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043 縁日

■縁日■




その週の日曜日、二宮に誘われるまま和人はユティスと神社の縁日に来てみた。けっこうな人だかりにユティスは目を見張っていた。


ざわざわ・・・。

ぞろぞろ・・・。

どんどん、ど、ど、どん・・・。


すいや、すいや!


「まぁ、なんて人だかりでしょう。それにあれはなんでしょうか?」

ユティスはどれもこれも初めて見るものばかりで興味深々だった。


「それは、お神輿」

「なにをするものですか?」


「神さまが、ここに座るのさ」

「か、神さまですか?」

ユティスは『女神さま』という言葉と同じく『神さま』にも反応した。


「どうかした?」

「い、いえ・・・」


「今じゃ、だれも普段は信じちゃいないけどね」

「そうですか?」


「リーエス。みんなでお神輿を肩に担いで、威勢良く町中を練り歩くんだ。自分たちの神さまのお神輿の方が立派だぞぉってね」

ユティスは和人の2回目の『神さま』には反応しなかった。


「神さまというのは1人じゃないんですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あはは。日本じゃね、八百万やおよろずの神と言ってね、神さまは、800万人いるらしいよ」


「800万人ですか・・・!」

ユティスはその数にびっくりした。


--- ^_^ わっはっは! ---



どかどかどか。


「ほい、ちょっくらゴメンよ!」

ハッピを着た威勢のいい男たちが神輿のそばに集まった。


「いくぞぉ、朝日町内会!」

「おーーーっ!」


「みんな位置について!」

「おうっ!」


「一、ニ、三。そぉーーーれっ!」

「すいや!」


威勢のいい掛け声とともに、神輿は一気に男たちの肩の上に担がれた。


「すいや、すいや!」

「すいや、すいや!」


掛け声に合わせ神輿を揺らしながら、男たちは街中を練り歩き始めた。


「すごいですわ。なんて勇壮なんでしょう」

ユティスは大きな目をさらに大きくした。


「こんな神輿が町内会毎にいくつもあって、それぞれの町内会で威勢のよさを競うのさ。神様がどの神輿を気に入るかってね。勇壮な神輿は神様に歓迎されるというわけさ」


「うふふ。面白そうですね」

「ほら、あっちからも来てるだろ」

和人は反対方向を指した。


「リーエス」

「そして最後には神輿はみんな神社に集まるんだ」


「リーエス。神社とはなんですか?」

「ああ、それは、神さまを祭る建物さ。もう2千年以上の伝統がある神社もあるんだよ」


「そうすると、神さまの数に合わせ神社は八百万もあるんでしょうね・・・」

ユティスは感心するように言った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あはは。そんにはないと思うよ。まぁ、道端のお地蔵さんや祠までを入れると何万にはなるだろうけどね」


「地球人は信心深いんですね?」

「あはは。地球人には違いないけど日本人だよ。『都合のいい時に、都合のいい神さまを、いくらでも作ってきた』ってのが本音じゃないかなぁ・・・」


「まぁ、それではなんだって神さまになってしまいませんか?」

「まさにその通り!」


「うふふ。でも、ある意味、真実に近いかもしれませんわ」

ユティスは意味深な言葉を言ったが、和人は聞き逃していた。


その時、黄色い声の掛け声が辺りに響いた。


「すいや、すいや!」

「すいや、すいや!」


「わぁ・・・。あれをご覧ください、和人さん。すごいですわ!」

ユティスは女神輿に大喜びだった。


「『女神輿』といってね、女性だけの神輿もあるんだよ」


「すいや、すいや!」


「うわぁ、ステキ。ああの衣装はなんというんですか?」

「半被だよ」


「はっぴですか。わたくしもそのハッピを着てお神輿に参加してみたいですわ」

「ぜひ、そうしてよ。実体で来た時にはね」


「リーエス。それに道沿いにはずいぶんとお店がありますわ」

「うん。お祭りの時だけに集まってくるのさ」


「すごい。すごいですわ・・・!」

ユティスは有頂天になった。


「神社の方に歩いてみようか?」

「リーエス!」

ユティスの笑顔に和人は本当に来てよかったと思った。


(二宮先輩、ありがとうございます)




