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誰でも勇者になれる世界  作者: ゆゆゆゆゆ
第2章 勇者がいろいろ知ったりする話
15/27

第15話 「早すぎる再会」

 目が覚めると今まで見たことのない天井が目に入る。


(あぁ……ここ(・・)は僕の家じゃなかったんだっけ……いや、今の僕には僕の家か……)


 まだ寝起きで頭が働かないのかよく分からないことを考えてしまったが、どうやらいつの間にか僕は自分の部屋のベッドの上で眠っていたようだ。


(僕、いつの間に着替えたんだろう……)


 いつの間にか僕はパジャマ姿になっていた。前世でもよく見慣れた一般的なパジャマだ。

 どうやら料理、洋服については僕の前世との類似性が高いようだ。

 僕が着ているのはシンプルな水色のパジャマであったが、手触り、着心地共に素晴らしく、恐らくとても良い生地を使用して作られたものと思われた。

 ベッドの上で身体を起こして窓の方を見ると、外から眩しいくらいの光が差し込んでおり、本日も晴天のようである。

 窓をボーっと眺めていると部屋の扉がノックされマリーさんがやってきた。


「おはようございます、坊ちゃま」


(僕が目覚めると同時に部屋に来るか……この部屋、監視カメラとか設置されてないよな……)


 そもそもカメラという科学機器が存在するかも怪しい世界ではあるがマリーさんのあまりのタイミングの良さに思わず疑惑の念を抱いてしまう。


「今日も良い天気ですね。サンオー寺院で坊ちゃまが名前を賜る大事な日に相応しい空模様です」


(ああ、そういえば昨日、アルフレッド達がそんな会話をしていたな……)


「さぁ、朝ごはんにしましょうか。今日からは食堂で旦那様、奥様と一緒に食事ができますよ」


 そうしてマリーさん手伝いの下僕はパジャマから着替える。僕の服を脱がす途中でマリーさんの呼吸が荒くなってきているのが気になったがなんとか着替えを終える。

 紺色のズボンに上着は白いシャツと若干フォーマルな服装だ。

 

「よくお似合いですよ。では食堂へまいりましょうか」


 そうして食堂へ向かうため僕はマリーさんに連れられて部屋を後にした。





 食堂は僕の想像通りの場所であった。

 暖炉に絵画、何人分の料理が置けるのかと思うほど長いテーブル、豪華な椅子、前世の映画でしか見たことのないような空間がそこにはあった。

 そして僕より先に来て椅子に座っているアルフレッドとセリーヌはその空間に何の違和感もなく、むしろこれ以上ないほどその空間によく似合っていた。

 そんな2人は食堂に入って来た僕を見ると---


「「おはよう」」


 笑顔で挨拶をしてくれた。

 僕も挨拶を返す。


「おひゃようごじゃいましゅ」


(成長すればこの舌足らずも治るんだろうけど、早くどうにかしたいな……どうも気恥ずかしい……いや、今の僕からすれば当然なんだけど……でもなぁ……)


 そんな僕の葛藤など知る由もなく---


「あぁ……今日も我が子は可愛いわぁ……」

「そうだなぁ……」


 本日も2人は平常運転のようであった。

 


 その後、『どんな名前を貰えるのか楽しみだ』等と会話をする2人と一緒に朝食を食べた。

 ちなみにこの日の朝食のおかずも魚料理であった。

 海が近いためやはり魚が主な食材になるのだろうか。


(流石にこの世界にも肉料理はあるよな……)


 僕の好みはどちらかと言えば肉>魚である。

 更に詳しく言えば牛肉>豚肉>鶏肉>その他肉だ。 


(あぁ……魚も美味しいんだけどやっぱり牛肉が食べたいな)


 そう心の内で呟きながら僕は食事を終える。


「では私達も準備をしてそろそろ出発しましょうか」

「そうだな。マリー、外に馬車を用意しているから先にその子と行って待っていてくれ」

「承知いたしました」


 そうして僕は食堂でアルフレッド、セリーヌと別れた後マリーさんと玄関へ向かった。




 玄関を出ると1台の箱馬車が乗り付けてあった。

 車両部分は木製で綺羅びやかに彫刻が施されている。

 車両の前には栗毛色の馬が1匹繋がれていた。綺麗な毛並みだ。


「坊ちゃま、これは馬車という乗り物でこれから私達を乗せてサンオー寺院まで行ってくれるんですよ」


 そう言いながら、馬車を引く馬に近づくマリーさん。今の僕はマリーさんに抱っこされているため、当然、僕も馬に近づくことになるのだか---


(……でかい!?)


