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誰でも勇者になれる世界  作者: ゆゆゆゆゆ
第2章 勇者がいろいろ知ったりする話
11/27

第11話 「見たことのない懐かしい景色」

景色の描写って難しいですね……

そしていつの間にか1500PVオーバーしてました。

つたない文章ですが読んで下さった方、お気に入り登録してくれた方、ありがとうございます。

 あれから僕は再びベビーベッドに寝かされた。

 どうやらこの部屋は子供部屋らしい。

 天井には月と星が描かれており可愛らしい部屋だ。

 ただ---この部屋、子供部屋にしては広い。いや、広すぎる。


(僕が子供の頃に住んでた家の子供部屋もなかなか広かったけど、この部屋はその倍以上あるな……)


 こちらの世界の標準は分からないが、恐らくこの家はかなりのお金持ちではないかと思う。

 少なくとも貧困層ではないだろう。


(もしこれが標準だったらこの世界の富裕層の部屋はどうなってしまうんだろうな……)


 さて、その後いくつか分かったことがある。

 まず、金髪の男性と茶髪の女性はやはり僕の父親と母親で間違いないらしい。

 そして父親の名前はアルフレッド、母親の名前はセリーヌである。姓氏やミドルネームもあるのかもしれないが今の僕に分かるのはそれくらいだ。

 というのも---


「ほら、ママのお名前は『セリーヌ』ですよ~、『セリーヌ』って言ってみて~」

「ずるいぞセリーヌ。パパの名前は『アルフレッド』ですよ~、ほら言ってみろ『アルフレッド』だぞ」


 今僕の前で不毛な争いが繰り広げられているためだ。

 僕のカンが言っている---『この争いに巻き込まれたら大変なことになる』と。

 なのでしばらくの間黙って聞いていたが一向に口を開こうとしない僕を見る2人の顔が次第にガッカリしたものに変化してきた。


「「ママ(パパ)の名前は呼んでくれないのね(か)……」」


 2人共ガックリと項垂れている。

 なんだか少し気の毒になってきてしまった。

 まあ名前くらい呼んであげようか。

 僕はある程度喋れると認識されている様だし、ここは遠慮せずにいこう。

 早い段階から意思疎通が出来るに越したことはない。


「……しぇり~ぬ……ありゅふりぇっど」

「「…………」」


 正直、先ほどのリアクションに鑑みまた抱きつかれると思った。

 しかし、僕の予想に反し項垂れていた2人は顔を上げるだけで特に何もしてこなかった。

 ただ――そう、2人は泣いていた。


「……人って本当に嬉しいと泣くことしか出来ないのね……あなた……」

「あぁ……あぁ……そうだな……」


 ……どうやら僕の両親は面白い人達の様だ。


「旦那様、奥様、感動されている所大変恐縮なのですが、そろそろ坊ちゃまのお祝いパーティの準備に取り掛かられた方がよろしいのでは?」


 先ほどまで悶絶していたメイドの女性がいつの間にかキリッとした表情で2人に告げた。


「あ…ああ、そうだなマリー、ありがとう」

「そ、そうね……本当はもう少しこの子と話していたいけれど……」

「坊ちゃまのことは私にお任せ下さいませ」


 どうやらこのメイドの女性は僕の世話係で名前はマリーというらしい。

 

「……まりぃ?」

「はい。マリーですよ坊ちゃま」


 僕は確認の意味も兼ねてその名前を呼んでみた所、彼女は先ほどの様に崩れ落ちる事もなくベッドに横たわる僕を抱き上げてくれた。

 どうやらこの人は両親と違って--- 














「……私、この天使とならこの世を去れます……」ボソッ


(あっ、この人は危ない人だ……というより今の僕にはその冗談、笑えないです……)



§§§§§§§§§§§§§§§§



 その後、母親であるセリーヌが『急いでお祝いパーティーの準備をしなくちゃ!!誰か来てちょうだい!!』と言ってからは早かった。

 部屋の外に数名のメイドさんが駆けつけ、指示を出す父親と母親。それを見守るマリーさんに抱かれた僕。

 指示を出し終えると2人は『良い子にしてるのよ』という意味であろう、僕の額にキスを落とし部屋を出て行った。

 そして現在、部屋には僕とマリーさんの2人きりであり、僕は椅子に座ったマリーさんに抱きかかえられている状態にある。

 マリーさんは僕にいろいろとお話をしてくれた。もちろん、彼女からすれば赤ん坊をあやす程度のつもりで話をしているのであって、僕がその話の内容を完璧に理解しているとは夢にも思っていないだろう。

 そしてそのマリーさんの話からまたいくつか分かった事がある。

 この世界では生まれた子供が初めて喋った場合、その事を祝う慣習がありそのお祝いには親族や親しい友人を招くらしい。


(という事は僕はあの両親の親族(・・・・・・・)と会うことになるのか……)


 何故だろう、あまり良い予感がしなかった。

 そしてこれが一番驚いたことであるが、僕には名前がまだ無いらしい。

 最初に聞いた時はどこの吾輩な猫かと思ってしまった。

 どうやらこの世界の人の子は言葉を喋り出すまで家族以外とはなるべく顔を合わせずに育てられ、言葉を喋り出したら家族以外への顔合わせが解禁されるらしく、その後、教会に行き名前を賜るらしい。

