

 いいや、それだけじゃない。そもそも、港元市の魔女たちが俺たちに伝えた『例外』(インダルジェンス)そのものがブラフの可能性も浮上してきた。さっき、ようやく彼女ら港元市の魔女たちと果処無村の事件の関連性を認められたというのに、まさかこっちのデータで躓くなんて考えてもなかった。

 おいおい、これでは振り出しに戻っちまうぞ。焦りが、地底の奥底のマグマのように煮え滾り、それが勢い良く地上に向かって走るのが分かる。


Sumire.S > [RFS] ……あー、久々にEAFHなんて呼ばれちゃったよ。記憶には無いけど嫌になっちゃうなー、澄鈴ちゃんは澄鈴ちゃんだっつーのにー。

Sumire.S > [RFS] さて、えーき。このUSBの項目の1はどうでも良いから、先に2から見てみよっかー(∀`*ゞ)

Sumire.S > [RFS] そーすればえーきもルナちゃんもセキエイシステムの凄さが分かるよー! これで万事☆解決☆作戦☆完了!


「お、おい。澄鈴、意味が分からんぞ。これ……偽物と考えるべきじゃないか。ルナ、お前はどう思うよ」


 澄鈴はデスクトップ上に表示されたもう一つのウィンドウの中身にある項目の二つ目の英字に腹を立てたようだ。どうも澄鈴の口振りから"EAFH"とは澄鈴のことだと分かる。そうだったな、澄鈴は自身の事を人間としての澄鈴と呼ばれないことを酷く嫌うのだった。

 一方、項目の二つ目の"But"以下の文は恥ずかしながら全く意味が分からなかったが、"EAFH"が澄鈴だとすれば、二項目目の英字の意味はURLを澄鈴、即ちこの自作パソコンの機能を用いて閲覧せよということだ。

 彼女がわざわざ一項目目のURLを無視したのは、二項目目のURLを閲覧する上で俺たちにセキエイシステムの機能を示せると踏んだからであろう。そうであれば、二項目目は港元市の内側では決して出来ないことの可能性も有る。

 だからこそ、澄鈴は明らかに不機嫌な口調でその可愛らしい電子音をパソコンから発し、ブラフの可能性を纏った港元市のUSBメモリの項目の二を閲覧しようと言う。それがこのUSBメモリの指示通りの行動だ。

 だが……USBがブラフならば、彼女ら港元市の魔女の罠の可能性もある。あの港元市のことだ、このUSBメモリや彼女らの語る『例外』(インダルジェンス)がブラフならば、彼女らはそんなちんけなブラフ程度で済ますはずがない。どこか、このUSBの中身に致命的なウイルスや術式が内包されていると考えるのが妥当だ。

 ん、言っただろう、術式というのは特定の文字を集めた文字列や、文字列と図形を組み合わせた魔法陣など様々な種類があり、その中にはデジタル形式な数列という術式も存在するのだ。

 ソイツをパソコンで読み込んで、魔術起動、ドカンだ。この数列術式も港元市が開発したもので、科学技術と魔術技術が綺麗に組み合わさった一例だ。身体を失った澄鈴を今の形で助けた衛世の技術もまた、科学技術と魔術技術の合作の一つだと言うのに、奴らはどうしてそんな使い方しか出来ないのだろうか。

 つまりだな、このブラフが明確な攻撃である可能性がどうしても有り得るということなのだ。港元市を知る者ならば、警戒するのが当然だ。


Sumire.S > [RFS] ん? どーした、えーき?

Sumire.S > [RFS] 澄鈴ちゃん、何かミスをしちしまったのかー( ̄ー ̄?)


