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097 閉鎖

■閉鎖■




るるるーーー。

「大田原だが、宇都宮和人くんかね?」

和人のスマホに大田原から直接連絡が入った。


「ええ」

和人は驚いたが大田原の話にさらにキモを潰した。


「手短に話そう。地球の危機なんだよ。アルファ星という星は知ってるね?」

「ええ。真っ赤な超巨星ということなら」

「結構。そのアルファ星は、今まさに、その生涯を閉じようとしている。超新星となって、すべてのエネルギーを放出するんだ。そのエネルギー本流が地球に迫っている」


「本当ですか?」


「残念ながら本当だ。その放射線を浴びれば、地球のオゾン層や磁場は消し飛んでしまう。そうなると、宇宙から注ぐ紫外線や有害な放射線は、直接地上に降り注ぐことになる。これがどういうことかわかるかね?」

「はい。地球上の生物は死に絶えてしまいます」


「最悪そうなる。そうならなくとも遺伝子に影響を与え、将来的に、悲惨な結果をもたらすことになる」

「はい」

「地球人類にはそれを防ぐ手段はないんだ」

「じゃあ、いったいどうすると・・・?」


「エルフィアの助けが、今すぐ必要だ。あと72時間あるかないかだ」

「そんなに短い時間しか残ってないですか?」

「そういうことだ。これを防ぐ方法は、地球周辺の時空の屈折率を大幅に上げそれを逸らすしかない。できるのはエルフィアだけだ。なんとしても、きみの知り合いのユティスに連絡をしてくれんかね?」


「大田原さん!」

「頼んだぞ、和人!」

「はい!」


(とはいえ、すぐに時空の状態が回復するのだろうか)




首相官邸の特別室には極秘会議が開かれようとしていた。


「プロジェクトメンバーに集まってもらったのは、重大な政府間決定事項を共有するためです」

高根沢教授は、深夜の会議室に集まった約10人のメンバーに語りかけた。


「政府間決定と言うと?」

「当然、合衆国でしょうな?」

「アルファ星に関することですか?」


「左様、みなさん。アルファ星のガンマ線バースト(GBR)が地球を直撃することはほぼありえないでしょう。しかし、それでもなお、640光年という距離は近すぎます。地球の磁場とオゾン層は、相当なダメージを受けることが予想されるわけです」

高根沢は一同を見回した。


「どのくらい?」

「エネルギーの本流がまともに来たら、マイナス12等星以上の可視光線に加え、目には見えない紫外線や有害放射線が多量に地球に降り注ぎます。地磁気とオゾン層は相当破壊されるでしょう・・・」


