表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/408

039 配慮

■配慮■




事務所に戻った和人は、真紀に相談し明日の2社の打ち合わせにエンジニアをリクエストした。


「・・・てなわけです」


(明日かぁ。誰か1人は確保してあげなきゃねぇ・・・)


「ちょっと待って」

「はい」


真紀は事務所を見渡すと、しばらく考えたあげく石橋を指名した。


「石橋、来て・・・」

「はい」


「今の仕事、1日くらい置いといて大丈夫だわよね?」

「1日くらいなら・・・」


「よし。明日、和人と二人で2社にヒアリングに行ってきてくれるかしら?」


どきっ。


「わ、わたしが、和人さんとですか?」

「二人でね」


(嬉しい!)


--- ^_^ わっはっは! ---


ぼう・・・。


「嫌?」

「そんな、でも・・・」


「嫌ならいいわ。他に探すから・・・」

「急過ぎます、準備が・・・」


「急なことで心の準備がってことでしょうけど。そんなものはいつでも用意しておくものよ。チャンスをあげるんだからうまくやりなさい。わかった、石橋?」


ぱちっ。

にこっ。

真紀はされにも聞こえないように囁くと、石橋にウインクして微笑んだ。


「はぁ・・・、はい・・・」

(可憐、やったわぁ!)


--- ^_^ わっはっは! ---




「あはははは・・・」


「和人さん、笑いでごまかさないでください・・・」

石橋はやっとのことで言った。


かぁーーー。


石橋はもう顔からは火が出そうなくらい赤面していた。


(和人さんと、1日フルで2人きりだなんて、まるでデートみたい・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「明日、2社もソーシャルメデイア連携の説明と詳細ヒアリングですか?」


(嬉しい・・・和人さんと一緒にいられる・・・)


「石橋さんしか空いてないって、真紀さんが・・・。頼みますよ」

和人は石橋の目の前で両手を合わせた。


(ええ、ぜひ。二宮さんの資料もキャンセルします。どんなことしてでも行きます・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「こ、困ります、いきなり明日だなんて・・・」


(ううん、いいの。わたし、和人さんとご一緒したい・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「いつもの評価キットを使ってくれればいいんですけど・・・」


(わかってるわ。絶対に行きます!)


--- ^_^ わっはっは! ---




(なにを、もたもたしてんのかしら、石橋・・・)


真紀は二人が気になって、近寄ってきた。

すたすた・・・。


もじもじ・・・。

石橋は目を伏せて、小声でしゃべっていた。


(ん、もう。やっぱりだわ・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「こらこら、石橋。わたしはあなたを指名したんだから、迷ってなんかいないで、すぐに和人と準備にとりかかりなさい。時間はないのよ」


「はい・・・」

石橋はかろうじて真紀に返事した。


くるり。

真紀は和人に向き直った。


「和人。エンジニアは石橋をアサインしたから、打ち合わせは任せたわよ」

真紀は、次に断言するように、強めに和人に言った。


「あ、はい」

真紀はそれだけ言うとさっさと自分の席に戻った。


「しょうがないわねぇ。大丈夫かしら、石橋・・・」


こつこつ・・・。


真紀は机を指で叩きながら独り言を言った。


もじもじ・・・。

石橋は相変わらず下を向いていた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「じゃ、石橋さん。これこれしかじか・・・」

和人は細かな箇所の打ち合わせをしていた。


「はい。デモもしますか?」

「ええ。用意しておいてください」

和人は話していくうちに、どんどん真剣になっていった。


「和人さん、お客様先でプロジェクタの確認はできてますか?」

石橋もそれにつられ、いつのまにか、自然に和人と話し合っていた。


「あ、それそれ。それを頼んどかなきゃ。ご指摘ありがとうございます」

「プロジェクタを持参するなら、和人さんの役目ですよ」


「そうですね。結構重いから・・・」

「ふふふ」



ちらり。

(やっと、会話が自然になってきたわね)

そんな石橋を見て、真紀は少しだけほっとした。



「じゃ、リハいきます」

「どうぞ。ストップウォッチ、オン」

和人が言うと、石橋はリハを始めた。


「一番大切なのは、リアルタイムのツブヤキですね。とにかくスピードにおいて、これほど口コミを早く広めるメディアはほかにありませんから」

「同感」

和人は客役を演じた。


「それとスマホとタブレット対応」

「当然ですね」

石橋は和人を見つめた。


(不思議・・・。和人さんが、気にならない・・・)


ビジネスに打ち込んでいる真剣な表情の和人に、石橋はいつしか自然にしゃべれるようになっていた。


「おそらくPCの他には、携帯にしか対応してませんわね。女性はもう完全にスマホ、そしてタブレットしか見ないんですよ。携帯はもう古いんです。サイトのモバイル対応が、携帯だけなんてもってのほかです。これじゃあ、売り上げは伸びっこないんです」


石橋のリハは続いた。


「うん。石橋さん、完璧です。明日はそれで。意思決定者の目をまっすぐ見て、そう言いいましょう。はじめの挨拶はオレがしますから、詳細補足とデモをお願いしますね」


「はい」

「ありがとう、石橋さん」

和人は石橋に無邪気に笑って礼を言った。


かぁーーー。

石橋は再び真っ赤になった。


「え、いいんです、お礼なんて。お仕事ですから」

石橋は、頬を染めたのを悟られないように、うつむいた。


(きゃぁ!ホントに和人さんと二人きりで。嬉しい、嬉しい、嬉しい!)


