092 早起
「アンニフィルドよ。ええ、ええ・・・?超新星爆発が地球を襲うって冗談じゃなかったのぉ?地球を救ってくれったって、地球の座標すらわかんないのよぉ・・。どうやって、救うって言うのよぉ!なぁーーーんて、大騒ぎしてるようだけど、このお話し92話で終わりじゃないから、心配しなくていいわよぉ・・・。ええ?なんでそんなこと言うんだってぇ?あら、ごめんなさい!」
■早起■
ユティスが消えて地球では2日がたった。エータ星のエネルギー到達予定時刻まで後30時間足らずだった。
「高根沢博士の銀河地図と地球座標は?」
俊介が大田原に催促を入れた。
「まだだ」
「わかっている。博士も最優先でやっているところにハイパーノバの話だ。でも優先順位としては銀河地図が先だ。これがなければ、エルフィアといえども、なにもできん」
エルドは地球の座標を発見したというミラーグの元へやってきた。
「ミラーグ・・・」
「エルド・・・!」
「・・・」
「なぜ、直接、あなたが・・・」
「うむ・・・。報告の結果は、残念だが地球ではなかった、ということだ」
「そ、そうですか・・・」
ミラーグはエルドから目を逸らせた。
「全部知っているよ。わたしは・・・」
「もう、ばれちゃったんですね・・・」
「わたしの依頼に対し、委員会に知らせたのは、きみだろう?」
「・・・」
「よかろう。きみに責任を取れとは言わん。一つ教えてくれないか?」
ミラーグは観念した。
「手違いだったんです。候補の段階で報告がいってしまって。後で、ミスだったと報告し直せばいいと思っていたのですが・・・」
「それで?」
「それを利用しようとしたんです」
「きみがか?」
「とんでもない。それに・・・」
「まだあるのかね?」
「ユティスがあまりに喜んだんで、本当のことを言うことができなくなってしまったんです」
「それが、ストーリーだな?」
「リーエス・・・」
「どのように、でっちあげを?」
「地球に似た星をいくつか挙げて、もっともらしいのを委員会に知らせろと・・・。逆らうとここにはいれなくなる・・・」
「そいつは、そう言ったのだな?」
「はい」
「きみさえよければ、その情報と引き換えに真実を教えよう・・・」
「リーエス。あなたに従います。エルド」
「けっこう」
「ブレストです・・・」
「なるほど・・・。トルフォ派の筆頭か」
「・・・」
「ミラーグよく教えてくれた。感謝する」
「エルド・・・、わたしは・・・」
「まぁ、やってしまったことは仕方がない」
エルドはミラーグを見て、静かに言った。
「考えてくれたまえ。今、地球というカテゴリー2になったばかりの若い世界が、われわれの支援と庇護を望んでいる」
「庇護?」
「おや、知らんとでも?」
「なにがでしょうか、最高理事?」
「本当に知らないのか・・・?」
「なんのことか、さっぱり・・・」
「なんということだ。きみの情報が、どれだけわれわれを惑わし影響を与えたかを、知らんと言うのか?では、それをぜひとも知ってもらわねばならないようだな」
「すみません、エルド。いったい、どういうことで・・・?」
ミラーグは本当に知らなかった。
「ハイパーノバのエネルギー波から、どうしても守らねばならない世界がある。数十億という人間がそれを知らされてすらいない。きみならどうする?おっと、そこにきみの愛する恋人がいるということにしてみよう・・・」
「・・・」
「制限時間は数十時間。そうだった。その星は座標もよくわからない。恋人と連絡して座標を教えてもらわなければ、その世界を救うことは不可能だな。そして、きみの恋人も文明もろとも一瞬にして蒸発だ。燃えてる暇さえないぞ」
「・・・」
「しかも、コンタクトが取れ精神体を送れたのは、時空の偶然の結果で、いつその状態が崩れるやもしれん。頼りになるのはきみの恋人か教えてくれる銀河座標だけ・・・」
「エルド・・・」
「恋人にコンタクトできるのも、きみ一人だ・・・」
「それが、今、まさに起ころうとしていることなんですね・・・?」
ミラーグは悲痛な表情になった。
「時間がない」
「申し訳ありません。エルド、わたしは・・・」
「さて、ミラーグ。きみがすべきことはなにかな?適当な座標、正確な座標?」
「エルド、お止めください・・・」
「わたしはすぐにでも止めれるが、ハイパーノバは止められん」
「では、地球という惑星は・・・」
「ディアテラといういにしえの世界の座標を調べてくれたまえ。約12000年前に、エルフィアがコンタクトしていたところだ。詳細情報はエルフィア大教会で古文書をあたってもらっている」
「それが、地球だと・・・」