「そんなことが・・・、なんという・・・」


「オゾン層と磁場が破壊されると、太陽の紫外線Bだけでなく、降り注ぐ宇宙放射線で、深海生物以外、地球上の生命体はすべからく影響を受けます」

「それって、死滅ということですか?」


「即死という事態にはならないでしょうが・・・、命に関わるくらいに、DNAが破壊される可能性は、十分にあります」

「のっぴきならない状況ですな」


「それを防ぐ手立てはないのですか?」

「あります」

高根沢博士は一同を見回してゆっくりと続けた。


「援助を求めるのです。そのために、政府はある機関にSOSを発しました」

「ある機関に援助?」

「国連か?」

「合衆国ですな?」

「いくら合衆国といえども、まさかそんなテクノロジーは・・・」


「博士、SOSをある機関と言われましたが、いったいどこに?」

「まさか、国際救助少女隊なんて、マンガのような話を持ち出すんじゃないでしょうね?」

「そうだとも。そんな、科学力のある一機関が、どこにあると言うのかね?」

「信じられん」

各々が勝手に言い合いはじめたので、高根沢博士は静まるまでまた時間を置いた。


「そのために、みなさんに召集をかけました」

「われわれが?」

「なにしろと?」


にこっ。

高根沢博士は微笑むと一人頷いた。


「地球外生命体。超高度文明。ヒューマノイド。といえばおわかりですか?」

「・・・」

「・・・」


ぴしゃぁーーーん。

一同はその場で固まった。


「そこには、星々の文明を見守っている機関があります」


「は・・・」

「わはは・・・」

「ETI・・・?」

「本気で言っているんですか?」

「ええ。わたしは、いたって本気ですよ」

温厚な高根沢がにこりともしなかった。


「ははは・・・」

「し、信じられませんが・・・」

「もしかして・・・」

「それで、ある機関とは・・・」


「異星人の・・・」

「バカバカしい・・・」


「待ってください。博士の話を聞いてみようではありませんか」

「そうです」

「賛成します」

高根沢教授はゆっくりと真面目な顔で話し始めた。


「左様。その異星人の世界は、エルフィアといいます。少なくとも、地球から何千万光年も先の天の川銀河とは別の銀河にあります。偶然にも、一人の日本人の若者が彼らとコンタクトに成功しました。宇都宮和人、その人です。エルフィアは、全宇宙に平和的な文明促進支援を無償で行っている世界です。そこに、宇都宮和人を通して、援助を求めたい・。時間はありません。選択肢もありません・・・」


高根沢博士の話に一同は、真っ二つにわかれた。


「はは・・・」

「ありえん」

「馬鹿馬鹿しい・・・」

「まるで夢物語ですな・・・」

高根沢は真面目に続けた。


「わたしには、みなさんと議論している時間がありません。一方的になることは、この場を借りて、お詫び申しあげます。とにかく、まずは話をお聞き願いたいのですが・・・」


「突然、そのような夢物語をおっしゃられても・・・」

「ねぇ?」

「わたしは、いたって正気ですよ」


「確かにだれかのように深酒をされてるわけでもない」

K大の教授がにやりとして、W大の教授に目配せした。


「な、なんですか、失礼な!」

「まぁ、まぁ。最後まで、お聞きしましょう」

すぐに一人が日頃から仲の悪い二人をなだめた。


「皆さん、ありがとうございます。なにせ時間が迫っています」

「高根沢博士、どうぞ、お続けください」


「どうも。では、続けます。彼らは、高次元を利用した通信、移動を、何万年も前に既に確立しています。現在、宇都宮和人だけが、彼らと超時空通信で彼らと接触できます」


「超時空通信とは?いったい、どうやって?」

「この際、技術的な説明は省略いたします。藤岡首相が、昨日、大田原さんを通じて、宇都宮和人よりエルフィアに地球の窮状を訴え、救済を依頼するよう託しました」


「藤岡首相・・・?首相が、そこまで、決心されたというのですか?」

「はい。地球上のどんな国であろうと、回避できるテクノロジーは持っていません」


「そんなことが、本当に可能なのですか?」

その質問には大田原が答えた。


「可能です。今の物理学でも理論上は造作もありません」

「しかし、理論はともかく、現実に・・・」


「みなさん、人間は、創造できることや、知っていることしか、実現できないんです。逆に言えば・・・」

「想像できることは、実現できると?」

「そのとおりです。他に、いい知恵があるのでしたら、ここでお聞きします。ただし、代替案のない単なる批判はお受けいたしかねます。どうですかな?」

一同は高根沢博士の提案に黙りこくった。


「それで、この極秘プロジェクトのメンバーに、なにをしろと?」

「みなさんにお集まりいただいたのは、アルファ星の超新星爆発エネルギーを逸らすことができる唯一の世界、エルフィアに、この地球の宇宙座標を伝える準備をすることです。エルフィアといえど、地球の宇宙座標がわからなければ手を打つことはできません」


「確かに」

「ということは、エルフィアは地球がどこにあるのか知らないと言うんですか?」

「そのとおりです。われわれもエルフィアがどこにあるのか知りません。彼らには、どうしても、宇宙における地球の座標を知ってもらう必要があります」

「でないと・・・」

「地球の運命は決まってしまいます」


「なぜ、その宇都宮とかいう男は、エルフィアと通信できるのかね?」

「詳細は不明です。それに、説明している余裕はありません」


「了解しました。高根沢博士、先を続けてください」

「ご協力感謝します。地球とエルフィアは、気まぐれな時空の一時的な状態で、偶然コンタクトが取れているにすぎません。この状態は、いつ壊れるかもしれないのです。もしかしたら、アルファ星の超新星爆発のエネルギー波が、影響するかもしれません・・・」

