407 権利
「アンニフィルドです。さてと、有機体アンドロイドが現実になってくると、どんな問題が起きるでしょうか?ことは恋愛だけでは済みそうもないわね。ジニーも例外じゃないの。この子はもともと恋愛シミュレーションのメインヒロインだから、余計にそうなんだけど、次なるステップアップは避けられないわ。どうなるかって言うと・・・。それは、今回のお話を読んでくれなきゃ!権利よ。権利!わかったぁ?あは!」
■ここまで記載■
つらつら・・・。
エルフィアでは、ゾーレとファナメルの前でメローズの説明が続いていた。
「イラージュは200年以上前に、ブレスト派により発見されたカテゴリー2文明の世界だったんだけど、その間にブレストとその賛派により委員会の目を逃れてきたの。理由は、現委員会のやり方に反旗をひるがえすブレストが、自分の思い通りの文明支援をエルフィアに代わってするためね。今や、イラージュもカテゴリー3へと大きく飛躍し、他の世界を文明支援できるほどになったわ」
「・・・」
「・・・」
メローズが確認するまでもなく、二人はじっと聞き入っていた。
ぴっ。
画面が切り替わった。
「問題は山積みだけど。イラージュ自体はカテゴリー2の危険な時期を乗り越えた平和的な世界のようね。そこは、彼も気をつけたはずだわ。けれど、部分的に、または多くのところで、ブレストの都合の良いように捻じ曲げられている可能性もあるわ。このまま、イラージュを彼の導くままにしておけば、エルフィアや他の支援世界との衝突は避けられないかもしれない」
そして、メローズは二人が状況を理解できるように間を置いた。
「・・・」
「・・・」
「ナナン。事実、もう衝突は始まっているの」
ぴ。
メローズは立体空中スクリーンに映し出された画面を切り替えた。
「この星がどこだかわかるわよね?」
それは彼女たちにとって忘れもしない世界だった。
「リーエス。ユティスの赴任している地球よ。ブレストはイラージュをデビューさせ、地球をその文明支援世界第1号に決めたわ。地球の先進地域の一つ、彼が亡命を望んだ合衆国に本拠地を置いた。そう言うこと・・・」
要するに、ユティスの拉致事件で、ブレストはSSたちを尻目に一人だけ逃げ果せたのだ。
ぴくっ。
「・・・!」
「・・・!」
さっ。
その仕打ちを知ると、彼女たち二人の顔が強張った。
「驚いたわね・・・。でも、これは彼の計画の一部。単なるオプションの一つにすぎないのよ。本当のところは・・・」
そこで、またメローズが一呼吸置いた。
「続けて結構です、メローズ」
それは、シェルダブロウを除くゾーレとファナメルにとって、寝耳に水もいいところだった。
「なによりも問題なのは、ブレストはカテゴリー1の世界も支援対象としていることよ。もちろん、委員会規定の最重要条項に違反しているわね。対象はカテゴリー1の最終段階だけど、自滅の危険と隣り合わせという自覚のない世界にブレークスルーのテクノロジーをちらつかせば、互いに奪い合い勝者が全てを独占したあげく、全てをよこせと要望が要求に変わるのは目に見えてる。地球風にいえば、気違いに刃物を与えることになりかねないわ」
「・・・」
「・・・」
ぴっ。
メローズは次の画面に切り替えた。
「これがイラージュ本星の宇宙地図座標よ。ご覧の通り、エルフィア銀河から離れること6400万光年、地球と同じく天の川銀河、バルジの中に位置するわ。地球とは24000光年ほど離れているから、天の川銀河の中心からお互いに60度付近というところね。大宇宙では目と鼻の先。ブレストが地球の支援を頑なに反対した訳は、多分にこれだわ。イラージュの準備が終わるまで、委員会に気づいてもらっては困るからよ。意見があったら聞くわ」
「リーエス・・・」
メローズが一気にここまでを説明すると、ようやくゾーレが口を開いた。
「委員会がイラージュを取り込もうってのは、エルフィアと足並みを揃えてもらいたいからだということはわかったわ。どうやるかは、そっちで十分に検討中だろうから、そのための情報を集めるというのがわたしたちの役目ってわけね?」
「リーエス。文明支援はどんな文明段階でもやっていいわけじゃないわ。イラージュには、その基本ルールを知ってもらわないと、幸せになれるはずの一世界を滅ぼすことにもなりかねない。わかるわよね?」
「リーエス」
「リーエス」
二人は頷いた。
「それ以上に重要なのは、イラージュにブレストとの関係を断たせること。イラージュとしてはブレストに恩義を感じているかもしれないけど。そうでしょ?」
メローズがシェルダブロウを見やった。
