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087 納得

■納得■




「エルド、お話があります」


さっ。

エルドは執務室で、ユティスを迎えた。


「委員会のわたくしのヒアリングですが、和人さんの同席は可能でしょうか?」

「和人と一緒に受けるつもりかい?」

「リーエス。ありのままのわたくしたちを直接ご覧いただいく方が、みなさんもご納得していただけると思いますわ」

「それは、そうだが・・・」

「委員会憲章のエージェント規定には触れておりません」

「うむ・・・」


とんとん。

「どうぞ、入り給え」

「メローズです。失礼します。そろそろお時間です」


「メローズ・・・」

ユティスの不安そうな顔を見てメローズは優しく言った。


にこっ。

「ユティス、大丈夫です。愛に勝てるものはありません。エルフィアのエージェントとして大いに誇れるものじゃないんですか?」


「わたくし・・・」

「理事たちの前では堂々とおっしゃってください。言い訳めいた言葉は反って疑いを深くし、トルフォたちを増長させるだけです。お二人が一緒に現われたらトルフォもさぞかし慌てるでしょうね」

「メローズ・・・」


「うふふ。トルフォの企みなど真の愛の前には脆いものです。すぐに尻尾を出しますわ。あの方が実体でいらしたらよろしいのに」

「え?」

「お二人の想いが純粋に本物だとだれもが一目でわかります」


「あの、わたくし・・・」

「お待ちしますよ」

「え?」

「和人を精神体でお呼びされるのでしょ?」

「ど、どうして、おわかりになったのですか?」

「わたくしが、あなたの立場でしたら、きっとそうします」

「メローズ・・・、ありがとうございます」


「さて、和人を呼ぶとするか」

エルドが、にっこり微笑んだ。

「リーエス。和人さんをお連れしてきます」

「待つよ」


ユティスは膝を床につけると両手を胸で交差させ、頭を垂れて精神を集中させた。




ぴんぽーーーん。

「いるんですか、和人さん?」


はっ。

和人は、それが石橋の声だと気づいた。

「石橋さん・・・?」


すたすた。

きぃ・・・。


和人がドアを開けると石橋が心配そうに立っていた。


「こ、こんにちは・・・」

「石橋さん・・・、どうして・・・?」


かぁ・・・っ。

「あの、あの、わたし・・・、心配だったから・・・。あの・・・」


石橋が真っ赤になってしどろもどろになっていると、和人の目が中を見つめたままトロンとしてきた。


「ユ・・・ティ・・・ス・・・」


(和人さん、まいりますわ)

(あ、ユティス・・・、今は・・・。待って。あ・・・)


