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096 K社

■K社■




セレアムの事務所で真紀は石橋に頷いた。


「いいわよ。いってらっしゃい、K社に」

「K社に・・・ですよね・・・」


ぽっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「うふふ。届け物があるんでしょ?」

「はい。ありがとうございます。真紀さん」

石橋はさっと自分のバッグを持つと、ドアに向かって足早に去っていった。


ぺこり。

「出かけてきまぁす」

石橋はドアから出る前にみんなに向いて礼をした。


「いってらっしゃぁーーーい」

一斉にコーラスが起きた。




そんな石橋を見ながら、俊介は真紀にぼやいた。


「姉貴、石橋のやつを和人の元に行かせるのはいいんだけどさぁ、ユティスと鉢合わせになったらどうするつもりだ?」

「和人に答えを出させるのよ」

「そんなこと、わかりきってるじゃないか・・・」


こんこん・・・。

俊介は不満げに机を小突いた。


「あいつは両天秤なんかできるような器用な男じゃないからなぁ、オレみたく・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---




夕方、昨晩に続いて石橋が和人を訪れた。


ぴんぽーん。

「はい、どうぞ」

かちゃ。

和人は熱も引き、身体はまだ少しふらついたが頭はすっきりしていた。


「和人さん・・・」

「石橋さん、今日も来てくれたんですか・・・?」

和人が時計を見ると、まだ5時になってなかった。


石橋ははにかみながら微笑んだ。

「は、はい。和人さんのことが心配で・・・。そしたら、真紀さんがK社に早く行かないとって・・・」


かぁ・・・。

石橋は頬を染めた。


「K社?」

「はい・・・。U社とも言うんです・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


さすがに、それで和人にもわかった。


「それで、オレんちですか?」

「はい。お届け物です」


(ええ・・・?まさか、石橋さん自分だなんて言わないよなぁ・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「なにか、和人さんが元気になるお料理を作りに来たんです」

「料理ですか・・・」


ほ・・・。

とりあえず、和人は安堵したが、石橋が二日連続で来たのに驚いていた。


「あ、そこじゃなんなんで、上がってください。昨日のまま片付けてないんですが。すいません・・・」


「ううん。気にしてません。そのために来たんですから・・・」

石橋は今晩は躊躇うことなく、靴を脱いで上がった。


さささっ。

石橋は後ろを向いて靴を揃えたが、その屈んだ後姿は石橋の女の子らしい身体の線を強調していた。


(石橋さん、可愛い・・・)

和人は素直にそう思った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「真紀社長が、和人さん、そろそろちゃんと栄養ある食事を取らなきゃって・・・」

石橋が和人を振り向いた。


「あ、はい・・・」

和人は、石橋の後姿に見とれていたことを、悟られまいとした。


「あの、なにかついてますか?」

「い、いえ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


和人は、石橋が手にしているスーパーの半透明パケットを見た。


「スーパーに行ったんですか?」

「あ、は・・・はい・・・」


石橋は和人に夕食を作りに来たといって、スーパーのパケットを下げて、台所に行った。


「ごめん、オレ、パジャマ姿だし、ここんとこ風呂にも入ってないから・・・」

「それなら、気になんかしてません・・・」


「あの、石橋さん・・・」

「なにも聞かないで、和人さん・・・。それでなくてもとっても勇気がいったんだから。あんまり質問されるとお料理・・・、できなくなっちゃう」

「ごめんなさい・・・」

「いいの。じゃ、あったかいもの作るわね。お布団の中からテレビでも見ててください」

「うん・・・」


石橋はさっそくエプロンを巻いてキッチンに立った。


「消化のいいものっていうとやっぱりお雑炊かしら。和人さん、ここんとこ、あんまり食べてないんでしょ?」

「うん、カップ麺くらいかな・・・」

「だめよ、そんなのばかりじゃ」


石橋はそう言うと、カニ雑炊を作り始めた。


とんとんとん・・・。

(なんか、妙に似合ってる、石橋さん・・・)


