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071 横槍

■横槍■




トルフォはエルフィア文明促進支援委員会の理事の一人であった。彼はユティスに対して並々ならぬ想いを寄せていて、ことあるごとにユティスに言い寄っていた。にもかかわらず、ユティスは持ち前の人の良さで彼を特別警戒するでもなく、やんわりと自然にかわすにとどめていた。


美くしい泉の脇でユティスが考え事をしていると、トルフォが近づいてきた。


「ユティス・・・」

「あ、トルフォ理事・・・。ごきげんいかがですか?」

「最高だ。すこぶる調子がいい。特に今日はね」

「それは、それは。よかったですわ」

「こうして、きみに会えたからね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ。ご冗談ばっかし」

「いやいや、なにを言ってる。わたしは少しも冗談のつもりはないよ」

「それは、どうも。でも、申し訳ございませんわ」

「ん?」

トルフォはユティスの言葉に気に食わない動きがあるのを察した。


「次のミッションに備えていろいろ打ち合わせがありますの。すぐに行かなくてはなりませんわ」

ユティスは微笑みこそしなかったが、柔和な口調で続けた。


「次のミッションとは、いったいそれはどういうことなんだ?」

トルフォはたちまち真顔になった。


「近々、地球というあるカテゴリー2の世界に予備調査のため、2年間派遣されるということです」

「なんだって?きみは地球に本当に行くつもりなのか?」

高をくくっていたトルフォは、少なからずショックを受けた。


「リーエス。わたくしも超A級エージェントです。前のミッションがあのような事態になったとはいえ、いつまでも休んでばかりはいられません」

「しかし、前のミッションのことが・・・」

「ライセンスは復活しました。エルドからも正式に依頼を受けておりますわ」

「エルドか・・・。あやつ、また余計なことを・・・」


ちっ。

トルフォは舌打ちをした。


「わたしはきみをそんな危険な目に合わせることはできない。すぐにエルドに抗議をする」

「お止めください。トルフォ理事」

「きみには復帰はまだ早すぎる」

「もう十分時間はいただきました」

ユティスの目にはある決心が現れていた。


「なんということだ。こうしてはいられない」

「エルドにお会いになるのですか?」

「当然だ。ユティス、わたしはすぐに委員会に戻る。そしてきみのミッションを解いてもうらうよう、断固抗議する」

トルフォは気の短い男ですぐに行動した。彼はあれこれ悩んで時間を無駄にするのは大嫌いだった。


「トルフォ理事、それはお止めください」

「ナナン、きみを行かせるわけにはいかない。失礼する、ユティス」


すたすた・・・。

トルフォはそう言うと大またに泉を後にした。




「わたしだ。メローズ、すぐにエルドに会わせてくれ」

トルフォの目には不安と怒りと焦りが映っていた。


「トルフォ、エルドは重要会議中ですよ」

メローズはやんわりと答えた。


「いつ終わるのだ?」

「まだ、始まったばかりです」

「こっちも最重要事項なのだ。ユティスの予備調査の件だ。呼び出すことはできんのか?」

トルフォは爆発寸前だった。


(この様子では一波乱きそうだわ・・・)

