388 茶髪
「アンニフィルドです。今回のサブタイトルはタリアの髪のことでぇーす。タリアはトルフォの監視をして委員会の理事更迭に向け、エルドの命を受けて密かに証拠集めをしてるわけなんだけど、本当はわたしが超A級SSになるにあたって教官をしていたリュミエラって人物なんです。わたし自身としては複雑な感じだけど、これからどんな活躍を見せてくれるのか、お触り程度に登場よぉ」
■茶髪■
ここはトルフォが滞在中の惑星シュリオンの首都、エルフィアの大使館だった。
「やれやれ。パレードもそろそろかな・・・。もうすぐ帰ってくる時間だな」
一人のシュリオン男性がロビーでくつろいでいた。
「こんにちわ」
にこ。
一人の長身で黒に近い濃い茶色のショートヘア美女が、彼の前で挨拶した。
「やぁ、あなたは確かトルフォ様のチャーター機のキャビンクルーの・・・」
「ええ、モルナさん。タリアです。トルフォさまのお帰りはまだなんですか?」
タリアは愛想よく答えた。
「歓迎パレードで、もうしばらくはかかると思いますが・・・」
モルナは彼女をしげしげ眺めるとソファーから立ち上がった。
「変ねぇ・・・。予定時刻をもう2時間も過ぎてますのに・・・」
タリアは時計を見ながら首を傾げた。
「まぁ、エルフィアから理事をお招きするなんて初めてのことですから、歓迎レセプションとかパレードとか、トルフォさまのこなす行事が目白押しなんではなかと思いますよ」
モルナは愛想良く答えた。
「まぁ、そうですか」
「タリアさんはパレードに興味はないんですか?」
「わたしは・・・」
(できることなら、願い下げだわ。鼻の下を伸ばしたトルフォの阿呆面見て、なにが楽しいもんですか!)
--- ^_^ わっはっは! ---
ぽん!
「あ、そうそう、トルフォさまは今回お一人でいらしたそうなんですか?」
モルナは思い出したように手を打った。
「お連れ合いのことですか?まだ、お独り身と聞いていますけど・・・」
(本当は5回も連れ合いを乗り換えたとんでもないやつなんだから!)
「今はそうらしいです・・・」
「今は?」
モルナは真相など知るはずもなかった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええ。だからですね・・・」
タリアは言いかけて止めた。
(馬鹿馬鹿しい・・・)
「なにがでしょうか?」
「いえ、こっちのことです」
「それより、タリアさん、パレードはシュリオンの人々を見るいい機会ですので、あなたも見に行かれるとよろしいんでは?」
「はぁ・・・。モルナさんは?」
「わたしは、このとおり男性で、大使館内の一人事担当ですからね。トルフォ様は同行するのは女性たちの方がよいとおっしゃられて・・・」
(なるほど、そういうことか・・・。やっぱりね)
「うふふ。ここの美女たちに囲まれて、身動きが取れなくなると心配ですわね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わは。そうかも知れません。シュリオンは美女揃いですから」
確かに、エルフィアやセレアムもそうだが、カテゴリー2以上の世界には美男美女が多い。
「さぁ、そんなところに立ってないで、どうぞ、お座りください」
モルナはソファを指差した。
「よろしんですか?」
「もちろんです」
モルナはさらに右手で彼女を座るように案内した。
「そうそう、そういえば、トルフォさまの臨時秘書さん、エルフィアのどなたかに瓜二つなんですって?」
タリアはつい先日トルフォが連れていた若い美しい娘のことに触れた。
「ああ、リュディス・ランセリアのことですか?」
「そう、そう。そのリュディスさん」
