066 語学
■語学■
アンニフィルドは木陰の人物に近づいていった。
すたすた・・・。
「のぞき趣味のクリステア、出てらっしゃいよ。そこにいるのわかってるわよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「人聞き悪いわね、アンニフィルド。知ってたの?」
「リーエス。あなたも、あの二人のこと。気にかかるんでしょ?」
「リーエス。和人は危なっかしくてさぁ・・・」
「そうよね。せっかく、ユティスが和人に自分の気持ちを伝えようとしてるのに、和人ったらぜんぜん気づかないんだもの。というより自分で自分をはぐらかしてる」
「大の大人が・・・。恥ずかしがるのも大概にしないとね」
「その通りだわ」
「ユティスもね、和人の気持ちを、なんとか聞きだそうとしてるのが、可愛らしくてさぁ」
「でしょ?」
「なんか、初々しくない、クリステア?」
「リーエス。わたしも、あんな時があったなぁ・・・、なんて」
「それ、50年も前でしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド、バカ言わないでよ。40年前だわ」
「あんまし変らないじゃない」
「あら、そう?」
「そういうの、地球じゃ、50兆歩100兆歩って言うんだって」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ずいぶん桁が大きいけど、それ、どういう意味?」
「それだけ歩いても、大した変りはないってことよ」
「どこまで行くのに?」
「当然、恋の成就までによ」
「なるほど。恋の道のりはクエーサー並みに遠いのね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドが再び消えて、和人とユティスは二人きりになった。
「まったく、アン二フィルドったら、どっちが失礼なんだか」
「うふふ。アンニフィルドは、ホント、冗談がお好きですこと」
「そ、そうだね」
(今のうち、話題をそらせようっと)
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、あれだよ、あの星とあの星が、ちょうど織女と牽牛。そんな感じだよ」
さ・・・。
和人は、エルフィア銀河をはさんで青白く輝く星と黄色に瞬く星を、指差した。
きらきら・・・。
「確か、ユリアタイとオルトゥナですわ」
「なにか伝説はあるの?」
「どうでしょうか。エルフィアでは、どちらとも女性の名前ですけど・・・」
「あはは。それじゃ、七夕のロマンスにはならないね?」
「うふふ。そう思いますわ」
ユティスは星空から和人に視線を戻して、にっこり微笑んだ。
「それで・・・?」
「ユティス?」
(げげげ・・・)
「先ほどの和人さんのお願いですが、なんでしたでしょうか?」
(しっかり、覚えてるぅ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「あー、それね・・・」
(げげげー・・・)
「和人さん、なぁに?」
ユティスはにこにこしながら言った。
「わたくしと一緒に、とまでおうかがいしましたわ」
「えーと、ユティスと、もっと・・・」
「もっと、なんでしょうか?」
「その、もっと・・・」
「リーエス」
「仲良くなれたらなぁって・・・」
「うふふ。お風呂でですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスの突っ込みが入った。
「だーぁ!そうじゃなくて・・・」
「わたくしは・・・、和人さんとでしたら・・・」
にこ。
ユティスは優しい表情で言った。
「ええ?」
ユティスの意外な答えに和人はドギマギした。
(アンニフィルドの言ったとおりだぁ。えへ。なんちゃってぇ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「その、お風呂もだけど・・・、じゃなくて、きみと一緒に過ごせる時間をもっと持てたり、一緒に歩いたり、一緒に歌ったり、一緒に食事したり、一緒にステキなところにでかけたり・・・」
「まぁ、それじゃぁ、先ほど、わたくしがお願い事と言ったのと同じですわ」
「そ、そっかぁ・・・」
「リーエス。うふふふ」
「あはははは。オレたち、本当にとっても気が合うね?」
「リーエス」
二人は見つめ合って微笑んだ。
「ほら、ご覧ください。あれはエルフィアの唯一の衛星です」
きらぁ・・・。
黄色に輝いて、少し地球の月より若干大きく見える衛星を、ユティスは指した。
「きれいだね。名前は、なんていうの?」
「デアです」
「デアか・・・」
「リーエス」
「あは。奇遇だな。地球のイタリアってところではね・・・」
「はい」
「デアって、アルティーア、女神さまって意味なんだよ」
ぎくっ!
