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075 対決

■対決■



「くっそう・・・」

トルフォは、独り部屋で顎に手をやり行ったり来たりしながら、考え込んでいた。


(ユティスに強引にせまりすぎたかもしれん。ああでもしないとな・・・。みすみす最高理事の後継者になるチャンスを逃してたまるか。婚姻さえ結んでしまえば、後はどうにでもなる。あのクソいまいましい地球人の和人やら、カテゴリー2の野蛮人のくせして、よりによってユティスに『女神さま宣誓』をしてしまうなんて・・・。うかつだった。エルフィア教会に知られたら、二度とチャンスはなくなるぞ・・・)


トルフォは、ユティスに対し強引にやりすぎたことに舌打ちしたが、ユティスを諦めるつもりは毛頭なかった。




「どうしたのだ、トルフォ。あなたらしくもない」

地球支援反対派の理事の一人、ベルザスが言った。


トルフォは腕を組んで、部屋の中を行ったり来たりしていた。

「ユティスに女神さま宣誓をしたという、地球人の精神体、ウツノミア・カズトとはなにものだ?」

「地球人?」

ベルザスは長身のトルフォを見上げた。


「そうだ。今、委員会が文明促進支援を検討しているカテゴリー2のケチな世界だ」

「まだ、委員会で正式支援が決まったわけではないでしょう?」

「だが、ユティスが予備調査の担当をしているのだ」

「ああ。その件ですか?」


「いいか、ベルザス。ユティスは、最高理事エルドの末娘、エルド直下の超A級エージェントだ。その彼女が、直接、地球の予備調査を申し出た。コンタクティーのウツノミアとやらとの相性が・・・。ええい、聞きたくもない!」


「なんですか?」

「あのくそいまいましい野蛮人コンタクティーと、99.99%だというのだ」

「ほう。ユティスとの相性がですか?」


「そうだ。すでに、ユティスは、そやつに相当熱をあげている・・・。わたしは、どうすればよいのだ?次期最高理事の席につくためには、ユティスとの婚姻は、またとないチャンスなのだ。絶対に諦めるわけにはいん・・・」


「調べますかな?」

「無論だ!」

「わたしにつてがある。やってみましょう、トルフォ」

「頼む・・・。いつかは、そやつと対決せねばならんだろう」

「外に出る」

「お気をつけて」

トルフォは、ベルザスには答えずさっさと部屋を出て行った。




(ユティスは、エルドの最後の未婚の娘だ。姉たちは、片付いて独立して暮らしている。ということは・・・、どうしても、ユティスは手に入れねばならない・・・)


すでにトルフォはプライドをいたく傷つけられていた。


(しかし、どうする?この前のことエルドに知れたら、まずいな・・・。ユティスが自らトルフォとのことを語るようなことはしまいが、聞かれると話してしまうだろう。特にアンニフィルドにはそうするだろう。そうなると、エルドや彼の親派の理事たちの耳に入るだろう。なにより、エルドの耳に入るのはまずい)


トルフォはエルドの後継者として次期理事長の座をねらっており、後継者を指名するにあたり、エルドの機嫌を損なうことだけは避けたかった。しかし、トルフォはその欲望を押さえられるほど自分を教育していなかった。噴水の側で小鳥と戯れているユティスを見つけると、どうにも自分を押さえることができなかった。




ぴぴぴぃ。

ばさばさっ。

小鳥たちが一斉に飛び去った。


「ユティス。わたしだ・・・」

「まぁ、トルフォ理事・・・!」


がしっ。

トルフォはユティスの腕を掴んだ。


「ユティス、いい加減にわたしの求婚を受け入れてくれないかね?」

「困ります。そのようなことをおっしゃっられても・・・」


ぐいっ。

突然、トルフォは欲望を押さえられなくなり、ユティスを引き寄せ抱きしめた。


ぎゅうっ。

「ユティス、きみを愛してるんだ!」


「な、なにをなさるんですか!」

「ユティス!」


そして強引に唇を奪おうとした。

「お止めください!」


くいっ。

ユティスは顔を振って、やっとのことでそれをかわした。周りには誰もいなかった。


「助けて、誰かぁ!助けて!和人さん!」


じたばた・・・。

ユティスはトルフォの腕の中でもがいたが、所詮力ではかなわなかった。ユティスは、プライベートラインでSOSを発信した。


「和人さん、お助けください!」




ぴきーーーん。


「ユティス!」

和人は、突如ユティスの悲鳴を聞いた。同時にアンニフィルドの声も。


「和人、大変!ユティスがトルフォに捕まっちゃたわ!」

「なんだってぇ!」

「ユティスを救うのは、あなたにしかできないことよ。急いで!」

「ああ・・・」

「さあ、精神体で行くわよ。準備はいい?」

「う、うん。リーエス・・・」




事務所にいた和人は急にがくんと頭を垂れPCのキーボードにつけた。


ごてっ!