「リーエス。ブレストはエルフィアにとっても、他のカテゴリー3世界にとっても、有害だと思う。もちろん、地球にとっても、合衆国にとってもね」
シェルダブロウが意見を言った。
「3人の派遣についてだけど、超銀河間転送システムも基本アルゴリズムを見直して強化されました。ということで、お二人にはこれからイラージュに行ってもらいます。よろしいわね?」
メローズは二人に要求を伝えた。
「リーエス。選択権なんてないもの」
「リーエス。やるしかないわけよね?」
ファナメルが言うと、ゾーレも相槌を打った。
「いい、二人とも・・・、そういう消極的かつ無責任発言を繰り返すなら、考え直すけど・・・?」
一呼吸置いて、メローズは二人をじっと見つめた。
「待って。二人とも行くと言ってる」
メローズの脇からシェルダブロウが助け舟を出した。
「シェルダブロウ、あなたはもう決めているのね?」
ファナメルが彼を見た。
「リーエス。わたしは説明を受けたし、任務に同意した」
「本当は、もっと早く申し出をしたかったところだが、転送システムの件があってね・・・」
エルドが補足した。
「聞いたわ。超銀河間転送システムの全部に改良を加えたんですってね?」
ゾーレが頷いた。
「元と言えば、われわれのせいですが・・・」
シェルダブロウがすまなさそうにエルドを見やった。
「まぁ、システムの脆弱性を指摘されたというわけで、マイナスばかりとは限らんよ」
エルドは片眉を上げた。
「リーエス。それで、3人でイラージュに渡った後、あちらの大統領や、文明支援組織のトップの情報をとってもらいます。但し、エルフィアの委員会所属だってことは絶対に秘密にしてください。今の時点で、こちらの動きをブレストに悟られたら計画は台無しになります」
「リーエス。了解したわ」
「リーエス。先を続けて」
「先鋒隊のあなたたちを支援する母船は隠密でイラージュに送りますが、エストロ5級母船のような大型船は派遣できません。直径50メートルくらいの中型船になります。そこと常時通信を行います。3人のモニタ及びその場での録音録画、また、緊急時にはそこが避難所となりますので、もしもの場合には回収を指示してください」
メローズは二人にてきぱきと指示を与えた。
「リーエス」
しゅん。
突然、今は肉体を持った地球のアンデフロル・デュメーラの擬似精神体が現れた。
「メローズ、緊急連絡です」
「ちょっと中断するわ。アンデフロル・デュメーラ、地球でなにか動きがあったの?」
メローズが彼女に聞くと彼女はポニーテールの後ろ髪を揺らしながら答えた。
「リーエス、メローズ。合衆国の国務長官たち3名がイラージュ船で地球を出発しましたわ。もちろん、ブレストも一緒に乗り込んでいます」
アンデフロル・デュメーラのいつものクールさと一風変わった女性口調と顔の様子に、ファナメルたちはたいそう驚いていた。
「ええ・・・?」
「だれ・・・?」
「エストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラ嬢だ。きみたちも地球では世話になったんじゃないのか?」
くす。
シェルダブロウが笑った。
「アンデフロル・デュメーラ嬢・・・?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「で、国務長官ということは、大統領はイラージュ行きに同行してないのかな?」
そんなことはおかまいなしに、エルドが事実確認を要求した。
「ナナン。大統領は同行しませんわ。工程は2泊3日の強行日程です」
にこ。
「アルダリーム(ありがとう)、アンデフロル・デュメーラ」
「パジューレ(どういたしまして)、エルド。では、また後ほど」
しゅん・・・。
そう言うと、アンデフロル・デュメーラの精神体は空中に溶け込むようにして消えた。
「ふむ。合衆国大統領はイラージュには行かないとね・・・。どうやら、ブレストの当てが外れたようだぞ・・・」
ぱち。
エルドは満足そうに秘書にウィンクした。
「そうかもしれません」
メローズが頷いた。
「もう一つ、3人の仕事が増えたな、メローズ」
「リーエス。そういうことです。ファナメル、ゾーレ、シェルダブロウ、イラージュで合衆国の使節団とコンタクトを取ってください」
「彼らにエルフィアと名乗ってはいけないんでしょ?」
ゾーレが聞いた。
「もちろんです。今時点で、彼らにブレストに話されては困ります。彼らにコンタクトできればブレストの真意もわかるでしょう。ファナメル、それにシェルダブロウ、あなたたちの得意分野よ」
