077 発破
■発破■
「バカってのは、ああいうのを言うのね。べーーーだ!」
アンニフィルドはトルフォの背中に向かってあかんべぇをした。
「ガキっぽ・・・」
「うるさいわね!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド、やりすぎですわ」
ユティスがアンニフィルドをたしなめた。
「ごめん、ユティス。でも、わたしはお腹の虫がおさまらないの」
にっこり・・・。
そして、次の瞬間アンニフィルドは和人に微笑んだ。
「うーん。それにしても、和人、さっきはかっこよかったわよぉ!」
「満点よ。トルフォを完璧に撃退ね!」
クリステアも感心した。
「地球応援軍のスクランブルが間に合ったってとこね。あのトルフォがタジタジだったもの」
「しばらくは彼もおとなしくするかなぁ?」
「だといいけど・・・」
ぺこ・・・。
和人はクリステアとアンニフィルドに向かって頭を下げた。
「でも、クリステアがいなかったらと思うと背筋が寒くなるよ。それにアンニフィルドがここに連れてきてくれなきゃ、ユティスを守れなかった。オレの力なんかじゃない・・・」
和人は急にトーンが低くなった。
「すごいな、SSってのは・・・。トルフォのエネルギー派を時空を歪めて簡単に逸らしてしまえるんだもの・・・」
「そんなの大したことないわ。SSなら誰だって最初に習う防御法よ」
クリステアが答えた。
「きみたちにとってトルフォを撃退するのは簡単だったろ・・・?どうして、わざわざオレを呼んだんだい・・・?」
和人はSSの力をまざまざと見せ付けられ、自分がここにいる理由がわからなかった。
「それはね。あなたにしかできないことだって言わなかった?」
アンニフィルドが目を細めた。
「オレだけにしかできない・・・?」
「リーエス。わたしたちSSが物理的にユティスを守るのは簡単よ。でも、ユティスがして欲しかったのは精神的な防御、鉄壁のシェルター、絶対的な安心感よ。それはあなたの役目・・・」
アンニフィルドがゆっくりと和人の理解を確かめるように答えた。
「・・・」
「和人さん・・・」
にっこり・・・。
ユティスは嬉しそうに和人に微笑んだ。
「そんなオレ大そうなものじゃないよ・・・」
「ナナン・・・」
ユティスは優しい目をで和人を見つめると、静かに首を振った。
「和人さん。あなたも含めてわたくしたちチームの勝利ですわ」
「でも、オレ、トルフォの力を見くびっていた。オレこそ後先考えず、見境なくやったんだ。ユティスの命を危険にさらせちゃった・・・」
へにゃ・・・。
和人はアドレナリンが噴出していた緊張感から開放され、その場にへたり込んだ。
どきどき・・・。
ぶるぶる・・・。
「だらしないなぁ・・・。今になって足が震えてきちゃった・・・」
「そんなことありませんわ。わたくしとても嬉しいです。和人さんが一生懸命わたくしを守ろうとしてくださって。それに、トルフォ理事に言ったあの言葉・・・」
「言葉って・・・。あっ・・・」
(思わず、ユティスを愛しているって言っちゃったんだ・・・)
「あれは・・・、本当でしょうか?」
ぽぉ・・・っ。
ユティスは、尊敬するように大きなアメジスト色の目で和人を見つめ、頬をほんのり赤く染めた。ユティスは、明らかに和人の言葉を期待して待っていた。
(今よ、和人。さっきトルフォに言ったように、ユティスに直接愛してるってちゃんと伝えなさい。『女神さま宣誓』をもういっぺんちゃんとやり直そうってね!)
アンニフィルドが和人の頭の中で語りかけてきた。
(『女神さま宣誓』だってぇ・・・)
どきどき・・・。
今度は戦いのアドレナリンではなかった。
(ユティス・・・)
和人はユティスの潤んだ瞳に見つめられ、鼓動が一気に早くなった。
(ちょっと待ってよ。みんなの前でかい?そんな、恥ずかしいよ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
(どうせ、みんなバレちゃってるんだから、関係ないじゃないの)
「あ、ま、そのぉ。なんだ。必死だったんだよ、オレ。きみを守ろうろしてさ、トルフォをなんとかしなきゃなってね。彼、体はでかいし権力者だし。勝てるとしたらユーモアしかないかなって。とっさに出たんだ。二宮先輩のおかげだよ」
「そうですか・・・。和人さん・・・」
じぃ・・・。
ユティスは和人の次の言葉を期待して待っていた。
「で、身体はともかく、ハートにケガしなかった?」
そわそわ・・・。
(あ、バカ。そんなこと言ってどうすんのよ、和人!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。大丈夫です」
「服とかも傷まなかったな?」
「ええっ?あ、リーエス・・・」
「そっか、そりゃよかった・・・」
(あーっ、とんちんかんなこと言って、会話を終わらせちゃって!)