商店街の一角では二宮の道場の黒帯が集結していた。その中には喜連川イザベルの姿もあった。イザベルはロングヘアを後ろで束ね、ユティスに比べやや低めにポニーテールを結んでいた。ひときわ大柄な男が野太い声でまわりに挨拶をしていた。師範の足利だった。


「それでは、わが足利道場の演武をこれから行います。どうぞ、みなさん、少し離れていただけますか」

観衆は二歩下がった。


「まずは板割りです。当道場では一番若くて黒帯を締める、氏家響子初段が行います」


「まぁ、まだ子供じゃありませんか。しかも女の子ですよ」

ユティスが驚いた。


「ホントだ」


女の子のまわりには、大人の男性4人が板を両手でしっかり持って、彼女を取り囲んでいた。


「あっ、二宮先輩」

和人は4人のうち一人が二宮だと気づいた。


「まぁ、本当ですわ。二宮さん凛々しいですわね」


ユティスも言った。女の子はウォームアップをするように手足を素早く動かすと。突然気合をかけた。


「しいやっ!」

ぱりんっ!


正面の板は正拳中段突きで真っ二つになった。


「しいやっ!」

ぱりんっ!


返す動作で後ろの板に後ろ蹴りか決まった。


ユティスは息を飲んだ。


「きえーーーっ」

ぱりんっ!

女の子は右に回ると上段前蹴りを見舞った。


ぱりんっ!

そして振り向き様、横蹴りで見事に板は真っ二つに割れた。


「おす、おす、おす」

女の子は前右左に十字を切って礼をした。


「わぉーーー!」

たちまち、ものすごい歓声と拍手が沸き起こった。


「すごいですわ」

ユティスはびっくりして言った。


「あんなに小さな女の子が黒帯だなんて」

和人も仰天した。


「では、次に二宮祐樹一級による瓦割りです」

師範の紹介があった。


「あれは、なんですの」

ユティスが二宮の目の前にたっぷり重ねられた瓦に興味を示した。


「瓦と言って家の屋根に並べる陶器製品で、これを屋根に並べて雨を防ぐのさ。今はもっと軽いスレートになったけど、ちょっと古い家はこれを使っているんだ」


「とっても固くで重そうですわ」

「そうだね。あれを割るのかな?」


「20枚も本当に割れるんでしょうか?」

ユティスはいぶかった。


「まぁ、見てのお楽しみだね」

「はい」


二宮はハーッと大きく息をすると、右手を真っ直ぐ伸ばし、手のひらを広げた。それに体重をかけると瓦に垂直になるように腕を調整した。


「えいや!」

二宮は精神統一すると一気に腕に体重をかけた。


ばり、ばり、ばりーーーっ!

