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405 4星

「アンニフィルドです。みなさん、前回から少し時間が空いちゃって申し訳ありません。ほれ、少し前に話したんだけど、覚えてくれてるかなぁ。原稿を書いてた某M社のOSが勝手に10にバージョンアップしてくれちゃって、ハードディスククラッシュで160ページ分が飛んじゃった件。頭にきちゃうわよねぇ。そんでもってさぁ、A社のMacAirに乗り換えちゃったわけなの。慣れるのに時間がかかっちゃった。ごめんね。あ、それから、今回のサブタイトルは、舞台が4つの星に渡ってるからなの。特に意味はないわよぉ」

■4星■




さて、ここは惑星シュリオンのリュディス・アンセリアの自宅だった。


「よく、我が家へお越しいただきました、トルフォさま。狭苦しいところではございますが、できる最大のおもてなしをしますゆえ、何卒おくつろぎいただきますよう、お願い申しあげます」

リュディスの父親がトルフォに頭を下げると、家族一同が一斉にトルフォに会釈した。


「おお、そんなに仰々しくしなくともよい。わたしはそんなに偉くはない」

「ははぁ・・・」

家族全員が再び礼をした。


「まぁ、一応理事をしているから、バカではないと思ってはいるがな」

「ははぁ・・・」


−−− ^_^ わっはっは! −−−


「この度は、娘のリュディスは大変お世話になることになりまして、なんとお礼を申しあげてよいやら・・・」

「よい。よい。当然のことをしたまでだ。リュディスのような素晴らしいお嬢さんは、それなりに扱われねばならないからな。わははは」

トルフォは上機嫌に言った。


「さぁ、リュディス、トルフォ様にお茶をお出しして」

まだリュディスの姉くらいにしか見えない母親が笑顔で彼女に合図した。


「はい。お母さま」

すく。


「リュディス?」

トルフォが背中越しにリュディスを呼んだ。


「もしあればでよいが、この星の普通の食前酒にしてくれないかな?」

にこにこ・・・。


「リーエス。かしこまりました、トルフォ様」

にこ。


ぺこり。

そして、リュディスは応接間から出ていった。


「ああ、そうだ。ご兄弟たちも遠慮はいらんぞ。わたしに構わず、自分たちのすることがあるなら、自室で続けてくれたまえ。わたしは、リュディスとご両親に用があるだけだ」


「ははぁ・・・」

トルフォに暗に出て行け言われて、リュディスの兄弟たちも応接間から出ていった。


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「さて、お父上、今日わたしがこちらに足を運んだのは、夕食をいただくためではない」

「ははぁ・・・

「もちろん、化粧室を借りるためでもない」


−−− ^_^ わっはっは! −−−


きり・・・。

兄弟たちが出ていくと、トルフォは一転して真顔になった。


「はい。娘のことですね・・・。存じ上げております」

父親は答えた。


「うむ。正式にリュディスをわたしの臨時秘書として、しばらくの間旅を共にしてもらうことになった。そのための挨拶だ。さしあたって、支度とかいろいろ大変だろうから、ご両親への挨拶がてら、わたしも説明をせねばと思い参った次第だ」

