041 納得
■納得■
その夜ユティスが和人にコンタクトしたのは、11時を大きく回ってからだった。
「遅くなりましてごめんなさい、和人さん」
「いいんだよ。忙しかったんだね」
「リーエス。和人さんとコンタクトしてから今までのことを、まとめていたのです」
「じゃあ、疲れてるんじゃないの?」
「いいえ。大丈夫です。お気づかい本当にありがとうございます」
「オレのつぶやきみたい」
「うふふ」
ユティスは心から笑った。
「あはは。ユティス、それにしても今日もきみに会えてとっても嬉しいよ」
「リーエス。わたくしもです。和人さん、明日は2社のヒアリングと提案前の確認ですわね。わたくしもご一緒しますか?」
「うん。でもさぁ・・・」
和人は珍しくこの申し出に躊躇した。
「どうかなさいました?」
和人は後ろめたそうに言った。
「あの、言いにくいんだけど・・・」
(どうせ、わかってるんだし・・・)
「なにがでしょうか・・・?んふ?」
「同行エンジニアなんだけど・・・、石橋さんなんだ」
「はぁ・・・。それがなにか?」
「真紀社長の策略にはまっちゃったみたいなんだ・・・」
どぼんっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「策略ですか?」
ユティスは無邪気にきいてきた。
「石橋さんさぁ・・・」
和人は言いにくそうだった。
「うふふふ。構いませんわ。石橋さんは和人さんのことお好きなんですよね?」
ユティスは意外にもあっさりとそれを言った。
「え・・・?うん、たぶん・・・」
「うふふ。それでは、よいことではないですか」
すか・・・っ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「へ・・・?よいこと?」
和人は拍子抜けした。
にこっ。
「リーエス」
ユティスは微笑んだ。
「もし、石橋さんが和人さんのことを真剣に想ってらっしゃるなら、資料の作成を一生懸命なさるでしょう?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「恐らく。というより、彼女まじめだから・・・」
にっこり。
「はい。だったら、明日はきっと成功しますわ」
ユティスはもう一度優しく笑った。
「気にならないの?」
「なにがでしょうか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
(オレは真紀社長の言葉が気になっちゃうよ。オレの早合点かな・・・)
「い、いや、なんでも・・・。ふわぅ。じゃ、もう遅いから」
和人はあくびした。
「はい。アステラム・ベネル・ナーディア(おやすみなさい)、和人さん」
「ベネル・ナディア(おやすみ)、ユティス」
かくん・・・。
和人は急に疲れて、眠気に襲われるまま、瞬く間に眠っていった。
「んごーーーっ・・・」
(あらあら、和人さん、また、わたくしの夢をご覧になってますのね。嬉しい・・・)
ユティスは和人の強い思念を感じて、エルフィアには戻っていなかった。
(いけない。和人さん、相当にストレスが溜まってますわ。申し訳ありませんが、少しリラックスしていただけるように、和人さんの夢の中におじゃましますね)
夢の中で、和人はユティスになにかを聞きたがっていた。
「そうだね。で、きみはなんとも思わないのかい?」
「わたくしも、もちろん和人さんのお仕事を応援いたしますわ」
「ということじゃなくって。石橋さんのこと」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスはほんのちょっと考えていた。
「石橋さんが、和人さんを好きでいらっしゃることですか?」
「う、うん。だから、ユティス、きみはそのぉ・・・」
「んふ。ジェラシーですか?」
「ま、そのぉ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ。まったくないと言えばウソになりますし、あると言えば大袈裟になります」
「それじゃ、わかんないよ」
「うふふ。つまり、和人さんの独占を正当に主張すべき段階に、わたくしはまだ至ってないと思っていますわ」
「どういうこと?」
「だって、わたくし・・・、和人さんからちゃんとおっしゃってもらってないんですもの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「な、なにを?」
「愛の告白・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「愛の告白だってぇ!」
「リーエス。和人さんからプロポーズいただいてませんから、そういった資格はありませんわ」
「し、資格って、プロポーズってのは運転免許と一緒なのかい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
(あらあら、なんてすごい夢なのかしら・・・。うふふ)
ユティスは和人の枕元に座り、愛しそうに眺めた。
和人の夢は続いていた。
「では、わたくしからおうかがいいたします」
「な、なに?」
「ウソはいけませんよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス」
「和人さんがもしわたくしをお好きだとして・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええっ、なにその前提は・・・?」
「わたくしのために、和人さんはどんなことをしてくださいますか?」
「どんなことって。そりゃ、一緒に話したり、食事したり、映画とか見て、どこかロマンチックなところに行ったり、そのつまりデートしたりだね・・・」
「んふ?」
にこっ。
ユティスは優しく微笑んだ。
「それで?」
「手を握り合って・・・そして・・・」
「それで?」
ユティスの笑みが広がった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「互いに見つめあって・・・」
「それで?」
「そのぉ・・・。いい雰囲気になって」
「それで?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスの笑みはどんどん広がっていった。
「きみのことをだね・・・」
「それで?」
その先を考えて和人は真っ赤になった。
「その・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「つまり、こういうことですか?」
ユティスが念じると、ユティスが和人の腕の中に飛び込んでいるイメージが伝わってきた。
(和人さぁーーーん!)