タリアは大きく頷いた。
「それが妙なんですが、お顔やお姿や名前まで、そっくりでして・・・」
モルナも頷いた。
「名前までなんて奇遇だわぁ」
タリアは目を大きく開いた。
「そうなんです。その方はユティス・アンティリアさんとおっしゃるんですが、トルフォ様の恋人でして、ご婚約されているとか」
(はぁ?あいつが恋人で婚約ですって?ありえない!いつ、ユティスがトルフォの恋人になったのよぉ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ、そうですか・・・」
(うっ。気分悪ぅ・・・。吐きそうだわぁ・・・)
タリアは胸がむかつくのを覚えた。
「リュディスさん、とっても柔和で可愛らしく、美しくもありますよね?」
そこをタリアはぐっと堪えた。
「そうですね。シュリオン中、探すのに骨が折れましたよ」
モルナは両手を広げて首をすくめた。
「探す?モルナさんが?エルフィアのエージェントのリンメルトさんが探してこられたんじゃないんですか?」
「いや。彼女は現地臨時秘書ですから、採用したのはわたしですよ。リンメルトさんからは、トルフォ様を迎えるにあたって、いい意味で驚いていただこうという趣向を・・・」
「それでは、リンメルトさんが臨時秘書さんの採用条件を?」
「ええ。でも、顔形、容姿、その他の条件はけっこう大雑把だったんです。立体映像くらいしか・・・」
(当然ね。そんな個人情報を出す分けないわ・・・)
「しかし、よく探し出しましたわ。本当にそっくりなんですね・・・」
にこ。
「ええ。いくらコンピュータで検索条件を当てはめ、顔や容姿を確認できたところで、実際に会ったこともない女性のそっくりさんですからねぇ。性格や器量まではさっぱりでして・・・」
タリアの微笑みにその時の労苦をねぎらわれたようにモルナも笑った。
「それをリンメルトさんが?」
「採用条件のことですか?」
「ええ。容姿ならいざ知らず、性格や器量までそっくりというのは、信じられませんよぉ」
タリアはもう一歩踏み込んだ。
「まったくです。タリアさんは、そのトルフォさまの恋人をご存知なんですか?」
(恋人のわけないったら!)
--- ^_^ わっはっは! ---
(トルフォのやつ、行く先々で吹聴してるのかしら・・・?)
「少しだけですけど。トルフォ様から宇宙機で移動中に立体映像なんかを拝見させていただいて・・・」
タリアはもっともらしいことを言った。
「やはりですか。あれだけお美しい恋人なら、だれでも自慢したくなりますよ」
「あはは・・・」
(ユティスがきれいだってのはいいけど、恋人ってのは訂正よ、トルフォ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうでしたか。どうりで・・・」
「しかし、ちょっと変なんですよね・・・。あはは・・・」
モルナは急に照れるように言った。
「なにか引っかかることでも?」
「いや、そのことですが、リンメルトさんから臨時秘書採用の話が来た時、これはやっかいなことを受けてしまったと頭を悩ましてたんです。しかし、その2日目のことでして、実は妙な夢を見ましてね・・・」
「夢ですか?」
(これは、これは、とんだビンゴだわ・・・)
タリアは注意深くモルナの話に聞き入った。
「まぁ、本当に馬鹿馬鹿しいことなんです。夢の中で秘書にする女性の器量とか性格とか話し方とか、そういうこと全部がふと頭に入ってきたんです。というか、誰かに囁かれたような・・・」
モルナはためらうように自分の前に置いた両手を見つめた。
「まぁ!それは正夢っていうものじゃないんですか?」
「まったくです」
(よし!)