「そうなると、エルフィアとコンタクトが取れなくなる可能性を否定できませんな?」

「左様」




その夜、和人もユティスに必死で連絡をとろうとしていた。


(地球がえらいことになるっていうのに。ちくしょう。風邪薬なんか飲むんじゃなかった)


ちくり。

和人は眠気に襲われる度自分の体をつねった。


じゃぶじゃぶ・・・。

ごくごく・・・。

顔を洗い缶コーヒーをがぶ飲みした。


(くっそう、絶対にユティスに連絡を取るぞ!)


しかし時空の状態はいっこうに良くならなかった。


「ユティス!ユティス!頼むよ。応えてくれぇ!」

和人は必死でユティスを呼んでいた。


「ユティス・・・」


かくっ。

しかし、風邪薬は体力を消耗した和人を、容赦なく眠りに誘った。


こっくり・・・。

すとん・・・。


そして、ふと目をつむった瞬間、和人は一瞬で意識を失うように眠りの世界に堕ちていった。




ユティスのコンタクトは、薬で眠りに落ちる和人にはなかなか伝わらなかった。とうとう今晩は期限の夜だった。それも残り1時間を切っていた。


「和人さん、和人さん!」

ユティスは必死に呼びかけた。


「今日が最後の日・・・」

今は通信状態が少し回復していた。


「ああ、1時間を切ってしまいましたわ!」

ユティスは悲痛な思いで和人を呼び続けた。


「和人さん!」

「・・・」

しかし、和人は風邪薬の影響で完璧に寝入っていた。


「だめ。だめです!」

「ユティス、止めちゃだめ。続けなさい!」

ユティスを見守るクリステアが喝を入れた。


しかし、和人からの応答はなく、ユティスは胸が張り裂けそうだった。


「和人さん。お願い!時間がもうありません。お応えください!和人さん!わたくしの愛しい方。オーレリ・デュール・ディユ・アルトゥーユ(わたくしの神さま)!」


ぽろぽろ・・・。


「和人さん、うう・・・」

ユティスの目から止めどない涙があふれ続けた。声が震え、言葉にならなかった。


「うう・・・」

それはついに嗚咽に変わった。


「ユティス、続けて!」


ちゅ。

クリステアはユティスの両肩に手を置いて頬にキスした。


「うう、うう。和人さん・・・。お応えください・・・」

ついに時空閉鎖残り30分前になった。


「うう・・・」

ユティスは泣き声に変わっていた。


「ううう・・・。和人さん・・・」

もう、ユティスは和人の名前を繰り返し呼ぶだけになっていた。


「和人さん!和人さん!ああぁ・・・!」


ぽたぽたぽた・・・。

ユティスは、止めどなく流れる涙を拭くのも忘れて、和人の名を呼んだ。アンニフィルドも和人を呼んだ。


「こら、和人!和人ってば!応えなさい、和人!ユティスに応えなさい!」


予測時間の20分を切った。


「ああ!だめ、だめですわ!和人さん!」

「諦めないで!」

クリステアはさらに大きな声を出した。


「ユティス、諦めちゃ、ダメ!」


ぶるぶるっ。

ぎゅうっ。

アンニフィルドは震えるユティスを抱きしめた。


「だめです・・・。わたくし、和人さんの意識がつかめません・・・」


「和人!」

ハイパー通信で和人にアクセスできるアンニフィルドも、一緒に叫んだ。


「あいつ、熟睡しているか、気を失っているかだわ・・・」

クリステアは天を仰いだ。


「ユティス、とにかく時空は閉じてないわ。呼びかけを諦めちゃだめ!」


ぎゅぎゅっ。

アンニフィルドはユティスの手を強く握って励ました。


「和人さん!」


ふぁーん。ふぁーん。ふぁーん。


「警告。緊急事態。通信中の時空に異常発生。コンタクト中のエージェントは、至急、通信を終えるように。警告。緊急事態・・・」


システムが時空の閉じる警告を続けざまに発した。