(ユティーース!)
ひしっ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ・・・っ」
「ふふふ」
「ユティス・・・」
(まぁ。うらやましい。わたくし、精神体じゃなくて和人さんと実際にお会いできたら、本当に和人さんの腕の中に飛び込んでしまうかもしれませんわ・・・)
そぅ・・・。
すっ。
ユティスは手で和人の頭を撫でようとしたが、その手は和人に触れることはできなかった。
和人の夢はさらに展開していった。
「ユ、ユ・ティ・ス・・・」
「なーーーんて。もしも、ですものね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だー。びっくりしたぁ!」
(思いっきり期待しちゃったじゃないか・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふ。二宮さん風に言ってみたのですが、お気に召しませんでしたか?」
「心臓に悪いよ・・・」
かぁ・・・。
和人は耳まで真っ赤だった。
「じゃ、ユティス、きみはどうなんだい?」
「わたくしですか?」
「リーエス。そのわたくしだよ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
にっこり。
「わたくしは・・・、和人さんのことが大好きです」
ユティスはさらりと言った。
どっきん!
「ええっ!」
「聞こえませんでしたか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや・・・」
「うふふ。もう一度、言った方がいいですか?」
「うん・・・」
「じゃぁ・・・」
どきどきどき・・・。
じぃ・・・。
ユティスは微笑みながらも、和人をじっと見つめた。
そして、ゆっくり唇を開くと、優しく言った。
「和人さんのこと・・・好きです。・・・大好きです」
にっこり・・・。
かぁ・・・。
ぱん、ぱか、ぱーーーんっ。
どっかぁーーーん。
ばち、ばち、ばち・・・。
夜空に特大のスターマインが打ち上がった。
--- ^_^ わっはっは! ---
(まぁ!和人さんの夢の中のわたくしって、随分と大胆なんですわね)
--- ^_^ わっはっは! ---
(うふふふ、本当にそうできたらよろしいのに・・・)
ユティスは和人の額に手を移し、和人の夢の中に入っていった。
すぅ・・・。
(では、和人さん、本物のわたくしからプレゼントをいたしますわ)
ユティスは和人に話した。
「和人さん、少しリラックスしてみてくださいね」
「そんなこと言っても、大好きなユティスがそばにるんだから、ドキドキしちゃうじゃないか」
「うふ、大好きだなんて。嬉しい・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「さぁ、和人さん。もっと気を楽にしてください」
「リーエス・・・」
さ、さぁーーー。
和人が目を閉じると、ユティスの手がまぶたを撫でた。
さぁーーー。
ユティスは何度も和人の頭を撫でた。和人は直接ユティスの掌を感じるわけではなかったが、ユティスの生体エネルギーはある熱エネルギーとなって微かに和人に伝わっていった。
とろーーーん。
和人は、気持ちよくなりリラックスし、眠くなってきた。
「んーーーん、ん。んーーーん。んーーー」
ユティスはさらにハミングで歌い始めた。
ほわーーーっ。
もう、和人は完全にリラックスして、ユティスの眠りへの誘いに乗っかるしかなかった。
(でも、夢の中でまた眠るってのもとっても変ですわね)
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふ。和人さん、どっちでも熟睡していただけなら、いいんですけど・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
朝になり和人が目覚めると、既にユティスはいなかった。
「なんか無茶苦茶生々しい夢を見たぞ・・・」
ぶわぁ・・・。
しゅっしゅっ・・・。