20枚の瓦が真ん中で上から下に向けて一気に割れていった。


「おす!」

二宮は演武を終えると十字を切った。


「ひゃぁ、せ、先輩、本当にできるんだ!」

和人は驚嘆の声をあげた。


「わぁあ、ま、魔法ですか、これは?」

ユティスは信じられないというように、割れた20枚の瓦を食い入るように見つめた。


「おおーーー!」


二宮は歓声と拍手に二宮は包まれ、観客は二宮に驚愕の眼差しを向けた。


「おす、おす、おす」

二宮は礼をすると後ろに下がった。


それから、何人かがバット折りやブロック割りを披露した。和人もユティスもそのたびに仰天しその場に立ち尽くした。


「これがカラテなんですね!」

ユティスは完全に夢中になっていた。


「本当に生身の体でしてるんだよ」

「わかります。なんてすごい方たちでしょう」


「ほら、今度はイザベルさんだよ」

「まぁ、すてき」

イザベルは栗色のロングヘアを後ろで束ね、道着に身を包んでキリリとして登場した。


「イザベルさんて、とてもきれいなお方ですね」

「そうだね。二宮先輩がベタ惚れなんだ。お母さんがフランス人のハーフでさ・・・」


「次は女性の黒帯同士による組み手を披露いたします。組み手は互いに技を出し合い受け合って、会話するように行います。では、喜連川イザベル初段」


「おす、おす、おす」

イザベルは十字を切り前左右の観客に挨拶した。


「今市久美子初段」

「おす、おす、おす」


イザベルはもう一人の女性の黒帯と向き合った。


「互いに礼」

師範の声に二人は向き合い礼をした。


「はじめいっ!」


「あいや!」

「しや!」


びしっ。

ばしっ。


二人は気合を入れ、目にも止まらぬスピードで突きや蹴りを出し合い、そして受けあった。


「しゅっ!」


今市が前に出てイザベルに中段突きを入れようとした瞬間だった。イザベルの左上段蹴りが今市の頭部に繰り出された。


ばしっ。


周囲はだれもが今市が倒れると思った。しかし、イザベルは寸前に力を抜き、今市はすんでのところで、かろうじて手で受けた。


「あいや!」

再び二人は技を出し合った。


びしっ!

がっ!


周囲はそのスピードとすごさに完全に魅了されていた。


「なんて早いんだ。あんなの喰らったら、いくら女性といったって気絶くらいじゃすまないよ」

和人は叫んでいた。


「リーエス」


カラテ道場の演武も、残すところ、師範の足利の氷柱割りとなった。

「これか、先輩の言ってたのは・・・」


和人たちの目の前で厚さ10センチ、長さ1メートルの氷柱が5段積み重ねられた。氷柱と氷柱の間には5センチほどの木が入れられていた。最後に、一番上の氷柱の真ん中にタオルが掛けられた。これは手が氷にあたった瞬間すべってケガをしないためであった。失敗すると手首を骨折しかねなかった。


「こ、これをどうしようというのでしょうか」

「生身の手で割るんだよ」

「手、手ですかぁ・・・!」


ぷるぷる・・・。

ユティスは恐怖を感じて頭を振った。


「理解できません。こんなものが純粋に肉体の力だけで割れるのですか?」

足利は自信に満ちていた。足利は足場をしっかり確認すると、氷柱のタオルに手刀をゆっくり下ろし、それを何回か重ね、次第に精神を統一していった。最後に大きく息を吸い込み、大きく手刀を頭の上に構えた。


「はぁーーーっ、すいやーっ!」


足利が掛け声と共に一気に息を吐くと、手刀を目にも見えない速さで振り下ろした。


ばぎばぎばぎばぎっ!


音を立てて5本の氷柱が、真ん中であっという間に割れていった。


「うぁおーーーっ!」


大歓声が起き、足利は拍手に包まれた。


「おす、おす、おす!」


足利は丁寧に観客に礼をすると、これですべての演武が終了したことを告げた。


「まぁ・・・」

ユティスは声を失って、しばし大きく口を開けて立ち尽くしていた。


「すごい・・・」

和人も口を開けたまま、信じられない光景に唖然とした。


「とても信じられません・・・」

「オレも・・・」


道場の全員が集まり並ぶと、一同が観客に礼をし演武が終わった。

「おす」

「おす」


ぱちぱちぱち・・・。

拍手は鳴り止まなかった。


「あのお方、手は大丈夫なのでしょうか?」

「そうみたいだよ」


「先輩だ!」

和人が二宮に声をかけた。


「おお、和人!」

二宮もすぐに気づいた。


「来てくれたのか?」

「ええ」


「ユティスは?」

「オレのすぐ側です。見えませんか?」


「あ、いたいた!」


「二宮さん、素晴らしかったですわ」

「だろ?えへへ・・・」

二宮は気分をよくした。


「これからは?」

「ああ、後片付けして、道場に戻って着替えたら打ち上げだ」


「おまえたちもどうだ?」

「いや、ユティスは精神体なんでオレだけが飲み食いするわけには・・・」


「そっかぁ。そいつは残念だな」

「申し訳ございません」

「いいってことよ」


「これでイザベルさんも先輩に一目置いてくれるんじゃないんですか?」

「あははは。だといいんだが。ライバル多くてな・・・」


「あ、イザベルさん」

「えっ?」


「あ、宇都宮先輩」

「やぁ」

和人と二宮の側にイザベルがやって来た。


「二宮さん、さっきから、どなたと話してるんですか?」

イザベルは不思議そうに和人の横を見つめた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「先輩。ユティスは普通の人間には見えないんですよ」