「いや、ミスじゃなくて、偽物……つまり、罠の可能性があるんだ。迂闊に開いてウイルスが撒かれたり、数列爆弾のご登場なんて事があったりしたら困る」


Sumire.S > [RFS] ひィ、澄鈴ちゃん、爆弾は嫌だよー……(・・;)


 ああ、クソッタレ、何が取引だ。魔女たちは初めから俺たちに爆弾を寄越すつもりだったのか。それとも、ルナが彼女らに騙されて爆弾を持って来てしまったというのか。

 どちらにせよ、嫌な予感が噴火直前のマグマのように徐々に湧き上がってくる。俺の焦りをいち早く察知したルナは澄鈴を制止させ、恥ずかしがっていた先の素振りから冷静な顔付きで真っ黒なディスプレイを舐めるように観察する。

 ルナに見つめられた澄鈴が少しドギマキしつつも、先に進めないもどかしさで文字にならぬ声を上げる。そして、ルナは画面から顔を離して、真紅の袖を振った。どうやら、(オールグリーンというよりは、オールレッドだが)ゴーサインのようだ。俺は微かな不信感を抱きつつも、ルナの言うことなら信じてやろうと決意する。


「やりましょう、ご主人様。澄鈴様。衛世様の最高傑作セキエイシステムに賭けましょう。今、私たちにあるチャンスはこれだけです」

「……よぉっし、ルナ、お前の言うことを信じよう。それに、衛世の最高傑作が奴らの攻撃でやられるワケねえしな!」


Sumire.S > [RFS] おっけー! じゃあ、セキエイシステムの機能で先に項目の2、行ってみよーΨ(`∀´)Ψ! 


 澄鈴が電子音の怪しい笑い声でもう一つのウィンドウ、つまり、港元市の魔女たちのUSBメモリの二項目目のURLを白群色で囲い、画面左端のCDのアイコンが選択された。CDのアイコンの正体はCDプレイヤーのアプリケーションではなく、ブラウザを閲覧するアプリケーションだったようだ。

 二項目に記された特定のURLを画面のてっぺんに乗っけた大きめのウィンドウが画面全体に表示され、澄鈴のセリフログのウィンドウがその横に小さく表示される。ここまでは、普通のブラウザ閲覧機能と変わらない。

 ……だが、突如に異変が。


Sumire.S > [RFS] それ、着地☆


 特に何も起こらなかった。

 異変も何も、ただURLの先のページに飛んだだけだった。

 澄鈴の可愛らしい掛け声と共に極当たり前のようにURLの先のページに飛び、そのページが開かれた。スマホを持っていた俺からすれば、その光景は在り来たり過ぎて注意深く観察した事さえもない。別にページの読み込みが神レベルで早かったというわけでもない。ネットを普段から嗜む者にとっては極々、普通の、よく見かける光景だ。これではセキエイシステムの真の機能も何も分かったもんじゃない。他にもまだあるのか?

 しかし、澄鈴は物凄い得意そうに鼻歌をふっふふーんと朗らかに歌う。まるで一仕事終えた衛世が冷蔵庫からビールを引っ張ってきて呑みまくっているようだ。違う、酔っているとか泣きじゃくっているとかじゃなくて、その満足そうな感じが、な。


「おい、澄鈴。え、えっと……言いにくいんだが、お前、何かしたのか?」


Sumire.S > [RFS] ふっふふーん☆ そりゃーやっちゃいましたとも☆

Sumire.S > [RFS] なーんにも知らないえーきやルナちゃんには分からないでしょーね( ̄ー+ ̄)キラリ


「冗談言うな。ほら、これ、ただのネットの記事だろ……『漢の肝試し実況』とか書いてあるが、これが何だって言うんだ。ハッキリ分かるように言ってくれ」


 「漢の肝試し実況」とかいう、どこか暑苦しい感じが漂うネットの記事、もといスレッドが画面に表示された。そのスレッドはセキエイシステムのデスクトップ同様に真っ黒いもので、白い文字や赤い文字が目立つ。

 これはアレだ、いわゆるオカルト板というスレッドの一つだろう。父や燎弥の野郎がハマっていて、ゼロ年代からごく最近のスレッドを見せてもらったことがあるから知っているのだ。

 父が教えてくれたスレは「血の16画像」がどうだとか「蓋」がこうだとか言ういずれもゼロ年代の怪しいものだった。燎弥が教えてくれたスレは最近のミステリーの一つであるピラミッドの消滅や、港元市の支配下にある北極点や南極点の地下の噂がどうとかいうものだ。