かくっ。

石橋の目の前で、和人は膝をつくとゆっくりそこに座り込んだ。


「和人さん!」

石橋は突然のことに頭が真っ白になった。


「和人さん、しっかりしてください!」


がしっ。

石橋はバッグを部屋に放り投げて和人の肩を掴んだ。




ぽわぁーーーん。

やがて、和人の精神体がエルドの執務室に現われた。


「こ、ここは?」

和人はゆっくりと辺りを見回した。


「石橋さんが・・・」

「やぁ、和人。元気だったかね?」

「エルド・・・。ユティス・・・」


ぺこり。

「お忙しいところをお呼びたてして申し訳ございません」

ユティスが、和人に謝罪した。


「ここに来る前に、石橋さんが・・・」

「なにか問題があったのかね?」

エルドが素早く察して和人を見つめた。


「ユティスがオレを呼んでる最中に、石橋さんが来て・・・」

「精神体の召還中にどなたか訪問されたのですね?」

メローズが冷静に言った。


「そうなんです。オレの会社の人間で石橋さんという・・・」

「石橋さんですか・・・」

ユティスは一瞬微妙な感情に襲われた。


「見られちゃったな・・・」

「仕方ないな。和人を戻してくれ給え、ユティス」

エルドはユティスに向かって両手を胸の前に差し出した。


「リーエス。和人さん・・・」

ユティスは和人を地球に戻そうとした。


「ナナン。だめですよ。なに言ってるんですか、エルド。さぁ、これから大切なヒアリングなんだろ、ユティス?」

和人は断固として言った。


「リーエス・・・。しかし・・・」

「オレことなら、なんとかなるさ。今は、きみの方が大事」

「それでも・・・」

「パジューレ(お願いします)、エルド」

和人の真剣な眼差しにエルドは頷いた。


「行こうか、ユティス。地球のことは和人に任せよう」

にこ。

エルドも安心させるように二人に微笑んだ。

「リーエス」




「和人さん、和人さん!」

石橋は和人を掴んで揺さぶってみたが、和人はまるで抜け殻のようにまったく力が入っていなかった。


「どうしよう・・・」

石橋は和人がちょくちょく事務所で昼寝をしている時のことを思い出した。


「そう言えば、和人さん、よくお昼ねを・・・。違う。これは絶対お昼ねなんかじゃない。いったいどうしたというの?」

石橋はこのままでは和人が玄関で倒れこんで頭を打ちかねないと思い、和人をとりあえず中まで引きずる入れることにした。


「ここじゃ、危ないわ。畳のところまで・・・。よいしょっと・・・」

ずるずる・・・。


「んーーー。重ーーーい」

ずるずる・・・。




ききっ。

「あの車・・・」


真紀は和人のアパートに着くと、自分の車を赤いミニバンの横に停めた。

「やはり、石橋、来てたのね・・・」


ぱたんっ。

たったった・・・。

こんこんこん・・・。

ぎしぎし。


真紀は急いで二階の階段を駆け上っていった。


「あ・・・」

真紀は和人の部屋のドアが大きく開けっ放されているのを見つめた。

「和人・・・?石橋・・・?」


だだっ。

真紀は和人の部屋に飛び込んだ。


「石橋・・・」

石橋は和人を部屋の真ん中に引っ張り上げ、頭を自分の膝に乗せていた。


「真紀さん・・・」

二人は一瞬見合っていた。


「和人・・・、大丈夫なの?」


ふぁさっ。

真紀は石橋の側に屈みこんだ。


「それが、和人さん、突然、かくんと力が抜けちゃって・・・」

「あなたが、介抱してくれてたのね?」


ぽっ。

「介抱だなんて・・・」


「いつからそうなの?」

「たった今です・・・」


にこっ。

「うふん。似合ってるわよ、石橋、膝枕」


「え・・・っ?きゃ!」


ごとっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


石橋は、慌てて膝から和人の頭を降ろした。


「ちょっと、危ない!」

慌てて真紀は両手で和人の頭を支えた。


「なにをしてるの?」

「すみません・・・」

真紀はそっと和人の頭を下ろすとドアを閉めた。


「和人なら大丈夫よ」

かちゃ。


「真紀さん・・・」


にこっ。

「さて・・・、なにから話しましょうか、石橋?」




さほど大きくない明るい部屋に、丸く中心を囲むような大きなテーブルがあり、そこには20人ばかりの人間が席に着いていた。


「揃ったようですな」

「うむ。始めましょう」

「ユティスの予備調査について、少しヒアリングさせてもらう」


「なにが、ヒアリングよ?これじゃ、査問会と同じじゃありませんか!」

いきなり女性理事の一人が一同を見回した。


「いや、査問会ではないですぞ。あくまで事実を確認するための・・・」

「だから、それこそが査問会と言っているんじゃありませんか!」

女性理事は食い下がった。


「いいんだよ。ディリス。さ、始めるなら始めよう」

エルドは自分の席に着いた。


「その前に・・・、精神体のきみ、名前は?」

査問会の議長は和人を見つめた。


「宇都宮和人です。地球人。ユティスのコンタクティーです」


「なんだと?」

はっ。

トルフォは、驚いて、和人を見つめた。


「いかにも。みなさんには、ユティスの活動をウツノミア・カズトの証言と合わせ、二人がどう信頼関係を築き上げているか、その目で確かめていただきたい」

エルドは静かに語った。


「よろしい。では、ユティスの報告について、規定どおりの内容が報告されていますか?」

「リーエス。予備調査の準備としては、地球の実情を把握するに足る内容です」

「なにが足る内容だ?カテゴリー2とはおこがましい。原始世界ではないか!」

すぐに反対派の一人が反論した。


「そ、そう・・・」

トルフォは言いかけて途中でその言葉を飲み込んだ。


(いいですか、トルフォ。あなたはここで感情的な発言をしてはいけません)

トルフォは参謀のブレストの言葉を思い出した。

(くっそう。ブレストのやつ、なにを考えておる・・・・?)