和人は二宮に耳打ちした。


「お、そうだったな。おす。喜連川さん、なんでもないっす」

二宮はイザベルに見つめられてあわてた。


「じゃあな、和人。オレたち後片付けがあるし、二人で神社とか見てくるといい」

「二人?」


--- ^_^ わっはっは! ---


イザベルは和人が一人なのを確かめて、さらに不思議そうにした。


「またぁ。変ですよ、二宮さん。こっそりお酒でもしてたんですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


イザベルは腑に落ちないという表情だった。


「まっさか、お酒はこれからっすよ。どうっすか、喜連川さん、オレと・・・」

「え?えーーーとぉ、わたし・・・」


「おい、喜連川、二宮、これ、手伝え!」

師範の大声が飛んだ。


「うーーーっす」

二宮はすぐに答えた。


「じゃあな、ユティス」


「リーエス。すごかったですわ。アンニフィルドたちにもお見せしたかったです」

「アンニフィルド?」


「ええ、わたくしのお友達です」

道場の人間たちは後片付けを始めた。




和人とユティスは神社に向かってゆっくりと並んで歩き始めた。

「和人さん、その、たくさん並んでいる露店、とても楽しそうですわ」


「見てくかい?」

「リーエス、ぜひ」


にこ。

ユティスは楽しそうに言った。


どきどき・・・。

和人は胸が高鳴ったままだった。


「なんか、オレたちデートみたいだね・・・」

「うふふ、わたくしもそう思います」


(でも、手はつなげないし・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


ユティスは和人の気持ちを察した。


「そのうち・・・」

「そのうち・・・、なに?」

和人はユティスにきいた。


「リーエス。きっとお互い実体でお会いできますわ・・・」

「うん・・・」


「あれは?」

ユティスは突然先を指差すと、金魚すくいのところに行きたがった。




「まぁ、なんて美しいお魚でしょう。わたくしもやってみたいですわ」

ユティスは残念そうに、子供たちが楽しそうに金魚をすくっているのを眺めた。


「とっても、お上手ですわね」

ユティスは男の子に言った。


「うん。ありがとう、お姉ちゃん」

男の子はユティスがイメージ体のはずなのに、少しも疑わずに応えた。


「おい、おい、坊主。おまえの姉ちゃんってどこにいんだぁ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


店の若い男があたりを見回しながら言った。


「そこそこ、そこのおっちゃんのとなり」

「おっちゃん?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「それって、オレのこと?」

和人は、男の子に尋ねた。


「そうだよ」


「あり、お客さん一人すよねぇ・・・?」

店の男は首をかしげて和人の同意を求めた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「だから、とってもきれいなお姉ちゃんが、そのおっちゃんのそばでニコニコしてるじゃないか・・・」

「どこだい・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「やばいよ、ユティス・・・」

和人はユティスに催促した。


「リーエス、他にまいりましょう・・・」


ごしごし・・・。

店の男は目をこすった。


「坊主、きれいなお姉ちゃんってどこだよ?。オレ、老眼には早すぎんだけど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「どうも、お若い紳士さん」


(うん?だれか、確かにオレに話しかけてきたぞ・・・)


「どうなってんだ?」

店の男はキツネにつままれたような気分だった。


--- ^_^ わっはっは! --- 


「幼い子供は感受性がとても高くて、どなたとでも頭脳周波数を合わせられるんです」


「それでかぁ・・・」

「リーエス」


「あ、あれは?」

「次はなんだい?ああ。あれね。リンゴ飴だよ」


「フルーツにカラメルをかけて固めてしまうなんて。エルフィアにはございませんわ。とっても美味しそう・・・」

「けっこうリンゴの酸味が利いてるよ」


「食べたことあるんですか?」

「うん」


「これは?」

「イカの丸焼き」


「うーん、いい香り!」

「これは、タコ焼き」


「あれは?」

「ヤキソバ」


「これは?」

「お好み焼き」


「あれはなんですか?」


「わた飴だよ。砂糖を熱して融かした液を高速で冷やしながら飛ばすと細かい糸状になるんだ。それをかき集めると雲みたくなるのさ。あの大きな袋だって、ほんの一握りの砂糖がればできちゃうんだよ」


