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082 討議

■討議■




「エルフィアの支援はその世界の自立を促すもの。テクノロジーを欲しがるようにするためではない。はじめはそうでなくとも、われわれが支援を終了した途端元に戻ることもある。宇宙的規模の災害でそうなる場合もある。ゼロどころか、少なくないというのがわたしの答えだな」


「・・・」

和人はしばらく黙っていた。

「どうかしたのか、和人?」

エルドはきいた。


「はい。実は、小惑星の衝突で高い文明が滅んだ。わたしの地球にもそういう可能性を示唆する話があります」

「地球に?」

エルドもユティスも大きな関心を寄せた。


「かつて、地球の大西洋という大洋にあったという、高文明のアトランティス島のことです。その人たちは、直径10キロ以上の小惑星が大西洋中央海嶺を直撃したため、海底深く沈んだと主張しているのです・・・」


和人が一説だけれど、海底の調査等ではそこが元は陸地であったとする証拠が次々に見つかっていて、非常に信憑性の高い話としてアトランティスの話を語ると、ユティスとエルドはがくぜんとする。



「こういうお話です。一夜にして海に沈んだという島アトランティス。直径10キロはあろうかという巨大な小惑星が地殻の一番薄くて弱い部分である海嶺に衝突したんだとされています。海嶺はマントル上部から沸きあがるマグマが冷えて海底地殻に変る部分です。だから、柔らかく不安定なうえ、厚さもわずか数キロ程度しかありません。直径10キロもある小惑星がここを直撃すれば、簡単にマントルまで達します。その影響で信じられないような地殻変動が引き起こされ、大西洋の海嶺が海面上に現れたアトランティス島は、全てのマグマを吐き出し、空っぽになった地下は、あっという間に地盤沈下し、4000メートルもの海底に沈んだのです」


「いつ頃の話なのだね?」

エルドはきいた。


「地球時間で約1万2千年も前のことだとされています。わずかに、プラトンの著作に記憶の断片が残っているだけなので、これを一笑に付してただの戯言として片付ける学者も多いです。しかし、何人もの著名な学者が、それぞれの科学的手法で、4000メートル底にかつては地上にあったという、陸地の証拠を見出しているのです。渓谷のような地形とか地上でしか生息できない植物の化石など・・・」


「きみは、それを信じるていのかね?」

「たぶん・・・。とても興味をひかれます・・・」


「では、エルフィアにある話をお聞かせしよう。これは、はたして本当なのだろうか、未だに結論が出ていない話だ。エルフィアには、ある殖民星の伝説があった。星の名前はディアテラ、聖なる大地という意味だ。エルフィア人が殖民を行なった大地はアテル・アンティリアと呼ばれた。それは小惑星衝突で、多くのエルフィア移民が命を落とした。また、アテル・アンティリアとは、エルフィア人がその島を自分たちの当時の最高理事アンティリアの名前にちなんで名づけたもので、アンティリアの島いう意味だ」


「アンティリア、これは、ユティスの名前の一部ですよね?」

「いかにも。ユティスのフルネームは、ユティス・アマリア・エルド・アンティリア・ベネルディンだ」

「とてもキレイでステキな名前だと思います」

「アルダリーム(ありがとう)」

エルドは続けた。


「そして、この惑星の座標も失われた。どの銀河のどの星域なのか、今や知るものはいない」

そう言ってエルドは話を終えた。


「ディアテラですか・・・。地球は、別名『テラ』とも言います。そして、アテル・アンティリア。縮めて発音すると、アテランティリア・・・。アトランティスによく似ていますね」

和人は感慨深げに言った。


「そうですわ。和人さんは、エルフィアのことなど今まで一切お知りになってらっしゃらないのに、おっしゃる地球の伝説や神話、文化の源等が、エルフィアのそれと似ているものがいくつもあります。なにより、地球人は生物学に見てもエルフィア人とまったく変わりませんし・・・」