 僕の家の場合、世話係のマリーさんは特別に僕と顔を合わせられる様でマリーさん曰く『他のメイド達からの嫉妬がすごい』らしい。

 本来、何をするのか分からない子供の世話なんて大変なはずなのになんで他のメイドさんからの嫉妬を買うのか僕には分からなかったが『坊ちゃまが外にお披露目されたら今度は家のメイド以外の人達からの嫉妬が凄そうです』等と言われ更に訳が分からなかった。

 それにしてもマリーさんの話を聞いている時から気にはなっていたのだが、先ほどから部屋の外が騒がしい。

 自然と視線もドアに向いてしまう。


「あら、坊ちゃまはドアの向こうが気になりますか?」


 もう僕は喋れるようになったのだから、家族以外の人と顔を合わせても大丈夫なんだろう。

 是非とも家の中を見てみたい。

 僕はコクコクと頷く事で質問に答える。


「そうですか……ですが申し訳ありません。現在、屋敷内は坊ちゃまのお祝いパーティーの準備で立て込んでおりますので。屋敷内を見て回るのはまた今度にしましょうね」


(まあ確かにパーティーの準備で忙しい中に子供がいたら邪魔だししょうがないか……)


「そうだ、代わりと言ってはなんですがお外をご覧になりましょうか」


 僕が残念がっているとマリーさんはとても魅力的な提案をしてくれた。

 僕は先ほどよりも強く頷いた。

 むしろ家の中よりも外の様子のほうが気になっていたのでありがたい。


「あら、坊ちゃまはお外に興味津々の様ですね。それでは少しだけバルコニーに出てみましょうか」


 そう言うとマリーさんは僕を抱きかかえたまま部屋の窓の方に向かう。

 どうやらこの部屋の窓の向こうにバルコニーがあるようだ。


「今日は天気も良いですし、きっと坊ちゃまもこの景色を気に入ると思いますよ」


 そう言いながらマリーさんが窓に掛けられた鍵を開け窓を開く。

 外にでると思ったよりも陽の光が眩しく目を閉じてしまった。

 そして僕は視覚より先に嗅覚と皮膚感覚でそれ(・・)の存在が近いことを知る。


(海だ---)


 まず最初に感じたのは潮の香りである。

 あの『海』としか形容し難い独特の匂い。

 次に感じたのは皮膚に当たるやわらかな風だ。

 適度に湿気を帯びた風が肌を撫で気持ちが良い。

 そして僕は目を開き世界を見る---これから僕が生きる世界を。











 


 どうやら僕がいる屋敷は山の斜面に沿うように建てられている様で見晴らしは最高であった。

 まず目に入ったのは深く美しい碧い海、そしてその海に浮かぶ大小様々な島である。

 あまりにも島の数が多すぎて島々の間を縫うように存在する海が大きな川の様にさえ見えてくる。

 

(そう言えば高野さんはセトナには大きな大陸が2つと島が沢山あると言っていたな。この辺り一体は全て島なのかな?)


 視線を落とせば眼下には多くの建物が広がっている。恐らくこの周辺がひとつの町になるのだろう。

 ちなみに建物の多くはレンガの様なもので建てられており(僕いる屋敷もそうである)、町全体が赤を基調としたものとなっている。

 町の海に面した場所には船らしきものも停泊しているしここは港町なんだろう。

 空の青、雲の白、海の碧、山々の緑、レンガの赤、まるで1枚の絵画を見ている様だった。

 そしてマリーさんは丁寧にその絵画の解説をしてくれた。


「今、私達がいるここは『サンオー島』にある港町『サンコスタ』です。この島は坊ちゃまのお父様---アルフレッド様が島主として治められている島なんですよ」


(…………)


 ……僕の父親はお金持ちとかそういう次元ではありませんでした。島主でした。


(そりゃあ子供部屋も立派でメイドさんもいるわけだし、ある程度裕福な家だとは思っていたけどまさかここまでだったのか……)


 その後、マリーさんは様々な島を指で指さしてはその島の名前を教えてくれた。

 しかし、島が多すぎるためマリーさんの指がどの島を指さしているかいまいちよく分からず、島の名前と場所が一致しない……

 まあ各島の名前と場所については追々ゆっくりと知ればよいだろう。


「あら、見て下さい坊ちゃま。ちょうど王都のある大陸からの船が来たようですよ」


 そう言われてマリーさんが指を指した方を見れば、確かに1隻の帆船がこちらに向かって来ていた。

 船の形状については僕の知っている帆船そのままであり、そこは前世と変わりがないようだ。


(なるほど。大陸に王都があると……)


 王都がどの様な場所かは分からないが、まあ名前的に首都みたいな所なんだろう。

 

(いつか僕も訪れることになるんだろうか……)


 何故だかふとそう思っていると---


「さて、そろそろ室内に戻りましょうか」


 どうやらタイムリミットが来てしまったようだ。

 僕を抱えたマリーさんが窓の方へ歩き出す。 


「私はここから見る景色が大好きなんですが、いかがでしたか?坊ちゃまも気に入って---ふふっ、気に入ってくれたみたいですね」


 僕の視線は部屋の中に戻るまでその景色から---

 今まで一度も見たことがないはずなのに懐かしく感じるその景色から逸れることはなかった。








誰でも勇者になれる世界


第2章 勇者がいろいろ知ったりする話






余談となりますが、この話に出てくる景色は日本の某所をモデルにしてます(物凄く察しが良い方なら私のレベルの文章でもどの辺の場所か見当がつくと思います……)。

私は旅行が趣味なので今まで日本中の色々な場所を訪れてきましたが、その中でも一番好きな場所です。

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