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384 他星

「アンニフィルドです。だれ、間違えてるのは?杏仁豆腐じゃないからね。それにフェリシアスのことを・・・。やっぱり止めときましょうね。はしたないから、乙女の口する言葉じゃないわぁ。あは。あのね、そういうことでセレアムの研修旅行が始まったんだけど、俊介たちはなにを考えているのやら。後ろに、エメリア大叔母さまが控えてるのはわかるんだけどさぁ・・・」

■他星■




どっどっどっ・・・。


セレアムの社員を乗せ、遊覧船は普通にエンジン音を響かせて都会の川をゆっくりと走っていた。


「うは、すごいね、可憐!」

初めて乗る遊覧船にキャムリエルは大はしゃぎだった。


「ええ。川の中から見る景色ってとても新鮮です」

石橋は川を行く遊覧船の風が暑さを和らげるのを感じて気分よく言った。


「本当に貸し切りなんですね?」

「リーエス。ぼくたちの他にはいないよ」


「でも、船長さんは?」

石橋はこれが本物の遊覧船にしか思えなかった。


「必要ないんだよ、たぶん・・・。あは」


--- ^_^ わっはっは! ---


キャムリエルは楽しそうに答えた。


「そうですよ。全自動ですから、いなくても大丈夫です」


「いないんですか?」

石橋は船を動かすエンジンもディーゼルみたいな音を出してるし、船長も必要だし、当然それは地球人だと思った。


「でも、これ普通に遊覧船だと思いますけど・・・?」

石橋は同意を求めるようにキャムリエルを見つめた。


「遊覧船だね。あは」

キャムリエルは頷いた。


「それはそんな風に見せかけてるだけです」

船内の案内役の制服姿の若い女性添乗員が愛想よく言った。


「見せかけてるって、本当にセレアムの宇宙船なんでしょうか?」

石橋は信じられないといった顔になった。


「ええ。そうですよ。動力源は超時空エンジンですが、音も振動もそれらしくなってるでしょ?」


「超時空エンジン・・・?」

石橋は首を傾げた。


「とにかくエンジンはちゃんとついてるってことさ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ちょっと、みんな聞いて!」

エンジン音に負けないように真紀が大声を出した。


「これからのことだけど、全員をセレアムの宇宙船に転送するから、船室から出ないようにしてよね」


それれを聞いて、デッキに出ていたキャムリエルと石橋は真紀の手招きに従った。


「窓から頭を出してると首から下だけ持っていかれるわよ。いい?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「はぁーーーい」

「リーエス」

みんな口々に答えた。


「ミリエル、転送の説明をして」

真紀は添乗員に依頼した。


「はぁい、みなさん、本船は15秒後にセレアムの母船に転送されますので、ご準備をお願いします」


「へっ?」

「それのどこが説明なの?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「いいじゃないですか。はい、後10秒でぇーーーす!」

「10秒後?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「準備ですって?」


ぽわぁーーーん。

船室に白い光が溢れてきた。


「な、なによ、これ・・・?」

「といってる間にも後5秒となりました。4、3、2、1、転送!」


ぶわんっ!


