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064 星空

■星空■




「エルド、ユティスに開示をご許可されたのですね」


「リーエス。このままでは埒が明かない。地球だけの情報では時間がかかろう。こっちも銀河座標を開示することで、双方が確認し合える。時空の状態が変わってしまえば、幸運にも繋がっているこの通信も二度とできなる。そうなる前に位置を掴んでおくんだ」


エルドは秘書に懸念される事態を吐露していた。


「リーエス。よくわかります・・・」


「メローズ、確かにきみの懸念も理解できるよ。カテゴリー2の世界にわれわれの座標を開示することは、少なからずそれなりの危険を伴う。もし、それが彼らではないにしろ、奪い合うことを躊躇わない連中に知れでもすれば、エルフィアは強奪の対象となるかもしれん。委員会規定に、エルフィア本星の宇宙座標の非開示義務があるのは百も承知だ」


「エルド・・・」


「だが、そういったカテゴリー1的な精神では、彼らがカテゴリー3には進めないのも事実。カテゴリー2の段階においてそれを克服できなければ、自らのテクノロジーで滅亡するか、カテゴリー1に逆戻りするしかない・・・」


「では、地球がエルフィアを搾取のターゲットにして、そういった諸々の世界と同盟を結び襲ってくる可能性は低い、とお考えで・・・?」

メローズは静かに目を閉じた。


「リーエス。だが、きみが考えている以上に、カテゴリー間の壁は厚くて強固だ。その壁を飛び越えるためには精神的に劇的な進歩をしない限り、到底できるものではない」

「リーエス・・・」


「地球においては、そういうことに気づいた人々が動き出している。にも係わらず、依然としてカテゴリー1的な勢力がそれを妨げているのも事実。わたしは一刻の猶予もないような気がする。ましてや、ユティスと和人の二人のことを考えると、ミューレスの二の舞にすることは断じて避けねばならない」

エルドは固い意志を持って語った。


「しかし、委員会の理事たちへはどのように説明を・・・」

「心配はいらん。わたしには説得する正当な理由と手立てがある」


「リーエス。しかし、わたしが稀有しているのは、ひたすらトルフォです・・・。彼には極めて個人的な理由があり、それが大きな災いを呼びそうな気がするのです・・・」


「メローズ、心配してくれてありがとう。でも、わたしとしても今回は絶対に引き下がるわけにはいかんのだよ・・・」

「リーエス・・・」




ユティスは、和人にエルフィアの宇宙座標について、初歩的な案内をしていた。


「さぁ、和人さん。今日は、わたくしたちのエルフィアの宇宙座標についてお教えしますわ。ほら、この夜空いっぱいの星たち。これが全部エルフィア銀河です。エルフィア銀河の内側からその断面を眺めたものですわ」


和人の目の前には、天の川にも似た白く雲のような淡い明かりが、帯状に伸びていた。


「うわぁ・・・。すごいよ・・・。なんて、きれいなんだ・・・」

「エルフィア銀河、エルフィア銀河団の渦状銀河の一つです。エルフィア銀河団には2000以上もある銀河が、一つにまとまってるんですのよ」


「このような銀河が2000もかい・・・?」

「リーエス。エルフィア銀河団は、銀河団としては比較的大きい方です」


「肉眼じゃ、銀河の一つ一つはあまりわかんないね・・・?」

「うふふ。では、わたくしが和人さんの視力を100倍ほど増光いたしましょう」


にっこり。

ユティスはそうつぶやくと、和人の方を向いて微笑んだ。


「もう、終わったの?」

「リーエス。さぁ、和人さんは12等星くらいまで見えるようになっているはずですわ」


ぱぁーーー。

さらにものすごい数の星が宝石のようにちりばめられていた。


「うわぁ!なんて星がたくさんあるんだ・・・。信じられない・・・」


突然、今までに見たこともないような数の星が満天に輝き、和人は夜空いっぱいの星のきらめきに思わず声をあげた。


「気をつけてくださいね。光の感度が100倍になってますから。精神体といえども、強い光は見ないようにしてください」

「リーエス・・・」


「ぼやっと、雲のようなものがいくつか見えますか?」

「リーエス。あるよ。あそこ。そして、あそこ。あ、あそこにも。あ、ここにもあるよ」


「はい。それがエルフィア銀河団の銀河たちです。大小合わせて約2000個ありますわ」


「うわぁ・・・。あの、なんか丸っこいようなのは、とっても大きい感じがするね」

「リーエス。ワルファレラ楕円銀河ですわ。エルフィア銀河団の中でも一際大きいんです。あそこにはおよそ10兆個の星があります」


「10兆個だって?」


太陽のような恒星が10兆個あるといっても、和人は感覚的にどれくらいなのか、まるで想像もできなかった。


「はい。とっても大きく立派な銀河です」

「なんか、夢みたいだよ」

「うふふ。和人さんの意識が感じていることは、すべて本当のことですわ」




ユティスは和人を伴って、ある部屋に案内した。そこは天井が半球形になっており、地球のプラネタリウムにそっくりだった。


「和人さん、これをよくご覧ください。そして、できるだけ心に焼き付けてください。これはエルフィア銀河の宇宙位置を感覚的覚えてもらうためですわ」

「うぁ・・・」


のっけから、和人は圧倒された。


和人の頭上には、無数の銀河がちりばめられていた。あるものは渦巻状で、あるものは中心が棒状の渦巻き状であり、またあるものは紡錘状であり、そしてあるものは、その形がはっきりしない不規則な形状をしていた。


