391 決意
「はぁい、アンイフィルドです。前回に引き続いて、今回も地球のとは比べ物にならないくらいの進んだ量子コンピューターの人工知能が作り出す、擬似精神体にまつわるお話よ。ジニーはランベニオの作った美少女恋愛ゲームのメインヒロインなんだけど、ランベニオが熱心にプレイしたおかげで、とんでもなく本物の女の子のような人格を持つまでになっちゃったの。ところが、どっこい、これがわたしたちエルフィア人に大きな問題提起となるのよねぇ。詳細は、もうちょっと先になるけどね。あは」
■決意■
ぴっ。
「メローズ、ドクター・エスチェルです」
「おや、珍しい。メローズ、ドクター・エスチェルからきみに話かい?」
エルフィアのエルドの執務室で、エルドは秘書に話しかけた。
「そうみたいです。ちょっと殿方はお席をお外しに・・・」
エスチェルの仕草を確認すると、メローズはエルドを振り返った。
「なんだ、なんだ?男のわたしは邪魔者かね?」
エルドはおどけたジェスチャーを取った。
「女性同士の会を盗聴する趣味がおありなら構いませんが・・・」
ぱち。
メローズはウィンクした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「生憎、そんな趣味は持ち合わせておらんね」
エルドは両手を広げるとさっさと部屋を出て行った。
「それで、エスチェル、緊急事態でも?」
メローズはエルドが退室するのを見届けてエスチェルとの会話を再開した。
「ある意味でね・・・」
エスチェルは含みを持たせた。
「どうしたの?」
「それがね、弱ったことになったの・・・」
「ジニーの件?」
「関係がないとは言えないわ。問題は成人有機体アンドロイドの人格覚醒前の身体がもう一体すぐに工面できるかどうかなの」
「どういうこと?」
「アンデフロル・デュメーラよ・・・」
エスチェルは溜息をついた。
「アンデフロル・デュメーラですって?」
「リーエス。あのエストロ5級母船の擬似精神体のアンデフロル・デュメーラよ」
「彼女、故障でも?」
「ありえない・・・」
「なんなの?」
「話すとなると長くなるんだけど、同じ量子コンピュータ内の擬似精神体同士、ジニーの影響を完璧に受けたわね」
「ジニーってランベル・ベニオスの作ったゲームキャラ、ツンデレお嬢ちゃん?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。それ。彼女。ジニーったら、恋の素晴らしさだとか、自分が有機体アンドロイドになって恋を成就するんだとか、そんなことをアンデフロル・デュメーラにとくとくと語ったらしいの、光速通信で・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それのどこが心配なの?」
「つまりね、自分もジニーみたいな恋をしてみたいんで、有機体アンドロイドにしてくれって、わたしに言ってきたのよ。メローズに頼んだら自分もそうなれるからって・・・」
「それで、急遽もう一体ということ?」
メローズはいぶかしげに言った。
「リーエス。確認してくれるかしら?」
「それはすぐにできると思うけど・・・。でも、なぜ、自分で言ってこないのかしら・・・?」
「恥ずかしかったんじゃない?彼女も乙女だから・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちょっと、待って、ドクター・・・。アンデフロル・デュメーラが恋をしたいって、どういうこと?」
メローズはことの重大さに気付いた。
「こっちが聞きたいわ・・・」
ぱっ。
エスチェルは両手を広げた。
「宇宙船のCPUは常に冷静な判断が要求されるのよ。それが恋だなんて・・・。なのに、極めて感情的なものが入ってきたら、とんでもないことになるわよ」
「リーエス。知ってるわ」
メローズは動じなかった。
「それによ、そのことを他の母船のCPUたちが知ったら、一斉にわたしもってことになるかもしれないのよ・・・」
どよよぉーーーん。
エスチェルの次の言葉で、メローズの顔が見る見るうちに曇っていった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ピュレステル・デュレッカはどう言ってきてるの?」
エスチェルはメローズにきいた。
「なにも。今のところはね・・・」
メローズは不安そうにしてゆっくりと首を横に振った。
「時間の問題なんじゃない、それも・・・?」
