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399 鳴声

「アンニフィルドです。いやぁ、なんか酔っ払っちゃって、なにがなんだかよく覚えてないんだけどぉ・・・、とにかく、ミリエルのネンネ、歳の割には手強いわねぇ・・・。あ、そうそう、ケームのランベル・ベニオス(ランベニオ)の下に戻ったジニーだけど、どうやらとんでもないことを彼に指摘したみたい。これこそが、メローズの筋書きだったのよぉ・・・。ジニーはランベニオを動かすことできるのかしら・・・?ちょと心配だわ・・・」

■鳴声■




しゅわん・・・。


有機体アンドロイドのアンデフロル・デュメーラは、母船のアンデフロル・デユメーラに指示を出し、夜の繁華街の裏通りに降り立とうとしていた。


「おい、今、空気が変な揺れ方しなかったか?」

「そっかぁ。おまえ、飲み過ぎだろ?なぁーーーんも、ない!」


「いや、待て、あそこ・・・」

「うん・・・?」


一人が指差したところは白い光が女から消えていくところだった。

ぽわぁ・・・っ。


すすす・・・。

女は笑顔で二人のところに滑るようにしてかなりの速度でやってきた。


「お、おい・・・。あの白装束の女、空中を滑って歩いてるぞ・・・」

「う、浮いてる・・・」


「まさかな・・・」

「こっちに来る・・・」

二人はすでに逃げ腰だった。


「そう言やぁ、昔、この辺は、遊郭の女郎が忍びの武家との恋破れ、井戸に身を投げて死んだという言い伝えのあるところだぞ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「おお。オレも聞いたことあるぞ、それ・・・」

「で、時々、出るんだと・・・」


「お、おまえ、そのお武家に似てるんじゃねぇのか・・・?」

どっきん!


--- ^_^ わっはっは! ---


「バ、バカ言うなよ。うちは代々百姓だ・・・」

ぶるっ!


いよいよ、その怪しげな白装束の若い女は二人の数メートル手前までやってきた。

すぅ・・・。


(夜の街で男性に会った時にはこうでしたね、リッキーさん?両手を胸の前にもってきて、手の甲を垂らす。そして、親愛を込めて・・・)


「わたくしと恋をしませんかぁ・・・?うらめしやぁ・・・!」

にこ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「わっ!出たぁーーー!」

「ユ、ユーレイだぁ!」


どたばた・・・!


「た、助けてくれぇーーー!」


どたばた!


--- ^_^ わっはっは! ---


「あ、あのぅ・・・。どうかしましたか、社長さん・・・?」

アンデフロル・デュメーラは、腰を抜かして逃げていく二人連れを、あっけに取られて目で追った。


(おかしいですね。リッキーさんの指示どおりなんですけど・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


そして、今度は反対方向から中年男性が千鳥足で近づいてきた。


「おんやぁ・・・?きみ、見かけないかっこうしてるねぇ・・・?」


彼は白装束に包まれた美しくも怪しげな雰囲気のアンデフロル・デュメーラの前で立ち止まると、目をしばだたせて眼鏡を拭いた。


きゅ、きゅ・・・。


「わたくしも初めてです、社長さん・・・」

にこ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「はい。はい。社長ですよぉ、わたしは・・・。で、こんばんわ、お嬢さん・・・」


すぅ・・・。

アンデフロル・デュメーラは両手の甲を自分の胸の前で垂らした。


「リーエス。わたくしと恋をしませんかぁ・・・?うらめしやぁ・・・」


ひくっ!


--- ^_^ わっはっは! ---


「出、出たぁーーー!」

どたんばたん、どたばた・・・!


「あわわわぁ!」

ぼっかぁーーーん。


「ひぃーーー!おかぁちゃーーーん!」

中年男性は引っくり返りそうになりながら逃げていった。


--- ^_^ わっはっは! ---


(またです。おかしいです。どうして、みなさん、わたくしからお逃げになられるのでしょうか・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「およ?白装束のやばそうな姉ちゃんがいるぜ・・・」

「どれ?あ、ホントだ」


また、若くて少しとっぽいアンチャンたちがポケットに両手を突っ込んだままアンデフロル・デュメーラに近づいていった。


ちゃら、ちゃら・・・。


「なぁ、可愛い娘ちゃん、ユーレイのコスプレかい?」

「えへへ。オレたち美人のユーレイには優しいんだぜ。ブスはさておき・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ねぇ、オレたちといいことしない?」

