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099 回復

■回復■




ミラーグたちの情報からエルドは地球の座標割り出しを急いでた。アルファ星の超新星爆発のエネルギー波が地球に届くのにほとんど時間は残っていなかった。


「どうかな?候補を絞れそうか、メローズ?」

「リーエス、エルド。やっと10組まで絞り込みました」

「よく短時間でここまで・・・。アルダリーム(ありがとう)、メローズ」

「どういたしまして、エルド。しかし、実際にはシステムがやってますので・・・」

「そんなことはない、きみがいないと、だれが、パラメータをシステムに指示するんだね?」

「リーエス。素直にお褒めのお言葉をいただいておきます」


「うむ。だが、ずいぶんと減ったもんだ」

「エルド、これからが大変なのです。なにしろ、エルフィア大聖堂の古文書記述と、和人の記憶情報だけの情報ですから、これ以上絞り込むのはとても危険です」

「かえって、外す可能性が高くなるということか・・・」

「リーエス」


「エルフィア教会から提供された、アテル・アンティリアについての星座の照会は?」

「はい。天球に十二個の星座を設定した例の図については、銀河内座標を算出する指標に利用できるでしょう」


「そうだな。その星々の位置は、ディアテラもしくは、地球からの見かけの位置ではないのか?」

「リーエス。ご指摘のとおりです。でも、天の川銀河を探さないことには、この先、どうにもなりません」

「天の銀河を探し当て、渦状腕と位置が特定できないと、使えんということだな?」

「リーエス」


「よし。急いでくれたまえ。その十二星座の主要な星の位置関係、絶対等級や、スペクトルに関する情報は、アンドロメダ銀河の絞込みと並行して事前に取れるだろう?」

「リーエス。時間は1分1秒でも節約しなければなりません」

「メローズ、きみを頼りにしている」

「リーエス。エルド、光栄です」




ぶわーん、ぶわーん。


その時奇跡的に時空がふたたび大きく揺れた。


「ユティス!アンニフィルド!時空が回復しかけているわ!」

クリステアの鋭い叫びが二人の頭で突然爆発した。


「早く、和人を呼びなさい!」

クリステアの叫びにアンニフィルドが応答した。


「クリステア、なんなのですか・・・?」


ぺちぺち。

アンニフィルドはユティスの頬を軽く叩いた。


「ユティス、ごちゃごちゃ言ってないで、和人とのコンタクトを続けて!」

「リーエス・・・」


ゆさゆさ・・・。

じわーーーっ。


アンニフィルドは涙が溢れてくるまま、ユティスを揺すった。


「しっかりなさい、ユティス!ユティスってば!」

ユティスの目は完全に空ろになっていた。


ぺちぺちぺち。

アンニフィルドはさっきよりも強くユティスの頬を叩いた。


「ユティス、目を覚ましなさい!」

アンニフィルドはユティスを叱咤した。


「あ・・・」


ぽたぽた・・・。


「時空が回復しかけてるわ!」

アンニフィルドは涙に濡れながらユティスに呼びかけた。


「アンニフィルド・・・」

「ユティス、気を確かになさい!」


きらり・・・。

ユティスの目にかすかに光が戻った。


「どうかしたのですか・・・?」

「時空が回復してるの!もう一度、和人を呼ぶのよ!」


ゆさゆさ・・・。

アンニフィルドはもう一度ユティスを揺すった。


「ユティス、早く!和人よ!」


ぺちぺち!