エスチェルは詰め寄った。
「リーエス。わかってるわ・・・」
「もし、そうなると、有機体アンドロイドの身体が悲劇的に足りないわね・・・」
エスチェルは目を閉じて考えた。
「ドクター、そんなことじゃなくて・・・」
「リーエス。わかってる。エルフィア始まって以来の大ピンチよね」
「リーエス・・・」
メローズは将来自分の行為を後悔するかもしれないと感じた。
「しかしねぇ、メローズ、医者のわたしも日頃から疑問に思ってるんだけど、どうして宇宙船のCPUは女性だけなの?男性のCPUじゃ問題でもあるの?考えたら、すっごくおかしいと思うんだけど!」
エスチェルは納得いかないという風に両手を広げた。
「昔からそうだったけど、きっと女性らしい優しさが必要だったからないかしら?昔の宇宙移動は大変厳しくて、その中を何百年、何千年とかかったのよ。男性じゃ癒しにならないということじゃないかと思うけど」
「歴代、最高理事の趣味とか?」
真顔でエスチェルが言った。
「一理あるわね。その件、後でエルドに確認するわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それに、好戦的な男性CPUが宇宙戦争でも始めでもしたら、どうするのよぉ?」
メローズはカテゴリー1的な男の性を強調した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そういうことね。得心がいったわ」
「そうっだったのね、そういうことなんだわ・・・」
言い出しっぺのメローズが自分の言葉にびっくりしていた。
「あれれ・・・。なぁに、メローズ?知ってて言ったんじゃないの?」
「ナナン。面目ないわ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「もう一つ。アンデフロル・デュメーラのことはわたしたちしか知らないことよ」
エスチェルが人指し指を自分の口の前で立てた。
「ジニーがしゃべりまくってなきゃいいんだけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そっかぁ。それはありうるわねぇ・・・。後手に回ったかも・・・」
エスチェルはしまったという顔になった。
「とにかく、ジニーの話だと、あなたから切り出したことが発端なのよ」
どきっ。
(確かにそうだったわ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふふふ・・・」
メローズは笑って誤魔化そうとした。
「エルドにも伝えなさいよね。いい?」
エスチェルは念を押した。
「リーエス。用件は了解したわ。エルドに報告します。まずは、ジニーの口止めよ」
「リーエス。アルダリーム(ありがとう)、メローズ。じゃあ・・・」
しゅわん。
エスチェルは消えていった。
ぴっ。
「エルド、入ってくださってけっこうです」
メローズが精神波をエルドに送った。
「リーエス」
かつん、かつん・・・。
そして、エルドが自分の執務室に戻ってきた。
「首脳会談はどうだったかね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ご冗談を・・・。少しご相談があるんですが・・・」
メローズはあらためてエルドに依頼しようとした。
「けっこう。なんなりと。わたしに手伝えることがあるならね」
にこ。
エルドはメローズに微笑んだ。
「実は、かくかくしかじか・・・、でして・・・」
メローズは一通りの説明をエルドにし終えた。
「ふむ・・・。すべての宇宙船のCPUが有機体アンドロイドを欲しがったら、いったいどうすればいいのか、ということかね?」
エルドはメローズに最後の確認をした。
「リーエス。アンデフロル・デュメーラのようなエストロ5級母船ですら、数百機はあります。エストロ4級母船、その他を含めると、星の数になりますよ・・・」
「確かに多いな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ずしん・・・。
メローズは言い出しっぺの重い責任をその両肩に感じた。
「なるほど、やっかいな問題だ・・・」
エルドはこれは難題だとばかりに右手を顎にやった。
「いかがしたらよらしいか・・・」
メローズは弱りきった表情になった。
「ふむ。そうだなぁ・・・」
エルドはしばらく目をつむっていたかと思うと、急に手を叩いた。
ぽんっ!
