第24話 「8色の出会い」
「さて……」
講堂から外へ出た僕は何処へ行こうか少々考える。
式の時間までにこの広大な学園内の全てを見て回るのは不可能だ。
(とりあえず講堂の周辺だけでも見回ってみようかな)
そう決めて足を踏み出すと同時に僕の視界の右上に小さなウィンドウ画面が表示される。
方位記号、縮尺に僕の向いている方向を先端に向きを変える矢印、その矢印のすぐ近くには四角い記号が表示されその中には講堂の文字が表記されている。
そう---マップである。
僕が今までパネルを弄くり回しながら見つけた便利機能のひとつだ。
ある日パネルを弄っていてふと『よくRPGにあるマップみたいな機能があれば便利なんだけどなぁ』と思ったら当然のようにこのマップ画面が表示された。
どのような仕組みになっているか分からないが、どうやらパネルは僕の思っている以上に奥が深いものらしい。
ちなみにこのマップに表示されるのは僕を中心とする半径500メートルが限界のようである。
また、先ほどの講堂のように僕が一度訪れて認識したものはマップにその表記がされるが、認識していないものについてはその形状がマップに表示されるのみで詳細については分からない。
つまり僕がいろんな所を訪れて何があるのか認識すればするほどこのマップの情報量が増えるのだ。
ひとまずこの学園内のマッピングは早い内に完成させておきたいのでひとりで学園内を自由に散策できるのはありがたい。
「最初は牧場みたいな所へ行ってみますか」
そうひとりで呟き僕はこれから5年間お世話になる学び舎のマッピング作業を開始した。
「何もいない……」
牧場らしき場所に来たがそこに生物の姿はなかった。
柵もあるし、何かを放牧でもしているのかと思ったが違うのだろうか?
「それにしてもこの柵……ちょっと厳重すぎな気が……」
通常牧場の柵といえば木製のもので高さも成人男性の胸元程度のイメージであったが、ここの柵はどうやら金属製のようである。しかも高さが成人男性の身長を優に超えるほどの高さだ。僕の背が小さいこともあり余計に高く感じる。
仮にここで何かを飼育してるとしたら---それは牛や馬ではなさそうだ。
「ん?なんだろうこの模様」
よく見るとこの金属製の柵には綺麗な模様のようなものが刻まれていた。
僕が手に触れて確認しようとすると---
「おいっ!何をしているっ!!その柵に触るなっ!!」
もう少しで柵に触れそうであった手を止め、慌てて声のした方に顔を向ければ1人の男性がこちらへ駆け寄ってきた。
年齢は40代後半くらいであろうか、アゴ部分まで髭で覆われた顔はどこか職人のような印象を受けた。
「坊主、お前新入生か?こんな所で何をしている?親は何処にいるんだ?」
息をつく暇もない質問攻撃をしてきた男性の姿を見て僕はやはりここが牧場であると確信した。
何故なら僕に駆け寄ってきたその男性は作業服姿だったからだ。
やはりここでは何かが飼育されていて、恐らくこの男性は飼育員であろう。
「ええと……はい、僕は新入生です。親は講堂にいます。僕は入学式の時間まで学園内を見学させてもらっていたところです」
「はぁ……そうか……いいか?この柵は侵入者通報用の防護柵だ。もし触れていたら怖いオジサン達に連れて行かれていたぞ」
「そうなんですか……止めてくださってありがとうございます」
僕は防護柵が稼働せずにすんだ安心感からか脱力した様子の男性に頭を下げる。
危うく入学初日からやらかすところだった。
もし恐いオジサン達に連れて行かれていたら入学式に出れなかったかもしれない。
(せめて立て看板とかで触れるとダメなことを表示しておいて欲しかったなぁ……あっ、でもそれじゃ防犯の意味がない……かな?)