「ふふふ。どなたか現れてモルナさんにお告げされたとか?」
タリアは鎌をかけた。
「ええ。そんな気がするんです。ですが、目覚めたら、告げた人物のことだけ、ぼやつとしてる始末でしてね・・・」
モルナは自嘲気味に言った。
「ふふふ。そのお話し、すっごく面白そうですわ」
「まぁ、なにかの偶然でしょう」
(冗談でしょ。あそこまでユティスの細かい情報を伝えてるってことは、偶然なんかではないわ。ユティスを良く知るだれかが意図的にこの男の夢に現れたんだわ・・・)
「あ、そうそう・・・」
モルナはまだ話し足りないというようにタリアを見た。
「まだ、なにか?」
「その人物、確か男で、ブレットとかなんとか言ってたような気が・・・。夢ですけどね。わはは!」
モルナは照れ隠しに笑った。
「ブレット?ブレスト?」
タリアは確認した。
「そうです。ブレッド。ブレスト。いや、ブレントだったかな?ブレンズ、ブレンド、ブレシト・・・。ブ、ブレ、ブレ、ブレブレ・・・」
モルナは噛みまくった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、どうでもいいですよね、夢の中の話ですし!」
「そ、そうですわよね。ほほほ・・・」
(どうでもよくない!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「やはり、パレード見てきますわ」
(作戦変更だわね・・・)
惑星シュリオンは長らくエルフィアの文明を支援を受けていた。そこで、今後とも両者の友好をさらに強めるために、シュリオン大統領よりエルフィアに理事視察訪問を要請していた。
「後はきみたちだけか・・・」
「なにがぁ?」
そういった支援先からの理事訪問要請はシュリオンに限らず、毎度お馴染みのことであった。エルフィアの理事15人ほどだったが、それだけの人数で数ある支援先の諸問題に対処すべく、日夜務めを果たしていた。したがって、思われているほど暇ではない。
「ミクセラーナ、トルフォの例の支援先視察訪問は、どれだけスケジュールをこなせているのか、きみは知っているかね?」
理事たちは、トルフォの訪問スケジュールはトルフォからくる自動報告システムに頼りっきりで、エルドを除いて自分たちから積極的になるほど関心はなかった。
「ああ、パルメンダール。トルフォのことね。そう、そう、知ってるわ。確か今はシュリオン。で、その後は・・・、あら、どうだったかしら?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ロンバルディーナ?」
「リーエス?」
「あなた、トルフォのスケジュール、ご存知?」
「ナナン。いつか帰ってくると思うわ、希望はしないけど・・・」
「だって。あは!」
--- ^_^ わっはっは! ---
その中でシュリオンをはじめいくつかの支援先の世界の訪問をこなせねばならない事態になり、理事たちはその数ヶ月ないし半年もかかる訪問を渋っていた。そこで、理事たちは、ユティスを手篭めにかけようとしてなんとか厄介払いをしたいと思っていた、トルフォに白羽の矢を立てたのだった。
「きみたち、わたしは真面目に質問しているだが・・・」
パルメンダールはしかめっ面になった。
「だから、わたしたちだって真面目に答えたじゃない」
「そのうち帰って来るのよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス?」
「リーエス!」
女性たちはお互い見合って頷いた。
「きみたち、それのどこが真面目な答えだね?」
パルメンダールは不満そうに二人を見つめた。
「トルフォにはなにも伝えてないって事実だわ」
「部外者へはトップシークレットですからね」
「部外者?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「彼は一応理事で身内なのだが」
「・・・」
「・・・」
しらぁ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わかったよ。わかった。要はきみらもトルフォにはなにも話してないってことだね?」
「口もきいてないわよぉ」
「きく気もないわよぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスが地球専任エージェントとして、それに真っ先に反対し、再三妨害しようと企んだトルフォとその一派に、ここの二人はまったく同情する余地を持ち合わせていなかった。
「それに、プライベート旅行も兼ねてるんでしょ。ミニスカの美人秘書を臨時に雇って」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だったら、帰ってくる日なんか、わかりっこないわ」
「そうそう、ユティスがエルフィアに帰還する前には戻るんじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