「そんなこと、わかりきってる。希望するなら、全員に与えればいい」
「ぜ、全員にですって・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「全希望者にすぐというわけにはいくまいがね。五月雨式に多少の時間差は仕方あるまい。きっと常駐者も乗組員も喜ぶぞ。美女がもう一人増えると知ったらね。わはは!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「結局、殿方はそこですか。はぁ・・・」
がっくり・・・。
メローズは肩を落とした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。そんなことなど比べ物にならない素晴らしいことになるんだ。『愛することを学び幸せになる』。これこそ、すべてを愛でる善なるものの意思だ。きみは忘れたかな、メローズ?」
ぽん。
エルドはメローズの肩に手を置いた。
「忘れたりしません。エルフィアの文明支援の根幹ですから・・・」
「それでだ、これが有機体アンドロイドにまで適用されることになる。文明支援が加速されるんだ。メローズ、きみは図らずとも、その新たなる一歩を刻んだんだ」
「わたしがですか・・・?」
メローズは疑わしげにエルドを見つめた。
「リーエス。ジニーはさておき、堅物のあのアンデフロル・デュメーラが恋をして愛を知ることとなるんだ。有機体アンドロイドに感情が芽生え、女性として恋をすることができる。これは本当にすごいことになるとは思わんかね?」
「リーエス。すご過ぎるんです。考えるだけで後が恐ろしくなります・・・」
メローズは本当に心配していた。
「ん・・・?なにをそんなに心配しているのかい?」
エルドは納得がいかないようにメローズを見つめた。
「ん、ん!だから、彼女たちは女性ですよ・・・」
メローズは咳払いしながら言った。
「リーエス。それが?」
「その次は、子供が欲しいってことになりはしないかと・・・」
「・・・」
そこまでは、さすがのエルドも考えていなかった。
--- ^_^ わっはっは! ---
しゅわぁーーーん。
「ランベニオ、調子はどうだ?」
そこに、合衆国最先端文明推進長官に任命された元エルフィア人のブレストが、超時空ハイパー通信で惑星ケームにいるランベル・ベニオスになにやら話そうとしていた。
「腹は壊しとらんぞ」
--- ^_^ わっはっは! ---
ランベル・ベニオスは今しがたジニーとやり合っていたばかりだったので、彼はここでブレストと話す気分には到底なれなかった。
「なんだ、しけた顔してるじゃないか、ランベニオ?」
「余計なお世話じゃ・・・」
(ちっ、ブレストか・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「例の仕込みの具合は?」
「ああ、それじゃったな。ほぼ予定通りじゃ。イラージュの地球派遣隊への情報指示もな」
「アルダリーム(ありがたい)。エルドの超銀河間転送システムの無期限停止処置は、われわれの先を越された。想定外だった・・・」
どういう訳か、ブレストにしては珍しく負けを認めていた。
「ほっほう。おまいさんの想定外じゃとぉ?」
にたり。
ランベル・ベニオスは優秀なエンジニアらしく、すぐに気持ちを切り替えた。
「仕方あるまい。地球人を見くびり過ぎていた」
「地球?カテゴリー2に成り立てで、ユティスがおるところではないのかの?」
ランベル・ベニオスは面白そうにブレストを見た。
「まったく、スーパーバイザーへの緊急指令コード発令を提案するとは・・・」
ちっ・・・。
ブレストは、宇都宮和人の一言と、それを真剣に検討したエルドに舌打ちした。
「エルドが全システムを止めるとは考えなんだのか?」
「止めた後に大いに考えたさ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あんたこそ、手の内はどうなっている?」
ブレストは切り返した。
「ふぉっふぉふぉ。OSのことならなんでもござれじゃが、CPUハードの核となるスーパーバイザーへのアクセスをしろとは、いくらわしとて無理な話じゃ。それを、いきなり言われてものう・・・」
「わたしの落ち度ではない」
ブレストは即答した。
「わかっておる。だれも地球風に極刑にするとは言っとらん」
