038 客先
■客先■
和人がユティスを呼べば、ユティスはすぐに応えてくるようになった。
「ユティス、いる?」
「リーエス、和人さん!」
「今日はなんのご用ですか?」
「プライベート・ハイパーラインのテストで・・・。えへ・・・」
「ふふふ。どうされましたか?」
「いや、そのぉ・・・」
「承知いたしました」
ユティスは和人が彼女と話したがっていて、とにかく呼んだのだということがわかり、無邪気に喜んだ。
「わたくしも和人さんとお話できて、とっても嬉しいですわ」
「ユティス、そうなの?」
どきどき・・・。
和人にとっては最高の返事だった。
「リーエス。うふふふ」
「なにを話したいってんじゃなくてさぁ、そのぉ・・・」
「わたくしの声をお聞きしたいのですか?」
「リーエス・・・。そういうことなんだけど・・・」
「わたくしも和人さんの声をお聞ききしたいですわ・・・」
和人の表情がパッと明るくなった。
「そ、そう?」
「リーエス」
ユティスは嬉しそうに微笑んだ。
「なんと言うか、こう、安らぐんだ。きみと話をしていると・・・」
「うふ。ありがとうございます、和人さん」
「それでさ、もし、オレがきみを呼んだら、今日みたいにすぐに応えてくれるの?」
「うふふ。なにがあっても、絶対にそうしますわ」
「嬉しいよ・・・、ユティス」
「リーエス」
かぁ・・・。
二人の頬が同時に赤みを増した。
和人はユティスと四六時中一緒にいるような感覚だった。これは和人が自分だけのスピリチャル・パートナーを手に入れたようなものだった。和人は、石橋の気持ちをよそに、ユティスと一緒の時を大いに楽しんだ。
(えーーーん、和人さん・・・!)
(えーーーん、イザベルちゃん・・・!)
そんな石橋とは関係なく、二宮も恋の進展を悩んでいた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「和人さん。さぁ、まいりましょ?」
ユティスの言葉に、和人は一人にんまりとした。
「ユティス、じゃ、今日も外回り。いいのかい、一緒に行って?」
「リーエス、和人さん」
ユティスはにっこりと答えた。
「なに、独りでぶつぶつ言ってんのかしら。和人のやつ」
「ホントよねぇ・・・」
国分寺姉弟と二宮を除いて、なにも知らない事務所の女性たちは、和人が独り言を言っていると思って首をかしげた。
「訪問リストはと・・・。あっ!」
和人が今日の訪問顧客のリストを机から拾い上げようとして、そこに積んであった書類を床にばら撒いてしまった。
ばらばら・・・。
どさっ。
どさ、どさぁ・・・。
「和人さん!」
和人が落とした書類を、ユティスが思わず拾おうとした。
すっ・・・。
すかっ。
しかし、精神体のユティスには、できなかった。
すたすた・・・。
さっ。
代わりに石橋が拾って和人に渡した。
「はい、和人さん・・・」
「ありがとうございます、石橋さん」
(可憐って呼んでください・・・)
かぁーーーっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
石橋は和人に見つめられ、さっと頬を染め視線を外した。
「じゃ、いってらっしゃい、和人さん・・・」
石橋はそう言うと、そさくさと席に戻った。
すたすた・・・。
和人は訪問リストをバッグにしまおうとして、精神体のユティスを見た。
ちらっ・・。
にこ。
ユティスはとっさに微笑むと、少し悲しげに言った。
「よかったですわ・・・」
「うん。でも、きみも書類を取ろうとしてくれたんだよね・・・?」
「あ・・・」
「でも、精神体だからできなかった・・・。ユティス・・・」
じぃ・・・。
どっくん、どっくん・・・
和人はユティスを見つめて、いじらしさに胸がいっぱいになった。
「和人さん・・・」
「リーエス」
「お時間です。行きましょうか、お客様回り?」
「リーエス・・・」
にっこり。
ユティスは一瞬見せた悲しげな表情から、普段のにこやかな表情に戻っていた。
「行ってきます」
和人は事務所から出ようとして、石橋と目が合った。
ぱち・・・。
かぁ・・・っ。