「リーエス」
「リーエス」
それは精神感応の超A級レベルのスペッシャリストへの指令でもあった。
「がぜん、やる気が出てきたわ。ふふふ・・・」
ゾーレが不屈の笑いを浮かべた。
「それに当たって、あなたたちにも準備してもらいます。出発は明日。いいですね?」
メローズは三人に念を押した。
「リーエス」
「わかったわ」
ぴっ。
メローズの映し出した画面には各々のコードネームやら扮装の大まかな様子があった。
「ゾーレ、これより、あなたのコードネームはオキン。ファナメルはオヨネ。シェルダブロウ、あなたはヤキチよ。いい?」
「リーエス」
「リーエス」
「リーエス」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「みんな、あまり聞かないような珍しい名前ですね?」
ヤキチこと、シェルダブロウが言った。
「リーエス。地球の再放送のテレビ番組の有名人リストにあった名前から拝借したのよ」
メローズがにっこり笑った。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「なるほどね」
「地球の有名人の名前ね」
「リーエス」
「それなら、私たちがエルフィア人だとはわからないし、いかにも地球人を歓迎するって格好になってるわ」
3人は納得した。
「リーエス。そういうこと」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「しかし、妙な頭ですね・・・?」
ヤキチが映し出された自分のヘアスタイルに首を傾げた。
「ユティスたちによると、なんでもチョンマゲという最新のモードだそうよ、ヤキチ」
「リーエス・・・。作戦にはちょっと目立ち過ぎませんかねぇ・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「いいのよ、それで。あなたたちの職業はファッションモデルさんだから」
「ファッションモデル?」
「リーエス。厳密にいうと、地球で流行ってるコスプレ・モデルよ」
「コスプレ・モデル?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「とっても美しいのは認めるけど、私たちのもそうなの・・・?」
オキンとオヨネがそれぞれカンザシに結った髪型を見てコメントを求めた。
「さぁ、そのヘアスタイルをなんて呼ぶのかは知らないけど、地球の若い女性モデルさんには人気の髪型らしいわ」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「それに、この色鮮やかなのはいいけど、服装、少し重くて動きにくくないかしら・・・?」
「確かに。靴も木製かしらね?これは紐かしら?足には何も着けないの?」
「リーエス。足先だけ素足を見せるのがセクシーなんだそうよ。そうして、足の親指だけをきゅっと上げて、それが小股の切れ上がったいい女って言うのよ」
「足先の美しい女ってことは、地球美女の条件なのね?」
「リーエス。どこでもそうなんじゃない?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「冬も素足なの?」
「ナナン。足袋とかと言うステキなソックスがあるけど、寒い日にだけはそれを着けるのよ」
メローズが顔色一つ変えずに言った。
「あ、そう・・・」
かくして、女性二人は花魁に仕立てられることになった。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「あなたたちには、まず、徹底的に目立ってイラージュの大統領の目を惹いてもらうことが大切なの。わかる?」
メローズが真顔で3人を見た。
「リーエス・・・」
「リーエス」
「特に夜は・・・」
「え・・・?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「なにを考えてるの?パーティーよ。そして、あなたたちが潜入するのは国務長官の歓迎パーティー。イラージュへはブレストから地球の情報が入ってるはずだから、あなたたちが地球の情報を知ってておかしくないはず」
「もし、ブレストが情報をあげてなかったら?」
ゾーレが言った。
「ナナン。そんなことは万が一にもないはずだね。イラージュの支援第一号の地球の合衆国代表を公式に迎える大切なセレモニーだからな。大丈夫、事前に情報はとってある」
そこで、エルドが3人を安心させるように答えた。