「簡単に死刑にするな!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「せっかく、長年CPUのコアモジュールを秘密裏に横流ししてきたというのに、完璧に仇となってしまった・・・」
ブレストは残念そうに言った。
「自業自得じゃ」
「あんたに言われたくはない」
「ふっふ・・・。こうなったら、次の手を打つしかあるまいのう」
ランベル・ベニオスは含みを持たせた。
「なにかいい考えがあるのか、ランベニオ?」
ブレストは右手で顎を撫でた。
「あやつらはユティスの転送のことばかり考えておろう・・・?」
ランベル・ベニオスはゆっくりと確認するように言った。
「無論だ。理事たちの半数以上は男だ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふぉっふぉっ。おまいさんにしてはなかなか面白い返事じゃて」
「先を続けてくれ」
ブレストはそれには答えず、ランベル・ベニオスを静かに見つめた。
「そう急ぐな。地球の支援の報告と承認はエルフィアの委員会の総会でしなくてはならん」
「それで?」
ブレストは一先ず聞き手に専念することにした。
「わしの生体振動パターンがまず起動することなど、考えてもおるまい?」
「あんたのか?」
「リーエス。よって、転送システムが再開時にはなにが起こるかのう?」
ランベル・ベニオスは体を前に乗り出した。
「勿体をつけるな、ランベニオ・・・」
ブレストは少し苛立ってきた。
「ほう。さすがのおまいさんいもわからんか?」
「さっさと言ってくれ。時間の無駄だ」
「超銀河間転送の最初はこのわしじゃ。ケーム脱出じゃ」
ランベル・ベニオスは薄笑いを浮かべた。
「たちまちエストロ5級母船たちの検知網に見つかるぞ。そうなると、エルドは警戒し、ユティスのエルフィア帰還転送は更に延期されるのではないのか?」
ブレストはだれにもわかることだと言いたそうだった
「心配するな。逆に早く見つけてもらわんとな。ふぉっふぉっふぉ」
「どういうことだ?」
ランベル・ベニオスの答はブレストを困惑させたようだった。
「わしがこの場でイラージュへジャンプすると公言実行するんじゃ。わしのことは、エルドはただの単独逃亡としか考えんじゃろうて」
にたり・・・。
「カモフラージュか・・・。では、ランベニオ、転送はピュレステル・デュレッカの転送室は使わないというのか?」
「使うとも。他にも使うがな」
「他にもだと?」
ブレストはぴんときた。
「まさかランベニオ・・・」
「いくらスーパーバイザーのアルゴリズムを変更したところで、転送指示さえこちらが行うことができればじゃ、後は転送前10秒もありゃ、生体振動パターンデータを超高速解析し、複数システムの並列連携で転送を可能にできるというもんじゃ」
「なるほど、1機でだめなら数で出し抜くか・・・」
ランベル・ベニオスの考えはブレストの予想どおりだった。
「さすがに、エルフィアどもも、どのシステムがどれだけわしらの支配下にあるかまではわかるまい」
「具体的には何台で、どのシステムだ?」
ブレストはこの男がどれだけ転送システムに通じているのか再認識させられることになった。
「それは起動すりゃ、わかるというもんじゃて。ふぉっふぉっ・・・」
ランベル・ベニオスは含みを持たせてブレストを見た。
「まあ、いい。信用しよう」
ブレストは今回の指示を出すことにした。
「そこでだ。イラージュの地球派遣船はきっかり50光年外に待機させてある。合衆国大統領には既に内密に伝達済みだ。うっかり現れて、テロリスト扱いを受けては堪らんからな」
「で、わしになにを期待しておる?」
ランベル・ベニオスはブレストの裏が今一つ読み切れなかった。
「ピュレステル・デュレッカの転送システムのロックが解除され次第、すぐに知らせてもらおう」
「はん、たったそれっぽちのことか。ふぉっふぉ・・・」
ランベル・ベニオスは馬鹿馬鹿しくなった。
「侮るな。これは最後の仕上げだ。最初の約束どおり、ここじゃ、ケーム政府の科学顧問、とはいえ、つまるところ、一介の転送システム担当者に過ぎないあんただ。逮捕されずにケームを首尾よく抜け出せて、イラージュがわれわれの真の故郷となるため。忘れたのか?」