 実物の馬を間近で見る機会もなかったが、今の僕からすればその馬はあまりに巨大に映りすぎた。

 僕の体が強張るのを感じたのだろうか---


「あら、坊ちゃまったら怖がってるんですか?ふふっ、大丈夫ですよ。この馬はとても人懐こくて賢いですから。名前は『ポチ』と言います。きっと坊ちゃまのことも気に入ってくださいますよ」


(『ポチ』って……)


 ふとポチなる馬を見れば、僕の方を物凄く興味あり気に見つめている。

 馬というより犬に相応しいのではないかと思われる名前に違和感を禁じ得ないが僕は恐る恐るその名を呼ぶ。


「……ぽちぃ?」

「ヒヒーン!!」

「ふわぁ!?」


 急に前足を高く上げ大きく鳴き声を上げたポチに驚き思わずマリーさんにギュッとしがみついてしまう。


「……よくやってくれました……よくやってくれましたよポチ……」

「フヒーン!!」


 何故かポチを褒めるマリーさんの顔は満足気であった。

 そして再び前足を上げ鳴いたポチはまるで人間がガッツポーズをしているかのようだった。


「良かったですね。ポチも坊ちゃまのことを気に入ってくれたみたいですよ」 


(そうなんだ……)


 本当にそうかは分からないがマリーさんがそう言うならそうなんだろう。


「……馬を怖がる坊ちゃまもなかなか……」

「フヒヒッ!!」 


 ……今あの馬……笑わなかった……?

  




 しばらくポチと戯れていると準備を終えたアルフレッドとセリーヌが玄関から出てきた。


「すまない。待たせたな」

「いえ、問題ございません。出発いたしますか?」

「ああ、頼む」

「承知いたしました。それでは奥様、坊ちゃまを」

「ええ、ありがとうマリー」


 そうして僕はマリーさんの腕の中からセリーヌの腕の中へ移される。

 手の空いたマリーさんは馬車の扉を開き僕はアルフレッドとセリーヌと共に車内に入る。

 馬車の車内は見た目よりも広く感じた。

 大の大人が3人は座れるであろう長椅子が向かい合うように設置されており中央には簡易テーブルまで備えている。四方には大きめの窓もあるため窮屈感も感じない。


「それでは出発いたしますがよろしいでしょうか?」

  

 マリーさんの声のした方の窓を見れば、いつの間にか外側にある御者席(ぎょしゃせき)にマリーさんが座っていた。


(マリーさんって馬車を走らせることもできるのか……というかメイド服で馬車の操縦ってよく考えるとすごい絵面な気が……)


「ああ、よろしく頼む」

「はい、それでは出発いたします」


 そうして僕達を乗せた馬車はサンオー寺院へ向けて出発した。




§§§§§§§§§§§§§§§§




 馬車が走り出してから30分は経ったであろうか。

 流石にこの世界にはコンクリートは無いようで僕らを乗せた馬車の走る道路は石畳や土を押し固めたものばかりであった。そのため当然振動も伝わってきたが、車内はそこまで揺れることもなくむしろ快適と言ってもいいぐらいだ。

 この馬車の構造に何か秘密があるのか、マリーさんの馬の扱いが上手いのか、はたまたその両方か。

 いずれにせよ僕らを乗せた馬車は順調に進んでいるようだ。


(サンオー寺院がどこにあるか分からないけど、もし町の方にあるなら町の様子も見れて都合が良いんだけどなぁ……)

 

 これが僕にとってのセトナにおける初めての外出であるが、この機会にセトナについて出来るだけ多くの情報を仕入れたいと考えてた。

 何故ならば、恐らく僕が自分の意思で外を見て回るためにはあと数年の歳月を要することは容易に想像ができるし、それまで外に出る機会はあまり与えられないかもしれないためだ。