石橋はもう自分の気持ちを隠すことができないくらいになっていた。
(石橋。ほっぺが真っ赤よ・・・)
真紀は見逃さなかった。
(ユティスか・・・。でも、石橋も最高にいい娘。やっぱりほっとけない。やるだけやってみるかな。それにしても、和人と仲よくなるいいチャンスだったのに、なんで自分から引き下がるのよ?石橋の意気地なし・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「行ってらっしゃい」
事務所中から声がし、和人は事務所を後にした。
「すばらしいですわね。みなさん、いつも全員で送ってくださるなんて」
「そっかなぁ・・・、いつものことで気にもとめなかったけど?」
「なかなかできることでは、ありませんわ。・・・ステキ」
「リーエス・・・」
和人の今日の客回りが始まった。
「お世話になります。わたくし、ソーシャルマーケの株式会社セレアムの宇都宮と申します。企画部門の野木様いらっしゃいますか?」
「はい。ようこそ。アポはお取りいただいてますか?」
「はい、10時でお願いしています」
「では、少々、お待ちください」
受付の女性は事務所に電話をした。
「はい。受付です。ただいま、株式会社セレアムの・・・」
「地球のビジネスは、こんな風にして始まるんですね」
「あるいは、終わったり?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「終わるんですか?」
ユティスは興味津々だった。
「うん。可能性はあるよ。ここは、まだまだこれからなんだ」
「んふ。和人さんなら、きっとうまくいきますわ」
和人は目を細めた。
にっこり。
微笑むユティスは、和人にとってとても眩しかった。
「ユティス・・・」
「リーエス。和人さん、頑張ってくださいね。ファイトぉ!」
「う、うん・・・」
「うふふふ」
「あはは・・・」
かちゃ。
ドアが開くと一人の男性が入ってきた。
「ああ、セレアムの人っていうからだれかと思ったら、宇都宮さんのことか・・・」
「はあ、野木さま、名前を覚えてくださって光栄です」
ぺこ。
ぺこ。
和人がおじぎすると、それを見たユティスも同じように頭を下げた。
(あ、きみまですることはないんだけど)
--- ^_^ わっはっは! ---
(ナナン。気持ちの問題ですわ。うふふ)
「なにをかしこまっているんだね?さ、こっち、こっち」
野木は手招きして、小さな来賓室の一つに案内した。
「どうも・・・」
「IT研究会の立食パーティーの時以来だね?」
「ええ」
「IT研究会さぁ、宇都宮さん、5000円を自腹切ってるの?」
「ええ、一応、会社には内緒なんです」
「どうしてまた?」
野木は信じられないという顔をした。
「いやなんです。『いかにも勉強してます。人脈作ってます』なんて、これみよがしみたいで・・・」
「はっはっは。きみらしいな。ボクは見栄は張らないよ。会社にはちゃんと請求した」
(和人さん、ご自分のお勉強って感じですわ)
「そうだね・・・」
「ん、なにがそうだって?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや、別に」
(ユティスぅ・・・!)
(うふふふ)
「さてさて、今日の用事はなんだっけ?」
「例のウェブサイトとソーシャルメディアの連携の件、うちで提案させてもらえませんか?それでRFP(要件定義書)とか、もし、ありましたらと思って・・・」
「RFP(要件定義書)ねぇ・・・。ないよ。そんなちゃんとしたもの・・・」
「そ、そうですか。じゃ・・・、野木さん、要件をうちで一緒にまとめさせてくれませんか?」
「きみとかい?」
野木は驚いた。
「はい。エンジニアもこちらでアサインします」
「でも、工数かかるんでしょ?お金だってかかる、それだけでも?」
「いいえ」
「はっは。手弁当でやってくれるってのかい?」
「要件定義のお手伝いくらいでしたら・・・。はい・・・」
「ほんとに?」
(大丈夫ですよ、和人さん。野木さんは和人さんを信用なっさていらっしゃいますわ)
(よし、きた!)
