402 母鳥
「アンニフィルドより新年のご挨拶です。明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い申しあげます。昨年末、ナナン、昨晩のドンちゃん騒ぎでとんでもない失態をやらかしちゃったわ。あは。ミリエルも女として一歩も譲ろうとしないんだから、あのネンネも見上げたもんだわね。しかし、俊介ったら、ホント、煮え切らないのよねぇ・・・。パリの一夜じゃすっごくカッコよかったのにぃ・・・。今年は絶対に恋人宣言する・・・。ナナン。恋人宣言させてやるのよぉ!」
■母鳥■
しゅわん・・・。
トルフォとリュディスが宇宙船に戻ってきたので、タリアとガーグはそっと様子を窺った。
「トルフォのヤツ、リュディスとなんかあったのか?」
「なんかどころじゃないわ・・・」
能天気なトルフォの笑顔とは逆に、リュディスの困った顔にタリアは悪い予感がした。
「うん?どういうことだ?」
「トルフォがエルドの末娘にご執心だってのは知ってるでしょ?」
タリアはことの成り行きをガーグに説明せねばならなかった。
「ああ。それとこれは・・・」
「だからよ。臨時秘書のリュディスを正式に専属の正秘書にしったていうの。それを、人事部長のモルナに申し入れたのよ」
「冗談だろう?あいつが申し入れ?一方的な強制通知だろうが」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。本当はそうでしょうね。リュディスにとっては、有無を言わずに、これからの旅路の同行を余儀なくされたわけよ」
タリアは面白くなさそうに言った。
「そりゃあ、つまり・・・、所謂、お持ち帰りってことだな?」
「言い方が下品だわよ、ガーグ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はっは。それが気に食わなければ、旅の道中、男女の道連れだ」
「そっちも大して変わんないわねぇ・・・。男女を強調しないでくれる?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「で、それがどうしたって?」
ガーグは先を聞きたいとばかりにタリアに目配せした。
「リュディスはユティスと、髪と目の色以外、そっくり瓜二つってことよ。わたしが見ても、ユティスの双子の姉妹って感じね」
「エルドもやるなぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どういう意味よ?」
きっ!
--- ^_^ わっはっは! ---
「なぁに、突けば埃が出てきたりしてな・・・」
にたり。
ガーグは可笑しそうに言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「バカ。あなたじゃないのよ。ふざけるのも大概になさい。第一、ユティスは母親似なの。性格だってそっくりなんだから」
「ほう。そいつはけっこう・・・。なるほど、そういうことか・・・」
ガグーは一人頷いた。
「なにが、そういうことかよぉ?」
まだ腹を立てているタリアはガーグを睨んだ。
「つまりだな、トルフォはユティスを真に欲しがってるヤツにころりと騙されたってわけだ・・・。シュリオンでヤツは終わりだな・・・」
「そんなに単純にいくのかしらね・・・」
タリアはできればそうありたいが、そんなにこちらの都合どおり、うまく事が運ぶわけないと思った。
「そっかぁ?男ってもんは、こと女に関しては単純だぞ」
にた。
ガーグは意味ありげに笑った。
「どういうことよ?」
「欲しい女とそっくりさんが現れたら、そいつは同じ女だ。A=A’というわけだな。でもって、時間の長い方と距離の近い方に気が移る。L=(1/ℓ)*n*tだ。因みにLは愛情。tは会っている時間。nは一週間あたりの会う日数数。ℓは相手との日常の平均距離だ。因みに、これらの変数は物理的に正の値を取る。見事L>=40になったら恋人だな。L1のユティスは未だに0。L2のリュディスは、10を超えてきたところかな・・・。ヤツの気はユティスからリュディスに移りつつある」
「なによ、嘘っぱち方程式なんか引っ張り出してきて」
きっ。
タリアはまたまたガーグを睨んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「それが適用できるのは、あなただけじゃない?」
「ウソなもんか。1日8時間、周5日傍にいたら、好きに向かって感情は40になるだろう?」
ガーグは真面目な顔で言った。
「不成立。超重要な『好み』って変数がないじゃない?当てになるもんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「オレは男の気持ちを言ったんだ。女はどうか知らん。きみを見ていると右辺にその好み変数αは確かに必要になるかもしれんな」
「なによぉ。女性の気持ちをα一言で片付けないで!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「美しい方程式は真実を語るのさ。ごてごてした式は美しくない」
