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385 金時

「ごっぶさたぁーーー。アンニフィルドです・・・。ごめんなさいねぇ、読者のみなさん。ここんところ、いろいろあったんだけど、地球製の例のPCの例のOS問題でファンが異常に張り切っちゃって超加熱状態だったの。電源オフができなくなって、強制終了したらHDクラッシュ。さぁ、ここでセーブってところで160頁以上失われちゃったのよぉ。なん頁行かれちゃったか、わかんない状態で・・・。落ち込みましたわよぉ、そりゃあ・・・。マメにセーブするしかないんですよね」

■金時■




セレアムの株式会社セレアム研修用宇宙機の巨大スクリーンには、セレアム社員たちの遥か遠くに、拡大表示された黒い歪な形をした岩のようなものが浮かんでいた。


「これがその小惑星かしら?」

岡本がそれを見つめながらポツリと言った。


「リーエス。それよ。小さくてまったく動いていないように見えるけど、随分と遠くにあるから、そう見えるだけだわ」

クリステアが眉一つ動かさないでそれを凝視したまま岡本に答えた。


「そうですね。みなさん、この小惑星は毎時5万キロという猛スピードで惑星に接近しています。われわれが近づくためには、この宇宙機を小惑星の軌道と速度に同調させねばなりません」


「それで、船長、どこまで近づくつもりなんだ?」

俊介がシャディオンに目配せした。


「1万キロまで接近します。それ以上は危険です」

「そうね。あんなのとキッスするなんておぞましい限りだわ・・・」


--- ^_^ わっはっは ---


「科学的ではないな。衝突と言え。アンニフィルド。おっほん」

俊介がアンニフィルドをちらりと見た。


「なによ、急に学者ぶっちゃって。婉曲話法を使ってロマンチックに言ってあげたのにぃ・・・」

アンニフィルドが俊介に流し目を送った。


「とにかく、その軌道と速度とかは計算済みなんでしょうから、さっさと近づいてくれる?」

クリステアがシャディオンに注文した。


「了解です。それでは本機を接近軌道に乗せます。秒読みを開始してくれたまえ」

「了解、シャディオン」

船長のシャディオンの指令で宇宙機のCPUが直ちに答えた。


「ジャンプ30秒前。29、28、27・・・、3、2、1、ジャンプ」

宇宙機のCPUの声が部屋に響いた。


ぶわんっ。

セレアムの宇宙機は小惑星の1万キロに接近すると、制御ルームの巨大スクリーンにその様子を余すことなく映し出した。


「うへぇ、気味悪いっすねぇ・・・」

二宮は顔をしかめながら呻くように言った。


「妙に角が取れていて案外のっぺりと丸っこいんですね」

二宮の隣でイザベルが答えた。


もわぁーーー。

近くで見ると、白いガスが小惑星を薄っすらと覆っていた。


「これ以上主星に近づくと彗星みたいに尾を出し始めるかもしれません」

船長がみんなに言った。


「なんか人の頭みたいにも見えるわね?」

茂木が首を傾げてそれを観察した。


「人の首なんて気味悪いこと言わないでよぉ、茂木」

岡本が言った。


「そうっすね。首狩りにあったうちの道場の師範に似てるっす・・・」


--- ^_^ わっはっは ---


「まぁ、不謹慎ですよ、二宮さん・・・」

イザベルが二宮を嗜めた。


「ところで、船長さん、この宇宙機は小惑星の進路に並行して進んでいるのですか?」

ユティスはシャディオンに確かめようとした。


「ええ、ユティスさん。仰せの通りです。それに、二宮さん、小惑星の角が取れて丸っこいのは、すべてが岩石質ではないからなのでしょう」


船長はそう言うと宇宙機のCPUに指示を与えた。

「小惑星表面の成分を表示してくれたまえ」

「了解しました、船長」


シャディオンは宇宙機のCPUに小惑星の成分をスクリーンに表示させた。

ぱっぱっぱ・・・。


「なるほど、ケイ酸塩に水、アンモニア、それにメタンの氷か・・・。有機質は十分にあるぞ」

腕組みをした俊介が素早くそれを読み取った。


「氷が20パーセント近くあるな。どちらかというと、こりゃ、小惑星というより彗星に近いか・・・」


「でも、尾もないし、黒っぽいじゃないですか?」

石橋は氷と聞いて白いものと思った。


「いえ、石橋さん。尾がないのは、主星から十分に遠いからですわ。それに、氷といっても冷蔵庫の製氷室にできるものを想像しても違います。彗星というものは塵や有機成分が交じり合った真っ黒い雪ダルマのようなものですわ」