アンニフィルドはユティスの頬をもう一度叩いた。


「リーエス・・・。ア、アンニフィルド・・・、どうかしましたか?」

やっとユティスは正気を取り戻した。


「時空が戻ってるわ。和人を呼び続けて、ユティス!」

「和人さん・・・?」

「そうよ、和人よ!さっさと呼びなさい!」

「リーエス」




その時、ユティスの願いが届いたのであろうか、それとも、なんの奇跡だろうか、和人が寝返りを打ち枕元のペットボトルを倒してしまった。


ごろり。

どか。

ばたん。

ぱかっ。


ペットボトルはうまい具合に和人の方に口を向けて倒れ、緩んだキャップをはずして、ミネラルウォーターが一気に和人の顔に向けて流れ出た。


どぼどぼーーーっ。


「うわあーーーっ!」


和人は冷たい水を顔面に浴びて一気に目が覚めた。


「うぁー!なんだ、これは!」




満を持して、ユティスに和人の叫びが届いた。


「い、今のは、なんなの・・・?」


突然の和人の悲鳴にちかい叫びに、ユティスばかりかアンニフィルドにもそれが届いた。


「つ、冷てーーーっ!」

「和人さんだわ!」


ユティスは和人の叫びを今度こそしっかりと捕らえていた。


「ああ、和人さん、和人さん!」

ユティスは泣きじゃくりながら和人の名前を呼んだ。


「和人さん!和人さん!」

和人はユティスの呼び声にはっとした。


「ユティス・・・。きみかい・・・?」

「リーエス!」


ユティスは思わず手を差し伸べた。


ぶわんっ。

そして、ユティスの精神体が和人の目の前に現れた。


「おお、和人さん!和人さん!」

「ユティス!」

ユティスは再会の挨拶もなしに、本題に突入した。


「和人さん、もうお時間がありません。地球の座標をおっしゃってください!」

「地球の座標って・・・?」

和人は一瞬考えた。


「おお・・・、まさか・・・・!和人さん、座標のお調べをお忘れに・・・」

ユティスは目の前が真っ暗になった。


「待って、あるよ。わかってるんだ!」

和人は慌てて否定した。


「ああ、和人さん!」


ぷちっ。

大いにあせって和人はPCを立ち上げた。


「今、PCを立ち上げてるから・・・」

「お急ぎください」

「リーエス」


しゅうーーーん。

しゃぁーーーっ。


PCはなかなか立ち上がらず、和人はいらついた。


しゃあ・・・。


「お、お願いだから、早く立ち上がってくれよ!」


PCが立ち上がるまでの時間を、和人は永遠とも思えるほど長く感じた。


(そうだ、地球座標の他にも、ユティスに伝えねなくちゃならないスパーノバのことがあったんだ・・・。今のうちに言っておこう)


それは極めて緊急かつ重要な内容だった。


「ユティス・・・」

「リーエス?」


PCが立ち上がる間、和人はユティスに話しかけた。


「ユティス。こんな時に、言いにくいんだけど、実は地球が大変なことになっているんだ・・・」

「地球がですか?」

「うん。アルファ星という、地球から640光年先の赤色超巨星が、今にも超新星爆発を起こしそうなんだ。もし、そうなったら、地球はオゾン層と地磁気を一度に失う可能性がある」