トルフォは今日の訪問の主旨を伝えた。


「はい。ありがとうございます。わざわざ遠路はるばる起こしになられて感謝のしようもありません」

「またまた、大げさな。よせと言っておるに・・・」

トイルフォは軽く右手を横に振った。


「ははぁ・・・」

「まずは支度金だ。モルナ、ご両親にお渡しを」

トルフォがモルナに伝えると、両親はモルナに視線を移した。


「リーエス、トルフォ様」


ぱさっ。

ぴぴぴ・・・。

モルナが小型の端末を取り出すと空中スクリーンにシュリオン政府の口座管理システムが映し出された。


「さぁ、お父上、エルフィアから振込みされた支度金のご確認を」

トルフォは父親にその確認を促した。


「あ、はい。それでは・・・」


ぴ、ぴ、ぴ、ぴ・・・。

父親は操作を始めた。


ぴぴぴ・・・。

ぴぴぴ・・・。

ぱっ。


「おお・・・!」

「まぁ・・・!」

それを見た父親と母親は感嘆の声を上げ目を点にした。


「こ、これは・・・」

それは父親の年収の10倍はあろうかという金額だった。


「これなら、大抵のものも揃えることができよう」


「め、滅相もない!」

「あ、ありがとうございます!」

二人はトルフォにひれ伏さんばかりに礼を言った。


「これ、顔を上げてくれんか、お父上、お母上。あはは」

トルフォはその結果に満足げに笑った。


「それと、わたしの秘書として随行してもらう間は、約束の秘書報酬の10倍出す」

それは支度金と合わせると、父親の年収の20倍に及んだ。


「トルフォ様、なんとお礼を申しあげれば・・・」

そこに食前酒を持ってきたリュディスが入ってきた。


「トルフォ様、食前酒をお持ちしました」

「うむ。リュディス、きみもこっちに座りたまえ」


ぽんぽん。

トルフォはソファを軽く叩きリュディスを自分の右側に座らせた。


「はい・・・」


「これ、リュディス、しっかりお勤めを果たすんだよ」

「はい。お父様・・・」


「いや、とにかく良かったなぁ・・・」

「はい。そう思います」

父親と母親は微笑み会った。




そして、ここは再びケーム。上空32000キロに待機中のエルフィアの超大型宇宙母船、ピュレステル・デュレッカの一室だった。


「ねぇ、ランベニオ、あなたの言うことが本当なら、あなたがイラージュに転送されなかったら、ブレストは気づいてしまうんじゃないの?」

ジニーは心配そうにランベニオを見つめた。


「そうじゃな。わしが降りたことはヤツに一言も告げてはおらんからのう・・・」

ランベニオはぽつりと言った。


「それに、回避されたとはいえ、あなたのしたことで、再びユティスが拉致されてしまう事態を招いたことになって、あなたは何らかの責任を取らされるんじゃないの?」


「無論じゃ。わしはそれから逃れることはできんし、逃れようとも思うておらん。エルフィアには今日自首するつもりじゃ」

ランベニオはジニーにきっぱりと答えた。


「そう・・・」

ジニーは特に表情を変えなかった。


「わしの処分については、委員会の最高理事エルドから追って知らせが来るじゃろう」

「それって、わたしと離れ離れになるってことよね?」

ジニーは少し心配そうにランベニオを見つめた。


「たぶんな・・・。ケームのようなカテゴリー3の平和な世界ではのうて、カテゴリー1やカテゴリー2の情緒不安定な世界に送られるかもしれん」

「どのくらい?」


「わからん。数年は確実じゃろうが、一生かもしれん。すべては委員会次第じゃな・・・」

ランベニオは覚悟を決めているようだった。


「もし、そうなったら、わたしも行く」

ジニーは確かに腹を決めていた。


「おまいさんには罪はない。わしが責任を取るだけじゃ」


「嫌。わたしも行く・・・」

「・・・」


「一緒に行くわ。絶対に・・・」

ジニーはじっとランベニオを見つめた。


「そう言うと思とったわい。じゃが、おまいさんからその言葉を聞いて・・・」

「なに?」


「不思議なことにホッともしておる。ふっふ・・・。一応、言うてみただけじゃ」

「・・・」

ジニーは一瞬黙った後、ゆっくりと考えを巡らしてから話を再開した。


「どんなことになっても、わたしもあなたに同行するわ」

にこ。

ジニーは健気に微笑んだ。


「さて、こいつが問題じゃ。トルフォのヤツへはどう知らせるかのう・・・。いつまで待ったところで、ユティスがヤツの目の前に現れることはないわけじゃから、ちと、可哀想になってきたわい・・・」


「ランベニオ、あなた、とっても正直者だわ」

二人とも、そのトルフォがユティスと瓜二つの美女リュディスにお熱になっていることなど、つゆ知らずだった。




「それでは大統領閣下、国務長官をお預かりいたします」

ブレストは大統領に一礼をした。


「うむ。みんな頼んだぞ」

大統領は大きく頷いた。


「イエッサー!」

「イエッサー」


「うむ」

さっ。


国務長官、SSジョーンズ、ジャーナリスト兼カメラマンのファン、そして、ブレストは大統領に敬礼すると、ジュノンと一緒にイラージュの宇宙船の真下に進んで言った。


「さぁ、いよいよです。合衆国、いや、地球代表団の面々がイラージュの宇宙船に乗り込んでいきます」

テレビ中継はその様子を合衆国のみならず全世界に向けて生で伝えた。


そこで、イラージュ訪問一行は大統領に向き直ると軍の吹奏楽隊が合衆国国歌を演奏し始めた。

ぱぱぱーーーぱあーーー。


一行は敬礼し、大統領他も全員が敬礼でそれに返した。


さぁーーー。

すぐに宇宙船の下部より先ほどの光が地上に届き、国務長官たちを柔らかく包み込んでいった。


「宇宙船から搭乗者たちを白い光が包み込みました。いよいよです。いよいよ、地球人類が太陽系以外の世界に飛び立っていきます!」

ニュースキャスターたちは興奮していて大声を上げた。


「みなさん、代表団の訪問先、イラージュは太陽系と同じ天の川銀河にありますが、遥か遠く24000光年も先にあります。代表団を乗せこの距離を一瞬で移動します。なんとあれば、代表団の日程は2泊3日であるからです。光の速度で24000年もかかる距離を、往復で2泊3日なのです。その科学力は驚くべきものというほか言葉がありません」