ユティスが微笑みながら石橋に答えた。


「そうですか。氷なのに白くないんですか・・・?」

今度は石橋は和人を振り返った。


「不純物交じりじゃないんですか?」

和人が答えた。


「そおっすねぇ・・・。自分に言わせれば、小豆がたっぷり入った宇治金時、カキ氷って感じだと思うっすよ」

二宮がカキ氷を食べる真似をした。


「宇治金時か。お、うまい表現じゃないか、二宮」

俊介が珍しく二宮を褒めた。


「うす。真夏に宇治金時。カキ氷は美味いっす」

「宇治金時カキ氷って・・・。ああ、あれね・・・」

アンニフィルドが思い出したように言った。


「こいつは食べれないっすけど・・・」

そう言いながら二宮はアンニフィルドをちらりと見た。


「こら。だれを見て言ってるのよぉ!」


--- ^_^ わっはっは ---


「カキ氷と聞いて急に食べたくなったんだろ、アンニフィルド?」

俊介がアンニフィルドにウィンクした。


「悪い?」


「わかる。わかる。夏はカキ氷に限るからな。にしてもよく知っていたな?」

「地球のお料理は研究済みよぉ」


「カキ氷ってのは料理なんすかぁ?」

「うるさい、二宮!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうか。とにかく、でかしたぞアンニフィルド」

俊介は笑顔で頷いた。


「いいでしょぉ?」

「ナイスダイブだ」


俊介は、エンドラインでランニングバックがディフェンスをかわし大きくジャンプしてタッチダウンを成功させたように、珍しくアンニフィルドを本気で褒めた。


「それ、美味しいんだから・・・」

アンニフィルドはみんながいるところで俊介から褒められて、たちまち照れてしまった。


「ねぇ、みんなは欲しくないの?」

アンニフィルドは冷たくて甘い抹茶の香りのする宇治金時を想像し、顔の赤みを誤魔化すように、わざとらしく夢見るような表情になると、セレアムの社員たちを見渡した。


「うん。美味しいわよ、それ」

「わぁ、わたしも宇治金時欲しい」


わいわい・・・。

がやがや・・・。

茂木や岡本たちも一斉に声を上げ、室内が騒がしくなった。


「そうね。そろそろ休憩時間にしてもいい頃だわ。ねぇ、船長、地球を経つ時、日本は夏だったから、一応、宇治金時を作るだけの材料はアンニフィルドのたっての依頼で積んでるんだけど、即席で作れない?」

真紀はアンニフィルドを見つめた。


「あは・・・」


--- ^_^ わっはっは ---


「あーーー、最初からそのつもりだったな、アンニフィルド?」


「ナイスよ、アンニフィルド!」

「いぇーーーい!宇治金時!」


ばっちーーーんっ!

岡本がアンニフィルドとハイタッチした。


「サンプルデータはありますから、確認してみましょう。きみ、言われたとおりだが、用意できるかね?」

船長が宇宙機のCPUに伝えると彼女は即座に答えた。


「了解しました。10分あればご人数分ご用意できます」

「うむ。ではお願いするとしよう」




さて、しばらく諸星漫遊にどっぷり浸かったエルフィアの文明促進推進委員会理事のトルフォは、意中の女性、委員会最高理事の末娘ユティスと、髪と目の色は違えど瓜二つの臨時秘書を得て気分はまんざらでもなかった。


「おう。リュディス、さっそく髪を結ってくれたのだな?」

にたり。


トルフォは、自分の指示を受け入れて、白いシュシュで黒髪をポニーテールにまとめてきた臨時秘書を満足そうに見つめた。


「リーエス。トルフォさまのご要望ですから・・・」

リュディスがはにかんで答えると、頭の振れに合わせるようにポーニーテールが揺れて白い首筋が露になり、トルフォは満足そうに頷いた。


「うむ・・・。で、わたしは今日は予定通りシュリオンの視察に出かけることになっているが、大統領府からの迎えは来ているのか?」


「リーエス。お迎えのVIPラフターは数分前に到着しています。チーフエージェントのリンメルトさんが大統領の対応をしています」

リュディスが答えた。


「よかろう。すぐに出かける」

「リーエス」


エルフィアからのVIPを迎える迎賓館の玄関には、ややクリーム色がかった銀色に光を放つ地球のスポーツカーを二回り大きくしたようなVIPラフターが、地上十数センチに浮かんでトルフォを待っていた。