ピーピピーッ!


事務所にPCの警告音が鳴り響いた。和人のPCのスクリーン上には、でたらめなアルファベットが猛烈なスピードで現れ、画面をスクロールしていった。


「あっ、和人!」

和人は、頭をPCのキーボードに乗せたまま、気を失っていた。


がたっ。

どたばたっ。


「和人!」

国分寺はすぐに気づくと、同時に気づいた二宮に指示した。


「二宮、和人をソファーに!そっとだ・・・」

「うっす」

「おまえは足を持て」

「うっす」

「いくぞ。せーの」

「うーーーす」

二宮と俊介は和人を抱えると、応接室のオファーに静かに寝せた。


「なになに?」

「どうしたのよ、和人?」

「和人さんが、どうかしたんですか?」

3人を追って、数人が応接室に入ってきた。


「騒ぐな、みんな。和人は大丈夫だ。少し休ませればじきに元に戻る」

俊介は何事もなかったように言った。

「さあ、仕事を続けろ」


「石橋、和人のPCの電源を落とせ」

「はい・・・」

「常務、和人のヤツ、また・・・」

二宮は、俊介に目配せした。

「ああ、エルフィアに意識を召還されたらしい」


「今回はいきなりでしたねぇ・・・」

「ユティス以外のだれかがしたのかもしれん・・・」

「じゃ、例の恋敵。ユティスの危機?」

「わからん・・・。待つしかないな。戻ってきたら聞こう」


(みんな、なに言ってるの?和人さんの意識が飛んじゃったって大変なことじゃない。救急車呼ばなくてもいいの・・・?)

石橋は不安が一気に広がっていくのを感じた。


「病院に連れてかなくていいんですか?」

石橋は心配そうに和人を見た。


「いや、それには及ばん。大丈夫だ」

俊介は石橋を見つめた。


(わたし、和人さんになにもしてあげられない・・・)




ぽわーーーん。

ぶわっ。


アンニフィルドの助けで和人が急いで精神体で到着すると、ユティスの側にいるトルフォの目の前だった。


「なにやつ・・・?」

和人の精神体が現れるとトルフォはユティスを放した。


ぱっ。


「きさまが、ウツノミア・カズトだな・・・」

「だったら?」


すっ。

和人はすぐさまユティスとトルフォの間に割って入った。


「和人さんっ!」

ユティスの顔に安堵が浮かんだ。


「低脳の野蛮人め!」


ぶんっ!

すかっ。


トルフォは和人にいきなり殴りかかったが、もちろん、精神体の和人に当たるはずもなかった。


--- ^_^ わっはっは! ---


すかっ。

トルフォの拳は和人の頭を素通りしていった。


「無理だよ」


ぶんっ。

すかっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


トルフォは今の和人が精神体だということを、完全に忘れるくらい感情的になっていた。


「きさまーーーぁ!」

トルフォはライオンのように唸った。


「ウツノミア・カズト・・・」

「トルフォ、あなたは、婦女暴行未遂、ならびにストーカー迷惑防止法違反。地球だと、立派な死罪だよ!」

「ふ、ふざけるな!」


「ほんとですか、死罪って」

びっくりしてユティスが囁いた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ははは、冗談。でも、間違いなく犯罪だよ」

「まぁ!」

和人の姿を見た途端、ユティスは一瞬にしてすっかり安心した。


「逆上して相手を死なせちゃったら、話は違うよ。よくて無期懲役、本当に死罪になるからね」


「こやつ・・・」

トルフォは和人をを見据えた。


「地球ではね、嫌がる女性に無理強いするのは第一級の罪だし、男として最低の烙印を押される。自分だけでなく、家族や友人の一生の恥でもあるんだ。わかるかい、あなたに?」