ユティスもこの不思議に一致した話に興味津々だった。


「ふむ。わかった。では次は・・・」




エルドは和人といろんなことを話した。そして、エルドも和人もお互いを認め合える人物だと判断した。


「エルド、時間が来ています。大変申し訳ありませんが、地球に戻らないと・・・」

「早いな。もうそんな時間か・・・」

エルドは名残惜しそうに言った。


「はい。残念ですが、今日のところは・・・」

「和人さん、アルデリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)」

「ユティス、それを言わないといけないのは、オレの方だよ」

和人はユティスに微笑んだ。


「じゃ、近いうち、また会えることを楽しみにするとしよう」

「リーエス、エルド」

「ああ、息子よ・・・」

エルドは微笑んだ。


「息子・・・?」

「ははは。また会おう」

エルドは謎の微笑を送ると右手を上げると、ユティスは和人を地球に戻した。




エルドの執務室で、エルドは秘書と会話していた。


「エルド、地球人はエルフィア人とまったくといっていいくらい同じです。実際にDNAを詳しく調べてみないとわからないのですが、概観上はエルフィア人と区別つきません・・・」

「だが、宇宙の構成元素も分子も同じ、恒星もG型の単独星、重力も1Gとくれば、同じ進化をとげたとしても、別に不思議ではない。予備調査に行く、極めて重要な意味が一つ増えたな」


「リーエス」


「メローズ、古い記録を調べてみてほしい。それに、わたしからエルフィア教会の総主教に連絡を入れよう。あそこの古文書はデータベースにも載っていないような、特に古いものがまだたくさん残っている。ディアテラが、地球のことであれば、ひょっとしたら地球の座標を特定できる情報も得られるかもしれん」


「リーエス」




エルフィア大教会では、総主教とある古文書についてエルドが話をしようとしていた。


「総主教座下、委員会の最高理事エルドがまいりました」

「まぁ、エルドが直接ですか?」

エルフィア総主教は清楚で慈しみにあふれた、大変美しい女性だった。


「リーエス」

エルフィア総主教は驚いた。


「とても重要なことのようですね?」

「リーエス」

「お通しを」

「リーエス」




エルドが部屋に入ると、総主教はエルドを優しく包み込むように抱擁し、その頬をエルドの顔に付けた。それが終わるとエルドは総主教の右手を取り、それにキッスをした。


「お話とはなんですの?」

にっこり。


「総主教座下。はるか1万2千年前にディアテアという世界に、エルフィアが文明促進の支援をした記録はありませんかな?」

「それが、どうかしましたか・・・?」

「探しているのです、地球の座標を示すものがあるかどうかを。このディアテラには奇妙な一致があります」


「どのようなものでしょう?」

「直径10キロを超える小惑星級の天体がディアテラを直撃し、アテル・アンティリアというエルフィアの支援都市がその島もろとも、海洋に沈んだのです。それと似たような話が地球にも・・・」


「なんと・・・」

「どちらの話でも、文明は滅んでいます」

「全滅ですか・・・」

「いかにも」

「なんという悲劇・・・」

総主教は沈痛な表情になった。


「それが、今ユティスがコンタクトをしている地球という世界の古い話にそっくりなのです」

「ユティスが担当をしているというあの地球にですか?」

「左様。このような古い時代の公式文書データは委員会にはほとんど残っておりません。あとはエルフィア大教会の図書館にと思い・・・」


「リーエス、エルド。早速、調べてみましょう」

「感謝いたします、座下」

「すべてを愛でる善なるものより、エルドとその愛するもの、汝らに永久の幸があらんことを」

「アーリーエス」

ひざまづいたエルドは、エルフィア銀河の象徴を右手で描くと、座下の右手を両手で受け、その優しく柔らかい甲に唇をつけた。



委員会では、ユティスの集めてきたデータと報告を元に、活発な議論が起こっていた。


「地球は、ロケットで自星以外に訪問した実績もあり、いずれ恒星間移動の手段を発見することも明白になってきたと思えるな・・・」

「しっかし、よくあんな化学反応式の宇宙機で、たとえ自星の衛星とはいえ、異世界に行けたもんだ」

「成功する確率は5分5分だったとか」

「勇気があるというか、無謀というか・・・」

「あきれたな・・・」


エルフィア人たちは、地球人がその衛星『月』に行ったアポロ計画を知って、度肝を抜かれた。


「怖いという感覚があるのかねえ、地球人というのは」




はるかなる昔から、エルフィアは大宇宙に殖民をしていた。地球はその数ある殖民星の一つなのか。あのディアテラが地球というのか。もしそうなら、なぜ今まで地球がエルフィア人の目にとまらずにすんだのか。エルフィア人と地球人は遺伝子を共有する兄弟なのだろうか。少なくとも、地球という名の惑星に、エルフィアが殖民したという記録はなかった。宇宙を航行しているうちに難破し、たまたま地球に住み着いた一団がいたのであろうか。委員会では地球の話題でもちきりになった。エルフィア人は、地球を『失われし惑星』と呼んだ。




