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007 接触

■接触■




夜が明けて、株式会社セレアムでは二宮が一番に出社していた。


「間合いね、間合い・・・。ふーむ」

二宮が自分の席で腕を組んで考え込んでいると、俊介が近寄ってきた。


「おす。おはようっす、常務」

「おはよう。どうした、がらにもなく考え込んで?」


「オレでも考えることはあるんです」

「そうか。お気の毒に・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんすか、それ?」

「『ヘボ将棋、休むに似たり』てな。どう黒帯取るか、思案中なんだろ?」


「うっす・・・」

「左上段回しの次は右上段後ろ回し。ぼっかぁーん。一本、審査中止!なんてな?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ありえるっすね・・・」

二宮はそれをまじめに受け止めた。


「だろ?考えれば考えるほど、相手の手がわからなくなる」

「確かに・・・」


「止めろ。止めろ。そんな暇あったら、さっさと口説いた方がいい」


にた・・・。

俊介は、にんまりした。


「へっ、なんのことっすか?」

「イザベルが技を出せなくなるほど惚れさせる。それしかないな」


「なに言ってるんすか?」

「おまえは組手でイザベルに手が出せなかった。惚れ過ぎるのも困ったもんだ」


「くしゅん!」

「大丈夫、可憐?」


「うん」

(和人さん・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---



「オレは、そんなんじゃないっすよ。それに、イザベルちゃんは簡単には落とせないっすよ。ライバル多いっし・・・。はぁ」

二宮は俊介を見て溜息をついた。


「見え透いた下手な作戦はためならんな。もっと、煩悩に任せた方がいい」

俊介はそれにまったく意に介せず、後を続けた。


「へっ?」

二宮はしかめ面になった。


「思いっきり嫌われるパターンじゃないんすか?」

二宮は疑うような目で俊介を見た。


「ちっちっち。一旦惚れたらな、そっちの方が歓迎されるのさ」

「惚れさすって、それこそが一番の問題なんすよぉ・・・」


「もっと自分に正直に行けよ。お前が考え抜いたってロクな答えは出ん」

「オレをけなして、面白いんすか?」


「励ましてやってるのさ。脳髄を射抜くように真っ直ぐに相手の目を見つめろ。それが無心でできるようになるまで鏡で練習するんだ」


じい・・・っ。

俊介の灰色がかった茶色の目が二宮を入るように見つめた。


「目力の訓練っすかぁ?男に見つめられてもねぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「違うさ。鏡だから、自分に見つめられるんだよ」

「もっと、キモいです」


--- ^_^ わっはっは! ---


「真面目に聞け。相手は一目でおまえの力を見抜く」

「うっす。常務のアドバイスじゃ、あんまし当てになりませんすけどねぇ」


「じゃ、やってみろ」

「うっす」


じいーーーっ!

二宮は俊介の目を睨んだ。


きっ!

「やる気か、二宮っ!」


がたっ。

「え?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「アホ。目力ってのは相手を睨むことじゃない。それはガンを飛ばしてるだけだろうが。余計相手が勢い付くじゃないか。バカもん!」

(しっかし、目つき悪い男だなぁ)


--- ^_^ わっはっは! ---


「ちっ・・・」


「目力というのは目で相手を射抜くことだ。焦点は相手の目の底の向こう、脳髄に合わせる。相手は自分の脳髄を見つめられることになる。すると、相手はおまえが自分の考えが見抜かれてると思い、言いようのない不安にかられるんだ。そして、打つ手がないと降参する」


確かに、俊介の目は二宮の脳髄に突き刺さった。

ぶるっ。


「常務、なにかやってたんすか?」

「いや、武道をやったことはないな」


「おす」

「だが、近いものはある」


「なんすか?」

「アメフトだ・・・」


「なんすか、それ?」

「知らんのか?」


「おす」

「アメリカンフットボールのことだ」




その日、和人は一日中客回りをしていた。


「はぁ。結局、ここの仕事で手一杯か・・・」


(いつまでたっても、自分の将来をじっくり考える時間が持てないよなぁ。いつものカフェで充電するっか・・・)


和人はクライアントの帰りに事務所に真っ直ぐには帰らず、カフェでネットにアクセスをしていた。


(あーあ、結局なにも進展してない。アイデアも出ないし、行動にも移れない)