「畜生レベルの低級人間に説教される筋合いはない!」

トルフォは和人を指差し激しくののしった。


「きさまこそ、たかがカテゴリー2の野蛮人のくせして、神聖なエルフィア女性に言い寄るとは、なんという冒涜だ!」

「じゃ、あなたも同罪だね!」

「なにぃ?」

「だって、神聖なエルフィア女性に言い寄ってるんだろ、あなただって」

「和人、一本!」

アンニフィルドは叫んだ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「わたしはエルフィア人だ!」

「そんなこと関係ないね。あなた自身が言ったんだ。神聖なエルフィア女性ってね。エルフィアの男が神聖だなんて言ってないだろう?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「エルフィアの男だろうが、地球の男だろうが、ユティスに言い寄ってることに変わりはないね。しかも、あなたの方がよほど露骨だ!」


「ふざけやがって!」

トルフォはますます血が上ってきた。


「このクォークなみのドチビ男が!」

トルフォは1m86cmもある長身だった。


「なるほど、体のデカさ以外、なにも自慢できるものはないってわけだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんだとぉ!」

「体は、赤色超巨星並にでかいが、脳ミソがクォークサイズってとこかな」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ふ、ふざけるな!」


「あはは!いいわよ、和人!」

アンニフィルドは和人にエールを送った。


「存在を認めてあげて、空っぽって言わなかったんだから、せめて、礼ぐらい言ってくれてもいいもんだけど・・・」

「この薄汚い地球人め!」

「知ってる?あなたの手にも悪玉バクテリアでいっぱいだって」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あはっ・・・」

クリステアは笑いを懸命にこらえた。


「和人、あなた最高よ!」

アンニフィルドは声を上げた。


和人は、物理的に危害を加えられる心配がまったくないので、少し強気だった。トルフォのあまりに強引で自分勝手な論理は、穴だらけだったのだ。


「それに、オレを野蛮人っていってたけど、あなたは、野蛮人の定義は知ってるの?」

「なにをバカなことを。文明未熟で暴力に訴え礼儀をわきまえない輩のことだ」

「それ、そっくり、あなたに返すよ。初対面でいきなり殴るんだもんね。まるであなたのことを言ってるようにしか思えないけど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あはは」

アンニフィルドは大喜びだった。


「きさまぁ、調子に乗りやがって!わたしはユティスが生まれてからというもの、ずっとユティスを娘のように見守ってきたんだ。おまえが入り込む余地などない!」

「娘を娶るつもりなんですか?しかも、5人の奥さまたちをほったらかしにして」


--- ^_^ わっはっは! ---


「な、なにを・・・!」


(なんで、そんなことを知っているんだ、ヤツは?)

トルフォは痛いところを突かれてさらに血が上った。


「あーはっは。最高よ。和人!」

アンニフィルドはお腹がよじれるくらい笑った。


「なんの。これしきの突っ込みは、二宮先輩に鍛えられていますからね」

和人は3人に言った。


トルフォはますます血が上り、とても和人の相手ではなくなっていた。和人との応酬でトルフォはどんどん株を落としていった。


「とにかく、ユティスに近寄ったら、わたしが許さない!」

「いいえ、本人のわたくしが、大いに許しますわ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


ユティスがすぐさま許可を出した。


「あわわ・・・、ユティス・・・!」

トルフォは、突然の援護射撃を喰らって、口をパクパクさせた。


「ユ、ユティスがなんと言おうと、わたしが許さん」

「論理がとっくに破綻してるわね」

クリステアがあきれた表情になった。


「なんの権限がおありで、そうおっしゃいますか?」

和人は自信たっぷりに言った。


「わたしは、ユティスの・・・」

「ユティスのなんなんですか?」

「ユティスの・・・」

「一番消えて欲しい男」


--- ^_^ わっはっは! ---


クリステアが加勢した。


「あはっは!」

アンニフィルドは吹き出した。


「ば、ばかな!貴様こそ、何様のつもりだ!」

「オレは、エルフィアにとって地球の正規コンタクティーです。エルフィアは地球に対して約束があるはずです。そして、ユティスはエルフィアの正式な代表エージェントです。最高理事のエルドがこれを公式認可したことですよ。あなたはこれを覆す立場ですか?」

和人は今度は堂々と正論を言った。


「わたしは認めん!」

「あなた個人が認めようがどうかはこの際関係ありませんよ。既に委員会はそう認めたんですから。エルドが任命した正規エージェントが、ユティス。彼女の任務遂行妨害は、委員会の処罰の対象となるはずですが・・・?」