女性たちはさして重要でもないトルフォの話に興味を示さなかった。
「なんだって、今さらトルフォのことを引っ張り出すのよ?」
「彼は支援先ではエルフィアの公式表敬訪問代表なんだぞ。忘れてもらっては困るな」
「わたしは困らないわ」
「わたしも」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まったく・・・。彼も転送システムの影響を受けているはずなんだがね」
パルメンダールは渋い顔になった。
「きっと、転送システムもわたしたちに協力してくれてるのよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ミクセラーナ、それは言い過ぎじゃないのか?」
だが、意外や意外、トルフォはそれに自分の休暇を絡めることを条件にあっさりと引き受けた。理事たちは内心ほっとしていた。だが、トルフォのいない間に超銀河転送システムが元エンジニアによる介入を受け、地球では、地球人を絡めたブレストと数人のSSたちによるユティス拉致事件が勃発。超銀河間転送システムは改良のため無期限使用を停止された。ユティスたちをはじめ、エルフィアはかつてない適度な危機感に包まれていた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「その超銀河間転送システムがアルゴリズ変更を適用され、一週間以内に稼動を再開すんだぞ。こんな大事なことを・・・」
パルメンダールは天井を仰いだ。
「でも、トルフォが知らないわけないわよ」
「きっと、だれかが知らせているはずよ」
「それなんだ!委員会の理事たちに聞いても、だれもが、だれかが彼に通知してるはずだと言ってるんだ」
「じゃあ、だれも通知してないってことぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは・・・」
「嫌われて当然ね」
「あなたは、パルメンダール?」
「そう言えば・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは!」
「ふふふふ!」
「笑い事ではないぞ、きみたち。われわれ理事としてだな、エルフィアの一理事がこんな大変な決定を知らないとなると・・・」
パルメンダールは理事としての心構えを強調した。
「あなたもしてなかったわよね。わたしたちのせいなの?」
すたすた・・・。
ミクセラーナがパルメンダールに詰め寄った。
「ナナン。それは違うが・・・」
「で、あなたは責任とやらは、どうなの?」
すたすた・・・。
ロンバルディーナも詰め寄った。
「誠に申し訳ない。わたしもきみたちの仲間らしいな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「えらい!」
「よくやったわ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まったく、わたしはなにもしてないと言っているのに・・・」
「肝心のエルドやメローズは?」
「さて、これから聞きに行こうと思っているんだがね・・・」
パルメンダールが二人に踵を返して部屋を出ようとした。
「止めておきなさい」
ぐいっ。
ロンバルディーナがその手を引っ張って彼を引き止めた。
「え・・・?どうして聞いてはいけないのだ?」
「わざわざ、知らせてないことを思い出させる気?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「しかし、そんなわけにはいかないだろう・・・」
パルメンダールは理事の面子にこだわった。
「エルドは一応最高理事だから、それを思い出したら伝えざるを得ないじゃない?」
「やはり、そうだろうな・・・」
パルメンダールはミクセラーナに頷いた。
「帰ってくるな!ユティスはやらん!理事は更迭だ!と言ってくれればいいんだけど・・・」
「そっちか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
再度、ここは日本の首相官邸だった。
「ブレストのイラージュの一件、ユティス大使はどのように?」
藤岡首相は、合衆国とイラージュについて、エルフィアの出方の状況の確認をしようとしていた。
「合衆国の判断に任せるそうです」
大田原は簡単に言った。
「そんなぁ!軽いことでは済まされませんぞ」
「どのみち、どうにもできませんな。エルフィア大使館には今はだれもおりませんし・・・」
「なんと。ユティス大使たちは日本におらんと?」
藤岡首相は大田原にユティスたちの確認した。
「ええ。セレアムの社員たちと一緒です。ちと、離れておりまして」
「いったいどこへ?山中競馬場ですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
