054 勝負
■勝負■
ユティスが歌い終えた後、どこからともなく拍手が聞こえてきた。
ぱたぱち・・・。
和人が、周りをよく見ると、何組かの男女のカップルたちが和人たちの方を見て微笑んでいた。
ふらー、ふらー・・・。
中には手を振っている者もいた。
あるカップルが和人たちに微笑んで、話しかけてきた。
にこっ。
「ユティス、なんて素晴らしいんだ。みんなきみの歌に聞き入っちゃったよ。本当に感動しているよ・・・」
「まぁ・・・」
にっこり。
ぺこり。
ユティスはみんなに笑顔で礼をした。
「おーーーい、そちらのカップルさん。女性の方はユティスですよね?」
1人の若者が言った。
「リーエス!」
ユティスは手を振って答えた。
「ねぇ、精神体のきみ!」
「あ、オレのこと?」
和人は声の主の方を見た。
「そうですわ」
にっこり。
彼のそばの大変な美女が微笑んだ。
「名前はなんて言うの?」
「どこから来たの?」
「和人です。地球から」
「それは、それは。遠いところから、ようこそエルフィアへ!」
「はぁ・・・」
「あは。和人、きみは幸せ者だね!」
これまた美形の男性が和人に言った。
「えっ?」
「いいかい、精神体のきみ。その歌はねぇ、女性が特別な人にしか捧げないんものなんだよ。知ってた方がいい」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんですか?」
「和人、きみは精神体だけど、それでも、あえてユティスがきみにその歌を捧げたってことさ・・・。きみは、そうだね・・・、選ばれしものってことだよ」
「素晴らしいことだわ」
相手の女性も祝福するように言った。
「ユティスはね、ただのエルフィア女性じゃないのよぉ」
「どういうことですか?」
「いろんな意味で最高の女性よ」
「そうだよ!」
連れの男性も幸せそうに言った。
「でも・・・、ぼくにとってはきみだけど、リディティス・・・」
「デューベック!」
ちゅうっ。
二人はゆっくりと情熱的なキッスを交わした。
どきどき・・・。
「今の、本当なの?特別な人に捧げるってこと・・・」
和人は恐る恐るユティスにたずねた。
「リーエス・・・」
ぽっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスは恥じらいながらもにこやかに答えた。
「なんとも思わない方には、捧げたりはしませんわ・・・」
ぽっ。
そして、ユティスの頬はますます赤く染まっていった。
--- ^_^ わっはっは! ---
どくどく・・・。
和人はまたまた胸が高鳴るを感じた。
「オレにとって、ユティス、きみは特別だけど。きみにとってオレも・・・。その、ちょっとくらいなら期待していいのかな・・・?」
「なにをでしょうか・・・?」
(もう、ちゃんと最後まで言ってよ、ユティス・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにをって、その・・・、オレのこと嫌いではないとか・・・?」
「まぁ・・・。和人さんを嫌うだなんて・・・、絶対にありません・・・」
きっぱり。
「そっか。あははは。よかった・・・」
どきどき・・・。
しばらく置いて、ユティスはやっと聞こえるくらいの小声で言った。
「和人さんと、もっと、ご一緒するお時間を過ごしたいです・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「でも・・・」
和人は時間を気にしていた。
「おじいさんにはなりたくない・・・」
エルフィアの時間が浦島太郎効果をもたらさないと保証はできなかった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス・・・。わかっています。そろそろお時間ですわね。こちらのお時間と和人さんの地球時間は同調しています。相対的に時間が変化することはありませんわ・・・」
ユティスは残念そうに言った。
「うん・・・」
和人は後ろ髪を引かれる思いだった。
「昼休み、1時間しかないんだ・・・。事務所にいたら・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「残念ですけど、カフェではありませんものね」
「失敗したね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。事務所でのお仕事ですものね。お送りしますわ」
ユティスは少し感傷的になっているようだった。
「さぁ、わたくしのイメージにおつかまりになって」
「リーエス」
ぶわぁん。
ユティスは和人を地球のセレアム事務所に戻した。
事務所では、俊介たちが和人の精神が戻るのを見守っていた。
ぼんっ。
「う・・・、うん・・・」
和人は机についた両腕よりゆっくりと頭を起こした。
「和人、よく寝てたなぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「常務・・・?」
「女の子とデートの夢でも見てたか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なぁに、和人ったら、眠りながらにやけちゃってたわよ?」
ぱちっ。
真紀がウインクした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「え?」
「よだれが出てる」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うわっ!」
