067 留守
■留守■
和人がアパートでユティスに召還されエルフィアに精神を飛ばしている時、二宮が訪れていた。
ぴんぽーーーん。
「おい、和人いるか?」
「・・・」
ぴんぽーーーん。
「和人・・・?」
きぃ・・・。
「ありゃ、ドアが開いている・・・」
ドアは開いていたので無用心だなと思いながら、二宮は和人の部屋に入った。
「もしもーし、和人という変体さん、いませんかぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あれ、反応がない・・・」
二宮は、奥の部屋に入った。
そこで、和人はPCを立ち上げたまま、キーボードに両手を置いてピクリともしなかった。二宮は異変を感じ取り、和人を揺さぶって呼んてみた。
「おい、和人っ!」
「・・・」
「おかしい・・・。どうしたんだ、和人?」
「・・・」
和人の返事はなかった。
すぅー、すぅー・・・。
静かに目を閉じてはいたが、呼吸も正常だった。し
にこっ。
かし、眠っているわけでもない。口元はわずかに微笑んでいるような感じだ。
「和人!」
二宮は和人の肩に手を置き大きく揺らしながら和人を呼んだが、まったく反応がなかった。
「やばい。こいつ意識がどっかにいっちまってる。常務に連絡だ」
二宮はすぐに国分寺俊介に連絡を入れることにした。
るるるーーー。
「おう。どうした、二宮?」
「うす。和人のヤツ、意識がぶっ飛んでるんです。PCをやりかけたまま」
「ビーナスの昇天エロサイトか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違いますよぉ!」
「わはは。冗談だ。それ、意識を召還されているのかもしれんぞ」
「意識を召還って?」
「恐らくユティスだ」
「そうなんすか?」
「わかった。すぐに行く。とにかく、そのままにしておけ」
「お、おす・・・」
かちゃ。
(やったぁ、逃げ出す口実見つけたぞぉ・・・)
俊介は受話器を置くと真紀を振り返った。
「姉貴、和人のところに行ってくるぞ」
「どうしたの?」
「ユティスにエルフィアへ召還されてるようだ。PCになにやらそれらしきものを映し出したままな。エルフィアについて情報がとれるかもしれん。今、二宮から連絡があったんで出かける」
俊介は早速カバンやら準備を始めた。
「ん、もう、時間がないじゃない」
「大丈夫だ、ヤツのアパ-トはそんなに離れてない」
「わかったわ。で、黒磯さんに招待されてるシャデルのプライベート・ファッションショーはどうするのよ?」
「悪い、姉貴一人で出かけてくれ」
「じ、冗談でしょ?黒磯さんと一緒にいろっていうの?」
「朝帰りでもかまわんぜ」
--- ^_^ わっはっは!---
「バ、バカ、なに考えてるのよ、俊介!」
「じゃあな!」
「こら、絶対に帰ってきなさいよぉ!」
「わかった。わかった。ショーが終わる頃にゃ、戻るよ」
「それじゃ、遅過ぎるじゃない、バカ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
ばん。
どたどた・・・。
「バカ、バカ言うなって、姉貴。追っかけられているうちが花だぜぇ」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介はワゴンに乗り込んだ。
ばたん。
ぶるん。
(ファッションショーなんてかったるくてしょうがないぜ。あれにすました顔で2時間も3時間も姉貴のエスコートなんて、ご免被る。あばよ、姉貴。黒磯さんによろしく!)