「ねぇ、ねぇ!昇天したくはねぇのかい?」


「昇天・・・?」

「そう。そう。ちゃんと成仏させてやるぜ」


--- ^_^ わっはっは! ---


この二人は少なくとも恐がってはいなかった。


「オレは信也。こいつは・・・」

「ボーヤですか?」


「わっはっは。面白ぇ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「はっは。オレは次郎だ。あんたは、可愛い娘ちゃん?」


(あくまで丁寧に控え目にと・・・)


「わたくしは、アンデフロル・デュメーラ・・・。うらめしやぁ・・・」

アンデフロル・デュメーラは両手の甲を胸の前でぶら下げ、弱々しい声で言った。


「いっ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


ぽとり・・・。

男の口からタバコが落ちた。


「い、今、な、なんて言った・・・?」


ぶるっ・・・。

びくっ。

男の身体が震えた。


「わたくしは・・・、アンデフロル・デュメーラ」

にこ・・・。


「『なんで震える、おめーら』、だとぉ・・・?」

「ぶるってなんかねぇ・・・・ぞぉ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


すぅ・・・。


「お、おい!あ、足が浮いてるぞぉ・・・!」


すすぅ・・・。

音もなく、足も動かさず、アンデフロル・デュメーラは数メートルを移動した。


「わたくしと恋しませんかぁ・・・。うらめしやぁ・・・」


「ぎゃあ!ホ、ホンモノだぁーーー!」

「出たぁ!!!!」


どたばた・・・!


--- ^_^ わっはっは! ---


(またです。ひょっとして、お化粧とか衣装がよろしくないのでしょうか・・・?それとも、わたくしは嫌われているんでしょうか・・・?)


--- ^_^ わっはっは! ---


可哀想に、なにも知らないアンデフロル・デュメーラは、不安が胸いっぱいに広がるのを感じた。




「リッキー、あなた、なんてことしてくれたの!」

エストロ5級母船の中では、リッキーと同じくZ国から亡命中のジェニーが彼に噛み付いていた。


「あれが最良の策だと思ったのにな・・・」

リッキーはジェニーを振り返った。


「どこが!」

むかっ!


「夜の繁華街をうろつくだなんて、危険過ぎるんで、絶対に止めたいんだったよな?」

リッキーは平然として言った。


「そうよ。だけどよぉ・・・!」

「だけど、彼女はどうしても行くと言ってきかなかった。みんなが止めても無駄だった。きみも知ってるはずだろう?」


ぱっ・・・。

リッキーはどうしようもないというように両手を広げた。


「だからと言って、あの格好はどうよ?せっかく結った髪まで下ろして、まるで経帷子を着た幽霊じゃない?」

ジェニーは不満たらたらだった。


「ああ、参考にしたのはそれだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「バカ言わないでよぉ!」


かっか!

ジェニーは沸騰した。


「いざと言う時、彼女自身でナンパ野郎たちから自衛しなきゃならないんだからな」

リッキーはジェニーを見つめて静かに言った。


「他にも方法があったでしょうに?」

「護身術を取得する時間はなかった」


--- ^_^ わっはっは! ---


「だけど、彼女自身、母船のCPUじゃない?いざと言う時、自分で自身を転送できるはずよ?どうして、そう指示してあげないの?!」

ジニーは不満をリッキーにぶちまけた。


「彼女にする気があればの話だ。だが、彼女はそれ以上の好奇心にどうしようもなく動かされている。彼女自身がなにか学ぶまでは、当分帰って来ないな」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あなたが十分に説得すればよかったのよぉ!」

ジェニーは、自分ではどうにもできない気持ちを、当座、目の前にいるリッキーにぶつけた。


「うん?きみ自身ができなかったことを、オレに要求するのか、ジェニー・・・?」

じろ・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「うっ・・・。だけど・・・」

ジェニーは冷静に対応するリッキーに盲点を突かれ、次の言葉を飲み込んだ。


「ちょっと待て。もう一度要点を押さえておこう。彼女が夜にうろつくためのドクター・エスチェルの条件は、一に安全、二に安全、三に安全、四に安全。ナンパ男たちから、絶対に貞操を守ることだ。違うか?」