「ええ。やらせてもらいます」
野木は確かめるように、和人を見つめた。
「そっかぁ・・・。じゃ、うちも担当者を出すよ」
(うふふ。やりましたわ。和人さん)
「ありがとうございます」
(そうそう。善は急げですわ。今、アポを取っちゃいましょう、和人さん。明日の10時のお打ち合わせで、お話してくださいな)
(どうして?)
(でないと、わたくしが同席できませんわ・・・)
ぱちっ。
ぽっ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスはウィンクした。
(それとも、和人さんはお一人の方が・・・)
ユティスはわざと悲しそうな目をした。
(そんなのダメ、ダメ。絶対にダメ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
(では、そうしましょうね)
にこ。
(でも、エンジニアの都合を聞いてないんだけど・・・)
(お1人も手配できないことも、ありませんでしょ?きっとうまくいきますよ)
(はぁ、そう期待できるかなぁ・・・)
(・・・)
じーーーっ。
(わ、わかったよぉ)
--- ^_^ わっはっは! ---
にこっ。
「はい。では、明日10時ではいかがですか?」
「10時か・・・」
ぺらぺら・・・。
野木は手帳をめくって、自分のスケジュールを確認した。
「えーと。10時なら、いいよ」
(ほら!)
(ホントだ。ありがとう、ユティス)
(パジューレ(どういたしまして))
「じゃ、10時におうかがいします」
「ええ」
「それでは、ありがとうございました」
「はい」
「和人さん」
「なぁに?」
「あのぉ・・・、ソーシャルメディアってなんでしょうか?」
「へ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だーーーっ!」
和人はひっくり返りそうになった。
「つぶやきサイトとか、SNSとか、動画アップサイトとか。要は、みんなが参加でして、意見やコンテンツを投稿したり、見たりできるサイトのことさ。ユティス、そんなことを知らないで、さっきアポとか言っちゃたのぉ・・・?」
「申し訳ございません・・・」
じぃ・・・。
ユティスは和人を伏し目がちに見つめた。
「ま、きみなら許しちゃうけど・・・」
でれでれ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ありがとうございます」
にっこり。
ユティスもすぐに笑顔になった。
野木との商談を終えた和人は、ユティスの疑問に答えていた。
「どうして、そんなにソーシャルメディアにフォーカスされないといけないんだすか?」
「まず、ソーシャルメディアの影響力は年々大きくなってる。だから、いいものだとあっという間にネットでウワサになって、売れ筋に影響するようになるんだ。この口コミをビジネスに利用できると、とっても効率よく売り上げアップにつながるってわけさ」
「どのくらいの効率なんですか?」
「いい質問だね。ある大学教授の調査研究によると、地球人がいい思いをした時、最低3人に話したくなるそうだよ」
「地球の方って、すごいですわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃ、悪い評判は、何人ぐらいに話したいと思う?」
「そうですね。6人」
「ブー。嫌なことはね、最低10人にグチらないと、大抵の人は気がおさまらないんだって!」
「まぁ、大変。いいことより、悪いことの方が3倍以上も伝わっちゃうんですね」
「だろ。地球に限って言うと、『悪事千里を走る』ってのは事実ってことだね」
「リーエス。なぜ、ソーシャルメディアなのか、よくわかりましたわ。つぶやき、ブログやフォーラムも、そういうことなんですのね?」
「リーエス。まさにその通りだよ」
「リーエス。うふふふ」
真紀は石橋の仕事のバランスで頭を悩ませていた。
「あ、真紀さん」
石橋は真紀を呼び止めた。
「あら、石橋。俊介の仕事、押し付けられてない?」
「いえ、そんなことないです」
「だったら、いいんだけど。前にも言ったようにみんなの仕事のバランスを考えないとね。今後、和人の資料作成の方が忙しくなりそうだから・・・」
「はい。わかります。今から取り掛かりますか?」
「和人から頼まれてればね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、それは、まだというか・・・」
「そっかぁ。和人、まだ石橋に頼んでないんだ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい。な、なんでしょう?」