和人は石橋の後姿を見てふと思った。




足利道場ではイザベルの時間帯の女子部が始まろうとしていた。


「おう、喜連川」

「おす、師範」

イザベルはきりりとした十字を切って師範に答えた。


「実は、本部から足技やら型やらの教本ビデオを撮るとかいう話があってな・・・」

「おす」

「おまえの名前が上がったんだが、やってくれんか・・・?」

「おす。わたしがモデルを?」

「ああ。特に上段回し蹴りは、各道場の師範らのお墨付きでな」

「おす。でもいいんですか、女のわたしで・・・?しかも・・・」


イザベルは母親がフランス人で、いかにもハーフというような顔立ちだったので、日本の伝統のカラテの本部が作る教本ビデオのモデルになるにはどうかと思い、遠慮していた。


「だめか・・・」

「おす。そういうわけじゃないんですけど・・・」

「そっかぁ・・・。いい宣伝になるんだがなぁ・・・」


(入門者は増えるし・・・。むふ。オレも1本無償配布版もらえるし・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「おす。考えさせてください」

「おう。いい返事を待ってるぞ」

「おす」

「オレは、本部出かけてくる。稽古が終わるまでには戻るんで、後はよろしく頼む」

「おす」


「では、みなさん、第二部始めまぁす。集まってください」

「おす」

「おす」


どたどた・・・。

ささっ。


イザベルの指導で女子部の稽古が始まった。




「うーーーん。女子部は5時に始まって6時に終わって・・・、着替えとか入れて6時半か・・・。やっぱり、30分・・・。とすると、オレは・・・」


ぶつぶつ・・・。


「こら、二宮、なにを一人で言ってる」

「常務、それで今日の飲み、やっぱりパスでいいすっか?」

「ええ?二宮が飲みをパス・・・。オレの聞き違いかなぁ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「聞き違いでもなんでもいいんですが、今日はパスです。じゃ」

二宮は俊介の言葉を軽く無視した。


--- ^_^ わっはっは! ---


すこ。

二宮は椅子を前に戻すと、事務所を後にした。


「お先でぇす」

「お疲れさまです」




石橋の作ったカニ雑炊は、薬味のハーブがいい香りを出していた。


「はい、召し上がれ」

石橋はにっこり笑うと、和人にカニ雑炊を差し出した。


(石橋さん、やっぱり可愛いよ。笑顔がすごくいい)


和人は、にっこり笑顔になった。


「あっ・・・」

ぽっ。

和人に見つめられ石橋は赤くなって視線をはずした。


「熱いから、フーフーしてね」

石橋はそう言うと口を細くし吹くマネをした。


どき・・・。

和人はそれが妙にセクシーに思えた。


「うん・・・」

和人は言われるままにカニ雑炊を口にした。


「あの、お手伝いしますか・・・。ふぅふぅって・・・」

石橋は和人に少し寄ってきた。


「うん。大丈夫ですよ、一人でできます」

「どうですか?」

石橋は心配そうにきいてきた。


「おいしい。本当においしいですよ」

和人は本当にそう思った。


「石橋さん、料理、上手なんですね。ありがとうございます」

「う、嬉しいです。もし、和人さんが本当そう思ってくれるんだったら・・・」

「本心ですよ・・・」

「本当にそう?」


「うん・・・。本当にそうだったら・・・?」

「旦那さんになる男性は、幸せになるかなぁって・・・」

「え?」


かぁ・・・。


(しまったぁ・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「あ、どうしたんですか?」

和人はすぐに話題を変えることにした。


「知らない・・・」

もじもじ・・・。


「ははは・・・。石橋さんは夕食どうするんですか?」

「わたしはいいの。うちに帰ってから食べますから。今はそんなにお腹空いてないし、和人さんが食べてくれれば、それでいいの・・・」

「そ、そう・・・」


じぃ・・・。

石橋は和人を見つめた。


(和人さん、やっぱりまつ毛長い・・・)


石橋の視線を感じて和人はドギマギした。


(石橋さんって、こうして間近で見ると、ずいぶんと可愛いよな。ユティスとはまた違った可愛いさがあるよ・・・。あ、石橋さん、メイクしてる)