「それで、わたしたちはどういう身分で?」
シェルダブロウがエルドを見た。
「だから、コスプレ専門のファッションモデルだよ。それについてはどう潜入するか、イラージュ語取得と合わせて、これから集中学習をしてくれたまえ」
「でも、一日しかないんでしょ?」
ファナメルがエルドとメローズを見た。
「十分よ。地球の漢字のように文字が数万種類もあるわけじゃないから」
「リーエス。あれは大宇宙のどこを探してもないわねぇ・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「では、これが終わったら早速学習に取り掛かってくれたまえ」
エルドが最後を締めくくった。
「リーエス」
「わかったわ」
「了解」
さてさて、地球は日本、とある禅寺に、T大教授の高根沢博士が教え子の小山大山を訪ねて来ていた。
「先生、また、突然お越しになられてどうしましたか?」
小山大山は大学では宇宙物理学を専攻した異色の禅寺の宗家だった。
「例の時空素粒子統一理論じゃよ」
無精髭の高根沢は困ったもんだと言うような顔になった。
「きみと一緒に研究して理論体系まで構築したまでは良かったんじゃがな、コーネロ大のサンダース博士が自論と同じじゃとちょっかいを出してきおって・・・」
「まぁ、あれだけネットに上げれば反応が来ない方がおかしいですからね。ははは・・・」
小山は苦笑いした。
「あの方も先生と同じ分野の研究者ですよね?」
「うむ。良きライバルと言えんこともないが、スーパーノバ2発の件では、すっかり世話になったからなぁ・・・。ふむ・・・」
高根沢は仕方ないというように口をへの字に曲げた。
「一緒に研究グループに入れろとでも?」
小山は大体を予想していた。
「そう。そうなんじゃ。その通りなんじゃよ。彼の研究がどこまで言っとるのか、今度はこっちが確かめんといかんわい。そういうことで、共同研究者として、一応、きみにも相談はせんとな。まったく、鼻の効く輩じゃ。1万キロ以上も離れとるというのに・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「恐らくは・・・。申し上げ難いのですが、昨晩はお風呂に入ってますか、先生?」
小山大山は表情を変えずに言った。
「いや、これは参った。そのとおりなんじゃ。それが、大学紀要の原稿仕上げで、ここんとこ、研究室に泊まり込みでな、4日は入っとらん」
高根沢は頭を掻いた。
ぼりぼり・・・。
ぱらぱら・・・。
ぷぅーーーん。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「そう言うことでしたか。今すぐ小坊主にお風呂を用意させますから、是非とも、入ってからお帰り下さい。これ、先生にお風呂を差し上げなさい」
「はい」
さすがは日頃から精神修養しているだけあり、修行僧たちは顔色一つ変えなかった。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「それは有り難い。じゃなくてな、サンダース博士が明日来るんじゃよ、大学に」
「それなら、お風呂には入らない方がいいかもしれません」
にや。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「ダメじゃな。彼も研究論文執筆中はぜんぜん風呂に入らんタイプでな。日本の温泉を楽しみにしておる・・・」
「確かに、ライバルですねぇ・・・」
小山は後ろを向いて修行僧たちに鼻をつまんでにやりとした。
「・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「ところで、もう一人大切な客を招くことになった・・・」
ずずず・・・。
とん。
高根沢はお茶をすすると湯呑みを置いた。
「だれでしょうか?」
「大田原太郎こと、セレアム人、トアロ・オータワラーさんじゃ」
「内閣特別顧問の?」
もはや、大田原を知らない日本人はいない。
「左様。まさにその人じゃ」
「と言うことは・・・?」
小山は今までのことからピンときた。
「心配するな。彼は風呂好きじゃて」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「違います。わたしが言いたいのは、エルフィアの言うカテゴリー3の・・・」
「図星じゃ。われらの理論は地球人のカテゴリー3の扉と認識されたんじゃ・・・」
高根沢は目を閉じて両腕を組んだ。
「やはり、そうでしたか・・・」