「わからん。しかし手がかりにはなろう。いにしえの文献から、ディアテラの座標に関するなんらかの情報が得られるかもしれん。それと、きみのところにある情報とを大至急比較して欲しい。なんでもいい。地球座標に関する情報がわかったら、直ちに報告してくれたまえ。いいかね。委員会ではなく、直接わたしにだ・・・」
「リーエス。でも、信じてくださるんですか、このわたしを・・・?」
「誰でも魔がさすことはある。今までのきみの言動がすべてウソだというのなら、他の誰かに頼んでもいいが・・・」
「いえ、わたしにやらせてください」
「けっこう。よろしくお願いする」
にこ。
エルドはミラーグを見つめるとゆっくりと微笑んだ。
「リーエス」
ミラーグも表情が柔らかくなった。
「ミラーグ、汝に、すべてを愛でる善なるものより、永久の幸があらんことを」
「エルド・・・。ア・リーエス」
T大に内閣顧問の大田原太郎が訪れていた。
「まったく、人使いの荒い方だ・・・」
にたにたしながら、高根沢博士は大田原と面会した。
「進捗具合はいかがですかな?」
「データのクレンジングが終了して、3D表示プロセスに入っているところです」
「では、座標データとしては完成しているとみて、よろしいか?」
「せっかちすぎですな。そんなに急ぐ理由でもおありで?」
「わたしの性格ということで」
「ご冗談を。政界一、気長で通っておられる方が」
「なるほど。で、そのわたしが、急いで欲しいと言っているとしたら・・・」
高根沢は大田原をじっと見つめて笑い出した。
「わははは。国家の一大事。いや、人類の一大事かと」
「正解です」
大田原は静かに言った。
「ええ?今、なんと・・・。大田原さん、正気ですか?」
「いかにも。いたって正気ですよ」
「うーん」
「ズバリ申しあげましょう。エータ星の超新星爆発のエネルギー本流を逸らすためです」
「はっはは。ハイパーノバの放射エネルギーをですか?またまたご冗談を。地球サイズの鏡を置けば、エネルギー派を反射できるなんて、真面目に言うんじゃないでしょうな?」
「その手がありましたか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ・・・、本気でお考えで・・・?」
「無論です」
「その、いくらエルフィアとて、そのようなことができるとはとても思えませんぞ・・・」
「オールトの雲の先で時空を曲げます。放射エネルギーの本流は時空に沿って曲がります。オールトの雲の先でエネルギー本流を逸らせねば、小惑星クラスの塊が、エネルギーを得て、太陽系の中心に向かって落下していくことになりますな」
「いかにも・・・、理屈はそうです。ですが、実行するとなると・・・」
高根沢博士はまじめな顔に戻った。
「地球に、直径10キロの塊の衝突を防ぐ手立てがありますかな。時空を曲げるという方法以外に・・・」
「時空を曲げるなどと本気で・・・」
「左様・・・」
「そのようなことは、銀河レベルの超重力を持ってこなければ・・・」
「いや、そんなことをしなくとも、高次元時空の利用で造作なくできますよ。ただ、その方法はエルフィアしか知りませんが・・・」
高根沢博士は穴が明くほど大田原を見つめた。
そして悟った。
「そのような知識を、いったいどこで・・・」
「故郷の学校です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「今はせんのですか、そういった講義は?」
「『今は』と言ったって、最先端の理論物理学の世界ですぞ。失礼ですが、大田原さん、あなたの学生時代には、まだ、そのような・・・」
「ふむ・・・」
大田原は平気な様子だった。
「大田原さん、あなたはいったいなにもので?」
「いたって普通の人間ですが、なんならDNA鑑定でも・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ご冗談を言っておられる場合ではないですぞ。まるで、あなたは地球人ではなく、あなたこそがエルフィア人のようだ・・・」
「そうかもしれませんな・・・」
大田原は微笑んだ。
「大至急、データをいただけますか?」
「も、もちろん。少々お待ちを。今サーバーから取り込みます。なぁに、10分くらいで済みます」
高根沢博士は表面上は落ち着いて見えたが、内心は大いに動揺していた。
「博士、感謝します」
「では、少しばかり失敬します」
高根沢博士は部屋を出て、助手に指示を出しに行った。
「どうしました、博士?」
助手は、驚きのあまりなにかを考えぼんやりしている高根沢を、いつもと違うと直感した。
「うむ。あの内閣顧問の大田原という人。彼は底知れぬ知恵と知識を持っている。このわたしでさえ、背筋が寒くなるくらい最新科学に精通している・・・」
「大田原さんがですか?」
