052 召還
■召還■
IT研究会の次の朝、和人はセレアムの事務所にいつものように出社した。
「おはようございます」
「あ、石橋さん、おはようございます」
和人は石橋に挨拶した。
「昨晩はありがとうございました」
ぺこり・・・。
昨日の事務所からIT研究会まで、石橋ははじめて和人と一緒に長時間過ごせたのだった。しかも、大谷社長や間々田に加え、大勢から恋人同士と嬉しい誤解をされて、今までにない満足感を味わっていた。
にっこり。
石橋は頬を染めながら微笑んで、和人を見つめた。
どき・・・。
(なんだ、この親密な笑みは・・・?)
--- ^_^ わっはっは! ---
「うん、そうですね。石橋さんが顧問のお嬢さんだったなんて、ホントびっくりしました」
「はい。でも、お嬢さんはよしてください・・・」
ぽっ。
石橋ははにかんだ。
(微妙に、色っぽいぞ・・・)
今日は石橋は自宅で念入りにメイクしてきたのだった。
ぱり、ぱりっ。
「お母さん、可憐のやつ、和人くんと、なかなか仲いい雰囲気だったぞ」
石橋顧問はパンをかじりながら、新聞を読んでいた。
「な、かなかな、かいいですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「親父ギャクだよ。受けんか?」
「あら、そうなんですか?あなたのギャグはさておき、わたしは、可憐、まだまだ時間がかかると思ってたんですが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや、時間はかかると思うな。ただ、二人寄り添って、和人くんも可憐をリードするようにみんなを会話に誘っていてね、うまく可憐をフォローしてくれてたんだ」
ごくっ。
石橋顧問はコーヒーを飲んだ。
「それはよろしいことで」
にっこり。
石橋夫人はにこやかに答えた。
「だろ?」
「でも、あの娘、顔を真っ赤にしてたんじゃありませんか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。それなんだよ。ホストの大谷さんがそんな二人を一瞥して、和人くんのことを『石橋顧問のお嬢さんのボーイフレンド』なんて勝手に呼んだもんだから、回りもすっかりそう思い込んじゃってな、二人は完全に恋人扱いだよ。わっはっは」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、和人さん、ご迷惑だったんじゃありませんか?」
「かもしれんな。だが、悪い気もしとらんようだったぞ。あれから、ずっと帰るまで、可憐も甲斐甲斐しく寄り添って・・・」
「どうしたんですの?」
「いや、可憐がいずれ嫁に行くのかと思うと・・・」
「まぁ、父親の嫉妬ですか?」
「バ、バカを言うもんじゃない。わたしはただ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ただ?」
「キレイに見えたんだ、可憐が・・・。自分の娘じゃないように、キレイで可愛くな」
「それは、あなたとわたしの娘ですもの。可憐は名前のとおり、とっても可愛い娘ですわよ」
「うむ。最近、確かにドレスも化粧も、センスが良くなったなぁ、なんて・・・」
「まぁ・・・。うふふふ。自分の娘に恋でもなさるおつもり?」
「やばいかな・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お父さん?」
「ん?」
「首を絞めて差し上げますわ、そうなる前に。おほほほ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「しかし、和人くんは、あの若さで大したもんだよ。彼の頭の中はビジネスオーナーだ」
どたどたどた・・・。
「お母さん、わたし出かけるわね。きゃあ、もうこんな時間!」
どたばた・・・。
可憐はパン一切れ掴むと、ガレージへ急いだ。
「危ないなぁ。もっと早起きしなさい、可憐」
「はぁい。いってきまぁーす!」
「いってらっしゃい」
ばたん。
どたどた・・・。
「可憐たら、はしたないですよぉ」
「きゃあ、送れちゃうーーー!」
ばたん。
ぶるん。
ぶろろろろ。
きっ。
ぶろろろろ・・・・。
ぎゅぅーーーん!