リッキーはゆっくりと言った。


「そうだわよぉ。だから、なによ?」

ジェニーはリッキーが彼女を言いくるめようとしているのではと疑った。


「しかし、恋をするには男と出会わなければならない。違うか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ、そうなるわね・・・」

ジェニーはそれを認めざるをえなかった。


「本人の希望で、できれば、夜の繁華街で・・・」

「はぁ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「けれど、ナンパ野郎には手を出させない。合ってるか?」

リッキーは続けた。


「そうよ・・・」

「この際、ブ男は例外なく除外するとして・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「つまり、イケメンと会っても変な輩なら逃げ出すことにする。これでいいか?」

リッキーは結論を言った。


「ええ・・・」

「逃げ出せないなら、そいつらは追っ払う。逃げるつもりがないのも同様に。どうだ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ・・・、逃げるつもりもないなら、そうするしかないかもしれない・・・」

ジェニーはリッキーの説明に頷くしかなかった。


「悪いな。つまり、あれ以上の策は思いつかなかった。そういうことだ」

要は、リッキーが考え直すことはないらしい。


--- ^_^ わっはっは! ---


「かといって、濡れ髪を下ろして経帷子もどきを着てたんじゃあ、ナンパ男どころか、人類のすべてが腰を抜かして逃げてしまうわ・・・」

ジェニーは心配そうにリッキーを見た。


「仏教徒だけだろ?日本特別仕様だと聞いているぞ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「でも・・・」

「最大公約数を取った結果だ」


「とにかく、彼女のドレスに使ったわたしのシーツを返して!」

「ドレス?あれがか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ふふーーーん。やっぱり、きみの論点はそういうことだったのか・・・」

リッキーにはジェニーがご機嫌斜めの本当の理由がわかっていた。


「やっぱりじゃないわ、リッキー!」

かちん!


「一番清潔そうで、加工するのにちょうどよかったんだ。元と言えば、きみのお袋のアイデアだぞ?」

リッキーは反論した。


--- ^_^ わっはっは! ---


「わかってるわよぉ!」

「きみのお袋は裁縫に長けているな。あっという間に採寸裁断したぞ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「だから、今日わたしが寝るベッドのシーツをどうしてくれるのよぉ!」

「そんなもの、母船に頼めよ。毎日新品が支給されてるじゃないか」


「今晩の分を取ったんでしょうが!」

ジェニーは自分の不安と怒りの原因に気付いた。


「今、考え中。考え中・・・。ぴこぴこ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「それに、彼女は繁華街でうろついてるじゃない!どうやって頼むのよぉ!」

「きみもシーツを羽織ってアンデフロル・デュメーラとダブルで繁華街に行くとか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「イヤよ!本国のエージェントに監視されたくないもの。あの界隈で、エスパーの彼らを出し抜いて、お忍びで歩けるなんて思わないで!」


ジェニーもリッキーも、家族ごと危うく鉱山の強制労働につかされるところだった。


「そこだな。警戒すべきはナンパ野郎共より本国の連中だ。やつらは、エルフィアのテクノロジーを決して諦めることはない」


リッキーやジェニーが意外にあっさりと開放されたのは、ユティスたちが本国のやり口に介入したからでもあった。


「じゃあ、エルフィアのバイオ・テクノロジーの塊の有機体アンドロイド、アンデフロル・デュメーラが降りていったってことは・・・」

ジェニーはリッキーを見つめて不安げに言った。


「本国のやつらに狙われる可能性もなきにしもあらず。フェリシアスに一応報告を入れるとするか?」

「その方がいいと思うわ」


「じゃあ、そういうことで」


--- ^_^ わっはっは! ---


リッキーは右手を上げた。


「待ちなさいよ、リッキー!わたしのシーツはどうしてくれるのよぉ?誤魔化そうったって、そうは問屋が降ろさないわよ!」

ジェニーはしっかりと怒りの原因を押さえた。


「仕方ない。オレのを使えよ。さっき寝転がったんで一部が汚れているかもしれんが?」

にや・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「よ、汚れ・・・?不、不潔!変体!絶対にイヤ!」


ばったん!