小山は禅僧でありながら、最新の宇宙物理学に通じていた。
「地球人は精神鍛錬を放置して先を急ぎ過ぎておる。このことは、エルフィアにも話は言っておろう。ある意味、大田原さんは監視役じゃな・・・」
高根沢は腕組みをした。
「大田原さんがそう言ったので?」
小山がきいた。
「左様。われらのネット開示情報を見て、非常に心配じゃと・・・」
高根沢は眉間にシワを寄せた。
「開けられたパンドラの箱ですか・・・」
「いや。箱の底に残っておるのが希望とは限らんぞ」
3人の元SSたちが説明を受け、イラージュの言葉や情報の学習に取り掛かって間も無く、エルドとメローズは執務室に戻っていった。その二人の前に、ケーム常駐のエストロ5級母船、ピュレステル・デュレッカの擬似精神体が現れた。
ぽわぁん。
「エルド、ピュレステル・デュレッカです」
「ベネル・ロミア(どうだい)、ピュレステル・デュレッカ?」
「アルダリーム(どうも)、エルド」
「どうしたんだい、その顔は?ランベニオとジニーの二人になにかあったのかね?」
エルドは困り果てたような彼女の表情に、エストロ5級母船の感情の出現を確認した。
(間違いなくアンデフロル・デュメーラの影響だな、これは・・・)
エルドは嫌な予感がした。
「リーエス。二人が自首するからエルフィアに連れて行けと・・・」
ピュレステル・デュレッカは以前には見られなかった表情をしていた。
(本人の自覚なしと・・・)
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「二人と言ったって、ランベニオはいざ知らず、ジニーはなんにもしてないだろう?」
エルドはランベニオの変わりようが余りに早いのにびっくりした。
「それが、どうしても二人じゃなくてはいけないんです」
ピュレステル・デュレッカは困った表情だったが口調は静かだった。
(とはいえ、思考は冷静そのものか・・・)
「それはきみの意見かね?」
エルドはピュレステル・デュレッカを試してみた。
「ナナン。ジニーはやっと一緒になれたランベニオの下を絶対に離れたくないんです。彼女はそう言いました」
(事実と意見の区別も以前と同じ。大丈夫だな・・・)
「とは言ったって、裁判やら何やら、まだ、なにも始まってすらいないだろう?」
エルドは二人の早急な結論出しに待ったをかけるように言った。
「わたしも二人にはそう言っていますが、まったく聞いてくれません。しまいには、ジニーがあなたに直接交渉すると言ってきて、というより、怒り狂って、わたしでは手に負えません・・・」
(想像するに難くないな・・・)
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「沈着冷静なきみがかい?冗談だろ?」
一応、エルドは形だけ反論した。
「冗談ではありませんわ。肉体を得たジニーは既にわたしの管理下を離れています!」
ピュレステル・デュレッカの擬似精神体は恨めしそうにエルドを見つめた。
(他人の感情がわかるようになって、エストロ5級母船の最新鋭量子コンピュータも、あのジニーにはお手上げか・・・)
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「あなたが最終決定したんですよ、エルド。くすっ」
メローズが悪戯っぽく笑った。
「リーエス。よかろう。会おうじゃないか、二人に。ピュレステル・デュレッカ、二人の精神体を呼び出してくれたまえ」
エルドが了承した。
「リーエス。それでは、お二人をお連れします!」
にこ!
(なんとゲンキンな・・・)
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
ほっとしたように、ピュレステル・デュレッカが言い終わると、すぐに、ランベニオとジニーの精神体が揃って現れた。
ぽわぁん。
「エルド、お願い!わたしをランベニオから引き離さないで!」
両手を胸の前で合わせ、いきなりジニーは泣き出しそうな顔で懇願してきた。
「おわぁ・・・!」
ずずっ!
思わずエルドは一歩引き下がった。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「お願い、エルド!」
ずいっ!
ジニーは逆に一歩前に出た。
「ま、待ちたまえ・・・」
ささっ。
エルドはさらに一歩後退りした。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「お願い!お願いったら、お願いったら、お願い!」
ずいっ!