にやり・・・。
ぶろろろろ・・・。
俊介は和人のアパートに直行した。
「二宮、いるか?」
「うす」
俊介は和人の部屋に上がった。
「ありゃ・・・」
和人は二宮の言うとおり、机にうつぶせのままぴくりともしていなかった。
「こいつ、なに薄笑いを浮かべてんだ?」
「うす。よくわかりませんが、催眠術にでもかかってるようっす」
「ああ。会社の昼寝に比べても眠りが数段深いぞ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうです?」
俊介が和人を見ると、和人が仮眠状態であることを、確信した。
「脈拍も呼吸もすべて正常だな。とりあえずは心配はいらんだろう」
「どういうことですか、常務?」
「死んでるわけでも、意識を失ってるわけでも、眠ってるわけでもない」
「じゃ、いったい・・・?」
「あと数時間は、こんな状態のままだな・・・」
俊介は断言した。
「いったい、なぜ?まるで霊能者って感じですよ」
「いや、コイツが霊能者だなんてありえん」
「二宮。ユティスの精神体が現れたらオレに言えと言ってあるだろ?」
「うす」
「是が非でも、ユティスに会って話さねばならないことがあるんだ」
「常務はあのユティスが見えてるんですか?」
「いや、はっきりとはな。たぶんおまえの方が鮮明に見ているはずだ」
「そうっすかねぇ・・・?」
俊介はそれに明確には答えず、二宮に次の質問をした。
「ユティスの精神体は、すでにみんなが見えるようになってるんだな?」
「そうっす・・・」
「いつから、どういうわけでそうなった?」
「あー、そのぉ・・・」
「とぼけなくていい。からかうつもりはない」
二宮は俊介のまじめな顔にほっとした様子だった。
「それが・・・。突拍子もない話なんですが、地球の文明促進をサポートするための決議を取るため、エルフィアって星からユティスが代表で、地球の情報収集に来るってことらしいんです。でも、いきなりみんなの前にユティスが出ると大騒ぎになって、彼女の命も危うくなるんで、その前に彼女の精神体が地球人へ目慣らしをするために来てるってことなんです・・・。オレが見えるようになったのは、つい最近っすよぉ」
「精神体か。で、和人はエルフィアに行ってるのか?」
「それがなにか?」
「地球がひっくり返るような大騒ぎになる」
「・・・」
「エルフィアっていやあ、じいさんから聞いた。いにしえから続く宇宙有数の超高文明世界だ。正確な場所はわからんが、何千万光年も先の銀河だってことは確かだ」
「常務、なんで、そんなことに詳しいんです?」
「大宇宙の常識だ。お前が知らないだけだな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええっ?」
「それに、ユティスは偶然和人にコンタクトしてきたんじゃない。和人は選ばれたんだ」
「選ばれた?コイツがですか?」
「そうだ。証拠がある。これを見ろ」
俊介は和人のPCの右下のバーにあるアイコンを示した。
「これは、ウチのシステムの特殊ハイパートランスポンダーから、超銀河間文明コミュニティにアクセスした証拠だ」
「随分飛んでいきそうな名前ですね。なんすか、そのハイパートランポリンってのは?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ハイパートランスポンダー。通信機だ」
「なんで、ウチの会社のシステム室なんかに、そんなもんがあるんです?」
「詳細説明は後だ。長くなる。ただ、これだけは頭に入れておけ。宇宙にはゴマンと生命が満ちあふれていて、文明も無数にある。地球もその一つに過ぎん。しかも、地球の文明ときたら、宇宙標準でみればそんなに高い方じゃない。せいぜいカテゴリー2に入れたら御の字だ。地球より進んだ世界はたくさんある」
ぴぴっ。
俊介はアイコンをダブルクリックして、ファイルを開いた。
ぶわん。
「見ろ」
見たことのない文字が走り、典型的なログイン画面になった。
ごっくん。
二宮は唾を飲み込んだ。
かたかた・・・。
とん。
国分寺は自分のIDとPWを入れた。
さささぁ・・・。
わけのわからない文字がメニューらしく並び、その一つを国分寺はクリックした。
ぴっ。
かたかた・・・。
とん。
そしてメニューの一つになにやら入力した。その途端、画面は全て日本語になった。
ぱっ。
「なんてこった・・・。ハイパー・トランスポンダーは正常に動くぞ・・・。なんでだ?」
「な、なんなんすか、これ?」
「黙ってろ」
「うす・・・」
二宮は見たこともない表示に肝を潰した。
「エルフィア文明促進支援プログラム・・・。こりゃあ、その申請画面じゃないか。やっぱり・・・。和人のやつ、これに打ち込んだんだ・・・」
「書いてあることが読めるんですか、常務?」
「古代セレアム語だ。古文の授業で習わなかったのか?」
「へ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「で?」
「これは正式な申請手続き画面だから、もれなく情報を入れて転送したら、受け付けるべきところは、受け付けるに決まっているじゃないか・・・」
俊介は二宮におかまいなしに、一人推理を進めた。
「て、ことは?」
二宮はほとんど理解できていなかった。
