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081 本題

■本題■



エルドは和人が理解してるかを見て口を開いた。


「で、これはそのくらいにしておいて、本題に入ろう。少し地球の話を聞かせてくれないか?」

「リーエス」


「地球には統一政府があるのかね?」

「ナナン。地球は約200の独立国で構成されています。統一政府ありません。けれど、国連という各国が代表を出して安全保障や経済といった難問に協力しあう国際機関があります。いろいろ問題はありますが、概ね機能しています」


「なるほど、コミュニティとしては統一しておらん、ということだね」

「リーエス。分裂しています。国連はアソシエーションですから。そこには、経済、教育、健康、文化、その他、まだまだたくさんのサブ機関があります。ありすぎてよく思い出せません。入試で出た時も手も足も出ませんでした」


「入試?」

「運のいい学生と運の悪い学生を振り分ける作業です」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わっはっは。奇妙は習慣だな」

「リーエス。とにかく、地球は統一していません・・・」


「まぁ、それは後でもかまわんよ。経済のシステムは貨幣経済かな?」


「ええ。お金がなければ、衣食住からなにからなにまでも、なに一つはじまりません。だれもがお金を拠出して会社を作り、自由にビジネスを立ち上げることができます。それが資本主義で、これが現状。経済の主流です」


「ということは、他にも?」


「リーエス、計画経済を目指す社会主義もあります。しかし、こちらは官僚独裁ともいうべき状態になり、実権が官僚の特権階級に極度に集中して腐敗してしまい、多くは実質資本主義に変貌してしまいました。もはや、地球には社会主義は形式上でしか残ってません。本当は、お金に象徴される財によらず愛による社会が良いのでしょうが、そういった共産主義は、地球では口にするだけで笑われてしまいます」


「なるほど。力は正義なり。男の世界だな?」

「リーエス。否定はできません・・・」


「和人、きみの所属している日本というアソシエーションはどうかな?」

「日本も資本主義です。一度も社会主義を採用したことはありません」


「わかった。地球の200の国々は、どれも同じ文明レベルを共有しているのかね?」

「残念ながら、地域の格差はとても大きいと思います。日々のパンにもありつけないところも少なくありません・・・」


「ふむ。典型的な既得権構造の社会というわけか・・・」

エルドは眉をひそめた。


「あのう・・・」

和人は心配になった。


「貨幣社会。大変難しい問題だ。これを無くすには相当先になりそうだな」

「なぜ、貨幣社会ではいけないんですか?」

「ふっふ。それで満足するならそれでいいよ」

エルドは優しい表情になった。


「あ、いや・・・。よくわかりません・・・」


「少なくとも、カテゴリー3以上の世界には、地球のような貨幣社会は存在しない。貨幣そのものが問題というより、なにかに対してなんらかの見返りを要求する。そういう愛と善とに相反する精神が問題なんだ。お金というものはそういう精神が具現化した人工的なものだよ。ましてや、付加価値と称して、それ以上のものを要求するということは、愛と善なる精神とは、まったく相容れないものだ。性悪説に基づき、その恐怖からくるものだからね。これに目をつむり、利益や利潤を追求することを是認しているうちは、決して幸福にはなれないよ。永遠の地獄をさ迷うことになるだろうね。問題は、地球人がいつそれに気づくかだ。いいかい、他から教えられるのじゃなく、自ら気づくだよ・・・」