ぱぁ・・・。

光がさらに強くなり一行を包んだかと思うと、次の瞬間に、全員が消えていた。


「あ、今、代表団がイラージュ船に乗船しました。あっというまです。地上には、もう、誰の姿も認めることができません」

レポーターの興奮した声が電波に乗っていった。




「大統領、まったくもって、やってくれるわい・・・」

日本の首相官邸では藤岡首相が内閣特別顧問の大田原太郎とその様子を生のテレビ中継で見守っていた。


「まぁ、太陽系外への公式使節団と言えんこともありませんが、この場合、エルフィアへの説明はどうするんでしょうなぁ・・・?」

藤岡はテレビから一瞬視線を外すと、考えあぐねて大田原を振り返った。


「心配はいらんでしょう。大統領本人が出向いたわけではありますまい。よしんば、これが大統領自身であったとしても、ご近所同士、付き合いの挨拶程度にしか思ってはおらんのではと・・・」

大田原はあっさりと言った。


「しかし、エルフィアとも友好条約を交わし・・・、いや、文書は交わしておりませんでしたな」

藤岡はユティスたちと横畑基地で非公式に合衆国大統領、EU大統領と一緒に会談に臨んだ時のことを思い出した。


「ええ。エルフィアは、このわたしのセレアムが地球への文明支援することも、認めています。地球人の文明推進という方向性が同じなら、干渉するようなことはしてこないでしょう」


「しかし、その代表たるブレストはエルフィアに離反したんですぞ」

「彼自身はそうとしても、イラージュ人がそうだということにはならないでしょう」


「本当にそうとはわかっとらんでしょうが?」

藤岡は疑わしげに言った。


「無論、そういうことは大いにありうることです。しかし、ここに大宇宙のカテゴリー3文明世界の不文律というべきものに照らし合わせてみましょう。そうすれば、エルフィアの出方も理解ができるというものです」

「それはなんですかな?」


「この大宇宙では、独りよがり的な文明世界は、自身で変わらない限り、カテゴリー2の壁を乗り越えることはできないということです」

大田原はしんみりと言った。


「それは・・・?」


「カテゴリー3に進む前に自ずから衰退してゆくということです。カテゴリー2に入りたては、核エネルギーや量子エネルギーを完全に制御できていないので、非常に危険です。その世界の指導者たちが一つでも過ちを犯せば、惑星規模の大惨事を引き起こします。その影響は遥か遠くの宇宙にまで及びますが、地球人の予想を超えることは間違いないですな」

大田原は淡々と言った。


「影響はどのくらいまで・・・?」

藤岡は心配そうに大田原の顔色を伺った。


「その恒星系はもちろん、もし、量子レベルの爆発で惑星が消滅し、ミニ超新星と言うべきガンマ線ビームが極めて強い指向性をもって放たれでもしたら、数十光年先まで確実に影響を受けます」


「う・・・」

藤岡は声を失った。


「セレアムは経験したことはありませんが、エルフィアはおありのようです。ユティスも地球へ派遣される前に苦い経験をしていますからね」


「・・・」

藤岡は大田原の言葉を噛み締めた。


「それが、どんなに科学が発達しようと、精神の進化が行われずにカテゴリー2文明を歩んでいった世界の結末です」

「盛者必衰のことわり、と言う訳で?」


「左様。カテゴリー2までの世界には極めてよく適合する言葉ですな。精神が未熟なまま、テクノロジーが進み、他世界にも余りにもに影響が甚大であるならば、エルフィアに限らず、先進文明世界による時空封鎖は避けられんでしょう」


「つまり、イラージュはそのいずれでもない。そういうことですかな?」

「ええ。今のところはそう見えます」

大田原はテレビに映し出されたイラージュの宇宙船を見つめたままぽつりと言った。


「だが、当のブレストを除き、エルフィアがイラージュを知ったのは、言わばつい昨日のこと。そんな判断を下せる時間もはかったはず。違いますかな?」

「藤岡さんの仰せの通りです。エルフィアは監視を怠ってはおりますまい」


「その上での判断と言うことで?」

「ええ。いずれわかることでしょうが・・・」




「おい、アンニフィルド、いい加減に機嫌を直せよぉ・・・」

ぷりぷり・・・!

アンニフィルドは俊輔の前を足早に歩いて林の出口に急いだ。


「待てったら!」

「嫌よ。虫にまで馬鹿にされて黙ってられますか!」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


ずんずん・・・。

アンニフィルドはユティスたちが生物撮影を続けている場所に向かって林の中を急いだ。


「おいおい、そんなに急いで足元も確かめずに。気をつけろよ。茂みから狼が出て来んとも限らんぞ」

「だから、狼から一生懸命逃げてるんじゃない!」

ぷん!


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「ちっ。今度は狼呼ばわりかよぉ。さっきはあんなに積極的だったのに・・・」

「あなたは努めて消極的だったわ!」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「だから、謝ってるじゃないか!」

「うるさいわねぇ。そのどら声で謝ってるつもり?惑星中の生き物が震えあがってるわ」

今や、形勢は完全に逆転していた。


「アンニフィルド!」

「・・・」


ずんずん・・・。

アンニフィルドはその長い足を止めなかった。


「こら、待てったら!」


どかどか!

