042 実在
■実在■
「ユティスは?」
クリステアがアンイフィルドを見つけて話しかけた。
「エージェントルームのカプセルよ」
「ふうん・・・。ユティスは精神体で地球に行ってるところね?」
「リーエス」
「にしても、いつになったら、予備調査に行くのかしら?」
クリステアはアンニフィルドに尋ねた。
「あら、知らないの?」
アンニフィルドは意外だというような顔になった。
「なにが?」
「地球人て、美女にとっても臆病らしいの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はぁ・・・?それで・・・?」
クリステアはとりあえず聞くことにした。
「いきなりユティスが現れると、びっくりしちゃってどうなるかわからないんで、予め、精神体で現れといて、和人の周りの人間を慣らしておくんだそうよ・・・」
アンニフィルドはユティスの話を伝えた。
「しばらく様子見ってことね?」
「リーエス。だから予備調査まで少し時間がかかるんだって」
「ふうん。しょうがないわね。そういう理由じゃ」
「まったくだわ」
「アンニフィルド、そういうことで、わたしたちもしばらく様子見ってことかしら?」
クリステアは確認するようにアンニフィルドを見た。
「たぶんね。エルドはわたしたちを派遣することに決めてるけど・・・」
「委員会で最終承認はされたの?」
「まだよ。その時になればわかるわ」
ふわんっ。
アンニフィルドは長いプラチナブロンドに手をやった。
「トルフォは?」
「さぁ。どう出てくるか。ユティスに振られるのは間違いないけど」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは」
アンニフィルドはおどけた表情で言った。
「アンニフィルド、冗談言ってる場合じゃないわ。あいつ、ユティスを地球に派遣することに断固反対を唱えるに違いないわよ・・・」
クリステアは心配そうだった。
「リーエス。あなたの言う通りね」
「どう考えても普通じゃないわ。この前のコンタクティー適合テストだって、なんでする必要があるのよ?白々しいと思わない?」
クリステアはアンニフィルドに同意を求めた。
「同感よ」
ユティスは二宮に説明を続けた。
「エルフィアは常に星々に呼びかけを行なっています。和人さんとは偶然連絡が取れるようになったのです。それで、わたくしたちは和人さんと地球のことを知ることになりました」
「ふうん・・・」
二宮は信じられないような感じだった。
「二宮さん?エルフィアにとって、地球は初めてコンタクトした星なんですよ」
ユティスは慈愛に満ちた表情で語った。
「地球は、自星を脱出できるようになった、文明カテゴリー2になりたての世界です。しかし、そのテクノロジーは驚異的な伸張をしていますわ。このままの速度で成長すると、前代未聞の速さでカテゴリー3に到達すると思われます」
「それはどういうこと?」
「精神の進化を疎かにしたまま、テクノロジーだけ進化するということです。地球は、一歩間違えれば自らを滅ぼしかねない、とても危険な状態です」
ユティスは心配そうに言った。
「カテゴリー3ってなに?」
「カテゴリー3は恒星間移動を可能にした世界です。ですが、そのテクノロジーは時空を破壊しうる危うさを同時に併せ持っていますわ。扱い方、利用目的を誤ると大変な事態を引き起こします」
ユティスは和人たちを見つめると、二人は頷いた。
こっくり・・・。
「エルフィアは地球人類に注目しているんです」
二宮はユティスと和人を見つめた。
にやっ。
二宮は和人とユティスを交互に見た。
「特定の地球人に注目しているか。なるほど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふふ。リーエス。和人さんはわたくしのコンタクティーですから」
ユティスは二宮の言葉をさらりと受け流した。
「エルフィアにとって、最初の地球人の和人さんとの出会いはざっとこんな感じですわ」
二宮はしばらく一人で考えていたが、ユティスと和人の間に入り、ユティスに背を向け、いきなり和人の首を掴んだ。
「こら、和人。ちょっと来い」
ぐりぐり。
二宮は和人の頭を腕で締めると拳骨を頭にねじ込んだ。
「先輩、なにすんですか?」
「なにが、ちょっとくらい可愛いかもだ?めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか。いったいなんなんだ?まさか本当に天女で、おまえをお迎えに来たんじゃないだろうな?」
--- ^_^わっはっは! ---
二宮は息巻いた。
「縁起でもない。オレはまだ死にたかありませんよぉ。第一ユティスには羽だってないじゃないですか?」
「なるほど、脱着可能ってことか・・・」
二宮はユティスを振り返った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「それじゃ、天使が死んじゃうじゃないですか」