 俺がわざわざ両人の例を挙げた理由は単純明快。どのスレも大体面白いが、脚色掛かって、胡散臭く、所詮は誰でも覗ける普通のページというわけだ。

 この漢の肝試し実況とかいうのも、ただの胡散臭いスレッドの一つに違いない。『統一協会』(ユナイト)のデータベースだとか、そういう堅固なセキリュリティで囲われたページではない。

 んで、ほら、澄鈴さんよ。この胡散臭いスレッドが開けたから何だというのだ。それとも、実はそのページを開く段階で港元市の魔女らが仕組んだウイルスや術式と目に見えぬバトルしていたというのか。

 もし、仮にもこの一瞬で港元市の罠を解除したと言うなら、それは凄えという単純な感想しか抱けないが……。いや、まさか、本当にそうなのか? ルナは驚愕で目をぱちくりしているが、俺に分からないだけで玄人のみぞ知る苛烈な戦いが繰り広げられていたというのか?


「ご、ご主人様、この『漢の肝試し実況』というスレッドは昨年の一月の十五日に閉鎖されたはずのスレッドでございます。澄鈴様、こちらはWABAC Machineの類ですか?」


Sumire.S > [RFS] んーん。違うよー。うぇいばくちゃんは決まった形式以外はアーカイブ出来なかったりするし、クラッキングやらウイルスで破壊されたページ自体はアーカイブのしようもないからねー(´;ω;`)

Sumire.S > [RFS] とりわけ、このページは澄鈴でもビックリなすんげー数列爆弾でデータ自体が木っ端微塵にされているからねーΣ(´∀`;)

Sumire.S > [RFS] これはアレだよ、うぇいばくちゃんにはアーカイブされねーパターンのページよー。


 うぇいばくちゃん、と、澄鈴が呼んでいるのはルナの言うWABAC Machineのことであろう。日本ではうぇいばくちゃんではなく、ウェイバックマシーンと呼ばれているものだ。

 人類の知識と遺産の保存を目的とするアメリカのインターネット・アーカイブとかいう団体がウェブページのアーカイブを運営し、それらアーカイブを無償で提供している。その団体がウェブページのアーカイブを運営する上で用いているものがそのウェイバックマシーンというものだ。

 簡単に言うと、保存された時点のウェブページを誰でも見ることが出来るというウェブページの博物館や図書館みたいなものだ。その閲覧蔵書数は暁月先生、もとい暁月大図書館には及ばないだろうけどね。

 聡明なルナはそのウェイバックマシーンの特徴の一つ、閉鎖されたウェブページさえも閲覧出来るということについて言及しているようだ。衛世の奴はウェイバックマシーンをウェブ上のタイムマシーンとも呼んでいたが、その例えもあながち間違えでもないのだ。ウェブページの博物館や図書館、その異名を持つウェイバックマシーンは保存された時点のウェブページを閲覧可能にする。

 つまり、現時点では閉鎖されたブログの記事もウェイバックマシーンは保存された時点の記事を閲覧可能にするのだ。

 そんな万能とも言えるウェイバックマシーンの弱点というのは……って、俺がいちいち説明するまでも無いな。澄鈴の言う通り、HTML以外の形式のウェブページの保存が出来なかったり、ウイルスや数列術式の攻撃でデータそのものが爆散しちまったようなウェブページは保存のしようもなかったりするのだ。二人の言った事をザックリ言うとこんな感じだ。

 ……だが、説明されてばっかりでは俺も悔しいから澄鈴に負けずに少し解説してやろう。ルナの上に立つべくご主人様としての面目が立たないからな、少しは役に立たせろ。

 あの港元市は自国で開発した数列術式を敵の電子データをブッ飛ばすために送りつけ、サイバーアタックも躊躇なくしちまう。その上であの魔女たちみたいなのを直接派遣して蹂躙する、という卑怯極まりない戦法を使う。勝てるわけねえよな。

 だが、『例外』(インダルジェンス)とかそういうのを任された魔術師ってのは港元市民でも知る人ぞ知る情報だから、いわば都市伝説のようなもので、大衆は数列術式の攻撃を簡単に数列爆弾と呼ぶ。澄鈴の言った数列爆弾とは件の都市伝説における数列術式によるサイバーアタックの俗称だ。