俊介はアンニフィルドに追いつこうとして小走りになった。


「きゃ!」


ぴたり!

アンニフィルドが急に立ち止まって俊介を振り向いた。


「うわぉ!」


どっかぁーーーん!

どた!


「くっそう!」


くるり!

どさっ!


俊介はアンニフィルドに思いっきり衝突したが、彼女が地面に叩きつけられないように抱きかかえるようにして反転し、草むらに背中から倒れこんでいった。


「ぐぇ・・・!」

俊介はアンニフィルドの重みで一瞬息ができなくなった。


「なにするのよぉ、バカ!」

かろうじて顔の衝突を交わしたアンニフィルドが俊介の腕を解き、地面に両手をついて自分の上半身を支えると、たちまち沸騰した。


「んなこと言ったって、おまえが急に立ち止まるからだぜ!」

俊介は不平を彼女にぶつけた。


「立ち止まらなきゃ、この星の虫を踏み潰すところだったわ!」

「虫ぃ?」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「リーエス。虫よ!気づかなかったら仕方がないのかもしれないけど、わたしは気づいたの。小さいからと言ってもここの住人。一つの命よ。よそ者が勝手に踏み潰すわけにはいかないわ!」


「へっ、そうかい。オレはとっくに口の中で潰したぜ、苦虫を・・・」

俊介はアンニフィルドに嫌味を言った。


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「えええ!食べちゃったの、ここの虫を・・・?」

「はい?」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


ところが、俊介の皮肉はアンニフィルドには全然通じなかった。


「なんでそうなる?」

「だって、苦かったって言ったじゃない?」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「あのなぁ・・・、そいつは比喩だよ。比喩。ちっとは日本語表現覚えろよぅ・・・」

「じゃ、食べたんじゃないのね、ここの虫?」

アンニフィルドはほっとしたように言った。


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「冗談じゃない!当ったり前だ。そんなわけもわからない毒虫食べるわけがない!」

「そう。それならいいけど・・・。別に毒虫かどうかはわからないじゃない?」


「なんだよぉ?ああ言えばこう言って。知るか!」

俊介は気分を害して叫んだ。


「もし、食べてたのなら、絶対、キッスしてあげないんだからね!」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


きっ!

アンニフィルドもやり返した。


ひゅぅーーーん・・・。

その時かすかに風切り音がした。


「なに・・・?」

アンニフィルドは後ろを振り返ると、鷹のような小型の猛禽類の一種が彼女をかすめるようにして、飛び去っていった。


「きゃあ!」


すくっ!

思わずアンニフィルドが身を屈めると、そこには俊介の顔があった。


ちゅ!


「・・・」

「・・・」


二人ともすべてを愛でる善なるものからの思わぬキッスのプレゼントにびっくりし、そのまま凍りついたように動きを止めた。


ぎゅ・・・。

再び俊介の力強い腕がゆっくりとアンニフィルドの背中に回った。


ぱち・・・。

すぐにアンニフィルドはそれに応え、目を閉じて俊介に抱きついた。




軍の吹奏楽隊が再び演奏を始めると、合衆国大統領官邸上空に浮かんでいたイラージュの宇宙船は登場客を収納した後、ゆっくりと上昇していき、およそ30メートルの高さで停止した。


ぴかぁーーーっ。

ぴかーぴかー・・・。


そして、黄色がかった白い光を船体全体から放つと、大統領に別れを告げるようにゆっくりと点滅し始めた。


「あーーー!船が白い光を点滅させ、イラージュの宇宙船が国務長官一行を乗せて24000光年先の本星を目指して旅立とうとしています!大統領が宇宙船に向かって手を振っています!」

それを見て、地上の人間が一斉に宇宙船に向かって手を振った。


ぴかぴかぴか・・・。

点滅は徐々に早くなっていき再び上昇を始めた。


「点滅が早くなり、ゆっくりと宇宙船が昇っていきます。あーーー、点滅が早くなりました。もうすぐです。もうすぐ、イラージュの宇宙船が地球を飛び立とうとしています。あーーー、来た。

来ました!」


ぴかぁーーー!

宇宙船は最後に一際銀色に明るく輝くと一気に高度を上げていった。


「あーーー!昇っていきます!宇宙船が青空に溶け込むように、一気に昇っていきます!」


ひゅーーーん!

ニュースキャスターが絶叫すると、イラージュの宇宙船は一気に空の中に溶け込んで言った。




「ジョーンズ、ファン、あれが見えて?」

床下はガラス張りではなかったが、立体映像が映し出され、まるで眼下には何も遮るものが内容な感じだった。


「イエス、マム」

「イエス、マム」


地球人代表としてイラージュに行くことになった、SSのジョーンズと報道レポーター兼カメラ担当のファンは、国務長官の指す方に目をやった。


「大統領ですね?」

「イエス、大統領よ」


向こうからは船体しか見えないはずだったが、彼らを見ているように、大統領ははっきりとこちらを見つめて手を振っていた。


「こちらも手を振りましょう」

「イエス、マム」

国務長官が言う前に、ジョーンズは大統領に敬礼をしていて、しばらく後に手を振った。


ぱしゃぱしゃ!