和人は憮然として言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティスはですねぇ、彼女はエルフィア人で、この大宇宙のどっかに実在しているんです。オレが偶然彼女のメッセージに応えた結果、こうなったんです」
和人は二宮に断言した。
「よりによって、なんでおまえなんかがなぁ・・・」
「だから偶然にですね・・・」
「うるさい。おまえだけいい目に会いやがって!」
ぐりぐりぐり。
「なに言ってんですか?先輩にだってイザベルさんがいるでしょ?」
「おまえたちと違い、未だに片想いなんだよぉ、アホ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まだ、片思いなんですか?」
ぽかり。
「痛いじゃないですか、先輩」
「なに言わすんだ。和人、おめえ、正拳突きを顔面に食らいたいのか?」
二宮はファイティングポーズをとった。
「自分から言っときながらそりゃないですよ。確かに、ユティスはオレ好みの可愛い娘ですけど、会ったばっかしですよぉ。まだ、彼女でもなんでもなんでもないんだから、誤解しないでくださいよ」
にやり。
「まだなんでもないって、それこそ、近いうちに彼女にしたいってことじゃないか」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だぁーーー。先輩どういう解釈をしてるんですか?」
「素直に、ユティスに惚れちゃったって白状しろ。こいつ」
ぐりぐり。
「えっ・・・」
ぽっ・・・。
ユティスは二宮の言葉に頬を赤く染めた。
かぁ・・・。
また、和人もユティスが赤面したことがわかり、自分も赤面した。
かーーー。
「あーーーぁ、なに二人して見つめ合って赤面してやがんだ?図星だな。ちっくしょう。オレ様をさしおいて。和人、ぶっ殺す!」
--- ^_^ わっはっは! ---
すすっ。
ユティスが和人を庇うように二宮に対面した。
「お許しください、二宮さん。和人さんを殺すだなんて。けっして、あなたのことを・・・」
ユティスは本気で二宮に哀願した。
「い、いや、これはものの例えで。実際に殺すなんてするわけないよ」
ばつが悪くなり、慌てて二宮は弁解した。
「きみみたいな可愛い女の子を、悲しますことなんかしないぜ」
「あ、ありがとうございます」
ユティスの目には、うっすら涙が滲んでいた。
「和人、今回だけだからな」
「はい」
「よろしい」
「先輩、ユティスは真っ正直なんですよ。変な冗談はやめてください」
「あ、うん」
じい・・・っ。
ユティスのアメジスト色の潤んだ目に見つめられて、二宮は大いに弱った。
「わかった。わかったって。そんな目に見ないでくれよ。女の子と幽霊に見つめられるのは苦手なんだから、オレ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「二宮さん・・・」
にこっ。
「で、ユティスさぁ、和人のこと正直どんな感じです?」
「はい。とても正直で努力家ですわ。誰が見るでもなくお独りでもコツコツと。それにとても穏やかな心を持ってらして創造性の高い方。差別や偏見、先入観。それらがご自分にもあることを認めてらっしゃる。その上で、なお、みんなさんとうまくいくよう努力されている。それに・・・」
「それに、なに?」
「なによりも、ご自分を含めて、みなさんの良いところを伸ばそうといつも気にされている。そして感謝。ご自分が生かされているという幸せを噛み締めていらっしゃるわ。どんなこと、どなたに対しても、感謝をお忘れにならない。和人さんのそのようなところがとってもステキです・・・」
ぽっ。
「あ・・・。この幸せもんが。可愛い娘ちゃんがステキだって言ってるんだぞ。くーっ。もう1回頭をグリグリしてやる」
ぐりぐり。
「イテテ!」
「好きったって、そんなの一般的にいってのことでしょ。感じのいい人ってくらいのことですよぉ。先輩が言うような個人的恋愛感情の対象ってわけじゃないんです!」
「バカヤロー。ここじゃ、『オレもあなたが好きです』つうのが常識だろ。女の子への点数は少しずつ稼ぐもんだ」
「ふふふ」
にこにこ・・・。
ユティスは元の笑顔に戻った。
「地球では拳で頭をぐりぐりするのが、男性同士の愛情表現ですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスが愉快そうに優しくいった。
「ええ、そのとおりです。愛情注入、オレの得意技です」
ぐりぐり・・・。
二宮は和人の頭にぐりぐりサービスを追加した。
「あいたた!」
「二宮さん、わたくし、あなたのことを好きになれそうですわ」
にこっ。
ユティスは二宮に微笑んだ。
でれーーー。
二宮は一瞬イザベルを忘れた。
(いかん、いかん。イザベルちゃん、ごめん)
--- ^_^ わっはっは! ---
「おはようございます」
「うっす」
「おはようございますます」
「はい。おはよう」
やがて、セレアムの社員たちが出社してきた。
(ここ、よろしいですか?)