和人は、石橋の唇の控えめな口紅に気づいた。目にも。ツメにも淡いピンクのマニキュアをしていた。今日の石橋は普段の何倍もキレイだし、女を意識させた。




石橋は真紀の言葉を思い出した。


「和人ねぇ・・・。ああいうのは、全部自分でやっちゃいそうだわ。でも、今は風邪で療養中だから雑炊でも作ってあげれば。どうせ、和人のことだから、カップ麺くらいしか食べてないわよ。雑炊だって立派な料理なんだから。自信を持ちなさい。それに、ハーブなんか添えればオリジナリティも出るし、香りもいいし。それにね、いい香りってのは、石橋・・・」


「はい、なんでしょうか?」

「人間の感情を揺さぶるのよ」

「感情ですか?」

「そうよ。好きな香りには安らぐでしょ」

「は、はい」


「人間はね。感情の動物なの。感情を大切にしてあげれば得点高いわよぉ!」

「はい・・・」

「ただし、やりすぎないこと。ほんの少し香るくらいが最高なの。その人の60センチくらいに来てはじめてわかるくらいにね」


「60センチ・・・ですか?」


「そう。60センチってのは、相当仲良しじゃないと入れないゾーンよ。人間、自分の1メートル以内に近づこうとすると厳戒態勢に入るわ。そこを突破できるか否かが重要ね。もし、あなたが和人の60センチ以内に入れないなら、まだまだ仲良くなってないってこと。努力が必要だわ。それから、真正面から近づいたら、だめよ。それは対決を意味するから。斜め横から、そして自然に横へ移動するのがいいわ。横というのは、最も信頼する人しか位置できないところよ」


「はい」




「あ、和人さん、ゴミ落っこちてる・・・」

「う、うん」

石橋は和人のすぐ横に移動し小さな紙切れを拾いあげた。


(チャンスよ、可憐・・・!)


--- ^_^ わっはっは! ---


「はい」


ほわっ・・・。

和人は、ほんのり香る石橋の香水に気がついた。植物系の上品な甘い香りが、和人の鼻腔を心地よくくすぐった。


(ああ、いい香り・・・。あれ、オレなんだか・・・)

和人の胸がドキドキしてきた。


「和人さん・・・」

石橋は和人の20センチ横にいた。石橋の頬は赤くなり、目が心なしか潤んでいる。


ゆらゆら・・・。

ほわぁん。

石橋の髪が揺れるとシャンプーのいい香りがした。


(あれ、あれ・・・。もし、ここで石橋さんがオレに寄りかかってきたら・・・。オレ、やばい。とても拒否できる状況じゃないぞ)


ふぁーん、ふぁーん、ふぁーん!

和人の警戒警報が頭で鳴り響いた。


きゅ。

石橋は和人の腕を取り、自分の頭を和人の肩に預けた。


ぽん・・・。


「和人さん、わたし・・・」


(やば、やばい。なんだ、これ?ユティスがいるというのに、こんなことしていいのか。『据え膳食わぬは武士の恥』、なんて言ってる場合じゃないぞ・・・)


すとん・・・。

石橋は、和人の腕に抱きついたまま、体をあずけてきた。


ぽよぉん。

石橋の胸の膨らみが和人の腕に直に伝わってきた。


(わ、やば、やば、どうしよう)


石橋は和人に顔を近づけ静かに目を閉じた。


(あわわわ・・・。キッスのリクエスト!超やばいよぉ!)


石橋は両腕を和人に巻きつけ、完全に体を和人にあずけた。


「ああーっ!」

「うわぁ!」


どさっ。

和人はバランスをくずし二人は倒れこんだ。


「危ない!」

和人は倒れる前にとっさに石橋をかばい、彼女が上になるように抱きかかえた。


ぎゅっ。

ぴとっ。


そして、倒れこんだ和人の上には、石橋が和人の背中に両腕を回して、ぴったりと重なった。


(万事休す!)


ちゅ・・・。


二人は抱き合った形のまま、石橋の唇がしっかりと和人の唇に押し付けられた。


「・・・」

「・・・」


ぴんぽーーーん。


そのまま何秒か経ち、チャイムがなった。


(た、助かった!)