「すごいですわ!」

ユティスは露店のご馳走に目を丸くした。


「あれはなんですの?」

「バナナチョコ。甘くて美味しいらしいよ」


「食べたことないんですか?」

「うん、ない」


「なんだか、全部、食べ物ばかりですわね!」

「あ、ほんとだ!」


「うふふふ」

「あははは」




和人とユティスは神社に着いた。


わいわい・・・。

がやがや・・・。


「さぁ、着いたよ。ここが大神田神社だよ」


「うわぁ、とってもたくさん人がいますのね?」

「うん、お祭りだから」


「あれは?」

「お守りを売ってるのさ」


「お守り?」


「健康とか、家内安全、交通安全、そんなことをお札にかけて願うのさ。そのお札をいつも身に付けておくと、神さまが守ってくれるというわけ」


「みなさん、心配ごとやお願いごとが沢山あるのですね?」

「うん。それが必要になる日が来ると、急にね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ!うふふふ」

「あははは」


「あの白と赤のドレスを着た若い女性たちは、神さまのお使いですか?」

「ユティス、鋭い。かなり近いよ」


「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)」

「神社ではね、宮司さんてのが神事を執り行うんだけど、彼女たちは巫女さんっていって神事のお手伝いをするのさ」

ユティスは巫女の姿に魅了された。


「とっても美しくてステキなドレスですわぁ・・・!」


「あは、ユティスなら着る資格十分に・・・」

そう言いかけて、和人は言葉を飲み込んだ。


「着る資格とはどういうことですか?」

ユティスは無邪気にきいた。


「ああ・・・。巫女さんってのはね、要は未婚の女性じゃなきゃだめなんだ」

和人は慎重に言った。


「それなら、わたくしにも資格はあるかもしれませんわ」


(ホント・・・?やったぁ!)


--- ^_^ わっはっは! ----


ユティスの言葉に和人は躍り上がるような気分だった。


(待てよ、ここは慎重に・・・)


「ん、んん。ユティス、きみは結婚・・・してないの?」

和人は最大の関心事を恐る恐る尋ねた。


にこっ。


「ナナン。一度も連れ合いを持ったことはありませんわ・・・」

ユティスは事も無げに答えた。


「そ、そっかぁ・・・」

ほっ・・・。


--- ^_^ わっはっは! ----


和人はほっと胸をなでおろし無性に嬉しくなった。


にっこり。

「どうかしまして?」


「いや。えへへへ・・・」

和人はついにやけてしまった。


「それに・・・」

「それに?」


「巫女さんは可愛い娘じゃなきゃ、選ばれない」

和人は話題を元に戻した。


「まぁ、本当ですか?」

「みんなの話じゃ、そうらしいんだ。事実、見てごらん。みんな可愛い子が多いだろう?」


「そういえば・・・。本当の理由をご存じないのですか?」

「うん。オレは神社の人間じゃないからね」

「そうですわね」



和人たちは神社をゆっくりと歩いていった。


「あっ。先ほどの、お神輿。たくさん並んでますわ。女性たちのお神輿も」

「そうだね」


「あれは?」

「賽銭箱といって、神さまへのお礼をするためのお金を入れる箱さ。みんな、自分が提供できるだけのお金を納めて、願い事がかなうようにお祈りするのさ」


「金額は任意なのですね」

「そう。民主的だろ?」

「リーエス」


「それで、これについて日本の話しじゃないんだけど、面白い話があってね・・・」

「なんでしょうか?」


「昔キリストという神さまの息子という人がいてね、金持ちたちから試されたんだよ。『あの女はたったこれぽっちしか神に供えなかった。わたしはこれだけ大金を神に供えたんです』って金持ちが貧乏な老女をバカにして、キリストがどう反論するか試したんだ」


「まぁ、しょうがない人・・・」


「そしたら、キリストはね、『あなたは財産のほんの一部、彼女は全財産を神に提供したんだ』ってね。金持ちたちは、老女みたいな人たちから搾取に搾取をしてたから、一言も反論できなかったんだ。身につまされる話でしょ?」