ジェニーは部屋を出ていった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「お母ぁーーーさん、わたしのシーツどうしてくれるのよぉ!」


「はぁ・・・。やれやれ・・・」

リッキーは閉められたドアを見つめて溜息をついた。




「いいね。ユティスとまったりできるなんて、滅多にないもの・・・」


ユティスは和人と仲良く大浴場にまったり浸かって、満天の星空を堪能していた。宇宙船の光学システムのおかげで、天井のガラスは湯気いっぱいにも係わらず、まるでガラスなどないように少しも曇ってはいなかった。


「とっても気持ちがいいですわ」

「リーエス。そうだね」


「和人さんを精神体でエルフィアにお招きした時、夜空をご一緒になりました。その時以来かもしれませんね」

ユティスは楽しげに言った。


「リーエス。日本の都市部じゃ考えられないよ。それに、1400光年も離れれば見慣れた星座は皆無だよね?」

夜空には、地球から見える星座など、もちろんなかった。


「うふふふ。では、わたくしたちで、この星の星座を作ってみませんか?」

ユティスが提案した。


「リーエス。それは面白そうだね。あはは」

和人は同意した。


「ほら、あそこ。あの明るい星と周りの星たちを繋げば、和人さんの車に見えませんか?」

「どれどれ・・・?」


(あれとあれを結んで・・・。あ、こっちが前だなぁ・・・。すると、これはタイヤだな・・・)

和人はユティスの指差す星を追って、愛車のソヨタ・カローナの形を思い浮かべた。


「あ、ホントだ。カローナの形に似てるよ。さしずめ、車座ってとこかな」

にこ。


「では、車座には、なんの言い伝えがあるんでしょうか?」

星座には神話や民話などの逸話がつきものだ。


「そうだな。地球の神話を今風にアレンジすると、大体こんな感じかな・・・。可愛い女の子を乗せた若者が、10年10万キロの中古のカローナをローンで買って・・・」


「中古車をローンで、ですか・・・?」

「リーエス。就職してまだ半年なんだよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「それでもって、初デートで女の子に見とれていた若者はスピードオーバーして、カーブを曲がり切れずにガードレールを飛び越えて、反対車線で二人とも爆死した。それを可哀想に思った神さまが天に上げてくれて星になった、とか・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ・・・!とっても悲惨なお話ですわ・・・」

ユティスは悲しげに言った。


「一応、天国に行ったんだけど・・・。やっぱり・・・、だめだよね?」


ぽりぽり・・・。

和人は頭を掻いた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「リーエス。だって、その車、和人さんのカローナですよぉ・・・」

ユティスが指摘した。


「そっかぁ・・・。ええ、オレのカローナだってぇ・・・??」


--- ^_^ わっはっは! ---


「リーエス。それに、乗ってる女の子ってのは、たぶん・・・」

ユティスは眉をひそめ声を低くした。


「ダメ。ダメ。ダメ!しゃれにならないよ、それ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「では、意見の一致を見ましたので、却下します」


にこ。

一転、ユティスは笑顔に戻った。


「了解します」


--- ^_^ わっはっは! ---


「じゃあ、ユティスの逸話を聞かせてよ」

和人はユティスの話に期待した。


「そうですね。きっと、その車は幸せを運んでいるんです。この車に乗ったカップルはみんな幸せな連れ合いになって、一生幸せに暮らすんです・・・。いつかは、目の前に現れる幸せの車・・・。みんなが願いをかける幸せの車です」


にこ。

ユティスは幸せそうに微笑んだ。


「あはぁ・・・。いかにも女の子、女の子したロマンチックな逸話だね?」

にこ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あら、お気に召しません?」

ユティスはやんわりと尋ねた。


「リーエス。とってもステキだと思うよ。みんなが幸せな連れ合いになるって・・・」

そこで、和人ははたと気付いた。


「あれ、今、連れ合いって言ったっけ・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「リーエス。ステキな連れ合いです。一生幸せな・・・」

ユティスが湯船の中で温まり、彼女の頬はピンクに染まった。


にっこり。

ユティスはなんとも言えない微笑を湛えた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「オレの車だよね・・・?」

どっきん。


「リーエス。カローナです」

にこ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「乗ってる二人が・・・?」


「リーエス。乗ってる二人です」

にこ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ユ、ユティス・・・?」

どきどき・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「リーエス?」

にっこり。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あはは。それ、とってもいい逸話だね。採用しようよ。うん。これしかない!」


