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057 祈り

■祈り■




休み明けの月曜日、セレアムの事務所では、それぞれ日焼けした面々がお互い週末のアバンチュールを探り合っていた。


「おや、和人、ずいぶんと日焼けしてない?」

「はぁ、真紀社長も・・・」

真紀もほんのり日焼けしていた。


「人のことはどうでもいいの。で?」

真紀は和人の質問をあっさりひっくり返した。


「週末は海に出かけてたんで・・・」


「二宮も一緒なの?」

「いや、そういうわけじゃなくて・・・」


「石橋と?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんでそうなるんですか・・・」


「三人とも日焼けしてるようだし・・・」

「あははは・・・」


「じゃ、独り?」

「え、まぁ・・・」


「ローンウルフは寂しいのう!」

俊介が突っ込んできた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「だれが一匹狼ですか。余計なお世話です」


「一人だったわけじゃないでしょ?」

真紀がフォローした。


「独り・・・かな、地球人としては・・・」

「地球人以外と言えば?」


「ユティスに決まってるじゃないか」

俊介が間髪入れずに答えた。


--- ^_^ わっはっは! ---




その晩、和人の部屋にはユティスが来ていた。和人はエルフィアのいろんなところに行けるかと思い、期待に胸が膨らんでいた。


「今日は、和人さんを、お連れしたいところがあります」

にっこり。


「うん。とっても楽しみだよ」

「では、まいります」


「リーエス」

ユティスは例の如く和人の精神を引っ張って、エルフィアに戻っていった。


「ここです。エルフィア大聖堂」

「え?もう着いたの?」


「リーエス」

二人は大きな聖堂のような建物の中に立っていた。


「すごい。きれいだし大きくてとても立派。それになんともいえない歴史を感じる」


「リーエス。もう何万年も前からここに建っているいるんですの。もちろん、幾度となく補修はされていますけど」


「何万年だって・・・?」

「リーエス・・・」


「あの、聖堂の中心にある印はなんなの?」

和人は渦巻き模様と星印が合わさったようなシンボルっぽいものを見つけた。


「あれはエルフィア銀河を象徴するものですわ」


「そして、あの十字の星マークは?」

「エルフィアです」


「きみのティアラにある紋章と一緒だね?」

和人は、ユティスの頭に載った金と銀に輝く金属製の飾りを見つめた。


「リーエス」

「すごすぎるよ」

和人は辺りに何人もの人を見つけた。


「何人か人がいるけど、お祈りの時間なのかな?」

「リーエス。しばらくするとすべてを愛でる善なるものへ、感謝祈祷がはじまりますわ」


「特別な日なの?」

「ナナン。毎日、この時間には30分くらいのお祈りがあるのです」


「エルフィアのように超高文明に、教会があったり、そういうお祈りがあったりするなんて、とても不思議な感じがするよ・・・」


「おかしいでしょうか?」

「ナナン。不思議な感じ。カテゴリー4の科学と技術に、どう言えばいいかなぁ・・・」


「ふふふ。エルフィアの感謝祈祷はまず自分の存在への感謝から始まるんですよ」


「自分の存在から?」


「リーエス。この大宇宙に一つしかない自分とこうして対話できることを、自分の存在に感謝するんです。大宇宙のエネルギーに満たされ、一つになれることを。すべてを愛でる善なる存在から注がれるエネルギーを、魂の振動として、感じ取れますわ」


にこっ。

ユティスは優しく微笑んだ。


「ふうん・・・」


「うふ。和人さんもお試しになれますか?」

「オレ?でも精神体だよ・・・」


「精神体であれば余計に感じ取れると思いますわ」

「そっかなぁ・・・」


しずしず・・・。

司祭たちが、総主教を迎えるよう祭壇への道の両脇に並んだ。


しずしず・・・。

人々もそれに習い司祭たちの脇に続いた。


「じゃ、わたくしたちも並びましょうか?」

「あ、うん・・・」


「ふふふ。和人さんは神さまをお信じになってないのですか?」

「うちは、無宗教というか、都合のいい時だけ、神さまにすがってると言うか・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うふふ。大丈夫ですよ。ここは、どんな神さまを信じておられても、また、どんな神さまをも信じてなさらくても、幸せを願い、感謝をされる方なら、どなたでも、お祈りに参加できます」