(リーエス。どうぞ)
(ありがとうございます)
和人たちも席に着き、ユティスは和人の右隣のイスに座った。
ちょこん。
二宮は和人の向かいの席から言った。
「和人、おまえ、ここんとこ、いつもユティスとこんな風に事務所にいたのか?」
「リーエス。まだ、ここ1週間くらいですけど」
ユティスは二宮に微笑んだ。
「なに、1週間も・・・」
「なんですか、先輩?」
「もしかして、これからも、ずうーーーっと、そうなの?」
「はい。予備調査が始まるまでそのつもりです」
にこっ。
ユティスが笑顔で答えた。
「あー・・・」
ぴったり・・・。
二宮は並んで座る和人とユティスを見比べた。
「いいよなぁ、和人は。守護天使がいて・・・」
再び、二宮はユティスと和人を交互に眺めた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「こんなスーパー可愛い娘ちゃん、おまえには絶対もったいないって。石橋あたりで妥協しとけよ。アイツだって、可愛い子ちゃん偏差値、軽く60はあるぞぉ・・・。イザベルちゃんは100だけどな」
(出たぁ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「オレはそんなんじゃないんです」
「だがな、和人。いくら可愛くても、精神体じゃキッス一つできんだろ?」
二宮は余裕たっぷりに言った。
「失礼な。ユティスはそんなんじゃないんです」
「ほう・・・。でもな、可愛い子ちゃんと仲良くなっても、キッスもしない方がよほど失礼じゃないのか?」
(この人、完璧にイタリア人だ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「と、常務が言っていたぞ」
二宮はそこで切り替えした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティスが好きなら、さっさとそう言わないと、石橋とくっつけちゃうからなぁ」
「ちょっと、待ってくださいよ、先輩。無茶苦茶です」
「冗談だってば、ユティスの目の前でそんなこと本気で言うわけないだろう」
「しっかり言ってるじゃないですか・・・」
「ふふふ。二宮さんって、面白いおもしろい方」
にこにこ。
ユティスは二宮に微笑んだ。
かたっ。
イスの動く音がして、和人は石橋の方に目をやった。
くるり。
石橋はちょうどこっちを向いたところだった。
(ありゃ。石橋さん、気づいちゃったかな・・・)
「なにやってるんですか?」
石橋が、和人たちの方にやってきた。
(あ、石橋。聞こえちゃったかな・・・。石橋、和人に気があるんだよなぁ・・・)
二宮は一瞬どうしようか考えた。
「まるで、和人さんの横に誰かいるみたい・・・」
石橋が心配そうな顔になった。
「だからいるんだよぉ・・・」
「え・・・?」
びくっ。
--- ^_^ わっはっは ---
「女の子の幽霊が・・・さぁ・・・」
二宮は怖そうにゆっくりと言った。
「きゃあーーー!ゆ、幽霊ですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
(まぁ・・・)
ユティスは心なしか寂しそうになった。
「先輩、失礼じゃないですか」
「でさ、石橋とどっちが可愛いか見比べていたんだよ。な、和人」
二宮は変わらなかった。
「二宮さん、それ思いっきりセクハラです!」
石橋は思わず言って、懸念する名前を思い浮かべた。
(その幽霊って、まさか、ユティスとか言う和人さんの好きな人なの?)
石橋の不安はいっそう大きくなっていった。
「もう、二宮さんなんか知りません!」
ささっ。
石橋は、そういうと自席に戻った。
(どうも、申し訳ございません。石橋さん・・・)
ちょこん・・・。
ユティスは石橋に向かって礼をした。
(ユティス、きみにせいじゃないよ)
(ナナン、わたくしにはわかります・・・)
ふわぁ・・・。
ふわん。
ユティスが和人の側の席に座り直した。
(和人さん、石橋はさんは和人さんのこととても気に入っておられます)
(石橋さんがオレを・・・?やっぱり、イタメシレストランの時に感じたことはそうだったんだ・・・)
(本当です。とっても、とっても、好きでいらっしゃる・・・)
にこ・・・。
ユティスは和人を見つめて微笑んだ。
(え・・・?)
