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095 星図

■星図■




ミラーグは、ティルバルディ司教から渡された、古文書の分析を急いでいた。


「ビヨルカ。どうだろう?」

「それが・・・」


「役に立たないのか?」

「逆です。大変な手がかりになるかもしれません」

ビヨルカは興奮を抑えるように言った。


「本当なのか?」

「リーエス。この抽象化された星図は、ディアテラから見た天球の赤道に位置する星々を表したものです。一つの星は、恐らくディアテラから見た時の見かけ上の明るさでしょう。一番大きいものがエルフィアでいう一等星だと思われます」

ビヨルカは古文書を見ながら話した。


「この星たちを繋ぐ腺はなんだろう?」

「それは、彼らが、自分たちにわかり易いように、いくつかの星をまとめたものでしょう」


「星座かな?」

「リーエス。ミラーグ、これをご覧ください」

ミラーグが指したものは川のように流れていた。


「真ん中に大きな川のようなものがあります」

「銀河を中から見た時の断面だな?」

「リーエス。この帯状の形は楕円銀河や不規則銀河ではありません。ところどころにあるくらい部分は暗黒星雲に違いありません」


「ということは・・・」

「明らかに渦状銀河です。それに、この大きさは相当なものです」


「どのくらい?」

「最低でも直径10万光年はあろうかと。断面からすると、ディアテラはこの銀河の中心から相当離れていますね」


「一方が厚く書かれているからな」

ミラーグは頷いた。


「リーエス。それが銀河の中心方向です。この割合で見ると、バルジの厚さは、中心部で2万光年以上あるでしょう。そして、ディアテラがある付近の厚さは、およそ2~3千光年というところでしょうか」

