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誰でも勇者になれる世界  作者: ゆゆゆゆゆ
第2章 勇者がいろいろ知ったりする話
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第21話 「脳内Wi◯i」

速筆になりたい……

 どうやら僕の名前はそこまでおかしくはないようだ。

 フィアラさんから屈託なのない笑顔で「神様から良い名前を授けていただけたようですね」と言われたことで僕はそう判断した。

 ただ……自分の名前を褒められるというのはどうも慣れない。


「では私達の息子の名前も決まったことだしそろそろ帰るとしようか」

「ええ、そうですね」


 どうやらこの後はすぐに帰るようだ。

 僕としても早くパネルのヘルプを見たかったのでありがたい。


「フィアラさん、今日はお世話になりました」

「いえいえ、今度は孤児院の方にもお越しください。みんなお二人に会いたがっているので」

「まぁ、それでしたら今度はヒロちゃんと一緒に行かせていただくわ」

「それはいいですね。きっとみんなヒロマサさまを可愛がってくれると思います」 


(最初に出会ったときにアルフレッドと孤児院について何か話をしていたし、ここの寺院の中に孤児院でもあるのかな。……それにしても孤児ってもしかして戦災孤児(・・・・)とかじゃないよね……)


 もしそうならば―――それはつまり、少なくともサンオー島からあまり離れていないどこかで戦争が行われている又は最近まで戦争があったということだ。

 もし本当に戦争が行われていたら―――僕は勇者として(・・・・・)行動しなければならないのだろうか。戦争ときて勇者ときたら何をするのかはだいたい想像がつく。

 セトナには人間以外の種族も暮らしているらしいので人間が相手とは限らないが、少なくとも何らかの生き物の命を奪うことになるのだろう。

 そう考えた瞬間、胸に冷ややかなモノが走るのを感じた。

 もちろん僕の前世にだって戦争はあった。しかし、幸いなことに僕の生きていた国は平和であった。

 テレビから流れる海外の映像越しでしか僕は戦争を知らない。

 正直なところ、映像を見ているときは「海外は大変だなぁ」程度にしか思っていなかった僕にとって、戦争とは所詮、他人事だった。

 そんな他人事であった戦争が急にとても身近なものになった気がした。


(……いや、まだ本当に戦争が行われているかすらわからないのに考え過ぎか……)


 そもそも勇者になるかすらまだ決めかねているのだから気が早い話であることは間違いないだろう。


「あら、ヒロちゃんは疲れちゃったのかしら。早く帰りましょうね」


 どうやら考え事をしている顔を疲れてダダをこね始めているものだと認識されたようだ。


「あぁ……お引き止めしてしまい申し訳ありませんでした」

「いいんですよフィアラさん。今度はヒロちゃんと一緒に孤児院の方にも顔を出させてもらいますね」

「はい、是非お待ちしております。きっとみんなヒロマサ様のことを気にいってくれると思いますよ」

「ふふ、ありがとう」


 そして笑顔でお辞儀をしてくれるフィアラさんを背に僕達はサンオー寺院を後にした。

 フィアラさんの姿が見えなくなるその瞬間まで、彼女は僕達に向けて頭を下げたままだったのが印象的であった。





 サンオー寺院参道入口に待たせてある馬車の所に戻ってくると、馬車の前には手を前で揃えたマリーさんが立っていた。背筋をまっすぐと伸ばして微動だにせず佇む彼女の姿はまさに主人の帰りを待つ理想のメイドそのものであった。


「お帰りなさいませ」

「ああ、長い間待たせてすまなかったな」

「とんでもございません」


 そして主人からのねぎらいの言葉にしれっと返答するマリーさん。

 しかし彼女の体は先ほどとは打って変わって落ち着きなくそわそわと揺れている。それに加え先ほどから僕の方をチラチラと見つめてきている。

 

(ああ……僕の名前が気になってるんだろうなぁ……)


 マリーさんの顔からは明らかに僕の名前を早く聞かせてほしいオーラが放たれていた。

 そんな彼女の心情を知ってか知らずか---


「さあ、それじゃあ帰りましょうか。マリー、帰りの操縦もお願いね」


 そう言ったセリーヌの顔はまるで悪戯好きの少女が良い悪戯相手を見つけたような笑顔であった。


「……セリーヌさま……」

「ふふ、冗談よ。ごめんなさいねマリー」


 意外とマリーさんは弄りがいのある人なのかもしれない。

 そしてセリーヌも思ったより茶目っ気があるようである。


「さぁ、マリーにお名前を教えてあげましょうね」

「……ひろまさ」


 セリーヌに促され僕はマリーさんに自身の名前を伝える。


「……ありがとうございます---とても良いお名前ですね」


 そう微笑みながら僕の名前を褒めるマリーさんの反応は意外にも淡白なものだった。


(まともな返答だ……いや、それが普通なんだけど……)


