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084 銀河

■銀河■




次の日、事務所では俊介が二宮を呼び出していた。


「二宮ぁ!」

「うす」

ぱこーん!


--- ^_^ わっはっは! ---

「いて!」


「うす、じゃないだろ!」

「うす!」

ぱこん、ぱこん。


「痛いじゃないですか、常務!」

「和人はどこだぁ?」

「客回りっす」

「そっか。おまえでもいい。ちよっと聞きたいことがある。これを見ろ」

「どれっすか?」

「これ、これ!」


ぴらっ。

俊介は、スポーツ新聞の表紙にでかでか載った写真を、二宮に見せた。


「カフェに、天使現る・・・?なんすか、これ?」

「写真がボケてるけど、見覚えないかこの女の子・・・」

「ん・・・?」


二宮は、ダークブロンドのポニーテールをはっきりと確認した。その横にいる若者は、どうみても和人だった。ユティスは、例によって虹色のうっすらとした生体エネルギー場に包まれ、えもいわれぬ微笑をたたずませていた。


「あ。ああーっ!」

「だろ?」

「ユティス・・・」

「そう、ユティスだ・・・。記事を読んでみろ」

俊介は先を急がせた。


「なになに・・・。とあるカフェで、スマホで撮影された写真が当新聞社に投稿された。撮影者は匿名。時間や場所は、個人情報保護法に基づき正確には、お伝えできない・・・」

二宮は記事を声を出して読んだ。


「和人だと思うが、そのカップをよく見てみろ。なんだと思う?」

「うす。Eカップっすかねぇ・・・」

「ええ?」

「だから、ユティスの胸・・・」


ぱこーーーん!

「テーブルのカップだ。バカもの!どこを見てやがる!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「これ、スターベックスってことですか?」

「ああ、そういうことだ」

「あいつ、こんなところで、仕事サボって、ユティスとデートなんかしてたのか!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「オレは、そんなこと言ってるんじゃない。うちは、サラリーマンを雇ってるわけじゃないんだぞ。結果を出してくれるんなら、カフェでも、シネマ・コンプレックスでも、どこにいようが、一切、問いはせん」

「そうっすか?」

「さっさと、先を読め」

「うす」


「ここに写っている若い女性は、あたかもそこにいるようにして一人の男性客のそばに座り、しかも店員たちと会話していた。会話の内容は聞き取れなかった。なになに・・・」

二宮は先を進んだ。


「つうー、とつらつら書いてあって・・・。おやっ?」

「そこだ!」

俊介は大事な部分に二宮が来たことを知って、じっくり見るよう指示した。


「『わたくしはエルフィアのユティスと申します。この世界にはご縁あってまいりました。そう遠くない未来にちゃんとしたかたちでお伺いしますわ・・・』、だって、常務・・・」


「ユティスと名前が出ちまったなぁ・・・」

「うす」


「この世界って、どう解釈する?」

「この世じゃないっすかぁ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「やっぱり、そうだよなぁ・・・」

「ご縁がある、は?」

「化けて出るってことですかねぇ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「やっぱり、そうだよなぁ・・・」

「そう遠くない未来は、どうだ?」

「今宵、丑三つ時・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ちゃんとしたかたちは?」

「足のある幽霊として」

「やっぱり、そうだよなぁ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「最後。お伺いします、は?」

「化けて出る・・・」

「ぱっやり、そうだよなぁ・・・」

「うん。うん。やっぱりエルフィア人は幽霊だったか・・・」


ぱっこーーーんっ!


--- ^_^ わっはっは! ---


「痛ぇ・・・」

「のわけないだろう。オレが言いたいのは、世間の連中がユティスを誤解して知ってしまったかもしれんということだ。おまけにお題が天使だ。ユティスが地球に来る前に、顔見せをしておけば、いざ実体で現れてもすぐに認知され、容認され易いが、こんな風に誤って報道されるとやっかいになる。またまた新たな障害が増えたぜ・・・」


「テレビに出て誤解を解けばいいじゃないですか」

「そんなに簡単にいくか、アホ」



「そこで更なる質問」

「うす」

「ユティスに間違いないが、おまえこのピンボケのような写真、どう思う?」


「どうって、和人やテーブルはちゃんとピント合ってますからねぇ・・・。被写体のユティスはそれでもピンボケだったということですね。それにこのオーラのような輝き、テーブルに映り込んでいますよねぇ。画像ソフトで修正された感じではないです・・・」