「宇宙線が、直接、地球上に降り注ぐということですか?」

「リーエス。地球の磁場は逆転期を迎えていて、とても弱くなっている・・・」

「そ・・・、そんな、恐ろしい・・・」


ユティスは、宇宙線に直撃されあらゆる生命体が死に瀕している地球を想像した。


「その通りなんだ。だから、地球を助けてほしいんだ。エルフィアのテクノロジーで・・・」

「和人さん・・・」

ユティスは、この新たな脅威の可能性を知ってはいたが、眼と鼻の先で現実化してきたことに、気が遠くなりそうだった。


「時間的余裕はどのくらいあるのですか?」

「それが・・・、70時間を切ってしまっているんだ・・・」

「そんなに・・・」

和人の叫びにユティスは胸が引き裂かれそうになった。


「わかりました。大至急エルドから指示させます。でも、和人さん・・・」

「リーエス、わかっているよ。地球の座標がわからなければ、エルフィアだって、どうしようもないってこと」

「ええ。和人さん、お願いです。急いでください!」

「リーエス」


ふぁーーーん、ふぁーーーん。

システムが時空が再び閉じそうなことを警告した。


「今のは・・・?」

「時空が閉じる警告です・・・」


ゆらぁーーー。

ユティスのイメージがぐらついた。


「時間がない!」

和人は気が気でなかった。




ふぁーん、ふぁーん、ふぁーん・・・。


「いけない。時空の状態が再び悪化しているわ」

クリステアがシステムを凝視していた。


「和人、急いで!」

アンニフィルドもユティスの側で気を揉んだ。


和人がやっとPCを立ち上げ高根沢博士のアプリが動きはじめた。


「いくよ!」

「リーエス」

「これが天の川銀河だ」

和人は天の川銀河の全体像をユティスに転送した。


「受け取れたかい、ユティス?」

「リーエス」

「次は、地球のある太陽系と天の川銀河内での位置。オリオン渦状腕の位置。地球を中心とした半径500光年内の恒星の地図、及び位置データベース。数値データは、単位は光年、それに十進法を二進法で表したものだから、そっちで加工が必要かもしれないよ」


「リーエス」

「じゃ、いくよ」

「リーエス」


「次。天の川銀河と局所銀河団、および位置関係」

「リーエス。受け取りました」


「乙女座超銀河クラスタと天の川銀河の座標」

「リーエス。受け取りました」


「そして、半径3億光年の銀河分布の数値データベース。いくよ」

「リーエス。受け取りました」


「行くよ。これで最後だ」

「リーエス」


「OKよ。すべてバックアップを3重に取ってあるわ」

クリステアが受け取り終了を確認し、アンニフィルドに合図した。


「和人さん。確認完了しましたわ!」


にっこり。

ユティスが微笑んだ。


「ユティス!」

和人はユティスの笑顔に思わず叫んだ。


「オレの女神さま・・・、アルティーア・・・」


和人は女神さま宣誓を完全に意識していた。そして、ありったけの想いを込めてユティスに言った。


「オーレリ・デュール・ディア・アルティーア(わたしの女神さま)!」


和人ははっきりとそれを告げた。 


「もう、迷わないよ!オレにはきみだけだ!ユティス、きみだけなんだ!」

「リーエス!」


今度はユティスもうろたえなかった。それどころか、涙ながらも健気に笑みを浮かべ、和人に応えた。


「和人さん!わたくしの和人さん!オーレリ・デュール・ディユ・アルトゥーユ(わたくしの神さま)!」


「ユティス!」

「和人さん!」


「ああ、ユティス、ディア・アルティーア(聖なる女神さま)!」


「わたくしが・・・、わたくし自身が、和人さんのもとにまいります。転送アプリをお届けいたしますわ。さあ、お受け取りになって!」

「リーエス!」


しゅわぁーーーん。

ぱち・・・。

和人はなんとかそれを受け取ることができた。


「それは、システムがわたくしを和人さんのもとに転送する際、時空アンカーとして働く一種のプログラムです。この後、転送試験を兼ねて、エルフィアの紋章を和人さんの元にお送りいたします。それが完了すれば、もう・・・」


ユティスの後の言葉は消えていった。


「リーエス・・・。ユティス、待ちきれないよ・・・」

「もう少しですわ・・・」

「うん・・・」

「それに、スーパーノバの件は、エルドに既に届いています。わたくしたちの会話をモニターしてもらってますの」

「ありがとう、ユティス!」

二人はほっとした。


ふぁん、ふぁん、ふぁん。


その時だった。システムの警告音が短く三度鳴り響いた。


ぐら・・・っ。


「だめぇーーー!」

ユティスが叫んだ。


ゆらーーーっ。

「来るわよ!」


ゆら、ゆらーーーっ。

「今度のは強いわ!」


ぐら、ぐら、ぐらーーーっ。

突然、ユティスの像がゆがみ、ユティスが和人の視界から消えそうになった。


ぐらっ。

ぎゅわーーーん。


「和人さぁーーーん!」


ばちっ!


両手を差し出して、和人に飛び込んできそうなイメージを最後に、ユティスは完全に消えた。


「和人さぁーーーん・・・」


ユティスの叫びが和人の脳裏でこだまし、交信は完全に途絶えてしまった。


しーーーん・・・。


「ユティス・・・?」


ぼけぇーーー。


和人はしばらくぼうっとしたが、間一髪で、地球の未来を託すことと、永久にユティスに会えなくなるところだったことを理解し身震いした。


はっ!


