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090 虚報

■虚報■




「大田原さん、最悪の事態になるかも知れません」

T大の高根沢博士は顔をくもらせた。


「エータ星がハイパーノバ化しました。それだけではありません。アルファ星も時を同じくしてスーパーノバ化寸前です。こちらは、ここ数日で通常の30%という極端な収縮をしていることを、観測済みです」

高根沢博士の話に大田原は緊張した。


「なんということだ・・・。間違いないのか?」

「はい。スーパーカミオカンデで、アルファ星からと思われる極めて大量のニュートリノを検出しました。72時間後に、南天は昼間のようになるでしょうな」


「ガンマ線の放射方向は?」

「恐らく・・・、99%地球方向ではありません」

「それは幸いだ」


「もう一つアルファ星極方向は?」

「地球に対して約20度ずれています」

「ありがとう・・・」


「国民への通知は?」

「NASA、いいえ、合衆国大統領が発表するタイミングで同時に。すでにホットラインで大統領補佐官には確認済みです。あちら側は、パニックにならない程度に公式発表した方が賢明かとのことで」

「わかった。藤岡首相へ連絡を入れよう」

「では、われわれも観測に戻ります」

「うむ」




地球では、その夜、すべてのメディアが、合衆国大統領と日本国首相の同時テレビ会見で、重大な発表を行うことを告げた。それが世界中を駆け巡ったのは発表のわずが2時間前だった。




「ミスタ藤岡、エータ星とアルファ星の件・・・」

合衆国大統領の声が藤岡の頭に静かに響いた。


「最悪ですな。巷で騒ぎが拡大してカルト教団の宣伝に思うツボです」

「ミスタ藤岡、わたしは、そんなことを話しに電話したのではない」

「そうは言っても、科学者どももなんだってテレビで騒ぐんだ。彼らは、パニックを煽ることしかせんではないですか」

「そんなことは、さておき、他国に先んじて事実を共同発表することで、われわれで、世界のイニシアティブを取ることが先決です」

大統領は先を急いだ。


「と言われると?」

「TVの相互同時中継で世界中に声明を流します」

「なにをですか?」

合衆国大統領は呆れ返った。


「よろしい、ここはわれわれにお任せください。われわれでTV声明をリアルタイム編集して、世界中に流します。そちらには、協力していただきたいことが山ほどあります」

「わ、わかった」

藤岡は全面的に了承した。




「俊介、電話」

「ああ」

俊介が3Dテレビ電話に出ると大田原が出た。


「なーんだ、じいさんか。可愛い娘ちゃんじゃないのかよ?切るぞぉ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ほう。余裕をこいてられるのも今のうちだぞ、俊介」

大田原の声に俊介はにわかに真面目に戻った。


「なにかよくないことでも?」

「うむ。大統領と首相のTV同時発表が2時間後にある」

「な、なんだって?エルフィアか?」

「いや。地球にとって存亡を賭けることだ」

「おったまげたぜ。エルフィア以外のなにがあると言うんだ?」

「地球は、ハイパーノバのエネルギー線を72時間後に受けるかもしれん」


「ハイパーノバ?」

「ああ。『はい。パァの婆』じゃないぞ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「超新星の数十倍も大きな爆発をたった数十秒で解き放つ超特大のスーパーノバだ。そのとんでもないエネルギー波が地球に到達するだ」

「で、なにか、そいつが地球にターゲットを合わせたと言うのか?」

「合わせてはおらん。たまたま地球がその線上に位置しているだけだ」

「運の悪いことで」


「冗談ではないぞ。ハイパーノバとの距離は7400光年しかない」

「わっはっは。からかうなよ、じいさん。いくらオレが天文学に無知だからだって、1光年がどれくらいの距離だかわかっているつもりだぜ。そんだけあって、なにあわてるんだ?仮にも光がだぜ、7400年かかってやっとたどり着く距離なんだぜ。それだけ離れていてなんでヤバイんだよぉ?」

俊介はとても納得していなかった。


「やはり、わかっておらんようだな。ハイパーノバは、2000億個はあろうかという恒星を足した天の川銀河系全体と同じくらいの量のエネルギーを、極めて強い指向性をもって、ニュートリノやガンマ線で一瞬のうちにエネルギー波として放射する。直撃なら、たとえ7400光年先といえど、地球は無事では済まんぞ。生命体や地球文明を滅ぼすには十分かもしれん」