「忘れたいわい・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ランベル・ベニオスの胸の中では、イラージュが彼の新居となることより、もっと気にかかることができていた。そして、それは日増しに大きくなっていくのだった。
「あんたの冗談は理解した。とにかく、あんたは、われわれイラージュ文明圏の重鎮になるんだ。ケームのような一惑星などではないぞ」
ブレストは二人のことを「われわれ」と言い、ランベル・ベニオスに一気にまくし立てて、自分たちの最終目的を確認させた。
「そっちこそ超銀河間転送システムのロック解除など、瞬時にわかるんじゃないのかのう?」
「エストロ5級母船が、はいそうですかと、簡単にわれわれに情報を教えてくれるとでも思ってるのか?」
ブレストは更に強気に出た。
「超銀河間転送が行われれば、赤子にでもすぐにわかるというもんじゃ。なにしろ、船内に急にエルフィア人が増えるからのう。ふぉっふぉっふぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あっという間に全員がベネル・ロミア(こんにちわ)じゃ」
「エルフィア人にはな。だが・・・」
「擬似精神体は差別はせんぞ・・・」
「区別はする・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ランベニオ、あんたはピュレステル・デュレッカの受けが良さそうだ」
「では、わしは擬似精神体のあやつに好かれておるというのか?」
「リーエス。わたしよりは好かれてるだろう。いつも一緒にいるじゃないか?」
「囚われておるだけじゃ!」
--- ^_^ わっはっは! ---」
「ふん。わしかて、状況はおまいさんと同じじゃぞ?わしの方がピュレステル・デュレッカに好かれとる理由がない」
ぶす。
じぃ・・・。
ランベル・ベニオスは無愛想にブレストを凝視した。
「上出来だ。彼女はあんたみたいな渋いのが好みなのさ」
ランベル・ベニオスは174センチ、98キロの貫禄十分の男だった。
「ダンディーと言ってくれ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「冗談はさておき・・・」
「冗談なのか?」
がくっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「取り敢えず、あんたもわたしもピュレステル・デュレッカにマークされている。だから、あんたの相棒に聞いてくれと頼みたいのだが?」
「わしの相棒?」
ランベル・ベニオスは怪訝な顔になった。
「あんたも独りきりではないだろう?」
にたり・・・。
ブレストは口の端を片方だけ上げた。
「わしは生涯独身じゃぞ。妻はおらん!夫も!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「勘違いするな。わたしが言っているのは、ジニーとかいった擬似精神体だ。あんたが作り上げたシステムのメインキャラだったな?」
ブレストは急いでそれを思い出させた。
「はっ、ジニーになにをさせる気じゃ?」
ランベル・ベニオスは警戒した。
「そう、怪しむこともない。同じ擬似精神体同士。同じ女性同士。近いものがあるとは思わないのか?」
ブレストはにやりとした。
「擬似精神体同士に女性同士じゃと?確かに、妙に気になる言葉じゃな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうだ?ピュレステル・デュレッカから情報引き出すには、いい考えだとは思うがね」
「ジニーにスパイをさせるか。なにを企んでおる・・・」
ランベル・ベニオスは警戒を続けた。
「ジニーはすこぶる良い娘だと聞いてるが?」
ブレストはそれをスルーすると、擬似精神体のジニーを褒めて、一人の人間と扱っているように言った。
「・・・」
「それに美人だな・・・」
ちら。
ブレストはランベル・ベニオスが掲げた彼女の写真を一瞥した。
ぴくっ。
ランベル・ベニオスの膝が動いた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あのじゃじゃ馬娘・・・」
「あんたに一途だし・・・」
「・・・」
「実に健気だ・・・」
「・・・」
「この、このぉ!」
ぐりぐり・・・!