「そうだな・・・。おお、そういうことか!」

「そういうことです。トリックなんかじゃなく、確かにモノホンっすよ、この写真」

「デカみたいな観察力だなぁ、おまえ・・・」

「うす。武道家の観察力は人智を超えますからね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「で、他には?」

「写真を写してる角度だと・・・、おや?」

「どうした?」

「これ、スマホですよ。撮ったカメラ・・・」

「なんでわかる?」

「ここ」

二宮は左上にほんの少しの影を指した。


「影か?」

「おす。左手の中指の写り込みですよ。オレもレンズを気にしないで横向きと撮ると、スマホを持った指がちょうどこんな感じで写り込んでくるんです。よく失敗するんで・・・」

「なるほど」

「左に指が写り込んでるのは、スマホの上の方にレンズがあり、それを左に90度倒して横画面にするからっすね。画像のよさからすると、マイフォンですね」

「そこまでわかるのか・・・?」

「おす」

俊介はいたく感心した。


「それに、これ。ひょっとしてウチの社給品のマイフォンかも・・・」

「ええ?なんでそういえるんだ?」

「右下っすよ。写ってませんか?」

「どれどれ・・・」

二宮の指摘を受けて、俊介は写真の右下を観察した」


「会社の略号のCLMクレジットだ・・・」

「そいうことです・・・」

「どういうことだ?」

「和人が撮影を依頼したか。社のだれかが撮ったか。社のだれかがスマホを落として、拾った人間が撮ったか・・・」

「すぐに全員のスマホを確認した方がいいですね・・・」

「ああ・・・。まず。お前のを見せろ」


--- ^_^ わっはっは! ---




俊介は祖父の大田原と電話で話していた。


「天の川銀河の姿を知ってるんだろ、じいさん?」

「残念だが、俊介。わたしは、天の川銀河の姿を残しているわけではないんだ」

「違うんだ、じいさん。じいさんが見たんだったら、その姿を思い出して欲しいんだ」

「銀河間移動宇宙機の管制室で、スクリーン上で眺めたに過ぎん」

「それでも見たんだろ?」

「ああ。確かに斜め横から見たよ。巨大な渦状銀河だった。それも中心のバルジが結構大きかったことは覚えているが・・・、そのような銀河はゴマンとある・・・」


「じいさん・・・」

「わたしには恐らく区別がつかん」

「だったら、じいさんの故郷のセレアム銀河は、どうなんだ?」

「ああ。それなら、恐らくわかるだろう」

「そうか!やったか!」

「ここからは、5000千万光年以上は離れているぞ」

「大丈夫だ。そのT大の博士とやらに確認してもらおうじゃないか?」

「わかった。すぐに高根沢さんと連絡する」

「頼んだぜ、じいさん。じいさんだけが頼りだ」

「責任重大だな」

「ああ」




俊介はすぐに動いた。


(なんとしてもセレアム銀河か天の川銀河の形状を特定してやる。そうしてそれを和人からユティスに送らせる。エルフィアはそれらの形状から、銀河座標を割り出せるに違いない)




るるるーーー。

ぴっ。


「はい、高根沢研究室です」

「大田原太郎だが高根沢博士はおられるかな?」

「あ、大田原さん。はい。今、呼んできます」

「ああ、すまないね」


「博士、大田原さんです」

「おお、そうか。ご苦労さん。今、出るよ」


どたばた・・・。

かちゃ。


「はい、高根沢です」

「ああ。博士、お忙しいところ、申し訳ありません」

「なにをおっしゃいますか、大田原さん。あなたならいつでも歓迎ですよ」

「それは、どうも」

「例の3億光年内の銀河地図作成は取り掛かったばかりですよ」

「ああ。それとは別なんだが、どうしても協力が欲しいんです」

「わかりました。断わる理由はありませんからな」


「ふっふっふ。有難い。それで、博士、わたし自身で天の川銀河から3億光年内のすべての棒渦状銀河の形状をチェックしたいんですが、そちらに写真はありますかな?」


「銀河の形状チェックですか?」

「左様」

「なんでまた、あなたのようなお方がこちらにいらっしゃってまで?いや。了解しました。余計な詮索は止めておきましょう。画像ならサーバにありますから、いつでもご覧になれますよ」

「わかりました。お言葉に甘えまして、これからではご都合悪いですか?」


「はっはっは。大田原さんも大分気が短くなられたようですな」

「人生は有限ですから。やらねばならないとわかれば、すぐその場で行動を起こしませんとな・・・。酒も女性も、あっという間に目の前から消えます」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うわっはっは。同感です。では、お待ちしています」