メローズはエルドにハイパー通信で呼びかけた。




「エルド、トルフォが血相を変えて執務室に乗り込んで来ました」

「メローズか?」

「リーエス」

「トルフォめ、しょうがないヤツだ・・・」

「リーエス。どうしましょう?」

「きみでは阻止できんようだね?」

「リーエス。SSを呼びますか?」

「いや。ちょうど休憩を入れようと思っていたところだ。2、3分、そこで待たせておいてくれ。そのくらいの時間ならヤツも暴れはせんだろう」

「リーエス。それなら大丈夫です」




「トルフォ、幸い、後2、3分で会議の休憩が10分ほどあります」

「エルドは戻ってくるのだな?」

トルフォは今にもメローズに掴みかからんばかりだった。


「リーエス。ここでお待ちください」

「ふん。最高理事かなんかしらんが、随分ともったいぶる男だなエルドは!」

トルフォは野獣のように吼えた。


「冷たいお飲み物でも召し上がりますか?」


にっこり。

メローズはトルフォに微笑みかけた。


「うっ・・・」

メローズの美しい微笑みに一瞬トルフォはたじろいだ。


「本当に2、3分だろうな?」

「リーエス。秒単位では狂うかもしれませんが・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


メローズはそう言うと、冷えたやや緑色の透明のカクテルをトルフォに用意した。


「さぁ、どうぞ、お召し上がりください」

「ああ・・・」

トルフォはそれに口をつけた。


「いかがですか?」


ぐいっ。

「ふん。まぁまぁだな・・・」

それは辛口の清涼感溢れた男性向けの一級品だった。


ぐびぐびっ。

が、トルフォはそれを味わうこともなく一気に飲み干した。




エルドは執務室に入っていくと、ソファに深々と腰を下ろしふんぞり返るように後ろに体を逸らせたトルフォを見つけ、無性におかしくなった。


(はっは、どうだろう。この男には、品格という言葉は理解できんらしい)


「これは、これは。トルフォ、わざわざお越しいただいて」

エルドは一応礼儀を優先した。


「世辞などいらん」

トルフォは、死ぬほど長い2、3分待たされて、苛立っていた。


「では、用件を聞こうかな」

「エルド。ユティスの地球の予備調査とやらをすぐに取り消してもらおう」

「おやおや、トルフォ理事。やぶからぼうにどうしました?」

エルドは慇懃に話すとそらとぼけた。


「ユティスの予備調査だ。すぐに取り消して欲しい」

「して、理由は?」

エルドは微笑を消すと、目を細めてトルフォを見つめた。


「理由など、どうでもいい。ユティスの派遣を取り消すんだ」

「できん」

予想だにしていなかったエルドの断定的な答えに、トルフォは一瞬たじろいだ。


「で、できない・・・。どういうことだ・・・?あなたが決定したことではないのか」

「決定したのは委員会であって、わたしはそれを復唱し確認しただけだ」

「わたしは承認してはおらん」

「承認ならあなたもされたでしょう。ご自分の休暇を優先して・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


会議を放ったらかしにして、トルフォが遊んでいたことはみんなが知っていた。


「う・・・。とにかく取り消すんだ、エルド」

「できん。委員会の全体決議だ。二度と言わせないで欲しいな。トルフォ」

「ユティスを平気でカテゴリー2の野蛮な世界に派遣するなんて、それをあなたは認めるのか!」


「リーエス。彼女は一人前の大人だし、超A級エージェントだ。過去なにがあったにせよ、既に十分に休養期間を過ごし、委員会は承認している。それに、これは本人のたっての希望だよ。わたしたち委員会は彼女の気持ちを尊重しこそすれ、それを止めようなどするつもりはない」


「しかし、うら若い女性には危険極まりない仕事だ!」

「それをいうなら、きみの周りの女性は全員いなくなるよ」

エルドは落ち着いて答えた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「抜かせ。彼女ら全員がうら若いわけではない!」

「それを彼女たちの目の前で言ってみたらどうだね?ふっふ・・・」

「え・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なにがおかしい?」

「辞表の山に埋もれるぞ、トルフォ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「な、なんだとぉ・・・」

トルフォは沸騰しかかっていた。


「そうならないように、わたしがアドバイスして進ぜよう。きみの事務所にペンを置かないことだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なに・・・?」

「数時間はデスクの上に紙は積まれんよ」

「うぬ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


トルフォを適当にからかって満足したエルドは、ユティスの父親として、彼にはもっとはっきり強調すべき段階にきたと感じた。


「ユティスにエルフィアで安全で退屈な仕事に従事しろと言うつもりなら止めた方がいい」

「安全で退屈な仕事だと?」

「左様。例えば連れ合いとして・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「な、なにを言うか!」

「これは失敬。退屈ではないな。非情に退屈だ・・・」

エルドは、トルフォに対して容赦なく瞬き一つしないで、無表情に言い放った。


「うっ・・・」

トルフォはエルドの思わぬ拒否に合い、低くうなった。


(まずい、ここで腹を立てたら今までの苦労が水の泡だ・・・)