--- ^_^ わっはっは! ---
(さっきの勢いはどこにいったのよぉ、和人。しょうがないわね、手伝ってあげるわ)
アンニフィルドは物理的には精神体になにもできないので、精神体と同じくサイコエネルギーを使って、和人の胸をつねった。
(ちくっ!)
「イテッ!」
和人は本当にちくっとしたような気がした。
「どうかされましたか?」
和人が胸に手をやったのを、ユティスは心配そうに見つめた。
「その・・・」
(胸が痛いんでしょ)
「ちょっと、胸が・・・」
「まあ、和人さん、胸がどうかされたんですか?」
(バキューン)
「う、撃ち抜かれちゃった」
--- ^_^ わっはっは! ---
「えっ?」
(今話してるのは、だあれ?)
「ユ、ユティス。ユティスだよ」
「わ、わたくしに?」
--- ^_^ わっはっは! ---
(次は足払いよ)
こてん。
アンニフィルドのサイコパワーで和人の精神体は倒れた。
「和人さん!」
ささっ。
ユティスは和人に慌てて駆け寄り心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「うん。ははは・・・。カッコ悪い・・・」
和人は本当に転んだような気がした。
(さあ、和人。後はまかせたわよ)
ユティスはアンニフィルドのように精神エネルギーを使えば、和人に障ったかのようには感じた。しかし、和人の精神体を掴んだり起こしたりはできなかった。
「わたくし、和人さんを起こしてあげるお手伝いもできません。それが悲しいですわ」
ユティスは和人の側に屈んで、少し悲しそうに言った。
「さっきはオレがそうだった。よくわかるよ、ユティスの気持ち・・・」
「和人さんのお気持ち嬉しいですわ、とっても・・・」
にっこり・・・。
ゆっくりとユティスの顔に笑みが広がった。
さーーー。
すか・・・。
ユティスは和人を抱き寄せようと両手を差し出したがが、無常にもユティスの腕は和人の体をすり抜けた。
「ごめんなさい。もう少しだけ、わたくしが和人さんのところに行くまで待ってってくださいね・・・」
にんまり。
(和人にしては上できかな。80点ね)
アンニフィルドはクリステアに目配せした。
(90点はあげてもいいんじゃない?)
クリステアは物言いを付けた。
くるり。
ユティスはSSの二人に向き直った。
「和人さん、アンニフィルド、クリステア、みなさん、本当に感謝いたします」
「ユティス、ドレスが・・・」
その時、和人がユティスのドレスを見た。
「あ・・・。わたくし、着替えないと・・・」
「そうね、トルフォのヤツのおかげでドレスが汚れちゃってるわ」
「リーエス」
ユティスは礼をし、和人を振り返った。
「和人さん、すぐに戻りますから・・・」
にこっ。
ユティスは笑顔で言った。
たったった・・・。
ユティスは小走りに消えていった。
「うわぁ、ユティスの可愛いこと・・・!」
そんなユティスの後姿を目で追って、クリステアが言った。
「ねぇ、ねぇ、和人もそう思うでしょ?」
クリステアは和人にきいた。
「と、当然・・・」
「当然、どう?」
「可愛い・・・」
「どれくらい?」
「うんと・・・」
「だれが?」
「ユティス・・・」
「よし、合格!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ていう風に、ユティスに声かけなきゃダメじゃない、目で追っかけてるだけなんて、ただのムッツリスケベだわよぉ」
「声かけたって、スケベに聞こえるんだけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「和人。ユティスは、さぁ・・・」
「なに、クリステア?」
「きっと、あなたの前では、うんときれいでいたいのよ」
「うん・・・」
和人は同意した。
「さっき、アンニフィルドが言ってた、ユティスが誰だってってことだけど・・・」
和人は、ユティスについて知らないことがまだまだ沢山あって、それを知りたかった。
「ああ、そのことね。ユティスはエルドの末娘よ」
アンニフィルドが答えた。
「エルドの末娘・・・?」
「そう。エルフィアの最高理事の娘。トルフォが狙うわけよね。美人だし、可愛いし、性格もよくて、清楚で、適当にオトボケをかましたり、明るくて冗談も好きだし、けっこうスポーツもできるのよ。それに、体の傷を癒したりする治癒能力も高いわ」
