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003 呟き

■呟き■




そこは白で統一された明るい部屋で、美しい一人の若い娘が椅子に腰掛け、空中スクリーンを見つめて、微笑んでいた。


「うふふ・・・」

「おや、ユティス。また来てるのかね?」


口髭の男性が一人彼女の横に立ち、その空中スクリーンを一緒に見つめた。


「リーエス(ええ)、エルド。わたくし宛てに毎日つぶやきが来ているのです。多い時には一日数回も・・・。もう何週間にもなりますわ」

「ふむ。まったく不思議なこともあるもんだね。どこのだれだかわからんが、なぜ、きみの名前やアドレスがわかったんだろう?システム・トレースはやってみたかね?」


男性は左手を顎にやって、映し出された文を調べ始めた。


「リーエス(はい)。それが、残念なことに、いつも一瞬で途切れてしまうのです。とっても短いんですのよ。恥ずかしがり屋さんなんでしょうか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わはは。システムには恥ずかしいは関係ないと思うな」

「ふふふ。でも、エルフィアからでないことは確かですわ。もっと遠くの世界じゃないかしら・・・」

「トレースがうまくいかないのかね?」

「リーエス(はい)。ふふふ」

「その割には、ずいぶんと楽しそうじゃないか。どうしたというんだね?」


ぴ、ぴっ。

ユティスという娘は空中スクリーンをスクロールさせた。


「ちょっとこれを読んでみますわ」

「どれどれ、聞かせてくれたまえ」


娘は空中スクリーンに映った文字を確かめるようにして、ゆっくりと澄んだ声で読み上げた。


「ユティス。カフェでつまづいてアイスコーヒーをこぼした人がいたんだ。オレが、アイスコーヒーをトレーで受けた。大事なところが濡れずに済んだし、彼もホッとした。お店はすぐ替わりのアイスコーヒーを彼に出してくれて、彼からは感謝された。今日はトレーを持つようにって絶妙のアドバイスをくれて、ありがとう。ユティス。ですって」

「ほう・・・。カフェとかアイスコーヒーとかよくわからん言葉もあるが、きみは状況がわかってるようだね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なにか、甘くて美味しい、フルーツジュースのような飲み物だと思いますわ」

「わたしも飲んでみたいな、そのカフェとやらを・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ、エルドったら・・・」

「彼は、それをこぼしそうになった人のピンチを救ってあげた、ということだね?」

「リーエス(はい)。それがとってもタイミングが良かったんですわ。それをわたくしのアドバイスですって、感謝されてますのよ」

「そのようだね。きみのことをまるで知ってるようじゃないか?」

「リーエス(はい)。うふふ・・・。ところで、エルド・・・」


ユティスは急に困ったような表情になった。


「なんだい?」

「そのぉ、大事なところってなんのことでしょうか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ぶふっ!」


エルドはユティスを見つめるなり、吹き出した。

「わっはっは!ユティス、なにを言いだすかと思えば!」


きょとん・・・。


「ご存知なのですね?」

「そりゃ、もう、よく知ってるよ。あっはっは」


--- ^_^ わっはっは! ---


「それで・・・?」

「男性が男性たる所以と言えば、わかるかな?」

「ん・・・?まあっ!」


かぁーーー。

ユティスは、一瞬で顔を赤く染めた。


「わははは。いかにも。で、その青年は、毎日きみにこんな日記をつけてるってわけかい?」

「リーエス(はい)。わたくし、とっても楽しみにしています」

「それはいい」

「ウツノミヤさん、いつもなにかにつけて、わたくしに感謝されてるんです」


にこっ。

ユティスは嬉しそうに微笑んだ。


「そうなのか。彼はとても素直で優しい性格のようだね」

「リーエス(はい)。きっとそうですわ」


--- ^_^ わっはっは! ---




ぐぅ・・・。

「お腹空いたぁ・・・」


和人は顧客とのタフなネゴで昼食時間を大幅に遅らせてしまっていた。いつもなら、カフェ・スターベックスには、2時間前に入っていたはずだった。


「2時か。ふぅ・・・。やっと、昼食にありつける」

「お客様、メニューはお決まりですか?」

「あ、はい。Aランチセットをお願いします」

「お飲み物は?」

「すぐ出していただいて結構です」

「かしこまりました」


にまぁ・・・。


(そう言えば・・・。あはは。傑作、傑作。昨日はちょっとおかしくて最高だったぞぉ。よし、オーダーしたものが出てくるまでに、一つ書いておこう・・・)


