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051 昇段

■昇段■



二宮の通うカラテ道場、足利道場は今日の第3部の稽古を終え、二宮は苦手のコンビネーションの確認のため、自主トレーニングを10分程度やっていた。


「二宮、ちょっと来い」

「おす、師範」

二宮は自主トレを切り上げると師範と話すことにした。


「どうだ、調子は?」

「おす。まぁ、まぁってとこです」


「うむ」

「おす」


「次の昇級審査だが、併せて昇段も再挑戦してみるか?」

「おす」


(やったぁ!)

二宮は内心天にも昇る気分だった。


「うむ。一応、本部の事前了解は取っておいたぞ」

「おす、ありがとうございます!」


「喜連川も、当然、審査では組み手の一人になるが、トラウマにはなってないだろうな?」

「おす・・・」


「そうか。それなら、いいが・・・」

師範はにっこりと笑うと、ポンと二宮の背中を叩いた。


「おす」


「じゃ、そういうことで。鍵はオレが閉めていくから、おまえはもう上がっていいぞ」

「おす、失礼します」


「じゃあな」

「おす」


たった、たった、たった・・・。

二宮は無意識にステップを踏んだ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「うぉーーーっ。ちっくしょう!ついに、昇段審査だ!今度こそ絶対受かってやるぅ!」




1年ちょっと前、二宮のカラテ道場では、彼の昇段審査で最後の10人組み手が行なわれていた。組み手の3人目は、二宮が心を寄せていた喜連川イザベル初段だった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「二宮一級。組み手3人目、喜連川初段。互いに礼!」


「おす」

「おす」


たったった。

しゅっ、しゅっ。


イザベルは積極的に技を繰り出してきた。


「あいやーーーっ!」


びしっ。

ばしっ。


(速い・・・。予想以上に、技が速いぞ・・・)


「しゅっ、しゅっ!」


がしっ。


(おっと、いけない・・・)


ばしっ。


(イザベルちゃんか。やりにくいよなぁ。女の子ってだけでも、技に気を遣うのに、ましてや、イザベルちゃんじゃぁ・・・)


しゅっ!

「あ!」


ずんっ。

「きゃっ!」


(ぎゃ、中段突きで拳がイザベルちゃんの胸に触っちゃった・・・!)


--- ^_^ わっはっは! ---


きっ!


「しいやぁ!」

イザベルの攻めが一段と激しくなった。


びしっ。

ばしっ。


(やばぁーーー。またまた、中段突きをモロ胸に入れちまうところだった・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


(水月を狙っても、イザベルちゃん、オレより小柄だからすぐ胸にいっちゃうんだよな)


きりり・・・。

イザベルの表情がどんどん硬くなっていった。


(やばい、やばい・・・。女の子に中段に突きなんか出せないよ。中段か下段に回し蹴りしか出せないじゃんか・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


しゃっ!

その時、イザベルの左手が二宮の右脇を突いてきた。


(そうはいくかって)


ぱさっ。

二宮はイザベルの左手を払おうとして右手を下げた。


びゅん!

びしっ!

ばんっ!

ぐらっ・・・。


その瞬間を待ってましたとばかりに、イザベルの左上段回し蹴りが二宮の頭部右にきれいに決まった。


ゆらゆら・・・。

どたっ。


二宮は一言も発することなく、崩れるように倒れ、床に沈んだ。


「一本!」


「あっ!」

「二宮!」


「止めいっ!」


審判の黒帯がイザベルを下げさせた。


「審査中止!」


道場中が一瞬驚いた後、師範の怒声が飛んだ。


「二宮が落ちたぞ!」

「おす!」


「喜連川、下がれ!だれか、二宮を端に!」

「おす」


審判を勤めていた昨年の全日本重量級2位の西方2段が、すぐに駆け寄り、二宮を抱え起こした。


「二宮!しっかりしろ!」

西方が二宮の頭を抱えると、二宮はうつろな目で中を見つめた。


「脳震盪だ。水、タオル!」

「おす」


道場内はにわかに騒がしくなった。


「端に置いて、頭を上げて寝かせろ。頭に濡れたタオル!」

「おす!」


道場の全員がてきぱきとことを進めた。


ぺち、ぺち・・・。

「おい、二宮?」


ぺち、ぺち。


「う、うーーーん」

ようやく、二宮に意識が戻った。


「オ、オス・・・。西方さん・・・」

「お、気づいたか?」


「オレは・・・」

「喜連川の左上段をもらったんだ」


「ノックアウトですか・・・?」

「ああ・・・」


「審査は・・・?」

「・・・」


「中止ですね・・・?」

「ああ・・・」


二宮は昇段審査に落ちたことを自覚した。


「・・・」

二宮はイザベルを探して、道場内をゆっくり見回した。


(あ、イザベルちゃん・・・)