急遽、ジャーナリストから報道官に抜擢されたファンはビデオ撮影を続けながら、カメラのシャッターを切った。


「さぁ、しばし地球にお別れです」

三人の後ろで、イラージュ人のジュノンが微笑みながら言った。


きゅぃーーーん!

突如、地上がSF映画で見るように小さくなると、青い地球が少々赤みがかって目の前にだんだんと小さくなっていった。


「まるで地球が燃えてるよう・・・」

エリザベスが呟いた。


「ええ。本船は現在光速の30パーセントで地球から遠ざかっています。本船の後方に見えるものは相対的に赤色方向へと偏移しますので、見かけ上は赤みがかって、そう見えるのです」

ジュノンが答えた。


「だが、そんなに加速していても、少しもGを感じないぞ・・・」

訝しげにジョーンズがジュノンを見つめた。


「それは本船が地球と同じ通常時空にないからです」

「通常時空にないだと?」

ジョーンズはさらに質問を投げつけた。


「はい。もし、通常時空でこのような加速ができるとしてですが、それを行なった場合、とても人間は生存できません。一気に何千Gと言う加速度に生身の体が持つはずはありませんし、船体自体ですらそうです」


「ぺしゃんこ、と言うわけね・・・?」

エリザベスがきいた。


「はい。簡単に言うなれば、本船は進行方向の通常時空に穴を開け続け、通常時空を進行方向の後方に追いやっている・・・。とでもいいましょうか。実際に通常時空では移動したことになりますが、宇宙船自体は通常時空にいるわけではなく、中にいる人間にとっては動いてないのと同じことなのです」


「通常時空とか、穴とか、よくわからんが、それで加速度を感じないんだな?」

「はい」


「素晴らしいですわね、お国の技術は!」

「どうもお褒めに預かり光栄にございます、マム」

ジュノンはにっこり微笑むと、エリザベスに軽く会釈した。


「この亜光速で太陽系周辺域のカイパーベルトまで行きます。そこから、イラージュまで一気に宇宙船ごと転送をかけます」

にこ。

ジュノンがジョーンズに微笑んだ。


「オレには・・・、さっぱり、わからんな」

ジョーンズが首を振った。


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「理解できなくてもけっこうですよ。最初はそんなものですから」

にこ。

ジュノンは優しく微笑んだ。




「きゃあ!ひ、ひ、一つになったわぁ!」

宇宙船の中で社員たちの位置監視を続けていたミリエルの悲鳴が、中央監視室に鳴り響いた。


「今度はなんだね、ミリエル?騒々しい・・・」

船長はもうさっきのお灸の効果が消えたのかと呆れた。


「あれは俊介の班よぉ!二人だけ離れていったと思ったら、今度は一つになったわ!」

ミリエル俊介の班の監視だけは隙なく続けていた。


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「まさか。猛獣の類は半径1キロ以内にはいないはずだぞ。一人が捕食者に飲み込まれたとでもいうのかい?」

「残念だわ。あの女だったら、大声出さないわよぉ!」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「ぶっ!なんてこと言うんだ、ミリエル!」

「一つになったのよぉ!二人が一人になったってことは、二人が重なり合ったってことに決まってるじゃない!」

ミリエルは血相を変えた。


「躓きでもしたんじゃないのかね?」

「ええ、そういうことだわ。俊介の上にアンニフィルドが躓いて覆いかぶさったのよぉ!わざと!」

若いとは言え、ミリエルも女性。さすがに女性の勘は鋭かった。


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「じゃあ、俊介は地上激突を免れて無事なんじゃないのか?」

「いいえ!アンニフィルドが上に覆い被さったんだわ。無事のわけないじゃない!」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「どういうことだ?俊介は一人前の男性だぞ。女性一人覆いかぶされたくらいで参ってしまうとは思えんが・・・?」

船長は怪訝そうに言った。


「女性だからじゃない。あーーー!今この瞬間にも、こんなことや、あんなことやして、アンニフィルドが俊介を餌食にしてるんだわ!」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「きぃーーー!」

がさがさぁーーー!

ミリエルは自分の髪を掻きむしった。


「おまえが彼女の立場だったらという想定で、考えちゃいかんぞぉ、ミリエル・・・?」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「船長、どういう意味よぉ?」

ばん!