 そのため先ほどから僕の視線は窓の外の景色に釘付け状態であった。


「あらあら、この子ったらお外に興味津々みたいね」

「それはそうだろう。なんせ初めて見る外の世界なんだからな」

「いつかこの子も島の外へ出る日が来るんでしょうね……」

「あぁ……そうだな……」


(まだ1歳児の子供を前にこの2人は何年後のことを憂いているんだろう……)

 

 若干車内の雰囲気が沈み始めるのを感じた所で---


「旦那様、奥様、まもなくサンオー寺院へ到着いたします」


 どうやら間もなくサンオー寺院に到着するらしい。


(窓の外は……木ばっかりか……)


 先ほどから建物らしきも物は一切見かけていないことからサンオー寺院は町の方向には無いようだ。


(せっかく町がどんなものか見れるかと思ったんだけどな……)


 そんなことを考えていると馬車が停車し、マリーさんが扉を開ける。


「サンオー寺院に到着いたしました」

「ありがとう。さて、では降りようか」

「ええ」


 そうして僕達が馬車から降りた場所は周りを森に囲まれたような所だった。

 馬車を降りた正面には石畳の道が伸びており、その向こうにはかすかに建物らしきものが見える。

 そしてその石畳の道には石で造られた鳥居のような---アルファベットのAの形によく似たものが延々と並んでおり、森の中にポツンと存在しているのも相まって周囲は異様な雰囲気に包まれていた。


(すごいな……これがサンオー寺院か。寺院と聞いてたから僕の前世で言うところの社寺みたいなものを想像してたけど確かに雰囲気は近いな)


「マリーはここで馬を見ていてくれるか?」

「承知いたしました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくる」

「行ってくるわねマリー」


 頭を下げるマリーさんを背に僕達はサンオー寺院へ続くであろう石畳の道を歩き出す。


(……?何だろうこの場所、さっきから何か違和感が……)


 馬車を降りた時から胸の内に生じていた小さな違和感が石畳の道を進むに連れて大きくなってきた。

 そうしてしばらく進んでいる内にようやく僕はその違和感の正体に気づくことができた。

  

(あぁ……この場所---周りの音が一切聞こえてこないんだ。やっぱりこの場所は少し特別な所なのかな。あきらかに雰囲気が違うし……)


 通常であれば動物の鳴き声、風の音、木々の擦れる音といった様々な音が耳に入ってくるはずであるのに、この場所はそれらの音が一切聞こえてこなかった。 今この場所に響いているのはアルフレッドとセリーヌの足音くらいだ。

 ようやく違和感の正体が分かりスッキリしていると、僕の目が道の先にいるある人物を捉える。

 まだ辛うじて人だと分かるレベルであったが、僕達が近づくにつれその人物像ははっきりしてくる。どうやら女性のようだ。

 そしてアルフレッドとセリーヌはその女性の前で立ち止まった。


「ようこそお越しくださいました」

「久しぶりだなフィアラ」

「お久しぶりですねフィアラさん」


 アルフレッドとセリーヌと挨拶を交わした女性はフィアラという名前らしい。

 見た目年齢的には20代手前ぐらいであろうか、修道服をちょっと豪華に装飾したような服に身を包んでおり、その雰囲気からひと目でサンオー寺院の関係であることが分かる。前世で言うところのシスター的な立場の人なんだろう。


「昨年のサンオー祭りの際には大変お世話になりました」

「いえいえ、島主として当然の勤めを果たしたまでですよ」


(へー、セトナにもお祭があるのか。どんなお祭りなんだろう)


「---孤児院にも予算を組んで下さり---」

「---子供は未来の宝ですからね---」


 どうやら完全に仕事モードの会話になってしまったようだ。

 セリーヌはその様子をニコニコしながら静かに眺めている。

 ……ふと視線を感じ、その方向へ目を向けると---

 

「こちらのお子様が……」

「はい、私とセリーヌの子供になります」

「まぁ、なんて可愛らしい」

「ふふっ、ありがとうございますフィアラさん」


 いつの間に話題が僕に切り替わっていた。


「……この子からはとても強い光を感じますわ。とても明るくて暖かい光です」

「まぁ!!サンオー寺院の最高司祭様がそこまで仰って下さるとは光栄ですわ」


(ただのサンオー寺院のシスターにしては服装が豪華だとは思っていたけど『最高』司祭って言うくらいだからきっと一番偉い役職だよな……)