「おお、これは、これは!」

そこにはシュリオンの大統領がトルフォを迎えていた。


「トルフォさま、シュリオンにようこそ!」

VIPラフターは3列座席で1列に3人が楽に座れる設計だった。


「きみ、トルフォさまを」

「はい、大統領閣下!」


大統領の専属ドライバーらしい人物がうやうやしくトルフォを後ろの席に案内した。


「ああ、いいよ、きみ。自分で席に着くから。リュディス、きみはわたしの隣に」

最後部座席に乗り込むと、トルフォは上機嫌でリュディスに言った。


「リ、リーエス。しかし、大統領が・・・」

「ナナン、リュディス。きみは真ん中に座りたまえ。大統領はきみの左に」

トルフォはにたりと笑うと大統領に合図を送った。


「トルフォさま、わたしは・・・」

「美しい女性をわたしが独り占めするのは良くないだろう?」

「トルフォさま、お戯れを・・・」


大統領は慌てて言ったが、リュディスは真っ赤になりながら、後部座席の真ん中にトルフォとくっ付きそうになりながら座った。


「さぁ、大統領、どうぞ」


ぽんぽん。

トルフォはリュディスの膝越しに座席を軽く叩いて大統領に催促した。


するぅ・・・。


「きゃあ・・・」

トルフォの腕がリュディスの足に触れ、リュディスは小さく叫んだ。


「はぁ・・・」

「大統領・・・」

大統領の秘書も困ったように大統領とトルフォを見比べた。


「リンメルト、きみは大統領の秘書と中座席に着きたまえ」

「リーエス」

そういうことで、チーフエージェントのリンメルトと大統領秘書は真ん中の列に着いた。


「では、きみ、大統領府まで行ってくれたまえ」


大統領秘書がドライバーに指示すると、ドライバーは口頭でラフターに行き先を告げ、ラフターは全自動で静かに地上十数センチを滑るように動き出した。




「タリアの最新報告です。トルフォは予定通りシュリオンの視察に入りました」

エルフィアの文明促進推進委員会の最高理事執務室で、最高理事のエルドが秘書のメローズからトルフォの行動を密かに監視しているタリアの報告を受けていた。


「うむ。タリアは現在トルフォがチャーターしている宇宙機のアテンダントだったよね?」


「リーエス。それで、首尾よくトルフォを追ってシュリオンに到着することはしましたが、シュリオン大統領の公式面会にそのままでは出席できませんよ」

メローズは少し心配そうに言った。


「きみの言うとおりだろうが、トルフォがユティスをかどわかそうとしている一味のボスである証拠を握るために、シュリオンの大統領公式面会に出席できたところで、得るものはないと思うが」

エルドは秘書ににやりとした。


「すべての連絡はシュリオンのエルフィア大使館か宇宙機の中でしか行われないと?」

「ナナン。エルフィア大使館でそうするとは思えん。絶対に宇宙機の中だけだね」

エルドは自信たっぷりに言った。


「タリアへの指示はあるのですか?」

「ナナン。彼女に任そう。それより、問題は例のシュリオン臨時秘書だが・・・」


「リーエス。どうやら、シュリオンのエルフィア領事館の人事担当者、モルナという男性がシュリオンで見つけたようです。タリアがシュリオンに潜入していなかったら掴めなかった情報です」