「なるほど。細かい原理は分からんが、セキエイシステムはWABAC Machineより上位互換の存在である、と」


 澄鈴が言いたかったのは、そういうことだ。

 この胡散臭く暑苦しい漢の肝試し実況とかいうオカルト板は去年の一月に閉鎖されたどころか、どういう風の吹き回しか不幸にも数列爆弾でデータごとブッ壊されちまったというのだ。

 そんな存在さえも消滅したようなウェブページを、軽々と「着地☆」なんて言って表示、いや、再生せしめたというのだ。これは、正しく神業という奴だろう。


Sumire.S > [RFS] そーのとーりさー! これが澄鈴、延いてはセキエイシステムの真の力なのだー( ^ω^)!

Sumire.S > [RFS] 正確には澄鈴の間脳視床下部ちゃんにある我的(アートマン)魔術の『人工的不干渉(コードディス)性独自電子網』(パッチング)を調律したセキエイシステムの機能( ° ∀ ° )!

Sumire.S > [RFS] 閉鎖されたネット上のデータだって、どーんなセキュリティで囲まれたデータでも、クラッキングでデータ自体が吹っ飛んでいても、セキエイシステムの前では無に等しいのだー!


 澄鈴の持つ我的(アートマン)魔術。

 『人工的不干渉(コードディス)性独自電子網』(パッチング)

 厨二めいたそのカタカナ語を英単語に直すと"CODE DISPATCHING"。

 その英字は港元市の魔女から奪ってきたUSBメモリ、その内部に記された二項目目の指示にあった語句だ。

 その魔術の効果とはインターネット上のデータを閲覧し放題にする高度な情報操作能力であったのだ。彼女はその力を用いて数列爆弾でデータ自体が四散爆散し、修正不可能な域に達したデータをものの数秒で閲覧可能な状態に再生させたのだ。

 それだけでなく、彼女は堅固なセキュリティに囲まれたデータにも干渉出来ると言うのだ。どうりで衛世が如き一般人が『統一協会』(ユナイト)の中枢であるデータベースにハッキング出来たのだ。ようやく疑問が一つ解消されたぜ。

 まあ、常識的に考えて衛世単独で世界最大の電子の盾に挑めるわけがないからな。だが、そんな弱小国家転覆を容易くやってのける技術を開発したのが藤原衛世本人というのがなかなか信じられたことではなかった。

 そう、この驚異的な情報操作能力は何も澄鈴一人だけの力ではないのだ。彼女自身も言ったが、この魔術を実現させているのは衛世の作成した独自OSのセキエイシステムだ。

 俺に理解出来た範囲で順を追って説明しよう。まず、澄鈴の我的(アートマン)魔術自体は衛世が後生大事に隠していた試験管の中身である澄鈴の間脳視床下部に秘められており、間脳視床下部からの脳波内と共に彼女の我的(アートマン)魔術が放たれているのだ。

 先も機械でしかないパソコンを人間の脳、脳波の受容体として接続するのに彼女の我的(アートマン)魔術が登場したが、我的(アートマン)魔術が一人一つという原則通りなら、彼女の我的(アートマン)魔術はとにかく何かと何かを「繋げる」という行為自体に効果を成す非常に漠然とした魔術だったのだ。

 そして、彼女の我的(アートマン)魔術によって補強されたパソコン側が脳波をキャッチし、彼女の我的(アートマン)魔術をパソコン内部で起動させているのだ。いや、これはパソコンで起動させる必要があるのだ。

 何たって、彼女の『人工的不干渉(コードディス)性独自電子網』(パッチング)は非常に漠然とした「繋げる」という効果を持つ魔術だ。そんな漠然とした魔術を有効活用するには、目的を明確に限定する必要がある。

 だから父は、漠然とした効果を持つ彼女の我的(アートマン)魔術を「インターネットへ『繋げる』」という一つの目的に限定し、澄鈴に自作パソコンというインターネットに干渉し易い空間を与えたのだ。澄鈴の言った「調律した」というのはそういうことであろう。これがセキエイシステムの絡繰りだ。

 魔術技術と科学技術を上手に組み合わせた衛世の自作パソコンの発明とは、彼女の生命活動を維持させることだけではなく、彼女の我的(アートマン)魔術を起動させ易いようにする事でもあったというのだ。やっぱり、父さんはマジですげえのだ。