「わかりません・・・」

「いや、これは申し訳なかった。和人、きみを責めているのではないよ」

「リーエス。わかっています。でも、なんだか、とっても悲しくなってしまいます」


「カテゴリー2においては、多かれ少なかれどの世界も一緒だ。そうそうは理解されん」

「リーエス」


「で、日本の文明は、地球でどの辺に位置することになるのかな?」

「日本は、経済的にも科学的にも、地球では、最先端を走る地域の一つです。ただ・・・」


「どうしたのかね?」

「ただ、自然災害が多く、特に地震や津波、洪水、時として大変な被害に合います」


「それをコントロールすることはできていないのかね?」

「ナナン。今のレベルでは、まったく不可能です・・・。その度に、犠牲者や損害が・・・」


「ん・・・」

エルドはしばらく黙った。


「なんと言ったらよいのか・・・」

「胸が締め付けられますわ・・・」

じっと聞いていたユティスの声が震えていた。


「ん・・・、それでだ・・・」

エルドは話題を変えることにした。


「時空の移動手段、特に、惑星内の移動はどうやっているのかね?」

「大気中を亜音速でジェット推進する航空機が飛び交い、各国を結んでいます」


「それは、大いにけっこう。その輸送機器の推進剤はなにかね?」

「化石燃料の石油から作る灯油です。つまり、液体炭化水素を酸素と化学反応させます」


「ふむ・・・。それは、あまり惑星環境に優しいとは言えんな・・・」

「はい」


「地上レベルの移動は?」

「化石燃料の炭化水素のガソリンを燃やし、できたガス圧で動く車や、電気自動車が主力です」


「うーむ。こちらは、かなり深刻な問題を作り出していないかな?」

「リーエス。大気の汚染がとても憂慮されています。それで、各国の規制が始まったところなんです。でも、各国とも足並みはバラバラです」


「それは、すこぶる幸いだ。程度はともあれ、自覚して対策を考えてはいるんだね?」

「リーエス」


「大量輸送手段もそういったものなのかね?」

「地上での大量輸送では、電気による高速鉄道が今や世界の主だった国々でサービスされています」


「それは、安心した。大洋上を移動する手段は?」


「海上は船によります。つい数百年前までは、風力と人力による移動でしたが、今では、ほとんど重油を燃やすことによる蒸気タービンエンジンです。もっとエネルギー効率の良い機関も試されています。まだ、数はほんの僅かだし、ほとんど軍事目的ですが、原子力エンジンを積んだ船もあります」


「なるほど。日本もその技術を確立しているのかね?」

「リーエス」


「通信手段はどうかな?」

「高周波レーザーをバイナリの信号にして光ファイバーで送ったり、電線に高周波信号を流したり、また、電磁波を空中に飛ばしたりして・・・」


「惑星内での通信には十分だといえるな」

「リーエス。精神波を通信手段にするということは、実験段階にも到達してません」


「なるほど。ただ、電磁マイクロ波には気をつけた方がいい」

「マイクロ波ですか?」

「ああ。いかなる電磁波も、長年浴び続けると、人体に良いわけではない」


「一般市民が得る情報の伝達はいかように?」


「主に電磁波とレーザーと呼ばれるコヒレント光によります。マスメディアとしては、電磁波とレーザーによるテレビジョン。これは見る側が一方的に情報を受け取るだけです。しかし、インターネットでは情報は双方向です。だれでも、いつでもPCやスマホがあれば、情報を発信することができます。もちろん受け取ることも。そういえば、テレビジョンもすでにインターネット接続できます。システム・センターの人口知能による、スマホの音声応答もシステム化されています。頭脳波にはまだまだ遠いですけど・・・」


「なんと・・・。いやいや、どうして、和人、きみは自分の世界のことをよく知っているじゃないか。素晴らしいことだよ。それに、きみの世界も、カテゴリー2に成り立てとは思えないくらいの科学的進歩を感じるぞ」

エルドは意外だというように目を見開いて笑った。


「われわれの、エージェント・バックアップ・システムも基本はそういう仕組みだ」

「そうなんですか?」


「ああ。それで、和人。もし差し支えなければ、きみ自身のことを。家族は?」

「両親と姉と妹がいます」


「きみの受けた専門教育は?」

「情報処理関連です。インターネットを中心にWebやソーシャルメディアを専攻しました」


「なるほど、それで、ユティスとのコンタクトが・・・」

「リーエス。初めのきっかけは、恐らく、ソーシャル・メディアです」


「うむ。音楽は好きかな?」

「ええ、とても。オリジナル曲をいくつか持っています」


「ほう、それはまたすごいな。自分で作曲するのか!機会を作って、いつか是非、わたしにも聞かせてくれんかね。わたしも音楽は大好きだ」


「そんな大そうなものじゃないです・・・」


「自信を持ちたまえ。音楽には、人数も楽器の種類や数も、それぞれ、みんな意味があるんだ。すべては演奏者の意思だ。それによって独特の味が出てくる。ソロがコーラスに劣っているなんて、そんなバカなことはない」


「ありがとうございます、エルド」

「気にするな」

少し間があり、和人はエルドにきいた。


「わたしから質問してもいいですか?」

「ああ、かまわんよ」


「それで、エルフィアの文明促進支援は、いつも成功するのでしょうか?地球は、エルフィアの支援を受けるに値する世界なんでしょうか?」

エルドは本当のことを言った。


「まず、地球に資格があるかということからいこうか」

「はい」


「この宇宙に不要なものはないんだ。すべてが必要で役目がある」

「地球にもですか?」

「そうだ。そしてきみたち地球人にも・・・」


「なんの役目でしょう?」

「幸せになることだ」


「幸せ?」

「そう。すべてを愛でて、愛に包まれ、愛を放射し、宇宙を愛で満たし、幸福になる」


「そのぉ。あんまり簡単すぎて・・・」


「わっはっは。頭で考えているうちは、絶対に理解できんよ。こういうものは感じるんだ。そういう気持ちに自然になりそう行動する。頭でわかったと思っているうちは本当はちっともわかってないのさ」