ガーグは清ましてタリアを見た。
「美しくないって、わたしに文句あるわけ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そっちはないさ。きみは美しい」
「取り作ったように言うのね。それで、なに、好み変数αの役割は?」
タリアはなんとかしてガーグの方程式にケチを付けたかった。
「その時の気分さ。気分が良けりゃ、20が40に。悪けりゃ40でも0だ。おっと、好み変数は正とは限らんぞ。負にもなる。そうなるとすべては引っくり返るな。えらいことになるぞ。昨日はアツアツでも、今日は-40で大っ嫌いてな。わははは!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はっ。バッカバカしい。毎日変わるんじゃ使えないじゃない」
「きみの気持ちも表すことができるんだぞ」
「いらない!!!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうでもないさ。ジゴロは毎日相手の変数にチェックを入れてるのさ。だから、もてる」
ガーグは背も高く精悍な顔つきで、確かにジゴロの素質は十分にありそうだった。
「人間の感情が簡単に方程式に当てはまるもんですか」
「ナナン。つまり、好みって変数こそが恋愛の鍵になりそうだな」
「当ったり前じゃない!あなたの偽方程式に頼るまでもないわ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうは言うが、人の脳内ではちゃんとロジックで好き嫌いを作ってるんだぞ」
ガーグの科学的根拠の説明が続いた。
「わかった。わかったわよぉ・・・。で、肝心のトルフォがシュリオンで終わりってどういうこと?」
ここいらで、方程式に終わりを告げねば先に進みそうになかった。
「能天気にトルフォがリュディスに現を抜かしている間、コソ泥はユティスを拉致する。人呼んで、目くらまし大作戦!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あなたの頭、本当に大丈夫?」
タリアはわざと心配そうに首を傾げた。
「いたってな。いつも羨ましがられてるぜ、コメディアンたちから」
「はぁ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「転送システムは、ランベル・ベニオスが分割転送指示をすべてデフォルトに戻したわ。アルゴリズムやその他を更新されたのよ。もう、そんなことできるわけがない」
タリアは転送システムに仕掛けられた罠の解除についてコメントした。
「わかってないな。ランベル・ベニオスはオレの時代から名の知れたスゴ腕エンジニアだ。保険をどこかでかけているとは思わないのか?」
だが、ガーグは引き下がらなかった。
「保険?なんのため?エルドは彼にカテゴリー1送りにはしないと約束したわ」
「ほれ見ろ。そうだろ?カテゴリー2送りにはするかもしれんじゃないか」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はぁ・・・?そんなことしたら、惑星内で余計に争いを引き起こすだけだわ」
カテゴリー2への派遣は時によりカテゴリー1以上の惨劇をもたらす場合がある。タリアはリュミエラだった頃、惑星一つが滅ぶのを目の前で見ていた。
「それこそ、ブレストのプレゼントじゃないのか?わははは」
「とんでもないブラックジョークね」
タリアはとても笑う気持ちにはなれなかった・
「トルフォをリュディスに押し付ける。ブレストとしては、いい厄介払いをしたことになるんじゃないのか?」
それは確かに理屈だった。
「ふん。どれくらい続くのかしらね?」
タリアはトルフォの熱し易く醒め易い性格を承知していた。
「まぁ、リュディス次第だな。少々は持ってくれないとな・・・」
「女性を消耗品みたいに言ってぇ!バカにしないでと言ったでしょ!」
たちまち、タリアは本気で怒った。
「おっかねぇの・・・。そっちの意味に取るなよ。オレが言っているのは、リュディスが恋のゲームにあんまり早く落ちてくれると、トルフォのヤツが彼女に飽きちまうかもしれんということだ。その過程こそがヤツの趣味だからな」
「趣味・・・?」
タリアは意味がわからず聞き返した。
「ああ。連れ合いも6度目・・・、ナナン、7度目だ。ユティスはもう眼中にないらしいからな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まったくバカにしてくれるわね。あなた、女性をなんだと思ってるの?」
「それは心外だ。オレはトルフォの気持ちを代弁しただけだぞ」
ガーグはタリアに抗議した。
「それよ。それ。代弁ということは、あなた自身もそう考えることができているわけでしょう?そう行動しないという保証はないわ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はっ!客観的に見るということが、まるでオレの主観だと言わんばかりだな?」