「オレ、肝心な時に風邪なんかひいて、薬で意識朦朧になって、ユティスの必死の呼びかけにも気づかないなんて、なんて大バカ野郎なんだ・・・。地球と、そして・・・、一番大切な女性を失うところだった・・・」


和人は気づいた。彼にとって、地球の未来より、ユティスの方が遥かに大切だったのだ。


「ユティス、本当にありがとう・・・」




ばたん・・・。

「ユティス!」


アンニフィルドは、張り詰めていた緊張から解かれ、気を失い倒れたユティスを抱き起こした。


「あ、アンニフィルド・・・?」

「大丈夫、ユティス・・・?」

「アンニフィルド、クリステア・・・」

「ユティス、よくやったわ。やったのよ!」

「リーエス・・・」


ぶる、ぶるっ。

ユティスはアンニフィルの腕の中で震えた。


「もう心配ないわ。後は、早急にメローズと専門家が地図を分析するだけ。和人のいる地球を救えるわ。そして・・・、和人のもとに行けるのよ・・・」

「リーエス・・・」


「クリステアは?」

「たった今、エルドに報告と、メローズの途中経過を確認しに行ったわ」

「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)、お二人とも。わたくしの命の恩人です」

「大げさねぇ・・・」

「ナナン。なんとお礼を言えばいいのか・・・」

「それには及ばないわ」

「でも・・・」


「状況を打開したのは、ユティス、あなたと和人の想い、それと二人の祈りよ・・・」

「アンニフィルド・・・」


「あなたには絶対幸せになってもらいたいの」

「アンニフィルド・・・」


「あは。ユティス・・・。そういえば・・・」

「なんでしょうか?」

「みんな聞いたわよ。今度はしっかりね。あなた、無意識で女神さま宣誓の応えの言葉を口にしたこと。和人も言ったわよね・・・」

「リーエス・・・」


「でも、またまた、ステップ無視。2度目ね。今度はご両人ともルール違反。もう、いまさら驚かないけど、宣誓、本当にするしか道はなくなったわ。しかも、時間を開けすぎちゃだめ・・・」

「リーエス」


「本人の実体同士でないと宣誓は有効にならないわよ」

「地球でってことですね?」

「ええ、そういうことになるわ。でなきゃ、ここ・・・」

「エルフィア・・・、ですか?」

「リーエス。和人を転送できればね。とにかく、絶対に会わなくちゃ・・・。ね?」


にっこり。

「あは・・・」

アンニフィルドは笑みをこぼした。


「リーエス」

ユティスは涙をぬぐって笑顔になった。




「クリステア。スーパーノバの話は聞いたぞ」

「リーエス、エルド」


「これで、なにがなんでも地球の座標を割り出し、それをロックしなければならなくなった。地球周辺の時空を曲げること自体は、さほど難しくはない。問題は、それをしなければならない、時空座標の特定だ」


「リーエス」

「残りの時間は?」

「現地時間で70時間を切っています」

「ほとんどないな・・・」

「リーエス」


「システムと人員を総動員しよう。なんとしても地球を守るんだ」

「リーエス」

「メローズ!大至急、和人から得たデータの解析を」

「リーエス」



エルフィアと地球で、お互いの座標探しが始まった。和人はエルフィアの座標データを国分寺に相談し、国分寺は直ちに大田原と連絡を取った。


「そうか。やったか!エルフィアとのコンタクトに成功したか!」

大田原の報告を聞いて、藤岡首相は手放しで大喜びした。


「だが、間に合うだろうか?」

「なにがです?」

首相の秘書が心配そうに言った。


「エルフィアが地球を探し出せるかです。そして時間内に地球周辺の時空を屈折させることができるか・・・」

藤岡は大田原を振り返った。


「大田原さん。頼むから、できんとは言わんでくれよ」


にこにこ。

藤岡の言葉に大田原は微笑んだ。


「首相、われわれはできることはすべてやったんです。後は腹をくくって、エルフィアを信じて・・・、待ちましょうぞ!」


大田原は真顔に戻った。

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