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誰でも勇者になれる世界  作者: ゆゆゆゆゆ
第3章 勇者に友達ができる話
25/27

第25話 「左手は添えるだけ」

遅くなりました……

 僕の前に現れたのは銀色の髪の可愛らしい女の子であった。

 淡い水色のワンピースの上に真っ白なポンチョのようなものを羽織ったその子は背格好的に僕と同じ新入生の子だろう。

 その子の銀髪は周囲を舞う7色の花びらにも劣らない美しい輝きを放っており、風に吹かれて泳ぐ様はまるで銀色の清流のようだった。

 通常であればその美しい銀髪に目を奪われがちであるが、その女の子の整った顔立ちは銀髪にも負けず人目を引くだろう。


(うわぁ……将来有望そうな子だなぁ)

 

 所謂『守ってあげたくなる』ような−−−とにかく庇護欲を掻き立てる女の子だと思った。


「あっ……」


 女の子の方も僕の存在に気付いたようで短い声を発して僕をじっと見てきた。

 ひどく驚いた様子だったがあまり人目につかなそうな場所に僕がいたんだから当たり前の反応だろう。


「……えーと……」

 

 僕といえばいきなり現れたその女の子にかける言葉を見つけられないでいた。

 正直、前世でも女の子−−−いや、そもそもあまり人と会話をしてこなかったので言葉に詰まってしまう。

 アルフレッドやセリーヌ、マリーさんとの会話には流石に慣れたが、初対面の人と話すのはどうも苦手だ。

 ましてや今の僕からすれば20歳近く年齢が離れた子供が相手であるのだから尚更かける言葉など思いつかない。


「……」

「……」


 お互い黙りこんでしまう。沈黙が辛い。

 ずっと見知らぬ男の子と目を合わせている緊張ためか女の子の顔がどんどん真っ赤に染まっていく。

 これは何か話しかけないとまずい。


(あれ?そう言えば銀髪(・・)ってもしかして---)


「……カナ「おいっ!!」


 名前を訪ねようとした僕の言葉は簡単に掻き消されてしまった。


(あぁ……なんだか面倒な予感が……)


「はぁ、ようやく追いついたよ。銀髪のお姫様」

「ちょこまかと逃げまわってレノン様の手を煩わせやがって!!」

「……疲れた……」

 

 新たにこの場に現れたのは男性×2、女性×1の3人組であった。

 3人共学園の制服らしき物を着ているし背丈も僕より大きいのできっと上級生だろう。

 今日、新入生は入学式で終わりらしいが在学生は普通に授業があるとセリーヌが言っていたのを思い出す。

 まだ早い時間であるが登校してきたのであろうか。

 ひとりはもう見るからに貴族階級の男性だ。

 何と言えばよいか……周りの空気が「キラキラ」している。

 綺麗な栗毛色の髪が風になびいている。

 きっとこの人が『レノン様』なのだろう。 

 先ほど声を荒らげていたもうひとりの男性はこのレノンの取り巻き1であろうか。

 こちらは赤みがかった短髪でいかにも『体育会系』オーラが漂っている。 

 そしてもうひとりの女性もレノンの立ち位置から一歩引いた位置で気怠そうに立っていることから取り巻き2であろうか。茶髪の姫カットにメガネのよく似合う女性だった。


「おや?君は誰だい?」

「おい、レノン様が名前を訪ねているんだ名を名乗れ」

「……名乗れ……」


 銀髪の子から僕に視線を移した3人組は明らかに『邪魔者は去れ』オーラを出しつつ僕に名を訪ねてきた。

 流石にその態度で名前を尋ねられても素直に答える気にはならない。


(ここで「人に名を尋ねる前にまず自分の名を名乗ったらどうでしょうか?」なんて言ったら---まずいよね……)


「---いえ、僕の名前など貴方様達に名乗るほどのものではございません」

「はっ、見てくれはいいからどこの貴族のやつかと思えばお前平民か?」

「……紛らわしい……」


 どうやら僕を平民だと勘違いしたようで取り巻き×2の態度はますます横柄なものとなってきた。


「こら、やめないかお前たち。済まなかったね。僕達はそちらの女の子に用があるんだ。君は新入生だろう?そろそろ入学式が始まるからはやく入学式の会場へ行きなさい」


 一見穏やかな言葉をかけてはくれているが、自分の名を名乗らず、僕の名前も気にしないことからこのレノンという人は僕のことなど眼中にないのだろう。

 笑ってない彼の目を見た時にふと思った。


「ほら、お前は早くこっちに来い」

「…っ、いやっ!!」


 取り巻き1の男性が銀髪の女の子に手を伸ばしながら近づく。


(流石にこの状況で帰るわけにもいかないよね……この女の子も明らかに怖がってるし……)


 そう思いつつ僕は銀髪の女の子と取り巻き1の間に体を滑り込ませる。

 