「あいつ自分で抱え込んじゃう方だから、仕事はチームでするものってことをもっと教えてあげないといけないようね」
「でも・・・」
「いいわ。わたしから和人に言うわ。資料作りは石橋に回せって」
「真紀さん・・・」
「とにかくそういうこと。4月になれば何人か増やしたいけど、即戦力ってわけにもいかなそうだし、今からちゃんと考えとかなきゃ、来年の今頃は、仕事こなせなくて黒字倒産だわ・・・」
「そんなぁ・・・」
「ま、資金繰りはわたしの仕事だから、あなたはそんなこと考えなくていいわ。目の前の仕事を一生懸命やってて。和人の仕事優先で・・・」
「はい・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は客先にユティスと一緒だった。
「ユティスのおかげで、次のアポまですんなりいったよ。やったね!」
「んふ。お仕事取れればいいですね?」
「うん。ありがとう」
「あ、それは今日のつぶやきですか?」
「うん。書き忘れないようにするよ」
「パジューレ(お願いしますわ)。うふふ」
「あは。次はB社か。その前に作戦会議と・・・」
「作戦会議ですか?」
「うん。そこそこ」
和人はお気に入りのスターベックス・カフェに入った。
「あらあら、作戦会議ってご休憩のことなんですね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ひどいなぁ。まったく休憩ってわけでもないんだよ。ちゃんと考えるには雑音のないとこでしないとね」
じゃんじゃーーーん。
中では、最近の流行の曲が会話を邪魔しない程度の音量で流れていた。
「うふふふ。雑音ですか?ここも、いろいろあるようですよ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは、そうだね。でも、オレが言ってるのは電話とか。先輩の呼び出しとか。要はオレの大事な時間をかっさらって、考えることをさせてくれない人たち雑音のことさ」
「リーエス。わかりましたわ」
(あ、また来てる・・・!)
店員の高原はすぐに和人に気づいた。
「和人さんのお気に入りなんですの、ここ?」
「リーエス。特に奥の席」
「空いてますわよぉ・・・」
「きみのおかげだね。行こうか!」
「リーエス!」
ばさっ。
バッグを置くと和人はアイスオーレを頼んだ。
「アイスオーレですね?」
和人のそばには、またあの天使が店員を向いて微笑んでいた。
「アステラム・ベネル・ローミア(こんにちわ)、高原さん」
にっこり。
「こ、こんにちわ。名前、覚えていてくれたんですね?」
「はい。あなたに、今日もステキな一日が訪れますように」
ユティスは言った。
「は、はい、天使さん!」
「高原さん、ユティスが見えるんだね?」
和人が店員に言った。
「彼女、て、天使さんですか、やっぱり・・・?」
「ま、オレにとってはそうだね。信じるものは救われる」
「し、信じます!あの、あちらでアイスオーレ出しますんで」
「ありがとう」
「350円です」
「はい」
「天使さんにも、お名前、あるんですね?」
「もちろんですわ。オーレリ・レイシス・アデル『ユティス』。ユティスと申します」
「『ユティスさん』ですね。とっても美しくてステキなお名前です」
にっこり。
「まぁ、ありがとうございます」
「どうぞ、ごゆっくり」
「リーエス」
ぼう・・・。
男性店員は完全に夢見心地だった。
「彼、エルフィア語がわかったみたいだね」
「頭脳波に直接アクセスしますから、お互いの意思は伝わりますわ」
「なるほど」
「うふ!」
「それで、次のB社だけど、ここはなかなか人的パスができないんだ」
「はぁ・・・?」
「えーと、知り合いがいないし、そろどころか、だれとも面会できてないってことだよ」
「あらあら。和人さん、お友達がいらっしゃらない、ということですわね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ん、まあ、そんなとこかな・・・」
「簡単ですわ。おまかせください。わたくしから、その方にお願いしてみますわ」
にこっ。
「簡単って、どうやって?」
「お楽しみにしてください、和人さん。うふふ」
「ん・・・、リーエス」
「あら、和人さん、お仕事のお顔になりましたわ。わたくしまでわくわくしてきます!」
二人はB社にやってきた。
「Webマーケティングの株式会社セレアムと申します。御社のサイトとつぶやきサイト連携の件で、ぜひ企画担当部門長様にお伺いしたく・・・」
「アポは取られましたか?」
「いいえ、本日はお取りしてません」
「うちは飛び込み営業はダメです!」
かちゃ!