「やるわね、和人、委員会エージェント規定読んだのかしら?」

アンニフィルドはわくわくした。


--- ^_^ わっはっは! ---


「くっそう・・・」

トルフォは、委員会しかもエルドという名前が出たことで、言葉に詰まった。

「おのれ、青二才め!」


じーーー。

和人はトルフォを見据えた。


「そこまで言うからには、あなたはユティスを愛してるんでしょうね?」

「あたりまえだ!」

トルフォは吼えるように言った。


「命にかけても?」

「えっ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「愛しているなら当然です!」

「ふざけるな!お前こそどうなんだ!」

「質問はわたしが先にしたんです。どうなんですか?」

和人の切り返しにトルフォはたじたじになった。


「おまえが先だ!」

「わかりました。あなたは即答できないんですね。とりあえずリーエスではないということでいいですね?」

それに対して、和人は誘導的に質問を切り替えた。


「そうは言っておらん!」

トルフォは再び答える側へと戻った。


「なら、リーエスなんですか?」

質問が強烈な攻撃になっていった。


「うっ・・・」

「別に、リーエスだからといって命を取ろうなんて思ってませんよ」

「じゃ、リーエスだ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


トルフォはうっかり言った。

「あーあ、散々迷ったあげく、条件付きならリーエスなんですね?」

トルフォは、和人に化けの皮をはがされ、和人の手玉だった。



[あっはっは。ばっかじゃない、トルフォ・・・」

アンニフィルドは手で口を押さえた。あまりにおかしくてどうにかなりそうだった。


ひくひく・・・。

見れば、クリステアも顔を引きつらせて、やっと笑いをこらえていた。


「くくく・・・」

ぷるぷる・・・。

ユティスはうつむいて表情を悟られないようにしていたが、笑いで肩が震えていることを隠すことはできなかった。


「きさま、覚えておけ!」

「ええ、あなたのバカ丸出しの顔は、忘れたくとも忘れられないですよ。銀河が終末を迎えたってね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「く、くそう・・・!」


(なんで、こう切り返されるんだ、このわたしが!)


「じゃあ、貴様はユティスを命をかけて愛しているというんだな?」

やっと、トルフォは質問する側になった。


「ええ、愛してますとも!」

「なにを言うか。生意気な。わたしを誰だと思ってる?」

「身体のでかいおじさん」

「お、おじさんだとぉ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「許せん!」


「ぷはー!」

ついにアンニフィルドが笑いをこらえきれなくなった。

「あーははは!」


「わたしは、文明促進支援委員会の理事だぞ!きさまとは比べものにならんくらいの富も持っているんだ。貧乏な若造とはわけが違う!」

「地位も財宝もへったくれもないんです」

「あるに越したことはないだろう!」


「最も肝心なものがなければ、他になにがあったって意味がありませんよ、トルフォ」

「なんのことだ?」

「わからない?」

「なにを言うか!」

「そりゃまぁ、残念。エルフィア大学の幸福学特別講座の単位は認められません。トルフォ君、君は落第決定です。小学校にお戻りください」


--- ^_^ わっはっは! ---


「う、うるさい!」

「それに、愛情の深さや大きさを、そんなものだけで計ろうとすると思いますか、ユティスが?」

「このぉ!精神体になにができる!」

「すべて」

「なんだと?」


「精神体だから自由なんじゃないですか。どこでも行けるんし、どんなに遠くにいようと、いつだってユティスが望めばすぐに彼女のそばに行けます。彼女の心に話し掛けれます。現に、ここに、わたしがユティスのもとに現れたこと自体、彼女に望まれているってことではないんですか?わたし自身の力ではここには絶対に来れませんからね」


(ちくしょうめ!もし、本当にユティス自身がやつを精神体として召還したんだとしたら・・・)


「今回はわたしが呼んだんだけどね。えへへ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


アンニフィルドが、笑いをこらえながら、ユティスに耳打ちした。

「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)、アンニフィルド。早速お手柄です」

「パジューレ(どういたしまして)」

ユティスは満面に笑みを浮かべた。


「いまいましい精神体め。そこまで言うならこうしてやる!守れるものなら、守ってみろ。お前には手出しできまい!」


トルフォは、両手を上に上げると弧を描くように振り下ろし、和人に向かって、フルパワーでエネルギー波動をぶつけてきた。


「はぁーーーっ!」


「いけない!」

クリステアが叫んだ。


「クリステア、お願い!」

和人は叫んだ。和人の真後ろにはユティスがいた。


「はっ!」


ぐにゅり。

クリステアがユティスの周りの時空を曲げた。


ばしーん!