「十分です・・・」
和人はユティスが万能人間のような気がしてきた。
「それに、なんといっても、ユティスのすごいところは人の感情ケア能力が抜群に高いところね。サイコ・セラピストって地位はあるけど、訓練してできるもんじゃないわ。生まれつきの共感センスがなければね。人を暖かく包み込んで精神の安心と安定を回復させてあげるの。まさに 癒しの天使だわ。和人もそう思うでしょ?」
「ああ。トルフォとまったく逆だね」
「そうよ。あーっ、またヤツのこと思い出しちゃったじゃない」
「ごめん」
「ユティスって、最高理事の末娘って鼻にかけてもいないし、わたしが男だったら、絶対ほっとかないわ。エルフィアにすらめったにいないもの、こんな娘。わたしにとっては妹みたいな感じかなぁ・・・」
「でも、足らないものがあるんだけど・・・。わかる、和人?」
今度はクリステアが和人に謎をかけた。
「ええ?ユティスに足らないものぉ?そんなのあるわけないよ・・・」
和人は異議を唱えた。
「ちっちっち・・・。それがあるのよ。なんだと思う?」
「わからないよ、いきなり言われても・・・」
「連・・れ・・合・・い・・よ!あははは」
答えはアンニフィルドが陽気に答えた。
「はいっ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「な、なに言ってるんだよぉ!」
「あーーーん、結婚式見てみたいなぁ・・・、ユティスの・・・」
「あー、わたしもぉ。ねぇ、アンニフィルド・・・」
「リーエス、クリステア・・・」
「き、きみたち、そんなことはばかりもしないで、よく言えるね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それに、女神さま発言があったとはいえ、和人、あなたラッキーなんてもんじゃないわ。ユティスに、連れ合いとして選ばれたってこと、目の前で確認できたんだから」
クリステアはからかうな目になった。
「えーっ、連れ合いに選ばれたって・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あれだけ、はっきり好意を示されてるというのに、あなた、まだ、わかんないわけ?」
アンニフィルドがあきれ顔になった。
「はっきりって・・・?」
「あっきれた・・・。ユティスのお目々はあなたしか見てないのよ。地球の男って、みんな、あなたみたいにスーパーおバカなの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「でも、トルフォとかが、また・・・」
いらっ・・・。
「あなたねえ。『女神さま宣誓』したんだから、命かけるんでしょう、ユティスに。死んだ気になって戦いなさい!今度は手伝わないわよ!」
和人の弱気に、一転、アンニフィルドは強烈に発破をかけた。
「はい・・・」
「それはそうとして、天の川銀河の情報だけど集まったの?」
「いや。全然、まとめきれてない」
「こら、やる気あるの?」
つん。
クリステアが和人を突っついた。
「面目ない・・・」
「まぁ、いいわ。今現在の情報でいいから、くれる?」
アンニフィルドが続けた。
「どうやって?」
「イメージ転送してみてよ。数値はどうせ当てにならないんでしょ」
「申し訳ない・・・」
「いいの。周りの銀河との位置関係がわかればこっちで探すわ」
「リーエス」
「ところで、オレ、そろそろ仕事に戻んないと・・・」
ユティスはまだ戻ってくる様子はなかった。
「わかったわ。ユティスにはわたしから言っとく」
「今度はユティスが来てくれると・・・」
「そうね。次はユティスを行かせるわ」
「リーエス・・・」
「ユティス、まだ着替え終わんないようね」
クリステアはユティスが消えた方を振り返った。
「でも、ホントに時間なんだ・・・」
「いいの、挨拶しなくて?恋人に一等きれいになって来ようって思ってるのよ」
「恋人って、そんなんじゃないよ・・・」
「あなた、女心に相当鈍いわね」
「かもね・・・。それに、また会えるし・・・」
「しかし、手も握れないなんて切ないわよ、和人。あーあ、あなたたち見てると、とても人事とは思えないわ」
「じゃ・・・、そろそろ戻してよ、アンニフィルド」
「そうね・・・。ごめんね、ユティス・・・」
アンニフィルドは和人を地球へ戻した。