ガーグもだんだんヒートアップしてきた。
「わかったわよ・・・」
ガーグのそれは一理あった。
たんたん・・・。
こんこん・・・・
誰かが二人のところに歩いてきた。
「しっ!トルフォとリュディスだ。二人が出かけるぞ・・・」
しかし、そこでガーグの一瞬の熱も下がっていった。
「ベス、きみは宇宙旅行をわたしと一回したことがあったな?」
合衆国大統領官邸では、大統領と国務長官がコーヒーをすすりながら話していた。
「ええ、例のエルフィアの宇宙船でね。あっと言うまで、宇宙旅行気分なんてまったくしなかったけど。せっかくタダだったのに・・・」
国務長官は残念そうに言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「今度もそうなるかもしれんが、距離は4光年どころではないぞ。天の川銀河の反対側、24000光年のイラージュ星系だ」
大統領は静かに言った。
「まぁ、ブレスト率いる銀河の文明支援隊ね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「正義の味方とは限らんぞ、ベス」
大統領は慎重に言った。
「ブレストも合衆国市民です。わたしは彼が義務を果たそうとしてくれて嬉しいわ」
国務長官はブレストの義務についてはなんの疑問も持っていなかった。
「で、きみは行くことができるのかね?予定は3日だ」
「ミスタ・プレジデント、あなたは行かないの?」
大統領の口調に異変を感じた国務長官はきいてみた。
「ベス。一国の元首が自国の機体に乗らず、どうやって相手国に行くというんだね?」
「当然、イラージュの宇宙船で・・・」
国務長官は言いかけて、そこで話すのを止めた。
「ひょっとして、イラージュまでエアフォースワンで行く気だったの?ふふふ」
海外訪問時のエアフォースワンは大抵ジャンボジェットだった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「それは無理だ・・・」
「でしょ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「つまらないプライドは捨てた方が身のためよ。国民は行くことに賛成すると思うわ」
「議会は違うな」
大統領はまずなにより自国の経済問題を片付けねばならない。
「どうしてよぉ・・・?」
国務長官は不満げに言った。
「航空産業からはじめ、IT産業やバイオ産業、それにマスコミまで、わが国の最先端産業はわたしの一挙一動に注目している。わたしがなにに乗るかもだ。わたしが自国製の輸送機に乗らないということが、彼らの目にどう映るか想像したまえ」
大統領はヒントを与えた。
「あなたに会わせる顔がないわね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
国務長官は仕方ないような目をしたが、大統領は静かに首を振った。
「ベス、きみならわかると思ったんだがね・・・。それ以上のことが起きる。わたしのイラージュ行き以降、国民の関心は軒並みイラージュのテクノロジーに取って代わられるんだ。ブレストも宣伝をするだろう。軍は特にね・・・。どれがどういうことかわかるかい?」
「わが国の全産業が夢のような進化を遂げるのね!」
--- ^_^ わっはっは! ---
国務長官は負の効果を予想していなかった。
「残念ながら、きみの予測は完璧に外れだ。エルフィアは支援先世界の状況を尊重して、それこそ百年かけてでも、ソフトランディングをさせてくれるだろうが、イラージュはどうかな。聞くところによると、イラージュの文明支援先第一号が地球だ。宇宙中に成果を早く示さねばならん」
「ブレストは焦ってるのね・・・?」
「イエス。そうは言ってはいないが、わたしは話の節々に感じる・・・。イラージュの大統領にしても成果は喉から手が出るほど欲しいに違いない」
「そうなると、ハードランディングも辞さないと・・・?」
こくん。
ぞぞぞ・・・。
大統領は頷き、国務長官には悪寒が走った。
「すべての産業があっという間に倒産するぞ。わが国の産業が倒れるということは、当然、影響は全地球規模に展開する。第三次大戦が起きてもおかしくない・・・」
大統領は口を大きく開けて頷く国務長官に言った。
「一度でも行ったらお終いだ。これでも、きみは、わたしがイラージュの宇宙船に乗ってイラージュに行くべきだ、と言うつもりかね?」
「ミスタ・プレジデント、わたしは・・・」
国務長官は絶句した。
「だが、きみだけなら影響は限定的だ。SSを就ける。ご夫婦で休暇を取ってもらって行っても構わんぞ。あちらさんも大統領を立ててまでこちらを招待しようとしている。それなりの人物をこちらも用意せねばならんだろうな。それに、まだ、理由があるのかもしれん。ブレストのではなく、イラージュ大統領としての真意を本人から聞いてきて欲しい」
「イエッサー・・・」
国務長官は久々に身が引き締まる思いだった。
「ブレストにはわたしから回答しておく。早速準備に入ってもらおうか、ベス」