たちまち、石橋は和人から離れた。


「わ、わたし出ます」

「あ」




「世界経済新聞ですけど、新しくこっちに入られた方ですよね」

「あ、はい・・・」

「奥様ですか?」

「あ、いや、そのぉ・・・」

「いいですね、若くて、美しくて、可愛くて」

新聞勧誘は石橋の言葉を無視した。


「い、いえ、わたし・・・」

和人を振り返った石橋の頬は真っ赤だった。


「え・・・」

和人もとっさに言葉を返せなかった。


「奥さん、ご主人の出世のためですよ。1ヶ月試しに取りませんか?」

「け、けっこうです」

「1ヶ月、タダにしときますよ」

「いりません」


「そうですか。じゃ、これ置いときます。わたしからのお二人へのサービスです」


新聞屋は2枚映画の鑑賞券を置いていった。


(やれやれ、当座助かった。新聞屋さん、さまさまだけど、新聞取らされんのはごめんこうむりたい・・・)


「新聞屋さん・・・、でしたね」

石橋は言ったが、和人はキッスのことで、頭が真っ白だった。


「風邪、うつっちゃったかも・・・」


(あ、バカ、余計、意識するじゃないか・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


和人は自分の言葉を後悔した。


「いいの・・・。和人さんのなら、もらったって・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あ・・・」


なんとなく気まずい雰囲気の中、和人からこれ以上のアクションを期待するのは難しいとみて、石橋は靴をはいた。


「じゃ、わたし、そろそろ・・・」

「うん。あ、石橋さん、雑炊をありがとうございます。とっても美味しかったです。優しいんですね・・・」

「え、ええ。また・・・。和人さんがそう望むんであれば、いつだって・・・」

「石橋さん・・・」

「それじゃぁ・・・」


「帰り道、独りで大丈夫ですか?」

「はい。心配いりません」

にこっ。


「こんなんで、送って行けなくて、ごめんなさい・・・」

「いいの。和人さんは、風邪ですから・・・」

「おやすみなさい。石橋さん」


「あの・・・」

石橋は和人に振り向いた。


「あ、なんでしょうか?」

「あの、もしよろしければ・・・、わたし、和人さんのお体を拭いたり、その、和人さん、お一人ではなにかと不便だと・・・。看病・・・。お手伝いします」

「お手伝い・・・?」


「今日は、その、お家に帰らなくても、和人さんのおそばで、そのぉ、ずっと・・・」

「え?」

「だから・・・、そのぉ・・・」

「石橋さん・・・」


「・・・」

「・・・」

しばらく沈黙が続いた。


「あは。や、やっぱりいいですよね。変なこと言っちゃって、ごめんなさい。おやすみなさい、和人さん・・・」


ちゅ。

石橋は、そう言うと、和人の唇にさっとキッスしてドアを閉めた。


ばたんっ。

とんとん・・・。


石橋の足早に遠ざかる音がして、和人はすぐにドアを開けると、石橋を目で追った。


「石橋さん!」

和人の呼び声に、石橋は一瞬振り向きかけたが、そのまま闇に消えた。


「石橋さん・・・」

石橋の靴音が聞こえなくなるまで、和人は、動けなかった。


(オレ、石橋さんの気持ち、弄んだことになるんだろうか・・・)




「ふむむ・・・」

二宮は、いつものカラテのテーマ曲を鼻歌していた。


「今日は、イザベルちゃんに見事会えて、早朝ウォーキングの確約取れたし、気分がいいから和人のヤツを看てきてやるか。ありがたく思えよ、和人」


--- ^_^ わっはっは! ---


二宮は進路を和人のアパートに変更した。


(あそこを曲がれば、和人のうちだな・・・)


「あれ・・・?」

その時、二宮は暗がりに近づいてくる若い女性の人影を見つけた。


(こんな時間に、女一人で変な男に会いでもしたら危ないじゃないか・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


(あれ・・・。石橋かぁ・・・?)


かつかつ・・・。


二宮は石橋らしき姿を認めた。人影はうつむき加減に、足早に二宮の脇を素通りした。


(やっぱり、石橋だ!)


「石・・・」

二宮は声をかけようとしたが、石橋が肩を震わせているのに気づき、それを止めた。


(コイツ、どうしてここに・・・?そういえば、真紀さんが今日はK社に行くって言ってたが・・・。K社・・・?)