(和人さんを好きな方がいらっしゃるってことは、わたくしにとっても嬉しいことですわ)
(そ・・・、そう?)
和人はユティスの意外な答えに大いに面食らった。
--- ^_^ わっはっは! ---
(はい。もし、和人さんを好きでないって方が沢山いらっしゃるなら、わたくし、とっても悲しいです)
(そりゃ、そうだろうね)
ユティスと和人は見つめ合った。
「おーお、見つめ合っちゃって、なに話してたんだ、ユティスと?」
「内緒のお話ですわ」
すぐにユティスが答えた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「言ってくれるねぇ」
二宮は降参した。
「石橋さんには、わたくしは見えません。声も聞こえません」
ユティスが穏やかに答えた。
ぽんぽんぽん。
二宮は和人の肩を叩いた。
「で、ユティス、飽きてこない、こいつ?」
「いいえ。和人さんはとても創造的な方です。お話したいことも山ほどありますから。それに、本来のミッションである地球のことや、地球のみなさんのことも、和人さんを通して知りたいですし」
「でもさぁ、サンプルとしては不適当じゃない?仕事も大してできないし。オレみたいにカラテもできないし。二枚目ってわけでもないし・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮はおどけてみせた。
むかっ。
「先輩、黙って聞いていれば、随分なこと言ってくれてますね・・・」
「反論があれば、おととい聞いてやるぞ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「大ありです」
「うふふ、本当に面白い方たち・・・」
「しかし、精神体なのが返す返すも残念だよなぁ」
気の毒そうに二宮が言った。
「先輩にはわかんないでしょうけど、精神体だろうがなんだろうが、ユティスがそばにいるってことは事実だし、姿も見れるし、話もできるし、オレはそれで十分満足なんです」
「手を握ったり、キッスしたりできなくても?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんで、そこに話を持っていくんですか?」
「だから、好きなんだろ、ホントはめちゃくちゃ?」
和人ののらりくらりと交わす答えに、二宮は苛立っていた。
「はいはい、。ユティスと会っときながら、彼女のこと好きにならないようなのは男じゃありません。いいえ、人間として失格です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おっとっと、今度は開き直りか?」
「ふふふ、本当に面白い方たち」
ユティスは笑った。
「お二人ともユーモアをたっぷり持ってらして、わたくし大好きですよ」
「おー、和人、喜べ。女神さまは、おまえのこと、大好きまで昇格してくれたぞ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ああ・・・!」
またも、ユティスは『女神さま』という言葉にうろたえたが、まだ、和人はその原因がなんなのか知る由もなかった。
「なにか言った?」
「あ、ナナン・・・。いえ、なんでもありませんわ」
にこっ。
和人はユティスの反応が気になった。
「和人」
しかし、二宮はおかまいなく続けた。
「愛してます、まであと一息だぞ、和人。結婚式には呼んでくれよな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ついてけん・・・。つい今しがたまで、ユティスのこと幽霊だなんて、滅茶苦茶失礼なことを言ってたのはだれでしたっけ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「知らんな、そんな野暮なヤツ」
「先輩でしょうが」
「うふふふ。お二人ともとってもステキ」
ユティスは笑った。
「なんか、あの二人の会話、変・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どこがよ。いつもの二宮節じゃないの?」
「だって、二人のほかにもう一人いるって感じでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「・・・なるほど」
「そういえば、二宮の言ってたユティスって・・・」
「外人っぽい名前ねぇ・・・」
「だれ?」
「あなた、知ってる?」
「ううん、知らないわ」
「しっかし、レベル低い会話ね」
「ほんと。あれじゃ、いつになたって、イザベルを口説けないわよ、二宮」
「ふふ」
「お、そうだ。仕事の後、オレの道場に見学ってのはどう?」
「カラテですか?」
「カラテ?それはなんでしょうか?」