「これのいったいどれが、エルフィア銀河なんだろう・・・」

和人はぽかんと口を開けてほとんど方針状態だった。


「リーエス。エルフィア銀河は、エルフィア銀河団の中心よりにある。中心が若干棒状の棒渦状銀河ですわ。拡大してお見せいたします」


ぶわん。


ユティスが腕を一振りすると、それが和人の頭上に広がり、圧倒的な迫力で迫ってきた。


「うぁ・・・」


それは2本の大きな腕を持つS字そのものだった。だがS字の周りにには小さな腕が派生し、腕と腕の間には無数の星々がひしめき合う大銀河だった。


「和人さん。これは真正面から見たエルフィア銀河です。周辺部を入れた直径はゆうに10万光年以上あります。ここには2000億個を超える恒星があります。もし地球がエルフィア銀河の正面に位置するなら、このとおりに見えるはずですわ。そして、もし地球が反対側にあるなら、エルフィア銀河はこの形をそっくりひっくり返して鏡でみたように映るでしょう」


「リーエス・・・」

ユティスの説明に和人は聞き入った。


「もし、地球がエルフィア銀河の真横に位置しているなら、エルフィア銀河はこのように見えます」


ぶわん・・・。


今度は、ユティスは、1組のシンバル2枚を重ねたような形状の真横から見たエルフィア銀河を、ドームの天井に映し出した。


「なんてことだ・・・」

和人はあまりの迫力に声も出なかった。


エルフィア銀河の中心に厚く膨らんだバルジ部分は、何十億年もの間輝き続けている黄色やオレンジの古い星たちで構成され、薄いディスク部分は青色がかっていた。全体には、やや細長い楕円を描いた渦巻状の銀河だった。


「一度見たら忘れないよ・・・」

和人はそれをしっかり目と心に焼き付けた。


「和人さん。エルフィア銀河をしっかり覚えていてくださいね。そうすれば、数ある銀河からでも、エルフィア銀河を見つけ出すことが容易になるはずです」

「うん」


「エルフィアは、バルジの中心から約2万3千光年離れたところにありますわ。ほら、ここです。第一大渦状腕の端に位置するのです」


ぴっ。

ユティスはあるところを、矢印でそれとわかるように表示した。


「そこがエルフィアなの?」

「リーエス。ここがエルフィア本星の位置です・・・」


和人は感動していた。


「あの、ユティスさぁ、ユティス・・・。その宇宙位置情報って、それってエルフィアにすれば、とっても大切で秘密なことなんじゃないの?」


「エルフィアの座標がですか?」

「うん」


「うふふ・・・」

ユティスはすぐに返事をせずに微笑んでいた。


「カテゴリー2の世界に対しては確かにそうですわ。でも、和人さんは特別です」

「特別だって?地球はカテゴリー2なんじゃないの?」


「はい。でも、これはエルドの意思でもあります」


「ど、どういうこと?」

「和人さんには、それをお伝えする必要があるのです」


「わからないよ」


「今は、深いお話はこれ以上この場では申しあげられませんわ・・・。ごめんなさい」

「いいよ、謝る必要なんてぜんぜんないから」


「それより、星空をご覧ください。わたくしがご案内いたします。」




再び、和人はユティスに連れられ、野外でエルフィアの夜空を楽しむことになった。


「きれいだ・・・」

「リーエス」


和人とユティスは寄り添って夜空を眺めた。


エルフィアの夜空は地球よりも星が多くて明るかった。エルフィアの天の川は明るく息をのむくらい美しかった。こうして銀河面が頭上に見えるということは、エルフィアもその銀河のディスク面上にあり、ある程度銀河面に対し、地軸が傾いてるに違いなかった。


「地球に比べて星がずいぶん多いや・・・」

「そうですか?」


「ユティス、今度地球に来る時は、夜空がきれいに見える時にしてよ。そしてら、きみも天の川銀河を中から見れるよ」


「うふふ。そんないい条件になった夜には、是非わたくしをお呼びください。飛んでまいりますわ」

「リーエス。必ずだよ」


「リーエス・・・。『星空のデート』ですわね?」

にっこり。


「デ、デートだってぇ・・・?」

かぁ・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「では、なんと言えばよろしいのですか?」

「そう言ったって・・・」


どきどき・・・。


「うふふ・・・。それとも単なる天文講義にしますか?」

「ナナン・・・。デートの方がいい・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


にこにこ・・・。

「んふ」


どきどき・・・。




エルフィアの夜空には、金星くらい明るい色とりどりの星が10個近くあった。さながら宝石を撒き散らしたようだった。


「それにしても、こんなに高文明なのに星空を楽しめるくらいエルフィアの夜は暗いよね。いわゆるLED電球とか蛍光灯などの人工的な灯りの感じがしない」

「リーエス。でも人の通り道は歩けるくらいには明るくなっていますわ」

「ホントだ。十分な柔らかな光がどこからともなく集まってきて、足元を照らしている・・・。どうなっているんだろう・・・?」


(不思議な光だ・・・。なんと優しく暖かい光なんだろう・・・)