「まぁ、嬉しい・・・!」

にこにこ。


「ちゅっ!」

「・・・!」


--- ^_^ わっはっは! ---




そして、それはいきなりだった。


がらぁーーーっ。

いきなり大浴場のドアが開き、威勢のいい人影が現れた。


「わっほう。だれもいないっす。貸切っすよぉ!イザベルちゃん!」

「はい。本当に星明りの中のだけで入るんですね?」


入ってきたのは、二宮とイザベルだった。


「電気つけたら、悲鳴上げますからね・・・」

かなり動揺しているのか、イザベルの声は引っくり返りそうになった。


「うっす。つけないっす。イザベルちゃんが恥ずかしがるっすから」


「あ、当たり前です。いくらお付き合いしてる仲とは言っても、混浴となると普通はそうです!」

イザベルがびしりと言った。


「しかし、びっくりしたっすよぉ。イザベルちゃんが本当に着けてくれるんすから・・・」

二宮の声は本当に嬉しそうだった。


「仕方がなかったからです。由緒あるお武家の末裔、二宮家の祐樹さんが、なんで浴帷子ゆかたびらの一枚やそこらを持ってきてくれてないんですか?」


「うちの家族はハイカラで通ってて、いつも手拭いだけっすよぉ」

「いつの時代ですか!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わたしの分をいってるんですけどぉ?祐樹さんが全部用意してあるって、言ったじゃないですか!」

イザベルは二宮に抗議した。


「ですから、老舗越中高岡屋の真っ赤なファッショナブルふんどしと、老舗伊予今治堂の手拭い二人分っすよぉ?」

二宮の声は相変わらず明るかった。


「一応、ブランド物ってわけですね・・・。あはは・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---




「ランベニオ・・・、わたし、言わなくちゃいけないことがあるの・・・」

ジニーは笑顔を引っ込めた。


「なんじゃな?」


ランベル・ベニオスは、なにやら、ジニーが重大なことを言おうとしていることに、なんとなく不安を覚えた。


「超銀河転送システムよ。あれって、一瞬で何億光年も人間を転送できるんでしょ?」

「ああ。そうやって、おまいさんはケームに戻ってきたんじゃ。そうじゃろう?」


ランベル・ベニオスは引退をしていたが、長年超銀河間転送システムのメンテナンスを手がけてきたスペッシャリストだった。


「リーエス。その超銀河転送システムが本格稼動を再開するの」

この情報を伝えることは、ブレストがランベル・ベニオスに頼んだものだった。


「ジニー、おまいさんが帰ってきたのは試験稼動じゃろう?」

ランベル・ベニオスはやんわりと言った。


「リーエス。わたしの転送が上手くいったので、今度は本格稼動なの。エルドが言ってたわ・・・」

ジニーはこれを伝える義務があるとばかりに言った。


「おまいさんはメローズだけでなく、エルドにも会ったのか?」

ジニーからエルドと聞いても、今日のランベル・ベニオスの声の調子はそのままだった。


「リーエス。ランベニオ、それがあなたのお仕事だってことはわかってるつもりよ。でも、超銀河転送がどれだけ大変か・・・、わたしにも想像できるわ・・・」

ジニーはじっとランベル・ベニオスを見つめた。


「なにが言いたいんじゃ?」

「あなたの仕掛けた転送プログラムを元に戻して・・・。もう、1日しかないのよ・・・」


はっ!

ランベル・ベニオスはジニーには話してもいないことを指摘された。


「なに、転送プログラムじゃと・・・?なんで、おまいさんが知っておる・・・?ジニー、エルドになにを言われた?」

ランベル・ベニオスの顔に不安が過ぎった。


「ナナン。これはわたしの感じたことよ」

ジニーは落ち着いて答えた。


「おまいさん自身が感じたというのか・・・?」

ランベル・ベニオスはゆっくりとジニーの言葉を反芻した。


「リーエス。そうよ。あなたは自分自身に超銀河自動転送を設定した。そうでしょ?ランベニオ、あなたはイラージュに行っちゃうの?わたしをここに置いて・・・」

ジニー指摘は完全にランベル・ベニオスの虚を突いていた。


「な、なんじゃとぉ・・・?」


はっ!