電話に出た総務部門の受付嬢は、和人の話をろくろく聞き見もしないで。電話を切った。
「んまぁ、なんて失礼ですこと!」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスは半分憤慨し、半分は面白がった。
「うふふ。そういうことでしたら・・・」
にこっ・・・。
「な、なに・・・?」
「和人さん、直ぐにアポのお電話をしましょう!」
「電話ったって、どこへ?」
「ここの企画担当部門長様ですわ!」
「えーっ。だって、ここは受付入り口じゃないか?それに、たった今だよ、ここに来たの・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いつ、どこからお取りになっても、アポはアポですわ。とにかく事前にアポをお取りすればいいんですね。リーエス。わたくしがその開発部長さまの固有波長を掴みますから、もう一度あの女性に出ていただきましょう・・・。ね、和人さん?」
にこっ。
「いいのかい、そんなことして?」
にっこり。
「リーエス。和人さんのお手伝いが楽しいんですもの・・・」
「わかったよ、ユティス・・・」
和人はその場で電話をすることにした。
るるる・・・。
「はい、B社です」
「セレアムの宇都宮と申します。先ほど企画部門長様にお会いしたい旨お伺いしたものですが・・・」
「なんでしょうか?」
「今からアポを取りたいんですが・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「その調子ですよ、和人さん!」
「あーっ!あなたね、今受付に来てた・・・」
「アポ、お取次ぎいだだけますか?」
「ダメです。会議中です!」
がちゃ!
彼女はまた電話を切った。
「あの、お取次ぎを・・・」
「まぁ・・・!またお切りになられたの?」
「うん、問答無用って感じ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「困りましたわ。窓口がそんな態度でしたら、お客様はだれも来なくなりますのに・・・。社長さんはご存じなのでしょうか?」
「知らないだろうね・・・」
「『すべてを愛でる善なるもの』よ、和人さんの望む面会すべき人に、意思を通わせたまえ・・・」
ユティスは目を閉じ静かに祈った。
「はい。その方の会議は終わりましたわ」
「え?」
「和人さん。その方、こちらにお呼びしますわね」
「呼ぶって、大丈夫なの、ユティス?」
「うふ。すぐにお会いできますわ!」
かちゃ。
ユティスが言い終わると同時に、突然ドアが開きドアを背にした和人の腰にぶつかった。
ばんっ。
「あっ、痛っ!」
(和人さん、大丈夫ですか?)
(大丈夫。大事なところにはぶつかってないから)
--- ^_^ わっはっは! ---
(よかったですわ)
「こ、これはすいません!お客様がいらっしゃるとは知りませんでした」
「いえ、こちらこそドアの前に突っ立ってまして・・・」
「おけがはないですか?」
「大丈夫です」
(企画部長様ですわよ!)
「すみませんでした。だれかお呼びされてますか?」
「いえ。企画部門長様にお会いできればと・・・」
「あー、それでしたら、わたしが・・・」
「企画部門長様で?」
「シニアマネージャーの宿郷です。で、あなたは?」
「Webマーケティングの株式会社セレアムの宇都宮と申します」
「Webマ-ケ?」
「はい」
「ECとツブヤキサイトのようなソーシャルメディアとの連携を図る・・・?」
「そうです・・・」
「ちょっと、待ってくれますか?」
すたすた・・・。
宿郷は中に戻っていった。
「企画部門長様、お部屋の空きを確認されてますわ」
「て、ことは・・・」
「和人さんのお話を聞きたがっておられます」
「これって・・・」
「はい。おめでとうございます。飛び込み営業成功です!」
「きみのおかげだね、ユティス。ありがとう」
「はい。よかったですね。和人さん」。
「お待たせしました」
宿郷は和人を部屋に案内した。
(この方は・・・?)