「うむ。ただの政治家にはとても思えん。ひょっとして本当にエルフィア人とか、宇宙人だったりしてな・・・」
「あははは。時空を曲げるって、まっさか・・・。たかだか政府の1人間でしょ?」
高根沢教授の助手は一笑にふした。
「いやいや、あながち冗談とも思えんぞ。わたしにはわかる。あんなに自信を持って断言できるのは、それを実際にやってきた経験者だけだ・・・」
「博士・・・」
「彼は、実際、経験してるのかもしれん」
「経験・・・。なにをですか?」
「その答えに自分が納得できれば苦労はせんよ。あんまりバカバカしくて、考えるだけでひっくり返りそうだ。とにかくデータのコピーを大至急お願いしたいな」
「了解しました」
助手はそれ以上考えるのを止めて、サーバーからデータを吸い上げることに取り掛かった。
合衆国ではエータ星の観測が続けられていた。
「大統領、ハワイの観測チームです」
「出せ」
「イエッサー!」
「大統領、エータ星ですが、ガンマ線直撃もエネルギー波の直撃も避けられそうです。爆発エネルギー波の放射方向は中心から60度逸れております。地球に到達するのはほんのわずかでしょう」
「そうか。それは良かった!神のご加護だ」
「イエッサー!」
「到達時間はいつだ?」
「後2時間ほどで」
「うむ。どちらにしろ、今となってはもうなにもできん。わかった。報告をありがとう」
「イエッサー!」
「日本ののミスタ藤岡に通知してくれたまえ」
「イエッサー!」
高根沢博士の研究室では、助手がデータのコピーを終えていた。
「さて、これがそのデータになります」
「ありがとう、博士」
「で、正直な話、大田原さん、あなたはいったいなにもので?」
「ただの役人です」
大田原は微笑んだが、突如、真顔になった。
「といっても、到底、ご納得されているような様子ではありませんな」
「正直・・・」
「よろしい・・・。博士がご想像しておられることは真実かもしれません。今は、これしか申しあげることができませんが、近い将来、それについてじっくりお話しする機会があるでしょう」
「つまり・・・」
「わたしは、あなたのようにT大を卒業したわけではありませんが、あなたと会話できるレベルの科学知識は習得しております」
「T大ではないといっても、今年、大学院をご卒業したわけではありますまい。それなのに、今現在の最新科学の研究成果に精通されている。わけがわかりません・・・」
にっこり。
大田原は再び微笑んだ。
「わたしはここが大好きなんですよ。地球、日本。そして、博士、あなたもです」
「大田原さん・・・」
「では、確かにデータはいただきました。ごきげんよう」
大田原は席を立ち、研究室から出ていった。
「あ、まだ、話が・・・」
一瞬、高根沢は大田原を追いかけようとしたが、考え直した。
「きみの研究は100年遅れとるよ・・・、と言われかねないわい」
--- ^_^ わっはっは! ---
首相官邸では、政府の重鎮たちが集まって藤岡を取り囲んでいた。
「首相、計算上は、後10分を切っています」
「で、どうなんだ?」
藤岡は先を急がせた。
「大統領からの連絡では、ほぼエネルギー流は逸れる、というか拡散するようです。超新星の爆発は指向性ががかなり強いようですので・・・。今回はまったくラッキーでして。地球方向を逸れていると。自転方向もしくは赤道方向が一番懸念されるところですが、いずれも地球上とはかけ離れておりましす。米国の情報によると、直撃の可能性は百万分の一まで下がっているとのことで」
「それは、よかった」
「エータ星か、あんなのが50光年以内に現れたら、地球は一瞬でしょうな。たとえガンマ線バーストを避けられたとしても」
「観世音菩薩様のご加護だ・・・」
「共同の安全宣言は?」
藤岡は当座の予定を確認した。
「大統領は3時間後で、こちらに要請をしています」
「わかった。大統領に、すぐ返答してくれ」
「了解です」
そして、ついにその時がきた。
「大統領、予定時刻です」
「・・・」
「何も起きんじゃないか・・・」
「・・・」
「はっはっは。助かったぞ。地球は無事だぞ。たぶん」
--- ^_^ わっはっは! ---
大統領は微笑んだ。
「大統領、おめでとうございます!」
「きみもな。そして、きみの家族も」
「もったいない。大統領」
「日米共同会見は2時間の様子を見てからです」
「日本側には連絡を入れたのか?」
「イエッサー!」
さらに2時間が過ぎ、大統領は安全宣言を出すことにした。
「ミスタ藤岡、共同発表の時間だ。よろしいか?」
「OK、大統領」
世界は両国首脳の共同発表でTVに釘付けとなった。
「NTVSの緊急特報です。さきほど、日米首脳がエータ星のハイパーノバ化につき、地球への影響を共同発表するとの情報が入りました。NTVSでは、通常の番組を変更してお伝えいたします。では、片岡さん」
