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401 面子

「アンニフィルドです。わたしたちが研修会の最初の夜大騒ぎしている間に、地球もエルフィアもケームもイラージュも、それぞれ時を刻んでいたの。一番大きな話題は超銀河間転送システムの復帰ね。ランベル・ベニオスもついに自分の仕掛けを解除することに同意したわ。ジニーの偉大な献身愛の成果なんだけど、それを期待して計画を進めたメローズもすごいわね。やはり女性だわ。エルドやフェリシアスは力ずくでしか考えていなかったんじゃない?」

■面子■




アンデフロル・デュメーラはジニーの頼みを受け、惑星ケーム常駐のピュレステル・デュレッカとの間を取り持っていた。


「それで、ジニーは転送システムの転送データを調べろと言ったの?」

ピュレステル・デュレッカはアンデフロル・デュメーラの言葉を注意深くきいていた。


「リーエス。あなたの中のよ。ランベル・ベニオスはイラージュへの自身の転送を仕掛けてるの。エルドたちが転送アルゴリズムを見直し変更したのだけど、もう、彼はあなたの転送プログラムに介入することはできないわ」


「当然ね」


「けれど、転送データそのものだけは、まだ、生きてるのよ・・・」

アンデフロル・デュメーラの言うことがどういうことか、だんだんピュレステル・デュレッカにもわかってきた。


「それで、わたしの第一転送をキックにして、ランベニオのイラージュへの転送が行われるのね?」

ピュレステル・デュレッカは信じられないという顔になった。


「リーエス。だから、ランベル・ベニオス自身がそれを取り消して欲しいと、ジニーを通じて言ってきてるの。あなたにできる?」

アンデフロル・デュメーラもピュレステル・デュレッカもお互いが単刀直入だった。


「転送指示コードとか詳細検索しないと調べられないわ・・・」


「至急お願い」

「リーエス。やってみる・・・」


「それと、同時に、ユティスのエルフィア転送も仕掛けてあるそうよ」


「わたしの中に・・・?だって、ユティスは地球にいるわけよ。転送先もエルフィアになるわけでしょう・・・?」

これには、さすがにピュレステル・デュレッカも驚いた。


「ナナン。あなたは直接ユティスの転送をするわけではないの。最初の踏み台よ。それも、キックが掛かってるわ。あなたを先頭に何台もの転送システムを踏み台にして、最終的にユティスの転送拉致が発動するようになってるの」

アンデフロル・デュメーラはジニーからの情報を正確に伝えた。


「なんて周到な方法でしょう・・・」

ピュレステル・デュレッカ答えた。


「それが仕掛けてある最終転送システムは、エルフィアの最高理事専用の2台のシステムと、このわたしのいずれか、もしくは両方か・・・」

アンデフロル・デュメーラは静かに言った。


「あなたの・・・?」

「リーエス。これはユティスが地球にいることからして、当然だと思うわ・・・。でも、ユティスの最終転送がどこなのかも不明だし・・・」


「ランベニオは言わなかったの?」

「ジニーにも伝えてないわね。ナナン、自動で何回かに分けて分割転送するとなると、重要なのは最終転送地だけで、途中は余り関係がないのかもしれないわ」


「リーエス。了解したわ。それで、あなた自身はチェックしてないの?」

「したけど、その痕跡が見つからないの。恐らく分割転送を仕掛けてあると思うんだけど・・・」


「あなたも大変ね・・・」

「リーエス。だから、ここ両日中に仕掛けられた転送プロシジャとデータを取り消さないと、ジニーの情報も無駄になるわ。わたしはわたしで、総ざらいするから、あなたも・・・」


「リーエス。それとエルドにも大至急報告しないと・・・」

「わかったわ。至急連絡を入れるわ。それと、ランベニオ自身と話すことはできる?」


「リーエス。彼はわたしの中にいるもの」

「じゃあ、彼から詳細を聞いてくれる?とっても重要なことだから・・・」


「リーエス。すぐにても取り掛かるわ」


「アルダリーム(ありがとう)、ピュレステル・デュレッカ」

「パジューレ(どういたしまして)、アンデフロル・デュメーラ」


二人の、もう、確かに二人だったが、今までとはどこか違う、宇宙船と言うにはあまりにも人間的な、しかも極めて女性的な口調で会話したアンデフロル・デュメーラとピュレステル・デュレッカには、感情に基づく自我が大きく成長していた。それには、エルドたちもいずれ気付くはずであった。