ぺこり。

ささ。


イザベルは二宮と視線が合うと頭を下げたが、次の瞬間後ろに下がり見えなくなった。


「イザベルちゃん・・・」



「師範・・・」

「喜連川、おまえが悪いんじゃない。スキを作って油断した二宮が悪いんだ」

師範はやれやれという顔をした。


「あれほど、喜連川の左中段突きには気をつけろよって言ったんだがなぁ・・・」

「おす」


「喜連川。おまえの左上段は左中段突きとのコンビが絶妙なんだ。中段突きが強いから、あれを数発くらったら、対戦相手は思わず右手で払いたくなる。それこそ飛んで火にいる夏の虫だ」


「おす」

「二宮のヤツ、おまえに見とれちまったのかもなぁ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「おす・・・」

イザベルは赤くなって下を向いた。


「やっぱり、もう一人、二人、本部から黒帯を借りてきた方が、よかったかもな・・・」


「師範、それは、わたしが女だからということですか・・・?」

イザベルは不満げに師範を見た。


「いや、悪い。力不足とか、そういう意味じゃない。その、なんだ、女性が相手だと、男の方は、そのぉ、当てる部位が限られて来るんでな・・・。それで、妙に気を遣ってだなぁ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「師範までそんなことで・・・」


「いや、悪い。おまえのことを心配してだな、二宮は・・・」

「おす。わかってます・・・」


「喜連川、今日はもういい。審査は終わりだ」

「おす・・・」



「西方、一応、二宮を病院で診てもらって来い」

「おす」


「二宮、歩けるか?」

「おす」


二宮は一瞬ふらついたが、その後はしっかり歩ていた。


「一応、医者に診てもらおう。その方が安心だ」

「おす」


「外にタクシーを待たせている。行くぞ」

「おす」


ばん。


「医科大病院へ」

「かしこまりました」


ばたん。

ぶろろろーーー。




医科大病院では、二宮の診察が終わっていた。


「二宮さん、一応スキャンしたんだけどなんともないね。軽い脳震盪だ。二、三日は、無理をしなさんな」

「おす、先生。いえ、はい、先生」


--- ^_^ わっはっは! ---


「気分が悪くなったり、目が回ったりしたら直ぐに来なさい」

「おす。あ、いや、はい」


「じゃ、お大事に」

「おす、先生。いや、はい、先生。ありがとうございました」


--- ^_^ わっはっは! ---


「良かったな」

「おす、西方さん。でも・・・」


「しょうがない。来年、また、挑戦だ。稽古で精進しろ!」

「おす」




二宮の脳震盪はまったく問題なかった。しかし、心の方は・・・重症だった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ふぅ・・・」

「お、二宮、どうした?昇段審査は受かったんじゃないのか?」

セレアムの事務所では、俊介が二宮を気にしていた。


「うーす。ダメでした・・・」


「落ちたのか?」

「うーす」


二宮は上の空で窓を眺めていた。


「そいつは、残念だったな・・・」

「うーす」


「イザベルにいい顔ができんなぁ・・・」

「うーっす」


二宮はそのまま手洗いに向かった。




「常務、常務、ちょっと・・・」

俊介は和人を振り向いた。


「なんだ、和人?」

「イザベルさんの名前出したらダメですよぉ・・・」


「なんでだよ?」

「先輩、組み手でノックダウンされたらしいんです」


「ほう。一本負けじゃ情状酌量の余地なしってことか・・・」

俊介は二宮の出て行った方を気の毒そうな目で追った。


「だから、ノックダウンの相手ってのが・・・」

「全日本2位の黒帯の・・・、なんていったけ・・・」


ぷるぷるぷる・・・。


和人は首を振って、通り向かいのコンビニの方を向いた。


「それが・・・」

「ま、まさか、あのイザベル・・・ってわけじゃないだろ?」


こっくん・・・。

二宮に気づかれないよう、和人は声を出さずに静かに頷いた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「・・・」


「ま・・・、まじかよ?」

「らしいんで・・・」


「こりゃあ、下手に冗談も言えんなぁ・・・」

「おっしゃるとおりで・・・」


「だが、惚れた女にノックアウトじゃ、願ったり適ったりじゃないのか?オレもいい女にならノックアウトされたいよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「常務、それ、場合によります。先輩はMじゃありません」