「め、女神、アルティーアですか?」
ユティスはまたしても動揺した。
「あれ?どうかしたの?」
「い、いえ・・・」
ユティスはびっくりしたように声を震わせた。
「本当にきれいだね」
(デアも・・・、そして、きみも・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス」
二人は寄り添ってデアを見上げた。
ぽわん。
ユティスから生体エネルギー場の虹色の光があふれてきた。和人にも出ていた。ユティスのそれは和人のそれに重なっていった。
「ああ・・・!」
その瞬間、ユティスの心が和人の心に触れてきた。
「和人さん・・・」
「ユティス・・・」
ユティスはできるだけ感情を抑えようとしていた。
「わたくし、和人さんと出会えましたことを本当に感謝しています。こうして、和人さんとご一緒できて、どんなに幸せか。和人さん・・・」
しかし、失敗した。
またしても、ユティスの目に涙があふれてきた。
「どうしたの?」
「お会いしたいのです。和人さんにお会いしたいのです。ちゃんとお互いに実体同士で・・・。もう、わたくしはどうにも自分の感情を抑えられないのです・・・」
それは生体エネルギー場を通して和人の心を直撃した。
ぴしゃーーーん。
「ああっ!」
和人は声をあげた。
(ちくしょうめ!ここで、ユティスを抱きしめられないなんて!)
和人は精神体の限界が恨めしかった。そして、俊介の言葉が和人の脳裏に響いた。
「話は違うが、SNSも所詮はバーチャル・コミュニティにすぎん」
「バーチャル?」
「そうだ。目の前にいて握手したり、抱きしめたりはできんということだ」
「でも、心の友というか、そういうのもありではないんですか?」
「そうだな。でも、じきにそんなものじゃ物足りなくなり、会いたくなる」
「オフ会とかでしょうか?」
「そうだ。人間はだ、5感がすべて満たされないと、おかしくなるのさ」
「5感ですか?」
「ああ。見たり聞いたりしゃべったりだけじゃ、心を癒すことはできん」
「はぁ・・・」
「変な意味に取るなよ」
俊介は前置きしてから続けた。
「一番大切なのは、実際にお互いが目の前にいることだ。生の声。生の温もり。触れ合いだ。大好きな人なら最高だが単に友人でもかまわん。本当に寂しい時、心が求めている時には、肩や背中をポンと叩いてくれたり、そっと手を取って握りしめてくれたり、優しく抱きしめたりしてもらうのが、一番の癒しなんだ。こんな時に言葉なんてものは、いらん・・・」
「常務・・・」
「言っとくが、オレはホモではないぞ。お前を抱きしめたりはせんからな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はぁ・・・」
「遠距離恋愛が次第に冷めるってのも、この生の触れ合いを軽く見ているからだ。人間は言われているより遥かに非理性的で動物的だ」
「そのことなら、先輩見てると納得できます」
--- ^_^ わっはっは! ---
「確かに、二宮は典型的な例だ」
「常務がよく言う『歩く煩悩』ですか?」
「うむ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「人間は、頭でわかったつもりになっても、感覚や感情が置いてけぼりをくらったら、パニックになってしまう。人によっても違うが、恋人同士でも、次の触れ合いまでの期間を長く見積りすぎると、どちらかが耐えられなくなる」
「そ、そんなもんですか?」
「ああ・・・」
「オレも失敗した・・・」
俊介は表情を曇らせた。
「常務・・・」
「て、ことにしておいてくれ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「な、なんですか、それ!」
(そういえば、常務は長身でダンディーなイケメンなのに、恋人とかいないんんだろうか?いつも真紀さんといるけど、双子の姉さんコンプレックスだったりして・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「わははは。和人、おまえも好きな女の子の一人や二人いるんだろ?」
「まぁ、学生の頃はいましたけど、結局のところだめでした・・・」
「ふられたのか?」
「そんな威勢のいいもんじゃなくて・・・」
「どうした?」
「相手は、オレの気持ちを知らないままだったんです」
「なんだ、告白までいかなかったということだな?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はぁ・・・」
「勝負放棄か?」
「はぁ・・・」
「情けない・・・」
「面目ないです・・・」
「この次はちゃんと言えよ」
「そうします」
(ちぇ。なんだって、こんな時に常務の言葉なんか思い出すんだろう。精神体で会うってのも一種のバーチャルなのかなぁ?ちょっと違うような気もするけど・・・)
和人の前には、ユティスが物思いにふけるようにして、静かに髪を触っていた。
「あぁ・・・」
「はぁ・・・」
二人はため息をついた。
「あのぉ、別のお話なんですけど・・・」
ユティスは話題を変えた。
「リーエス?」
「あの、地球ですけれど、どの辺にあるのでしょうか?本当にご存知ないですか?」
話題が地球の座標についてになった時、和人はすっかり困ってしまった。
「どこといっても、天の川銀河がどこにあるかもわかんないし・・・。さっきみがエルフィアのこと教えてくれたみたいな詳しいことは、まるで知らないよぉ・・・。」