「転送システムの有機体アンドロイドのテストも無事に終了した。後は委員会の稼動再開許可を待つだけになった」

エルドはアンデフロル・デュメーラからジニーの話を聞くとすぐに確認指示を出した。


「ついに、ランベル・ベニオスから聞き出したな、メローズ」

エルドはメローズの計画に舌を巻いた。


「リーエス。ランベル・ベニオスだって、人を愛せずにはいられないのですわ。自分がそう感じざるをえなくなって、初めて他人の状況も見えてくるんです」

「いかにも、きみの言うとおりだよ」


「ジニーと別れたくないという彼の気持ちとジニーの気持ちが一致した時、ユティスと和人の状況が見えてくるんです。自分のやろうとしていることが、いかに身勝手な自己中心的なものか。それが与える第三者の悲しみがどれほどのものか。もう、ランベル・ベニオスには、それでもなおブレストの手先となって計画を実行しようという意思も気持ちも、すっかり消えうせたのです」


「彼は気付いてくれた。そういうことだね?」

「リーエス。まさに・・・」


「ジニーには感謝してもし尽くせないな」

「しかし、ジニーはランベル・ベニオスが作ったのですよ」


「それを見抜き計画したきみも素晴らしい限りだ・・・」

「ふふふ。わたしたちがランベル・ベニオスを理詰めで追い込んだとしても、彼の感情を説得するのには、こうはいかなかったに違いありません」


「ああ。きみの言うとおりだ。気付きには必ず感情が伴う。人間、感情が納得できないことには自発的に動きはしない。理性優先で動ける人間はごく僅かだ」

「あなたもですか、エルド?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「もちろん、わたしは感情派だろうな。理性が完全に支配してたら、最高理事などやってないさ。実に、割に合わん」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ふふふ。理性と使命感は違うからですか?」

「そっちも疑わしいね。自分の立場を使命と思ったことはないよ。わたし自身の欲求に過ぎんさ」


「なるほど、あなたらしいです。エルド」

「さて、転送システムのチェックはどんな感じだろう?」


ぴっ。

エルドは自分の出した指示の進捗を聞こうと空中スクリーンに担当責任者を呼び出した。




「いよいよ、ユティスたちがエルフィアに戻ってくる日が近づいた」

転送システムの制御室では、責任者が細心の注意をメンバーに促していた。


「リーエス」


「前回のように、システムが乗っ取られるようなことがないよう、みんな気を引き締めて欲しい。今回のアルゴリズ変更により、乗っ取りの可能性は限りなくゼロになったとはいえ、人間が作るセキュリティだ。人間に破れない理由もゼロではない。今回より、通常のシステムオペレー2名に加え、モニター2名を担当に加える委員会決定がなされた」


「リーエス」


「ついては、エルドから指示のあったように、ランベル・ベニオスの介入プログラムとプロシジャの消去を確認する。ユティスたちの転送を予定している最高理事専用システムの1号機とバックアップの2号機について、もう一度念入りなチェックを入れよう。加えて、セキュリティ・センターの転送データのチェックと転送プログラムのチェックも併せて行なう。みんな、よろしいか?」


「リーエス」


「情報によると、ユティスの分割転送を仕組んだランベル・ベニオスは、それを解除することに同意したそうだ。すぐに具体的な箇所やプログラム、転送データなど、ランベニル・ベニオスが削除することになっている。モニターはピュレステル・デュレッカ経由でわれわれにも送られてくる」


「リーエス」


「転送指示のキックマシンは、ここの1号機、2号機、及び、ケーム常駐のピュレステル・デュレッカの可能性が大きい。分割転送は転送がかかったと同時に踏み台マシンを連鎖的に起動し、最終的に、転送対象者、ユティスの転送だけを分割して実行する。目的地はまだわからない。踏み台マシンがいったいいくつあって、どのように相互作用するかもわからない。モニターから目を離さないように。特に、特定転送対象者、ユティスの固有振動波のパターンには、くれぐれも注意して欲しい。転送者を特定するものだから、万が一の間違いも許されない」


「リーエス」


「質問は?」

「ユティスを含めた地球からの転送対象者の数は?」


「そこのリストにある通りだ。第一転送では、ドクター・エスチェルとドクター・トレムディン。その後、ユティスをはじめ6名が第二転送となる」


「問題は、第二転送ですか?」


「リーエス。第一転送の翌日の予定だ。注意点として、転送対象の内、一人は地球人のウツノミヤ・カズトだ。彼の生体固有振動パターンはエストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラから入手しているが、初めての転送につき、間違いのないよう、十分チェックしてくれ給え」