「では、地球人には資格がないのですか?」

「いや、その反対だ。なぜ、地球に人間がいると思うかね?」


「進化の結果としか・・・」

「地球を愛で満たす時期が来たということだよ。それを担うのが人間。和人、きみたち地球人だ」


「人間は、その世界を愛で満たすために出現したというのですか?」

「ああ。弱肉強食の世界を変えることができるのは、人間以外にない」


「他の生物では不可能と言われるんですか?」

「固体においては、愛を実現する生物はいくらでもいる。しかし、種として種を越えて、なおかつそれができるのは人間だけだ・・・」


「本当なんでしょうか?」

「われわれ、エルフィア人に限らず、カテゴリー3以上の世界はそう理解している」


「なんか夢みたいです。地球人はきっとバカにしますよ。そんなことを言うと・・・」

「そうだろうな。偉くもないのに偉いつもりになる。自分以外が、皆、大そうバカに見えてしょうがない。そういうのを愚か者と言うんだ」


「ですが、愛なんて言ったら、地球人は、すぐさま、弱さを連想しますよ」

「ナナン。愛とは、本来、大変力強いものだ。人々の心を満たし、幸福にし、行動する勇気を、永続的に与えてくれる」


「そうですか?」

「うむ。逆に言えば、愚か者はすぐにわかる。愛が足りないことを認めようとしない。そもそも、愛するということはどういうことが、理解できていない」


「それ、とても笑えませんよ・・・」


「ところで、地球人は、自分たちを育んでくれた地球に、感謝しているのかね?」

「ええ。でも、一部の人間は、感謝するどころか・・・」


「よくある話だな。そろそろ、地球人も、自らの使命を自覚する時が訪れたと思うよ。それを、われわれが、ほんのちょっと手伝って道を踏み外さないように見守る」


「それが、あなたたちの支援なのですか?」


「そうだよ。カテゴリー2の世界が、自らの力で、この危険なステージを乗り越えるのは容易ではない。放っておくとたちまちにして滅んでしまいかねないのだよ。一方で、カテゴリー1の世界は自らを滅ぼすような巨大なエネルギーを扱える文明レベルにはない」


「もし、そういう世界にエルフィアのテクノロジーを見せてしまったら・・・」


「学ぶべきことはすべてほったらかしで、精神が未熟なままものやテクノロジーだけを渇望し、それを独占せんと戦い合う。自滅するのは目に見えている。よしんば、生きながらえた人々がいたとしても、一度与えられた以上のものを、より多くわれわれに対して要求するだけだ。もし、それに応えたら、彼らが自ら学ぶという大切な精神成長の機会を、完全に摘み取ってしまう」


「そういうことですか・・・」

「そうだ。わかるということは、実践できてはじめて言えることなんだ」

「リーエス」


「だから、カテゴリー1の世界は、カテゴリー2まで到達すべく、自ら学ばねばならない。われわれにできることは、せいぜい定期的な観察だけだ」


「厳しいんですね・・・」


「和人。地球は、これをどうにかこうにかにしろ、とにかくクリアしたんだ。そしてカテゴリー2にきた・・・」

「はい・・・」


「次は、結果だな」

「はい」


「それから、きみへのもう一つの答。残念ながら、われわれの文明促進支援には、失敗もある。正直、成功したかに見えても、その後幾千年にもわたって文明を推進し続けられた世界は、よくて半分程度だ。わたしたちのミッションが成功したと思うのは、その世界が自ら律して文明促進の道を歩み続けているということを確認できた時だ。その道が絶たれたり、後戻りしたりすることは、カテゴリー2の世界においてそんなに珍しいことでもない」


「そういう世界は、どうなるんでしょうか?」


「一つは自滅。文明レベルに精神が置いてけぼりになって、人々は自分勝手に欲望を追及した結果、自らのテクノロジーで、自らを滅ぼしてしまうことだ。もう一つは、自然災害というか、惑星規模の大災害だ。多くは天体との衝突で文明が絶たれる例だが、それは悲惨なことになる。時に、数十キロメートルの小惑星が秒速50キロメートルで惑星に衝突したらどういうことになるか。きみにも想像できるだろう。文明は、一瞬で跡形もなく消滅するよ。そして、よしんば生き残ったものがいたとしても、元の文明レベルに戻るには、想像を絶する年月がかかる。多くはいったん原始レベルに戻ってしまい、元に戻るのには1万年単位でかかるんだ。それに、ハイパーノバやスーパーノバが、その数十光年近くに出現し、惑星がエネルギー放射軸上に位置していたらそれこそ一瞬だ。強烈なガンマ線放射であらゆる生命が焼かれて死に絶える。自滅、天災。どちらにしても、その兆候を少しでも見逃せば、われわれが彼らを救う時間の余裕など、まったくない。われわれは、文明世界を見つけたなら、必ず、それを見守ることにしている。文明のレベル云々は、関係ないね。生ある世界を、一つとして失いたくないのだ」


エルドはそこまで言うと、和人の理解を確認した。

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