「エルフィア銀河に匹敵するな」


「リーエス。ディアテラの銀河内における位置は、少なくとも中心から2万光年以上離れているでしょう」


「高度文明生命が育まれるためには、銀河中心のコアの放射線域から十分に離れていなければならない。それくらいあれば十分だろう」


「リーエス。それにここです」

ビヨルカは星図に書き込まれた文字を指し示した。


「どれ?」

「星々にそれぞれ文字が書き込まれていますでしょう?」


「リーエス。だが、エルフィア文字ではない。なんだかわかるのか?」

「恐らく、ディアテラの数字をしょう。わたくしが数えたところ、10種類しかありません。10進法で表された数字と解釈するのが、一番納得できる回答です」

ビヨルカは論理的に話を進めた。


「それで、その数字はなにを表しているんだろう?」

「ディアテラから見た、それぞれの星の距離を示しているんではないでしょうか?」


「距離だって?」

「リーエス。もし、星の光度であれば、星自体の大きさを変えてありますから、わざわざ記入する必要はありません」


「なるほど。明るさは見かけだな・・・?」

「その通りです。それに、カッコで囲まれた文字は、ディテラから見た、その星の天球上での座標です」

ビヨルカは一つの星につき二つ数字が書き込まれていることを指摘した。


「明るさと距離がわかるのなら、それを三次元地図に置き換えることは可能かな?」

「すでに、試してあります。これです」


ぽわんっ。


ミラーグの前で空中にそれは浮かび上がった。


「ビヨルカ、それは・・・」

「リーエス。完璧ですね」


「ディアテラの銀河内の座標だ」

「しかし・・・」


「わかっている、肝心要の銀河が天の川銀河なのか、はたまた、いったいどこの銀河なのか、まったく不明というわけだな・・・」

「リーエス。おっしゃる通りです」


「どこかに、銀河座標の情報が隠されていないのか?」

ビヨルカは待ってましたとばかりに微笑んだ。


にっこり。


「それですが、これをご覧ください」

ビヨルカは、星図の一部を空中スクリーンに投影し、拡大表示した。


「楕円マークだ。星雲かな?」

「ナナン。ディアテラ銀河の系外銀河です」


「ディアテラ銀河から見える、別の銀河ということか?」

「リーエス。ほら。これです」

ビヨルカは一つの大きな楕円を指した。


「一つだけ、飛びぬけて大きいのがありますよね?」

「うむ。これか?」

「リーエス」


「腕のようなものも書かれている」

「リーエス。典型的な渦状銀河と思われます。というのは他は丸状だったり、不規則にかかれていますから」


「いろんな渦状銀河の形状から推測すると、この形状の銀河は直径が少なくとも10万光年以上、いや20万光年あるかもしれません」


「ということは・・・」

「この系外銀河は、ディアテラ銀河に、そうとう近くに存在するといえますね。近くて、200万光年、遠くても400万光年かそのくらいでしょう」


「では、何千万光年か離れて、二つを見ると、非常に隣り合わせに見えるとうことか」

「そうです。角度によっては、交じり合っているように、あるいは、いまにも衝突しそうな感じに・・・」


「ビヨルカ。他に系外銀河は、書き込まれてないのか?」

「ありますよ。ほら。ここにも」


「全部でいくつある?」

「数十というところでしょうか。あまり多くはないですね」


「もし、エルフィア銀河クラスタ内なら・・・」

「ここまで、少なくはないでしょう。エルフィア銀河クラスタには、銀河は大小合わせて、2000近くありますから」


「この大きいものは?」


「それは、不規則銀河です。ディアテラ銀河のすぐ側でこのように大きいのはごく近いところにあるからで、この大きさは見かけのものです。きっと、ディアテラ銀河に取り込まれそうになっている、伴銀河だからでしょう」


「その隣にも・・・。二つあるぞ」

「リーエス。ミラーグ。これらを三次元で示せば、ディアテラ銀河のごく近くではありますが、銀河地図になりえます」


「すごいぞ・・・!」


「だが、系外銀河の距離が書き込まれていないな・・・」

「この時代には計測手段がなかったからかもしれません」


「惜しいな。あと、もう一歩なのに・・・」

「ナナン。そう、悲観することもないと思います」


にこっ。

ビヨルカは微笑んだ。


「なにか、他に方法があるというのか?」

「リーエス。書き込まれている系外銀河が少ないということは、逆に、一つ一つの銀河が、10万光年近くある、そうとう大きなものだけだということです。少なく見積もっても、5万光年やそこらあるんではないかと思われます」


「確かに・・・」


「それに加え、銀河の形状まである程度わかっていますから、それから、銀河の大きさを推測すれば、ディアテラを中心に置いた時の見かけ上の明るさから、その距離を推測できます。それらを、プロットしさえすれば、後は銀河地図ができることになります」

ミラーグは自身ありげに言った。


「うーーーん。どれくらいかかりそうか」

「ほんの、1、2時間もあれば」

「早速、取り掛かろう。エルドには大きな借りがあるんだ」

「では、ミラーグ、あなたが直接報告をエルドに?」


「リーエス。頼むよ」

「もう一つあります」

「他に、なにか、わかることがあるのか?」


「先程、エルフィア銀河クラスタ内ではなさそうと申しあげましたが、クラスタの周辺域なら、このような小さな銀河団は存在するのではないかと?」

「そうか。まず、エルフィア銀河クラスタの周辺部の調査から進めるというんだな?」

「リーエス。推定値が多くなりますが、システムに範囲指定すれば、候補銀河はいくつかあがるでしょう」

「ビヨルカ。すぐに、解析結果をエルドに」

「リーエス。ミラーグ」




ピンポーン。


(まただ。3人目だ。だれだろう?)


がちゃ。

「お、まだ顔赤いな」

真紀社長に常務・・・」


「はい、これ」

真紀は水分補給用のイオン水を手渡した。


「ありがとうございます、真紀さん・・・」

「いいのよ。困ったときは、お互い様」

「あれ、ホットティー。どうしたのそのペットボトル?」

和人は無意識にペットボトルを左右の手に持ち替えていた。


「おまえ、その身体で自販機まで買いに行ったのか?」

真紀の知っていることを、俊介は知らなかった。


「え、いや・・・。もらいもんで・・・」

「にしては、妙にアツアツって感じだけど・・・?」

真紀が和人にウィンクした。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ついさっき、誰かに買ってもらったとか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