「なんですか、あれは?」
「まるで戦闘機だな・・・」
石橋顧問は娘のスクランブル発進を目で追った。
「撃ち落としに行くわけかしら、和人さんを・・・?」
「今日こそな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
石橋と和人は顧客先のホームページサーバにアクセス監視用の仕掛けをするため、朝から事務所で確認や準備をしていた。
「今日は、野木さまのところにサイトアクセスのモニタを準備しなくてはいけなかったんですよね?」
「そうですね」
「じゃ、これ確認しておきます」
「うん、お願いします、石橋さん」
「はい」
にこっ。
石橋は笑顔で和人を目で追った。
「おはよう。どうだった?」
「ばっちり。さすが石橋さんて感じです」
「それは楽しみだわ」
「あの、真紀社長。石橋さんってKBBIの専務の娘、次女だって・・・」
「知ってるわよ。和人は知らなかったの?」
真紀は意外という顔になった。
「ええ。もう、びっくりしました」
「KBBIの専務ったって、どのみち、ただの地球人よ。あなたのユティスに比べりゃ、どうってことないんじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「しーーー。声高いですよ」
「はいはい。あなたの方がよっぽどスゴイわよ」
真紀は小声で言った。
「そ、そんな問題じゃないと思うんですけど」
「さぁて、首相や大統領が会ってびっくりするのは、どっちでしょうか?」
「そりゃぁ・・・」
「和人ね、よぉく考えてみなさい。ユティスと自由に会って話ができることが、いったいどれだけすごいことか・・・。あなたしかその権利ないのよ」
「それは、そうですが・・・」
「はぁ。ホント、あなた、まったく自覚してないんじゃないの?」
「はぁ・・・」
ぽん。
和人が溜息をついてると、真紀は背中を叩いた。
「ほれ、時間。遅れるわよ。石橋の車でいくんでしょ?」
「あ、はい」
「石橋、もう、駐車場に行ってるわよ」
「わかりました」
たったった・・・。
和人は小走りで駐車場に向かった。
和人と石橋は、顧客先にいた。
「やぁ、お二人さん。早速、お出でいただいて助かりますよ」
「お二人だなんて、そ、そんなぁ・・・」
ぽぉーーーっ。
石橋が赤面した。
「いいって、いいって、恥ずかしがらなくて。会社には内緒なんでしょ、付き合っているの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええ?」
和人は思わず石橋を振り返った。
かぁ・・・。
石橋は潤んだ目で和人を見返した。
(ありゃ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「ん、ん。野木様、さっそくですが、わたくしどもは準備をしたいと思いますで、サーバーにご案内できますか」
「わかった。こっちだよ」
サーバールームに入ると、野木は1本のラックに収められたサーバの一つを指差した。
うぃーーー。
うぃーーー。
しゃぁーーー。
ざーーー。
サーバールームは、空気清浄機とサーバのファンの音で、かなりの騒音に満ちていた。
「このサーバーですね?」
サーバーを目にした石橋はすぐにビジネスモードに入った。
「じゃ、サイトの管理画面をお願いできますか?」
「はい。これです」
「ウィルスチェックは一応してあるんですけど、ご確認されますか?」
石橋はアクセス解析用のアプリが入ったメモリーを野木に見せた。
「いいえ。チェック済みなら結構です」
「はい、わかりました。では、セットしますね」
かちゃ、かちゃ・・・。
石橋は管理システムにアクセスしているPCにメモリーを差し込み、アプリの起動を待った。やがて、アプリが動き出し、石橋はパラメータを入力後、条件を設定した。
「さて、いきますよぉ・・・」
ぽん。
石橋が画面上のボタンを押すと、アプリがアクセス・ログの採集をはじめだした。
「はい、セット完了です」
「ええ、もう?」
「はい」
「ずいぶんと早いんですねぇ・・・」
野木は感心したように言った。
「これ自体はそんなに手間はかかんないんです」
「じゃ、これで1週間ログを採集するんですね?」
「そういうことになります」
「サイトにアクセスした人が、どのページのなにを見たかとかが、クリック毎にわかります」
きらきら・・・。
石橋の目は生き生きしていた。
(ビジネスモードの石橋さんかっこいい・・・)
和人は素直に感動した。
「ふーん。それで、結局どんな風にマーケティングに繋がるの?」
「コンバージョン率と、コンバージョンに至ったプロセスです」
「コンバージョンって、なに?」
「サイトのボタンなりをクリックして、注文とか発注とか、サイト上でなんらかの契約を決めるという行為です。ご存じありませんか?」
「ご存知ありません。恥ずかしながら。えへへ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんだか、すごいですね」
野木は石橋の作業を感心して見ていた。
「そんなことないです・・・」
「そんなことありますって」
--- ^_^ わっはっは! ---
[では、野木様、また来週結果と分析をお持ちいたします」
「うん。石橋さん、よろしく頼むよ、宇都宮さんと一緒で」
「はい。かしこまりました!」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこにこ・・・。
その間、すべては石橋が確実に進めたので、和人の出番はなかった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちょっと、待ってください。コーヒーでもお出ししますから」
「野木様・・・」
「えへへ。ぼくもここいらで一休み入れたいんでね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「休憩、休憩。うちは人使いが荒いんだ。応接室に戻ろうよ」
「まぁ、野木様・・・」
セレアムでは真紀が二宮と話していた。
「二宮?」
「うす、真紀さん。なんでしょうか?」
「今月になって、だいぶたったわよねぇ、二宮」
「あ、はい・・・」
(なんか雲行きがやべーぞ、こりゃ・・・)
「和人と石橋とを、シャンパンバーに連れてくって約束、よもや忘れてないでしょうね?」
(あ、いっけねぇ。真紀さん、証人なんだった・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、はい。もちろんっす」
「ロイ・ルデレールよねぇ?」
「あ・・・、そうでしたっけ?」
「高いわよ」
「そ、そうですね・・・」
二宮は声を低くした。
「あの、ちょっと真紀さん。ご相談が・・・」
「いいわよ。費用、会社でつけてあげても・・・」
「ホ、ホントですか!」
(いやっほーーー!)
