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083 反撃

■反撃■




エルフィア文明促進推進委員会の会議では、ブレストの策略の下トルフォ一派の反撃が始まろうとしていた。


「しかるに、ユティス・アマリア・エルド・アンティリア・ベネルディンは、エージェントとしての職務を忘れ、その特権を利用して彼女自身の極めて個人的事情を優先させ、コンタクティーにアプローチていることは疑いない事実であります」


「異議あり!」

「どうぞ、エルド」


「ユティスは、地球人和人と地球の様子を調べ、随時報告している。それは、みなさんもご承知のはずだ。それを見ればどれだけ早く地球の状況を正確に伝えているのが、わからないわけがない。われわれが入手したいかなる情報も、すべてユティスと和人からもたらされたものではないのか?」


「報告・・・?どんな・・・?」

理事の一人が声を上げた。


「ベルザス、挙手してから発言を」


す・・・。

ベルザスは手を挙げた。


「議長」

「ベルザス」


「そんな観光旅行の日記など、だれにもできるんじゃないのかね?」

「観光旅行の日記だと?口を慎みたまえ!」


きりっ。

エルドは立ち上がってベルザスを見据えた。


「えー、エルド。あなたも、発言は議長の了解を得て行なってください」

「異議!」

「エルド、どうぞ」


ばっ。


「ベルザス、きみこそ事実の一面だけを捉え、そこだけを強調し事実を捻じ曲げようとしているのではないのか?」


「議長!」

「リーエス。ベルザス」


「エルド、あなたは最高理事の立場と自分の娘を弁護したい一心から、事実がまるで見えてないようだ。ユティスの一面を捉える?みんな十分承知だよ。コンタクティーとの相性が99・99%。けっこうなことだ。仲がいい?信頼関係が築けている?会見?そういうのは単なる逢引と言うんですよ。違うかね?」


ばん!

「な、なんて恥知らずな!」

女性理事の一人が気色ばんで叫んだ。


「ベルザス、ユティスとエルドに、お誤りなさい!」

また一人続いた。


「あなたこそ、裁かれるべきだわ!」

「そうだ!謝罪すべきだ!」

一斉にベルザスを非難する怒号が会議場を飛び交った。


とんとんっ!

「みなさん、お静かに!」

議長は声を荒げた。


「ベルザス!」


「現に、ユティスはエージェントの権利と能力を乱用し、宇都宮和人と一緒の時間を調査と称して、逢引に利用しているではないのか?」

ベルザスが議長の許可を得て発言した。


「だから、逢引とはなによぉ!」

「発言は手を挙げて!」


「異議あり!」

「エルド、どうぞ」


「コンタクティーとの信頼関係を築く行為のどこが職務違反だ?言っていただこうか、ベルザス」


「信頼関係構築ですと?行き過ぎも甚だしい」

「そうだ。ユティスは完璧に脱線しているぞ」

「あれは、逢引だ!」


「あなたのボス、トルフォこそ、ユティスにつきまとってばかりじゃないのよ!」

「そうよ。破廉恥極まりないストーカー行為だわ!」

「そっちこそ裁きにかけられるべきだわ!」

女性理事たちは一斉にユティスとエルドの擁護に回った。


とんとんとんっ!


「お静かに!発言があるなら、みなさん挙手してからどうぞ!」

議長はなんとかして収拾をつけようとした。


「議長」

「どうぞ、ブレスト」

ブレストは静かに言った。


「みなさん。このままでは収拾がつきません。わたしはユティスに対して、査問会を開くことを提案します。もし、ベルザスの言う通りにユティスがエージェントの特権を利用して自分の利益を追求しているだけなら、エージェントの資質に問題があります。今までの報告と収集データを、まず、公平に吟味してみるというのは、どうですかな?」


「査問会だと?」

「ありえない・・・」

「公平な吟味?」

「馬鹿な!」


「異議あり!」

「エルド、どうぞ」


「査問会は違法行為に対してなされるものだ。ユティスは罪を犯すようなことは一切しておらん。只今のブレストの発言、並びに、提案に、断固、抗議する!」


「そうだ。ベルザスもブレストも謝罪しろ!」


委員会会議は、ブレストの思惑通りに地球支援反対派が賛同し、紛糾した。


とんとん!