「そっかぁ。じゃ、Sなんだな?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「違います」

「わかってるさ」


「合わせる顔もないって・・・」


和人は一呼吸置いた。


「イザベルさん。弱い男は嫌。ということらしいんで・・・」

「んだ。最悪だ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---




二宮に上段を放った喜連川初段は、当時18歳。娘十八番茶も出番、とばかりの可愛い女の子で、二宮がお熱なのは、道場ばかりか、会社の人間にも周知の事実だった。


「いらっしゃいませぇ」

和人と二宮は会社の通りを挟んだ向かいにあるコンビニにいた。


「先輩、あのバイトの女の子が、そのイザベルさんで?」

「ああ、そうだぜ。可愛いだろ・・・?な?」

その女の子の店員は母親がフランス人のハーフで、名をイザベルといった。


「ええ。とっても。いや、それだけじゃなくて、美人て感じですね」

「だろ、だろ!でへへへ・・・」


びろぉーーーん。

二宮は鼻の下を延ばしていた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「確か、和人と同じ専門学校のはずだぜ」

「え?そうなんですか?でも、学校で出会ったことないですけど・・・」


イザベルは和人と同じ専門学校の生徒で、Webソーシャルマーケティングを専攻していた。


「たぶん、2年下だからじゃないか?」

「なるほど・・・。オレの卒業の年に、イザベルさんは入学したんですね?」


「そういうこと。よかったぜ、おまえがいる時じゃなくて」


--- ^_^ わっはっは! ---


「どういう意味ですか!」

「お前の視線で、イザベルちゃんが黒焦げにでもなったら困るからな。あはは」




イザベルは二宮たちの会社の通り隔てた向かいのコンビニで、授業の合間にバイトをしていた。はじめ、二宮がイザベルに目に留めたのが、このコンビニだった。


にっこり。

「いらっしゃいませ」


どっきん・・・!


「あ・・・」


きょとん・・・。


「あの、どうかされましたか?」

「え、いや・・・」

あっという間に二宮はイザベルに惚れてしまっていた。


「なんて可愛いんだ・・・。惚れてしまいそう・・・」

「え?」


ぽっ。


--- ^_^ わっはっは! ---




二宮はそのうちにイザベルとはコンビニで冗談を飛ばし合うような仲になった。


「やぁ、きみ、新しくバイトになったのかい?」

「はい。よろしくお願いします」


「ふうん。イザベルちゃんって言うんだ・・・」

「はい。母親がフランコンビル生まれなんで」


「え、どこ?」

「ごめんなさい。わかりませんよね、町の名前なんて。フランスです」


「あ、じゃ、きみ、ハーフってことか、やっぱり」


「わかります?」

「そりゃぁね。名札だって、『イザベルちゃん』って、でかでかと書いてあるじゃないか」


「ふふふ。『ちゃん』は書いてないですけどぉ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あは。そぉっすよね?」


「はい。でも、見てたのは、名札だけですかぁ・・・?」

イザベルは悪戯っぽく目を細めた。


(げげ、胸元を見てたの、バレちゃったかな・・・)


「二宮さんて、エッチですね・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ははは。賞賛してるんだけどなぁ・・・」

「また、うまいこと言っちゃって・・・」


「で、何時までここにいるの?」


二宮は話題を変えて相手の関心を逸らすことは得意だった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「今日は、稽古があるんで4時までです」


「稽古?ひょっとして、日舞とかお琴とか?」

「いえ。護身術を・・・」


「あは。それじゃ、うかつに誘ったりしたらボコボコにされちゃうね?」

「そんなぁ・・・」


「えへへ。実はオレもちょっと習ってたりしてね」

「そうなんですか?」

イザベルは急に二宮に興味を示した。


「まぁね。うちは代々男子は武道をすることになってて」

「うふ。男らしくて、いいと思います」


「だろ!」

「はい!」


「イザベルちゃんは、なに習ってるの?合気道?柔道?」

「まぁ、ちょっと・・・。そんなところです・・・」


(女だてらに、カラテ初段なんて言っちゃたら、ドン引きされちゃうかな・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「そっかぁ・・・」

「じゃ、お仕事、がんばってくださいね」


「おす。ありがとう。明日、また来るっすよ」

「はい、是非。ありがとうございます」


(きゃは。『おす』だって。バレバレですよ、二宮さん。きっとカラテね。わたしと同じか・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---