 自分が言える柄ではないが、まだ若そうなのに立派な方なんだろう。

 

「そういえば、まだこの子には自己紹介をしていませんでしたね。初めまして、私はフィアラ=アドリーと言います。まだ若輩者ですがサンオー寺院の第18代最高司祭を務めさせていただいています。よろしくお願いしますね」


 まだ言葉もよく理解できていないと分かっているであろうが、それでもフィアラさんは子供である僕に丁寧に頭を下げてくれた。彼女の人柄がよく分かる挨拶だと思った。

 礼儀には礼儀で返そう。


「ふぃあら~」(+個人的に最高ランクの愛想笑い)

「っ……これは……将来が楽しみなお子さんですね……でも少し心配です……」


(……愛想笑いを見破られた……?)


「あぁ……やっぱりそう思いますか。実は私達も心配しているんです……」

「そうなのよ……心配よね……」


(アルフレッド達も気付いていたのだろうか……これはまずいか……)


「「「可愛すぎる……」」」


(…………はぁ……)




§§§§§§§§§§§§§§§§




 あれから『こんな所で長々と立ち話をさせてしまい申し訳ありません』と謝るフィアラさんに連れられて僕達はようやくサンオー寺院の境内へ足を踏みれた。


(なんだかお寺と教会がごちゃまぜになったような場所だな……)


 境内を初めて見た僕の感想だ。

 境内は細石が敷き詰められておりしっかり掃除がされているのか葉っぱ一枚落ちておらずとても綺麗だった。

 しかし問題は建物である。

 建物の造り自体はお寺に近いのだが窓は様々な色のガラスで構成されたステンドグラスのようなもので、屋根には瓦は無く形は洋風だ。

 その建物のせいもあって境内は和洋折衷を表現したと言ってもよい不思議な空間となっていた。


(こちらの世界の人達には当たり前なんだろうけど、どうも違和感が……)


 境内にはいくつか建物が建っていたが、僕達はその中でも一番大きく立派な建物に案内された。


「既にご存知とは思いますが、これからおふたりのお子様の受名(じゅめい)の儀についてご説明いたしますね」


 建物内の長い廊下にフィアラさんの柔らかな声が響く。


(受名の儀……?ああ、その儀式で僕の名前が決まるってことか。前世だったら子供の名前は親が決めるものだったけど、セトナでは違うんだな。どうやって名前を決めるんだろう)


 廊下を歩きながらの説明であったがフィアラさんのその説明は僕のその疑問にピッタリと答えてくれるものであった。




 セトナでは生まれた子供が言葉を発すると寺院へ行き『対話の部屋』と言われる部屋で神様(・・)と対話をした後、名前を授かるらしい(・・・)(言葉を発する=神様とお話ができるようになった証ということのようだ)。

 何故仮定形かと言えば、当の本人は対話の部屋で何があったか思い出せなくなるらしいのだ。

 しかし、不思議なことに部屋から出てきた子に『あなたのお名前は?』と問うとその子は神様から授けられたであろう名前を口にする---ということらしい。

 そのため部屋の中では実際に何が行われているか誰も知らず、誰にも分からない。

 若干の胡散臭さは拭い切れないが、ともあれこれが受名の儀というものらしい。

 ちなみに、理由は分からないが『寺院の教え』とかいうもので対話の部屋へは子供以外の入室が禁じられている。

 つまり対話の部屋には名前を授かる子供ひとりで入らなければならないのだが、それが胡散臭さに拍車をかけている。


(……僕は大丈夫だけど……これ、普通の子供だったら大変だろうな……)


 言葉を喋れるようになってまだ間もない子供には少々厳しい儀式の気もしたが、それが決まりならばしかたがないかと無理やり納得した。


(それにしてもさっきから『神様』って言っているけど……まさかね……)