和人は手を口にやった。
「うっそっ!」
「真紀さん!みんなして人の寝顔見て笑ってたんでしょ?」
「笑ってなんかいないわよ。見とれてたの・・・。可愛い・・・」
茂木の言葉に一同笑いの渦となった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは」
「わははは」
(はぁ。オレ、本当にユティスのいるエルフィアに行ったのかなぁ・・・)
和人は自分の体験が夢のように思われた。
エルフィアでは、エルドがユティスの言葉に聞き入っていた。
「和人さんは、とてもここを気に入ってくださっています」
「リーエス。それは幸いだった。それで、どこかカズトは感じるものがあったのかい?」
エルドは優しく尋ねた。
「リーエス。エルフィアの自然、人々の暮らし、調和、そんなカテゴリー2にはあまり見られないものに感動してくださいました。うふふ」
「なるほど。予想通りの反応だな・・・?」
さ。
エルドはユティス続けるよう、手を振った。
「リーエス。SSたちもご覧になられました。エルフィアの文明促進支援がどういう形で実現しているのか、人的サポートも。それに、『すべてを愛でる善なるもの』への理解も・・・」
「そこまで話したのかね?」
エルドは少々驚いたように、ユティスを見つめた。
「リーエス。和人さんの方から質問がございました。和人さんはとても中立的な方です。未知の部分は未知のまま当座置いておく。これを自らの意思に沿った解釈をつけて、ご自分すら欺かれるような考えを人に強制しようなど、そんなことは微塵も思われていません。一つ一つ着実に前に進まれます」
「・・・」
「エルド?」
「うむ・・・」
エルドはユティスの報告を噛み締め、なにかを判断しようとしていた。
「エルド?」
「リーエス。いや、悪かった。ちと、考え込んでいたんでね。で?]
「わたくしの歌に感動していただきました・・・」
ぽっ。
ユティスは少し赤面した。
「どんな歌を披露したのかい?」
「『祈りの歌』を捧げさせていただきました。ここにきて、ミューレスのことが思い起こされて・・・、そうしたら自然に歌っていました」
「うむ・・・」
エルドは目を閉じて、静かににユティスの言葉を待っていた。
「わたくし、どうしても和人さんにお会いしたいのです・・・」
ユティスの最後の言葉は消えそうだった。
じわぁ・・・。
そして反対に目からなにやらこぼれ落ちそうになった。
次の日、和人はいつものカフェへ遅い昼食を取りにいっていた。
「宇都宮さん・・・」
「あれ、高原さん。こんちわ」
すす・・・。
すぐに、和人のところに高原がやって来た。
「こんにちわ。すみません、今日はいつもの席ふさがっちゃってて・・・」
「いいよ。空いてるところに勝手に座るから」
「すいません。どうぞ、こちらへ・・・」
てくてく・・・。
「ありがとう」
どさっ。
ばさっ。
高原はちらちらと和人の周りを確認した。
「今日は、大宇宙の天使さんは、いないのですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは・・・。ユティスのことだね?」
「そうです。ユティスさん」
「うん。呼べば来るよ・・・。たぶん」
「なるほど、まだ昼食中なんですね?」
「はい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「きいてみようっか?」
「あ、是非」
(ユティス。こっちに来れるかい・・・?時間があれば)
--- ^_^ わっはっは! ---
すぐにユティスから返事が来た。
(リーエス!すぐに参ります)
和人はにやりと笑った。
「今、本人の許可を取ったよ」
「許可?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、あのぉ・・・」
ぶわ~ん。
高原が話そうとしている間に、ユティスの精神体が和人のシートに現れた。
「あ・・・」
ユティスは、満面笑みを湛えて高原に会釈した。
ぺこり・・・。
「高原さん、こんにちわ」
「こ、こんにちは、大宇宙の天使さん・・・」
ぴ、ぴ・・・。
思わず、高原は胸に十字を描いた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティスとお呼びになって。んふ?」
「は、はい。ユティスさん・・・」
「・・・」
ぼう・・・。
あんまり高原が飛んでいるようなので、和人が現実引き戻した。
「あの、いつものアイスカフェラテね」
和人がオーダーした。
「あ、失礼しました。二人分すぐにお持ちします」
--- ^_^ わっはっは! ---
「一人分でいいですよ。ユティスは精神体で飲めないから・・・」
「あ、は、はい。そうでしたね。あの、お話できて光栄です、天使さん。また、後で・・・」
「はい!」
(アーメン)
高原は二人に十字を切って礼をすると、シンクに戻っていった。
(やっぱり、夢じゃない。大宇宙の天使は実在するんだ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
高原はシンクからユティスを振り返った。
にこっ。
ユティスは高原に微笑みながら、小さく手を振った。
ひらひら・・・。
(高原さん。わたくし、あなたとは心で会話できるようですわ。お試しくださいな)
(ひ・・・。聞、聞こえたぞ。心で会話って・・・)、
(リーエス。その調子です)
(うわ・・・。大宇宙の天使と直接会話しちゃった!)