ぴっ。

メローズがその姿と顔を空中スクリーンに映し出した。


「リュディス・ランセリアか。いやはや、まったく・・・」

エルドは実の末娘に名前も姿かたちもそっくりなその娘を見つめると苦笑した。


「双子の片割れだな・・・」


「心当たりでも?ふふ・・」

にや。


--- ^_^ わっはっは! ---


「メローズ、わたしは潔白だ」

にたり。


「それは失礼しました。それで、タリアの報告だと、トルフォは髪形まで同じにしろと彼女に指示したと・・・」


「ほほう。これはまた酔狂なことを・・・」

エルドは片眉を上げた。


「目と髪の色まで変えろとは言わなかったようです」

「さすがにそれは・・・」


「ふふふ。トルフォのことです。そのうち本気になるかもしれませんよ・・・」

メローズも冗談っぽく苦笑した。


「ナナン。冗談ではないかもしれんな」

トルフォはユティスが最高理事の末娘であることに第一義的な価値を置いていたのだが、もちろん美貌と器量にも大いに満足だった。リュディスはその美貌と器量を持っていた。


「タリアによると、リュディスは外見ばかりではありません。教養も高く器量も良く、人当たりもユティス同様に柔らかいと報告があります」

メローズは両手を広げた。


「それで、タリアはこれが偶然ではないと睨んでるんだね?」

「リーエス。彼女はトルフォの行動を監視し、その企みの証拠を掴むことが使命ですが、ここにきて、その裏で暗躍する確かな人物を指摘しています」


「つまりこういうことかね?だれかがユティスを手に入れようと、トルフォにリュディスをあてがい、彼の関心をユティスから引き離そうと狙っている輩がいると?」

エルドの一言でメローズは真顔に戻り腕組みをした。


「それは・・・」

メローズが悪戯っぽくエルドを見つめた。


「ナナン。断じて、わたしではないぞ、メローズ。もちろん、わたしはそう願っているがね。おっほん」


--- ^_^ わっはっは! ---


「それで、リュディス自身はなんと答えているのかね?」


「彼女はエージェントのリンメルトではなく、領事館の人事担当者であるシュリオン人モルナの募集に採用されたとトルフォに言ったようです。トルフォがユティスを欲しがって執拗に狙っていることは宇宙中に有名です」


--- ^_^ わっはっは! ---


「やはり、きみも、リンメルト、彼、単独のジョークだとは思ってないのだね?」

「ナナン。見知らぬ星で、ここまでユティスにそっくりな女性を探し出すことは容易ではありません。決して偶然ではないでしょう。ユティスの情報に相当精通した上で、検索条件をテキスト情報ではなく、もっと・・・」


「もっと、なにかね?」

「こほん・・・。そのぉ、身体の3D情報、性格情報、教育程度、行動様式の情報まで必要かと・・・」

メローズは軽く咳払いした。


「呆れたもんだね。それは本人の顧問ドクターくらいにしか開示されないはずだぞ」

「リーエス。それに・・・」


「それに?」

「彼にそうさせようと入れ知恵した人物が、わたしもどこかにいると思います・・・」


「どこかにとは?」

「シュリオンとは限りません。モルナもだれかに・・・」


「ふむ。それを探るために、タリアがモルナに接触を試みると?」

「リーエス。もう既に取り掛かっていますよ」


「それは手際のよいことだが・・・」

「エルド、なにか?」


「ああ。リュディスをトルフォにあてがう。トルフォが一時的にしろユティスから気を逸らす。これで、なにを期待できるというのか?はたまた、それで、だれがなにを得るのか・・・?」

エルドはリュディスの立体映像を見つめながら顎に手をやった。


ぽーーーん。

そこに、突如、超時空通信が入ってきた。


「こちらケーム常駐監視母船、ピュレステル・デュレッカです」

エルドの執務室中央に現れた擬似精神体は静かに自分の名前を告げた。




「どうだいユティス、宇治金時の味は?」

和人が恐らくユティスにとっては初めてとなるカキ氷の意見を求めた。


「うふふ。冷たくて、とっても美味しいですわ」

「そりゃ良かった」


「では、和人さんのをお味見しますわね」

ユティスはそう言うと、和人の宇治金時にスプーンを差し込んだ。


さくっ。


「あーーーっ、ユティス!」


--- ^_^ わっはっは! ---


ぱくり・・・。


「うーーーん、こちらはもっと美味しいですわ」

ユティスが幸せそうに微笑んだ。


「どれどれ、オレにも食わせろよ、和人」

まだ一皿を支給されてない二宮が人差し指を宇治金時に突っ込もうとした。


--- ^_^ わっはっは! ---


「だぁーーー!なにやってるんですか!オレ、一口も食べてなんですよぉ!」

「だからだよ。汚染される前に食う!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「二宮先輩もすぐにもらえますって!」

和人は自分の皿を守ろうと、急いでスプーンを持ったまま右手で二宮を遮った。


すっ。


「あのぉ、二宮さん、わたしまだ手をつけてませんから、これをどうぞ・・・」

イザベルが自分の宇治金時を差し出した。


「いや。勿体無いから、これは後で二人でゆっくり食べるっす、スプーンも一つで・・・。ね、イザベルちゃん!」

「はい?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「馬鹿もん!カキ氷の一つや二つ、いくらでも出てくる。大人しく待ってられんのか!」