「叩くんじゃない。計器が壊れるじゃないか、ミリエル・・・」

(優しく扱えと要求する割には、乱暴なんだから。昔のエメリアそっくりだ・・・)


「なんかおっしゃいましたか、船長?」

「いや。なにも口にしてはおらんよ」

ーーー ^_^ わっはっは! ーーー




「遅いですわねぇ、常務さんたち・・・」

ユティスは心配そうに俊介とアンニフィルドが消えていった林の方を見つめた。


「リーエス」

和人もユティスに続いた。


「そりゃあ、特別に重要な問題を話し合いに行ったんだから、すぐには帰ってこないわよ」

クリステアが両手を広げた。


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「それにしても、ユティスは短時間なのにキレイなお花をたくさん撮ったわね」

にっこり。

クリステアが微笑んだ。


「リーエス。ここはとってもステキなお花でいっぱいですもの」

にこ。

ユティスも微笑んだ。


「どれどれ、見せてよぉ」

和人がユティスのスマホを覗き込んだ。


「本当だ。とってもキレイだね」

フォトアルバムに並んだ草花は実際は小さかったが、ユティスが接写したのでスマホ画面いっぱいに写っていた。


「こんなに咲いていたんだね」

和人はあらためて周りを見渡した。


「リーエス。お花は惑星の歴史でいうと、とっても新参者なんですよ。和人さん、ご存じでしたか?」

にこ。

ユティスは花の写真を見せると和人に微笑んだ。


「そうなんだ?」

「リーエス」


「人間とどっちが古参者なんだい?」

「うふふ。人類と比べたら、もちろんお花ですけど、動物が海から陸に上がってくる時期と符合しているんですよ」


「どういう意味だい?」

「つまり、動物、と言ったって虫だけど、それらが植物にとって生殖範囲を広げてくれる存在だってことよ」

クリステアが回答した。


「そっかぁ。受粉を助けてくれる媒介者が現れてないうちは、せっかく花を咲かせても文字通り風まかせだってことだね?」


「リーエス。虫が現れて確実に他の花同士で受粉できる環境が整ってこそ、お花を咲かせる意味があるわけですわ。お花が蜜を持つのも虫を呼び寄せる手段ですのよ」


「なるほどね・・・」

和人が頷いた。


「それに果実をつけることもね。実の中の種を動物が移動することで生存範囲を広げるのよ。これをどう言うか、知ってる、和人?」

クリステアがにやりとした。


「えっ?どう言うって、花に蜜に果実だろ?種子植物の・・・、えーと・・・」

(高校の生物の時間に習ったはずだよなぁ・・・)


「ふふふ・・・」

ユティスが可笑しそうに右手で口元を覆うと和人から視線を外した。


「な、なんなんだよう・・・?」

「それはね、有性生殖っていうのよ」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


クリステアが意味ありげにゆっくりと言った。


「わたくしたち人間と同じですわ」

ユティスがにっこりと微笑んだ。


「有性生殖って、こ、こっちを意味ありげに見て笑わないでよぉ・・・」

和人が二人を見て情けなさそうに言った。


「ふぅーーーん。何を期待しているのかな、雄しべちゃん?」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー




地球の32000キロ上空では、エルフィアの母船アンデフロル・デュメーラの中央制御室で、二人のドクターのエルフィア帰還が行われようとしていた。


「いよいよだな、ドクター」

フェリシアスはエスチェルとトレムディンを交互に見つめた。


「ユティスたちに挨拶できないのが残念だわ」

「わたしはカレンに会えないのが非常に心残りです」

トレムディンは溜息をついた。


「なぁに、すぐに会える。ユティスたちは君たちの帰還の明後日の予定だ」

フェリシアスが保証した。


「リーエス。すぐに会えますわ」

にこ。

妙に女性口調になってきたアンデフロル・デュメーラが微笑んだ。


「・・・」

「どうしましたの?」


「変わったな、きみも・・・」

フェリシアスがしげしげとアンデフロル・デュメーラを見つめたので、彼女は目を伏せた。


「そ、そうでしょうか・・・?」

「そうできゃ、困るんだけど」

エスチェルがその脇から口を挟んだ。


「うん?さては、ドクター、きみの仕業かね?」

フェリシアスがエスチェルを見た。


「違うわよ。そろそろ、体内女性ホルモンが頭脳に影響を始めてもおかしくない時間だから・・・」

エスチェルは時計を見た。


「まさか、おかしな薬を投与したわけではないだろうね?」

「してませんよ。これは女性有機体アンドロイドとして、彼女が正常に機能していることの証明だわ」


「なるほど・・・。今頃はジニーも・・・」

「彼女は別格。なにしろ、ランベニオが最初から女の子として磨きに磨いてたんだから」


「心の問題というわけか・・・」

フェリシアスが眉を上げた。


「ところで、わたしが申請していたカレンのエルフィアへの招待許可は、どうなっているんです?