二宮は小躍りした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふ。条件その一・・・」
真紀は笑みを口元に浮かべながら、横目で二宮を見た。
「やっぱ、そうっすよね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「呑むの、呑まないの?」
「おす。呑みますってば・・・」
「じゃ、続き。条件その一、わたしを連れていくこと」
(ほっ。その一、クリアだぁ)
--- ^_^ わっはっは! ---
「条件そのニ、その場はあなたがまず支払うこと。領収書を出しなさい。月末に精算してあげるわ」
「ええーっ、やっぱり、そこでオレが払うんじゃないですか・・・」
とほほほ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ロイ・ルデレールで4人じゃ、軽く、5、6万円かかっちゃいますよぉ・・・。真紀さぁん・・・」
「泣いてもダメ。今月は、あと10日よ。それくらい持たせないでどうすんの?」
「経営者感覚ってやつですね?」
「キャッシュフロー・コントロールよ」
「わかりました・・・。トホホ・・・」
二宮は財布を覗き込んだ。
(うぁ、沢山はいってる・・・、10円玉が・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
まっさらなお札も5枚ほど入っていたが、悲しいかな、すべて千円札だった。
(銀行に行ってこよう・・・)
エルフィアでは、地球の予備調査への最終準備ともいえるコンタクティー召還が検討されているところだった。
「委員会として、地球のコンタクティー、ウツノミヤ・カズトをエルフィアに一時召還して彼の反応を見てみてみたいが、ユティス、どう思うかね?」
エルドの申し出にユティスは満面の笑顔になった。
「まぁ、本当によろしんですか、エルド?」
「リーエス。そろそろカズトをここに精神体で呼ぶことを考えていたんだ。エルフィアを実際に見てもらい、彼がどう感じるか、われわれが信用してもらえるかどうか、われわれ自身へのテストでもあるんだ」
エルドは、ユティスの逸る気持ちを抑えるように、ゆっくりと静かに言った。
「リーエス。嬉しいですわ。わたくし、和人さんのエルフィア召還はまだ先のことかと考えていました・・・」
「ナナン。わたしはカズトの精神なりを見てきた。彼は十分にその資格があるよ。彼とはプライベートラインも構築済みなんだろ?」
ぴく・・・。
エルドは悪戯っぽく、片眉を上げて微笑んだ。
「エルド・・・」
「ユティス。早速、カズトのところに交渉してきてくれたまえ」
「リーエス!」
にこにこ。
たったった・・・。
ユティスは喜んで小走りにエルドの執務室を後にした。
にこにこ・・・。
和人には、その日のユティスはいつにも増して優しく朗らかに見えた。
「和人さん。和人さんの頭脳も、もうご自身の精神体を転送できるくらい活性化が進みましたわ」
「自分自身の精神体を転送って?」
「はい。和人さんを一度エルフィアへご招待する機会が来たかと・・・」
「なんだって、オレがエルフィアに?」
「リーエス」
「どうやって?」
和人はまったく想像すらできなかった。
「和人さんの意識を精神体として、エルフィアにお連れいたします。そんなに大変なことでもありません。すべては、わたくしがサポートいたしますので、気を楽にしてくださいね」
にっこり。
「で、い、今なの・・・?」
セレアムではもうすぐ昼休みに入るところだった。
「リーエス。最高理事エルドへご面会をお願いしますわ。エルドは、和人さんとお会いできるのを、大変心待ちにしていますのよ」
「だって、今、仕事中だし・・・」
「もうすぐお昼です。お昼休みの1時間あれば普通は十分ですわ」
にこっ。
「普通は、たってさぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「1時間でエルフィアを往復するなんて・・・」
和人は言いかけて馬鹿らしくなった。
「あ、ああ、わかった。リーエス」
和人はユティスを信じていたので、リラックスしてユティスのサポートにすべてをまかせることにした。
「わたくしのイメージが和人さんの頭の中に現れましたら、それに掴まってください」
「掴むったって、どこを?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「イメージでよろしいのよ」
「リーエス(わかったよ)」
ぽわん。
和人が目を閉じるとすぐに手を伸ばしたユティスのイメージが現れた。
すぅ・・・。
ぎゅっ。
和人が、イメージの自分の手をのばしたら、ユティスがその手を取った。
「あ、掴めた・・・。なんて柔らかい・・・」
どきっ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「行きますわ」
「リーエス」
ひゅーーーん。
白い光の中に和人はあっという間に溶け込んでいった。
ぽわんっ。
そして、次の瞬間、和人は見知らぬ白い大きな部屋の中に立っていた。