「ユティス!時間がないわ!」


クリステアは部屋の空気の微妙な揺らぎを感じ、警告を発するシステムを確認した。


「だめーーー」

「ユティス、続けなさい!」

「和人さん!和人さん!」

「和人の大バカ野郎!応えなさいってば!」

アンニフィルドが叫んだ。


「もう一度!もう一度!」


ぐらーーーっ。

5分を切り時空が大きく揺らいだ。


ふぁーん、ふぁーん。


「警告。緊急事態。通信中のエージェントは、30秒以内に通信を終えるように・・・」

「だめ、警告音が、どんどん高くなっていくわ!」


ふぁーーーん。ふぁーーーん。ふぁーーーん。


「和人!和人!聞こえるなら、さっさと返事をしなさい!」

クリステアも懸命にカズトに呼びかけた。


ふぁーん、ふぁーん、ふぁーん・・・。

ふぁん、ふぁん、ふぁん・・・。

ふぁ、ふぁ、ふぁ、ふぁ・・・。


時空が閉じる際のシステムの警告音を急激に高くしていき、あたりに鳴り響かせた。


「緊急事態。超時空通信を強制終了します。すべてのエージェントの通信を終了させます。警告・・・」


「あーーー、いけませーーーんっ!」


ユティスは両手を前に差し出し和人を呼んだ。


「時空閉鎖、秒読み。10、9、8、7・・・」


システムの冷静な声が辺りにこだました。


「和人さぁーん!和人さぁーん・・・!」


ばちっ!

なんの前触れもなく、大きな音を立ててユティスと地球を繋いでいた時空が、いきなり閉じ、静寂が訪れた。


しーーーん・・・。


「あーーーっ!」

突然、ユティスが叫び声を上げ、膝から崩れるようにして倒れていった。


がたっ。

どさっ。


「ユティス!ユティス!」


ばさっ。

ぎゅうっ。


アンニフィルドは、ユティスが床に着く寸前に受け止めると、抱きしめた。


「和人さん!和人さん!」


ユティスはもう二度と和人に会えないこと、コンタクトすら取れないかもしれないと悟った。


「もう、二度と・・・和人さんと・・・」


ぽた、ぽた、ぽた・・・。

ユティスのアメジスト色の目から悲しみ色の涙がこぼれてきた。


「う・・・」


ユティスは声を押し殺して泣いた。


「ばかなこと言わないで!ユティス!」


ぽたり、ぽたり。

アンニフィルドは自分も涙が止まらなくなっていた。


ぎゅ、ぎゅぅ・・・。

アンニフィルドは、腕にさらに力を込めて、ユティスを抱きしめた。


ぽたり、ぽたり・・・。


「ユティス!」

クリステアはユティスが可哀相で、それ以上声をかけるこもできなかった。


がくがくがく・・・。


ユティスは全身の力が抜け落ち、完全に打ちのめされていた。


「・・・」


もう、一言も発することなく泣き続けた。


「うう・・・」


ひくひくひく・・・。

ぽたぽたぽた・・・。


アンニフィルドもクリステアも、ユティスを抱きしめるだけだった。

ぎゅぅ・・・。




「高根沢博士、ちょっと・・・」


官邸での極秘会議の中、博士の助手がなにやら耳打ちし、高根沢博士は顔を曇らせた。


「どうか、しましたか?」


高根沢は沈痛な面持ちで、一同を見つめた。


「みなさん、悪いお知らせです。時空の状態が変わってしまいました」

「エルフィアとのコンタクトが、取れなくなったと言うんですね・・・?」

「お察しのとおりです。宇都宮和人が、エルフィアとコンタクト中に、超時空通信が切れました。恐らく超新星爆発のエネルギー本流が、時空の状態を変えたのだと思われます」

「大変だ・・・」

「どうなるんですか・・・?」


極秘会議のメンバーは、高根沢博士の言葉を待った。

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