「あ、ごめん。言ってなかったっけ」

エスチェルはトレムディンに申し訳なさそうに言った。


「下りなかったんですか?」

トレムディンも不安そうに確認した。


「ナナン。それがね、和人は地球の予備調査の正規コンタクティーとして証言に立ってもらうことになってるけど、カレンの場合はそうはいかないのよ」

「つまり、カテゴリー2の世界からは必要最小限の人間しかエルフィアには呼べないと?」


「エルドが最大限努力してるんだけど、理事たちの中には梃子でも動かないのがいてさぁ」

「で、許可は出ないと?」

トレムディンは表情を変えなかった。


「ナナン。それはないわ。ユティスたちの地球再派遣時にはカレンも返さないとなると、正直微妙なところね」

「エルドが言ったんですか?」


「直接はメローズだけど、まぁ、そういうことね」

「そうですか。あまり期待しないで待ってます」

やっぱりかという顔でトレムディンは頷いた。


「お気の毒ね・・・」

「はい。お二人とも、ご準備はよろしいですか?」

アンデフロル・デュメーラが二人の会話が途切れたのを見て、すかさず最終確認をとった。


「リーエス」

「わたしもだ」


「では、お二方、転送チャンバーの中にお入りください」

そして、アンデフロル・デュメーラの案内で、二人のドクターは超銀河間転送室のチャンバーの中へと穂を進めた。


「転送開始秒読みに入ります」

アンデフロル・デュメーラの柔らかな声が中央制御室に響いた。


「いよいよですね・・・」

フェリシアスの隣には、シェルダブロウが窓越しに転送チャンバーの二人を見つめていた。


「きみのエルフィア転送はもう少し待ってもらおう」

「リーエス」


「転送10秒前。9、8・・・、3、2、1。転送」


ぱぁーーー。

転送チャンバー内に白い光が充満し、二人の姿がそれに溶け込むように薄くなり始めたかと思うと、次の瞬間、あっという間に光が引き、二人の姿はもはやそこにはなかった。


「転送終了しました」

アンデフロル・デュメーラがフェリシアスに告げた。


「次はきみだ、シェルダブロウ」

「リーエス」


「ドクターたちはバイオセンターの転送室だが、きみは委員会の転送室に行くことになる」

「リーエス。承知しています」


「今後のことはエルドがバックアップするだろうが、罪は償わねばならない」

フェリシアスはじっとシェルダブロウを見つめた。


「リーエス」

こっくり・・・。

シェルダブロウは彼の眼差しを受け神妙に頷いた。




「セレアムさんから提供いただいた、システムのフェーズ2のモックアップはどんな感じかな?」


地球の日本、金座のグローバルブランド、シャデル日本のシステム室では、支配人の黒磯がシステム担当マネージャーとPCのモニターを見つめていた。


「一言で言うと非常に視覚的ですね。わたし個人としてはよくできていると思います」

システム担当マネージャーは笑顔で支配人に答えた。


「国分寺さんたちは3日間の社員全員研修だから、その間にわれわれで評価を出さないといけないね」

「そうですね。でも、今でもOKを出してもいいかと思いますけど?」


「ほほう。どれどれ・・・」

黒磯はモニター画面を覗き込んだ。


「これが、お客様自身がドレスを着たところです」

「こ、これは・・・」

モックアップのモデルはクリステアだった。


「モックアップですから静止画ですが、実際にはぐるぐる視点を変えられるんです」

「そういう説明を受けたね」

黒磯は頷いた。


「水平には左右後前360度に、垂直には腰少し下からの高さから真上まで、そこから視点を置いて見れるんですよ。ほら、支配人、こんな風にです」


ぱっ。ぱっ。

モックアップには目線、腰の位置、斜めの位置、後ろ等、数種類の静止画を用いていた。


「ふふふ。支配人ご存知でしたか?」

システム担当マネージャーが悪戯っぽい笑いを浮かべた。


「なんのことですか?」

「国分寺さんがドレスアップページの3Dエンジンを試そうとして、あらゆる角度からの俯瞰が正常にできるかどうかのテストしてたらしんですが、その時俯瞰視点を思いっきり下げちゃったんですって・・・。もちろん偶然で意図したわけじゃないんですけど・・・」


「それで?」

「モデルさんて、ドレスを着る時は体の線を乱さないように、ドレスの下にはTバックとかだいたい何もつけないですよね?」

にやっ・・・。


「えええ!ひょっとして・・・?」

どっきん!


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「その、もしかしてなんです。一応、ご本人自身じゃなくてそのデータから合成した画像なんですけど、スカートの中がすっかり見えちゃったんで、視点設定の最低位置を慌てて設定したんですよぉ」

「そ、そんなところまで合成可能なんですねぇ・・・」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「はい、可能です。セレアムさん限定プライベートショーの時の数値データがありますから・・・。プログラムのバグじゃないんですけど、運用設計バグですって」


「それは直していただかないといけませんねぇ・・・」

(ちょっとくらい試したかったかも・・・)


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー

「ですよねぇ。本番でそんなことになったら、訴えられちゃいますから」

「その通りです」


「そして、国分寺さんに見られた、その可哀想なモデルさんが・・・。えへ」


「だ、だれだったのかな・・・?」

どきん・・・!