こういう時にユティスたちが大使館にいないと知って、藤岡は不安でいっぱいになった。
「1400光年先のG型恒星系の第4惑星に社員旅行に行っております」
「1400光年先・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
一瞬、藤岡はその距離がイメージできなかった。
「ちょっとではないですな・・・」
「かもしれません。光の速度でも1400年かかります」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ということは、大田原さん、あなたのお孫さんと会社の社員、加えてエルフィア大使たちは光速でも1400年かかるほどの距離を・・・」
藤岡首相は口をあんぐりと開けて、呆けたように大田原太郎ことセレアム人、トアロ・オータワラーを見つめた。
「左様。宇宙では目と鼻の先、近いもんです」
--- ^_^ わっはっは! ---
「近い。ははは・・・」
藤岡は力なく笑った。
「わたしは5600万光年先の別の銀河から来たんですが?」
「忘れておりましたわい。あなたが宇宙人でしたこと・・・」
藤岡は笑いを引きつらせた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「いつまで大使たちは・・・?」
「2泊3日の研修旅行ですよ」
大田原は平静のままだった。
「1400光年の宇宙往復旅行にたった2泊3日?」
藤岡はなんともったいないというように大田原を見つめた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「研修ですからな。それくらいが適当でしょう」
「社員研修が全員そろっての宇宙旅行?」
「そういう時代になったわけです」
「へ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「各国の宇宙飛行士や研究者たちが可哀想になりますな・・・」
藤岡は頭をゆっくりと横に振った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「いやいや、それはそれで大変意義あることですぞ。自力で成し遂げたカテゴリー2への偉業です。ですから、エルフィアも地球を支援対象と認めたんです」
「はぁ・・・。それはそれで、その1400光年先へのフライトは、成田か羽田で出国手続きはしたんでしょうな?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それは失礼しました。どの空港も使用しておりませんので、出国税を支払っておりませんでした。やはり入用で?」
「政府の立場としては一応・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしが立替ておきますが、一人当たりいくらでしたかな?」
「いや、冗談です。エルフィア特別法の適用内です」
「適用は無い、と・・・?」
大田原は少し真顔になった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや、いや、適用です!機密費で適当に処理しますわい」
「それはありがたい」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこ。
大田原は満足そうに微笑んだ。
(せいぜい出国税は一人1000円くらいじゃないか。みみっちぃ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにかおっしゃいましたかな、首相?」
「いや、なに、わしも政府用事の外遊は一銭も払っておりませんからな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「もう一点あるんですが・・・」
「なんでしょうか、首相?」
にこ。
大田原は微笑んだ。
「出国の際は、航空法に触れるような飛行ルートは取っとらんでしょうな、その宇宙船とやらは?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「防衛大臣から自衛隊機のスクランブルの報告は受けておりませんが」
「ご配慮感謝します」
--- ^_^ わっはっは! ---
タリアはトルフォの歓迎パレードを観察する前に宇宙船の自室に一旦戻っていた。
「フェリシアス、わたしよ。聞こえる・・・?」
タリアの本当の名前はリュミエラといった。元エルフィア文明促進推進支援委員会の最高理事直属、超A級SSだった。
「リーエス。よく聞こえる」
エルフィアの文明支援活動に不満を持つ元理事のブレストの策により、知らずしてユティス拉致の陰謀に加担することとなり、地球に密かに転送された。そこで、こともあろうに、それを阻止するべく身を挺した教え子の超A級SSのクリステアに大怪我を負わせてしまったのだ。
