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056 尻取

■尻取■




浜辺では、足利道場生たちが波相手に必死で1000本蹴りをしていた。


「しーやっ!」

ばしゃ、ばしゃ!


「気合、気合!」

「うぉーりゃ!」

「768!」

「しーやっ!」

ばしゃっ!


「769!」

「しーやっ!」

ばしゃ!




「あれは、なんですか?」


ユティスが、かなり離れたところで、数十人が気合を入れ合いカラテの稽古をしているのを指して、和人に尋ねた。


「あー。あれば、たぶん、カラテの稽古をしてるんじゃないかな?」

「二宮さんがしているという武道ですか?」

「リーエス」


「とっても大変そうですわ」

「あんな風に水中で蹴ろうとすると、水の抵抗でものすごく力がいるんだよ」

「リーエス。負荷が余計にかかる分、稽古も厳しくなるんですね?」


「リーエス。でも、ご苦労なことだね」

「どうしてですか?」

「だって、みんなここには遊びに来てるのに、わざわざその中で稽古だなんて」


--- ^_^ わっはっは! ---


「きゃあ、きゃぁ!」

「あははは!」

「わぉ!」

二人の周りは楽しそうな笑い声に満ちていた。




「811!」

「しいや!」

ばしゃっ!


「812!」

「せいやぁーー!」

ばしゃっ!


一方、浜の向こうでは白い道着をびしょ濡れにして、数十人が絶えることなく向かってくる波を相手に、大声で気合を入れながら必死で蹴りを出していた。




「対象的ですね?」

にっこり。


--- ^_^ わっはっは! ---


ユティスは微笑ましそうに言った。


「いいんじゃないかな。それはそれで・・・」




「おりゃーーーっ」

一際高い気合が、浜中に響いた。


「そうですね・・・」

なにかに気づいたように、ユティスはカラテの稽古の方に集中した。


「どうかしたの?」

「あ、その・・・、なんか二宮さんの声のような・・・」

「先輩?まっさかぁ・・・」

「そうですよね・・・」

「先輩、なにも言ってなかったしなぁ・・・」




ビーチパラソルの下では、親子連れが浜辺を楽しんでいた。


「ねぇ、お父さんったら。みっともないお腹出してないでアロハ着たままでいてよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんだ、可憐。せっかくの海だぞぉ。これから泳ぐっていうのにどこが悪いんだ?」

「泳ぐのは結構。でもお腹はダメ!」


「なに言ってるの、可憐。お父さんだって楽しむ権利はあるでしょ?」

「もう。さっきから、お父さん鼻の下伸ばして女の子ばっか見てんだからね、お母さん」

「いいじゃないか。あれは見てくださいってことだぞ。見てやって、褒めてやって、ナンパしてやって、奢ってやって、やっと女の子も元が取れるんだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ん、もう!」

「なんだ、せっかく投資の説明をしてやっているのに・・・」

「ふざけないで!」


--- ^_^ わっはっは! ---


ぷるん・・・。


「おり?可憐もなかなかだぞぉ・・・」

にまぁ・・・。


「お父さん!」

「うふふ。確かにブランドの水着は高価ですもの」

「お母さんまで!」

「そう言えば、女の子の水着ってのは布地面積が少ないほど高いってのは本当か、可憐?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「知りません!」

「あら、可憐。あなただって、結構露出度高いわよ。もし和人さんと来るチャンスがあったら、悩殺しようって思ってたんでしょ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「違います。お母さんまで・・・。お二人とも本当に一部上場の元重役夫婦なんでしょうか?」

「犯罪は犯しておらんぞ」

「まぁ、いいじゃありませんか。ねぇ、お父さん。十分楽しんだ後は早めに、お風呂、お夕食にしません?」

「お、それ、いいねぇ」


にたにた・・・。

にこにこ・・・・


--- ^_^ わっはっは! ---


「ああ。女将さんにはそう伝えておくよ」

「どういうことよぉ?」

「わはは。せっかく海辺の温泉ホテルに来たんだぞぉ。可憐もまだまだ子供だなぁ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「お父さんのバカ!」

「いいじゃないか、晩飯の後はお互い部屋は別なんだし。若いモンは若いモン同士で、大人は大人同士で、今宵ふけるのを堪能する・・・。風流だねぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「嫁入り前の娘の前で言う台詞ですか、それ?」

「これは意外。古文で習わなかったか、可憐?源氏物語なんて、今ならロマンポルノの範疇だぞ。日本文化は世界でもまれに見る大らかさ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「お父さん、紫式部を愚弄する気?」