「武器を一切もたない徒手空拳で、相手を一撃でやっつける、日本古来の魔法です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それは、すごいです。伝統の魔法ですか?」
「はい」
「先輩、ウソはいけません」
「魔法だよ。有段者の演武を見たことないのか。15センチの厚さの氷を5段積みにして、手刀で割っちまうんだぞ。石だって割るし、ビールビンの首をはねちまうし、どうみたって魔法だぜ」
「先輩が、できないだけでしょう?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんだとぉ!オレはともかく、カラテをバカにされては、黙ってられん」
「まあ、すごい。ぜひ見てみたいですわ」
「ほれ、天使も、ああ言ってるじゃないか」
「ユティスは、天使じゃありません」
「んじゃ、なにか・・・、女神さま・・・とか?」
どきっ。
「えっ!」
ユティスは『女神さま』という言葉に強く反応した。
「オレ、なんか変なこと言った?」
「い、いえ・・・」
ユティスはすぐに平静さを取り戻した。
「あ、悪い。今日の見学はなし。水曜だから黒帯研究会で一般稽古は休みだった。またな」
「それは残念ですわ」
「待てよ・・・」
二宮はははたと考え込んだ。
「どうかしましたか?」
ユティスが微笑んだ。
「縁日・・・。そうだ、日曜日は神社の縁日だった。忘れるところだったぜぇ・・・」
「なんでしょうか」
「ユティス、今度の日曜日、道場の近くの神社の縁日なんだ」
「縁日ってなんですの?」
「要はお祭りのことだよ」
和人が答えた。
「そうですか。それはとっても楽しそうですね」
「それでだ。地球の日常の文化を研究がてらに、縁日に二人して来るってのはどうかな?」
にやっ。
「二宮はにたりとした」
「なにか企んでないでしょうね、先輩?」
和人が疑った。
「ひどいなぁ、和人くん。縁日で足利道場のみんなが演武を披露することになっているんだ。それだけだよぉ」
「で、イザベルさんが出てきて先輩と組み手して、先輩が左上段蹴りされるノックアウト・ショーがあるってことですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「コイツ、本気で殺すぞ!」
がしっ。
二宮は和人の頭をとらえヘッドロックをかけた。
「イザベルちゃんが演武で組み手を披露するのは真実だ。それ以外にもたくさんあってだな。オレも出るってことだよ」
「二宮さん、なにをなさるんですか?」
ユティスが興味を持った。
「はははは。お楽しみにしといてくれ。師範の5段積み氷柱の手刀割りとか見ると、びっくりして腰抜かすぞ。な、ユティス、来てくれるかなぁ?」
「リーエス。ぜひ、ご招待くださいな」
「招待制なんですか?」
「いや、だれでも見れる。神社の前の商店街の路上でするから」
「それはステキですわ」
「ああ。じゃあな」
「まだ3時ですけど、もう帰るんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「バカ野郎、仕事だ。今日こそはD社を落とす。おまえごときに負けてたまるか」
二宮は息巻いた。
「行ってきまーす」
二宮は外に出ていった。
「行ってらっしゃーい」
事務所中がコーラスした。
「またですわ。みなさんで声を出して送ってらっしゃる・・・。とってもステキ・・・」
「それ、真紀社長の一声で確か1年くらい前に決まったんだ。客先にみんなで送り出してあげれば、元気がつくでしょうってね。それで、戻ってきたら」
「『お帰りなさい』ですわね?」
「そう。疲れた心が少しでも癒されんじゃないかってね」
「素晴らしいことだと思いますわ。ご挨拶はコミュニケーションで最も大切なものです。これ一つでその方の気持ちが最高にも最低にもなるんですのよ」
ユティスはそう言うと、二宮の後姿に手を振った。
「いってらしゃあーーーい、二宮さぁん」
ひらひら・・・。
「二宮さん、お元気ですね」
「エネルギーの塊さ」
「イザベルさんって?」
「道場の可愛い娘ちゃんだよ」
「カラテ道場の道場生さんですね?」
「リーエス。イザベルさんはね、黒帯で蹴り技が早くて正確で、二宮先輩、昇段審査の組み手でイザベルさんとやったらしんだ。それでね、上段蹴りで完璧にノックアウトされたんだって・・・」
「あらあら・・・。それは大変だこと・・・」
「その話、会社じゃ有名だよ。組み手の前からハートがノックアウト喰らってたって・・・」
「うふふふ。二宮さんって面白いですわね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ。そういうことでしたら、その縁日とても楽しみですわ」
「そうだね」
「ぜひ、行きましょうね、和人さん」