「!?……坊主、お前、貴族じゃないのか?」
頭を下げる僕を見て男性は驚いているようだった。
そして何故この男性は僕を貴族だと判断できたのだろうか。
「一応、貴族ですけど……なんで僕が貴族だと分かったんですか?」
「……まぁお前みたいな見た目をした平民はあまりいないだろうしな」
(見た目?……ああ服装のことか。確かに傍目にも良い生地を使っている服だし貴族じゃなきゃこんな服は着れないよね)
「それにしても、あまり貴族というやつは俺みたいな平民に頭を下げたりしないんだがな……」
何となく男性が言いたいことは分かった。
貴族、平民という単語を聞いた時から思ってはいたが、セトナでもある程度の身分差別はあるのだろう。
「助けて頂いたら御礼をするのは1人の人間として当然だと思いますよ。そこに貴族や平民という身分は関係ありません」
自分で言っておいてなんだが、こんな事を言う5歳児ってちょっとどうなんだろうかと思った。
男性も流石に僕の口からこんな言葉が出てくるとは思わなかったのか、少々フリーズしている。
しかし、それは一瞬のことですぐにニカッとした笑顔になった。
「ははっ、坊主、気に入ったぞ。俺の名前はダン=クヌールだ。サンオー学園の飛竜牧場の管理人をしている」
「飛竜?」
「なんだ坊主は飛竜を見たことはないのか?」
「はい」
(見たことがあるのが普通なんだろうか……それにしても飛竜ってつまりドラゴンのことだよね)
ゲームやマンガの世界でしかなかった架空の存在がこの牧場で飼育されている---その事実に改めて僕はセトナが異世界であることを痛感した。
「残念ながら今は竜舎内にいるから見ることは出来ないがな。そのうち見る機会もあるだろうよ」
「そうなんですか。それは……楽しみです」
「飛竜達もきっとお前を気に入るだろうさ。管理人の俺が言うんだから間違いない」
「はぁ……」
飛竜がどういう生物であるか何も分からないが、たぶん僕がひと撫ですれば問題ないだろうとは言えるはずもなかった。
「さて、俺はまた竜舎にもどってまた仕事の続きがあるんでこれで失礼するがくれぐれも柵には触れるなよ?」
「ええ、分かりました。他にも見たい所があるので僕も移動しようと思います」
「そうか、気を付けろよ?」
「ありがとうございます」
「おう!そう言えば坊主、お前の名前はなん言うんだ?」
そう言えば飛竜という単語に気を取られて自分の名前を名乗っていなかった。
相手が名乗ってくれたのに僕だけ名乗らずに去ってしまう所だった。危ない危ない。
僕はこの場から離れようとした足を止めてダンさんへ自身の名前を告げる。
「申し遅れました。僕はヒロマサ=ルイン=ファーマと申します。以後よろしくお願い致します」
「は……?」
何故かダンさんは再びフリーズしてしまったようだ。しかも今度はなかなか復活しない。
「ええと……それではダンさんもお忙しいようなので失礼しますね」
僕としても式までの時間に色々回りたかったのでこの場を後にする。
学園に通う以上、ダンさんとは今後も会うだろうしいいだろう。
僕はマップ画面に飛竜牧場という文字が追加されているのを確認しつつ次なる目的地へ向けて歩みを再開した。
「こりゃ女どもが大騒ぎだな……」
§ § § § §
飛竜牧場を後にした僕は次に噴水広場へ向かった。
噴水広場はちょうど校門から真っ直ぐ直進した時に校舎との中間地点辺りに位置している。
方角的にはこの噴水広場を中心にして北に校舎群、南に校門、東に講堂や飛竜牧場があるという感じだ。
広場の中央には大きな噴水があり、周辺にはベンチが置かれている。
つまるところ学生達の憩いの場みたいなものであろう。
ちなみにこの噴水広場は正門から講堂へ向かう際に必ず通る必要がある。
そのため、現在この噴水広場を入学式の参列者達が多く通行している。
ちょうど僕が噴水広場を訪れてから人が増え始めてきたので入学式の開始時刻が近いのであろう。
僕はパネルを表示する。