「はい、こちら、首相官邸の片岡です。エータ星に関する情報を入手しました。後、5分ほどで首相の会見があります」
「片岡さん、今回もアメリカ大統領との共同発表と聞いていますが?」
「はい、その通りです。・・・あ、今、ぞくぞくと関係者が首相官邸に到着しています」
ばたむ。
ぞろぞろ・・・。
「あーっ、片岡さん、あれは与党の大物議員、上三川さんでしょうかねぇ。・・・?」
「わたくしも記者会見場に向かいましょう」
「よろしくお願いします、片岡さん」
「わかりました」
「3、2、1、キュー!」
首相の会見が始まった。
「うぉっほん・・・」
にこにこ・・・。
藤岡はいかにも明るい表情をしていたので、テレビの視聴者は、またか、という気持ちだった。
「日本国民のみなさん。わたしは首相の藤岡です。ご存知ですよね?」
ーーー ^_^ わっはっは! ---
「本日は、先日より非常に懸念していた エータ星のハイパーノバ化による放射線の地球環境への悪影響が、予想をはるかに下回る状況でしかなかったことを、ここにご報告いたします。しかし、これはたまたま非常に幸運に恵まれたというだけで、その辺を誤解なきように・・・」
深夜というのに、大衆は首相の生中継を見つめていた。
「おい、首相の特番らいしぞ」
「なんだよ。あれだけ騒いで、なんにもないだとぉ?」
「だから言ったじゃないか。政治家の話なんて、信じるに値しないって」
「オオカミ少年ってわけか」
「オオカミ親父だわ!」
「あっははは、そいつはいいや!」
いつになく藤岡は慎重に言葉を選んでいた。
「計算上は、既に2時間前、エータ星のエネルギー本流は地球に到達したはずですが、実際はなんら影響がありません。放射線量は通常より、極めてわずかに増えたかなという程度であります。原因は、爆発エネルギー波の放射角がたまたま地球方向ではなかった、というだけのことです。みなさん、神仏に感謝せなばなりません。合衆国の協力の下、監視作業を続けた結果です」
「続いて、合衆国大統領の会見です」
「親愛なる合衆国のみなさん。今回、エータ星のハイパーノバ化は極めて憂慮すべき災難かと思われましたが、神のご加護のもと、最悪の事態は避けられました。エネルギー波は地球方面に対し約60度という角度で、放射している模様です。したがって、地球がこれに巻き込まれる可能性は、極めて低く、固く見積っても100億分の1以下ではないかと予想しております。これは、日常生活になんら影響を与えるものではありません。しかるに、わたしはここに地球の安全を宣言いたします。なお、詳細データ等は政府の公式サイトに公示します。そちらをご参考願います。ミスタ藤岡、スーパーカミオカンデのニュートリノ観測他、日本の全面的協力をありがとう。感謝します」
「以上、ホワイトハウスより、中継でした」
やがて夜明けを向かえ、今日もなにごともなく通勤時間となっていた。いつも早目に事務所に来る二宮は、理由があった。事務所に出る前、弁当を買うのだ。
「いらっしゃいませ」
「おす。お早う、イザベルちゃん」
「道場の外では、『おす』はいいって言いませんでしたっけ?昨日も、おとといも、一昨昨日も、その前も。またまた、その前も」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おす。こっちの方が言い易いじゃないっすかぁ?」
「だから、ずるしてるように思えますよ、わたしには」
「してなんかないっすよぉ・・・」
「うふふ」
にっこり。
「今日も、お早いですね、二宮さん」
「おす。イザベルちゃんも感心です」
「あは。いつも早朝ウォーキングしてますから」
「おす。自分も一緒していいですか?」
「ええ。もし4キロ、5時からできるんでしたら」
「おす。絶対にOKっすよぉ」
「ホントですか?」
「おす。自分は朝は早くから起きてますから。えへへ・・・」
「ええ?」
イザベルは途端に真っ赤になった。
「二宮さんのエッチ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは。エッチが終わったら男はお終いっすよぉ」
事務所に和人が出社すると、二宮が心配そうに寄ってきた。
「まだ、ユティスと連絡が取れないのか?」
「ええ・・・」
しかし、時空の状態は相当悪い様子だった。
「時空の状態が変わってしまったのかも・・・」
ユティスとは今まで通りにコンタクトできなくなり、和人はますます落ち込んだ。
「落ち込むなよ、和人」
ぽん。
二宮は和人の肩を叩いた。
「ありがとうございます。先輩」
しかし、表情と裏腹に、今朝の二宮はいつになく幸せだった。
--- ^_^ わっはっは! ---