--- ^_^ わっはっは! ---




「作戦会議は終了か?」

そんな二人の下に二宮が割り込んできた。


「え・・・。あ、はい・・・」


がっくり・・・。

石橋はいかにも残念そうに二宮を見た。


--- ^_^ わっはっは! ---


「和人、おまえ、例の・・・」


(女の子と一緒じゃないのか?)

「ユティスだったら、帰っちゃいましたよぉ・・・」


「えっ。なんでオレの聞きたいことがわかったんだ?」

「先輩がそう、きいてきたじゃないですか?」


「オレ、なんにも言ってないぞ・・・」

二宮は怪訝そうに和人を見つめた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうでしたっけ?確かにそう聞こえたんだけどなぁ・・・」

「で?」


(いつ戻ってくるのかなぁ?)


「明日の朝じゃないと、会えないですよ」

「だから、和人、オレなんも言ってない・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「言いました」

「言ってない。和人、なんで、おまえがオレの考えがわかるんだ?」


「でかい声でじゃべってるからです」

「だから、オレは一言もしゃべってない」


(ちぇ、うまいことしやがって。そうだ、今日は、一杯・・・)


「それに、今日は飲みになんか行きませんよ。明日の資料の最終確認をするんだから」


「まただ・・・」

「なにがです?」


「おまえ、なんでオレの考えがわかるんだ?」

「だから、先輩がそう言ったじゃないですか」


「言ってない」

「言いました」


「言ってなんかない」


和人に話しかけようとして、二宮に阻まれて、石橋はチャンスを待っていた。そして和人と目が合った。


「あの、わたし・・・」


「ごめん。石橋さん」

「わりい。石橋には関係のない話だったな」


「じゃぁ、和人さん。わたしは6時までには資料とか用意するから、これで・・・」

「あの・・・」


「いいの。わたしだけでなんとかなります。和人さんはシナリオを詰めててください」

「はい」

石橋は自分の席に戻った。


ぺこり。

和人は申し訳なさそうな顔で、石橋に頭を下げた。


(和人さんと初めて二人きりで一緒にチームを組むんだわ。恥ずかしくて死にそうだけど、すごく嬉しい・・・)


石橋は和人を振り返った。ちょうど真紀が二宮に近づいてくるところだったが、石橋には真紀がなにを言っているかよく聞こえなかった。




ぐいっ。


「ちょっと、二宮」

「痛て・・・、乱暴っすよ、真紀さん・・・」

真紀は二宮のネクタイを掴んだ。


「ずいぶんと余計なことしてくれるわねぇ・・・」


「へ、いったいなんのことで?」

「とぼけるつもり?和人と石橋の間に割り込んどいて・・・」


「あっ・・・」

「二宮!」


くいっ!


「痛てて・・・!」

真紀は二宮の耳を引っ張った。


「今度じゃましたら許さないわよ。システム室にいらっしゃい!」

「あたたた・・・」

二人はシステム室に入っていった。




「また、二宮ヘマやったのかしら」

「あっはは。ホント」

茂木をはじめ、事務所の女性たちは二宮を見て笑った。


「でも、あいつ、一応、稼ぎ頭だよ」

「和人も、最近はすごいけど?」


「二宮って、なぜか客には滅茶苦茶受けるんだよねぇ」

「あのキャラで?」


「ま、クリスマスまでにイザベルちゃんにどこまでせまれるのやら」

「あははは」


「そうだ!それ!賭けてみない?」


「のった!」

「わたしも!」

「ダメな方に5つ!」


--- ^_^ わっはっは! --- 


「オッズは。10対1よ!」

「わたしは、うまく行く方ね」

「ズルイ。先にオッズ言ってないもん!」




いつもの通り、二宮が仕事を石橋に頼みに来た。


「石橋さぁ、これ、悪いけど頼まれてくれない?」

「はい。なんでしょうか、二宮さん?」


「客への提出物でさぁ。3日しかないんだ。オレじゃできそうもなくて・・・」

「あのぉ・・・」



「二宮のヤツ・・・」


真紀は急いで石橋のもとに来た。

つかつかつか・・・。


「石橋、さっきのわたしの仕事を優先していいわ」

「あ、はい・・・」


「ちょっと、二宮。あなた、また石橋の邪魔してるでしょ?」

「石橋の?」


「そう。どうでもいいとはいわないけど、資料の作成を押し付けすぎよ」

「押し付けはないでしょう?急ぎなんですよ」


「3日もあるんじゃないの?」

「3日しかないっす」


「見解の違いね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「和人は、明日出さなきゃいけない資料があるの」