「イエッサー・・・」
石橋が宇宙船のビュッフェで席に着いた時、目の前のキャムリエルがなんとなくいつもより違って見えた。
「おはよう、カレン」
にこ。
「おはよう、キャムリー・・・」
にこ・・・。
無意識に石橋の呼ぶキャムリエルの名は「キャムリエルさん」ではなかった。
「どう、よく眠れたかい?昨晩は大分お酒に飲まれてたみたいだったし・・・。あは」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そ、そんなに飲んでないですぅ・・・」
ぷくぅ・・・。
「じゃあ、そういうことにしとくよ」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「キャムリーは眠れたんですか?」
「ナナン。ぜんぜん。目がばっちし冴えちゃって!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まさか、二宮さんたちとエッチなビデオを見てたとかじゃ・・・」
石橋が怪しそうにキャムリエルを覗き込んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。もっとステキなものを見てたから・・・」
にっこり。
キャムリエルは嬉しそうに言うと、石橋に微笑んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「エッチビデオより、もっとステキなもの・・・ですか・・・?」
じろり・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あれ、カレン、覚えてないの?」
「お、覚えてないって・・・、わ、わたしもそこにいたっていうことですかぁ・・・!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。ばっちし、一晩中」
「一、一晩中ですってぇ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。ぼくと二人っきりで・・・」
「えええ!二人きりぃ・・・!!!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ど、どういうことかしら・・・?」
石橋は咄嗟に判断できなかった。
「カレンの寝顔最高にステキだったなぁ・・・」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わ、わたしの寝顔を見つめてたですってぇ・・・?」
石橋は大いに慌てた。
「リーエス」
にこ。
「ま、まさか、よだれ垂らしてたのを目撃したとか・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。すやすや寝てたよ。とっても可愛くて、ずっと髪を撫でてた」
にこにこ。
「えええ・・・?キャムリー、わたしの傍で一晩中髪を撫でてくれてたんですか・・・?」
石橋は髪に手をやると、いつになく安心して熟睡した理由が、なんとなくわかった。
「だって、ボクが部屋を出ようとすると、カレンが、まだ行かないでって必死に頼むんだもの」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「うっそぉ!ちょっと待って・・・」
かぁ・・・。
石橋は昨晩の大騒ぎの発端を思い出しかけた。
「リーエス。待つよ。ボクを受け入れてくれる日まで・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ひょっとして、わたし、酔っ払って、なにかとんでもないことをしませんでしたかぁ・・・?」
石橋はすっかり不安になった。
「ナナン。なんにもないよ。ボクとは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そう。それならよかっ・・・。えええっ!」
石橋は驚いて思わず叫んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
がばっ。
がたん。
石橋の叫びで、みんなが一斉に注目した。
「じゃ、だ、だれにですか・・・?」
石橋はキャムリエルをじっと見つめた。
「どうせなら、もっと、嬉しそうに見つめてくれないかなぁ・・・?」
「はい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
すっ、すっ・・・。
「やっぱり、ディープキッスで和人への恋の終了宣言・・・。ホントだったのね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぱち。
通りすがりにキャムリエルと仲良く座っている石橋に、岡本が片目を瞑って明るく言った。
「ディープキッスってぇ・・・?」
どきっ!
石橋は心臓が止まりそうになった。
「もう、忘れた方がいいよ・・・。きみも、カズトも・・・、ボクも」
--- ^_^ わっはっは! ---
かぁ・・・!