つぶやきサイトにアクセスすると、ユティス宛てに今日のいいことを書き込んだ。


(『ありがとう、ユティス』と、これでおしまい。エンター)

ぽんっ


ユティスとは和人が作った架空の人物で、和人のつぶやきを無条件で聞いてくれる天使のような存在であった。天使であるから性別まで特に意識はしていなかった。


(本当に、いてくれりゃあなぁ・・・)


当然、ユティスからはフォローもなにもないが、そうやって自分の気持ちを吐露することで、和人にとってはけっこうストレス解消になっていた。


和人が書き込むのは、たいがいその日にあったいいことだけについての感謝の言葉だった。日記という意味なら、どんなことを書いてもいいし、別に悪いことも書いてもよかった。だが、良いことがまったくない日なんてありえなかったし、とにかくそうすることで、いいことに自分の意識が焦点し、気分が前向きになるかもしれなかった。和人はそういう気持ちで、いいこと呟き日記を始めた。


しかし、これがとんでもないところで、とんでもない効果をもたらしていたのだ。




真紀は俊介とそんな和人について話していた。


「最近、和人の商談多いわね?」

「喜ばしいことではないか」


「そりゃ、そうだけど。開発の人員が足りなくなっちゃいそう・・・」

「増やせばいいじゃないか?」


「簡単に言うけど、大変なのよ」

「わかってるさ」


「えへへ・・・。ねぇ、俊介・・・」


すりすり・・・。

真紀は、俊介の側に寄ってきた。


「なんだよ、姉貴・・・?なに企んでる?」

「んとぉ。それでなんだけどさぁ・・・。喜連川イザベル、うちで採らない?」


「へ・・・?二宮の女、いや、片想いの相手をか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ええ、そうよ。和人から聞いたんだけど、イザベル、同じ専門学校のソーシャルメディア科よ。それに日仏ハーフで、フランス語も英語もばっちしなのよぉ」


「イザベル、大山電子だったのか・・・。そいつは知らなかった」

「彼女、来年の春に卒業予定なの」


「なるほど。わかった・・・。すぐに、就職課に募集案内を出そう。会社案内もやろう」

「それはいいんだけどさぁ。俊介・・・」


「なんだよ。まだあるのか?」

「若い女の子ばっかり採らないでよ。社員たちからブーイングされるわ」


「なんだ、そりゃ?」


「彼女たちも適齢期だからさ、年下の可愛い男の子を入れろってうるさいのよぉ・・・」

「それ、姉貴自身のことだろ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「違います!」

きっぱり。


「だって、姉貴、28だろ、そろそろ男の一人や二人・・・」

「あなたもね!そっくりそのままお返しします!」


「心配するな。男は30過ぎでもいいんだよ」

「うるさい!」


「で、イザベルがどうしたって?」

「イザベルと併せて来年こそは男子も採るの。採用枠は4人。うちは絶対的に男手が足りないんだからね」


「わかってるって。去年は、和人を採用しただろ?」

「わたしが口説いたからでしょ?」


「ち、まったく食えない女だよな・・・」


「なにか言ったぁ?」

「いいえ、なぁんにも・・・」


ぷちっ。

真紀は、俊介の手をつねった。


「痛いじゃないか!」

「聞こえたわよ、しっかり」




和人のいいことだけ日記を読んでいる人間は、和人の最新の呟きを受け取っていた。


「『ユティス、オレ、きみに感謝するよ。こうして、いいことがいっぱいあるって、きみが教えてくれたんだから。今はビジネスで迷ってるけど、いつもきみがこれを見ててくれるから、正気を保てるんだ・・・。本当にありがとう、ユティス』・・・だって!」


「あっ、アンニフィルド・・・」

ユティスの側に、いつのまにか長身の美女が来て、空中スクリーンを見つめていた。


「きゃは。見いちゃった!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なぁに、それ?」

アンニフィルドは、にっこりした。


「わたくし宛ての短いメッセージみたいなものですわ」

「わぉ、ラブレターでしょ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ナナン(いいえ)。ち、違います」

ユティスは慌てて否定した。


「そっか。確かに深刻そうね・・・」

「ナナン(いいえ)。そんなんじゃ、ありませんわ」


「じゃ、なに?」

「ですから、ただのメッセージです」


「だれからなの?」

「それが名前しかわからない方なのです」


「言ってみて」

「ウツノミヤ・カズトさん・・・」


「『鬱の身や』ですって・・・?暗そうな名前・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そんなの聞いたこともないわ」