「リーエス」


「他には?」

「ナナン」


「次の指示がくるまで、十分にチェックだ。きみはなにかあるか?」

「ナナン。ありません」


「結構。では、早速、第一転送に向けチェックに取り掛かろう」

「リーエス」




「ピュレステル・デュレッカ、転送システムへのアクセス権限を」


ケームの常駐母船ピュレステル・デュレッカでは、ランベル・ベニオスによる、自身が設定した転送プロシジャの削除が行われようとした。


「リーエス。ランベニオ、あなたのアクセスは常時モニターされます。危険なプロシジャやパラメータの兆候があれば即座に弾かれます。くれぐれも慎重に操作を、そして正直に行ってください」


ピュレステル・デュレッカは転送システムそのものではない。その仲介をするだけだ。必要な注意事項を伝えると、ランベル・ベニオスのアクセスを繋いだ。


「リーエス。わしは逃げも隠れもせん。ありのままを監視すればええ。ジニー、すまんが、傍にいてくれんかのう・・・?」

「リーエス。ずっと傍にいるわ」


ランベル・ベニオスは傍らにジニーを連れてピュレステル・デュレッカの転送管理室で自分の仕込んだものの削除を開始した。


「アクセスコード、XXXXXXXXXXX-XXXXXX-XXXXXXX。アクセス者、ランベル・ベニオス。超銀河間転送システムの元シニア・メンテナンス・エンジニア」


ぴぴぴ・・・。

ぴ。


ランベル・ベニオスのバイオメトリクス・チェックの後、システムは彼にアクセス権限が与えた。


「アクセス者、ランベル・ベニオスを確認しました。システム・アクセス権限を臨時管理者で与えます。権限内での対象データ、プロシジャ、プログラムの変更・更新・削除のみ可能となります。新規追加はできませんのでご注意を。権限付与期限は本日1日限りとなります。なお、すべての操作はログ採集しています。危険行為と見なされるいかなる指示やデータも、すべて無効となります」