二宮は現在一級で、師範からは内々に昇段審査の了解をもらっていた。そんなある日、二宮は道場に掲げてある道場生の名札を何気なく見ていた。


「おや、初段のところ・・・」

「おう。二宮、おまえの名札も二ヵ月後にはあそこに移るんだろう?」


西方二段が名札を掲げた板の一番上の段を見つめた。


「おす。そうありたいっす」

一番上の右から9人までは、黒帯の名札が掲げられていた。


「あれ、やっぱり・・・」


「どうした?」

「おす。黒帯・・・」


「ああ、あれな。喜連川だな?」

「おす。なんか一人増えていると思ったら・・・。いつ、あそこに?」


「喜連川は、先月、城南道場からうちに移ったんだ」

「おす。そうでしたか」


「気づくのが、遅いんじゃないか?」

「おす。すいません」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ、いい。全員には挨拶してないからな」

「おす」


「なんでも、前の道場だと今の学校方向と反対でちと遠いんだとか」

「おす。まだ学生なんすか。そりゃあ、大変ですね」


「そういうことだ」

「おす」


「二宮は、ビジネスマン・クラスで夜稽古だから、まだ喜連川とは会ったことないだろう?」

「おす」


「喜連川はいつもは女子部の稽古出ているんでな。5時から6時までだ」

「おす。ちょうど自分と入れ違いなんですね?」


「ああ。残念そうだな。ふふふ・・・」

「おす。どうかしましたか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「いや、名前で気づかんか?」

「イザベル。ひょっとして、日系二世とかだったりして・・・」


「ちょっと違うな。ハーフだ。母親がフランス人らしい」

「フランス人のハーフ・・・?」


(イザベル・・・。同じじゃないか・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんだ、心当たりがあるようじゃないか?」

「おす。知り合いに、同じイザベルって名前の女の子がいて、コンビニでバイトしてるんですよ。この頃弁当買う時によく会うんで・・・」


「ほう。どこのコンビニだ?」

「おす。うちの事務所の向かいの通りです」


「そいつは奇遇だ。ひょうっとしたら、同一人物かもしれんぞ」


「喜連川イザベル・・・。まさか、あのコンビニのイザベルちゃん・・・のことかな?」


(えへへへ。もし、そうなら・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


二宮は胸が高鳴るのを覚えた。


「二宮・・・」

「おす」


「喜連川は上段蹴りがめっぽう切れるぞ。女子部では頭二つ抜けているな。男でも油断していたら、まともに喰らうぞ。去年は前の道場から全日本選手権に出て、準決勝までいっている」


「おす。それ、ホントっすか?」

「ああ。知らんのか?」


「おす。女子部まで気が回りませんでした。今度出ていいっすか?」

「男はだめだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ははは。おまえらしいな。だが、今年はうちから全日本に出場させ、全試合一本勝ちで優勝を狙う。まったく、いい時にいい人間が入ってくれたもんだ」

「おす」


「それにな・・・」

「おす」


「喜べ。えらく美人ときとる。早速、道場の男供が目立とうとして、目の色を変えて、稽古に打ち込むようになった」


--- ^_^ わっはっは! --- 


「ええ?」


「なんだ、おまえも加わりたいってのか?」

「もし、イザベルちゃんなら・・・」


(えへへへ・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「二宮?」

「お、おす」


「おまえの昇段審査の組み手には、喜連川も入れつもりだ。うちには黒帯が十人いないからな」

「おす」


「あんまり鼻の下延ばしていたら、きつい一発を喰らうぞ。女だと思って手を抜くなよ」

「おす」


イザベルはいつもは女子クラスの稽古に出ていたので、夜7時からのビジネスマン・クラスに出てくることはほとんどなかった。それで、二宮は今までまったく気づかなかったのであった。


「これって・・・、もしかして、オレ、無茶苦茶ラッキーボーイだったりして!」


(でへへへ・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


二宮は有頂天になっていた。




「ちと、出かけてきまぁす」

「いってらっしゃぁい」

二宮をみんなが送った。


「そう言えば、この頃、二宮、向かいのコンビニに入り浸ってない?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「へぇ、あなたも、そう思う?」