「みなさん、お静かに!」

議長の大きな声が通り会場に一瞬静寂が戻った。


ざわざわざわ・・・。

しーーーん。


ブレストが場が静まるのを待ちおもむろに立ち上がると、高く手を挙げ、通る声でゆっくりと言った。


「議長」

「ブレスト、どうぞ」

会場の参加者全員がブレストを注目した。


「ここで、双方が言い合ったところで、時間が無駄になるだけです。査問会を開催するかどうかは、明日、ユティスに直接ヒアリングしてみてから、というのはどうですか?15人の委員会の理事全員の前で・・・。それで、理事15人が決定すればよろしいかと・・・」


「異議!」

「ロンバルディーナ」


「ユティスは罪を犯したわけではないでしょ!査問会の提案自体が、彼女に対する侮辱よ!」

「そうだ。そうだ!」


とんとん!


「お静かに!発言は議長の承認を得てからにしてください!」


「議長」

「トルフォ、どうぞ」


「わたしは、ブレストの提案も考慮すべきと思います。だが、一部の方の言われる査問はやり過ぎかと。査問の前に、ユティス自身が理事のみなさんからヒアリングを受けるというのであれは、特別問題はないと思います」


「賛成!」

地球支援反対派が声をあげた。


「決を取れ!」

「異議!」

「エルド、どうぞ」


「みんな冷静になってくれ。査問会を開くというのはどういうことかだ。それを前提にヒアリングをするというのも、査問会を開くのと同じことだ。ユティスのどこに法を犯す行為があったのだ?あなたたちは、本当に、ユティスに法を犯す行為があったと思うのか?」


「だが、個人的感情の利益を優先している」

「そうだ。そうだ!」


とんとん!

「お静かに!」


「待ってくれ。彼女は、確かに、コンタクティーを個人的にも気に入っている。いや、愛していると言っていい。そして、彼の地球を。また、地球人を。そのどこにエージェントとしての資質を問われるところがあるのだ?『すべてを愛でる善なるもの』、その意思を、忠実に、身をもって実行しているのではないのか?『この大宇宙に愛を』という、われわれの誇り高きミッションを、喜んで行なっているのではないのか?」


「そうだ!ユティスのどこが法を犯しているんだ!」

「エルフィアの意思そのものではないですか!」

「そうですとも。それをこんな風に言うとは、あなたそれでもエルフィア人の血が流れているの?」


とんとん!

「お静かに!」


「議長」

「トルフォ、どうぞ」


「そんなにユティスの仕事ぶりに自信があるなら、事前ヒアリングなど問題などなかろう。逆に、ユティスへの疑惑を晴らすいい機会と思うがね。もちろん、わたしはユティスを信じているよ・・・」


きらっ。


ブレストとの打ち合わせどおり、トルフォは決定的な一矢を放つと、会場を安心させるように余裕で見渡した。


「これは、これは・・・。地球支援反対派のあなたが、意外な発言を・・・」

賛成派の一人が驚いたようにトルフォを見た。


しかし、エルドはその瞳に偽りの光を見ていた。


「異議あり!わたしは最高理事として本提案は拒否・・・」

「エルド・・・」


つんつんっ。

そこまで言いかけて、エルドはメローズに突かれた。


にたり・・・。


「ほう。最高理事権限の発動ですか。これしきのことで?冷静さを欠いているのは、どちらやら・・・。行き過ぎはよくはありませんぞ・・・」

この一言を待っていたトルフォは、してやったりとばかりに、エルドに微笑んだ。


「トルフォ・・・」

「エルド、罠です。相手の誘いに乗ってはいけません!」

エルドの脇にいたメローズが素早く言った。

「メローズ、アルダリーム(ありがとう)」


「議長」

「ブレスト、どうぞ」

「エルド、あなたもこの際すっきりしてみては?みなさんはどうですか?」


ざわざわ・・・。

議長は、なにやら議長団と話し合っていた。


「では、本件、一応事実確認のため、ユティス本人へのヒアリングを明日行ないます。査問をするかどうかは、それにより判断することとします。以上!」


とんとん!