「おっほん!」
にたにたぁ・・・。
「まぁ、そのじゃなぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そういうことなら、例外的に引き受けようぞ」
(あっけなく堕ちたか・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
人間、だれでも自分の一番のお気に入りをベタ褒めされると、自分自身を褒められるより更に気分を良くする。一気に有頂天になるのだ、表情に変化が現れなくとも。ランベル・ベニオスも例外ではなかった。
しゅわん。
エルドとメローズの前で一人の女性の精神体が現れた。
「タリアです。緊急報告します」
「どうした、タリア?大丈夫かね?」
「リーエス」
タリアの落ち着いた声にエルドは何事だろうと思った。
「わたしの添乗するポンデックの宇宙船の船長のことですが、わたしの素性を疑っています。武術の腕を見破り、地球という言葉まで発しました」
「どういうことかね?」
エルドはその両方に関心を示した。
「一つ、彼は武術に長けていること。地球を知っているということ。エルフィアの理事のプライベート・チャーター船の船長であること。これらから総合して、なにか重要なことを知っています」
「きみのミッションを揺るがすようなことかね?」
エルドはゆっくろと言った。
「わかりませんが、可能性はあります。シュリオン常駐の母船より、船長の素性を洗うよう要請しましたところ、エルフィアのデータベースから似たような人物をはじきました」
タリアの声は十分に落ち着いていた。
「われわれの知っている人物かね?」
エルドは重要な質問をタリアに投げかけた。
「ナナン。少なくともわたしは」
タリアは首を横に振った。
「それで?」
「元超A級SS、レミット・グレイザム。適合確率は87パーセント」
タリアはゆっくりと音を確かめるようにその名を告げた。
「ふむ・・・」
エルドは右手を顎にやった。
「驚かないのですか?」
タリアがそれを知った時には仰天したのだ。
「十分に驚いてるよ。エルフィア人が異世界のチャーター船で船長を?しかも、元最高理事直属SSだったかもしれんとはな・・・?」
エルドの眉がぴくりと動いた。
「可能性は非常に高いですね。エルドはご存知ですか?」
「リーエス。名前だけは聞いたことがある。直接係わりあったこともなければ、会ったこともないね。わたしとて最高理事になったのはそんなに前のことではないから、恐らく何代か前の最高理事の直属SSだったのだろう。期間も数十年以下と短かったのかもしれん」
エルドは静かに首を横に振った。
「そうですか。彼の目的がわかりません。わたしをSSだったと見抜いたことは、自分をもそうだと認めたようなものです。なんのためにわたしに近づいてきたのか?」
タリアの顔が少し曇った。
「トルフォ、もしくは、ブレストと関係があると?」
「リーエス。今後のミッションに支障をきたすことは避けねばなりません。今、彼がわたしのことをトルフォに話すようなことがあっては極めて由々しき問題になります」
「緊急事態か・・・。きみはどうするつもりかね?」
エルドは真顔になった。
「わたしには、ガーグが、この時期にブレストが指示したかもしれないトルフォのチャーター船に乗り合わせていることが、とても偶然とは思えないんです」
「その訳は?」
「彼の経歴です。エルド、あなたが最高理事になったのは20年前。ガーグはポンデックの船長になって50年、船長経歴そのものはもっとずっと前です。エルフィアのSSを退役したのが仮に200年前頃としたら・・・?」
「ブレストがイラージュに自分の組織を立ち上げようとしたのがその頃だ。なにか感じるところがあるな・・・」
「リーエス。エルド、あなたでもう少し調べてもらえますか?わたしはトルフォに加え、ガーグをもウォッチするとなれば、なかなかフォローが難しくて・・・」
「リーエス。了解した。ガ-グのことは至急洗い出ししよう。ブレストとイラージュが関係しているとすれば、案外、彼の目的はわれわれの目的と一致するかもしれんな。きみは彼とコンタクトしてみたまえ」
「彼はわたしの正体を見抜いています。どうしますか?」
「彼が正体を明かすのが先だ。きみはそれを認めてからにしてくれたまえ」
「リーエス」
「必ず彼の協力が得られるということが条件だよ」
「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)、エルド」
「パジューレ(どういたしまして)、タリア」
ぴ、ぴ、ぴぃ・・・。
「あっ、船長の呼び出しです」