ランベル・ベニオスは重大なことを忘れていた。完璧に・・・。


「ジニー・・・。まさか、おまいさんは・・・」

ランベル・ベニオスの口は大きく開いたままになった。


「わたし、知ってるわ。ピュレステル・デュレッカによる超銀河間転送の本格再開の第一転送が、そのキックキーでしょ?もし、あなたが転送プログラムを解除しないなら、わたしはケームに置いてけぼり・・・。間違ってるかしら・・・?」

ジニーは悲しげに言った。


「な、なんと・・・」

ランベル・ベニオスは何ヶ月も前にその仕掛けをし終えていた。


「た、確かに・・・。おまいさんの言うとおりじゃて・・・」

ランベル・ベニオスはそれが事実だと認めざるをえなかった。


「わたしが有機体アンドロイドになったから?だから、エルフィアには行くなということだったの・・・?」

ジニーの声は悲しみ震えていた。


「それは違うぞ、ジニー・・・!」

ランベル・ベニオスは必死の思いで否定した。


ジニーが有機体アンドロイドになりたくなるようなことや、ましてや、ランベル・ベニオス自身が有機体アンドロイドのジニーと一緒になれるだろうことなど、そのようなどんなことも、当時の彼には予想だにできなかった。完全にイレギュラーだった。


「すまん、ジニー・・・。わしはこのような事態になろうことなど、想定することすらしておらなんだ・・・」

ランベル・ベニオスは激しく動揺していた。


「お仕事だものね・・・。ブレストとかいう変な人に伝えるんでしょ?ピュレステル・デュレッカの第一回目の超銀河間転送を。それが、わたしとのさよならになるのね・・・?」


ぴしゃーーーんっ!

ジニーの言うことは、まさに彼女の指摘のとおりで、彼にとっては晴天の霹靂だった。


「なんとしたことか・・・」

がきがく・・・。


ランベル・ベニオスのショックはとてつもなく大きく、彼の肩は震え、どん底に叩き込まれたような気分だった。


「せっかく思いが伝わったというのに、わたしを置いて行くの・・・?」

ジニーの声は悲しみに満ち弱々しかった。


「バ、バカな・・・。わしがそのようなことをするとでも・・・」


ランベル・ベニオスは、ジニーが有機体アンドロイドになることはまったくの予定外で、それに対する転送対応はなにもしてなかったのだ。このままだと、確実にジニーはケームに置いてけぼりだった。


「後、1日なのね・・・」

ジニーは目を閉じて動かなくなった。


「お、おぅ・・・、ジニー・・・!ジニー・・・!」


はぁ・・・、はぁ・・・!

その刻一刻が最後の時を刻んでいるのだ。ランベル・ベニオスは心臓を鷲掴みにされたように喘いだ。


「わたしを置いていかないで、ランベニオ・・・。一人にさせないでよ・・・。ううう・・・」


つつぅ・・・。

嗚咽を堪えるジニーの閉じた両目からは涙が溢れ、一筋がその頬を伝わり落ちてきた。


「・・・」


ぐらり・・・。

すとん・・・。


全身から力がすべて抜け落ちたかのように、ジニーは両膝をつきランベル・ベニオスにもたれかかった。


「ううう・・・」

ジニーの悲しみの呻きが漏れてきた。


「ジニー!」


ぎゅぅ・・・。

終にランベル・ベニオスは選択し、そして、ジニーを抱き止めた。


「悪かった。わしが悪かった。おまいさんを置いて行くなど、どうしてできようか・・・」

ランベル・ベニオスの声は震えていた。


「わしは行かん。おまいさん抜きでは絶対にどこへも行かん」

ぎゅ・・・。


今、彼は自身の気持ちに気付き、それを認めたのだ。もう、自分にだけにはウソはつきたくなかった。


「じゃあ・・・、イラージュへの転送はキャンセルしてくれるの?」

ジニーが弱々しく言った。


「ああ、できるんならば、今すぐにでもそうしたい」

ランベル・ベニオスは大きく頷いた。


「じゃあ、そうして!」

ジニーは悲しみを湛えた声で振り絞るように言った。


「それが・・・。どうすれば、ええんじゃろう・・・?」

ランベル・ベニオスは自問自答し肩を落とした。


--- ^_^ わっはっは! ---


「できないの?」

ジニーの声は沈んだままだった。


「わしは・・・、ケームのわしの部屋からすべての転送指示を入れたんじゃ。じゃから、ピュレステル・デュレッカの中からは、もう、どうしようもない・・・。エルドもスーパーバイザーのコード『00』を発動しておる。アルゴリズムも変更された。今から、システムへのアクセスすることはすべて探知され、どのような手を使うても、いかなるプロシジャもブロックされよう。即座に、わしは弾き出されるじゃろうて・・・」