「ここはPC用の電源があるからいいんだよなぁ」


和人はオーダー品を待つ間に、早速PCに向かってつぶやきを書き始めた。


かたかた・・・。

キーパッドが遠慮したように鳴った。


「ユティス。オレがさ、百貨店でお手洗いを利用しようとしてたら、オレを追い越して、慌ててもう一人が入ったんだ。けど、オレに『お先にどうぞ』て言って出ちゃうんだ。オレは『ありがとう』と言って中に入ったんだけど、どっこい、だれもいないんだ。『変だな?』と思った途端、『かちゃ』って音がして、個室のドアが開いた。そこから一人出てきてさ手を洗い始めたんだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「オレはピンときて、出て行ったばかりの彼を追っかけて、『空きましたよ!』て教えたんだ。すると彼は『ありがとうございます』ってそさくさと戻ってくると、個室に消えた。けど、彼はまたすぐに出てきて、手を洗い終えて出たばかりの彼を追いかけ始めたんだ。『傘、お忘れですよぉ!』って。相当我慢してそうだったのにね・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「で、その彼氏は戻ってきて傘を受け取り、下を向いたまま、『どうも、ありがとうございます』と礼を言った。そして、再び個室のドアが閉まった。今度はドアは閉まったままで、『ざぁーーっ』て水の流れる大きな音が無事聞こえてきたんだ。可笑っしいでしょ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「その間、だれも目を合わさないでさ。あははは。みんなを絶妙のタイミングで、幸せにしてくれて、ありがとう、ユティス」


にたにた・・・。


和人は最後にエンターキーを押して、つぶやきを投稿した。それは、すぐにユティスの元にも届いた。




「わっはっは!きみの今回のサービスは超銀河救助隊並みだね!」


--- ^_^ わっはっは! ---


エルドはお腹を抱えて笑い転げた。

かぁ・・・。

ユティスは頬を赤らめた。


「まぁ。エルドったら。わたくし、身に覚えはありませんわ」

「ぷふっ。しかし、なんだね、このシチュエーション?」


「あははは、最高だよ・・・。涙が出てくる。あの状況だと、ナニを我慢するのはえらく大変だったんだろうなぁ・・・。彼にきみが一言口添えしなかったら、もっと惨劇になってたかもしれないね?」

「リーエス(はい)。お気の毒でしたわ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ぷふっ・・・。だめだぁ。わっはっは」

「まぁ、下品ですわ、エルド。でも、うふふ。やっぱり可笑しいです」

「まったくだ!また、次が来たら、ぜひ読んで聞かせてくれたまえ。きみ独りで楽しむだなんて、罪だよ。ユティス」

「リーエス。うふふ」


「ところで・・・」

エルドはやっと笑いを終えると、真面目な顔に戻った。

「彼の名前はわかってるのかい?」

「リーエス(はい)。ウツノミヤ・カズトさん・・・」

「ウツノミアか・・・。ずいぶんと変わった名前だな。女の子みたいだぞ・・・」

「ですから、エルフィア文明圏の人じゃないと思います」

「そういうことになるのだろうな・・・」

「それにしても、どこの世界の方でしょうか?」

「そうだな。エルフィアでないとしたら、支援先のどこかとか?」

「それでもないようです」

「そうすると、われわれにとっては、まったく初めての世界ということか・・・」

「そうだ思います」

「その世界の名前はわかってるのかい?」

「ナナン(いいえ)」


ユティスは静かに首を横に振った。


「では、文明段階のカテゴリーはわかりそうかな?」

「ナナン(いいえ)、正確には。情報不足ですわ」

「カテゴリー1ということはないだろうね?」

「恐らくは大丈夫だと思います。コンピューターのネットワークが存在するレベルですから。カテゴリー2には入っているのではないかと思います」

「なるほど。きみの推測は大体において当たる」

「うふふ。パジューレ(どういたしまして)。とっても興味がわきますわ」

「おいおい、ユティス。まさか、きみ自身がそこを調査をするつもりじゃないだろうね?」


エルドは不安そうにユティスを見つめた。


「リーエス(はい)。いけませんでしょうか?」

「ナナン(いや)。ただ、きみも前のミッションが、ああいう形で中止となったことで、大変なショックだったろうと思ってるんだ。まだ、心の奥底で糸を引いているんじゃないかとね・・・」

「リーエス(はい)。エルドには多大なご心配をおかけして、申し訳ございません。わたくしがあのような極限状況を経験しましたのも、意味のあることなんではないかと・・・」

「最高理事としてというより、わたしが個人的にだね・・・」

「エージェントのライセンスは取り戻していただけますの?」

「リーエス(ああ)。既にドクターからは了解をもらっているよ」

「嬉しい・・・」


ほっ。

ユティスは安堵した。


「ま、あれから随分時間が経ったことだし、この様子なら、今のきみはもう立ち直っていると思えるよ」

「リーエス(はい)。んふ?」


ぶらぶら・・・。

ユティスは、胸の前で、わざと両手をぶらぶらさせた。


「わかった、わかったよ。手持ち無沙汰なら、そこを試してみるのも悪いことじゃない」


にっこり。

「んふ」

ユティスはエルドに微笑んだ。


「ぜひとも・・・」

エルドはユティスが前のミッション中止のショックから立ち直ったことを確信した。


「ライセンスの取り戻しの件は、わたしに任せてくれないか?わたしが委員会の理事たちを説得するよ」

「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)」

「だけど、十二分に、気をつけてくれたまえ」

「リーエス(はい)。それでは、ウツノミヤさんに3日期限のメッセージをお届けしてもよろしいですよね?」

「かまわんよ。だが、もし返事があったとしても、そこにすっ飛んで行くというのは勘弁してくれよ・・・」


にっこり。


「リーエス(はい)。アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)、エルド。うふふ」


満面の笑みを浮かべたユティスを、エルドは優しく見守った。

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