大田原は当たり前のように語った。


「本気かぁ?」

「ああ。幸い、90%以上の確率で、ガンマ線の放射方向上には地球は位置しないらしいが・・・」

「もし、直撃したら?」

「お祈りする時間すらないさ。一瞬でガンマ線に焼かれる」

「そんなばかな!」


「真相を知っているのは、日本と合衆国だけだ」

「欧州は?」

「連絡中というところだ」


「エルフィアには?」

「彼らはとうに知っているはずだが・・・」

「和人はユティスになにも伝えてないのか・・・?」

「それは、俊介、おまえの仕事だ。和人には大変重要な役目を担ってもらうことになる」

大田原は断言した。


「エルフィアとの連絡をか?」

「日本時間の深夜1時に、二国で共同発表がある。見逃さないようにな」

「わかった」




エルドは執務室で報告を待っていた。


「ハイパーノバのエネルギー本流が到達するには、後どれくらいの時間が残っている?」

エルドはメローズに確認を取った。


「恐らく数十時間。計算から導かれた時間です」

「数十時間か・・・」

「リーエス。そんなに多くはありません」

メローズは空中スクリーンを確認しながら言った。


その時、エルドはあることにはたと気づいた。


「それだ!われわれが偽の情報で踊らされている間に、地球にハイパーノバのエネルギー波の直撃を受けさせる。そのための時間稼ぎを・・・。いかん!」


「エルド?」

「読めたぞ、メローズ。トルフォの意図が・・・。和人のユティスへの宣誓の無効化だ」

「なるほど・・・。宣誓は、撤回も訂正もできませんが、女性側がそれに応える前に、宣誓した男性自身が事故や病で倒れて、未完となれば無効に・・・」


「それだよ!」

「なんと恐ろしい。たった、そのためだけに、数十億という人命もろとも・・・」

「宣誓はそれを阻止したいと思う人間に殺められたなら、その人間に対して有効となる。しかし、不可抗力となると・・・」

「リーエス。わたしは直ちにミラーグの情報を調査をいたします」

「頼むぞ。そしてユティスに指示だ。地球の真の座標は必ず入手せねばならない」

「リーエス」




「緊急通報。緊急通報。時空回復。地球とのコンタクトを一時的に回復しました」

システムが時空状態の緊急速報を告げた。


「地球とのコンタクトができるぞ」

「ユティスは?」

「お休み中です」

「起こすんだ!」

「ナナン!あなたたち、止めなさい。彼女は疲れてるの。わたしがする。ハイパー通信のパスワードは知っているから・・・」

アンニフィルドはみんなを制して、一人エージェントのコンタクトルームに向かった。




ぽわーーーん。


「和人、出番よ」

アンニフィルドが和人の頭脳に語りかけてきた。


「ユティス・・・?いや・・・、アンニフィルドかい?」

「リーエス」

「よかった・・・。もう、きみたちにコンタクトできないかと思った・・・」

「そうね・・・。でも、時間がないの。とにかくこれを見て」

アンニフィルドは和人の頭脳にある惑星のイメージを転送した。


「リーエス」

「これは、ある惑星よ。和人、これに心当たりある?」

「ん・・・?どこだい、これ?」

「さぁ、どこでしょう?」

「火星の過去の姿かなぁ・・・?」