 僕の脳裏には一晩前に話を(・・・・・・)した幼女の姿(・・・・・・)が浮かんでいた。


(そもそも神様と対話をすると言ってもそれが本当かどうかも怪しいし、別の神様がいる可能性だってあるよな……前世では『八百万の神』なんて言葉もあったくらいなんだから他に神様がいたっておかしくないだろうし……うん、そうだよな……)


 僕は自分にそう言い聞かせながら頭のなかで次第に大きくなってきているある予感(・・・・)を必死に頭の隅に追いやろうとする。


「こちらが対話の部屋の入口になります」


 しかしその前に僕は目的の部屋に到着してしまったようだ。

 いつの間にか廊下の突き当り、建物の一番奥に来ていたらしい。 

 僕達の前には小さな扉があった。

 子供でないと通ることができないくらい小さな扉だ。

 確かにこれなら物理的に大人が部屋の中に入ることはできないだろう。


「それでは早速ですが、アルフレッド様、セリーヌ様」

「分かった」

「ええ」


 フィアラさんの言葉に返事を返したアルフレッドとセリーヌはまるでこれが生涯の別れとでも言うかの如くそれはそれは悲しい顔をしながら僕を見つめてくる。


「ひとりになって少し怖いかもしれないけど我慢してね……」


 セリーヌはそう言って僕をその扉の前の床に下ろす。


「さあ、その目の前の扉をくぐってみるんだ。……っ頑張るんだぞ!!」


 アルフレッドはまるで受験生の息子を試験会場へ送り出す父親のようであった。


(何を頑張るのか分からないけど……とりあえず行ってみよう)


 そうして僕は背後から感じる『心配』という名の2本の弓矢に背中を刺されつつも名前を授かるべく対話の部屋に入っていった。




§§§§§§§§§§§§§§§§




 僕が入ったその部屋は---真っ白、一面真っ白な部屋だった。汚れなど一切ない。純白の部屋だ。

 床と天井と壁の境目が分からず、無限に広がる空間に来てしまったのではないかと錯覚させられてしまう。

 普通であれば不気味な部屋と感じるたであろうが不思議と嫌な感じはしない部屋だ。


(なんだか遠近感がいおかしくなりそうな部屋だな……ん?奥に見えるのは……鏡?)


 部屋の奥にはサッカーボール程の直径の円鏡が置かれていた---いや、落ちていたと言った方が適切かもしれない。

 机や台といった物はなく、それはただ床に捨てられているかのように存在していた。


「何で鏡がこんな所に?」


 僕はそう口にして(・・・・・・)その鏡に歩いて近づく(・・・・・・・・・・)

 それは通常人であれば誰もが思い、そして行う行動であろう。

 だから僕は舌足らずな言(・・・・・・)葉遣いが治り(・・・・・・)スタスタと歩(・・・・・・)ける(・・)ことに何の疑問も抱かなかった。 

 そしてその鏡の前に到着し、上から鏡を覗きみ僕はようやく気づく。


「……僕だ……」

 

 鏡の向こうから僕を見る僕の姿は転生前の僕---須藤広将(・・・・)だった。


「あれ?なんで……?」


 そう言いながら僕はその鏡を手に取ろうと手を伸ばす。

 すると突然鏡の向こうから眩い光が発せられた。


「うわっ!?」


 僕は思わず目を閉じて身構えてしまう。

 すると---
















「もう何なんですか!?急に部屋に呼び出したと思ったらいきなり!?」

「あぁ、すまぬな」


(……最近何処かで聞いたことのある声とやり取り……)


「『すまぬな』ではなくてちゃんと説明してください!!」

「まぁおちつくのじゃ」


 僕は眩しさのため閉じていた目を開ける。


「いきなりこんな真っ白な場所に連れて来られて落ち着いてなんて---」


 キョロキョロと周囲を見回しつつ発言していた女性(・・)は目を開けた僕と視線が合うとそれ以上言葉を続けることはなかった。

 言葉を失っている女性のすぐ横にいる幼女(・・)は予めこうなることが分かっていたかのように不敵な笑みを浮かべていた。

 そうしてしばらくの沈黙の後、僕の目の前の2人がほぼ同時に口を開く。


「須藤さん!?」「久しぶりじゃな(・・・・・・・)広将!!」

「……高野さんに……神様……?」


 それはあまりにも早い、一晩越しの再会だった。

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