「愚弄してはおらん。賛美しとるじゃないか。だれも悪いとは一言も言っとらんぞ」

「十分、愚弄してます!」

「可憐。光源氏はロリコンだ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「お父さん!」

「ふふふ。和人を一緒に誘わなかったのは、致命的なミスだぞぉ、可憐。一人くらいなら、なんとかなったんだけどなぁ・・・」

「残念ですわねぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そ、そんなの、できるわけないでしょ。家族旅行なんだから」

「甘い、甘い」


「まぁまぁ・・。あら、そういえば・・・。可憐、姉さんたちは?」

「魚釣りですって」

「わははは。母さん、丘で鮫を釣らんように、釘を刺しておいたかぁ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「はいはい」

「まぁ!」

「んもう、お父さんなんかしらない!」




和人が海から出て浜を歩いている時だった。


「和人さん、あれ・・・」


ユティスの言葉に、和人ははっとしてユティスの示す方を見つめた。


「あーーー!」

まさに、横から波を受け子供が小さなビニール製ボートから海に投げ出されるところだった。


「子供が投げ出されたぞぉーーーっ!」

だれかが叫ぶ声がした。


どっぼーん。

たったった。

ばしゃばしゃばしゃ。


和人はすぐさま海の中に入っていった。


「和人さん!」


「大変だ、子供が生みに落ちた!誰かぁ!子供が、ボートから落ちたぞ!」

和人は叫びながら、子供の方に波を掻き分けながら進んでいった。


じゃばじゃば・・・。


「大丈夫、まだ浅いから!」

和人は海の中を子供に向かって走っていき、子供に叫んだ。



浜辺の大人たちが一斉に和人の声に反応した。


「子供が海に落ちたって?」

「どこだ?」

「あっちよ。あっち!」

「きゃあ!」


子供は和人から30メートルくらいしか離れていなかったが、和人はまったく進んでいないように感じた。


すーーーう。

どぼーーーん。


和人は海に飛び込み、子供目指して泳いでいった。


ばしゃばしゃ。


和人は生まれが海にごく近かったので、幼少の頃より泳ぎ慣れていた。


(くっそう。すぐそこなのに!)


ばしゃばしゃ。


「だれか、いったぞ!」


子供の方に泳いでいく和人を指して、だれかが叫んだ。ボートから投げ出された子供に一番近くにいたのが和人だったのだ。


「レスキューだ!レスキューを呼べ!」

海水浴場を監視していたレスキューもすぐに気づいた。


(溺れるものは藁をも掴む。助ける時には下からすくうように)