「リーエス・・・。それにこうも教えられます。お金持ちのお金は本来その方たちが持っているべきお金だったということですね・・・」

ユティスは悲しい表情になった。


「だから、オレも自分でできる範囲でお供えするんだ」

「うふふふ」


ちゃりーーーん。

ちゃーーーん。


ちゃ。

がらん、がらーーーん。


ぱち、ぱち。

ぱん、ぱーーーん。


「あんな風に、オレたちもやってみようか?」

「ええ・・・」

ユティスは困ったような顔をした。


「そっかぁ、ユティスは精神体だから・・・」

「ごめんなさい・・・」


「ごめんよ・・・。こっちこそ気がつかないで。許して」

「ナナン・・・。そんなんじゃありません」


「じゃ、オレ、きみの分までやっていい?」

「リーエス」


和人は賽銭箱の前に立った。


ぽーーーい。

がらん、がらん。


ぱち、ぱち、ぱち・・・。


和人は賽銭箱に1万円札を入れ、鈴を鳴らして、拍手を3回打って祈った。


「おお、万札だぁ!」

「金持ちぃ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


和人の入れた万札を見て、周りがどよめいた。


さっさっ、さーーーっ。

すぐさま神主が近寄り、和人の頭上で大麻おおぬさを振った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「うふ。ここの神さまは、和人さんをお気に召されたようです」

「あは。そいつはいいや。次はお神酒をいただこう」


「お神酒?」

「神さまに捧げられた日本酒のことさ。こうして、お祈りに来た人たちに振舞われるんだ」


「ご丁寧にされますのね?」

「そうだね。神社の人は礼儀正しいから」


「あれは?」

「おみくじといって、占いみたいなものさ」


「引いてみようか?試しに」

「リーエス」


和人は100円出しておみくじを引いた。


「あれぇ?」

「どうかしましたか?」


「大吉だ・・・」

「それって、悪いことなんでしょうか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「とんでもない。とってもいいことなんだけど・・・」

「けど?」


「金運も、仕事も、恋愛も、なにもかも、願いが叶いすぎるってのは・・・あんまし現実的じゃないなって・・・」

「うそっぽいってことでしょうか?」


「その通り」

「リーエス。うふふ」


にこっ。

和人はユティスを見つめて微笑んだ。


「オレはね、一つだけでいいんだ。叶う願いなんて・・・」

「たった、お一つでいいんですか?」


「しまったぁ・・・」


(ユティスのこと、読まれちゃったかな・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「・・・」

しばらく間をおいて、ユティスが意を決したように和人に尋ねた。


「和人さん?」

「あ、はい・・・」


「和人さんは、なにをお願いされたのですか?」


「・・・」

和人も間を置いた。


「そ・・・、それはね・・・」

「リーエス・・・」


「きみと実体同士で会えますようにって・・・」

「和人さん・・・」


にっこり。

ユティスはたちまち嬉しそうに微笑んだ。


じわぁ・・・。

そしてその途端、アメジスト色の大きな目から涙があふれ出てきた。


「・・・」

「どうしたんだ、ユティス?」

和人は慌てた。


「ユティス。ごめん。気に障ったの?」

「ナナン。いいえ、いいえ。その反対ですわ・・・」

ユティスは自分で涙を拭き取った。


「和人さんのお願いがわたくしと同じだったので、それで嬉しくて・・・」


「ユティス・・・」

「和人さん・・・」


「絶対に・・・、地球に、来てよね・・・」

「リーエス・・・」


遠慮気味に和人に寄り添った精神体のユティスを、和人は感じることができなかった。


すす・・・。

すか・・・。


ユティスの肩をそっと抱きしめようともしたが、それもできなかった。和人の手はユティスの精神体を素通りしたのだ。


「・・・」

「・・・」


二人はお互い下を向き、しばらく口がきけなかった。


「ユティス、きみに会いたい・・・」

最初に和人が声を出した。


「リーエス・・・」

ユティスが小さく頷いた。


「会いたいよ、きみに・・・」

「リーエス・・・」


和人はユティスを思いっきり抱きしめたかった。しかし、これが現実だった。精神体のユティスにそうすることは叶わぬ願いだった。


(精神体。結局、高解像度ホログラムのテレビ電話と同じようなものじゃないか)


和人は密かに心に誓った。


(絶対、実体でユティスと会うんだ!)

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