ランベル・ベニオスは現状を整理しようとしたが、上手い対応策はとっさに出てこなかった。


「じゃあ、あなたにはもう術がないということなの?」

ジニーは涙を湛えたまま空ろな目できいた。


「わからん・・・。ピュレステル・デュレッカ次第じゃな・・・」

ランベル・ベニオスは苦しげにジニーに言った。


「だったら、わたしに任せてはくれないの?」

ジニーは決心したように顔を上げ、一縷の望みと共に、ランベル・ベニオスを見つめた。


「なんじゃとぉ・・・?」

またまた、ランベル・ベニオスは予想すらしていなかったことに仰天した。


「ジニー、おまいさん・・・、ピュレステル・デュレッカに交渉するというのか・・・?」

少なくとも、ランベル・ベニオスの知る限り、ジニーがピュレステル・デュレッカと良い仲とはいえなかった。


「ナナン。アンデフロル・デュメーラにお願いしてみるの。あの人から頼んでもらうわ。大切なことだから、きっと聞いてくれるわ。もう、お友だちなの。彼女がそう思っていてくれればだけど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「アンデフロル・デュメーラに?あの地球常駐の母船と友だちじゃとぉ・・・?」

ランベル・ベニオスはジニーがどこでアンデフロル・デュメーラと知り合ったのか思いもつかなかった。


「リーエス。ピュレステル・デュレッカにはさんざん憎まれ口叩いてきたから、きっとわたしの話なんか聞いてくれないと思うわ・・・」

ジニーは明らかに後悔していた。


「おまいさんほどじゃないじゃろうがな・・・」

それを知らずに、ランベル・ベニオスが突っついた格好になった。


「酷い、ランベニオ・・・」

ジニーは当然なことをしてきたとはいえ、彼に口にされてショックだった。


「ジニー、悪かった・・・」

ランベル・ベニオスはすぐに謝った。


「任せてはくれないの?」

もう一度、ジニーはランベル・ベニオスにきいた。


「わかった。好きにするがええ。どのみち、わしにはどうにもできん・・・」

こくん・・・。


ランベル・ベニオスは、ジニーの申し出以上の上手い手段を、どうにも思いつくことができなかった。


「リーエス。アルダリーム(ありがとう)、ランベニオ・・・」


ぎゅ・・・。

ちゅ・・・。


ジニーはランベル・ベニオスにそっと抱きつくと、これが最後かとばかりに優しくキッスをした。




「和人さん・・・?」

ユティスは大浴場の湯船の中で、声を小さくして和人に耳打ちした。


「まずい。先輩とイザベルさんだ・・・」

「リーエス・・・。どうしましょう・・・?」


ぷちゃん・・・。


「見つかったら、面倒なことになるぞ・・・」

「そぅ・・・っと、ですね・・・?」


「こっちだよ、ユティス・・・」

「リーエス・・・」


すすぅ・・・。

和人は、星明りの下、暗がりを大きな岩の陰にユティスと移動した。


「イザベルちゃん、足元、気をつけるっす」

二宮が手を貸そうとしたがイザベルは断った。


「だめです。そんな手には乗りません」

イザベルは両手を前に組んで、決してそこを離そうとはしない様子だった。


「そんなつもりはないっすよぉ・・・」

「どうだか・・・」


「まぁ、二宮さん、変わった水着をしていらっしゃいますわ・・・」

二宮の姿にユティスは目を丸くした。


「それ、フンドシだよぉ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「フンドシ?」

「日本男子の古来から伝わる幻の水着だね・。今時、それをつける人はお祭りの男衆くらいのもんだけど・・・。先輩らしいや・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「立派ですわぁ・・・」

「どこ見て言ってるの、ユティス?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「もちろん、二宮さんのフンドシ姿です。とっても筋肉質で均整が取れたお体ですわ」