俊介が二宮を叱りつけた。


「そうよ、二宮、はしたない・・・」


さささぁ・・・。

真紀の一言で女性たちが一斉に引いた。


「いや、あんまし懐かしいんで・・・。自分、ガキの頃食っただけっすよぉ」

イザベルにプロポーズしたあの一瞬格好いい二宮はすっかり鳴りを潜めていた。


「しかし、本当にすごいわね・・・」

「これが時速何万キロですっ飛んでるだなんて・・・」


「ちょっと信じれないわね」

「うん。うん」


大スクリーンに映ったその彗星もどきの小惑星を眺めながら、セレアムの社員たちはそれぞれの金時カキ氷を頬張っていた。


しゃりしゃり。


「シュンスケ、これが宇治金時ってカキ氷ね?うふ・・・」

ここでは乗務員として乗り込んだミリエルは、シュンスケの気を引こうとにっこり笑うと、俊介に甘えるようにきいた。


「おお、よく知ってるな。食ったことあるのか?」


すりすり・・・。

「ええ・・・」


ミリエルは自分の金時カキ氷とスクリーンの彗星もどきの小惑星を見比べた。


「ああ、似てるだろ?」

「ええ・・・」


すりすり・・・。

ミリエルは俊介にさらに身を寄せた。


ぷよん。

「おお・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


ミリエルは俊介がセレアム星滞在中に彼にぞっこんになっていて、170歳近いとはいえ地球人年齢でいうとその十分の一、若干17歳に届くかどうかの歳、まだまだティーネージャーだった。


「ミリエル、アンニフィルドに感謝しろよ」

突然、俊介がミリエルに言った。


「どうしてよぉ?」

むす。


その俊介の公然の恋人がアンニフィルドだ。いろんな人物から教えられているミリエルは、プライドを傷つけられ、微笑みを引っ込め、あっという間に臍を曲げた。


「超珍味、地球産の金時カキ氷を食べれるんだからな。一杯、500万円は下らんのだぞ」


--- ^_^ わっはっは! ---


そういうわけで、俊介を巡ってミリエルはアンニフィルドと真っ向から張り合おうとしていた。


「ほんとなの?」

「ああ。アンニフィルドが調達を提案した」


「あのおばさまが?」


つん。

ミリエルは俊介だけに聞こえるように囁くと、アンニフィルドを見やった。


--- ^_^ わっはっは ---


(ふぅーーーん。ミリエルのネンネちゃん、わたしと張り合おうなんて、10万年早いわよぉ。ちょっとからかっちゃおうっかなぁ・・・)


「ホントよ。それに、礼などいらないわ、お嬢ちゃん」

アンニフィルドは、俊介にどうにかして取り入ろうと、精一杯背伸びして大人ぶろうとしているミリエルが滑稽でしょうがなかった。




地球の合衆国大統領官邸では、エルフィアから亡命して地球人、合衆国市民となった元文明促進推進支援委員会のブレストが一会議終えて自室に戻っていた。


しゅん。


デスクについて座っていたブレストの前に、地球駐在エストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラの擬似精神体が現れた。


「ブレスト、ご気機嫌いかがですか?」

「おや、これは珍しいことだ。きみがここに直接現れるなんて、なんの気まぐれかな?」

ブレストはにやりと笑った。


「最高理事エルドより、お伝えすべきことがあります」

余計な説明を抜きにしてアンデフロル・デュメーラが先を進めた。


「なるほど。して・・・?」

ブレストは落ち着き払って擬似精神体に答えると、じっと彼女を見つめた。


「イラージュの地球文明支援に対して、あなたがどこまで考えているかと」


「ふふふ。そんなことか。知らせる義務もないが、いずれ知ることだろうからな。時空の理解と時空からエネルギーを取り出す方法の確立・・・、とまで言っておこうか。手始めに合衆国の学者たちには一講義終えたところだ」


「リーエス。では、カテゴリー3のテクノロジーについて具体的な支援を始めると?」


「いや。そのためには条件を出してある。猶予は2ヶ月。既に相当日数が経っているがね」

ブレストはここは嘘をついたところでエルドには筒抜けであろうとわかっていた。


「リーエス。確認しました」


(ほれ、案の定だ・・・)