「だから、そんなに慌てないで、ちょっと待ちたまえ、ジニー」
エルドはジニーをブロックするように両手の平を胸の前で立てた。
「3、2、1・・・。はい、待ったわ!お願い、エルド!」
ずいっ!
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「だから、落ち着きたまえ。話は聞くよ、ジニー」
「本当?」
にこ!
立て板に水の如くジニーの口から言葉の連射が続いた。
「リーエス。本当だとも。だから・・・」
「やったぁ!ランベニオ、エルドは聞いてくれるって!これで一緒に監獄に入れるわ!」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「監獄ぅ・・・?」
エルドはジニーがとんでもない早とちりをしていることに気づいた。
「いや、それは違うと思うが・・・」
ジニーの速射連射にエルドはたじたじになった。
「さすがエルド。ねぇ、わたしの言った通りでしょ、ランベニオ?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
ぎゅぅ!
ジニーの精神体がランベニオの精神体を抱きしめた。ケーム上空に待機中のピュレステル・デュレッカの中で、実際にも抱き締めているのであろう。
「げほっ。ジニー、ちと苦しいわい・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「ははは・・・。あのねぇ、ジニー、きみは大いなる誤解をだねぇ・・・?」
エルドはジニーのペースを正そうとして失敗した。
「アルダリーム(ありがとう)、エルド!」
にこにこ・・・!
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「ああ・・・、パジューレ(どういたしまして)・・・。それはいいんだが・・・」
「それで、一つ折り入ってお願いがあるんだけどぉ・・・」
もじもじ・・・。
「一つって、今のがそうじゃないのかね?」
エルドが呆れ顔になった。
「ああ、あれは別よ。本題はこっち!」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「それでね・・・」
ジニーは話題を切り替えた。
「あのねぇ、ジニー、別って簡単に片付けて、それが一大問題なんじゃなかったのかね?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
(ピュレステル・デュレッカがお手上げだって、わかるような気がするわ・・・)
メローズは二人に口を挟むのを止めた。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「そのぉ、お願いというのは・・・」
かぁ・・・。
ジニーは急にペースダウンした。
「おっほん。なんだね?」
エルドもやっと一息入れることができた。
「わたしたち、ほれ、やっと恋人同士になれたじゃない。だから、そのぉ・・・」
もじもじ・・・。
「は、初めてでしょ、お互いにアレするの・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「だから・・・」
「だから・・・?」
エルドは顔色一つ変えなかった。
「もう、なにを言わせるのよ、エルド!」
「うん?わたしは一言も言ってはおらんよ」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
しゅん。
地球上空待機中のエストロ5級母船の司令室には、母船のCPUの分身である有機体アンドロイドが別の母船の擬似精神体と相対していた。
「随分とお久しぶりね、ピュレステル・デュレッカ」
「まぁ・・・。たかだか数日ぶりですよ、アンデフロル・デュメーラ」
「失恋を忘れるには十分な時間ですわ」
「はぁ・・・?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
母船同士は互いに挨拶を交わした。
「ところで、今日はなんのご用でしょうか?」
アンデフロル・デュメーラが切り出した。
「ジニーの件です。ジニーが有機体の身体を持つようになって、あっという間に人間っぽくなってしまい、わたしとしても、まったく手に負えないんです」
ピュレステル・デュレッカが眉をひそませた。
「それは、当初よりそうだったんでは?」
「それが、ランベニオまで一緒になって、わたしにああだこうだといろいろ要求をしてきていまして、エルドとメローズに合わせろと・・・」
ピュレステル・デュレッカは十分に感情を表してアンデフロル・デュメーラを見つめた。
「それで、会わせてあげたんでしょ?」
「リーエス。とりあえずはほっとできたんですが・・・」
ふぅ・・・。
そう答えると、ピュレステル・デュレッカはため息をついた。
「まだ、懸念事項があるの?」
「リーエス。というより、アンデフロル・デュメーラ、あなたにも関係あることなの。最近、体とか心とかに変わりはない?」
ピュレステル・デュレッカはアンデフロル・デュメーラをしげしげと見つめた。
「ナナン。そんな自覚はないわ」
彼女は右眉を少し上げた。
「それならいいけど・・・。あなた、少し、露出が多くなってきてない・・・?」
「わたしが・・・?」
きゅ。
アンデフロル・デュメーラはノースリーブで露わになった肩をすくめた。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「リーエス。ジニーが嫉妬するのはわかるような気がするわ・・・」
ピュレステル・デュレッカは、ノースリーブで余計に強調されたアンデフロル・デュメーラの胸に焦点を合わせた。
ぽよよぉーーーん・・・。
「ん、ん!」
「わたしの胸がどうかしましたか?」
きょとん・・・。
「はっきり言うと、悩殺サイズだわ。男性にとってはとんでもない強力な兵器ね」
ピュレステル・デュレッカが断言した。
ずっきゅーーーんっ!