ぴっ・・・。


「リーエス。了解じゃ。期日未定の全転送指示を出してくれんか?」

「リーエス」


ぴっ。

つらつら・・・。


たちまち、転送期日が未定の転送指示の全リストは表示された。


「そこで、止まってくれ」

「リーエス」


「L678P907-A896E234-Z50を呼び出してくれんか?」


ぴっ。


「リーエス。対象を呼び出しました」

「確認をする・・・」


空中スクリーンに映し出された数字と記号の羅列を一つ一つ確かめると。ランベル・ベニオスは次の指示を与えた。


「削除してくれ」

「本当に削除でよろしいですか?」


「リーエス。削除じゃ」


ぴ。


「削除完了。再現候補フォルダにログを残しました」

「けっこう。では、次じゃ。続けてリストのスクロールを」


「リーエス」


ぴ、ぴ、ぴ、ぴぴぴぴ・・・。


「そこじゃ」

「リーエス。指定のものの詳細を表示します」


ぴ。


「リーエス。これじゃ・・・。削除してくれ」

「リーエス。本当に削除していいですか?」


「リーエス」

「削除を実行します」


ぴ。


「削除完了。再現候補フォルダにログを残しました」


「よし。次に入る」

「リーエス」


そうやって、小一時間、ランベル・ベニオスは転送予約だとかデータの削除を行った。


「これで最後じゃ」

「リーエス。最終確認を要求します。リストを確認の上、了承をお願いします」


ぴ、ぴ、ぴ、ぴぴぴ・・・。

ぱっ。


「・・・」


つらつら・・・。


「うむ・・・」


ランベル・ベニオスは削除された転送予約リストを慎重に確認していった。


「最終確認よしじゃ。さぁ、すべての削除を完了してくれんか」

「リーエス。削除します」


ぴ、ぴ、ぴ・・・。


「削除完了しました。削除結果を表示します」

「リーエス」


ぴ、ぴ、ぴ・・・。


「削除完了を確認した」


くるり。

ランベル・ベニオスはそう言うとジニーを振り返った。


「これで、わしがイラージュに転送されることはない・・・」

「リーエス。アルダリーム(ありがとう)、ランベニオ・・・」


ことん・・・。

ジニーは彼に頭を預けて目を閉じた。


つつぅ・・・。

ジニーの目から涙が伝わり落ちていった。


すぅーーー、すぅーーー・・・。


「ああ、終わりじゃ、ジニー・・・」

ランベル・ベニオスはそんなジニーの頭を優しく撫でた。


「しかし・・・、問題はブレストのヤツをどうするかじゃのう・・・」

ランベル・ベニオスはポツリと独り言を言った。




ランベル・ベニオスの操作は超時空通信でエルフィアの転送システム管理センターに送られていたが、エルドたちにもリアルタイムでモニターできるようになっていた。


「これで、ランベル・ベニオスの分割転送プログラムがすべて削除されましたね?」


にっこり。

メローズが満足そうに言った。


「いやはや、きみの先見の明には脱帽するよ」


にこ。

エルドは秘書に微笑んだ。


「転送システムの管理室ではエンジニアたちが検証を開始しました」

メローズがエルドに告げた。


「うむ。これでランベル・ベニオスの仕掛けがすべてクリアになったと確認できれば、すぐにでもドクター・エスチェルたちにも知らせないといけないな」


最初の本格的な超銀河間転送は地球に派遣されているメンバーだった。


「リーエス。エルフィア帰還は明日にでも実行となっています」


「彼女たちには悪いことをしたな。はじめは一週間程度の予定だったのに・・・」

エルドはエスチェルに対してのことを気にしていた。


「あら、そうでしょうか?地球滞在を切り上げたくないと思ってる人間も若干1名いますけど?」


「うん・・・?なんのことだね?」

エルドはなんのことかわからなかった。


「トレムディンです。地球人女性に恋してしまったようです」


ぱち。

メローズはウィンクした。


「わかった。イシバシ・カレンとかいう和人の会社のお嬢さんだね?」

「リーエス。キャムリエルと彼女を巡って取り合いですよ」


「そりゃ、大変だ。どっちも彼女を取り合うことを止めないとしたら、帰ってこないと主張されかねないぞ・・・」

エルドは困ったように上を仰いだ。


「リーエス。派遣先はいくらでもあるんでしょうから・・・」

「そうだね・・・」


「フェリシアスも引き上げるのですか?」

メローズ地球にエルフィア人が一人もいなくなる状況を稀有していた。


「ナナン。フェリシアスとキャムリエルはブレストがいる限り地球にはいてもらうつもりだ」

エルドにはその用意があった。


「ユティスの委員会報告もありますけど・・・?」


ユティスの地球滞在中に、Z国を使って彼女を拉致し、クリステアが重症を負ったことはだれにも記憶に新しい。委員会でのユティスの報告にそれらを触れずにいることはできない話だった。


「そうだな・・・。ブレストの一件の証人でもあるしね。フェリシアスには現在の状況と将来的予測を踏まえて、今後の帰還日程を相互確認しておこう」

エルド地球支援反対派の出方が気になっていた。


「リーエス」


「メローズ、忙しいところ申し訳ないんだが、一つ悪いが頼まれてはくれまいか?」

エルドは右手を顎にやった。


「リーエス。なんでしょうか、エルド?」


「ブレストの動きが気になる。イラージュの代表とはいえ、彼は文明支援組織の長でしかないはずだ。イラージュの元首は別にいる。その元首が地球の代表として合衆国大統領と接触を試みるかもしれん。ナナン、接触を考えない方がおかしい・・・。そうは、思わんかね?」

いつのまにか、エルドは真顔になっていた。


「リーエス。では、その監視をフェリシアスとキャムリエルに?」

「うむ。わたしから頼んでもいいんだが、今から、委員会理事たちとの会議がある」


この会議はユティスの一時帰還転送を決める重要なものだった。


「それでは、わたしがフェリシアスにお伝えを?」


「そうだね。きみから、彼に一報を入れておいてくれたまえ」

「リーエス」




一方、地球では、エルドの予測どおりにことが進んでいた。


「大統領、先に提案させていただきました、イラージュへのご招待の件、2名の人選はお済みですか?」

ブレストは大統領の執務室で大統領に向かった。


「わたし自身が行くわけにはいかないな」

大統領はブレストを見つめ静かに異議を唱えた。


「どうしてですか?ユティスのアルファケンタウリへのご招待はお受けになったのでしょう?」

ブレストはすぐさま大統領の逃げ道塞ぎに取り掛かった。


「あれは非公式であり不可抗力だし、第一に数時間という短いものだった。犬の散歩だとかで誤魔化したが・・・」

「ああ・・・、あのフレンチプードル」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ブレスト、きみが提案する今度の宇宙旅行は丸三日だ。わたしが無断でここを三日も空けるとなると、ジョーンズたちをはじめ、官邸は必ず大変な騒ぎになる」