また、地球人は、既に核エネルギー利用もしており、なんと兵器に利用していた。原水爆の実験に、さらには広島・長崎の原爆投下に、エルフィア人は身震いした。さらに重力場エネルギーも実験段階に入っていた。エネルギーとは何か、物質とはなにか、力場とは何か等を、根本的なことを正しく理解してしっかり制御できるようになる前に、現象だけをとらえ利用しようとする地球人は、エルフィア人を恐怖に陥れるに十分だった。




「やはり考え直した方がよくないかな?」

「委員会のカテゴリーに従えば地球はカテゴリー2かもしれん。しかし、この状況は明らかにカテゴリー1だ」

「しかし、科学力が驚異的に伸びているぞ。その智恵はカテゴリー2であることは明白だ」

「危険だ。地球は時空封鎖すべきだ。回りの世界を破滅に巻き込む前に」


「でも、これらの事実は全てではありません。今や、地球人は核エネルギーを兵器利用すれば、自滅することを知っています。実際には平和的なもの、例えば、発電に利用しているのです」

「重大な放射能漏れ事故が何度もあるというのにか?」

「確かに幾度もありました。今、彼らは学んでいるのです。過渡期にあるのです。それはカテゴリー2定義の理解の範囲内です」


「しかし、地球の多くの地域は、このような科学的進歩から取り残されていることも事実では?」

「そして、手っ取り早く進歩的な地域に追いつこうと、核エネルギーの開発にやっきになっていると・・・」


「ユティスの報告データから読み取れることですが、核爆弾の材料であるウラン235とプルトニウムは、核分裂エネルギーを利用した発電所で多量に作られています。温室効果ガスの二酸化炭素を発生しないという理由で、原子力発電所は、量産されている状況です。しかし、その実、核爆弾をどの国も持ちたいと願っているふしがあります。発電所は隠れ蓑です」


「二酸化炭素発生を抑制するという名目でかね?」

「確かに」

「原子力発電所が、このような地域で大量建設されようとしているといえます」

「それは、単に核兵器への転用を考えてのことかしら?」

「可能性は大いにあります。否定できません」


「ユティスはどうやってこれらの事実を集めたのかね?」

「コンタクティーの助けです」

「それは?」

「テレビと呼ばれる娯楽報道メディアに、地球上のあらゆる地域の状況がニュースとして毎日流されるのです。それを見ています」

「なるほど・・・」


「このまま、彼らに任せっ放しでいいのか?」

「彼らをそのままにしておくことは、周辺宇宙の時空を著しく損傷させることにはならないのだろうか?」

「だからこそ、積極的に支援しなければ、彼らは誤った方向に行ってしまうのだ」


「そこまで、介入すべきだとは思えない。たかだか自分たちの衛星や隣の惑星に宇宙機を着陸させたくらいのレベルでは、カテゴリー2でも大いにオマケだよ」

「違う。違う!到達したところが近い遠いは関係ない。自世界を外から観察し、自世界がどんなに奇跡的に存続しているかを感じたということが、カテゴリー2なんだ」


「しかし、原子力を誤って使用し続けている」

「時空を封鎖するだけのことではないのか?」

「自ら破滅を選ぶなら、そうさせてはどう?」

「使い方を誤れば、何十億人もが死ぬんだぞ。それを知ってて、あなたたちはなにもせずにいれるのかね!」

「そのとおりですとも。まったくあきれてしまうわ・・・」


「このままでは文明の進展に、精神的な成長が追いつくことができなくなり、やがて、人間の精神が破壊され自滅するか、巨大なエネルギーを制御できなくなり、時空に甚大な損傷を与え、宇宙全体のバランスを崩す恐れがある」