「異議あり!」

「どうぞ、ディリス」

「あなたの意見を聞きたいんじゃありませんことよ。ここは、査問会ではなくヒアリングの場です。ユティスの話しを聞きたいわ」

「認めます。他のみなさんも批判的な意見は一切慎むように」


「ユティス、きみの活動について話してくれるかな?」

エルドがゆっくりと一堂を見回しながら言った。


「リーエス。わたくしはコンタクティーの和人さんの助けの下、地球の現状を把握すべく、精神体で共に行動してまいりました。和人さんには気負うでもなく、飾るでもなく、ありのままの地球文明を見せていただきました。報告内容につきましては、既に、みなさんがご覧いただいている通りです。問題とされている、わたくしが個人的感情に溺れて使命を果たしてないということは、決してございません」


「ユティス、きみとコンタクティーとの相性は、99.99%だったね?」

「リーエス」

「それは結構」


「通常、コンタクティーとハイパーラインで通信した後は、現地に赴くわけだが、既にファーストコンタクトから何ヶ月か経つにも係わらず、そうしていない訳は?」


「一つは、いきなりわたくしが訪問すると地球の方が驚かれるからです。地球はカテゴリー2に成り立てで、精神的な寛容さが十分ではありません。地球の方たちは異星人を侵略者と考える人も多いのです。不安や恐れはたちどころに攻撃に変ります。これは、わたくしだけでなく、和人さんやその周りの方々の安全にも係わってきます。最終的には、和人さんのご意見を取り入れたのですが、精神体でまずテスト的に和人さんの周りの方からお慣らししてから、それで地球訪問の時期を判断すれば、ということに落ち着きました」


「なるほど。慎重な判断ですな」

「精神体のきみ、それで間違いないかね?」

「リーエス」

和人はしっかりと答えた。


「他には?」

「単に地球の宇宙座標が特定できていないからです」

「ふむ。それは大変由々しき問題だ」

「リーエス。おっしゃる通りですわ。それで、いろんな手を尽くして地球でもエルフィアでも探査を続けていますが・・・」

「まだ、判明していないのかね?」

「リーエス。有力な手がかりはいくつか見つかりました。探査継続中ですわ」


「結構。二人とも大変な苦労をかけてしまっているね」

議長はユティスと和人を労うように交互に見た。


「そんなことありませんわ」

「わたしも同感です」


にっこり。

議長は微笑むと次の質問に移った。


「さてと・・・。ユティス、きみはコンタクティーとの信頼、つまりその関係に、満足かね?」

「リーエス。もちろんですわ」

「ウツノミア・カズト。きみは?」

「リーエス。ユティスほど信頼できる人間はいません」

和人は、質問されるまでは多くを語らないように、気をつけていた。


「わたしよりかもかね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「い、いえ、そういう訳じゃなくて・・・」

しどろもどろ・・・。


「きみは正直だな」

「あっはっは」

「わははは」

「うふふふ」


議長の言葉に緊張が解け理事たちの笑いが渦巻いた。


「まぁ・・・」

にこっ。


(ユティス、大丈夫だよ。絶対に大丈夫だよ。いざという時はかならず証言するからね)


そのかわり、和人は、ユティスをありったけの想いを込めて見つめていた。


(ユティス。オレ、きみほど大切な存在はないよ・・・)