確かに、大統領官邸はパニックとなるだろう。


「そうならないように、手筈を説明しましたが?」

「合衆国大統領として、イラージュ訪問は、それ自体問題が大き過ぎる」


「理由はそれだけですか?」

ブレストは大統領に説明してないなにかを匂わせた。


「とにかく、わたしはここを出るわけにはいかない」

大統領は断言したが、地球では世界に冠たる合衆国大統領には面子が合った。


「まだ、そういうプライドに執着しておられるんですか?」

ブレストは大体の予想はしていたが、別に馬鹿にしているような口調ではなかった。


「きみにはまだわからんようだが、大統領とは国民の民意で選ばれた存在だ」


「ですから・・・?」

「民意に反することは、例えわたし自身がそう思っていても、実行に移すことはできない」


エルフィアにより、地球では最先端でも、自国の化学燃焼方式のロケット宇宙船はとんでもない時代遅れの産物だと知らしめられていた。だが、それを放っておくこともできない相談だった。


「わたしがイラージュの宇宙船に乗り込んでイラージュ大統領に会いに行く。ことはわたし個人の問題では済まされまい」


エアフォースワンを他国のテクノロジーに頼るなど、自国のプライドに凝り固まっている議会が承認するわけがなかった。そして、大統領自身も。


「なるほど。一応、耳に入れさせていただきましょう。では、代理の方は?」

ブレストは攻める方角を変えた。


「エリザベスはイラージュには興味を持っている」

国務長官ならそこまで議会もうるさくないだろう。


「国務長官ですか・・・?一応、大統領の政権の中心的人物ですね・・・」

ブレストはエリザベスを値踏みしているようだった。


「うむ。エリザベスだ。重職の彼女も一緒にアルファケンタウリに行った」


「なるほど・・・」

ブレストは女性のやり手のエリザベスをよく知っていた。


「エリザベスでは問題でもあるのか・・・?」

大統領はじっとブレストを見つめた。


「では、こうしましょう。大統領には3時間だけ同行を願います。フレンチプードルのお散歩中ということで・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「後は国務長官が引継ぎを・・・」

ブレストは代替案を出した。


「3時間で用が足りるとも思えんが・・・?」

「とりあえず仕方ありません。最優先事項は大統領でないと、なにも用を足せないということです」


(ブレストは大統領という地位の人間でないと困るということらしい)


「イラージュの大統領との密会かね?」

大統領は確信した。


「密会・・・?まぁ、あなたの立場で言うなら、そんなところです。むこうは元首ですから、こちらも元首でないと、釣り合いというものが取れませんので・・・」

ブレストは一応認めた。


「しかし、向こうは一世界の元首、こちらは元首とは言えども惑星内の一地域。釣り合ってはおらんだろうに・・・。うん?」

大統領も突っ込んできた。


「そうでもありませんよ。合衆国は地球ではダントツの最先端地域。地球の代表としては相応しいかと思いますが?」

ブレストはなおも迫ってきた。


「それでも、なお、断ったなら・・・?」

大統領は噛み締めるように、ゆっくりと、そして静かに言った。


「仕方ありません・・・。ハイパー通信による、イラージュ大統領と直接会話くらいはしていただきましょう」

ブレストはがっかりしたように言った。


「テレビ電話かね?」


「ふふふ。もう少し現実味があります。立体映像ですから、お互いが目の前にするのと同じです。なんの違和感もありませんよ」

ブレストは大統領から最低限の保証だけは取るつもりだった。


「なるほど。で、エリザベスは連れて行くのかね?」


「本人が希望するのならですが・・・」

ブレスとは含みを持たせた。


「大統領が直接会話の後、ご判断されてもよろしいと思います」

「わかった。時間は?」


「1時間後ではいかがですか?」

「うむ。いいだろう」




エルフィアでの転送再開への承認を求める理事たちの会議は、エルドの予想に反し、あっさりと終わった。


「戻ったよ、メローズ」

エルドが執務室に入ってきた。


「あら、もう終わりですか・・・?」

呆れたように、メローズがエルドを見つめた。


「反対派も転送システムが動かなければ、だれも送れんし、戻すこともできん。彼らにしても、どうにもできんということさ。わははは」

エルドは悪戯っぽく笑った。


「なるほど・・・。すべてが止まったままですからね、宇宙中・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わたしが地球のドクターたちに結果を伝えるよ」