トルフォはかろうじて出かかった呪いの言葉を飲み込んだ。


「エルド・・・」

「メーロズ。トルフォ君は用事がお済みのようだ。出口までご案内を。わたしは会議に戻らねばならん」

「リーエス、エルド」


(くっそう・・・。エルドめ。エルドがユティスの・・・)


「また会おう、トルフォ君」

「ふん!」


くるりっ。

トルフォは不承不承、最高理事執務室を出ていった。




「お見事でした、エルド」

にこっ。

メローズはトルフォを撃退したエルドに対し、笑みを満面に浮かべた。


「そろそろ、トルフォへは、わたしの意志をはっきりさせねばならない。そう思った・・・」

「ユティスのことですか?」

「リーエス。ユティスの気持ちとしても、決して彼のものにはならんだろう」

「和人との件、ご存知なんですね?」

「ああ。けっこう派手にやったからね」


ぱちっ。

エルドはメローズにウィンクした。


「相当な数の人がそれを聞いていましたよ」

「きみもか?」

「リーエス」

「まったく、こうなったら和人の肩を持つしかないだろうなぁ?」

「まぁ。あなたに理由が必要なんですか?別に強要されたのではありませんよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ははは。それもそうだ。きみだったらどうする?」

「それは、大変野暮な質問です。ふふふ」

「わははは。けっこう、けっこう。われわれは、意見の一致をみたわけだ」

「リーエス」

「トルフォに、ユティスのじゃまだてはさせんよ」

「わたしもお手伝いいたします」




既に伴侶を5人も換えた時点で、トルフォには女神さま宣誓の資格すらなかった。威勢のいいさすがのトルフォも、何千年のしきたりに畏敬の念を抱いていたのだ。


そして、自分以外にはユティスに求婚するものがいないと、たかをくくってもいた。だから、和人が現れても気に食わない低文明世界のくだらないヤツだくらいにしか思っておらず、まったく相手にもしていなかったのだ。


ところが、トルフォがユティスに言い出すチャンスを作ろうとしていた矢先、和人に先を越され、『わたしの女神さま』と言われてしまったのだ。


しかも、この男は遥か彼方のどこにあるやも知れぬ銀河のカテゴリー2の一惑星の住人であり、こともあろうにその精神体にしてやられたのだ。トルフォの怒りと無念さはビッグバンなみに膨らんでいった。


富も権力も女性もトルフォは自分の思うとおりにしないと気がすまなかった。トルフォは、女神さま宣誓の精神からは、最も遠いところにいた。自分の伴侶を既に4度も変えていたのだ。5人目の妻とは1年前に分かれていた。そもそも、本来エルフィアにはそのような人間がいるはずもないカテゴリー4の世界のはずだったが、トルフォは違っていた。




アンニフィルドはトルフォの自信過剰の謙虚さのかけらもない態度を毛嫌いしていた。


クリステアもトルフォは好きではなかったが、もともとがクールな彼女は少なくとも表面上はつくろっていた。そのうち、和人の女神さま事件はトルフォに知れるところとなった。