「ええ。なんか、心当たりでも?」


「まぁね・・・」

「勿体ぶってないで、言いなさいよ」


「うん。なんでも新しく入ったハーフの可愛い女の子が、この時間帯にバイトしてるんだって・・・」


「ふぅーーーん。で、見たことあるの?」

「もち!ハーフだけあって、めちゃ可愛いわよ」


「きゃあーーー。もしかして、その娘に、二宮がホの字だってことぉ?」

「ビンゴ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「いつからよ、それ?」


「先月よ。あなた情報遅いわねぇ。事務所じゃみんな知ってるわよ」

「ショックぅ。こんな面白いことわたしだけ知らなかっただなんて」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ついに二宮にも春が来るのね・・・」

「冬の次は氷河期かもよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あははは・・・」

「きっと、あいつまた行ったに違いないわ」


「例のコンビニに?」


「後つけてみる?」

「よし」


「面白くなりそう・・・」

「ふふふ・・・」




そして、ついにその日が来た。


「おす」

「おす」


その日、夜7時からのビジネスマンクラスに、見慣れないポニーテールが黒帯を締めていた。


(だれだろう?女の子の黒帯にこんな娘いなかったはずだけど・・・)


「おす」

「おす」


二宮が着替えを終えて道場に入ると、黒帯のポニーテールが二宮の方を振り返った。


「おす、お願いします!」

二宮は気合を入れた。


「おす!」


イザベルはキリリとした表情で二宮を迎えた。


「あっ。イザベ・・・」


そこまで出かかったイザベルの名前を、二宮は寸でのところで飲み込んだ。道場では礼儀に始まり礼儀に終わる。黒帯は絶対であった。たとえ、小学生であろうが、黒帯には尊敬を込めて姓をさんづけをして呼ばなければならない。『イザベルちゃん』は許されるべきもなかった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「列に入ってください」


イザベルはにこりともせずに、二宮に一瞥くれると稽古の後輩たちの列を見た。


(本当だったんだ。イザベルちゃん、ここの道場生なんだ・・・)


「おす」


(すっごくカッコいいぜ。なんて凛々しいんだ。惚れ直しちゃう・・・)


ぽー・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


二宮は稽古に加わった。


(それに、ポニーテールにしてるなんて。コンビニとはまったくの別人だよ・・・)


イザベルは普段は髪を下ろしてしたので、二宮はびっくりしていた。


(うはー。これは、これで、白いうなじが、めちゃ色っぽい・・・)


この日、二宮は今までにないくらい張り切って稽古に臨んだ。




その日の稽古が終わると、西方二段がビジネスマンクラスの全員にイザベルを紹介した。


「みんな集まってください」


「おす」

「おす」


「喜連川さん、前に出てきて」

「おす」


たったった・・・。

イザベルは小走りに前に出た。


「では、自己紹介してください」

「おす」


さっ。

イザベルは胸で交差させた両手で十字を切ると、さっとみんなと向き合った。


「おす。わたしの名前は喜連川イザベルです。歳は18です。春から大山電子専門学校のソーシャルメディア科で勉強しています。先々月まで城南道場にいましたが、この度、通学の関係で、一番近いこちらの道場にお世話になることにしました。普段は5時からの女子部に出ています。今の時間はアルバイトをしていますので、ビジネスマンクラスのみなさんとは、今日初めてお目にかかることになります。今後もご一緒する機会があるかと思いますので、どうぞよろしくお願いします」


イザベルは一礼をした。


ぱちぱちぱちぱち・・・。


(くわぁ・・・。イザベルちゃん、完璧。カッコいい・・・)

でれでれ・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ということで新しい仲間が増えました。みなさん、喜連川さんをよろしくお願いします」


「おす」

「おす」

「おす」


ぱちぱちぱち・・・。


「因みに、喜連川さんは去年城南道場から全日本の女子部の組み手に出場して、準決勝まで行った実力者で、みなさんご存知かもしれません。上段回し蹴りが教科書のようにきれいです。男子といえどその高速上段回し蹴りを喰らったら、恐らく無事では済まないと思います」


にたり。

西方はにんまりしながら二宮を見た。


「おす。自分がなにか・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「おまえのようなのが一番危ないんだ。道場移籍後、最初のノックアウトをもらわんように」

「おす。気をつけます」


(ハートの方は完璧にノックアウトだっつうの。バレてんのかな?)


--- ^_^ わっはっは! ---


「ははははは・・・」


道場は笑いに包まれた。


「うふ」

イザベルは二宮を確認すると、楽しそうに笑った。


(ちぇっ、なんだって、オレなんだよぉ・・・。イザベルちゃんに笑われちゃったぜ)

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