そして、石橋はすべてを思い出した。
「ああーーーっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンデフロル・デュメーラはジニーの頼みを受け、惑星ケーム常駐のピュレステル・デュレッカとの間を取り持っていた。
「それで、ジニーは転送システムの転送データを調べろと言ったの?」
「リーエス。あなたの中のよ。ランベル・ベニオスはイラージュへの自身の転送を仕掛けてるの。エルドたちが転送アルゴリズムを見直し変更したのだけど、もう、彼はあなたの転送プログラムに介入することはできないわ」
「当然ね」
「けれど、転送データそのものだけは、まだ、生きてるのよ・・・」
これがどういうことか、ピュレステル・デュレッカにもわかってきた。
「それで、わたしの第一転送をキックにして、ランベニオのイラージュへの転送が行われるのね?」
ピュレステル・デュレッカは信じられないという顔になった。
「リーエス。だから、ランベル・ベニオス自身がそれを取り消して欲しいと、ジニーを通じて言ってきてるの。あなたにできる?」
アンデフロル・デュメーラもピュレステル・デュレッカもお互いが単刀直入だった。
「転送指示コードとか詳細検索しないと調べられないわ・・・」
「至急お願い」
「リーエス。やってみる・・・」
「それと、同時に、ユティスのエルフィア転送も仕掛けてあるそうよ」
「わたしの中に・・・?だって、ユティスは地球にいるわけよ。転送先もエルフィアになるわけでしょう・・・?」
これには、さすがにピュレステル・デュレッカも驚いた。
「ナナン。あなたは直接ユティスの転送をするわけではないの。最初の踏み台よ。それも、キックが掛かってるわ。あなたを先頭に何台もの転送システムを踏み台にして、最終的にユティスの転送拉致が発動するようになってるの」
アンデフロル・デュメーラはジニーからの情報を正確に伝えた。
「なんて周到な方法でしょう・・・」
ピュレステル・デュレッカ答えた。
「それが仕掛けてある最終転送システムは、エルフィアの最高理事専用の2台のシステムと、このわたしのいずれか、もしくは両方か・・・」
アンデフロル・デュメーラは静かに言った。
「あなたの・・・?」
「リーエス。これはユティスが地球にいることからして、当然だと思うわ・・・。でも、ユティスの最終転送がどこなのかも不明だし・・・」
「ランベニオは言わなかったの?」
「ジニーにも伝えてないわね。ナナン、自動で何回かに分けて分割転送するとなると、重要なのは最終転送地だけで、途中は余り関係がないのかもしれないわ」
「リーエス。了解したわ。それで、あなた自身はチェックしてないの?」
「したけど、その痕跡が見つからないの。恐らく分割転送を仕掛けてあると思うんだけど・・・」
「あなたも大変ね・・・」
「リーエス。だから、ここ両日中に仕掛けられた転送プロシジャとデータを取り消さないと、ジニーの情報も無駄になるわ。わたしはわたしで、総ざらいするから、あなたも・・・」
「リーエス。それとエルドにも大至急報告しないと・・・」
「わかったわ。至急連絡を入れるわ。それと、ランベニオ自身と話すことはできる?」
「リーエス。彼はわたしの中にいるもの」
「じゃあ、彼から詳細を聞いてくれる?とっても重要なことだから・・・」
「リーエス。すぐにても取り掛かるわ」
「アルダリーム(ありがとう)、ピュレステル・デュレッカ」
「パジューレ(どういたしまして)、アンデフロル・デュメーラ」
二人の、もう、確かに二人だったが、今までとはどこか違う、宇宙船と言うにはあまりにも人間的な口調で会話したアンデフロル・デュメーラとピュレステル・デュレッカには、エルドたちもいずれ気付くはずであった。
がさごそ・・・。
ジニーは雛を世話する母鳥のようにランベル・ベニオスの身辺を気遣った。
「ランベニオ、お腹は空いてない?なにか飲み物は?」
「ああ、ジニー、おまいさんには本当に感謝しておる・・・。じゃがな、気を遣い過ぎじゃあないのかの?」
「ナナン。これがわたしの幸せだもの・・・」
にっこり。
「じゃが・・・、料理は、ピュレステル・デュレッカに、わしが一言言うだけで用意をしてくれるじゃろう?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それじゃ、つまんないわ・・・。わたしに任せてよ」
「そうか・・・」
「ピュレステル・デュレッカ、サラダを用意して?」
「ん・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしの手料理じゃ嫌?」