エネルギー波動は鋭い音を立てて和人の精神体を通過し、さらに後ろにいたユティスを直撃したかに見えた。


ぐぃーーーん。


が、間一髪、クリステアの時空処理が間に合い、エネルギー波動はユティスのそばを通り抜けた。


「ハー、ハー、ハー!」

トルフォは大きく肩で息をした。


「見境ないんですね。わたしの後ろには、ユティスがいたんですよ!」

和人の精神体がたちまち元に戻った。


「きさまこそ、女を盾に取るとはなんという恥知らずなやから!」

トルフォはうなった。


「あべこべじゃないですか。今、この瞬間、ユティスがいることを忘れて怒りに任せわたしを狙った時点で、あなたは自分がいかに愚か者か証明したんだ。ユティスを愛しているなんて言う資格なんかない。仮にもユティスを愛しているんであれば、『ユティス、危ないからきみはそこをどいてくれ』とか言うだろ。紳士というものは、どんなことがあっても第一に女性を危険にさらさないようにするもんさ。ましてや、愛しているなら」


「なんだとぉ・・・」


「要するに、自分本位。他のだれにも思いやりのかけらもない。何でも手に入ると思っている。ユティスを愛しているんじゃなくて、ユティスを所有したいだけ。金銀、財宝、大邸宅と同じレベルでね。それが、あなたの本性さ」


「うるさい!」

「それに、わたしはここじゃ精神体で物理的なことはできないけど、自分でできないのなら、それができる仲間を持ってればいいのさ。クリステアやアンニフィルドみたいなね」


「なにが仲間だぁ?」

「人生はチームスポーツ。なんでも自分でしようなんて、人を信用しない心の貧乏人のすることだね。あなたには、あなた自身を助けてくれる友人がいるのかい?」

「当たり前だ、わたしが助けて欲しいといえば、皆がわたしに従う!」

「あははは。従う?それは友人とは違うね」

「なにがだ?」


「それは手下っていうんだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あなたの命令、いや脅しに従っただけで、心のそこから湧き出てくる愛とか友情とかに基づいて、自発的に助けるのとは根本的に訳が違う。どうせ、マインド・コントロールかなにかやってんでしょう、使い捨てで」


「なにを、こしゃくな!」

「つまり。あなたには、肝心なものが手に入る可能性はまったくない!」

「肝心なものとはなんだ?」


「わかんないのかい?ユティスの心。ユティスの愛。それからオレたちの気持ち。他の諸々の人の友情。ついでに人生の知恵と女神の幸運も。人生で手に入るものの中で一番大切なものさ。これらは永遠に自分のものだ。だけど、あなたはなにを持ってる。財宝、女、豪邸、権力、委員会の理事バッジ・・・?なんだ、死んだら失ってしまうものばかりじゃないか。死ぬ時、天国には何一つ持っていけないぞ!いや、地獄かもね、あなたは」


「こいつ、言わしておけば、勝手なごたくばかり並べやがって。下賎な地球の猿ガキめが!」

「おーお、言葉使いの低さも一流ですね!」


「勝負ありよ!」

クリステアが言った。


「おどきなさいトルフォ!これ以上なにかしでかすなら、委員会の理事たちや、エルドを今すぐ呼び出すわよ!」

アンニフィルドも言った。


「クリステアにアンニフィルド。エルド直下の超A級SSめ・・・」

「そうよ。あなたなんて一ひねりだけど、試してみる?」

アンニフィルドが目を細めた。


「うっ、ちくしょう・・・」

「それからね、今日のことは、既にエルフィア中が知ってるわ。ユティスを、神聖なエルフィア女性を危険な目に合わせたこと。絶対にエルフィアの男がすべきことじゃないわね」


ぱち。

クリステアは、ユティスと和人にウインクをした。


「相当な罰があることを覚悟しておきなさい。それにユティスが誰なのか、あなたが一番よく知ってるんでしょう。エルドの後継者なんてとんでもない」

「ふん。そっちこそ後で吠えずらかくな。ウツノミア・カズト、いずれ実体同士になったら思い知らせてやる」


くるり。

ずかずか・・・。


トルフォはさっと踵を返すと去っていった。

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