「そ、そうだよね。あはは・・・」


武道で鍛えた二宮のプチマッチョな身体を見て、マッスル姿に自信のない和人は力なく笑った。


「しっかし、超ラッキーっす。うはは・・・」

二宮はイザベルの隣ででれでれになっていた。


「もう、祐樹さんったら、エッチなんだから!」

「自分はイザベルちゃんだけにっすよぉ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「祐樹さんは今だけです。まったく調子いいんだから・・・。ユティスさんがいたら、いたらで、そっちに釘付けになるくせに・・・」

イザベルの不満そうな声が大浴場に響いた。


「げげげ・・・」

和人はユティスと見合った。


「ここにいるけど・・・?」

「リーエス・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ・・・、イザベルさんたら・・・」

ユティスがそれを目にして口をあんぐりと開けた。


「イ、イザベルさんまでも・・・。女性も、あれをするんですか?」

「たぶん、一般的にはしないんじゃないかな・・・」


イザベルは二宮と同じく真っ赤なフンドシ姿だった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「水着を持ってくるのを忘れたイザベルちゃんがいけないんすよぉ」

二宮の声が響いた。


「わ、わかってます!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「自分が未使用2着持っていて良かったっすね?」

二宮の声は妙に明るかった。


「どうも!これ、絶対に返しませんからね。お宝にされたらたまりません」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うっす。いやいや、こういうのをペアルックって言うんすかね?」

「言いません。ばか!エッチ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「絶対に、電気点けないでくださいよぉ!」

「うっす。そんな贅沢はしないっす」


「まったく・・・。女の子にこんなものを穿かすなんて、祐樹さんは変体さんです!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なにを言ってるんすか。国宝級の伝統ある品っすよぉ?こんなものとはないっす。これがなかったら、イザベルちゃんはすっぽんっぽんっすよぉ。それでもよかったんなら、自分はそれも大歓迎なんすけど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わかりました!ありがとうございます、祐樹さん!」

ばしゃ!


「イザベルちゃん・・・?」

「きゃ!さ、触らないでください・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「イザベルさん、どうして両腕をいつまでも前に押し付けたままで・・・?」

ユティスが不思議がった。


「どうやら、上にはバスタオルもなにも着けていないようだよ・・・」

湯気越しに和人は確認しようとした。


「確かに、なにも身にお付になってはいませんわ・・・」

「えええ・・・?!つぅことは・・・、やっぱり、イザベルさん、ト、トップレスかぁ・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


じゃばじゃば・・・。

二宮が後ろのイザベルを振り返ろうとした。


「だーめ!祐樹さん、後ろ向いててください!」

「うーーーっす」


ちゃぷん・・・。

イザベルは慌てて湯船に身を沈めたが、湯の中に入ってもしっかり両手で前を覆っていた。


「見ちゃダメです、和人さんも!」


--- ^_^ わっはっは! ---


ばっ。

ユティスが和人の目を手で隠した。


「見、見てないってば」

イザベルがトップレスなのはもう明白だった。


「どうせ見るのなら、わたくしのにしてください・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


ユティスは胸の谷間の結び目に手をやった。


「だぁーーー!なにしてんだよぉ、ユティス?それを解いちゃダメだってば!」

「だって、その方がイザベルさんにもフェアだと・・・」


「余計、事態が悪くなるってば!」


--- ^_^ わっはっは! ---


ばしゃ、ばしゃ!


「だ、だれだぁ!」

当然ではあったが、二宮の声が大浴場に響いた。


「ユティス・・・!」

「和人さんがイザベルさんに気を取られるからです・・・」

ユティスは小声で囁いた。


「にゃお・・・」

和人が鳴いた。


「なんだ猫か・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「宇宙船のお風呂に、猫なんているわけないです!」

イザベルが猫のなき声がした方を見つめて警戒した。


「そうっすよね・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「和人さん、なにをおやりになってるんですか・・・」

「いや、ついうっかり落語のオチが頭に過ぎっちゃって・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そもそも、ここは宇宙船の中です。地球から1400キロも離れてるんですよ!」

イザベルが二宮に向き直って言った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「1500キロじゃなかったすか?」

これも間違いだった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「もう少し遠いかな・・・。ね、ユティス?」

「リーエス。1400光年ですわ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---

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