「エルドのど畜生めが!こうなったらユティスに直接・・・」

トルフォは思った端から行動に出た。


コンコン。

「ユティスいるのか?」


トルフォがドアをノックすると、中からプラチナブロンドを後ろで束ねた大変な美女が現れた。


「ナナン。おあいにく様。ユティスはいないわよ」

「お、おまえは、だれだ?なぜ、この部屋にいる?」

「あーら、わたしを知らないなんて、それでも委員会の理事かしら?」

アンニフィルドはトルフォに先制攻撃をかけた。


「なんだと?わたしを愚弄する気か」

エルドとの交渉が失敗したトルフォは、直ちに迎撃体制に入った。


「おまえには関係のないことだ」

「そんなことはないわ。あなたには知ってもらいことがあるもの」

「わたしに、なにをだ?」

トルフォはアンニフィルドを睨みつけた。


「おー、恐い顔。そうね。もう、あなたにはユティスに言い寄る資格なんてないってことよ。それを自覚してもらわなきゃね」

「資格がない?どういうことだ?」


「あら、聞いたことないの・・・女神さま宣誓?」

「女神さま宣誓・・・。やっぱり、本当なのか。その、聖なる永久の・・・」

「聖なる永久の愛の誓い。巷で言う女神さま宣誓ね」


「やはり・・。ユティスに女神さま宣誓をした男がいるのだな・・・?どいつだ?」


「ふーん。それを、直接、ユティスに確かめに来たってわけ?」

「い、いや・・・」

「ふーーーん・・・」

トルフォは今一度、アンニフィルドの付けている紋章を確かめた。


「あ・・・っ。おまえは、エルド直下の超A級SS、アンニフィルド・・・」

「リーエス、ご正解。思い出していただいて光栄だわ」

「なにを知っている・・・」

「全部」

アンニフィルドは上目づかいにトルフォを見つめるとにやりと笑った。


「貴様、すべてを知ってるというのか?」

「ええ、そうよ」

「そ、その、それを詳しく話せ・・・」

トルフォはアンニフィルドを見据えた。


にまぁ・・・。

アンニフィルドは完全に精神的優位に立った。


「じゃ、教えてあげる。女神さま宣誓がどういうものか。耳をかっぽじって、よぉく聞きなさい。女神さま宣誓はね・・・。かくかくしかじか・・・、ということ。一度も女性に愛を告白したことがない宇都宮和人にはその資格があるわ。だから宇都宮和人以外の男性たちは、もうユティスに愛を語ることはできないの」


「なんだと?だれにも資格がないというのか?」

「リーエス。あなたもよ、トルフォ」

「なにぃ?」

「そういえば、あなたは既に連れ合いをとっかえひっかえ5度も結婚していたわねぇ・・・」

「余計な世話だ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「それじゃ、あなたがユティスに愛を語ることは、絶対に許されないことだわ・・・」


さ、さーーーっ。

トルフォの顔が、みるみるうちに青ざめていった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そんな、馬鹿な。やつはエルフィア人ですらない、しかも精神体だぞ・・・。それがなぜ・・・?」

「それがなに?宣誓は成立しているわ。少なくとも男性側についてはね」

「く、くっそう。そんなものは認めんぞ!」


「それはあなたの勝手。いい?何千年前もから続くいにしえの神聖なる誓いよ。ないがしろにはしない方がよろしくないこと?精神体だろうが、実体だろうが、誓いの言葉が発せられたこと自体は事実なんだから。もう、なんぴともそれを訂正できないし、取り消すこともできない。そして、和人の呼びかけにユティスの口にすべき言葉は一つしかないわ・・・」


「や、止めろ・・・。その先は言うんじゃない・・・」


トルフォは不安で顔を歪めた。

アンニフィルドはトルフォを追い込んだ。


(チェックメイト!)


--- ^_^ わっはっは! ---


「リーエスよ!」

「うわぁーっ!止めろ!止めるんだ!迷信だ!そんなことは認めん!」

「いいわよ。別に。わたしが止めたって事実は変えれないんだから」

「ウソだ。ウソに決まっている!わたしは絶対に従わんぞ!」

「あははは。だれにでも確かめるがいいわ。トルフォ、ユティスは永久にあなたのものなんかにはならない。それが真実。お気の毒さま」


(あー、すぅーーーっとした!和人、アルダリーム(ありがとう)!)


アンニフィルドは大嫌いなトルフォに徹底的な一撃を加えることができ、胸がすーっとした。

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