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079 同伴

■同伴■




エルドの執務室ではユティスが報告を行っていた。


「ユティス。地球は、われわれの支援を受けるだけの段階にある・・・、と思うかね?」

「リーエス。しかし、正直に申しあげると、部分的な特定の地域に限れば十分に資格があるもの、他の地域は・・・。なにしろ、カテゴリー2になったばかりですから・・・」

「うむ。よく正直に答えてくれたね。わたしも同感だ。そういうことだからこそ慎重にいきたいんだ・・・」


「リーエス。地球の特定地域のテクノロジーは驚異的なスピードで進歩しています。今までの文明進化パターンが適用できるかどうかは疑問です。特に、コンピューターの発明で、地球は極めて加速度的に進化し続けています。今でも、相当由々しき状況にありますけど、このまま放っておくと近い将来には、人々の精神はテクノロジーの進歩にまったく追いついていくことはできなくなるでしょう。奪い合いが基本のビジネス最優先というのもどこかで修正しなければ、やがて地球は自滅に向かいかねませんわ・・・」

ユティスの言葉の一つ一つにエルドは頷いた。


「地球では、自由なビジネスという名の下に、競争が推奨され強者が正当化されています。自由とは選択権の自由であって責任が伴います。それなのに、ビジネスを基本にして、奪うことや他を圧倒することが権利として主張され、正当防衛の名の下に、勝手気まま他人の迷惑を顧みない方が法外に大勢いらっしゃいます。声が大きくて力のある人たちです。あくまで強者の理論。どれだけの人々が人生に不幸を感じているか・・・。それを思うと、・・・わたくしは胸が痛みます・・・」


「相当、好ましくない状況だな。支援するなら一刻の猶予もないように思うが・・・」

「リーエス。そうしませんと、わたくしたちは素晴らしい友人となれるはずの一つの星を、永久に失うことになります・・・」

ミューレスを経験してきたユティスの一言で、その場に重い空気がたちこめた。


「うむ・・・」

「地球では、競争とビジネスが全てを支配していますわ」

「われわれのように、善意のボランティアで人々を支援するということはないのかね?」

「もちろん、あります。ただ・・・、あまりに地域格差や階級格差が激しく、どこまで有効に機能しているのかは・・・、今の状況ではわたくし一人では判断できません」


「さらなる調査が現地で必要ということかね?」

「リーエス」


「ユティス、きみ個人としての意見でいいんだが、このまま地球の予備調査を担当するつもりなのかな?報告を聞くだけでも、実際に赴任するとなるとかなりの危険が伴うかもしれん・・・。もちろん、和人は例外としても・・・、わたし個人としては、その、慎重に考えてもらいたいのだが・・・」

「はい、もちろん」


にっこり。

ユティスは迷わずそう言うと微笑んだ。


「そう言うと思ったよ。仕方あるまい。よろしい。わたしの権限で、本プロジェクトの担当継続を承認しよう」

エルドは顔を崩した。


「ア、アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)、エルド!」

ユティスはこぼれるような笑顔になった。


「ところで、ユティス・・・」

エルドも優しい笑みを浮かべた。


「和人は大変好青年だと思うよ。システムがはじき出した数値はだてじゃないな。異常なほど高い。とにかく、一度、彼とそういったことも話し合ってみたい。ぜひ、実体で和人をここに連れて来てもらえると嬉しいんだが・・・」

「リーエス、エルド!」

ユティスはエルドが和人を評価していることに喜び、笑みをこぼした。




「和人さん!」

ユティスは和人に呼びかけた。ちょうど、地球時間で朝8時を過ぎたところだった。


「うぁ、眠いよぉ・・・」

和人は疲れ声で答えた。


「和人さん、朝早くに起こしてしまって、ごめんなさい」

和人の枕元にユティスが正座していた。


「ユティスなの?」


がばっ!


--- ^_^ わっはっは! ---


にっこり。


「とても安らいだご様子でした」

「寝顔、見られちゃったか・・・」

「うふ」

「いや、かまわないよ。どうせ、もう起きなきゃいけない時間だったから。逆にきみにはお礼を言わなくちゃ・・・」

「ナナン、そんなことありませんわ」


「8時か、こりゃ寝すぎちゃったよ。さて、すぐに仕事に行かなくちゃ」

「あのぉ、朝のお食事は、されないのですか?」

「リーエス、いつもギリギリに起きちゃうからね。それに、あんましお腹も空いてないし」


「よろしいんですか、朝、食べなくても?」

ユティスは心配になった。


「まあね」


「すみません。わたくしが和人さんのもとにいることができれば、毎日、ちゃんとしたお食事を作ってさしあげれますのに・・・」

「きみが手料理だって・・・?」


かぁーーー。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そ、そんなこと、頼むわけにはいかないよ・・・」