「それで、エルドはわれわれをどうするつもりで?」

ブレストは止めれるものなら止めてみろとばかりに自信たっぷりに見えた。


「それです。エルフィアは今までどおり、エージェント・ユティスの地球の予備調査を続行します。2年間の視察を終了して委員会でその後の支援をどうするかを決定します」

アンデフロル・デュメーラは表情を変えることなく淡々とそれを伝えた。


「手緩いな・・・。で、もし、われわれがそれに先んじて支援を具体化したら?」

にやにや・・・。

ブレストはさも面白そうに笑った。


「支援がカテゴリー2の合衆国に留まる限り、どうともいたしません。但し、地球文明を後退させ、あるいは破壊させるかもしれないカテゴリー1のテロリスト組織にもそれを行う可能性があるなら・・・」

擬似精神体はわざわざ文明カテゴリーを引き合いに出して無表情に続けた。


「馬鹿な!いくらわたしとて、そのくらいはわきまえている!」

ブレストはあまりに当たり前過ぎる回答につい声を荒げた。


(一等最初の支援先を混乱に落とし入れ、滅亡させてどうする!)


--- ^_^ わっはっは! ---


(わたしにもメンツというものがあるだろ、大たわけが!)

ブレストは一瞬むっとしたような目つきになった。


「リーエス。賢明なご判断です。エルドにはそう伝えします」

「用件はそれだけか?」

ブレストは今のやり取りで明らかに会話を終わらせがっていた。


「ナナン。もう一つあります」

「なんだ?」


「あなたにはどう関係があるかわかりませんが、一応お伝えします。ランベニオこと、超銀河間転送システムの元エンジニア・ランベル・ベニオスをケームにて確保しました。容疑は超銀河間転送システムへの強制介入によるOSアルゴリズム無断変更、およびエージェント・ユティス拉致未遂です」


「それで?」

ブレストにはまったく表情を変えなかった。


「あなたとの交信記録をケーム常駐母船、ピュレステル・デュレッカより提供を受けています。ランベル・ベニオスとあなたとの関係を否定しますか?」


「ナナン・・・」

ブレストは素直にそれを認めた。


「あなたは地球を離れ次第、地球上の権利を行使できなくなります」

「そういうことを伝えに来たのかね?」

「リーエス。これはとても重要な事項です」


こんこん。


「サー、イラージュから文明支援提案の件ですが、大統領がお話があると・・・」

その時、ドアの向こうからインカムを通じて大統領補佐官の声がした。


(大統領補佐官か・・・)


「来客だ。用件はそれだけなら、今のところはそれまでにして欲しいね、お嬢さん」

「リーエス。では、また後ほど」


しゅん。

アンデフロル・デュメーラは頷くと現れた時と同じように空中に消えた。


「イエス。今すぐ執務室に行く。大統領にはそう伝えてくれ」

ブレストはドアのほうを向くと少し大きめな声で補佐官に答えた。


「イエッサー!」


(こちらの提案は合衆国に取って悪くない条件のはずだが、すでに1ヶ月以上無しのつぶてか・・・。なかなかの狸だぞ、大統領は・・・)


ブレストは、エルフィアに変わってカテゴリー3のイラージュが地球の文明支援を、取り分け合衆国をその代表として特別扱いするという条件で、3ヶ月の猶予を置き、自らの文明支援組織の長として大統領に申し出ていた。


(一先ず、大統領の裏を探るとするか。合衆国は基本性悪説で動く。一つの決定の前にはオプションが数十あるはずだ。今回の提案にも・・・)

ブレストは自室を出ると大統領執務室に向かった。




「お、お嬢ちゃんですってぇ・・・!」


ぴく、ぴく・・・。

しかし、ミリエルはアンニフィルドに子ども扱いされ、たちまちその顔を引きつらせた。


「あら。俊介から聞いたわよ。昨日、おしめが取れたばかりだってねぇ。あは」

アンニフィルドが仕掛けた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「な、なんですてぇ!もう一度言ってごらんなさい!」

ミリエルは怒り心頭になった。


ぱくうっ。


「あんまり急いでしゃべると、おしゃぶりがどこかに飛んでっちゃうわよぉ、お嬢ちゃん」


--- ^_^ わっはっは! ---


「アンニフィルド!わたしは子供じゃありません!」


きっ!