このパネルの左上には現在時刻の表示があり、これが地味に便利である。
セトナにも時計はあるがあまり小型化が進んでおらず、どの時計も大型の物のみで腕時計や懐中時計といったものはない。
外で時間を確認できるとすれば毎日決まった時間に鳴らされる寺院の鐘の音ぐらいである。
そのためいつでもどこでも正確な時間を知ることができるこのパネルの存在はありがたかった。
パネルを確認した所、入学式の開始時刻までまだ30分ちょっとの時間があったのでもう少しだけ学園内を見て周れそうである。
(そしたら噴水広場から西の方を見てこようかな)
そして僕は足早に噴水広場から離れる。
それは早くこの場所から離れたい僕の感情の現れであった。
というのも---
(さっきから視線を感じる……)
先ほどから噴水広場を通行する人達が明らかに僕の方をチラホラと見ている。
通行人は新入生らしき子どもとその両親が殆どであるが特に女の子とその母親からの視線が多い。
初めは自意識過剰かと思っていたが、僕と目があった女の子が慌てた様子で視線を逸らしたため自意識過剰の線はないと判断した。
(まあこんな所で明らかに新入生っぽい子がひとりでいたら迷子かと思われるからしょうがないか)
僕が反対の立場であってもそう思うであろうし、周りの視線もある意味当然かと納得した。
心配されて『坊や、お父さんとお母さんは?』等と話しかけられても面倒だし、何より人が大勢いる場所自体あまり好きではないので僕は更に足早になった。
(それにしても、普通の親ならいくら学園内でも自分の子供をひとりで出歩かせないよね……)
しかしその普通でないアルフレッドとセリーヌを僕は悪いとは思わなかった。
基本的にあの2人は良い意味で放任主義である。
セリーヌは渋ってはいたが、最終的に許可をくれたように、僕がひとりでも問題を起こすことはないと信頼した上で放任してくれているのだ。そのため飛竜牧場でその問題を起こしそうになった僕を止めてくれたダンさんには感謝している。
もちろん放任主義といってなんでも許すわけではなく、ダメな時はしっかり理由を説いた上でダメと言ってくれる。
世界中の親がこの2人のように子供に接すれば少しはマシな世の中になるだろうなと思いつつ僕は噴水広場を後にした。
§ § § § §
噴水広場を西に抜けた先には他の場所よりも木々が生い茂っていた。
レンガを敷き詰めて造られた通路の外側には手入れの行き届いた芝生の床となっており寝っ転がるととても気持ちが良さそうである。
生い茂った木々が天然の日除けパラソルになっており昼寝が捗りそうだと思った。
(この芝生の上、入っても大丈夫だよね……?)
僕は通路から芝生の上に移り周辺を見回す。
「ん?何だろうあれ……」
少し先に木々のない開けた場所があり、やたらとカラフルな何かが見える。
僕は足の裏で芝生の感触を確かめながらそのやたらとカラフルの何かの所へ向かった。
「これは……凄いな……」
現在、僕は一本の樹の下にいる。
その樹は周辺に生えている木とは明らかに一線を画す雰囲気を放っていた。
樹齢500年と言われても疑うことはないであろうその太い樹は花をつけており、その花は7色の花びらから成っていた。
赤色、青色、黄色、緑色、茶色、白色、黒色---とても自然に生まれたものとは思えないほど綺麗な花である。
開花状況は満開で風が吹く度に7色の花びらが空を舞い散り、地面を7色に塗り替えていた。
(虹が零れ落ちてきたみたいだ……)
しばらくの間、その美しい光景に目を奪われていると---
「---!!」
「----!」
「--!!」
どこからか話し声---いや、この場合は怒声といった方が正しいかもしれない。
僕はその声の聞こえた方へ顔を向ける。
7色の雫のどの色にも当てはまらない---
8色目の色---
銀色が僕の方に向かって走ってきた。
一応パネルの機能と魔法には関連性がありますがのちのち説明します。
あと7色の樹も魔法と関係してきます。