「リーエス」


ぴ。


「ドクター、わたしだ」


しゅん・・・。


「まぁ、エルド、どうしたんです、お一人で・・・?」


にこ。

エスチェルが開口一番エルドをからかった。


「まるで、いつもだれかを侍らせているとでもいいたげだね?」


にたにた・・・。

エルドは笑いながら空中立体スクリーンでドクターたちと対面し合った。


「わたしなら、いつもエルドのお傍で仕えてますよ」

メローズが微笑んだ。


「あ、やっぱり・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ドクター、委員会の臨時理事会議で、転送システム停止の全面解除が承認された。きみらのエルフィア帰還は明日以降いつでも可能なんだが、どうするかね、二人とも?」

エルドがエスチェルにきいた。


「わたしはいつでも。トレムディンはどうするの?」

エスチェルは後ろを振り返った。


「わたしは・・・」

トレムディンの表情は明るくなかった。


「カレンのことね・・・?永久に、戻れないというわけでもないのよぉ・・・」

エスチェルはなんとかトレムディンを慰めようとした。


「しかし、キャムリエルがずっとカレンと一緒なのは不公平です・・・」

先ほど、メローズよりフェリシアスに来た話を受けて、トレムディンは不安だった。


「あら、恋に落ちたのはあなたの自己都合でしょ。当初の計画にそんな予定は入れてなかったはずよ」

「計画、予定・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「それはそうですが・・・、キャムリエルだって自己都合じゃないですか・・・」

「運命の悪戯だわねぇ・・・。ふふ」


「そんなぁ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ちょっといいかね、二人とも?」

話が進みそうもないので、エルドが口を挟んだ。


「リーエス、エルド」


「数日のずれはあるかもしれんが、きみにしろ、キャムリエルにしろ、ユティスの委員会での報告時にはエルフィアに行ってもらう。地球の予備調査の中間報告会はとても重要だからね。その先は、ユティスの報告内容を検証し、地球への支援計画を承認してからでないと、再派遣はありえない」

エルドはきっぱりと言い切った。


「でも、その数日が決定的になるかもしれません」

トレムディンは不安でいっぱいになっていた。


「その時は、わたしを恨みたまえ。遠慮はいらん」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そんなぁ・・・!エルドを恨むなんてできるわけがないです」

トレムディンは苦しげな表情になった。


「まぁ、しかし、解決策がないわけではない・・・」


にっ。

エルドは言い終えると、悪戯っぽく笑った。


「ええ・・・?そんなのがあるんですか・・・?」

トレムディンは驚いて目を見開いた。


「リーエス。それくらい、わたしにだってわかるわ」


にたにた・・・。

さも面白そうに、エスチェルが口を挟んだ。


「な、なんですか、それって?」

「トレムディンは咄嗟のことでなにも思いつかなかった。


「地球に忘れ物したんで取りに戻るとか?」

にた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「忘れ物・・・?なにをです?」

「あなたのハート・・・」


「へ・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ぷふっ!」

エルドが吹き出した。


「てのは冗談。あなたが休暇を取ればいいのよ。プライベートに行くのならいいんじゃないの?」


「そ、そうか・・・」

トレムディンはそれならと納得がいった。


「ナナン。それはダメだ、ドクター。仮にも地球は予備調査対象世界だ。最高理事といえども、SSも付けずに私的一人旅行に許可を出すわけにはいかん」

しかし、エルドは安全確保が第一だと言った。


「あら、やっぱり?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「では、どうすればいいんで・・・?」

トレムディンは打つ手なしかと半分観念した。


「そうね。SSが付いていればいいんなら・・・」

エスチェルが言いかけたところで、トレムディンが答えた。


「キャムリエルも一緒に休暇ってのは、なしですよ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そういう手もあったわね・・・」


ぽん!

