第20話 「子のためなら親は神にも挑む」
「ふぅ……」
あの騒がしさがいざ無くなってみれば意外と気になるものだった。
「さて、どうしようかな……」
結局のところ、勇者についてだとか、魔法についてだとか、セトナの抱える問題についてだとか、重要な質問については何もすることが出来なかった。
むしろパネルという余計に気になるものが増える始末だ。
(もうここにいる意味も無いし一度戻ろうかな。いや、どうせなら誰もいないここでパネルのヘルプでも読んでみようかな……パネルのヘルプはこの世界の説明書も兼ねてるみたいだし、僕の知りたいことが載ってると助かるんだけどなあ……)
ひとりそんなことを考えていると---
「------!!」
「------!!」
「------」
(ん?)
どこからか声?が聞こえる。
耳を澄ませばどうやら僕がこの部屋に入ってきた入り口の方からその声は聞こえてくる。
「……」
ひとまず部屋の入口の方に戻りよく耳を澄ます。
「どうか落ち着いてくださいアルフレッド様!!セリーヌ様!!」
「いや、いくらなんでも時間がかかりすぎている!!これは部屋の中で何かあったに違いない!!」
「そうよ!!もしかしたら私達の子があまりにも可愛すぎて本当に神様に連れて行かれてしまったのかもしれないわ!!」
「そんな訳は……いえ、でもあの可愛らしさならまさか……ってアルフレッド様!! 何故剣を構えているのですか!? セリーヌ様もこんな場所で特級魔法を放とうとしないでください!!」
「待っていろ我が子よ!! いまこの邪魔な扉を破壊して神に鉄槌を下さん!!」
「たとえ神様が相手であろうと私達の子は渡さないわよ!!」
「やめてくださいいいいいいいいいいいいいいい」
「……」
どうやら僕が何よりもまずしなければならないことは、ヘルプを読むことよりこの部屋を1秒でも早く出ることのようだ。
§§§§§§§§§§§§§§§§
(うわぁ……)
部屋を出て最初に見た光景は凄まじいものだった。
今にも剣で扉に斬りかかってきそうなアルフレッド、足元に光る紋章(先ほどフィアラさんが特級魔法うんぬんと言っていたので恐らく魔法陣か何かであろうか)を輝かせているセリーヌ、そしてそんな2人を必死で宥めようと右往左往しているフィアラさん。
部屋から出てきた僕を見た瞬間、アルフレッドとセリーヌは瞬く間に僕に駆け寄ってきた。
これでもかという程強くセリーヌに抱き上げられる僕。
「ああ……良かったわ……」「よく無事に戻ってきたな……」と涙声で話しかけてくるセリーヌとアルフレッド。
「良かったです……本当に良かったです……」と漏らすフィアラさん。
僕が無事に部屋から出てきたことに対してなのか、はたまた建物が破壊されなかったことに対してのものなのか疑問が残るが、きっと前者であると思いたい。
ちなみに僕の体はいつの間にであろうか、少なくとも部屋を出るべく扉に手を掛けた瞬間には1歳児の姿に戻っていた。いったいあの部屋はどういう仕組みになっているのだろう。
「それにしてもこの子ったら一体部屋の中で何をしていたんでしょうね」
「そうだな。随分と時間が掛かるからとても心配したんたぞ?」
2人はすでに僕が部屋内での記憶を失っていると思っているのだろう。それ以上深く追求の言葉は出てこなかった。『記憶が無い』とはこういう時に便利なものだ。
まあ仮に僕が部屋の中でのことを話しても信じてはもらえないだろうが。
それにしても、どうやら僕は他の子の場合よりも随分長い時間部屋の中にいたようだ。
(そりゃ他の子より時間は掛かるよなぁ……)
なんせある意味顔見知りの者達と話していたわけで、それに加え名前意外のものまで貰っていたのだから通常の子供より時間が掛るのは当然のことだろう。
それでも心配をかけてしまったのは事実だしここは謝るべきか。
それに親だからと言ってしまえばそれまでだが、流石に神様を敵に回してまで僕を助けに来ようとする2人の姿を見て多少の罪悪感も抱いていた。
まあ実際の神様を見たら戦うよりもまず先にセリーヌ辺りが「何この可愛い子は!?」と抱きつきタックルを食らわしそうであるが……
「……ごめんしゃい」
「……まあこの子ったらシュンとした顔も可愛いわぁ」
「この子のこんな顔が見れるなら何度心配をかけてもらってもいいかもな……」
(ちょろい……)
「……あの……感動の再会をされている中大変申し訳無いのですが……名前の確認を……」
そんな僕達を若干呆れ気味で見つめながらそう言うフィアラさんの声は申し訳無さで満ち満ちていた。
「……ああ、そうだったな。すまないフィアラさん。セリーヌ、頼む」
「分かりました」
そうアルフレッドから頼まれたセリーヌは僕を真っ直ぐ見据えられるように抱き直すと---
「可愛い私の天使ちゃん、お名前を教えてくれる?」
神様から授かったであろう名前を僕に聞いてきた。
(なんだか親が子に名前を聞くって変なシチュエーションだな……)
そんなことを思いながら僕は自分の名前を伝える際に少しだけ躊躇していた。
セトナではまだ数人の名前しか把握できていないが、間違いなく『ヒロマサ』という名前はこちらの世界ではあまり聞き慣れない発音だろう。
『変な名前』
そう拒絶されたら僕は---
「ん?どうしたのからしら?」
そんなことは露知らず早く名前を教えてと言わんばかりにキラキラした表情を向けてくるセリーヌとアルフレッド。
(ええい、ままよ!!)
「……ひ、ひろまさ……」
そうして僕はセトナで初めて自分の名前を声に出した。
「ヒロマサか……うん、いい名前じゃないか!!」
「じゃあこれからはヒロちゃんね!!」
なんだかあんなに心配していた僕が馬鹿みたいだなと思った。
次で2章が終わって、時間を少し飛ばす予定です。