--- ^_^ わっはっは! ---


(なるほど。和人のところにいたのか・・・。そういうわけか・・・。こいつ、和人となんかあったな・・・)


石橋はそのまま二宮の視界から消えた。




ぴんぽーーーん。

ぴんぽーーーん。

ぴんぽーーーん。


「おい、和人。起きてるか?」

二宮は呼び鈴を押し続けた。


「待ってください・・・」

(こんなにひつこく押すのは、先輩かな?)


--- ^_^ わっはっは! ---


(今日は、なんでこんなに人が来るんだろう?)

和人は起き上がりドアを開けた。


ぬぼっ。

にっ。

二宮が笑った。


「よ、どうだ、調子は?」


(よ、よかった。石橋さんと一緒のところ、見られなくて・・・)


「おかげさまで、明日は出れそうかと」

「石橋に元気つけてもらったとか?」


(げ、げげげ・・・。先輩、なんか知ってるんだろうか?)


--- ^_^ わっはっは! ---


「な、なんですか、いきなり」


(どうして、わかるんだろう、先輩?)


「口紅・・・」

「えっ!」

「口紅・・・。おまえの口の周りにしっかりとついてる。・・・石橋だろ。会ったぞ、さっき。来てたんだろ、石橋・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


(しまった。拭き忘れちゃった。先輩知ってるんだ・・・)


和人は観念した。

「ええ・・・」


「ふーーーん」

二宮は和人を観察した。


「あ、雑炊。石橋に作ってもらったのか?」

「あ、まあ、そういうことになるかな・・・、なんて・・・」

「で、満腹になったところで、石橋と・・・」


「なんにもありませんってば」

「キッスされたってわけか?」

「これは、オレじゃなくて」

「わかってるって。むきになるなよ。けどな、あんまり、じゃけんにしちゃ、可哀相だぞ、和人」

「じゃけんだ、なんて・・・」


「あいつ、おまえに本気だからな」

「先輩・・・」

「泣いてた」

「え?」


「帰り道、石橋、泣いていた。声をかけれなかったぜ、あんまし深刻そうなんで」

「ホントですか?」


「ああ。まさか、手も握れないユティスに代えて、石橋を襲ったんじゃないだろうな?」

「いいえ、とんでもないです」


「じゃ、襲ってやらなかったからだな?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんなんですか、それ?」

「どっちにしろ、アイツ泣いてぞ。理由は?」

「わかりません・・・」


「ウソつけ、この女ったらしめ!」

「先輩!」


「わーってるって!オレはおまえを信じるがな。女に手を出す勇気なんてからっきしないって」

「先輩!」


「ははは!ユティスに遠慮したってのが真相だろ?」

「だから・・・」


「あーあ、説得力に欠けるな。さっさとティッシュで口紅拭いた方がいいぞ。次の訪問者が来る前にな」


「はい・・・」

「ほれ、鏡」

「あ・・・」

「さっさと、用件を済ますとするか。これ、常務から渡すよう言われたから、持って来てやった」


ぽい。

二宮は1枚のDVDを和人の目の前に差し出した。


「乙女座銀河クラスタ座標データベース。オレにはなんのことかさっぱりだが、わかるんだろ、おまえは?」

「ええ」


「じゃあな。今晩は全日本カラテ大会の女子の部が放映されるんだ」

「憧れのイザベルさんですか?」

「おっす。いいだろ?」

「なにがです?」


「ユティスも、スーパー可愛い娘ちゃんってことは認めてやるけど、なんしか精神体じゃなぁ。キッスはおろか、手を握ることだってできないじゃないか?」


「先輩は、イザベルさんと手を繋ぐことできたんすか?」

「お、鋭い突っ込み」

しかし今日の二宮には余裕があった。


「オレには可能性がある。おまえはゼロ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ほっといてください!」

「あした、会社来るんだろ?」

「その予定です」

「良く寝とけよ。ほんじゃあ」

「おやすみなさい」




一方、地球ではもう一方のスーパーノバ、アルファ星の兆候を各国が固唾を呑んでいた。


「首相、アルファ星が・・・」

「スパーノバ化したのか」

「いえ。しかし、あと何日も持つか。おそらく・・・」

「大至急、大田原に連絡しろ!エルフィアとのコンタクトはどうなっている!エータ星はラッキーに過ぎん。今度のアルファ星方が距離が10倍も近いんだぞ!」

「了解しております」


藤岡首相の怒号が官邸に響いた。

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