和人の心は安らいでいった。



「いかがですか?エルフィア銀河についておわかりいただけましたか?」


にっこり。

ユティスは優しく締めくくった。


「リーエス。『星空のデート』をありがとう。きみになんてお礼を言ったらいいか・・・」


どきどき・・・。


「ふふふ。和人さんがご満足ならそれで十分です・・・」


にこ。

ユティスも満足げに微笑んだ。




また、ある日和人はユティスのガイドでエルフィアにきていた。


「エルフィアは、昼間の自然といい夜といい、なんと美しいんだろ・・・」

「んふ?」


「ねぇ、ユティス。エルフィアは建物といい構造物といい、人工的なものは微妙に曲線や非対称形が取り入れられていて、自然に溶け込んでいるよね。いかにも金属的なキラキラ光るものや、周りの木々や水に調和しない色使いのはないようだけど・・・?」

和人は、ユティスに質問した。


「そう思われますか?」


「リーエス。エルフィアは超高文明なのに、この自然との調和はすごいんだね。どうして?」

「リーエス。エルフィアは、星全体が意図的に保護された一種の自然保存地区なんです」


「星全体がかい?」


「リーエス。エルフィアも無限の宇宙に出はじめのころは、摩天楼が林立したテクノロジーの塊みたいな星だったのです。でも、エルフィアの人はそれでは心が休まりませんでした」


「どういうこと?」


「まだ、星々の間を行き来するのに宇宙船が必要だった頃、何千万光年も旅をして、何世代も重ねて母なるエルフィアに戻った人々は、テクノロジーの粋を集めた建造物が林立する母星に大いに失望しました」


「どうして?」

「とてもよい質問ですわ」


にこ。


「彼らがエルフィアに期待し欲しかったものは、安らぎであり、癒しであり、木々や野山やきれいな海、川や湖、大宇宙の大いなる意思からいただいた恵み、母なる大自然だったからです」


「母なる大自然・・・」


「リーエス。その頃のエルフィアは、まだまだ、すべてを愛でる善なるものの大いなる意思をほとんど理解できず、まったく反対の方向に向いていたのです」


「それに気づいたの?」

「リーエス。それで、今のような自然と調和した世界に徐々に戻していったのです」


「確かに、ここは、まるで、エデンの園みたいだよ・・・」


「パラダイスのことですか?」

「リーエス」


「それに、エルフィアに元々いた人も、うすうす気づいていました。もう、このままでは決して幸せにはなれないと・・・。それで、みんな大宇宙から戻ってきた人々の意見に共感しました。終には自らの母星を協力して自然に戻すことにしたのです。それこそ何百年もかかりました。しかし人々は根気良く働きました。大変でしたがとても楽しくもありました。幸せになるんですもの。悲しんだり、嘆いたり、不平を言う必要はありませんでしたわ。それで、今では惑星自体が自然公園のように自然があふれかえっているのです」


ユティスの周りでは鳥たちが美しい声で鳴いていた。


「エルフィア・・・。なんという、素晴らしい人たちなんだろう」

和人は賞賛の眼差しでユティスを見つめた。


「エルフィア・・・。ユティスさぁ、地球はきみたちみたいになれるんだろうか?」


「うふ。そういう疑問を持たれる方が、一人でもいらっしゃれば、必ず、いつか良い方へ変わりますわ」

「いつかって言ったって・・・」


「リーエス。最初は、そういう方は少しずつしか増えないでしょう。表面的にはなにも変化はありません。でも、そういう方は徐々に増えてきます。そうすると、ある時にある段階になり、突如すべてが変わり始めるのです。今まで、そんなことを考えたこともないような人々までもが、突然それを意識するようになり、積極的に係わっていくようになるのです。この変化は、一旦始まると、もうゆっくりと進むのではありません。臨界点を越えた核反応のように、一瞬にして全体に広がりすべてが変わるのです」


「エルフィアもそれを経験したの?」

「リーエス。文明カテゴリーの次の段階に入ったということです」


「エルフィアはカテゴリー4だよね?」

「リーエス。エルフィアはその時にカテゴリー3と4の壁を一瞬で乗り越えていました」


「地球は本当に乗り越えられるんだろうか、カテゴリー1の壁を・・・」

「リーエス。もう奪い合う文明を維持できないところまで来ています」


「うん。カテゴリー2に足を踏み入れたんだね、地球は・・・」

「リーエス。調和かさもなくば自滅。選択の余地はありませんわ。その欲望を、もし外に向けられるのなら、委員会は地球の時空封鎖を指示するでしょう」


「大丈夫かな・・・」


にっこり。

ユティスは優しい微笑みを和人に投げかけながら、話を続けた。


「さぁ、お話は他にもございますわ。ご一緒に、もう少し歩きましょうか」

「リーエス」


ユティスの話は続いた。

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