「きゃあ!」


--- ^_^ わっはっは! ---




とんとんとん・・・。

セレアムの社員たちを乗せた遊覧船はゆっくりと川面を進んでいった。


「おい、あの船見てみろよ・・・」

休憩でもしていたのか、川岸で遊覧船を眺めていた建設業風の男が指をさしながら、同僚に語り掛けた。


「なんだよぉ?きれいな女の子でも乗ってるのか?」

その同僚は男の指さす方向をすぐに振り返った。


「いや、消えていくところだ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「消えていくとこだってぇ?」

「じゃあ、あれはなんだ?」


しゅん・・・。


彼が指さしたのは、ちょうど遊覧船が空の彼方から来る白い光に包まれて、二十くらいの女性の人影が次々と消えていくところだった。


「・・・」

「・・・」


二人は無言で見合った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「消えた・・・」

「ああ。オレたち夢を見てるのか・・・?」


どっどっどっ・・・。

そして、遊覧船はなにごこもなかったかのように二人の方に向かって進んでいった。


「や、天女の居残りがいる・・・」

「ああ、制服を着てる・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「はぁーーーい、おじさんたち!」

遊覧船のデッキに現れた一人のまだティーネージャーとも思える若い女性乗務員が、男たちに手を振っていた。


「あ・・・」

「今の内緒にしててね!わたしとあなたたちの秘密・・・!」


にこっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「え?」


「秘密って、やっぱ消えたのかぁ・・・?」

「そうよぉ。消えたの。見てたんでしょ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「見てた・・・」

「ああ、見てた・・・」


ぽかぁーーーん。

二人の男たちはあんぐりと口を開けて答えた。


「うふふ。後々面倒くさいことになるから、そういうことで!」

「そういうことで・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


ぽわぁ・・・。

若い女性乗務員がそう言うと客室に戻っていき、遊覧船全体が白い光に包まれた。


「面倒くさいったって、人が次々に消えちまったんだぞぉ・・・?」

「おい、警察呼ばなくていいのかぁ・・・?」


「呼んだ方がいいよな・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


しゅん!

そして、今度は遊覧船そのものが消えた。


「ぎゃあ!」

「どわぁっ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


川面は何事もなかったように波一つたっていなかった。




「リッキー、ジェニー?」


エルフィアの地球待機母船、アンデフロル・デュメーラの中では、ドクターのエスチェルが患者たちの様子をもう何日もモニターしていた。


「ご気分はどうですか?」

助手とはいえ、ドクターのトレムディンが二人の元Z国エージェントたちを気遣った。


「ああ。すこぶる調子がいい」

「わたしもよ」


元Z国のエスパーでエージェントだった二人は、本国の秘密を洩らさないように頭脳に複雑で極めて強固なプロテクトを掛けられていた。それは、彼らの本国であるZ国の諜報秘密に触れるようなキーワードを口にすると、記憶がデフォルト、つまり赤ん坊のように真っ新になってしまう精神的な地雷だった。