「馬鹿な・・・!」

エルドは信じられないという表情で、議長団を見た。


「やられました・・・」

「うむ・・・。わたしとしたことが・・・」

「査問会の開催提案で、みんなの焦点が、ユティスのミッションとは関係のない、個人的な感情にいってしまいました・・・」


「わたしの最後の発言が・・・」

「エルド。それは、もう仕方ありません。査問会が開催されると、ユティスに不利になります。ここは、明日のユティスのヒアリング対策を十分にするしか・・・」

「わかっている・・・」


エルドはブレストの巧妙に張った罠に落ちた。




「ユティス、少し話がしたい」

「リーエス、エルド」


「委員会の地球支援反対派が具体的に動き始めた」

「ええっ?」

ユティスは驚いた。


「どういうことですの?」

「順を追って説明しよう」

「リーエス・・・」

ユティスに不安が広がっていった。


「トルフォが、きみの地球派遣を阻止しようとしていることは、承知しているよね?」

「リーエス」


「彼の目的は、きみをエルフィアから出させないようにすることだ。きみを自分のものにするためにね」

「・・・」


「わたしは彼には『娘をやるわけにはいかん』と言ってあるが、今日の会議を見る限り、裏がありそうだ。手を変えてきた」


「手を変えるとは?」

ユティスはエルドに確認を求めた。


「うむ。先程の地球文明促進支援の委員会会議で、反対派理事の一人、ベルザスがきみの行動を、ミッションとはかけ離れた個人的な事情を優先した、エージェントにあるまじき行為だと、強烈に非難した」


「トルフォ理事ではなく、ベルザス理事が・・・」

ユティスはわからないというような不安そうな顔になった。


「直接言ったのは理事のベルザスだが、これがいかにも怪しい。二人が裏でつるんでいるのは、容易に想像できる。なんとしてでも、きみの地球派遣を阻止しようという意図が見て取れる」


「ひどい方たち・・・」


「リーエス。わたしも、今回の彼の発言はきみを侮辱するものだと抗議した。女性理事たちは一斉にベルザスに謝罪を求めたよ。本当に、極めて遺憾だ思っている。われわれはすぐに抗議をしたが、残念ながら彼の主張に賛同するものもいるんだよ」


「それで、どうなりましたの?」


「うむ。それで委員会会議が紛糾しそうになった矢先、トルフォ派のブレストが、委員会にきみに対しての事実の確認を問う査問会を開くよう提案した」


「査問会ですか・・・?わたくしは罪など犯してはいません」

ユティスはことの成り行きに大いに不安になっていった。


「リーエス。当然だよ、ユティス。だが・・・、委員会は条件付で承諾したんだ・・・」


「なんということでしょう!」

ユティス、査問会と聞いてことの重大さを実感した。


「ああ。誤解も甚だしい。きみのエージェントとしての資格を問いただすというのだ」

「そんなぁ・・・」


「わたしはもちろん反対したが、それをトルフォに『冷静さを欠く行為』と罵られる始末で・・・。申し訳ない、ユティス・・・。力が及ばなかった・・・」

エルドはユティスを見つめ頭を横に振った。


「エルド・・・」

「わたしを援護してくれる理事たちや委員たちも、きみを弁護してくれたよ。だが・・・」


「委員会の条件とはなんですの?」

早くも、ユティスはなんとか改善の糸口を探そうとしていた。


「査問会の前に、きみと和人から入手した二人の行動を吟味するというのだ。プライベートに係わることまで、調べられるかもしれん。実に不愉快極まりない」

「それで、査問会の開催は決まったのでしょうか?」


「いや。査問会を開くには、理事たちの3分の2以上の同意が必要だ」

「まさか・・・」


「明日、事前調査会があり事実の確認が行なわれる。提議人、証人、わたしも含めた15人の理事全員、そして、きみの出席を要請されている」

「エルド・・・」


「そこで、査問会が行なわれるかどうかを審議する」

「・・・」


「一応、準備をしておいてくれたまえ」

「リーエス・・・。もう一度、和人さんにお会いしてきます」


「リーエス。どうどうと会ってきたまえ。遠慮はいらない。素晴らしい人間に会いに行くんだ。はっは」


にっこり。

エルドはユティスに微笑むと、ユティスも微笑み返した。




ぽわぁーーーん。


「和人さん?」

「うわぁ、ユティス、びっくりするじゃないか!」

脱衣所でシャツを脱いで、ズボンに手をかけたところで、和人は手を止めた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「お手伝いできなくて、残念ですわ」