(鋭すぎる、真紀社長・・・)


「まさか、石橋ってわけじゃないわよね?」

真紀は石橋がちゃんと来たかどうか確かめようとした。


「あは・・・」


(げげ・・・。図星・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「じゃぁな!」

「えっ、もう帰るんですか?」

「悪い?」

「そ、そんなことはないですけど・・・」


「そんだけ元気なら大丈夫だ。オレたちも風邪はもらいたくないんでね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「は、はぁ・・・」


「お泊りかと思ったけど?」


ぱたん・・・。

真紀は俊介に目配せしドアを閉めた。




ここ3日、和人とユティスはコンタクトできていなかった。そして、コンタクトができる期限である3日目が来た。もし、時空の状態が最悪であれば、ユティスと和人が連絡が取れるのも今日限りなのである。それが過ぎれば、たとえ天の川銀河や太陽系の位置関係がわかったとしても、それを探し出し、転送位置アンカーを打つす時間が無くなってしまう。ユティスは気が気でなかった。和人はそんなことをまったく知らなかった。




「そうだ。『いいことだけ日記』ここんとこ書いてなかったっけ・・・」


和人はPCを立ち上げ、なにげなくブラウザを機動した。ポータルサイトのWebページを開けると、天文関係の記事が出ていた。


(おっ、超新星ってのは、ものすごいんだなぁ・・・)


和人は超新星爆発のものすごさとその時空への影響を知った。


(ふぅん。たった1年かそこらで、太陽の1億倍のエネルギーを放射するのか。こんなのが地球の近くに現われたら、地球上の生物は一瞬で焼き尽くされてしまうぞ・・・)


そして、和人はすっきりしない頭の片隅にあったことを思い出した。


(そんなエネルギーを受けたらどうなるんだろう・・・?)


突然、和人は、それがユティスとのコンタクトができない理由と関係があるかもしれない、と感じた。と同時に、天の川銀河や太陽系のことをユティスに教えることを思い出した。


(いけない・・・。天の川銀河の様子や太陽系の様子を、早くユティスに伝えなきゃ)


また和人は国分寺の言葉を思い出した。


(それに、今日あたり、T大学の高根沢博士からのメールが届いているはずだったぞ)


和人は、メールボックスを急いで覗き込んだ。


かち。


「高根沢博士から来てる・・・」

それには一つのファイルが添付されていた。


くりっ。

和人がそれを開けるとあるプログラムが走った。


「なにか始めたみたいだ・・・」

プログラムはネット経由で相当なデータをダウンロードし始めた。


しゃぁーーー。

かちかち・・・。

しーーー。


(あれ、終わんない・・・)


プログラムはデータをダウンロードし続けた。


「けっこう、あるぞ・・・」


しゃー・・・。

かちかち・・・。

しーーー。

ぽん。


「やっと終ったようだ」

結局、すべてのダウンロードが終わったのは、ダウロードを始めて40分後だった。


「よし、これか・・・?」

和人が、ボタンをクリックすると、データファイルをプログラムが自動で展開し、天の川銀河を中心にして、球状の超銀河地図を画面上に浮かび上がらせた。


ぶわん。

「やった・・・」


さぁーーー。

スケールは、直径1千万光年から3億光年まで無断階で伸ばしたり縮めたりできた。


「すごい・・・。宇宙って・・・、こんな風にできてたんだ・・・」


くりっ。


主だった銀河には、NGC番号やM番号IC番号等が付けられており、和人がそれをクリックすると、その銀河の立体イメージが極めて鮮明に拡大表現されていた。


ぶわん。


「うわぁ・・・。銀河だ・・・」


また、これらはある座標から見たときにどう見えるかの情報もあった。


「これ、視点を変えられるのか・・・?」


例えば、お隣のM31アンドロメダ大銀河から天の川銀河を見たら、どう見えるのかもわかった。


(そういえば、天の川銀河ってどんな姿をしているのだろう)

和人は視点をアンドロメダ大銀河の中心にして、天の川銀河を俯瞰してみた。


ぶわっ。


(あ、すごい。オレ、ぜんぜん知らなかった。天の川銀河ってこんなになっているのか)