「わたくしもです。エルフィア人じゃないと思います」


「この手紙、どこで拾ったの?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「拾ったわけじゃないんですが、もう何ヶ月も前から、わたくし宛てに来るんです」

「怪しいわねぇ」


ぴっ。


「エージェント・ユティスに新しいメッセージです」

システムがユティス宛にメッセージが届いたことを知らせた。


「リーエス(はい)。お開き願いますわ」

「リーエス(了解しました)」


ぱっ。

システムが空中スクリーンにそれを映し出した。


「あ、またです」

「これ?」


「リーエス(はい)。間違いありません」


「ユティス、オレのちっちゃないいことや幸せは、みんなきみからのプレゼントなんだね。とってもハッピィだよ。それに、今もきみがちゃんと聞いてくれてるのがわかるよ。ありがとう、ユティス」


アンニフィルドはメッセージを読み上げ、ユティスを見つめた。


「なんだか、こっちと通じてるってのがわかってる感じじゃないの?」

アンニフィルドは首をかしげた。


「リーエス(はい)。とっても不思議です」

「で、これ読んでてなにが面白いの?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「面白いというよりは、すごく落ち着くんです。わたくしこそ感謝したいくらいですわ」


「ふうーーーん。何ヶ月も前からって言ったわよね?」

「リーエス」


「前回のミッション中止から何年経ってるかしら?」


「随分経ちますわ。わたくし、今は精神的に落ち着いています。それに、このメッセージで、わたくしはとてもステキな方々と一緒にいて、幸せなのだということに気づきました」


「そう・・・。あなた、その人物に応答したことはないの?」


「ナナン(いいえ)、一度もありません。ですから、今度はわたくしからメッセージをお届けするつもりです。エルドには、テスト・メッセージを出す許可をもらいました」


「エルドに許可って・・・。まさか、文明促進支援の・・・?」

「リーエス(はい)。対象ですわ。恐らくカテゴリー2に成り立ての世界の方だと思います」


「だって、ユティス、あなた・・・」

アンニフィルドはあまりのことにびっくりした。


「本当に、もういいの?」

「リーエス(はい)。みなさんのおかげで、もうすっかりよくなりました。ライセンスも取り戻せました」


「そんなこと言っても。絶対に無理しちゃいけないわ。絶対にだめよ」

「リーエス(はい)。アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)、アンニフィルド」


「やれやれだわ・・・」

「んふ?」




和人はネットでつぶやきを続けていた。


「おっそうだ。どういうわけか、赤信号にぶつからなくていい気分だった」


和人は、どんな些細なことでも、なにかいいことを思い出すことを習慣とするようになっていた。


「ユティス、きみが少しだけ幸運をくれたんだよね。赤信号にひっかからなくてとってもいい気持ちで車に乗れたよ。それに、すごくキレイな青空だった。あんな鮮やかなスカイブルーは本当に久しぶりだったよ。きみが抜けるような青空をプレゼントしてくれたんだね。上を向いて深呼吸したら、とっても気分が晴れ晴れしたよ。青空をくれて、ありがとう、ユティス」


(ユティス、きみが本当にいて、話せたならどんなにステキか・・・)

和人はそう思いながら、最後のユティスという文字を綴った。


すすす・・・。

ぽんっ。


その時、カーソルが勝手に動いた。

(あれ・・・?気づいてください・・・?なんだこのアイコン?)


--- ^_^ わっはっは! ---


「ありゃりゃ?このアイコン、昨日もあったような気もするが、特に意識しなかったぞ・・・」


ぽん。

そして、自分でも無意識に、そのアイコン上で、エンターキーを押してしまっていた。


ぴーーーっ。

「しまった!」


さ、さ、さーーーっ。

突然PCが一切のアプリを拒否し、未知のプログラムが走り出した。


「しまった!マルウェアに感染しちゃったかも・・・」


とんとんとんとん・・・!