「なにかに思考をプロテクトされているという感覚はないわ」

「ああ、オレもだ。頭がすっきりしている・・・」


二人は何度も自分の頭脳からそのプロテクトが外されたのを確認しようとしていた。


「ユティスは完璧な処置をしましたね」

「リーエス。さすがだわ。どう、トレムディン、もう二人にOKサイン出していいかしら?」


「リーエス。彼らは完全に開放されましたよ」

こく。

トレムディンは頷いた。


「さて、時間ね」

「リーエス。アンデフロル・デュメーラの準備はできています」


トレムディンはユティスが地球のウィルスに感染した時にドクター・エスチェルと一緒に地球にやって来ていた。


「よかったわ。こちらでも確認したけど、問題はなさそうだわ」


ぎゅ。

ぎゅ。

エスチェルは頷くとリッキーとジェニーを交互に抱きしめた。


「あ・・・」

「ドクター・・・」

エスチェルの思いがけない行動に二人は戸惑った。


「おめでとう。これであなたたち二人は完全に自由よ」

エスチェルは優しく言った。


「ドクター・・・」

「エスチェル・・・」

リッキーとジェニーはとっさのことに声が出なかった。


「そうそう、あなたたちにプレゼントがあるの」

にこ。

エスチェルは二人に微笑んだ。


「プレゼント・・・?」

リッキーはなんのことかと思った。


「リーエス。さぁ、こっちに来て」


ひらひら・・・。

エスチェルは出口の方にゆっくりと歩き出すと二人に手招きをした。


「どこに行くの?」


「いいから、ついてきて・・・」

エスチェルは二人を一つの部屋に案内した。


「入るわね?」

「ど、どうぞ・・・」


しゃあ・・・。

ドアが開いた。


「リッキー・・・」

「ジェニー・・・」


そこにいた4人の老夫婦は目を大きく見開いて二人の名を口にした。


「お義父さん、お義母さん・・・」

「パパ、ママ・・・」


「どうして、ここに・・・?」

「どういうことなの・・・?」

リッキーとジェニーはわけがわからなかった。


「これで、あなたたちの最後の棘も抜けたはずよ」


にこ。

しゅん。


「募る話もあるでしょう。時間はたっぷりあるわ」

エスチェルはそう言うと部屋を出ていった。




日本時間午後4時、ここはセレアムの宇宙船の中だった。


「おり、地球上空待機船とは違うな・・・」

すぐに俊介は真紀に目配せした。


「わたしたち専用に用意してもらった子機よ」

「けど、けっこうな大きさだぞ」


「そうね。30人が一月暮らせるくらいなの。直径70メートルくらいかな」


ミリエルが楽しそうに俊介に身を寄せた。

ぴとぉ。


「こら、そんなにくっつくな!」

俊介は慌てて身を引いた。


「じゃ、二宮さんと変わろうかぁ?」

「断る!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「酷いっすよぉ、常務ぅ。オレだって・・・」

話が聞こえていた二宮がむくれた。


「ばかもの!イザベルの前でオレとくっついてたら、余計心配されるだろ?」

「なるほどぉ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「だから、わたし、でしょ?」

ミリエルは大きな目で俊介を見上げた。


「おまえなぁ・・・」

俊介は苦り切った顔になった。


「あーーーら。わたしなら遠慮しなくてもいいのよ、俊介」

アンニフィルドが俊介に何食わぬ顔で言った。


「どうぞ、ご自由に、ミリエル」


ぱち。

アンニフィルドは俊介にウィンクした。


「本当なの・・・?」

ミリエルはアンニフィルドの意外な言葉にわれを疑った。


「なに言ってるんだ、アンニフィルド」

俊介はわけがわからなくなっていた。


「そのかわり、夜はわたしが借り切るからね。ねぇ、ミリエル?」

にっこり。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ええ・・・?」

俊介がさらに戸惑った。


「ダ、ダメ!夜は絶対にダメ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「じゃあ、今、借りるわ。夕方ならいいわよね?」

アンニフィルドは切り出した。


「い、いいわよぉ・・・」


(夜よりましだわ・・・)

ミリエルは戸惑い気味にアンニフィルドを見つめた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「と、いうことで、いらっしゃい、俊介・・・」


にこ。

アンニフィルドは俊介をじっと見つめた。


「ほらほら・・・。宇宙空間に昼も夜もないわ・・・」

「え?」


--- ^_^ わっはっは! ---


ごく・・・。

俊介は唾を飲み込んだ。


「オレをどこに連れてくつもりだ・・・?」

「仕事に決まってるでしょ!」


--- ^_^ わっはっは! ---




「姉さん、真紀たちを1400光年先に送ったのはやり過ぎじゃないかね?」

「宇宙のスケールでは玄関先だわ」


「玄関先ね・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


今は大田原太郎という名前で、地球の日本人として暮らしているトアロ・オータワラーは自宅の超時空通信で実の姉のエメリア・エメリアナと通信していた。


「いきなりショックを受けて倒られたりでもしたらと思うとな・・・」

大田原はスクリーンの姉を見つめた。


「そうかもしれないけど、いずれあの子たちが通らなければならない通過儀礼よ。遅かれ早かれ、いずれは経験することになるわ」

立体スクリーンに映ったエメリア・エメリアナは答えた。


「しかし、社員たちも一緒にだぞ?」


「ええ。承知しているわ。真紀から聞いたの。身近な人間から真実を知るべきだと。それに、あの子たちは社員をじっくり人選して集めてるのよ。その彼女たち、決して取り乱したりはしないわ」


「二宮君みたいのだけだといいが・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


大田原はそれでも心配そうだった。


「真紀たちは、もう、地球人としてだけでは生きれないのよ。カテゴリー2の人間。次はカテゴリー3の世界を垣間見てもいいと思うわ」

エメリア・エメリアナは実の弟に優しく諭すように言った。


「急ぎ過ぎなんじゃないかね?腰を抜かしたらどうする?」


「いいえ。そうは思わないわ。ユティスたちエルフィア人と日々接している人間よ。それは少しくらいは驚くでしょうけど・・・。1万円落っことすほどじゃないわ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「確かに、そっちの方がよほど慌てるな。わっはっは」