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「知りたいですか?」

にやにや・・・。


「そ、そう・・・。い、いや、けっこう。言わなくてけっこうです!」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「真紀社長さんです!」

「ええええ!!!!」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


「ウソでーす!」

「お、脅かさないでください・・・」




「シェルダブロウの受け入れ時間だ」

エルフィアでは文明促進推進支援委員会の転送ルームは関係者が集まっていた。


「転送受け入れ開始」


ぱぁーーー。

オペレーターの声と同時に、転送チャンバー内に白い光が充満し始めた。


「来るぞ・・・」

チャンバー内に現れた微かな人影があっという間に完全な形になり、同時に白い光は消えていった。「転送完了。正常に終了しました」


しゅぅ・・・。

みんなが見守る中、チャンバーのドアが開き、中の人物はゆっくりと歩いて外に出てきた。


「元SS・シェルダブロウ、只今、帰還しました」

「まだ、判決前だ。きみが元と名乗るのはまだ早い」

そこには最高理事エルドの姿があった。


「エルド・・・」

シェルダブロウはエルドをじっと見つめた。


「とりあえず、きみにはアンデフロル・デュメーラにいてもらったように個室に居住してもらう」

「リーエス」


「裁判に際しては、きみの協力のことを最大限考慮するよう、わたしから働きかけよう。引き続きブレストの情報を確認協力をよろしく頼む」


「リーエス。最高理事のご意志に添えるよう協力申しあげます」

シェルダブロウは丁寧に礼をした。


「うむ。それで、先に収容した彼女たちと会ってみるかね?」

「ファナメルとゾーレですか?」


「リーエス。既に、彼女たちの裁判は始まろうとしている。なんとも言えんが、判決はきみより厳しくなりそうだ」

「そうですか。案内してもらえますか?」


「リーエス。来たまえ。ラフトを用意してある」

二人はエルドの秘書のメローズとともにラフトに乗り込んだ。ラフトとはエアカーのようなもので地上数十センチに浮いたまま人を乗せるものだ。


「アルダリーム(ありがとう)、エルド」


エルフィア人は惑星周回軌道上の母船の支援によって惑星内のどこにでも瞬間移動ができるが、じっくり景色を楽しんだり、他の世界から久しぶりに戻ったりした時には、ことの外、ゆっくりと歩いたり、こうしてラフトを使ったりする。恋人たちにおいては、なにをや言わんではある。


しゅうーーーん・・・。

しばらく久しぶりの風景の中を、シェルダブロウはエルドとメローズと一緒にラフトに乗って湖のほとりをゆっくりと進んでいった。


「地球の後エルフィアに戻ると、なんか閑散としていますね・・・」

シェルダブロウは、つい先日まで人や車でごった返した地球の摩天楼の森を見てきたので、見慣れたはずのエルフィアの風景が妙に殺風景に映った。


「地球の方がいいかね?」

にやり。

エルドはシェルダブロウを見て笑った。


「ナナン。ただ、エルフィアはとても静かだとあらためて思っただけです」

「静けさはカテゴリー3以上の世界では当たり前のことだが、カテゴリー2の世界においては、一部の富裕階級の特権だぞ」


「そうかもしれませんね」

シェルダブロウはエルドの言葉を噛み締めた。


「そろそろですわ」

メローズが言った。


「うむ。シェルダブロウ、彼女たちは面会室にいる。わたしも一緒に行こう」

「エルドもですか・・・?」


「きみ一人だと、彼女たちも信用せんかもしれんからね・・・」

エルドは意味ありげに言うと、メローズがラフトを減速させた。


ぴっ。

ラフトを止めると三人は低い潅木に囲まれた敷地に入っていった。


「随分と違いますねぇ・・・」

シェルダブロウは辺りをしげしげと眺めながらしんみりと言った。


「どこがかね?」

エルドは大体の予想がついていた。


「容疑者を収容するというのに高い壁がどこにもありません。ただ、低い垣根のような潅木があるだけ。地球なら、さぁ、逃げてくれ、と言わんばかりです」


ーーー ^_^ わっはっは! ーーー


シェルダブロウは大真面目で言った。


「あっはっは!逃げる必要もないし、そんな気もない人間をわざわざ高い塀で囲む必要はないよ。もともと、ここは犯罪人が極めて少ないしね」

エルドは笑いながら答えた。


「実際、彼女たちは大人しいもんだ。もっとも、首尾よく逃げたところで、ここに入った人間は固有精神波をモニタされてるから、エルフィアのどこにいようが居場所は即特定される」


「そういうことでしたね・・・」

シェルダブロウは自分がこれから入ることになるかもしれない施設について、自分の目で詳細を確認しているようだった。


「ここの一定エリアでは、裁判による判決が確定するまで誰でもかなり自由に生活できるしね」「さぁ、建屋の中に入ろう」

エルドはファナメルたちの部屋があるという建屋に入っていき、メローズとシェルダブロウが続いた。

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