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誰でも勇者になれる世界  作者: ゆゆゆゆゆ
第2章 勇者がいろいろ知ったりする話
13/27

第13話 「何事も最初が肝心」

 セリーヌに抱かれて一緒に入った会場は---これまた広かった。

 学校の体育館より少し狭いくらいであろうか、それでも家庭にあるレベルのものではない。

 会場はガラス張りの円形ホールのようになっており、ガラス越しに見える空はすっかり真っ暗になっていた。

 また、ホールの中央上には火の灯った立派なシャンデリアがぶら下がっていたのだが---


(ん?あのシャンデリアの火……蝋燭じゃなくて……石?石が燃えてるのか……?)


 そのシャンデリアに灯っている火の下には蝋燭ではなく真っ赤な石のような物が設置されており、先ほどまでの緊張はどこへ行ったのやら、僕の関心はすっかりその石に向いてしまった。


(なんで石に火がつくんだろう……もしかして『魔法』と何か関係があるのかな?)

 

 そして僕はその石に気を取られて先ほどから向けられている複数の---いや、この場にいる人達全員の視線に気付いていなかった。

 ふとシャンデリアから視線を戻せばいつの間にか僕は今日のために設置されたのであろう、ステージの上に来ていた。

 そして僕はステージ上から会場を見渡す。


(……100人ぐらいかな……多すぎるだろう……)


 会場内には100程の人が居るように見えた。割合的には女性の方が少し多という印象である。

 どの人も綺麗な服に身を包んでおり、その立ち振舞を見るに育ちの良さそうな人ばかりであった。

 また、会場内にはいくつかテーブルが設置されておりその上には料理が並んでいたことからどうやら立食パーティー形式のようだ。 

 そうしている内に僕の紹介が始まる。 


「ご紹介いたします。妻のセリーヌ、そしてこちらが私達の愛息子です」


 アルフレッドがそう言うとセリーヌは抱きかかえている僕の顔とステージからこちらを見る人達の顔が向かい合うように体の向きを変える。

 一斉に僕に向けられる視線……ただ、そこに悪意のあるものは混ざってなさそうであった。

 なんだろう---みんな温かい目をしているように見えた。 


「ほら、みなさんにご挨拶しましょうね~」

「おいおいセリーヌ、流石にまだそこまではできないだろう」

「あら、分かりませんよ。この子は天才ですもの」


 そんなアルフレッドとセリーヌのやり取りを聞き、笑うステージ下の人達。

 しかし、失笑を買われてしまったという様子ではない。

 みんなこの様な2人のやり取りは聞き慣れているのだろう。


(さて、どうするか……)


 何事も最初が肝心である。

 特に他の人達から見れば今の僕は島主の息子であるのだからそれは尚更だろう。

 

(いくら気が乗らないとは言え、僕のためにこの人達は集まってくれたんだから最低限お礼ぐらいはしないとなぁ……)


 そうと決まれば、一度自分の足で立ってお礼を言おうと思い僕は行動に移る。


「しぇり~ぬ、おりう~」 


 そう言いながら僕はセリーヌの腕の中でもがく。


「あら、この子降りたいのかしら?」


 するとセリーヌは「はい、どーぞ」と言いながら僕をステージ上に降ろしてくれた。

 今の僕の姿勢はハイハイの姿勢である。


(そういえばこの身体になってからまだ立って歩いた事がないな。僕ってもう立てるのか?)


 そして僕は徐ろに立つことに挑戦する。

 地面についた手を離し、膝を曲げ、しゃがみ込む姿勢になってからゆっくりと膝を上げる。

 まだ筋力が足りないからかバランスを取るのに苦労したがなんとかその場に立ち上がることに成功した。 

 途中、アルフレッドとセリーヌが息を呑むのを感じたが、今の僕はバランスを取るのに精一杯である。

 流石にこの状態で歩きまわるのにはもう少し慣れが必要であろうが、数歩程度なら歩けそうだ。


(お~、案外いけるもんだな)


 そして無事に立ち上がれた所で当初の目的を果たすべく僕はおぼつかない足取りで数歩前に出る。

 今、この会場の全ての視線は僕に向いているようで、誰もが一言も発せず僕の一挙手一投足に気を配っている。


(……どうも視線を集めるのには慣れないな……)


 そんな視線を浴びつつ、僕はステージ下の人達に向けてお辞儀をする。

 深く頭を下げるとそのままでんぐり返しになってしまいそうなので軽いお辞儀だ。


「あ、ありがとぉごじゃいましゅ」


 恐らく今の僕の顔は緊張で真っ赤になっていることだろう。ほっぺが熱くなっているのを感じる。


(後は子供らしく笑っておけば大丈夫だよな……) 


 頭を上げた後に愛想笑いも追加しておいた。

 我ながらよくできた挨拶だと思うが---


(どうだ……?)


 会場内はシーンと静まり返ったままであった。


「「「「「…………」」」」」


 ある男性は目を見開き、またある女性は頬を染め、僕を見ている。


(何か間違えたのだろうか……あっ、もしかしてこっちの世界だと何か挨拶の形式が決まっているとか---)


 十分あり得る可能性である。むしろ何故その可能性気に気が付かなかったのか。

 とはいえ一度挨拶をしてしまった以上、もうどうしようもない。

 せめて誰かが何かアクションを起こしてくれれば……


「「「「「…………」」」」」


(……沈黙が辛い……)


 そしてしばらくの沈黙の後、セリーヌの声が会場であるホール内に響き渡った。














「やっ、やっぱりこの子は天才よー!!」


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