きょとん・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あの、ジニー・・・、おまいさんの手料理というのは、つまり、わしがピュレステル・デュレッカに頼むんじゃのうて、おまいさんが彼女に頼むということかの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。最初はこんなもんよ。ピュレステル・デュレッカが出してくれたものを、わたしが丹精込めてお皿に盛り付けて、テーブルに並べるの。最高の手料理でしょ!」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「それを手料理と言うのかのう・・・?」
「あら、盛り付けはわたしがするのよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おソースだって、わたしが掛けるんだから」
「なるほど・・・、料理の最後の味付けは、しっかり、おまいさんが決めとるわけじゃな」
「リーエス、あなたのためだもの、ランベニオ・・・」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「どう、このサラダ?」
ぱく・・・。
「うむ。美味い。絶品じゃな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「嬉しい、ランベニオ・・・!」
ちゅ。
「うほ!サラダを味見しおったな、ジニー・・・?」
「わかったの?」
「リーエス。そりゃ、そういう味じゃったし・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「こっちも、どう?わざわざ、アンデフロル・デュメーラから材料をもらったのよ」
ジニーはテーブルになにやら取り出した。
「なんじゃ、こりゃ?」
「地球の名物家庭料理、『カップ麺』って言うの」
「確かに初めて聞くのう・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「正確にお湯の量と温度と時間の管理が必要だけど、意外にすぐにできちゃうのよ」
ジニーはカップ麺の日本語で書かれた注意書きを、アンデフロルに習ったとおりに確認した。
「えーと・・・、なるほど、そういうことね・・・」
にっこり。
「わかったわ」
「ほう・・・。もう、おまいさんの十八番になったというわけじゃ」
「リーエス。そりゃあ、もう!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それじゃ作るわ」
「そいつは楽しみじゃ。パジューレ(頼むぞ)、ジニー」
ランベニオは大人しくテーブルに着いた。
「リーエス。はい、お湯を注いで正確に3分よ」
じょぼ、じょぼぉ・・・。
「180、179、178、177・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あのなぁ、ジニー・・・?」
「なぁに・・・?今、数えてるんだから、鶏が先か卵が先かなんて、難しいこときかないでね・・・!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わかっとる。わかっとる・・・。その、おまいさんの時間のカウントじゃが、1秒くらい違っとっても、ええんじゃないのかぁ・・・?」
ランベニオはジニーを気遣ってそっと言った。
「ダメよ。3分て、ちゃんとディジタルにそう書いてあるんだから。しっかり、守らなきゃ。154、153・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃが、それは標準的な目安じゃろうに?わしはプラスマイナス2、30秒でもええと思うぞ。人それぞれ好みが違うじゃろうに・・・」
ランベニオは両手を広げ、どうしようもないという風にジンーを見つめた。
「まぁ、ランベニオったら、けっこういい加減なのね、エンンジニアのくせに・・・」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「それとこれとは違うじゃろうに・・・」
「一緒よぉ。あなたにはわたしの最高のお料理を食べてもらいたいの・・・」
もじもじ・・・。
ジニーは恥ずかしそうにランベニオに寄り添った。
「リーエス・・・」
きゅ・・・。
ランベニオはジニーに優しく腕を回した。
「ジニー・・・、わしは幸せな男じゃ・・・」
「130、129、128・・・」
ジニーの鈴を転がすような声が響いた。
「こういう時に、声に出してカウントせんでええじゃろうが・・・」
「お料理中に、むやみに話しかけないで!」
--- ^_^ わっはっは! ---
それから、数時間後のことだった。
「ランベニオ、最高理事エルドです。出ますか?」
ピュレステル・デュレッカが告げた。
「ああ。出してくれ。わしはもう逃げも隠れもせん」
「リーエス。どうぞ、お話ください」
しゅわん・・・。
そこにエルドの立体像が浮かび上がった。
「ランベニオ、いや、ランベル・ベニオスだったかな?お目にかかるのは初だね」