「要はだな。エルフィアは、和人を文明促進支援を要請してきた地球の代表として、正式に認識してるってことだ」
「和人が地球代表だって?」
「そうだ」
「あんなやつがですか?オレでもなれそうっすね。変更してくれますか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「今更遅いさ。オレたちにはシステムへのアクセス権などないから、訂正なんかできんよ。ユティスは、そのために、和人のエージェントとしてアサインされたに違いない」
「あんな可愛い娘ちゃんを引き当てるなんて、なんてラッキーなやつなんだ。オレ、ホント代わりになりたいっすよぉ。和人にゃもったいないっす」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ひがむな、二宮。既に、ユティスが精神体が来ている。となれば、彼女が実体として地球にやってくるのも時間の問題だな」
「実体って?」
「生身のままの人間だよ」
「生身のユティスが、本当に来るんですか?えへへ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アホ。一挙に問題が山積みになるんだぞ。いつやってくるか把握してなきゃ、こっちの準備もなにもあったもんじゃない。だから、オレがユティスの精神体に直接話したいんだ。その辺を中心にな・・・」
「常務だけ抜け駆けっすかぁ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アホか。いきなりユティスが地球に現れてみろ。世の中がひっくり返るんだぞ。火星に微生物がいるとかいないとかぐらいで、大騒ぎするくらいだからな。科学者の定説とやらは一瞬で消し飛んでしまう」
かりかり・・・。
俊介は頭を掻いた。
「ユティスがねぇ・・・。めちゃんこ可愛いんだろうな、本物は」
でれでれーーー。
ぱこんっ。
「痛ててて・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「二宮、おまえというヤツはそれしか想像が働かんのか。ユティスはただの可愛い娘ちゃんじゃないんだぞ。エルフィアの代表だぞ。地球で、彼女の身になにかあったらえらいことになる。国際問題、いや超銀河間の大問題だ。わからんのか、そのくらいのこと?」
「なんで?」
かくっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「アホ!」
「政治のことはどうでもいいんですが・・・」
「おまえに、なんか言い分があるのか?」
「和人の様子なんですが、あの二人、とうの昔にできてんじゃないかって思うんすよぉ・・・。とにかく、すごくいい雰囲気なんですよ」
「マジか?」
「ええ。和人も見かけによらずですねぇ・・・」
「バーカ、そんなんじゃない。問題はもっと深刻なんだ。ユティスがエルフィア代表なら、和人も地球代表だ。地球の評価が、和人の一問一答、一挙一動、その言動のすべてにかかっているんだぞ・・・」
そう言って、俊介も背筋が寒くなっていった。
「和人のやつ、わかってんのかなぁ。とりあえずこのアホは置いといて・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
にたにた・・・。
二宮はそんな俊介の心配もどこ吹く風だった。
「お互い好きということなら、問題はないじゃないすか・・・」
「だから、問題なんだ。冷静さを欠いた状態では、なにかの拍子に、好意があっという間に敵意にもなりうる。こと、男と女の間ではな」
(恋愛関係になること、諸刃の剣。天国か地獄か。どっちに転ぶ・・・?)
俊介は未来を案じた
「二宮、和人だが、あいつに恋愛経験はあるのか?少なくとも女の子を口説いたこととか?」
「確か、専門学校時代に片想い1回、コクる前に沈没、ドボン・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なるほど。そういや、そうだった。聞いたことがあったな。期待を裏切ってくれるぜ」
俊介は目の前が真っ暗になった。
「とにかく、じいさんに相談しよう」
「おす。そういやぁ、常務のおじいさんって、いったいだれなんすか?常務の話しからすると、政府の重要人物のように聞こえるんすけど・・・。国分寺って名前、聞いたことないっすが、首相か大統領クラスだったりして・・・」
(こいつ、たまに鋭いこと言いおるな。仕事以外で・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなこと、どうでもいい」
「和人をどうしますか?」
「じきに戻るさ。この様子なら、今はほっとくしかないな」
(和人が目を覚ますまで、何時間もここで男3人なにもしないでじっとするくらいなら、モデルにでも会ってくるかな・・・)
「さて、オレは帰るが、おまえはどうする?」
「ドアを開けっ放しじゃ無用心なんで、こいつが起きるまで留守番していますよ」
にたぁ・・・。
「そっか。じゃあな。動けないからといって、和人に悪さするなよぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「しません!おす」