「ナナン。わたしも知らないわ。でも、あなたも知らないってことは・・・」

「アンニフィルド、きみの言いたいことはわかるよ。一見、地球に似てるけど・・・、絶対に地球じゃない」


「これが数億年前の地球の姿だったとしたら?」

「わからない・・・。プレートテクトニクスで、完全に大陸が変形しているからね」

「和人、マントル対流のこと、一応、知ってるんだ?」

「リーエス」


「けど、これは200年前のものよ」

「200年前・・・。じゃ、地球じゃない。保証するよ」

「だ、と思った・・・」

アンニフィルドは確信したように言った。


「それが、なにか?」

「ナナン。なんでもない。アルダリーム(ありがとう)。あなたは、また一つユティスを助けたことになるわ。ご協力感謝するわね。じゃぁね」

「パジューレ(どういたしまして)、アンニフィルド・・・」


すぅ・・・。

アンニフィルドは空中にすぐに消えていった。




「・・・と、いうことよ」

アンニフィルドは和人の追証結果をエルドに報告した。


「ふむ・・・。やってくれるな。トルフォのヤツ」

エルドは腕組みをしてつぶやいた。

「で、この星の正体はどこなのかしら?」

アンニフィルドはエルドとメローズを見た。


「メローズ、きみの調査結果を教えてくれたまえ」

「リーエス」

メローズはシステムの調査情報を報告した。


ぴぴっ。

空中スクリーンにその結果が表示された。


「カテゴリー1、レベル2。この惑星は地球とはまったく異なる世界です。石器文明をようやく脱したようなところで、とてもエルフィアの文明促進プログラムを理解し受け入れられるレベルにはありません。あまりに時期尚早です」

メローズが最終報告をした。


「そうだな。だから保護観察中というわけか」

映し出されたデータの現行状況の欄を見て、エルドは頷いた。


「今、与えられれば、住人たちはもらうことに慣れてしまい、なにも努力をしなくなってしまう。それどころか、さらに要求を繰り返すだけになるだろう。要求はエスカレートし際限がなくなる。神を拝み、神のせいにし、自らの行動と自省と学びを忘れる」

エルドが静かに言った。


「そうなると、文明は精神的にはもっと後退するわ。最悪シナリオへ、まっしぐらね」

アンニフィルドが眉をひそめた。


「われわれも辛いが、ここは彼らが自分たちで、幾千年かかろうが、カテゴリー2の手前までの道のりを歩んでもらうしかない。少なくとも、ここの人々が、自ら大宇宙の精神を理解し、それを科学的に受け入れられるレベルになるまでは・・・」


「ええ。教えて、教えられるものじゃないわ」

「ここは、自己学習開始数秒後ってとこ・・・」

「リーエス」


「逆に、わたしたちは絶対に手出しをしてはいけない時期よ。せっかく学びはじめたのに、答えだけ教えてその意味ややり方を教えないようなものね」


「ええ。そういうことです。住人たちが滅亡寸前でもない限り、この時期の積極的介入は極力避けるべきです。エルフィアがすべての世界、すべての住人を救えると、慢心してはなりません。われわれとて、まだまだ、カテゴリー4。すべてを愛でる善なるもの、大宇宙の大いなる意思には、及びもしません。力は限られているのです」