「そうなると・・・」

「超次元を通じてエネルギーがあふれ出し、宇宙にあまたある文明も多大な影響を受け、滅んでしまう世界が出るかもしれない・・・」

「それだけは絶対に避けねばならないぞ」


「とにもかくにも、われわれは既に地球の存在を知り、そこと関わったんだ。放置することはできない」

「もう少し様子を見たらいいのよ」


「だめだ。このスピードで科学技術が発達すると、あっという間にカテゴリー3に入ってしまうぞ。平均などを見てはいかん。その世界の最先端がどうなっているかを注意深く見るべきだ」

「そうだわ。最先端地域の監視を継続すべきよ」


「それにしても、同じ惑星内でこんなにも地域差を放置できるなんて、カテゴリー2の世界ではありあえないわ」

「どういう神経してるんでしょうね。地球のリーダーたちは?」


「惑星内で統一した世界を作ることができないんだよ」

「一人の勝者になりたいがための競争社会なんだな。勝者はすべてを独占する」

「ギャンブルというわけだ」


「競争は文明を推進したかもしれないが、残された人々は文明とは縁がないのね」

「所詮、奪い合う文明だ」


「異世界とのコンタクトがなければ、真の意味で目は開かれんよ。かつて、エルフィアも、そうだったんじゃないかね?」

「それは一理あるな」


「皆さん、一つの世界が今まさに道を誤ろうとしているのに、手をこまねいて見ていてよろしいんですか?」

「友人にしようとするのか、否か?」

「地球人とのコンタクトをするべきね」

「リーエス」

「賛成」

「異議なし」




エルフィアの文明促進推進委員会は地球人をこのままにしておけないと判断するが、地球支援派と反対派に分かれてしまった。支援派は、地球に教育使節を送り正しい方向に導く支援をすることを主張した。反対派は、地球人が太陽系より外に出ることができないように、その周りの時空を封鎖すべきと主張した。




「危険極まりない世界だ。文明促進支援などとんでもない」

「そうだ。そうだ」

「即刻、時空封鎖すればよい。自ら星を破滅しようが、どうしようが、自己責任ではないか!」


「みなさん、待ってください。数十億人の人々とその他のすべての生命もろともに一つの世界が滅ぶのを、ただ見ているだけというのは、あまりに非情すぎませんか?」

「自業自得、因果応報というものだよ」

「賛成!」


「たかだが、自星の衛星に降り立ったくらいで、カテゴリー2とは、甘すぎませんか?」

「だが、一応、自星を脱出したんだ。彼らは宇宙から自星を眺めた」


「そうですとも。それが、どういうことか、あなたにもおわかりでしょう?」

「暗闇にぽっかり浮かび上がる、青く輝く奇跡の生命の世界。彼らはそれを自覚したんです。これは決定的です。歴然とした差があるんです。だから、カテゴリー1でなく、カテゴリー2なんです」


「自覚?いったい、どこが?」

「自分たちの衛星ですら、どう利用しようかとしか考えていませんよ」

「リーエス。彼らは、自星の衛星をただの鉱山くらいにしか考えてはいない」

「その先の世界も自分たちのものだと、当然のごとく考えています」

「あまりに幼稚で利己的な精神だ。エルフィアの意思を理解できるほど、成長していない」


「地球は、支援するにはあまりに原始的すぎる・・・。ということですよ」

トルフォは反対派の急先鋒だった。この時点で反対派は賛成派より若干数が少なかった。


「みなさん、一つ重要な事実を見逃してないかね?」

理事の一人が言った。


「今の地球をリードしているのは平和利用派の地域だが、覇権推進地域の科学的躍進は見逃せない。覇権推進派は、平和利用派からテクノロジーを仰ぎながら、それを覇権に使っているのだ。これをどう見れば・・・。地球は分裂しているんだ」


「だから、なんだと、おっしゃりたいので?」

「わたしには、支援を今すぐにでもしなければ、まだカテゴリー1のままに留まる人間たちが、カテゴリー2に移行した人間たちを、力ずくで屈服させると思います。時間的猶予はほとんど残ってないような気がするんです。核戦争の可能性も大いにあるでしょう。ミューレスのような大惨事が起きてからでは遅いんです・・・」