「あの時のこと、どんなに謝っても謝りきれないけど、これだけは聞いて・・・」
「リーエス・・・」
「最初は、あんなことしようなんて思ってなかった・・・」
「ああ・・・」
逮捕されたリュミエラは、委員会の指定するカテゴリー1世界でその生涯を捧げるという償いを甘んじて覚悟していたが、ユティスの実の父であり委員会最高理事のエルドは、リュミエラの人となり力量となりを理解していた。リュミエラの予想に反して、彼は条件付で彼女の罰を見直す用意があると申し入れをした。
「許してくれとは言えない。ただ、今はエルドからチャンスをもらったわ。少しは役に立ちたいと思ってる・・・」
「ああ・・・」
「トルフォをずっと監視してるわ」
「リーエス」
それは、委員会を牛耳り、ユティスをわがものにせんと欲する大物理事のトルフォを更迭するに十分な証拠集めること、その裏に潜む真の企みを暴き黒幕を確保することだった。
「裏に重大な陰謀がある。ブレストよ。本当は、もう知ってるんでしょ?」
「リーエス」
その黒幕とは、委員会最高理事の座を狙うトルフォの参謀、参事ブレストなのか・・・。まだ、確たる証拠はなかった。
「まだ、十分な証拠は掴んでないけど、彼の画策しようとしていることは一大勢力のトップになることよ。別に地球に亡命しなくてもよかった。ただ、タイミング的にそれを利用した方がよかったからよ」
「リーエス」
ブレストはエルフィアの文明促進推進委員会の参事という要職にありながら、ユティスの拉致を計画実行し、それが阻止されると直ちにエルフィア籍を放棄し、文明支援の優先対象をちらつかせて地球の合衆国へと亡命した。
「それから、トルフォは最終的にユティスを手に入れることができると思ってる。けれど、ブレストがそう思ってないことは知ってるの?」
「うすうすとはね・・・」
その根拠となっているのが、ブレストが密かに立ち上げた独自の文明支援組織であった。彼は百数十年以上も前から、こともあろうに同じ天の川銀河にあるイラージュという世界でそれを着々と準備していたのだ。
「ここ、シュリオンでブレストはトルフォに引導を渡すつもりだと言ったら・・・?」
「ありうると思っている」
「その確かな証拠が入るかもしれない」
「期待している」
「アルダリーム(ありがとう)・・・」
そして、イラージュの最初の文明支援先として地球に白羽の矢を立て、また、合衆国を地球代表として扱うことを打診してきたのだ。
「ブレストが組織しているのはイラージュだ。天の川銀河にある・・・」
「天の川銀河。地球のあるところ・・・。そういうことだったのね・・・」
タリアはようやくブレストのおかしな行動に得心がいった。
「リーエス。一世界に複数の支援窓口を持つことは、支援先を混乱に陥れることになりかねない。委員会規定の禁止条項だ。いや、他のカテゴリー3以上の世界なら、みな知っているはずだ」
これはエルフィアに文明支援した伝説の世界カリンダやエルフィア自身、またセレアムやその他の文明支援を支える幾多の世界と文明支援の理念を大きく異とするものだった。
「委員会とは関係なしに、彼に協力するエルフィア人のスペッシャリストが複数いるわ」
「リーエス」
「ターゲット世界はカテゴリー1。カテゴリー1の世界よ」
「由々しき問題だ・・・」
文明支援が仇となる可能性が高い未成熟なカテゴリー1の世界には、基本、エルフィアから直接文明支援を行うことは何万年も前から禁じられていた。派遣エージェントの身の安全確保もあるが、それ以上に未成熟世界の自ら学習する機会を永遠に失わせることに繋がるからだ。
「このままではブレストにより、多くのカテゴリー1の世界が自律進化を阻まれることになりかねない」
「リーエス。地球はその第一号世界だ・・・」
「ごめんなさい。わたしたちのせいで・・・」
「心配には及ばない。わたしたちが地球を守る」
「リーエス。パジューレ(お願い)・・・」
自身の惑星を脱出し、それを外から観察するテクノロジーを持たないカテゴリー1の世界は、自力でその壁を破らねばならない。
「ユティスの身に変化はない?」
「今のところはね・・・」
「地球はカテゴリー2に成り立て。大部分の地域はカテゴリー1のままだわ」
「イラージュのことをその地域の指導者が知ったら、必ずブレストにコンタクトするだろう・・・」
「永遠に学習する機会を奪おうとしてる・・・」
「ああ・・・」
自律的進化。そうすることによってのみ、大宇宙にぽつりと漂う己の世界を初めて客観的に見つめることができるのだ。この極めて危ういバランスに成立している自世界の奇跡の認識と感謝の念。自世界と他世界を守る義務を自覚し、それらを真に悟ること。これがカテゴリー1の世界の課せられた学習であり、エルフィアの文明支援を受けることのできる必須最低単位であった。
「極めて近々にブレストは計画を実行すると思う。トルフォの動きをチェックできるか?」
「リーエス。張り付いてるわ」
「うむ。イラージュの先発隊はブレストと接触に地球に来るはずだ」