天の川銀河は、中心に2万光年以上はあろうかという紡錘系のバルジを持った、棒渦状の大銀河だった。それがかなり斜めになっているにも関わらずよくわかった。


(ただの渦巻き銀河じゃないんだ)


バルジは、オレンジ色に輝く年老いた星が主な構成員だ。円盤状のディスクは若く青白い星がひしめき、大きな腕が2本それぞれ、ぐるーっと1周以上している。その周りには、少し小さめの淡い腕が数本巻いていた。また、腕には黒い影が無数にあり、これは暗黒星雲だった。


(なんて美しく神秘的なんだろう)


2つの大きな腕の間の小さな淡い腕のはずれには、63度の傾きで楕円があり、ソルと示されていた。


(わかった。これが太陽系なんだ)


「うぁお・・・」

和人はうなった。ちょうど棒状のバルジの方向から45度くらい離れている。


(太陽って、銀河の中心から2万6千光年離れてるっていうけど、こうして見ると、めちゃくちゃ端っこというわけでもないんだ。棒状のバルジが大きいだけに、以外に中心に近く感じるなぁ・・・)


くりっ。

試しに太陽系をクリックすると、おなじみの惑星系が出た。


くりっ。

地球をクリックすると、ため息がでるくらいに、青く美しい地球と灰色がかった白色の月が出た。月は衛星というより、どうみても地球とペアの連星に見えた。


(オレたち本当にすごいところに住んでいるんだ)


和人はあまりの現実離れしたスケールに我を忘れた。

「ふぅ・・・」


くりっ。


和人は、もう一度銀河系を俯瞰するスケールに移動した。今度は銀河系が真正面からキレイな円盤に見えるところに視点を移した。和人は、まったく任意にそこを選んだのだが、そこは、銀河系の北極に位置するところで、髪の毛座銀河団と乙女座銀河団があるところだった。


和人は真正面から銀河系を俯瞰した。さっきより、一層、銀河系が棒渦状銀河だということがわかる。


「はぁ・・・」


和人はあまりの美しさに、また、ため息をついた。


(これが、本当にオレたちの天の川銀河なんだ。なんて、きれいなんだろう・・・)


和人は、しっかり自分の脳裏に焼きつかせた。


(あれ、ここは、なんだかいっぱい銀河が集まってるような・・・)


和人は、次に乙女座座銀河団の方へ視点を移した。そこには大小何千という銀河が密集していた。その主だった銀河には番号が振られていて、それらはクリックすると詳細画像が展開した。それらの銀河のイメージはどれも美しく神秘的だった。


「エルフィア・・・。ユティス・・・」


和人は途方もない時空に胸が躍った。これらのどれかに、ユティスのいるエルフィアがあるのだと。


(これが、データベースだ・・・)


最後に、これら銀河の座標と大きさ、形状のデータだけを集めたデータベースを見た。


(なんとまぁ、ものすごい数なんだ。よくもまぁ、これだけの銀河をあの短期間にデータ化したよな。さすが天下のT大学の博士だ)


そして、エルフィアで天の川銀河の位置を探し易いように、半径1億光年の主だった銀河の地図データファルがあった。


(これだけあれば、エルフィアも天の川銀河を見つけ出せるんじゃないかな)


和人は、唯一の頼みであるエルフィアに思いを馳せた。




ミラーグの下では、ビヨルソンのディアテラの天体座標図の解析が続けられていた。


「ミラーグ、完了です」

「できたんだな?」

「リーエス」

「図にあるのは、ディアテラ銀河から3000万光年の範囲です」


「思ったより、少ないな」

「予想してはいましたが・・・」

「だが、なにもなかったことを思えば、素晴らしい進歩だ。感謝するよ、ビヨルカ」


「エルドに?」

「リーエス。一刻も早く報告しよう」

「探査の助言は、エルフィア銀河クラスタの端からです」

「リーエス。了解した」


地球かもしれないディアテラのある銀河がこうして確かめられることになった。

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