エスチェルは手を叩いた。


「ダメだな、それも」

エルドが再度否決した。


「じゃあ、どうするんですか?」


「ふむ。きみがイシバシ・カレンをエルフィアに招待する」

これしかないという風に、エルドは言った。


「え・・・?それで、いいんですか?」

トレムディンは思わずききかえした。


「そう言うんなら、ダメにしてもいいが・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「と、とんでもない。絶対に招待します!」

トレムディンは慌てて宣言した。


「よかろう。委員会の承認を取るまでの期間くらいは待って欲しいな」


「リーエス!」

うって変わって、トレムディンの言葉は明るくなった。


「後、もう一つ。イシバシ・カレンの説得はきみがするんだ。幾日も残ってないぞ」

「リーエス!」





惑星シュリオンではエルフィア理事トルフォの公式訪問スケジュールも終わりに近づいていた。


「あのぉ、トルフォさま・・・?」

「なんだね、リュディス?」


「リーエス・・・。実は・・・」

リュディスは複雑な表情をしてトルフォを見つめた。


「専属秘書としてこれからお供させていただくに当たって、両親にことの次第を話しておきたいのですが・・・」

「ははは。それなら、すぐにでもそうするがよい」


「え・・・?本当ですか・・・?」

リュディスはトルフォがあっさり認めたのでいささか拍子抜けした。


「もちろんだ。わたしも立ち会いたいぞ」


「トルフォさまが家に来られるんでしょうか・・・?」

リュディスはびっくりした。


「リーエス。大事な娘さんを預かるわけだ。主として、なにもないでは失礼だろう?」

「リ、リーエス・・・。しかし・・・」


(なにもないから、いいんですけどぉ・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「なにを躊躇っておる?うん?」

トルフォは楽しげに言った。


「こ、来られると、おっしゃられても、わたくしの家はそんなに裕福でもないですし、トルフォさまがいらっしゃられる準備もなにも・・・」


あたふた・・・。

たちまち、リュディスはうろたえてしまった。


「なぁに、心配には及ばん。ご両親に不自由はさせない。それが約束だからな」

「あのぉ、そう言う約束はしてませんけど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わはは。これからすればよいではないか。孫の代まで安泰だと。わははは」

「孫の代といいますと・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「もちろん、きみの子供たちもだ。きみの孫たちでも構わんぞ?」

「あのぉ、わたくし、今は、まだ独身なんですけど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんだ、そんなことか。リュディス、きみは美人だし、女性の優しさに溢れていて、人間もできている。きみも、いずれは連れ合いを持つのであろう?うん・・・?」


「そ、そういうお話はセ、セクハラです・・・」

リュディスは大いに困惑した。


「それは心外だな。きみのことを思ってのことだぞ。早め。早め。何事も早めにだ。ご両親にも早めに安心してもらった方がよくないか、リュディス?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ですから・・・」

「わたしは早くてもいっこうに構わんぞ。わは」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あの、あのぅ・・・、わたくしには、トルフォさまが、なにをおっしゃっておられるのかよく・・・」


(よく、わかりたくないのですが・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ、それはそれとして、今から家に帰るとなると、ご両親が在宅か確認した方がよいな?」

トルフォの匂わせる言葉にリュディスは気が気でなかった。


「リーエス。両親は・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「父も母も今日はいるかと思います。それもそれですけどぉ・・・」

トルフォに押し捲られ、リュディスは思わず本当のことを言った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ、いい。好きにしたまえ。ご両親には夕方会いに行くから、よろしくな」

ところが、ここという時にトルフォは一歩下がった。


「ええ・・・?」


「こういう話は食事でもしながらの方がお互いにうまくいく」

でも、なかった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ですから、どういうお話で・・・」

リュディスはトルフォの一言が心配でしょうがなかった。


「そうだ。きみには兄弟はいたんだっけなぁ・・・?」

トルフォはモルナから聞いたことを思い出した。


「リーエス。兄と弟が二人に妹が一人」

「うむ。それはいい」


「どういいんでしょうか・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「お父上の跡継ぎもいるし、娘さんもまだ一人いる。きみが家を出るあったって、当座の問題はないな」

「はぁ・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「旅は後1年くらいは続くからな。しっかり、ご挨拶だけはしておこう」


その1年がなんのための1年なのか、今のトルフォはブレストやランベニオの言葉を思い出すこともなかった。


「リ、リーエス・・・。それだけですよね、トルフォさま・・・?」

「うむ。わたしは礼儀正しい男だ。シュリオンのその辺のしきたりは十分に尊重しているぞ」


「その辺とは・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


リュディスはトルフォを愛してるわけではなかった。

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