今度は、ミリエルは女らしさを強調するように胸を張り、アンニフィルドをしっかりと見据えた。


「うーーーん、冷たくて美味しいぃ!」

アンニフィルドも自分の金時カキ氷をスプーンで一杯すくい口に放り込むと、これ以上の幸せなどないように目を細め、ミリエルを完全無視した。


ぎりぎり・・・!

「アンニフィルド、答えなさいよぉ!」


「あぁら、ミリエルちゃんがカキ氷を食べてる。まさにガキ氷だわね。あは!」

「ガキって・・・!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うわぉ。カキ氷を早く食べようとすると、こめかみか痛くなっちゃうのよねぇ。あら、ミリエルちゃんは平気なのぉ?そっかぁ。痛みを感じる神経がまだ十分発達するほどに頭も成長してなかったのよね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「い、い、言ったわねぇ!」

アンニフィルドに無視を決め込まれ、ミリエルはすっかり頭に血が上った。


「子供はあんまり冷たいのを食べると、すぐにぽんぽんが痛くなっちゃうわよぉ」

「ぽんぽん・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「覚えてらっしゃい、アンニフィルド!」


ぷりぷり・・・。

むかむか・・・。


ミリエルはあまりの怒りに反撃の言葉を失い、仕返しの準備のため、席を立ち岡本たちのテーブルの方に行った。


すたすた・・・。


「おう。ミリエル、食い過ぎるなよな・・・」

俊介も修羅場が当座回避されたと思い、そのままミリエルの背中を目で追った。


「大人気ないわね、アンニフィルド」

クリステアも去っていくミリエルの背中を見つめて言った。


「まぁ、あれくらいで切り返しもできないようじゃ、わたしの敵じゃないわね」

ぱくっ。

アンニフィルドは宇治金時をまた一口ぱくついた。


「だから、ミリエルは敵じゃないわよ」

真紀はアンニフィルドを嗜めた。


「あら、そう?シュンスケだってまんざらじゃなさそうだったようだけど」

「そりゃ、単なる男性としての条件反射よ。妬いてるのアンニフィルド?」


「まさか」

「こら、クリステア、条件反射だって?」

俊介がクリステアを問い正そうとした。


「やれやれ・・・」

アンニフィルドは仕方がないかという表情になった。


「しかし、宇治金時を作るほどの材料を用意してたなんて、あなたもよく気が利くわね、アンニフィルド」


ぱく。

クリステアも嬉しそうに一口それを頬張った。


「でしょ。でしょ!あは!」

アンニフィルドは笑った。


「オレが薦めたんすよ」

ぽりぽり。

二宮が頭を掻いた。


「なによぉ、二宮。積み込みを決めたのはわたしよ」

「ありゃ・・・?」


その時、今までユティスと二人でしっぽりやっていた和人が、急にスクリーンの彗星もどきの小惑星を見つめて、口に金時カキ氷を運ぶスプーンを止めた。




「どうしたのですか、和人さん?」

ユティスが和人にきいた。


「いや、なにか偶然の一致だと思うけど・・・。アンニフィルドがカキ氷を食べた瞬間、同時にこの小惑星の一部が欠けたような。まさかね。あはは・・・」

和人の言葉を聞いて、ユティスたちはスクリーン上の小惑星を見つめた。


「あら・・・」

「まぁ・・・」

「うん・・・?」


確かにそれは欠けていた。

ぽろっ・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そのカキ氷の形・・・」

ちょうど大きなスプーンでざっくり取られたアンニフィルドの金時カキ氷のように。


「なにかにざっくり掘られたような感じですわ」

ユティスが不思議そうに言った。


「はっは。アンニフィルドがカキ氷と一緒に食っちまったんじゃないのかぁ?」

俊介がアンニフィルドをからかうように言った。


「そんなわけないじゃない。バカバカしい・・・」

ぱくっ。

そういうとアンニフィルドはまた一口金時カキ氷を口に放り込んだ。


ざくぅ・・・。

ぼろ・・・。

スクリーン上の小惑星が今度ははっきりと欠け、まるで掘られたようになった。


「きゃ・・・」

「小惑星がアンニフィルドに食われた!」


--- ^_^ わっはっは! ---


俊介の言葉にユティスたちはスクリーンとアンニフィルドの金時カキ氷を見比べた。


「ちょっとぉ、バカ言わないで。岩の塊なんて食べれるわけないわよぉ。第一、その小惑星、直径10キロ以上あるのよぉ!」


きっ!