和人はあわててプログラムの実行を阻止しようとキーを押したが、強制終了は無効だった。


「な、なんだ・・・?。強制終了がきかない・・・」


ばち、ばち、ばち・・・。

和人はキーを叩き続けた。


「だめだぁ・・・!」


ぷち、ぷち、ぷち・・・。

和人はさらにメインスイッチも押し続けたが、PCの電源オフも無効になっていた。


「ウソだろう・・・?電源オフもできないなんて・・・」


ぱん。

和人はPCをたたんでみた。


「これなら切れるかも・・・」


和人はしばらくしてPCを再び開けた。

ぱっ。


「げげっ!まだ繋がってる・・・」


プログラムはどんどん勝手に走っていった。


(ウィルスか、マルウェアの類か・・・?相当やばいかも・・・)

和人はそのままにする他がないので、とてつもなく心配になった。


(どうしよう・・・。様子をみるしかないか・・・)


ぴぴーーー。

ぴーーー。

PCは暫くなにかをダウンロードしているような感じだった。


ぴたっ。

そして、彼の人生を変えることになったメッセージが始まった。




セレアムの事務所では、国分寺師弟が深刻そうに話していた。


「和人は?」

「今、外回りしてるわ。俊介、なにか急用でもあるの?」


「ああ。それならいい」


「どうしたの?」

「ちょっと、気になることがあってな・・・」


「なによ、深刻そうな顔しちゃって?」


さっ。

弟の俊介は一枚の紙を姉の真紀に見せた。


「姉貴、これを見てくれ」


「なんなの?」

「システム室のあるマシンの稼動ログだ」


「うん。ほとんど毎日、何回か一瞬だけ・・・、動いてる?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ああ。一瞬だけ動くんだ。しかも、ウィークデーの10時から5時くらいまでが圧倒的に多い」

俊介は断定するように言い、姉を見つめた。


「13時前後と15時前後が、特に多いわね・・・」

真紀も異常を感じていた。


「だろ?昼飯時と帰社する2時間前だ」

「商談の整理を兼ねた一休みってわけかしら?」


「さぁな。他の時間、マシンは休みっぱなしのようだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「不健全資産ね。どのサーバー?」

「それが、問題なんだ。ほとんど和人の外出時間中にしか動いていない」


「なによ、それ?」


「もう何ヶ月もずっとログを追っかけていて、昨日、急にピンときたんだ。なんで、こう一瞬しか作動しないのかってな・・・。しかも、和人の外出日に限って・・・」


「偶然じゃない?」

にた・・・。


「いや。普通のサーバーなら、別に気にもとめんさ」

俊介は意味深の笑いを浮かべた。


「これ、ただのフロント・サーバーのじゃないの?」

「いいや・・・」


「じゃ、いったいどのマシンなの?」


「驚くなよ・・・」

「もったいぶらないでよ」


「実はじいさんのマシンのログなんだ・・・」

「ええ?まさか、あのハイパートランスポンダーってことぉ?」


「ああ。ビンゴ」


「でも、故障してるって言ってなかった?」

「じいさんは、そう言ってるが、腐っても鯛。あの事故でかすり傷一つなかったセレアムの超時空通信マシンだぜ。動かないわけがない。極めて正常だよ」


「じゃ、なんで今まで動かなかったの?」

「稼動条件。つまり、IDとかキーとか、パスワードとか、なにかソフト的に制御機構が働いてたに違いない」


「なぜ、あれが急に動いたわけ?」

「わからん。そして、まさに今また動いているんだ」


「今、動いてるの・・・?」

「ああ。和人は、外出中・・・」


「あはは・・・」

「不思議な一致だ」


「和人がぁ?まさかね・・・」


「それに、今日のは長いぞ。既に10分以上動いている」


「どういうことかしら?」

「だから、和人にそれとなく聞いてみようと思うんだ」


「俊介。あれはただのマシンじゃないのよ。超銀河間通信用の・・・」

「わかってるさ。可能性は二つ。あいつは、超銀河間通信をしているか、ログがでたらめか・・・」


「ログがでたらめなら、もっとひどいことになってるんじゃない?」

「だから、答えはもう一方なんだよ、姉貴・・・」


「ちょと、脅かさないでよ・・・」


「オレは事実しか言わん。和人は超銀河間通信をしているんだ。まさに今な。数ヶ月も前からやっているようにして・・・」


「うそ?それが結論?」


「ああ。だが、セレアムとではない。もし、そうなら、じいさんを数ヶ月も放って置いて、和人だけにアクセスすることは考えられん」


「わかったわ。夕方はミーティングあるから、ヒアリングするとしたら、その後ね」

「ああ。それでいい」

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