和人はあっという間に赤くなった。


「どうしてですか?わたくしのお料理は、お嫌ですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「とんでもない。そういうことじゃなくて、きみにそこまで甘えるのは、いけないんじゃないかって・・・」


「なぜですか?」

「だって・・・、そのぉ・・・、正当な理由がないじゃないか」


「大切な方に、朝食をお作りしたいと思うこと以外に、正当な理由がいるのですか?」

「た、大切なって・・・」


(連れ合いよ。連・れ・合・い、ユティスに足らないもの・・・)

あの一言が、和人の脳裏にフラッシュバックした。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうですか。わたくしはぜんぜん気にしませんわ。和人さんが、喜んでいただけるのなら、それが、わたくしにとって一番嬉しいことなんですから」

「あぁ、その、気持ちだけもらっとくよ。ありがとう、ユティス」


(やばーーー。一方的に、自分の気持ちを吐露してしまうところだった・・・。ロマンチックもへったくれもないよ、寝起きのパジャマじゃ・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「ちょっと、着替えるから・・・、その・・・」

「お手伝いできなくて、申し訳ございません」

ユティスはキッチン部屋に戻った。


「なんというか・・・。こういうの、けっこう、すごいことだったりして・・・。まるで新婚さんみたい。えへへ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


和人は顔洗いと歯磨きを手早く済ませるとスーツに着替えた。


「今日は外回りだから、スーツを着ないとね」

「和人さん、とってもステキです!」

ユティスは和人のそばに立って和人をしげしげとながめた。


「襟元が少しだけ・・・」


すかっ。


ユティスが直そうとしたが、イメージ体なので、彼女の手は和人のスーツを素通りした。ユティスはそれがとても悲しかった。


「ご、ごめんなさい・・・」

「なに言ってんだよ。気づかせてくれて、ありがとう、ユティス」

「リーエス・・・」

「さあ、出かけようか」


にこ。

和人がユティスに微笑みかけると、ユティスの表情も明るくなった。

「リーエス、和人さん」




ばたん。

和人は車に乗り込むと、助手席にユティスを座らせた。


「きみにはシートベルトはいらないよね?」

「ふふふ、精神体ですもの。それは操縦士の安全装置ですね?」

「リーエス。え、操縦士?」

「変でしょうか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あは。いいよ、わかるから。でも。正しくは運転手だね」

「運転手ですか?」

「リーエス、お客様」

「まぁ・・・」

にこにこ・・・。


ぴっ。


和人がラジオをつけると、いつもの朝のニュースだった。


「こうやって毎日、世界中で、なにが起こっているか知るのさ」

「それは便利ですわ。天の川銀河のニュースも流れるんですか?」

「え?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うーーーん。それはちょっとね・・・」


(本日夕方6時より、銀河系第一渦状腕ニノミヤ星系で天の川銀河カラテ大会が開催されます。開催前の選手のインタビューです。では、地球代表のニノミヤ選手。『おす、ニノミヤです。以上!』・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「ありえないな・・・」


「うふ。地球にだけ特化した、ローカル・ニュースなんですね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「極めてね。地球のさらに小さな地域のニュースさ」

「うふふ。そのニュースも大切なんですね?」

「そういうこと」




ぶろろろろ・・・。


「こうしてきみと一緒に車に乗っているのは、正直とても楽しいよ」

「和人さんさえよろしければ、いつでもお供いたしますわ。地球の予備調査も必要ですし、いろんなところや人々を見てみたいです」


にこっ。

ユティスは和人の方を向いてにっこり笑った。


「ほんと?」

「はい!」


和人は今日一日とても楽しく過ごせそうな気がした。




「さあ、事務所に着いたよ」

「リーエス。そろそろ、ここの方々にはわたくしを慣れていただこうかなと思っていますが・・・」

「そうだね。あまり刺激的でなければ、いいんじゃないかな」

「刺激的でないというと、ちゃんと服は着たイメージでとか?」


--- ^_^わっはっは! ---


「だーーー、ダメ、ダメ。冗談でもダメ!そんな姿はだれにも見せちゃダメ。精神体でもダメだったら!」

「和人さんにもですか?」

「ダメーーー!え・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---




「お早うございます」

和人は事務所の自席についた。


ぱさっ。

既に二宮は席について新聞を広げていたが、それをたたむとユティスに向き直った。


「やあ、ユティス、一緒に来たのかい?今日も一段と可愛いね」

「リーエス、ありがとうございます。二宮さん、お早うございます」

「先輩、オレには?」

「おや、和人、いたのか?」

「いますよ、ちゃんと」


すっ。

ユティスは和人の隣に座った。


「ちぇ、おまえだけ、隣に可愛い女の子を侍らせて仕事かよ」

「先輩!」

「ホントのことだろ。いいな、いいな、和人くんは、いつも彼女と一緒で」

「ちょっと、先輩、聞こえてますよぉ。みんなが、こっちを見てますってば・・・」


「いいじゃないか?」

「あのですね、彼女たちにはユティスは見えないんですよ」

「それが、どうかしたか?」

「オレたち、変人扱いされてしまうってことです」

「事実じゃないのか。オレはともかく、和人は」


--- ^_^ わっはっは! ---


「先輩!」

「ふふふ、お二人とも声をお出しになるからですわ」

「黙ってやってる方が、よほど変人に見えるよ」

和人は言った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「わたくし、事務所の方全員の頭脳波にシンクロできれば、みなさんがわたくしの姿や声を感じることもできるようになりますわ」