「え?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あわわ!ちょっと待った。部屋に戻るからそこで待ってて!」

「リーエス。うふふ」

にこ。

ユティスは和人の格好がとてもユーモラスに映り、思わず笑みをこぼした。




「ごめんなさい、和人さん。どうしてもお会いしてお話がしたくて・・・」

ユティスの憂いを帯びたような微笑みで、和人はなにか大事なことをユティスが伝えようとしているのだと察した。


「大事なお話があります」

「リーエス」

「どうやら、わたくしは、エージェント失格みたいです・・・」


がーーーん。


「どういうこと?」

和人は頭に一発喰らったようなショックを覚えた。


「わたくしは・・・、わたくし自身の個人的事情を、ミッションより優先してしまっています。委員会もそれを問題にしています・・・」


「わけ、わかんないよ」


「和人さんとお会いすることを楽しんでばかりいて、肝心の地球の実情をまったく調査していないと」

「ナナン。そんなの十二分にしているじゃないか!」


「その方たちがおっしゃるには、地球の座標すら入手していないのがその証拠だとまで・・・」


「なに言ってるんだ!そんなことないじゃないか。座標がわからないのはオレがだらしないだけで、きみのせいなんかじゃないってば。オレと一緒に、いろんなところを見て経験してるし、昨日だってエルドに報告に行ったんだろ?」


「リーエス・・・」


「だったら、どうしすればそんなことを・・・?」


「委員会には、地球を支援することに反対する方たちもいらっしゃいます。その方たちの中には、わたくしの報告は観光旅行の日記だと・・・。そして、和人さんんと個人的な楽しみを優先していると・・・」


「ひどい言いがかりじゃないか!」

和人は怒りと不安がいっぱいに広がってくるのを止めることができなかった。


「だれだい、そんなことを言うやからは?」

「地球支援反対派の方たちです」


「わかった。トルフォ一味だね!」

「リーエス」


「くっそう・・・。トルフォのやつ・・・」

「和人さん。わたくしもいけなかったのです」

「きみは少しも悪くなんかないよ」


「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)。明日、わたくしに対する査問会を開くかどうかの事前ヒアリングがあります。そこで、もし、わたくしがエージェントとして相応しくない行動を取っていると思われる理事たちが10人いたら、正式に査問会が開かれます」


「取り調べられるの?」

「リーエス」


「なんてこった・・・」


「もし、査問会が開かれ、わたくしのエージェント資格を剥奪されたら、わたくしは永久にエージェントに復帰できない可能性があります・・・」 


「そうなると、ここには・・・?」

「来れなくなるかもしれません。少なくともエージェントとしては・・・」


はっ。

「じゃ、一人の女の子として来てよ。ね!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうなると、トルフォ理事がわたくしを、二度とエルフィアから出られなくなるように手を回すことでしょう・・・」

ユティスは依然悲しそうにした。


「そんなぁ・・・。どうにか、ならないの?」

「わたくしは、明日、正直に申しあげるだけです」


「そ、そうだ・・・。オレをその事前ヒアリングに連れてってよ。オレが、きみがいかに働いてくれているかちゃんとを話すから」


「和人さん・・・」

「お願いだ。出させてよ、そのヒアリングに」

「エルドにお伝えしますわ。お申し出感謝します、和人さん」


すすす・・・。


「和人さん!」

そう言うと、ユティスは和人に抱きついた。


すか・・・。

しかし、ユティスはそのまま和人をすり抜けた。


「ユティス、大丈夫。絶対に大丈夫。オレ、絶対にそんなことさせない」

「リーエス」


ぽわぁ・・・。

すぅ・・・。


和人を残して、ユティスの精神はエルフィアに戻っていった。

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