ごろごろ、ばぁーーー。
和人は顔を洗い、歯を磨き、仕事に行く準備を始めた。
「夢の中で夢を見ている夢を見た・・・。おかしな夢だ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ふわぁ・・・。
和人はあくびをし、まだ夢を見ているような気分だった。
その日、真紀が二宮と話していた。
「二宮、正直に言いなさい」
「なにをですか?」
「ユティスのこと見えてるんでしょう?」
「なんのことっすか、真紀さん?」
「誤魔化さなくっていいの。わたしも時々感じる時があるの」
「なにをっすか?」
「ユティスに決まってるじゃない」
「オレはなにも感じませんよ」
「とぼけるつもりね?」
真紀は二宮にせまった。
「本当っすよ。見たことないですってば。和人が見たり話したりしてるかは、知りませんけどね。ただ本人はそう言っていますよ。ユティスって・・・」
「わかったわ。いい、二宮、これは事務所の人間いは内緒よ。特に石橋には・・・」
「石橋?」
「そっちを向いちゃダメ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮が石橋を見そうになったので、真紀は慌ててそれを制した。
「そうよ、石橋。絶対にダメよ」
「了解です」
そんな風に少しずつ自分の存在を感じさせることで、最初に和人が言ったように、ユティスは事務所の人間から慣らしていった。これはユティスが急に実体で現れる前の地ならしだった。
「ねえ、ユティス。きみのことなんだけど、だんだん、周りの人間に隠し通せなくなってきたよ。二宮先輩には、はじめの段階でオレが、言ったんだけど」
「はい。はじめの計画通りですわ。今後どうしましょうか?」
ユティスは優しく言った。
「先輩、そんなに言うんなら、証拠を見せろってさ」
「証拠ですか?」
「つまり、きみの写真を撮るか、二宮先輩にも見えるようになってもらうしかないかと思うんだけど・・・」
「リーエス。わたくしが二宮さんの頭脳波長を掴んでみます。時々でもわたくしがお見えになるってことは、二宮さん、和人さんの波長に近い可能性がありますわ」
「うん。二宮先輩は、週に3日30分前には事務所に出てるんだ」
「それは感心ですわ。早起きなんですね?」
「リーエス。朝その時間そこのコンビ二に用事があるんだよ」
「どなたかに、ご挨拶なさるとか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「大当たり。イザベルさんにね」
にっこり。
「んふ。では、明日、その時刻に会社にまいりましょう」
「うん。ありがとう、ユティス」
「パジューレ(どういたしまして)」
和人は朝一で事務所の会議室に二宮を呼んだ。
「お、和人、どうした?」
「おはようございます。先輩、ちょっと今日は・・・」
和人は二宮のそばでユティスと並んだ。
「ん・・・?」
(なんか、人がいる気配がしたが。気のせいか?)
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は、当然のように自分の隣のユティスを向いた。
(二宮さんの頭脳波に同期できそうですわ・・・)
(リーエス)
「だれだ?」
が、二宮にとってはそこはだれもいないところだった。
にっこり。
ユティスが微笑むと和人も微笑んだ。
にこっ。
「そこだ」
がばっ。
二宮は人気を感じてはっと振り向くと、ユティスの精神体が一瞬見えた。
ぼやーーーっ。
「あ・・・」
ぽわんっ。
(若い女だ!)
ぞくっ・・・。
二宮は真っ青になった。
「和人、おまえにはやっぱり女の幽霊が取り付いているぞ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「失礼な」
(もう、二宮さんはわたくしが見えてますわ)
ユティスは優しく囁いた。
(だったら話は早いね)
(リーエス)
「二宮さんにユティスを紹介してもいいかい?」
和人は尋ねた。
「問題ございませんわ」
ユティスは答えた。二宮は基本的に正直な男だ。
(できそうかい?)