「いつ?」
「少なくとも2週間以内には」
「ということは・・・、フェリシアス、超銀河間転送システムの復旧は近いの?」
「ああ。アルゴリズムの変更はほぼ終了している。後は実転送テストを残すだけだ」
「ブレストたちも本格始動するわけね?」
「恐らくな・・・」
カテゴリー1の世界は自ら精神を高めカテゴリー2への扉を開かねばならない。エルフィアやその他の高文明世界から、単に与えられるものであっては決してならないのだ。文明はテクノロジーと共に精神も進化する必要があった。
「なにかよくないことが起きる気がする。ユティスはどうしても一時的にエルフィアに戻ることになるの?」
「エルフィアの委員会本会で、地球の予備調査の中間報告をするは極めて大切なことだ。地球の未来を文字どおり左右する」
「もし、地球がわたしたちのしたことで、カテゴリー2判定を覆されることになったら?」
「支援は時期尚早。精神面での進化が一定値に到達するまで、地球の時空封鎖は免れまい・・・」
未成熟な精神は自律して行動することを知らない。与えられることに慣れ努力することを放棄し、次には更なる高度なものを権利として要求するようになる。それが叶わぬと知るが早いが手のひらを返すように強奪へと発展し、それも実現できぬとわかると自他を容赦なく攻撃するようになる。後には荒廃そして滅亡の2文字しか残らない。
「そこで、再びユティスが拉致でもされれば、委員会としては・・・」
「間違いなく、ブレストと結託した地球のカテゴリー1地域のせいにされるな」
「地球は他世界を侵略すると思う?」
「このままでは大いにありうる。自世界では徹底的に行っている。開発と呼び方を変えてはいるがね。そして、宇宙へは・・・、彼らの指導者次第ともいえる危うい状況にある。正直、わたしもユティスやエルドたちも、地球支援賛成派の今後の動きは非常に心配している・・・」
「わたしはミューレスを滅ぼした・・・」
「それは違う。ミューレスはまだ十分にカテゴリー2に進んでいなかった・・・」
「だからじゃない・・・?」
「・・・」
何万年もの文明支援活動を通じて、カテゴリー1の文明支援を直接してはならないという委員会規約はこうして確立された。自力でカテゴリー2の扉を開くことによってのみ、精神は学び次なる文明段階へと進んでいくことができるのだ。
「カテゴリー1への見直しは?」
「それはないだろうが・・・」
エルフィアの文明支援はカテゴリー2以上の世界でないと行われない。唯一にして無二の理由である。カテゴリー1以下の世界は、天体衝突などの超天災で滅亡の危機に瀕さない限り、エルフィアは観察に徹するのだ。
「ブレストは地球支援反対派だったくせして・・・」
「彼らの支援対象はカテゴリー1の最終段階からだ」
ブレスト率いるイラージュはタブーとされたカテゴリー1の世界を積極的に文明支援する対象とし、エルフィアとは根本的に袂を分かつ危うさを内包するものだった。
「トルフォはいい面の皮ね・・・」
「委員会の理事たちにはいろいろいる。わたしたちとは真っ向反対する人間は少なくない」
委員会にも地球支援反対派はいる。ブレストの賛同者は他にもいる可能性があった。そのため、エルドはこれに危機感を抱いており、もう一度委員会の意義を問い正す必要を強く感じていた。
「きみの新しいミッションで不便なことはあるかね?」
エルドは彼女のことを気遣っていた。
「ナナン。今のところは・・・」
そういうわけで、この作戦を隠密に進めることとし、リュミエラの名前をタリアと変え情報収集に当たらせることにした。最終ターゲットは当初追っていたトルフォではなく、ブレストかもしれないのだ。エルドはその判断をする時期にきていることを悟っていた。
「新しいことがわかったら知らせてくれたまえ」
「リーエス・・・」
「話せてよかった・・・」
「リーエス。じゃあ、わたしはトルフォのパレードの監視があるから・・・」
「ああ・・・」
そして、タリアのミッションを知る人物はエルドとSSのトップでリュミエラ自身想いを寄せていたフェリシアス、そして秘書のメローズのみであった。
「やぁ、可憐。たまには一緒にカフェにでも行かない?」
キャムリエルが石橋を誘った。
「あのぉ、キャムリエルさん、ここ、地球じゃないんですけど・・・」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「もちろん、わかってるよ。地球に帰ってからの話だよぉ」
「まぁ・・・。この3日間は会社の研修なんですよ。ちゃんとお勉強しないとカテゴリー2から3には・・・」
「ぼくはカテゴリー4のエルフィア人だよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしは地球人なんです。だから、もっと勉強する必要があるんです!」
石橋は少し強めに言った。
「うん、うん。そういう可憐の頑張り屋さんのところが、ぼくは好きなんだなぁ・・・」