「ホント、ユティス?」

「リーエス、二宮さん」

「ちょっと、待った。もう少し考えさせて・・・」

和人は、回りの人間が3人を変なものを見るようにして見ているのを、感じた。




「二宮のヤツ、なに言ってんのかしら?」

茂木が言った。


「また、はじまったわ」


女子社員たちが、二人の会話に注目した。彼女たちにはユティスの声は聞こえないし姿も見えなかった。だから、和人と二宮の会話しかわからないのだった。


「やっぱり、変よ、あの二人。まるで見えない3人目の誰かと会話してるみたい」

「二人とも、ついにいかれちゃったじゃないの?」

「あのぉ、ユティスって名前、聞こえませんでしたか?」

そこで、石橋は不安げにたずねた。


「そうねぇ、確かにユティスって言ってたわ・・・」

「で、誰のこと、それ?」

「知らないわよ」

「ほら、また言ってる」




「二宮さん、今朝もステキですわ」

「ほんと?」

「リーエス。とっても」

「ありがとう。ユティス」

「ちょっと、声が大きすぎますよ、先輩」


--- ^_^ わっはっは! ---


「おまえは態度がでかい」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あーーーっ、みんなに見られてますってば!」

「ほっとけよ。ちっ・・・」

二宮はそっけなく言った。


「あのぉ・・・」


もじもじ・・・。

ユティスは和人の側に座ろうかどうかと迷っていた。


「いいよ、ユティス、そこに座っても」

二宮はユティスに目配せした。


「和人さんのお隣ですよ・・・?」

「そう。オレの側と言えないのが悔しいけど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「失礼いたします。和人さん」


ぴとっ・・・。

にっこり・・・。


「あ、ああーーー、朝っぱから、これ見よがしにくっ付きやがって!和人、いつか、ぶっ殺す!」


--- ^_^ わっはっは! ---




「和人の隣の席空いてるはずだけど、誰かいる気しない?」

「えっ?」

「石橋、和人の隣に座ってみてごらん」

「で、でも・・・」

「ほれ、行きなさいってば!」


ぽん。

岡本が石橋を押した。


とことこ・・・。

石橋は和人の横に来た。


「あの、和人さん・・・」


かぁーーー。

石橋は赤くなった。


「ちょっと・・・、いいですか?」


すとん。


「あーーーっ!」


二宮はすっとんきょうな声をあげた。


するん。

石橋はユティスの席に座ったがユティスをそのまま通り抜けた。


すくっ。

ユティスは笑顔で席を立ち和人のそばに立った。


すうっ。


「・・・」

石橋はなにか心が暖かくなるようなものが、身体を突き抜けるのを感じていた。


ほわーん・・・。


(なに、この感覚?)


つぅ・・・。

みんなはその一部始終を見た。


誰もいない席を二宮は見つめ、次に和人の横に視線を移し、まるで誰かが移動したようだった。和人の視線も同じように動いた。


「確かに、あいつら・・・なにかを見ている・・・」

茂木は思わず口にした。


「和人さん、いまここに誰かいるような様子でしたけど・・・。違いますか?」

石橋は恐る恐るたずねた。


「い、・・・いや、誰も・・・」

「でも、変です・・・」

和人は二宮を見た。


「へへ。そのぉ、誰かいると思う?」

二宮は誤魔化しにかかった。


「いないんですか?和人さんの周りには、いつも誰かいるような気がします」

「はは、守護天使じゃないの?」

二宮はそらとぼけた。


「いいえ。そんなんじゃなくて・・・」

「幽霊とか・・・」

二宮は石橋に近寄ると耳元で低くささやいた。


「きゃあ!」


ぽん!

石橋は悲鳴をあげて椅子から飛びのいた。


どんがら、がっしゃーーーん。


「うるさいわね、そこ!朝っぱからなに叫んでんの!」

真紀の声が飛んだ。


「すいません!」

「うっす。失礼しました!」


(やっぱり・・・。絶対に誰かいる・・・。わたしには、見えないけど、和人さんのそばに誰かいるのよ。でも、決して幽霊なんかじゃない。天使のような・・・。そう、天使。とても優しくて美しい女性・・・。わたし感じる・・・。彼女、ユティスだわ・・・)


石橋は本能的にそれがユティスの精神体と察していた。

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