「恩に着ます」




1時間もしないうちに、大田原はT大の高根沢の研究室にいた。


「どうも、お忙しいところ、申し訳ない」

「なにをおっしゃるんで。さぁ、さぁ・・・」

「失礼します」

「博士、準備はできています」

「おお、ありがとう。いつもながら、手際がいいよ、きみは」

ぺこり。


「ありがとうございます」

大田原は高根沢と並んでモニターの前に座った。


「棒渦状銀河でしたな?」

「左様。天の川銀河から5000万光年以上離れたものです」

「恵美君、データはいいかね?」

「はい、博士。では、順にモニター上に映し出します」


ぴっ。

PCの24インチ画面に銀河の鮮明な写真が映し出された。


「ではまいります。ろ座、NGC1365」

モニターには、真っ直ぐで巨大な棒状のバルジを持った、これぞ棒渦状銀河と言わんばかりの棒渦状銀河が浮かび上がった。


「探している銀河とは違います」

大田原は一目でそれを否定した。

「次を移してください」

「はい」


次に映し出されたのは、エリダヌス座のNGC1300だった。

「違います」

これも、すぐに大田原は否定した。


「大田原さん、次の銀河に移りますよ」

「わかりました」

「これは、どうです?」


次はろ座のNGC1365だった。

「違います」

「次、写してくれんか?」

「はい」


ぴっ。

「M109です」

「これも違います」

「次」

「はい」


ぴっ。

「くじら座NGC1037です」

「うーーーむ」

「どうでしょう?」

「なんとなく違いますな・・・」

「恵美くん、次をお願いする」

「はい、博士」


ぴっ。

大田原のセレアム銀河の形状確認は続いた。高根沢はこれでは埒があかないと考え、大田原の探しているという銀河の大雑把な形状を、まず聞いてみることにした。


「大田原さん、お探しの銀河の大体の様子をスケッチできますか?いや、書かなくても、こっちでやりましょう」


そう言うと高根沢は助手にスケッチブックを持ってこさせた。


「まず。お探しの銀河のバルジの全体に対する割合。それと2本の腕の大きさの割合と巻き具合」

「わかりました」


「まず。バルジの大きさですが・・・」


高根沢とその助手は、根気よく大田原にヒアリングし、彼の言う特徴を掴もうとスケッチしては聞き返しを続けた。




「和人さん?」

石橋は最近落ち込んでる様子の和人が気になってしょうがなかった。


「あ、石橋さん・・・」

「わたし、役に立てないかもしれないけど、心配ごとがあるなら・・・」

「いえ・・・」

「ご、ごめんなさい。言えないないですよね、わたしなんかじゃ・・・」

「そんなことないですけど・・・」


(どうにもならないことなんだよなぁ・・・)


「和人さん?」

「はい・・・」

「和人さんの心配ごとってこれですか?」


ささっ。

石橋が差し出したのは、俊介が二宮に見せたスポーツ新聞の一面だった。


「なんですか、それ・・・?」

「おわかりになりませんか?」

「これですか・・・?」


はっ・・・。


和人はそれがユティスと自分であることに気づいた。


「これ・・・?」

「向かいのコンビニあったものです。目に入ったものですから、手に取ったんです。そうしたら・・・。これ、和人さんですよね?」


和人であることはあまりにもはっきりとしていたが、和人は思わず口ごもった。


「そ、そうかな?」

「わたしはそう思います。そして、こっちのぼやぁっとした感じの女の子、これは誰ですか?」


女の子の輪郭ははっきりしていないもの、こちらの和人には明白だった・


「そ、それは・・・」

「天使って書いてありますけど・・・?」

「天使・・・かな・・・?あは・・・」

最後の照れ隠し兼誤魔化しの笑いで、石橋は確信した。


「和人さんの悩みって、この女の子なんですね・・・?お昼も和人さんの側を離れないで、いつもくっついて・・・」

「いや、それは・・・」

「わたしわかります。和人さん、みんなに優しいですから・・・。女の子には特に・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


石橋は写真のユティスを見つめて決心するように拳を握った。


「ちょっと待ってくださいよ、石橋さん・・・」

「ううん。わたしわかってるつもりです。二宮さんから聞きました」

「ええ?」

和人は非常に嫌な予感がした。


「お祓い、わたしもご一緒させてください!」

「はいっ?」


--- ^_^ わっはっは! ---

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