「ヒロマサ様の御名前、たった今私の脳に刻み込ませていただきました。このメイドのマリー、例え自身のことを何一つ忘れてもヒロマサ様のお名前だけは忘れません」


(あっ、そうでもなかった……)


 名前ひとつに大げさな気もしたが、メイドとその主人の息子という関係ならば普通のことなのだろうか……いや、そんなわけはないだろう。

 思わず反語になってしまう。僕は思ったよりマリーさんに毒さてしまったのだろうか。


「さて、マリーに名前も伝えた所で俺達の家に帰るとしようか」

「承知いたしました。出発の準備は整っておりますのでどうぞ御乗車ください」


 そうして僕の名前を脳に刻み込んだマリーさんと共に僕達は帰路についた。



§§§§§§§§§§§§§§§§



 屋敷に帰ってくるとちょうどお昼時だったようで、アルフレッド、セリーヌと共に食堂でお昼ごはんを食べた。

 どうやらアルフレッドとセリーヌは公務があるようで素早く食事を終えるとマリーさんに僕の世話を任せて食堂を出て行ってしまった。名残惜しそうに僕と別れる二人を見ていてやはり島主は大変なのだろうと思った。

 そして、「さぁ、ヒロマサ様はお昼寝をしましょうね」と言うマリーさんに連れられ僕も食堂から自室へ向かう。

 これから僕はお昼寝タイムのようだ。好都合である。

 流石に寝ている間までマリーさんは僕に付きっきりではないだろう。ひとりでパネルのヘルプを見るチャンスだ。




 僕の予想は当たってくれたようで、自室のベットに横になってからしばらく目を閉じて寝た振りをしているとマリーさんが部屋を出て行く気配がした。

 目を閉じてからしばらくの間、「ヒロマサ様の寝顔……はぁはぁ」と若干興奮気味のマリーさんの声と熱い視線を感じたためどちらにせよ眠ることは難しかったであろう。


(よし、誰もいないな)


 ゆっくり目を開けてから室内に誰もいないことを確認すると僕はパネルを起動する。

 先ほど対話の部屋で見たものと同じメニュー画面が僕の前に現れる。

 僕はベットに横になっているため、ちょうど天井を見上げる僕の上にパネルが出ている状態だ。


(あーこれでテレビとか電子書籍が読めたら快適かも……)


 少なくともセトナでは叶わないであろう希望を抱きつつ僕はパネル画面の《ヘルプ》の文字に指を伸ばす。

 するとメニュー画面の上に重なるように新たな画面が表示される。

 新たに現れた画面は検索バーが画面中央部にあるだけのシンプルなものだった。


(これは調べたいキーワードをこの検索バーに打ち込めってことかな?でもキーボードなんて……いや、もしかして……)


 僕は先ほど対話の部屋で神様から聞いた言葉を思い出す。


『ちなみに操作をする際はいちいち手を動かさずとも頭のなかで強く念じるだけで操作が可能じゃぞ』


 そして試しに検索バーを見ながら(セトナ、セトナ、セトナ)と強く念じる。

 すると---


「おお……」


 思わず声を上げてしまった。

 先ほどまで検索バーしかなかった画面には---


『セトナ』について

『セトナ』に存在する種族

『セトナ』に存在する国

『セトナ』の歴史

『セトナ』に存在する島

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 『セトナ』でキーワード検索をした結果が箇条書きで表示されている。

 それも全てに目を通すのが億劫になるほどの量だ。


(なんだかヘルプというよりインターネットで検索をしてるみたいだな……もっとキーワードは特定した方がいいかも)


 そして今度は『セトナの暦』と念じてみる。

 すると画面の表示が切り替わり、その画面にはセトナの暦に関する情報が表示されていた。

 どうやらピンポイントで知りたいことを念じればその情報を表示してくれるようだ。

 セトナの暦は僕の前世で言う太陽暦に似ていた。1日が24時間である点は変わらない。ただし1年は360日だ。1月が30日でそれが12ヶ月という具合らしい。僕の前世より単純である。どうやら時間間隔について別段意識する必要はなさそうだ。

 それにしても---


(このヘルプ、便利すぎない……?)


 まだ少ししか使用していないが、これは頭の中にWi◯ipediaが入っているようなものだと思った---しかも誰にも気付かれずに見ることが可能だ。

 さながら勇者でなく賢者にでもなった気分であった。


(まぁ、便利に越したことはないからいいか……)


 少なくとも僕の知りたいことについてはこのヘルプで十分知ることが出来そうだ。

 幸い今の僕には時間だけはたっぷりあることだし、しばらくはヘルプでこの世界の知識を蓄えつつパネルの他の機能を把握することに努めよう。


(よし……)


 そうと決まれば、まだマリーさんが来るまでに時間はあるだろう。

 タイムリミットまでに気になっていることをある程度調べておきたい。

 僕はあるキーワード(・・・・・・・)を念じる。










 そして僕の一番気になっていた情報が表示される。













『セトナ』における『勇者』について

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