どっきん・・・。
ぽ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わ、わたしはちっとも頑張り屋さんじゃありませんけど・・・」
もじもじ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃ、そういう頑張り屋さんじゃないところも好きだなぁ・・・」
にこ。
「はい?本当はどっちなんですか・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どっちも大好きだよ。可憐は可憐だから可憐なんだ。可憐は好きな人いるの?」
にこにこ。
「い、いますよ、ちゃんと・・・」
ぽっ。
石橋は和人がユティスと仕事の話をしているところをちらりと見やった。
「ぼ・・・、ぼくと和人以外にも?」
にこ。
「え?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「よかった・・・」
「ええ?なにがいいんですか?」
「可憐、人は人を好きになるようにできてるんだよ」
にこにこ。
キャムリエルは笑顔になった。
「それと、どう関係があるんですか?」
「可憐、きみがちゃんと人間だってことだよぉ」
「どういう意味ですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぼくも人間だし、可憐が大好きだよ」
(お、キャムルリエル、今日もまた石橋にちょっかいを始めましたね?)
(うはは。観察しようってかぁ?)
(うん、うん!)
女性たちが二人を密かに注目し始めた。
「あの、キャムリエルさん?」
「なんだい、可憐?」
「もし、地球であのカフェに行くんだったら・・・」
石橋は和人とユティスがくっついて話しているのを横目に、キャムリエルになにか言いたそうにした。
「ああ、カフェね・・・」
「あそこは人気なんで、席がすぐに埋まっちゃうんです・・・」
「埋まる?そりゃ、危険だぁ。いつから工事現場になったのかい?」
「はい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「てへへ。なぁーーーんてね。その困ったような表情、すっごく可愛いなぁ、可憐・・・」
にこ。
「もう、キャムリエルさん!」
ぷくぅ。
「リーエス、ハニー」
にこにこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ハ、ハニー・・・?」
ぷん!
「ええ?恋人のことをハニーって言うんじゃあ・・・?」
「はい。確かに英語としては正しいですけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「やっぱり、正しいんだ。ぼくと可憐は恋人同士・・・」
にこっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「だれが恋人同士ですか!カフェなら、お一人で行ってください!」
くるっ。
石橋はもう一度和人たちを一瞥すると、キャムリエルに後ろを見せた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「待ってよ。悪かったってば、可憐!」
「みなさん、キャムリエルさんが地球に戻ったら、地球の女の子とカフェでコーヒーをお飲みになりたいそうでぇーーーす。どなたか一緒に来ていただける方、募集だそうでぇーーーす!もちろん、身も心も女性に限ります!」
--- ^_^ わっはっは! ---
石橋は明るく事務所の人間に向かって叫んだ。
「ええ?石橋、ひょっとして、今、キャムリエルを振ったのぉ?」
「きゃ!きゃあ!石橋!」
「あはは。キャムリエルったら!」
たちまち宇宙機の中は女性たちで騒がしくなった。
「いいわよぉ、キャムリエル。わたしが奢ってあげるわぁ!」
岡本が笑いながら手を上げた。
「ちょうど、アイデア煮詰まっていたんだよねぇ」
すたすた・・・。
早速、岡本が石橋とキャムリエルと石橋のもとにやってきた。
「ちょっと待ってよ、みんなぁ!ぼくは可憐とぉ・・・」
「知りません!」
「可憐ってばぁ!」
「べーーー!」
石橋はアンニフィルドがよくやるようにキャムリエルにあかんべーをした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あああああ!」
キャムリエルはたちまちのうちに萎んでしまった。
「可憐、最悪だよぉ・・・。だんだん、アンニフィルドに似てきちゃう・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんか言ったぁ、キャムリエル?」
「ナナン。なんにも。あははは・・・、地獄耳・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---