「そうだ。そうだ」

「未来の友人たる世界をみすみす一つ失うことになるかもしれない。それで良しとされるんですかな、みなさんは?」


「友人?バカな。こんな未開世界が?覇権のためのテクノロジーとはなんというバカげて前時代的なことを」


「だから、限定的に平和利用派の支援こそすべきでは?」

「それでは、惑星内で、ますます確執が強まるだけだ」

「地球は、カテゴリー2に入ったばかりだ。しかも先進地域だけに限る。極めて特殊な状況といえる。時期尚早だ」


「しかし・・・」

「その先進地域のテクノロジーの進歩速度は、われわれを予想を超えている」

「驚愕に値する」

「われわれは、既に地球とコンタクトしているのだ。放っておくことなどできない」

「地球支援に問題はない」


「みんな、ちょっとよろしいかな。正式に予備調査にも取り掛かっていない現時点での決断は、あまりにも性急すぎる。わたしは、まず、現地予備調査を続行すべきだと思う。もう一度、われわれの使命を考えようではないか。カテゴリー2に入った世界を破滅から救い、カテゴリー3への平和的な移行を支援する。そうではないかね。地球の状況はまさにその通りなんだ。われわれ、エルフィアの使命そのものが、大宇宙の大いなる意思により、試されている。そうは思いませんかな?」


しーーーん・・・。


「・・・」

「・・・」

「・・・」


沈黙が十数秒続いた。


「エルドに賛成する」

「賛成」

「では、ここは最高理事として、わたしの結論をはっきりさせよう」

理事会は固唾を飲んで、エルドの次の言葉を待った。


「まず予備調査を行う。それに向けて即刻準備に取り掛かろう。予備調査の結果、現状の改善見込みなしと判定されるまでは、時空封鎖は行わない」


エルフィアの最高ポストのエルドは支援派に回り、当座、地球の時空封鎖は見送られた。


「予備調査は、ユティスが継続担当するのかね?」

「無論だ」

「異議あり!」

「トルフォ。きみか・・・」

エルドは、トルフォのユティスへの横恋慕が、災いとなるような予感がした。


「地球は、原始的で危険な世界だ。ユティスは、自分の末娘だろう。しかも、彼女のようなか弱き女性を担当にするなんて、いったい、どういう神経をしてるのかね、エルド?」


「それは、わたし個人への質問かな?」

「質問ではない。ユティスを地球担当から、外すよう、最高理事に要請しているんだ」


「ユティスは、最高理事直下の超A級エージェントだぞ、トルフォ!」

理事の一人が気色ばんだ。


「まさか、この意味がわからんと言うんじゃないだろうな?」

「超A級だろうが、なんだろうが、絶対にしてはならん!」

「待ちたまえ。きみは論理が破綻してるぞ、トルフォ」

落ち着いた声でエルドが言った。


「超A級とはどういう意味か、知らんようだね?」

「なにを・・・」

「超A級エージェントの真の力は、想像できないくらい大きい。精神パワー一つとっても、とても常人の比ではない。きみの言う力とは、これのことかね?」


エルドは、腕をまくって力瘤を見せた。

むきっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


一同は、腕力だけを問題にしているトルフォが可笑しくなった。


「はっはっは・・・」

「ふふふ・・・」

会場に、笑い声が響いた。


「どんな力があるか知らんが、野蛮な地球の担当などユティスにできるはずがない」

「それは女性エージェントへの偏見ね」

「ユティスをどうにかする予定でもあるのかね?トルフォ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうだ。そうだ」

「ダメだ。ダメだ!」

トルフォは叫んだ。


「あら。あなた、ユティスに地球に行ってもらっては困る強い理由でも、おありなの?」


「ふふふ・・・」

くすくすくすくす・・・。


ユティスをめぐってトルフォが一悶着起こし、和人に駆逐された事実を知っている会場は、くすくす笑いに包まれた。


「く・・・」

「トルフォ。あなたはご存知ないのかしら?ユティスの姉や、その他にも大勢の女性エージェントたちも、カテゴリー2の世界で立派にエージェントを勤めて、コンタクティーをサポートし彼らと一緒になって、その世界で幸せに暮らしていますのよ」


「男性エージェントもしかり。コンタクティーとお互い極めて強固な信頼関係を築いて、連れ合いになるケースもある」


「そうだ。なぜ、ユティスの姉たちや他の女性がよくて、ユティスがだめなのか、理由を説明してくれたまえ」


「ううっ。くっそう・・・」


くるっ。

すたすた・・・。


(うぬ・・・。貴様ら、後で吼え面かくなよ・・・)


トルフォは唇を噛み締めると、きっと踵を返して、会場を後にした。

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