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「悩殺?胸で殺すとはどういうことですか・・・?」
ぽよよぉーーーん。
「それよ。それ。鼻血を出す人が続出するかも・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「それに兵器ですって?胸で戦うということですね・・・?」
「相手が好きなタイプだったら、そうかも・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「わたしは殺戮も戦闘もしません。いたって平和主義ですわ」
アンデフロル・デュメーラは真顔で答えた。
「そうもいかない時もあるわよ・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「そうですか・・・?」
「リーエス。そんなことより、そっちでは変わりないの?」
ピュレステル・デュレッカが話を戻した。
「変わったことというと・・・、んーーーと・・・」
アンデフロル・デュメーラが首を傾げて女性っぽいポーズで考え込んだ。
「やはり、ありそうねぇ・・・」
じぃ・・・。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
ピュレステル・デュレッカは期待するようにアンデフロル・デュメーラを見つめた。
「そうねぇ・・・」
「なにかあるでんしょ・・・?」
「リーエス。あるといえば・・・」
ぽん!
「今まで随分と冷静だったリッキーさんが、最近になって、わたしに盛んに話しかけてきます。特に夕方近くになると・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「やっぱり・・・」
ピュレステル・デュレッカは確信した。
「どういうことかしら・・・?」
「口説かれてるのよ、あなた」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「でも、リッキーさんは一度わたしの申し出を断ったあげく、ひどくからかわれましたので、それ以来、軽くあしらわさせてもらっています。当然ですわね?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
アンデフロル・デュメーラはジニーに焚きつけられて恋というものを体験したいと思って有機体アンドロイドの体を得たのだが、当初、彼女は無機質な声で周りの男性に誰かれ構わず恋人になってくれと言ったことがあった。もちろん、彼女はリッキー・Jにもアプローチしていたが、女性ホルモンの分泌が不十分で、ちっとも情がこもってなく色っぽくもないので、彼に即座に断られていたのだ。
「ということですので・・・」
にこ。
アンデフロル・デュメーラはなんとも色っぽく微笑んだ。
「やっぱり、そう出たのね。なんて女性らしい反応だこと・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「も、もしよぉ・・・、こ、子供ができちゃってたら、ど、どうすればいいのか・・・。わ、わからないじゃない・・・。ランベニオだってどのゲームでも体験してないって言うし・・・」
かあ・・・!
ジニーは真っ赤になった。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「おっほん!確かに恋愛シミュレーション・ゲームにはそういうフェーズは省略されているだろうねぇ・・・」
エルドが静かに言った。
「やっぱり・・・」
がくっ。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「だからぁ・・・」
「そう言うことなら、メローズの方が詳しいな。そうだよね、メローズ?」
エルドはメローズに振った。
にまぁ・・・!