「えーーー。あいつのを優先するってんですかぁ?」


「当たり前じゃない。新規大型顧客優先よ。石橋はそっちに回すわ」

「あ・・・」


「社長命令よ」


くぃ、くぃ。

真紀は二宮に手招きした。


「こら。こっちに来なさい、二宮」

「真紀さん・・・」




二宮をシステム室に引っ張りこんで、周りから声が聞こえなくなると、真紀は二宮を問いつめた。


「なんすっか?」

二宮は、さっきのは二宮を石橋を離す口実だ、とわかっていた。


「わたしが知りたいのは、和人とユティスが本気で恋してるのか、どうなのかってこと」


「好きというのなら・・・?」

「あなた、石橋のこと感づいてんでしょ」


「ええ、まあ人並みには・・・」

「バカ。人並みなんて、ここで言うセリフじゃないでしょ」

「はい」


「で、どうなの?」

「知りませんよ。本人に聞いてください」


「あっそう。しらを切るつもりならそれでもいいわ。とにかく、石橋は、今時ぜんぜんすれてない、めったにいないいい子なんだから。失うわけにはいかないの。わたしは、石橋の気持ちを大切にしてるんだから、じゃまはしないでくれる」


「じゃまなんて・・・」


「イエスなのノーなの?」

「イエスです・・・」


「OK。行ってよし」

「失礼しましたぁ・・・」


「はーぁ・・・。それにしても、石橋、ハンデありすぎよ・・・」

真紀はため息をついた。




「ちぇ・・・」

二宮は自分の席に戻った。


「バカね、あんたも」

「なんすか、茂木さんまで・・・」

二宮は脹れっ面になった。


「今晩の用事。だれかさんと飲みに行くのバレバレよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「え?」


「俊介の電話、みんな知ってるわよ」

「げげ・・・。常務・・・」


「そういうこと・・・。資料は、自分で作るのね」

「そんなぁ・・・」


「1日くらい、飲みに行くの我慢すれば?」

「酒の一滴は血の一滴・・・。命に係わるんですよぉ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「アホ」


二宮はうなだれた。


「イザベル・・・」

「な、なんすっか・・・?」


「仕事のできない男はもてないわよぉ」

「わかりましたよぉ!」


--- ^_^ わっはっは! ---




「和人さん、これでいいでしょうか?」


「うん。完璧。全体のフレームデザインもフォントも統一してるし、全体はモノトーンで、言いたいところだけカラー、ていうのも、センスいいですよ」


(ホントなら嬉しい、和人さん・・・)


「色をたくさん使うと、一見きれいなんですが、ポイントが目立たなくなるんですよね」


「そうですか・・・?」

「やっぱり、こいう細かい配慮は、女の子のもんですね」


「ええ?」

石橋は頬を染めた。


「これだけど・・・」


さっ。

ぴと。


和人が資料に手をやった瞬間、同時に石橋の延ばした手に重なった。


「あ・・・」

「あはは。ごめんなさい」


ささっ。

和人は照れ笑いでごまかした。


ぴとぉ。

石橋はさっと手を引っ込めると、その手を胸にやった。


「いいんです。続けてください・・・」

「うん」


(なんか、すっごく石橋さんを意識しちゃうじゃないか・・・。石橋さん、今日は妙に色っぽくないかぁ。あれ、目が潤んでいる。やばい。この前みたくなっちゃった・・・。オレにはユティスがいるんだ。ええい、仕事。仕事!)


「うちの体制だけど、プロジェクト責任者は二宮さんじゃなくて、常務にしといていいんじゃないかな。先輩、営業マネージャーとはいえ、この件に、どのみち関わらないんだし・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうですか・・・」

「うん。今日も常務と一緒に飲みだし」


「飲み・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


(ひどい、二宮さん。そういうことだったの・・・。だから、真紀さんが・・・)

石橋は納得した。


「その下に営業担当のオレの名前。その横にエンジニアの岡本さんと、石橋さんの名前」


「これだと、会社全力投球って、ミエミエの作文になってませんか?」

「会社が小さいんだから事実なんです。いいと思うけど・・・」


「そうですか・・・」


「それと、最初のうちの紹介のところに、実績の紹介を2つ、3つ入れれば言うことないと思いますよ」


にこっ。


「はい。二宮さんの例がありますから、それを出しましょうか?」

「そうですね。それでバッチシです」


にっこり。


和人が微笑むと石橋も微笑んだ。


(いい子なんだよなぁ、確かに。オレ、恵まれているのかも。よくよく考えると、回りは若い女の子だし、みんないい線いってるし。石橋さんも確かに可愛いよなぁ。でも、ガールフレンドとして好きかっていわれるとなぁ。オレ、やっぱりユティスが好きだ・・・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