メローズは締めくくるように言った。


「それで、エルフィアの調査デーダベースに、ここは載ってないの?」

「そうだな。トルフォが、まったく新しい世界を自分で見つけ出してくるなんて、およそ考えにくい。必ずあるはずだ。チェックしてくれたまえ」

「リーエス」


ぴ。

「支援世界検索開始します」

メローズはその間もシステムの返答を待っていた。


ぴぴ、ぴ・・・。

ぱっ。


「ありました。銀河登録番号20145892700721。惑星登録番号100030026500848。ここは、以前、再調査の申請があったところです」

メローズはそれが地球でないことを結論付けた。


「やっぱりね・・・」

「結果は?」

「100年単位の保護観察中でマノアと呼ばれています。直近では、50年ほど前の調査です」

「宇宙座標を確認してくれ」

「リーエス」


ぴ、ぴっ。

ぱっ。


「エルフィア銀河から600万光年、エルフィア銀河クラスタ内、小銀河2321」

「はっ、エルフィア銀河クラスタ内ですって?足下じゃないの。あいつらも随分となめた真似してくれるわね」

アンニフィルドははき捨てるように言った。


「灯台下暗しといいますからね」

「そうだ。なるべく時間稼ぎをしたいからな。未知の世界となれば、だれもが、遠くの銀河だと思ってしまう」

「裏をかいたってことですね」

「極めて悪しき嫌がらせだわ」


「最終調査報告者は?」

「サリエナ・エルベラ・ジルトムンド・・・」

「アルダリーム(ありがとう)。メローズ」

「どういたしまして」

「・・・」




しばらく横になって休憩を取っていたユティスがそこにやってきた。


ぺこり・・。

「みなさん、申し訳ございません・・・」

ユティスは一眠りして体力的に回復していたもの、すっかり気落ちしていた。


「気にしなくていいわ。トルフォは、トルフォなのよ・・・。良心のかけらもない」

アンニフィルドがユティスを慰めようとした。


「どうして、彼がエルフィア人で、しかも理事でいれるのか不思議でしょうがありません」

メローズも憤懣やるかたなしという顔だった。


「ねぇ、エルド。トルフォの罷免ことだけど・・・?」

「ふむ。今となっては難しいな。何代か前の理事会の決定だ」

「じゃ、エルドの代で理事を除名してくれれば?」


「不可能ではないが、他のだれか、つまり反対派も含めてだが、彼らを納得させるだけの十分な根拠と証拠が揃っていない。この偽地球騒ぎもきっと彼らが仕組んだに違いないが、人を告訴するとなると十分に慎重にしないと、返り討ちに合うぞ。そして、本人の精神鑑定なると、今すぐというわけにはいかんな・・・」


「トルフォについては、今、解決できるわけじゃないし、それくらいにしたら」

話題がそれたが、今まで口を出さなかったクリステアの声で、みんなが我に戻った。


「これ、和人のいう第3惑星ですらないわ。ここは4番目よ」

クリステアはなるべくユティスを刺激しないように冷静に言った。


「わたくし、人を疑うことは、とっても嫌です。でも・・・」

じっと、静かに結果を待っていたユティスは、はじめて口を開いた。


「ぬか喜びだったわね・・・」

クリステアが静かに言った。


「ユティス・・・」

アンニフィルドは言いかけて止めた。


「・・・」


ぽとり・・・。

ユティスの目から涙が落ちた。


「・・・」

しばらく沈黙のうちユティスが言った。


「リーエス。認めますわ。わたくしが愚かだったのです・・・」

「なに言ってんのよ、ユティス、あなたらしくもない。あんな状況にあったら、だれでも信じちゃうわよ。ましてや、あなたのような純真な人だったら・・・」

アンニフィルドがユティスを励ました。


「ありがとう、アンニフィルド・・・」

ユティスは力なく言った。

「みなさんに、とってもご迷惑をおかけしまして申し訳ありません・・・」

「こらこら、あなたのせいじゃないって、言ってるでしょ」

「リーエス」




ユティスはその結果を和人に知らせ、本当の地球情報を得ようと必死だった。


「和人さん!」

「あ、ユティス!」

「どうしたの?とっても深刻そうだよ」

「はい。今、わたくしたちの通信は、ご存知のとおり、時空の状態が偶然良いことで成立しています」

「リーエス」


「でも、とても不安定で今後はこの状態がいつまで持つかわかりません」

「どうして、そんな風になったの?」

「ハイパーノバです」

「ハイパーノバ?」


「はい。とても重たい星が、その寿命の最後に大爆発することで、ほとんど一つの銀河のエネルギーに匹敵するくらいとてつもなく強いエネルギーを放射することです」


「それが?」

「時空を歪ませています。それも、わたくしたちのどちらかに近い方で・・・、もしくはその両方で・・・。わたくしたちも調査しました」


「それで?」

「その結果は・・・、エルフィアでは、ございません・・・」


「というと・・・?」

「地球の可能性が、大きいの・・・」

そこまで言うとユティスは泣き崩れそうになった。


「和人さん。もう時間がありませんわ。そちらの時間で70時間後に、爆発のエネルギー波が到達します。エルフィアのテクノロジーでエネルギー波を逸らすことはできますが、地球の位置がわかりませんと、それもできません!」

「わかった。地球の座標がいるんだね?」

「リーエス。大至急です。コンタクト・ラインは常時開けておきます。情報をいただけますか?」

「リーエス」


ぐらぁーー。

ユティスのイメージがゆっくりと大きく歪んだ。


「いけません!時空が・・・」


「ユ、ユティス!」

和人の目の前にいたユティスのイメージ体が、次第に薄れていった。


「和人さぁーーーん!」

ユティスは悲鳴に近い叫びをあげると、その手を和人の前に差し出した。


「ユティースッ!」

和人もその手を握ろうとしたが、無常にも和人の手はユティスの手をすり抜けた。


「和人さん。まいります。きっと、あなたのもとにまいります!」


しゅんっ。

そう言い残すと、ユティスのイメージ体はあっという間に完全にかき消えた。


「ユティス!ユティス!」


和人は何度も叫んだが、ユティスは応えなかった。そして、今までそこにユティスがいた空間を空しく見つめた。

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