--- ^_^ わっはっは! ---
(なにか、ご質問がおありなんですね?どうぞ、ご遠慮なくおっしゃってください)
(質問ったって・・・)
「ちょっと、慎二ったら!」
その時、店の相棒の美紗緒が高原を呼んだ。
「あ、はい?」
「なによ、十字なんか切っちゃって・・・。あんた、いつからクリスチャンになったのよ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そ、そういう訳じゃなくて・・・」
「なによ?」
にこにこにこ・・・。
「あれ、見えないのか、美紗緒?」
高原は勇気を出して言ってみた。
「なによ、あれって?」
「だから、あそこの、あれ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
高原は和人の横を見つめた。
「だれもいないじゃない。まっさか、天使が現われたって言うんじゃないでしょうね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まさかじゃないよ。そこにいるんだ。大宇宙の天使が・・・」
「気でも狂ったの?どこにいるのよ?」
ぽん。
その瞬間、美紗緒は和人の隣に座って、じっと自分に微笑みかけているユティスを認め声を失った。
じーーーっ。
「あ・・・、モデルさんだ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
(美紗緒さんの頭脳波を捕らえましたわ)
(あーあ、またかい?いたずら好きだなぁ、ユティスも)
(うふふ・・・)
にっこり。
「こんにちわ、美紗緒さん。うふ」
ユティスは優雅なエルフィアの衣裳を着け、明らかに回りと違っていた。
(な、なんのよ、あなた?いつからそこに・・・)
「だ、だれ、あなた・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
美紗緒は目をこすった。
(夢じゃない・・・。やっぱり・・・、いる)
--- ^_^ わっはっは! ---
それでも、ユティスが見えているとわかり、美紗緒は勇気を出してユティスに歩み寄った。
にっこり。
「ユティスと申します」
ユティスは一礼した。
「あ・・・」
美紗緒は大きく目を見開いて放心した。
「あなた・・・、外人のくせに日本語しゃべれるのね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。和人さんのおかげで大抵のことはわかりますわ」
「ふうん。すごいわねぇ。じゃぁ、これ知ってる?」
「なんでしょうか?」
「生麦生米生卵、生麦生米生卵、生麦生米生卵」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス?」
「だから、言ってみてよ」
「申し訳ございません。もう一度お願いできますか?」
「いいわよ。生麦生米生卵、生麦生米生卵、生麦生米生卵。はい、どうぞ」
「なまむげ、なまもげ、なまたまたま・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぷっ・・・」
「あっはっは!」
「わっはっは!」
「和人さん、なんておっしゃってるんですか?」
ユティスは困ったように和人を振り向いた。
「あれね、早口言葉って、意味なんかあんましないんだ。言い難い言葉を羅列して早口を競うんだよ。大体が間違えるだろ?それをみんなで笑ってからかうっていう他愛もない悪戯さ」
「まぁ!わたくしをひっかけたんですね?」
「リーエス。そういうこと」
「わかりました。もう一度おっしゃってくださいますか?」
きりり・・・。
ユティスはファイト満々で美紗緒に向き直った。
「はっ。生麦生米生卵、生麦生米生卵、生麦生米生卵」
「なまむぎ、ままごめ、なまたまご・・・!」
「お、やるじゃん、あんた・・・。じゃ、これ。隣の客はよく柿食う客だ」
「となりのきゃくは、よくかきくうきゃくだ」
「じゃ、次。東京特許許可局!」
「とうきょうとっきょきょかきょく」
「坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた!」
「ぼうずが、びょうぶに、じょうずに、ぼうずのえをかいた」
はぁ、はぁ、はぁ・・・。
「やるじゃん、あんた・・・」
にこっ。
「では、わたくしからです」
「え、わたしがやるの?」
「リーエス。人にやらせておいて、ご自分は逃げるおつもりですか?」
むかぁ・・・。
「なんですってぇ?言ってごらんなさいよぉ。受けて立つわ!但し、日本語でよ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。3度繰り返してくださいね?」
「あ、当ったり前じゃない!」
「では、参ります」
すぅ・・・。
「高原さん、好きです。好きです。あなたが大好きです。これからは素直になります」
--- ^_^ わっはっは! ---
「え・・・?」
「はい、どうぞ!」
--- ^_^ わっはっは! ---