「ふうん。随分と大らかな教えなんだね・・・」

「うふふ・・・。まぁ・・・」

ユティスはなにかを見つけ、和人にもわかるようにそっと話した。


「どうしたの?」

「今日は、全エルフィアの総主教座下がお祈りに参加されるようです」


「総主教座下・・・?その人って法王のようなもの?」

「ふふふ。法王のことは存じあげませんが、その方が全教会を代表する職責をお持ちであるなら、そういうことになりますわ」


「ふうん。随分とすごいんだね・・・」


「オーレリアン・デュール・ディア・アルティアーーーー・・・」


優しく柔らかな聖歌がどこからともなく聞こえてきて、聖堂内は癒しの空間になっていった。


「ふふ。さぁ、総主教座下のご入場ですわ」


さっ、さっ・・・。


4人の司教らしき人とその補佐役の何人かに囲まれて、彼女は優雅に入場してきた。


「え?総主教って女性なの?」

「リーエス」

和人の驚いた様子に、ユティスは優しく肯定した。


「びっくりなさってますか?」

「う、うん。ちょっとね・・・」


全エルフィアの総主教は位置に着くと、優雅に和人の方を振り向いた。


「ああ・・・」

にっこり。


彼女は和人に微笑み、和人はその優しさに溢れた微笑に釘付けになった。


「なんて、慈愛に満ちた表情をしてるんだろう・・・」

「んふ。わたくしもあのようになれましたら、いいんですけど・・・」


「なに言ってるんだよ、ユティス。きみだって天使だよ」

「ふふ。お褒めに預かり、ありがとうございます」


総主教は静かに歌いながら、手のひらを上にして、両手をゆっくりと上げた。


「ジェラ・グラスデラ・フェルミエーザ・エルフィエーザ・・・」

総主教の発放で、お祈りは始まった。


総主教の祈りの声と聖歌がまるで掛け合いのように溶け合って一つの世界を作り出していた。和人にはなにを歌って、なにを唱えているのか皆目わからなかったが、なんとなく意味だけは通じてきた。


和人の側では、ユティスが両手を胸の前で合わせ、エルフィアの象徴である渦状銀河に星のマークを見つめ、静かに心を清めていた。和人も神妙な面持でその間を過ごした。


お祈りは祝文を読み上げた後、司祭の最後の発放で、約20分ほどで終わった。


入ってきた時と同じようにして、総主教はしずしずと聖堂を後にした。



「あれは、なにをお祈りしてたの?」


「自分への感謝と『すべてを愛でる善なるもの』への感謝です。それと個々に集った方々への感謝と祝福、集えなかった方々への感謝と祝福、大宇宙のあまねく世界の人々への感謝と祝福です。人生は長いようで短く、短いようで長いのです。次なる瞬間は、なにが起きるかだれも知りません。科学技術に増長することなく、またそれに使われることなく、大宇宙を愛し、人を愛し、自分を愛する、そういった生き方を続けられるよう、お祈りしていたのです」


「ふぅーーーん」

和人はまだよく理解できなかった。


「でも、ものすごく優しい気持ちに包まれた感じがするよ」

「リーエス。そのお気持ちをお忘れにならないで」

ユティスは和人に微笑んだ。




またある日、和人がエルフィアを訪問した時、ユティスはある大ホールに和人を案内した。そこには数十人のエルフィア人たちが音楽やダンスを楽しんでいた。


じゃ、じゃじゃぁーーーん、じゃん・・・。

たらったたた、たーら・・・。


「ら、らーらら、らーーーら、らーーー・・・」


ユティスはエルフィアの歌や華麗なダンスを披露した。そのダンスは男女がそっと触れ合って行うもので、地球のディスコやヒップホップのように、あまりに激しい動きはなかった。リズムカルなものから社交ダンスのようなものまで様々だった。