和人は地球が属している天の川銀河の真の姿すら知らなかった。
「その天の川銀河はどのような姿なのでしょうか?」
「うん。渦巻き銀河なんだけど、右巻きだっけ、左巻きだっけ?鉄火巻き?あれっ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は一応答えたもの、大宇宙に無数にある渦巻き銀河といったところで、さっぱり要領を得る回答にはなっていなかった。
「アンドロメダ大銀河のすぐ近くなんだけど・・・」
「アンドロメダ大銀河ですか?」
「知らないよね?」
「ナナン・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「申し訳ございません・・・」
「謝るのは、こっちだよ・・・」
和人はしどろもどろになった。
「ごめん。オレ、あれ以上の正確な天文知識がないんだ。後で調べて、今度はもっとちゃんと教えるよ」
和人は約束した。
「リーエス。楽しみですわ。うふ」
ユティスはにっこり微笑んだ。
「和人さん、一つお願いがございます・・・」
ユティスは遠慮するように話した。
「リーエス。オレにできることだったら」
「もし、わたくしが実際に地球に赴任することになったら・・・」
「リーエス。それで?」
「和人さんのところに、おじゃましてよろしいですか?」
「なんだ、そんなこと・・・。いいに決まってるじゃないか」
「まぁ、嬉しい。これで安心しましたわ」
「ユティスなら、大、大、大歓迎だよ」
「うふふふ」
ユティスは顔をぽっと赤らめた。
「和人さん。早くお会いしたいです」
「オレも・・・」
ユティスは和人に今日はまた別のシステムを見せた。
「ユティス、これなんだい?」
「ハイパーラーニングシステムですわ」
「なにをするの?」
「これを使うと、とってもお勉強がはかどるというものです」
「なにを習うっていうの?」
「うふふふ。和人さんは、エルフィア語にご興味はおありですか?」
「うん。ちゃんと習えるだったら、そうしたいな」
「試しに、お使いになってみます?精神体でも有効ですわ」
「いいの?」
「リーエス」
和人はハイパーラーニングでエルフィア語を習うことにした。
(ユティスへの告白は、やっぱりエルフィア語でキメたいもんね!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにか、おっしゃいましたか?」
「いや、なんでもない。えへへ・・・」
「では、こちらにいらして・・・」
「リーエス」
ユティスはある明るい部屋に和人を案内した。
「これがハイパーラーニング・システムです」
「やあ、ユティス」
システムの管理担当者が、二人を暖かく迎えた。
「うふふ。いつもお世話になってますわ。アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)」
ユティスも丁寧に挨拶した。
「こちらの方にエルフィア語の学習をお願いできますか?」
ユティスは管理担当者に愛想よく尋ねた。
「リーエス。精神体用のフィールド方式でよろしいですか?」
「リーエス。お願いいたします」
「では、精神体のあなた、どうぞこちらへ・・・」
和人は管理担当者に導かれるまま、直径1メートルくらい高さ2メートル半の透明カプセルに入った。
「お気を楽にしてくださいね」
カプセルのドアが閉まる前に、ユティスは微笑んだ。
「では、まいります」
ぴっ。
その途端カプセルは中から淡い光に包まれた。
ほわぁ・・・。
和人は脳内に多量の情報が流れ込むのを感じた。
ずずず・・・。
(な、なんなんだ、これは・・・?)
ずずず・・・。
30分くらいすると、カプセルの中の光が消え始めた。
「学習を修了しました」
システム管理担当者の声がし、カプセルのドアがゆっくりと開いた。
「どんな感じですか?」
システム管理担当者は、和人に異常が起きてないか確認をとった。
「ナナン」
和人は手短に答えて、カプセルを出た。
「うふふ。和人さんは、もうわたくしたちとまったく変らないように、エルフィア語を会話できますよ」
「ホント?」
「リーエス。それに文字もお覚えになられましたわ」
「ユティス、字もかい?」
「リーエス。エルフィア語のアルファベットと数字はすぐにでもわかりますわ」
「すごい・・・」
わくわく・・・。
和人はまだ確認してない新しい能力に、早く試してみたくなった。
「アステラム・ベネル・ナディア。こんばんわとか、おやすみなさい、だよね?」
「リーエス」
「オレの名前は宇都宮和人。レイシス・アデル・ディア・ウツノミヤ・カズト・・・」
「完璧ですね」
システム管理担当者が太鼓判を押した。
「やったね!」
「んふ。うふふふ」
ユティスもそれを喜んだ。
「エルフィア語って、けっこうはっきりと発音するんだね」
「リーエス。和人さんのお話になってる地球語も、とってもはっきりしてますわ」
「地球語?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違うんですの?」
「いや。確かに、日本語も地球語には間違いないんだけど・・・」
エルフィア語は口先で発音する破裂音がほとんどなく、滑らかで美しく柔らかな言葉だった。その抑揚も音楽的で、和人はエルフィア語が好きだった。
「エルフィア語・・・なんて滑らかで柔らかく、きれいな言葉なんだろう」
和人はひとり言を言った。