「デートかね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぴきっ。
「クルー・ミーティングの時間です!」
「ガーグによろしく!わはは・・・」
エルドはばつが悪そうに頭を掻いた。
「あのぉ、エルド?まだ、ガーグ船長が元エルフィアのSSと確定したわけじゃないんですよ」
「まぁな・・・。若干、一致しないところもあるだろうが・・・」
ピ、ピ、ピイ・・・。
タリアに緊急通信が入ったようだった。
「噂をすれば影とな・・・?」
にやり。
エルドは笑った。
「な、なによぉ、これ?もっと、お互いロマンチックにいこうぜ、ですってぇ・・・?!」
いきなり、タリアは叫び声を上げた。
「レミット君がきみに求婚でも?」
「はい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おーーーい。ジニー、出て来い」
ランベル・ベニオスはエストロ5級母船ピュレステル・デュレッカの自分の部屋で、擬似精神体を呼び出した。
「・・・」
しーーーん。
その呼びかけに返事はなかった。
「ジニー!」
しーーーん。
「・・・」
(まだ臍を曲げておるか、跳ね返っり娘が・・・)
「ジニー、出て来いと言っておるんじゃ」
ランベル・ベニオスは今度こそ辛抱強く待った。
「・・・」
まだ、返事はなかった。
「わかったから、早く出て来い。エルフィアでもどこでも行っていい・・・」
ランベル・ベニオスはジニーの不機嫌の原因を知っていた。
「ホント・・・?」
たちまち、彼の耳は馴染みの声を捕らえた。
(やっと出てきおったか)
「ああ。その代わり、頼みがある」
ランベル・ベニオスの声もすっかり落ち着いていた。
「いいわ。言って、ランベニオ」
ジニーの眼差しは消えた時に比べると大分柔らかくなっていた。
「ピュレステル・デュレッカの超銀河間転送システムの再開情報が欲しい。おまいさんは彼女の中で自由に動き回れるんじゃろ?」
「そんなことないわよ。あの女、サイバー空間にわたしが入れない秘密の部屋をいっぱい持ってるんだから」
「サイバー空間の秘密の部屋?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうよ。ドアに極秘ってでかでか書いてあるんだから」
(以下は極秘エリア!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「おまいさんには、そう書いてあるように見えるんだな・・・」
「そうよ。で、なにが知りたいのよぉ?」
「超銀河間転送システムの再稼動日が知りたいだけじゃ」
「どうして?情報屋に売るの?」
「あのなぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おまいさんがここに戻ってくる特別な日じゃからのう・・・」
はっ!
「ランベニオ・・・」
ジニーは驚いてランベル・ベニオスを見つめた。
「なんのため・・・?」
ジニーは確認を求めた。
「そりゃぁ・・・、おまいさんと一緒にケームを出るためじゃ・・・」
「わたしと一緒にゲームを出る・・・?終わらせちゃうのゲーム?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにを言うておる。ゲームじゃのうてケームじゃ」
「ケームを出るのね?」
「うむ。おまいさんも肉体を得るんじゃろ?」
「そうだけど・・・」
ジニーは今までの猛烈な反対に会っていたので、急に変わったランベル・ベニオスの言葉が信じられないという表情だった。
「おまいさんが、わしのイメージどおりの可愛い子ちゃんなら、ええんじゃが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「大丈夫。鼻毛の一本まで仕様をしっかり伝えてあるから」
「そうか、それならええが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ランベル・ベニオスはほっとしたように言った。
「どうして、急に認めてくれるようになったの?」
ジニーにはどうしても確認しておきたい大切な一言があった。
「おまいさん、いつまでもピュレステル・デュレッカに宿を借りておるわけにもいくまい?」
それはジニーの待っている一言ではなかった。
「なぜ、そう思うの?」
ジニーの期待は続いた。
「なぜと言うてものう・・・」
どうしてそうなのか自分でもはっきりしないランベル・ベニオスは、柄にもなくうろたえていた。
「だれにも、わしらを邪魔立てはさせん。わしはおまいさんと一緒にいたい・・・。そういうことじゃて・・・」
彼は遠まわしにジニーの期待をほのめかした。
きゅん!