和人の脳裏に溺れる者を救う時の教訓が響き渡った。


「和人さん、すぐそこです!」

「リーエス!」

和人は目いっぱい速度を上げた。

ばしゃばしゃ。


「助けて!」


がぼっ。

子供はそばのボートにすがりつこうと、手足をばたつかせて波に浮き沈みしていた。


すーーーぅっ。

和人はビニール製のボートにたどり着くと、ボートのロープを掴んだまま子供の側に来た。


「助け・・・」

がぼっ。

「助け・・・てぇ・・・!」


和人はできるだけ空気を吸い込むと、子供の下に潜り込み腕だけ海面に出して叫んだ。


「これを、掴め!」

和人がロープを子供の手に押し込んだと同時に、子供は必死でそれにしがみついた。


「やりましたわ!」

ユティスは和人にエールを送った。


げほっ。

子供が必死でボートを手繰り寄せたところで、和人ががっしりと子供を抱えた。


「もう大丈夫だよ!」

ぎゅうーーーっ。

子供は、海底にしっかり足と付けて頭を余裕で海面に出している和人にしがみついた。


「ぼく、浅くて、よかったね」

にこっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


和人は急に余裕が出てくるのを感じた。


ざっぱーーーーん。

その時、一際大きな波が二人を襲った。


どっぶーーーん。

二人はそのまま浜の方へ一気に流されていった。




がしっ。

ライフガードの屈強な若者二人に両脇を抱えられて、和人は浜辺に引き上げられた。


「きみ、大丈夫か?」

和人は数人の男たちに抱え上げられて意識を取り戻した。


「え・・・?」

「よくやったぞ、お手柄だ」

「子供は?」

「助かったよ」

「あ・・・」


「よく、子供に気がついたね?」

「いえ、ユティスが知らせてくれたから・・・」

「ユティス?」

「しまった・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あなたの他に、第一発見者がいたのですか?」

ライフガードの男性が言った。


「あ、いや、忘れてください・・・」

「そうは言っても報告書に書きませんと・・・」

「うふふ。そのような必要はございませんわ」

ユティスはにっこり微笑むと彼に言った。


「いいんです。本人もそう言っていますから」

「リーエス」

「え?」


--- ^_^ わっはっは! ---


ライフガードの男は辺りを見回した。

「だれだい、なんか女の子の声がしたと思ったけど・・・」

「気のせいですわ」

「そっかぁ・・・。ええ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


彼が声のした方を振り向くと、天使のような微笑を湛えた若い娘の姿を目にした。


ゆらゆらぁ・・・。

彼女の周りには揺らめく七色の光が美しく輝いていた。


「きみは・・・」

「うふふ。アステラム・ベネル・ロミア(こんにちわ)・・・」

「あ、はい・・・。こんにちわ・・・」


彼はユティス呆けたように見つめ、幸福感に包まれたような笑みを浮かべ、われを完全に忘れていた。


すぅーっ、す、すぅー。

ユティスはそのまま和人の側にくると、ライフガードの男に言った。


「レイシス・アデル・ユティス・デュ・レルフィエーザ(エルフィアのユティスと申します)」

「どうも・・・、天使さま・・・。マイネーム・イズ・・・ジュンちゃんです・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「『じゅんちゃんです』さん・・・、そうおっしゃるのですね・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


にこっ。

ユティスは微笑んだ。


「はい。ジュンちゃんです・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


尊いお命を見守られるお役目、アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)」

「はぁ・・・」


「あのぉ・・・」

「ない・・・」


和人は男に優しく尋ねてみた。

「彼女がユティスだけど、あなたは見えてるんですね?」

「あ、はい?なんでしょうかぁ・・・?」


男は心ここにあらずで、和人は諦めて、ユティスを振り返った。

「心が飛んで行っちゃった。どうにか、しなくちゃ、ユティス」


ユティスは和人に微笑むと、ジュンちゃんに向き直り、手でその額を撫でるような仕草をした。


「お目覚めください、『じゅんちゃんです』さん」


--- ^_^ わっはっは! ---


ぱっ。

その瞬間、ジュンちゃんはわれに返り、ユティスを探した。


「ユティスさん!エルフィアのユティスさん!あれ・・・、どこに行ってしまったんだぁ・・・?」




(ユティス、どうなってるの?)

(恐らく、気がついたせいで、頭脳波パターンがずれてしまわれたのではないかと・・・)

(じゃ、きみが見えてないんだ、もう)

(残念ですが、そのようです・・・)


(もう、行こうか・・・)

(リーエス)



ユティスは、彼女を探してあちこち確認し続けているジュンちゃんに別れの手を振った。




ぶろろろろ・・・。

帰りの車の中で、ユティスは思い出し笑いをしていた。


くすっ・・・。


「どうしたんだい、嬉しそうに?」

「リーエス。とっても楽しいことを思い出していたんです」


「そうなんだ。よかったら聞かせてくれるかな?」

「リーエス。なにかの言葉遊びしませんか?」


「言葉遊びったら、尻取りだね」

「尻取りですか?」


「ある言葉の最後の音を次の人の言葉の最初の音にするんだよ」

「例えば?」

「くるま、まめ、めだか、かのじょ、って具合さ。それで、出なくなるか、『ん』で終わる言葉を答えた人が負け」


「まぁ、面白そうですわ」

「やってみるかい?」

「リーエス」

ユティスはにこやかに頷いた。


「まず和人さん、問題をお出しください?」

「あ、オレからでいいの?」

「リーエス」

「じゃ、なにがいいかなぁ・・・」


「うふふふ・・・」

「そうだなぁ・・・。『ユティス』」


「わたくしの名前ですか?」

「そう。最後の音は『す』だから、『す』ではじまる言葉をきみが出すんだよ。

「リーエス、わかりました」


「では、『すき』」

「え、それは動詞じゃないか。このゲームは名詞しか使っちゃいけないんだけど・・・」

「そうなんですか・・・?」


「ああ、いい。いいことにするよ。きみは地球語に明るいわけじゃないからね。あはは」

「よかったですわ。では、和人さん」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わかった。えーと『き』だから・・・」

「早くしてください・・・」

「うーーーん」


「和人さんってば・・・」

「えーーーと・・・」


「もう・・・、和人さんの負けになっちゃいますよ・・・」

「おーそうだ、これなんか・・・」


「リーエス」

わくわく・・・。


「キッス」

「え?」

「『すき』の文字をひっくり返しただけってのは、反則だよなぁ・・・。やっぱり・・・。えへへ」

「また『す』ではじまる言葉ですよね・・・。えーと、えーと・・・」


「次、次、遅いよぉ。きみの番だよ、ユティス」

「『ユティス』、『すき』、『キッス』の次ですかぁ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうそう、その次、どうするの?」

「どうするとおっしゃられても・・・、困ります・・・」

「え?」


かぁ・・・。

ユティスはいっぺんで真っ赤になった。


--- ^_^ わっはっは! ---


この一言で、家に帰る道中、二人ともまともに会話できなくなったのは言うまでもなかった。

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