Sumire.S > [RFS] セキエイシステムにとって、データ上の障害はちょーっと高い塀、というのを想像する良いのかな。

Sumire.S > [RFS] だから、その高い塀を遥か上空で通過して、目標地点まではびゅうんとダイブすれば良いのさーヽ(°▽、°)ノ


 なるほどね、これは彼女にとって、正に「着地☆」なわけだ。

 よし、これでやっと、二項目目の指示の文をようやく完全に理解出来たぞ。指示内容は「澄鈴の我的(アートマン)魔術の『人工的不干渉(コードディス)性独自電子網』(パッチング)を用いて以下のデータを閲覧せよ」と言ったところだ。

 この指示内容を言い換えると、『人工的不干渉(コードディス)性独自電子網』(パッチング)が絶対に必要であるというわけだ。その翻訳が出来た時、胸の奥底の不安を煮え滾らせたマグマの進撃が止んだ気がした。

 何故かって? そりゃあ、気になっていた中学生レベルの英文が翻訳出来れば安心するだろう……ということではなく、港元市の奴らはこの澄鈴の我的(アートマン)魔術を求めていた、絶対に必要だったのだ。つまり、このUSBメモリが港元市のブラフであるという線が限りなく消えたということだ。俺たちの大勝利だ。いや、済まん。ルナの決断力と澄鈴の我的(アートマン)魔術と、父さんの発明による大勝利だ。


「港元帝国によるブラフの可能性はほぼ排しましたね、ご主人様。見た所、我々が攻撃を受けた様子もございません。やりましたね!」

「よぉっしゃあ! これで、奴らの『例外』(インダルジェンス)に一歩二歩近付けるぞ。待っていろよ、港元市の魔女ども! 斬殺魔!」


 これで、奴らを出し抜いてやる。港元市の魔女どもはこのデータごとぶっ飛んだウェブページが見れなくて爪を噛んでいたのだ。今頃、このUSBメモリが無いと焦っている矢吹なんて悔しさの余りに目を剥いて喉を掻き毟っているだろうなあ。

 しかも、彼ら港元市民らが日本人となった藤原衛世とその技術に頼るなんて天地がひっくり返っても有り得ないような状況だ。この件、上手く行けば相当の屈辱を与えられるに違いない。ははっ、七年越しの大反逆の開始だ。今、俺は最高に気分が良いぞ。


Sumire.S > [RFS] じゃあ、さっそく覗かせてもらおーか+(0゜・∀・) + テカテカ +


「ああ、そうだな、澄鈴。時間も少なくなってきたからな。ちゃちゃっと調べちまおう」


 ……でも、何で、奴ら港元市の魔女共はこんな機密性やら重要性が無さそうなオカルト板なんかが見たかったんだろうか。そもそも、数列爆弾は港元市内部だけの技術だ。同士討ちでもあったというのか。若しくは単なる凡ミスか。

 いや、それ以前に、何でこの大衆向けで、何の変哲も無いオカルト板が数列爆弾で吹き飛ばされなくちゃならんかったのだ? 何だ、日本の闇や港元市の闇にでも触れたというのか?

 俺は早る心を抑えきれず、がっつくようにキーボード下部に取り付けられた長方形のタッチパッドに向かって指を下ろし、スレッドの全貌を露わにしようとする。


 しかし、新たに渦巻いた疑問は、すぐ解消された。

 何の変哲も無い、だってさ。悪いが、前言撤回しよう。

 これは、大問題だ。


 例の村。

 オカ板の闇。

 調べてはいけないワードだよ。


 お前…………。

 …………消されるぞ。


 燎弥のスマホで見かけた不穏なワードが脳内をノイズのように駆け巡る。

 そうだ、このワードを俺は見たことがある。さっき、見たばかりだ。


 下らないレスに混じった闇の一点。

 その一点からスレ全体は大きく荒れる。

 その、闇の一点。その、闇の言葉。


 ゴスロリ殺人実況。


 漢の肝試し実況とかいう真っ黒いスレッドのサブタイトルには、その不吉過ぎる血のように真っ赤な八文字が浮かんでいた。

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