「…あ?何だお前は?」


 伸ばした手が目的の人物に辿り着く前に僕の体で遮られてしまった取り巻き1の顔がみるみるうちに不機嫌になっていくのが分かった。


「いえ……あの、この子が何かしたんでしょうか?」

「こいつはせっかくレノン様が引き止めて話をしようとしたら逃げ出しやがったんだよ。だからここまで追ってきただけだ」


 一応、もし取り巻き1の言うことが本当なら僕の背中に隠れている女の子にも多少の落ち度がないこともないので確認のため振り返って女の子に尋ねる。


「らしいんだけど本当にそうなの?」


 若干怯えているようだったので自分に出来る限り優しく笑顔を作りつつ女の子に聞く。


「……っん」


 ゆっくりと首を横に動かす女の子。

 

「違うみたいなんですけど……」

「ちっ、邪魔くせぇな。正義の味方ごっこは余所でやれよっ!!」


 そう言いながらいきなり右腕を振り上げて拳を下ろしてくる取り巻き1。


「おいっ、やめろキース!」

「……馬鹿……」


 流石に自分より小さい子供にいきなり殴りかかるとは他の2人も予見してなかったようで驚いた声と呆れた声が聞こえてきた。


「きゃっ」


 僕の背中越しからは女の子の小さな悲鳴が聞こえる。


(取り巻き1の名前は『キース』っていうのか)


 僕はそんな事を考えながら僕に向かってくる拳をゆっくり(・・・・)と見ていた。

 そう、実際に僕の目には文字通りゆっくりとしたキースの拳の動きがしっかりと見えていた。

 



 最初に気付いたのは自室で僕の周りにどこからか侵入した羽虫が飛んでいるのを見て叩き落とそうとした時だ。

 普通なら高速で飛ぶ羽虫を手で叩き落とすのは困難であるが、僕がその羽虫の動きを意識すると急に羽虫の動きがスローモーションに見えた。

 最初こそとても驚いたが、何度か羽虫の動きを追っているうちに僕はおそらく動体視力が強化されているのだと推測した。

 何故ならこの現象に心当たりがひとつあったためだ。

 

『お主を超すごい剣と魔法の使い手にするくらい簡単にできるわ』


 この時、どこからか幼女の笑い声が聞こえた気がした。

 ちなみにこの後、もしかしてと思いベッドの下に手を入れてベッドを持ち上げようと試みた。

 普通であれば大の大人数人がかりで持ち上げるようなベッドであるが、僕はそのベッドを軽々と持ち上げることが出来てしまった。

 筋肉なんて全然ついていない細腕で何故持ち上がると強い疑問は生じたが、魔法のある時点で何でもありかとすぐにその疑問は消失した。

 つまるところ、僕は動体視力、反射神経、筋力が尋常でないほど強化されているのだ。


 そんな事を思いつつ未だ僕にキースの拳は届いていなかった。


(さて、どうするか……)


 選択肢は3つ


 ①大人しく殴られる

 ②避ける

 ③受け止める


 とまあ3つの選択を考えたはよいが実際には③の手段しかなかった。

 ①は痛いのでNO、②は避けると自分の後ろの女の子が危ないためである。


(そーっと、そーっと、左手は添えるだけ)


 そう決めると僕は眼前に迫った拳を左手の小さな手のひらで優しく受け止める。


「なっ!?」


 驚くキース、そりゃこんな小さな子供にパンチを止められたら驚くのも分かる。


「……なに?」

「……嘘……」


 驚くのは他の2人も同様である。無理もない。


「……っ!?」


 背中越しに存在する女の子が息を呑むのが分かった。


「なんだこいつ!?」


 キースは慌てて僕の掌から逃げようと手を引くがここで放したらまた拳が向かってくるかもしれないので僕は掌で彼の拳を優しく握りこむ---はずだったが---


「いっだだだだだだだだだだだだだだだぁ!!」


 どうやら強く握り過ぎたようだ。

 普段生活している分には力加減に問題はないが、こういった緊急時にはどうも加減が曖昧になってしまう。もっと訓練が必要なようだ。


「あぁ、すいません。大丈夫ですか?」


 慌てて握った手を放すとキースはその場に膝をついてしまっていた。


(骨折とかしてないよね……?入学初日から傷害はシャレにならない……)


 いくら殴られそうになったからといってもこちらが無傷のまま相手だけを骨折をさせてしまっては正当防衛の範疇を超えてしまうだろう。

 僕はキースの拳が大丈夫か確認しようと一歩踏み出したが---


「ひっ」


 キースは慌ててレノンと取り巻き2の女性の方へ下がってしまった。


「君は何者だい……?」

「……何者……?」












「……実は異世界からの記憶を持ったままの転生者で、神様にこの世界で勇者になって欲しいと言われた者です」















 とは口が裂けても言えるはずがないのでレノンと取り巻き2の女性の問に対して僕は乾いた笑みを浮かべながらこう答えるしかなかった。










「……ただの新入生ですよ?」

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