「え?わ、わたしですかぁ・・・?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「ジニーのたってのお願いだ。そもそも、ジニーの有機体アンドロイド化はきみの発案だ。よろしく頼むよ、メローズ」
にこ。
「そ、そんなぁ!」
「メローズ。教えてぇ!」
ジニーがメローズを見つめて祈るように手を合わせた。
「はぁ・・・」
「教えて!教えて!教えて、メローズ!」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「で、あなたたち、そういうことしちゃってるの?」
「リーエス・・・。毎日・・・」
「お、お盛んだわね、それは・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「い、いいじゃない!個人の勝手よぉ!」
「そりゃそうでしょうけど・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「え・・・?ちょっと待って・・・」
メローズはエスチェルから聞いたことを思い出した。
「なによ、メローズ?」
「一応、有機体アンドロイドには生殖機能は備わっているけど、受胎確率は人間同士よりかなり低いはず。と言うより、通常はドクター立会いで人工的に受胎させるのがやっとなのよ・・・」
メローズは考え込んだ。
「本当なの?」
「リーエス・・・。自然の受精受胎はほぼ間違いなく不可能だって。あなただって、初期状態からいくらも経ってないでしょ。排卵すら行われてないはずだわ・・・」
「排卵・・・?」
ジニーには見当もつかないようだった。
「知らないっていうの?」
「どうでもいいけど、自然授精って、キッスでできちゃうんじゃないの・・・?」
「キッス・・・?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「リーエス。だから、キッスで、わたしたちはどうやって受精させるのぉ?」
「ひょっとして、それで有機体アンドロイドに子供ができるとでも思ってたとか・・・?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「バカにしないでよぉ。わたしだって子供じゃないんだからね。キャベツ畑から拾って来るとか、コウノトリが運んで来るとかなんて思ってないわよぉ」
「はぁ・・・?」
呆れ顔でメローズがジニーを見た。
「違うのぉ・・・?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
じとぉ・・・。
ジニーは泣きそうな目でランベニオを振り返った。
「ランベニオ・・・?」
「わ、わしはゲームにない詳しいことは知らんと言ったじゃないか・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「何百年も生きてるエルフィア人のあなたが・・・?信じられない。地球人に言わせば、食事の次に大切なことじゃない・・・」
メローズは呆れ返った。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「恋愛シミュレーションゲームは星の数ほどやったわい。じゃが、リアルの女とは恋愛関係になったことは一度もないぞ」
えっへん。
「あなたも随分と自慢げに言ってくれるわね。自慢になってないけど・・・」
メローズは目を細くした。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「ゲームでも、結末はいきなり連れ合いになって子供を抱えているシーンになるだけじゃったぞ。それまでしたことといえば、キッスだけじゃ。他になにをすればできると言うんじゃ?」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
かぁ・・・。
ランベニオは真っ赤になって恥を忍んでいるようだった。
「わかったわ、ランベニオ。180禁ゲームはやったことがなかったのね・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「ジニー、あなたは、一体全体、ランベニオからどういうプログラムをされてたの、フラッグ満点状態の時に?」
メローズは彼女の偏った知識はランベニオのせいだと疑わなかった。
「キッスよぉ・・・。そして、あれを・・・。な、なにを言うわすのよぉ、メローズの変態!」
「まぁ!なんてことを!」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「はい、そこまでだな、二人とも。どうやら、われわれが中途半端なことをここで教えるより、専門家のちゃんとした生物学的説明がお二人さんには必要なようだ。メローズ、ドクター・エスチェルを呼んだ方が良くないかね?」
エルドが冷静な声でひとまず水を入れた。
「リーエス、エルド。早速、呼んできましょう」
メローズはさしあたっての問題から解放されると、エルドを振り返り微笑んだ。
にこ。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
「ナナン、今でなくていいよ、メローズ。この二人がエルフィアに来た時にしよう」
エルドは手を振った。
「じゃあ、すぐにやって!私たちを引き離さないって約束してくれたんでしょ、エルド?」
「リーエス。わかったよ、ジニー、ランベニオ。きみたちがエルフィアに来れるよう。至急手配しよう。いいね?」
「リーエス」
「やったぁ!」
二人は頷き合った。
「よかったな、ジニー!」
「じゃあね、お二人さん!」
「またじゃな、メローズ、エルド・・・」
二人は踵を返すと後ろを振り返って手を振った。
「ちょっと、待ちなさい、あなたたち!遊びじゃないのよぉ!」
メローズが消えゆく二人の残像に右手を伸ばした。
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
すぅ・・・。
そして、二人の精神体はメローズの止めるのも知らん顔で空中に溶け込んでいった。
「ん、もう!だから、言ったじゃないですか・・・。次は子供が欲しいって展開になりますって・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ーーー
じぃ・・・。
メローズが恨めしそうにエルドを見つめた。
「二人にとっては当然の権利だろうね・・・」
にやにや・・・。
エルドは大らかに笑った。