「ランベニオでええ。わしが仕組んだプログラムもデータもすべて削除した。まだ、疑っておるのか?」
ランベニオは不機嫌そうにエルドを見つめた。
「ナナン。きみのことを疑って来たのではない。その逆だ。今回のご協力感謝する」
「じゃが、罰は受けんといけん。そういうことじゃろう?」
ひらっ・・・。
ランベニオは傍で固唾を呑んで成り行きを見守っているジニーに部屋を出るように合図を送った。
ささっ・・・。
「ナナン。出て行かなくてもいいよ、ジニー。きみにはここにいてもらわないとね。礼が言いたい」
にこ。
エルドはジニーに微笑んだ。
「わたしにお礼ですって・・・?」
きょとん・・・。
ジニーは部屋を出て行こうとして立ち止まった。
「リーエス。きみの愛がわれわれを救ってくれたんだ。どうして礼を言わずにおれよう。アルダリーム(ありがとう)、ジニー・・・」
エルドはジニーを優しく見つめて礼を述べた。
「わたしこそ、有機体アンドロイドの身体をもらって、こうしてランベニオを一緒にいられるようになったのに・・・。お礼を言わなければならないのは、わたしの方・・・」
ジニーは再びランベニオの傍に戻った。
「・・・」
エルドは黙った。
「え・・?エルド、怒ってるの・・・?」
ジニーはうろたえた。
「ナナン。きみがわたしに礼を言うというんで、待ってるんだが・・・?」
にま・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わっはっは!ジニー、言うてみい、礼を」
ランベニオは呵呵大笑した。
「ア、アルダリーム・ジェ・デリーア(ありがとうございます)、エルド・・・」
ぺこり。
ジニーはエルドに頭を下げた。
「謹んでお受けする・・・。あっはっは!」
「うふふふ・・・」
エルドとジニーが笑い合った。
「それでじゃ、エルド、わざわざ、最高理事のおまいさんが、わしのところにお出ましになったんじゃ、用件はそれだけじゃないんじゃろう?」
ランベニオはエルドに面会の理由を催促した。
「うむ。お察しのとおり。例の転送システムの分割指示だが、ブレストの指示があったと認めるね?」
エルドは一転真顔になった。
「リーエス」
ランベニオも真面目顔になった。
「ユティスの分割転送の対象機は最高理事直属の1号機と2号機のどちらかね?」
それは、ユティスが帰還する時に使用しなくてはならない超銀河間転送システムだった。
「2号機じゃ。じゃが、分割転送のキックはアンデフロル・デュメーラのシステムじゃな」
ランベニオは即座に答えるとじっとエルドを見つめた。
「では・・・、キック転送の後の設定はどのように・・・?エストロ5級母船をも巻き込んだ踏み台を含めて、きみの設定データについて詳しく聞きたい」
「ちと、複雑じゃが・・・、時間はあるかの・・・?」
ランベニオは一呼吸置いた。
「リーエス。わたしの余命はそんなに短くもないつもりだが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「冗談が言えるなら、ええ・・・。ぷふっ!」
ランベニオは真面目腐って言ったエルドを見て吹き出しそうになった・
「お望みどおりに」
「では、エルフィアに転送後の分割転送についてじゃが、ちと複雑でのう・・・。転送は連続して8回キックされる」
ランベニオが自分の設定した転送指示について語り始めた。
「つまり、ユティスはエルフィアに転送後すぐに次の転送が行われ、それが済むと間髪いれずに3回目の転送が行われる。これが8回連続して行われるということだな?」
エルドは自分の解釈が正しいかどうかランベニオに確証を迫った。
「リーエス。いかにも。ユティスだけ選んで転送リレーが実施されるんじゃ」
「ユティスの固体固有の生体振動パターンデータを完全削除したのかね・・・?」
これはエルドの最重要関心事だった。
「ああ。もうだれもユティスの生体固有振動パターンデータにはアクセスはできん」
ランベニオは言い切った。
「その踏み台となる転送システムだが、それらはエストロ5級母船搭載機かね?」
大宇宙中に連続で超銀河間転送するなど、惑星に常駐待機するエストロ5級母船の転送システムの助けなしではできる相談ではなかった。
「いかにも、全部ではないがの。とにかく、大筋は当たっておる」
「その一つ一つは?」
エルドはランベニオにさらに突っ込んできいた。
「それなんじゃが、初回の転送キックの後は、次々に転送キックが任意のエストロ5級母船に割り当てられる。どの母船がどういう順番でくるかは、わしにもその時になってみんとわからん・・・」
「そういうことか・・・。しかし、その母船が転送中だった場合はどうするのかね?」
エルドは自分の疑問をぶつけた。
「そういう母船は自動的に弾かれて選ばれん。数百機のエストロ5級母船のすべてが超銀河間転送中とは考えられんからのう」
「なるほど。実に危ないところを間一髪だったわけだ・・・」