ぽっ。

(リーエス、和人さんのお気持ち、とても嬉しいです・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


プライベートラインで二人だけの会話が交わされて、ユティスの表情も目に見えて柔らかくなっていった。


理事の大半は、その様子を好意的に受け取った


「うふふ。どうでしょう。ユティスったらなんて愛らしいんでしょう」

「確かに、あれは恋してる目だな」

「ここで、包み隠さず自分の気持ちをさらけ出すとは、大した度胸だよ」

「ナナン。度胸の問題ではありませんわ。これが一点の曇りもない真実だからです。ユティスはウソをつけるような人間ではありませんわ。二人は信頼し合っています。疑う余地がありますか?」

「ナナン」


「ユティスにやましいことなんてないのよ。見ての通りありのままだわ」

「コンタクティーの青年も、なかなかだぞ」

「ほら、彼が実体でいたなら、二人とも、このままキッスしてしまいそうね。ふふ」

「微笑ましい限りだな」

「リーエス。わたくしは二人に、誠実さ、純粋さ、それに深い愛情を、感じますわ」


「異議なしだ。ユティスがそれで当初のミッションを疎かにいているなんて、とても考えられん。ユティスの報告を見てみろ」

「リーエス。わたくしも目を通しました。カテゴリー別に必要事項はきちんとまとまっていますわ。今後、コンタクティーとどうしていこうとしているか、彼女の見解も」

「ああ。ユティスは、心底、地球の文明支援を望んでいるんだ」

「リーエス。それに、早く予備調査の実地段階に進めたいんですわ」

「同感だ」


「いったいどこのだれが、ユティスに疑うところがあるっていうんだろう?」

「ホント。ユティスを一瞬でさえ疑うなんて、相当なひねくれ者に違いありませんわ」


ちらっ。

女性理事はトルフォを横目で見た。


--- ^_^ わっはっは! ---


ぴくっ。

「うぬ・・・」

トルフォの顔の筋肉が少し痙攣気味に動いた。


(くっそう、どうなっている?ブレスト!きさまの言う作戦とはこれか!)

(まぁ、落ち着いてください、トルフォ。これもシナリオのうちです)

(なに、余裕をかましている。このままでは査問会は白紙になるぞ!)

(まだですよ。もう、しばらく、我慢してください、トルフォ)

(うぬ・・・)


その時、地球支援反対派の一人が手を挙げた。


「どうぞ、パルメンダール」

「なにか、みなさん勘違いされておられるようですな」


はっ。

一瞬で会場に緊張が走った。


「われわれは、ここで二人の仲が良いことを確認したい訳ではありますまい。それによって、ユティスがエージェントたる使命を忘れて、個人的な利益を優先してるかどうかの判断材料を得ることこそが目的であるはず」


ばたん。

「まぁ、なんて人!異議あり!」

「どうぞ、ミクセラーナ」


「判断材料を得るですって!はじめからユティスを黒と決め付けてるじゃありませんか!」

「だが、エージェントの使命をなんと心得ている?」

「エージェントの使命を勘違いなさっておられるのは、あなたではありませんか!」


「ほう。どういう具合にですかな?」

「予備調査の準備というものがなんなのか、あなた、ご存知?」

「無論、承知しておりますよ」

「それでは、みんなの前でおっしゃってくださいませんこと?」

「馬鹿な。何故、わたしが?」

「おできにならないのですか?」


「いいでしょう。委員会規定、エージェントの予備調査の準備とは・・・、エージェントと接触するコンタクティーの不安や恐れを解消し、精神的な結びつきを築き、それを強化し、コンタクティーがエージェントを日常的に受け入れる下地を作ること。コンタクティーの日常生活に溶け込み、共に歩む精神的補佐をすること。そして、コンタクティーと永きに亘る揺るぎない信頼関係を築くこと」


にこっ。

「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)。満点です」

「そりゃ、けっこう。パジューレ(どうも)」


きっ。

パルメンダールが言い終わると、ミクセラーナは即座に微笑を引っ込めた。


「で、そのどこに、ユティスの行動が抵触しているというのですか?あの二人をご覧になって!」


「まぁ、まぁ、ミクセラーナ、抑えて、抑えて」

議長が彼女を制した。


一同はもう一度委員会規定を心で反復し、確かにミクセラーナの言うとおりだと納得した。

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