ユティスは二宮の波長を探った。
(リーエス)
人間はだれも各々固有の波長を持っている。ハイパー通信はこれを利用して、当事者同士しかわからない通信をするのだ。ユティスは相手の固有の波長を捕らえる能力に長けていた。
(今、二宮さんに同期しましたわ)
ほどなく和人にユティスは準備ができたとささやいた。
「では、まいりますか?」
和人は二宮に心の準備を即した。
「なんだよ?あらたまって・・・」
「先輩、これから起こることに、キモを潰さないようにお願いしますよ」
「お、おう・・・」
二宮は、怪訝な表情で、神妙に和人の言葉をかみ締めていた。
「じゃ、ユティス、お願い」
「ユティスだってぇ・・・?」
ぽう・・・。
和人が言うと、二宮の目の前でユティスが像を結びはじめた。
ぼやぁ・・・。
「あわわわわ・・・。和人、おまえ、まさか女の子の幽霊と交霊しようってんじゃないだろうな・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぼわぁ・・・。
「ナ、ナ、ナンマイダーーーぁ!」
二宮は合掌した。
--- ^_^ わっはっは! ---
ほどなく、ユティスの精神体は二宮にもはっきりと認識できるようになった。
「あ・・・」
ゆらゆら・・・。
周辺が少しぼやけてはいるが、ユティスの身体の周りは淡い虹色の光が纏わりついていて、オーラのようにも見えた。
「なんて・・・こった・・・」
そう言うなり、二宮は合唱を解き声を失っていた。
「・・・」
今や、二宮ははっきりとユティスが目の前にいることがわかった。
(足はちゃんとある・・・。幽霊ではないか)
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮は、瞬き一つしないで、ユティスを見つめた。
じーーー。
ゆったりした襞のある衣装に身を包んで、ユティスは信じられないくらい愛らしく、そして美しかった。
(天女だ・・・。天女に、違いない・・・)
にこっ。
ユティスが、二宮に微笑みかけると、二宮は独り言を言った。
「オレは夢を見てるのか・・・?」
「ナナン・・・」
ユティスは静かに首を横に振った。
「はじめまして二宮さん・・・。わたくしはユティスです。エルフィアから地球の文明促進を支援するためにまいりまいた。和人さんは、わたくしの正規コンタクティーで、地球の代表です。二宮祐樹さんは宇都宮和人さんの先輩でいらっしゃいますわね?」
「お、おす・・・」
二宮が胸の前でカラテの十字を切った。
「自分、和人の先輩やらさせてもらってます・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスは、続けて和人と二宮の関係を確認すると、和人のそばに寄り添った。
すぅ。
「うぁ、ああああ・・・」
二宮は目を疑った。
「先輩。今のユティスは、エルフィアからその精神だけ来ている精神体なんです」
す、すぅーーー。
和人が二宮の目の前でユティスに触れようとすると、和人の手はユティスの体を通り抜けていった。
すかーーーぁ。
「こんなにはっきり見えるのに、その、ユティスは精神体なのか?」
「はい」
すぅーーー。
二宮もユティスを握手しようとすると、自分の手がユティスの手を掴むことなく、空を通り抜けてしまった。
すかすか・・・。
「信じられん・・・」
二宮にはそれが、どうしても信じれなかった。
「二宮さん、ごきげんはいかがですか?」
ユティスの言葉は耳で聞こえるというより、頭の中でしゃべっているというような感じだった。二宮はそれにすぐに慣れた。
「オレたち二人にはきみが見えていて、他の人間には見えないのかい?」
「リーエス」
「それを信じろってかぁ・・・?」
「ご納得いくまでお考えください。先輩」
にっこり。
「二宮さん?わたくしの専門はテクノロジーと精神レベルに乖離が起きないように、人々の精神をサポートするサイコセラピストですわ」
「なるほど、この妙に安心できる雰囲気はそのためか・・・」
「どうです、先輩、納得しましたか?」
「ああ、わかったよ。おまえが惚れるわけだ・・・」
「まぁ!」
「先輩!」
二宮は納得した。
--- ^_^ わっはっは! ---