(ご担当者じゃないでしょうか・・・?)
中にはもう一人いた。
「こちらは、サイト管理の担当の・・・」
「峰と申します」
ぺこり。
「セレアムの宇都宮です」
名刺交換が終わり宿郷はさっそく切り出した。
「まさに、ベストタイミングでした。天の助けですよぉ・・・。Webの売り上げが思うように伸びなくて弱ってたんですよ。それで、ついに上がテコ入れってわけで、どうしようかって悩んでいたんです・・・」
「わかりました。お話をお聞かせくださいませんか?」
「ええ。実は・・・というわけなんです」
「では、ソーシャルメディアまで手が回らないと・・・?」
「ええ」
(そこまで考えられていて、もったいないですわ)
ユティスが和人に囁いた。
(リーエス、オレも同感だよ)
「わかりました。1週間うちでアクセス解析をさせてくれませんか?御社のサイトを訪問した人が、どこから来て、どのページのどこを見てるか、また、どこで出ていったのか、そういったことを分析できます」
「でも費用が・・・」
「大丈夫です。簡単なしかけをWebサイトに埋め込むだけですから、それは無償でいたします」
「そうですか。それは、ありがたい・・・」
「じゃあ、明日13時に・・・」
(ダメですわ!和人さん。野木様とのお打ち合わせがあります!)
(そうだったね。最低2時間かかっちゃう。お昼も取らなきゃならないし)
(そうそう。お昼のデートは大切ですわ。うふふ)
(デートだってぇ?)
--- ^_^ わっはっは! ---
「申し訳ございません、15時でどうでしょうか?エンジニアを連れてきます」
「ええ、ぜひお願いします!」
「ユティス、すごいよ。本当にありがとう」
すんなり面会できた上、ビジネスになる可能性も出てきたことで、和人は、半ば有頂天だった。
「いいえ、和人さんのお力ですわ」
「とんでもない。話を進められたのも、きみがコンタクトできるようにしてくれたからだよ」
「リーエス。そういうことにしておきますわ。うふふ」
ユティスは微笑んだ。
「残念ですけれど、ここは、受付の方に問題がありそうですわね」
「ああ、そうなんだ。いつもシャットアウトで、とりつくしまがなくて・・・」
「でも、もう大丈夫ですわ。今度、あの方がダメなんて言ったら・・・」
「言ったら?」
「脳波をくすぐって、笑い地獄にお誘いしちゃいます!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あっはっは」
「うふふ。だって、あの方の表情ったら・・・」
「うん!まるで般若だよ!」
「あの方も笑っている方がどれだけステキか、おわかりになってもらいましょう!」
「ぜひ!」
「リーエス。実はもう暗示をおかけしました」
「そうなの?」
「うふふ。もし、あの方がそういう気分になられたら、体中がくすぐったくなって、思わず笑わざるをえなくなりますわ」
「あはは。また悪戯したな、ユティス」
「うふふ」
「じゃ、明日、ここに確かめに来ようよ?」
「まぁ!そちらの方が意地悪ですわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは・・」
二人は幸せそうに微笑みあった。
「すみません、和人さん・・・」
ユティスが急に残念そうな顔になった。
「どうしたの?」
「申し訳ございません。お時間がきてしまいました。わたくしは戻らねばなりません」
「しょうがないよね・・・。今日は本当にありがとう、ユティス」
「リーエス・・・。では、和人さん、わたくしは戻ります」
「いつ戻ってくるの?」
「明日・・・。また、明日お会いしましょう」
「うん・・・」
「和人さん・・・」
ちゅ。
ユティスは和人の頬にキッスするような仕草をすると、すうっと空中に溶けるように消えていった。
じーーーん。
(えへへ、二回目。今日一日、顔洗うの止しておこうっと)
--- ^_^ わっはっは! ---
和人はそれを感じることはできなかったが、精神は大満足だった。
そぅ・・・。
和人は頬に手をやった。