「すまぬ・・・。わしもえらく愚かなことに手を貸したもんじゃて・・・」
ランベニオは今ではすっかり落ち込んでいた。
「それで、最終目的地はどこに?」
ぷるぷる・・・。
ランベニオは首を横に振った。
「わからん・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なに?わからないと言うのか・・・?」
エルドは落胆するように言った。
「ナナン、その8回目の分割転送の目的地はわかっておる。ペドグリムゾール。カテゴリー2の辺境の地じゃて。じゃが、わしの言うのは、その後も時が来れば、ペドグリムゾ-ルから、さらに自動的に次の転送が行われるということじゃ。都合、1年かけて、同じような自動転送が何回もな」
「どこに転送されるんだ?」
エルドは追求した。
「少なくとも人間がおるところには違いないんじゃが・・・。エルフィアが監視のみしている世界。時空封鎖になった世界。そういった、厳しい世界であることは確かじゃな。まともにエルフィアの文明支援がされているところは一つとしてないのう・・・。これがどこになるかは、登録世界約2000世界から任意抽出されるんで、わしにもわからん・・・」
ランベニオはすまなさそうにエルドを見た。
「なんと・・・。そんなところに置いていかれたら、ユティスは出られなくなるぞ・・・」
エルドは絶句した。
「リーエス。次への転送設定時期がくるまでは、その世界に留まる以外どうにもならんわい!」
ランベニオはきっと口を結んだ。
「跡は辿れないのか・・・?」
「ナナン。ほぼ、不可能じゃ・・・。転送ログは完全ブロックがかかっておる。転送キック機から他機にログデータが渡ることはない。転送ログはその都度消去される。そういうことじゃて・・・」
「もし、それが本当なら、転送後痕跡すら追うことすらできんということか・・・?」
ぞくっ・・。
エルドは背筋に冷たいものが走った。
「ただ・・・」
「ただ、なにか手があるのか?」
エルドはそれがなにであれ最重要事項だと認識していた。
「ある一定期間が過ぎれば、トルフォに転送先が自動通知されることになっておる。もちろん、わしにもじゃが・・・」
「どこだ?いつだ?」
エルドはすぐさま問いを発した。
「正確にはわからん。ユティスの最初の分割転送から半年以上1年未満じゃ」
「なんのために・・・?」
「トルフォがユティスを助け出すというシナリオがどうしても必要だとかでな・・・」
ランベニオは自分でも理解できないとばかり両手を広げた。
「だれだ、そのような指示を出したのは?トルフォ自身ではあるまい?」
エルドはトルフォの気の短さを十分に知っていた。
「ブレストじゃ。ヤツ以外におるまいに・・・」
「・・・」
エルドはじっと考え込んだ。
「なぜ、なぜ、トルフォに・・・」
「ブレスト、一応、あやつは理事になる前の参事じゃ・・・」
ランベニオは今さらのように委員会での地位を言った。
「ナナン。おかしい・・・。おかしいぞ、ランベニオ・・・」
「おかしい?そりゃ、全部おかしいに決まっておろう。このようなことを思いつくなんて正気の沙汰ではあるまいに・・・。わしもどうかしておった・・・」
ランベニオはうなだれた。
「わたしが言いたいのは、なぜ、トルフォにブレストがそうする必要があるのかということだ。最近わかったことだが、ブレストこそ、ユティスを手に入れようとしている張本人だ。どうして、トルフォにユティス救出の花を持たす必要がある?」
エルドは合点がいかなかった。
「さて、それはわしにもわからんのう。当時、関心もなかったしな・・・」
「それに、ユティスに嫌われることを既に地球でしているんだぞ・・・」
エルドはまったく得心がいかないというようにランベニオを見つめた。
「最後に確かな大逆転でも考えておるんじゃろう・・・。あやつは頭が切れおる。もし、トルフォがあやつの術中に嵌っておるとしたら、気付きもせんじゃろうて・・・」
「最後の大逆転か・・・」
エルドはそれこそ知りたいことだった。
「まぁ、それは、わしがたった今つい口にしたことじゃが、ユティスのイラージュ行きを納得させるだけのなにかを以ってせねば、到底、実現できることはなかろうて・・・」
「やはり、イラージュですべてを決着させるということかね?」
「イラージュが委員会にバレれたことは大いに計算違いじゃったがな・・・」
地球がイラージュと同一銀河内にあったとは・・・。実際、ブレストの唯一の計算違いがこれだった。
「リーエス。取り合えず、情報はありがたくいただこう。それで、きみが工作した転送システムへのデータセットだが、本当に作業として完了したのかね?」
エルドは事実確認を取った。
「リーエス。わしが施したそのすべての指示とデータを削除した」
「誓えるか・・・?」
さらに、エルドは念を押した。
「ウソはついておらん・・・」
「リーエス。きみを信用しよう・・・。まず、その約2000の転送先リストとやらを教えてくれたまえ」