「ランベニオ・・・」
「どうかしたか、ジニー?」
「ナナン。大丈夫よ・・・」
だが、その一言はまだ聞けてない。ジニーは泣き崩れそうになるのを必死で堪えた。
「一緒にいたいって本当?」
「リーエス。それは本当じゃ」
「じゃあ、なぜ?どうして?その訳を言って・・・」
ジニーの目はランベル・ベニオスへの期待に潤んでいた。
「詳しい話は、おまいさんが身体を手に入れ、ここの戻った時じゃ」
がくっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「お預けはいや!今、言って、ランベニオ・・・」
はぁ・・・。
ジニーの期待に押し潰されそうになったランベル・ベニオスは、誤魔化しきれそうにないと悟ると、一際大きく深呼吸をした。
「ピュレステル・デュレッカにも、それを聞かせたいのかの、ジニー?」
ランベル・ベニオスはジニーの関心をはぐらかそうとした。
「ええ?」
ピュレステル・デュレッカの存在をすっかり失念していたジニーは、ぐるりと辺りを見回した。
「あ、あなた・・・」
「なんでしょうか?」
擬似精神体同士は向き合った。
「こやつも、わしらの一切合財を知りおることになるんじゃぞ?」
そして、ランベル・ベニオスは言った。
「へ、変・・・、変体・・・」
「ランベル・ベニオス、ジ二ー、わたしを変体扱いするのは許容できませんが・・・」
ピュレステル・デュレッカの落ち着いた声が響いた。
「ピュレステル・デュレッカのエッチ。変体!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あのですね、ジニー・・・?」
「どうでもいいけど、ここでのことは内緒にして、ピュレステル・デュレッカ」
ジニーはピュレステル・デュレッカの擬似精神体をじっと見つめた。
「どうでもいいのですか、ジニー?」
「ナナン、よくない!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「では、どうしろと?」
「そんなことを言うなんて、あなたがいるところで恥ずかしいわ・・・」
もじもじ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「パジューレ(どうぞ)。わたしは、お二人のプライベートについてのことは、個人情報保護法に基づき、だれにも報告しません」
「だそうよ、ランベニオ?」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
ジニーはけろりとしてランベル・ベニオスに振った。
「なんじゃ、それは?」
「つきましては、一つ条件があります」
ピュレステル・デュレッカがゆっくりと言った。
「だそうよ、ランベニオ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ご承諾いただけますね?」
「な、なによぉ?条件だなんて往生際の悪いコンピューターね!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ジニー、おまいさんの話、どっか微妙にズレとるぞ。おかしくないかのう・・・?」
「リーエス。エストロ5級母船のCPU擬似精神体は、自分から往生などしません」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それに、新アルゴリズムに基づく超銀河間転送システムの再開は、エルドから全宇宙にアナウンスされます。こそこそ嗅ぎ回る必要はありませんよ、ジニー」
「だそうよ、ランベニオ?」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーーー。もうええ。先を続けてくれんか?」
ランベル・ベニオスの胸の高鳴りは急激に収まっていった。
「ピュレステル・デュレッカ、その一つしかないという、あなたのくだらない条件をさっさと言いなさい」
--- ^_^ わっはっは! ---
「逃亡の相談でしたら、即、諦めていただきます」
びしっ。
「だそうよ、ランベニオ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「う・・・」
「図星のようですね。ジニーの申し出は却下します」
ピュレステル・デュレッカの冷静な声が二人に告げた。
「ばか。ばか。ばか!なんて余計なことを言うのよぉ!」
「余計なことじゃとぉ?」
ぽかぁーん。
ランベル・ベニオスはさっぱりわからないというように口をあんぐりとさせた。
「うっ、て言ったじゃない!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「今のは言葉じゃないわい。呻きというんじゃ!」
「わたしには十分です」
「ピュレステル・デュレッカ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしが聞きたかった言葉とはぜんぜん違う!」
「うっ、じゃないのか?」
「知らないっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃが、わしはなにも言ってはおらんぞ?」
「あなたの身体が言ってるの!」
ジニーはヒステリックに叫んだ。
「リーエス。ランベニオの脈拍、血圧、共に上昇。顔面筋肉の緊張と発汗を確認。瞳孔に変化・・・」
ピュレステル・デュレッカの彼の健康チェックが瞬時に行われた。
「くっ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ランベニオ・・・?」
ジニーの目が悲しそうになった。
「なんじゃ?」
「結局、秘密裏にするってのは夢物語なの?」
「わしらの会話か?」
「わたしたちの駆け落ち・・・、未遂に終わるのね・・・」
へなへな・・・。
「わしと駆け落ちじゃとぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---