一通り踊り終えると、ユティスは和人の元へ戻ってきた。


「ユティス、素晴らしかったよ」

「お褒めいただき嬉しいです。アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)、和人さん」


「次は、和人さんが歌ってくださいますか?」

ユティスは期待を込めて、和人に頼んだ。


「精神体でも歌えるの?」

「はい、みんな聞いていますよ」


「そうそう、和人。なにか歌ってくれたまえ」

中にいる人間も、和人に微笑みかけて、誘ってきた。


「でも、ギターもないし・・・」

「ふふふ。楽器がお要り用なら、イメージなさってください。そのギターという楽器を・・・」


「こうかい?」

和人は目をつむり、自分のギター、アンジェ・カスタムをイメージした。


「あっ・・・」

その途端、確かに感触を持って、和人はあのアンジェ・カスタムを腕に抱えていた。


じゃらぁーーーん。


「うぁ、鳴ってる・・・」

和人はびっくりした。


「ご準備はよろしいですか?」

ユティスがにっこり笑った


しゃらーーーん、しゃらしゃら・・・。


和人がギターを弾くと、それはあの独特の深くて優しい音色を出した。


「すごいじゃないか」

「リーエス」


「じゃあ、オレのオリジナル曲をいくよ」

「リーエス」


しゃらーーーん。


「るるるーるるー、るるーーー・・・」


しゃら、しゃら、しゃららーーー・・・。


和人が1曲歌い終えると、周りから拍手がわきおこった。


ぱち、ぱち、ぱち・・・。


「すてきですわ・・・」

ユティスは和人になんともいえない微笑を送った。


「あ・・・。そのぉ・・・」

和人は赤面したので、それをごまかそうとした。


「きみのオリジナル曲なの?」

「は、はい・・・」


「きれいな曲ねぇ」

「そ、そんなぁ。大したことないです」


「とんでもない。とってもすてきだよ。ねぇ、ユティス」

「リーエス」

そこにいる人間は口々に和人を褒め称えた。


にっこり・・・。

ユティスは和人に微笑みかけると、寄り添うようにして和人のそばに立った。


「どうして、オレは精神体なのに、こんなにしてくれるんだい・・・?」

和人は疑問をぶつけた。


「それは、それが和人さんだからです」

ユティスは優しく答えた。


「よく、わからないんだけど・・・?」


「みなさんは和人さんがお好きなのですわ。例え、和人さんがエルフィア人ではなくても、そして実体ではなくても。和人さんの魂はここにいらっしゃるんですもの。和人さんの心には触れることはできるんですもの」


にこっ。

ユティスは微笑むと、右手で和人をリードした。


「いらして・・・」

和人はユティスの連れるまま大ホールを進んだ。


それを見て、周りの楽器を持った数人が演奏を始めた。


じゃん、じゃ、じゃーら、じゃーーーん。


「らったったー。らったったー。んーー。んんーー」

ユティスは微笑みながら3拍子を取った。


「さぁ、和人さん、一緒に踊りましょう?」

「でも、ステップなんか知らないよ・・・」


「大丈夫です。さ、わたくしの真似をしてください。ほら!」

そう言うと、ユティスは和人のステップを助けた。


「らったったー。らったったー。んーー、んんーー」


ぞろぞろ・・・。

回りの人間も男女ペアを作って中央に集まってきた。


「らったったー。らったったー。んーー、んんーー」


ユティスと和人は手も身体も触ることができなかったが、お互いの存在を意識することで、周りからはあたかもペアで踊っているように見えた。


「らったったー。らったったー。んーー、んんーー」


やがて曲が終わり、みんな顔を紅潮させて互いに称え始めた。


「どうだい、和人、楽しいかい?」

「上手だわよ、和人」


「ユティスとお似合いだね」

「実体でエルフィアに来たら、またお出でよ」


等々、和人を賛辞し、笑い、語り合った。


「本当にステキな人たちだよ・・・」

和人がぽつりと言った。


「わたくしも幸せです・・・」

ユティスは、和人の横で幸せそうに呟いた。

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