アンニフィルドは気分を害して和人を睨み付けた。


「なんでオレなんだよう?」

「和人、あなたが最初に言った!」


「試しに、もう一度食べてごらんなさいよ、アンニフィルド?」

満を持したかのように、先ほどの屈辱と怒りを静めたミリエルが言った。


「ふん。アホくさぁ・・・」

ざくっ。

アンニフィルドが金時カキ氷にスプーンを入れた。


ざくっ。

ぴっきーーーん・・・。

それと同時に、スクリーンの小惑星の一部に大きな亀裂が入った。


「おり・・・!}

「い・・・。まさか・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


アンニフィルドはその手を止めた。


「どうしたの、アンニフィルドぉ・・・?」

ミリエルの目が細くなった。


「うるさいわねぇ!」


ざく。

ぱく。

ぼろ。

小惑星の亀裂から一部分がまた消えた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「やっぱり・・・」


「アンニフィルドが小惑星を食べてる。環境破壊ね」

ミリエルがにやりとした。


--- ^_^ わっはっは! ---


「うるさい!うるさい!うるさい!」


ぱく、ぱく、ぱく・・・!

アンニフィルドはカキ氷を矢継ぎ早に口に放り込んだ。


ぼろ、ぼろ、ぼろ・・・!

それに合わせるかのように、小惑星は次々に欠けていった。


「決定的だわぁ・・・」

ミリエルが勝ち誇ったように言った。


--- ^_^ わっはっは! ---


きーーーん!

「痛ぁーーーい!」


冷たい金時カキ氷を急いで掻き込んだので、アンニフィルドは頭が痛くなりスプーンを置いてこめかみを両手で押さえた。


ぴたっ。

その瞬間、小惑星の崩壊は止まった。


「あ、崩壊が止まった・・・」

ミリエルが意味ありげに言った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「うーーー!なんでわたしが小惑星を破壊しているって言うのよ、バカ!カキ氷を食べただけなんだからね!」


きぃーーーっ!

アンニフィルドはミリエルを睨み付けた。


「あなた、エネルギー効率が悪いんで、小惑星くらい食べてないとその大きな体が持たないんじゃなくて?」

アンニフィルドの上背は179センチあり、ミリエルとは十数センチも高かった。


--- ^_^ わっはっは! ---


ミリエルは笑いながら反撃を開始し、アンニフィルドを見つめた。

「ふざけないで!」

形勢が逆転した。


「あらぁ、まぁ。お目々が血走ってるわよぉ。ねぇ、シュンスケもそう思うでしょ?」

ミリエルはついでにアンニフィルドの濃いピンクの目を揶揄った。


「なんか言ったかしら、おちびちゃん・・・」

すくっ。

アンニフィルドは自分たちに再び近づいてくるミリエルの前に立ち上がった。


「わぁお、うさぎちゃんも羨むくらい真っ赤だわ!」


「バ、バカ。そんなこと言うんじゃない、ミリエル!」

俊介はミリエルを嗜めようとしたが、それは一歩遅すぎた。


「あらあら、その目、いつも血走ってるんだったわね。忘れてたわ、ウサギのおばさん」

「う、ウサギのおばさん・・・?」


ぴっきん・・・。

「あのねぇ、この性悪娘、本気で怒るわよ!」

この一言で、アンニフィルドが完璧に本気モードに入った。


ずっきーーーん!

「痛たたたた・・・」


しかし、アンニフィルドはカキ氷をしこたま頬張ったせいで、一向に収まらない頭痛に顔を歪めた。


「あーあ、小惑星が半分くらいになっちちゃった。シュンスケ、あなたも食べられないに気をつけてよね・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


ミリエルはさらに火に油を注いだ。


「無論、オレは食われたことなどないが・・・」

俊介はアンニフィルドを恐る恐る振り返った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「じゃあ、わたしが食べてあげようかなぁ・・・」

ちらっ。

ミリエルが俊介に流し目した。


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんですってぇ、この泥棒ドラ猫!」

アンニフィルドがミリエルを睨んだ。


「事実を言っただけですわ」

つん!

今度は、ミリエルはつっけんどんに言い放った。


「あのですねぇ、ミリエル・・・」

その時、困ったように、そして申し訳なさそうに船長のシャディオンが割って入った。

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