大田原太郎は姉の言葉が気に入った。




わいわい・・・。

がやがや・・・。

セレアムの社員たちはセレアムの宇宙船の中で期待と不安の中にいた。


「みんな、どうやってここに来たかとか、ここはどこかとか、そういった素朴な疑問があるだろうが、とにかく現実を受け入れてくれ」


セレアムの宇宙船の窓からは真っ暗な空間に無数の星々が煌いてるのが見えた。


「どんな現実?」

岡本が俊介を見つめた。


「なによ、それ?」

茂木もまたかという顔になった。


「ちゃんと説明しなさいよ、俊介」

真紀が呆れ顔になった。


「おほん。では、説明進ぜよう。われわれが今いるところは、今まで伝えていたように宇宙空間だ。あそこに見えるのが・・・」

俊介は立体スクリーンに映る輝く星を指した。


「太陽ですか・・・?」

石橋が自信なさそうに言った。


「じゃあ、なさそうだが・・・。なんだっけ、ミリエル?」


--- ^_^ わっはっは! ---


俊介はミリエルに振った。


「地球から1400光年離れた、なんとか星って名前よ、ダーリン」

「なんとか星っ、なんだそれ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「太陽系内旅行じゃなかったの?」


ずいっ。

すぐに茂木が俊介に詰め寄った。


「ぞれがだなぁ・・・」

「変更よ。ね、真紀お姉さま」

俊介がもたもたしているとミリエルが答えた。


「お姉さまは止めなさい」

「いいじゃないですか?どのみち姉妹になるんだから」


--- ^_^ わっはっは! ---


「それより、太陽系って、地球の探査船がうようよしてるんでしょ?そんなところ見てもつまんないし、仕方ないでしょ?」

ミリエルは真紀に同意を求めるように言った。


「そんなに飛んでたすかぁ?」

二宮がミリエルを見つめた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「どうでもいいじゃない。どうせ適当に転送したんだから」

にこ。


--- ^_^ わっはっは! --


「適当にって、犬の散歩じゃないんすよぉ・・・」

二宮が文句を言った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「んんっ!ミリエル、ここは適当に選んだりしてませんよ。カテゴリー0の惑星が一つあるG型単独星です。太陽系より数億年は若い恒星で、みなさんの社員研修には適した星系です」

遊覧船では船長をしていたシャディオンが静かに告げた。


「ははは・・・」

力なく笑った岡本は茂木と見合った。


「太陽系じゃないんだって」

「行先変更だって」

「1400光年先だって」


--- ^_^ わっはっは! ---


「いつの間に移動したんでしょうか?」

石橋は信じられないという様子で真紀に尋ねた。


「担いでるんじゃないんすかぁ?」

二宮が怪しそうな顔になった。


「じゃ、あれを見て、二宮」

真紀が立体スクリーンに映った一つの惑星に目配せした。


「青くて美しい星ですね・・・」

石橋が感嘆の声を上げた。


「なんだ。地球じゃないっすかぁ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「違うわ。よく見なさい、二宮。大陸も海も違うでしょ。これは地球ではないわ」

真紀がゆっくりと結論を言った。


「うす・・・」

二宮はとにかく答えた。


「宇宙船が自身を転送したのよ。1400光年先のここに」


「転送ですか?」

さっぱりわからないという表情でイザベルが二宮と頷き合った。


「て、言うより、ユティス!」

和人は転送と聞いて辺りを見回してユティスの無事を確認した。


「リーエス。お傍にいますわ」


すす・・・。

きゅ。

ユティスは和人に近づくとその腕に自分の腕を絡ませた。


「よかったぁ・・・。ふぅ・・・」

和人は安堵の溜息をついた。


「心配はありません。銀河内転送は超銀河転送方式ではありません。だれにも故意の妨害はできませんよ」


にこ。

和人の不安を払拭するようにシャディオンがすぐに答えた。




「どうして、また、こんなところへ?」

石橋がシャディオンにきいた。


「一つに、宇宙にはあなた方の地球以外にも生命があり進化が行われていること。二つに、カテゴリー0の世界の厳しさの中でも、今後の進化次第では文明を担う生命体が生まれていること。三つに、この世界が滅びゆく運命だとしたら・・・、どう思うか感じること」


シャディオンはほほ笑みを引っ込めると真面目な目つきで、みんなが理解しているのか確認しながら、ゆっくりとしゃべった。


「この世界は滅びつつあるんですか・・・?」

信じられないようなことを告げられて、石橋が哀しい目になった。


「ええ。滅びつつというより、滅びる運命に向かっていると言うべきでしょうね」


「なにが起こってると言うのですか?」

イザベルが不安そうに言った。


「数か月以内に数十キロメートルの小惑星が時速数万キロという速度で正面衝突する確率が14パーセントあるのです。もしそうなった場合、衝突の衝撃で溶けた岩石が惑星中に降り注ぎ、惑星中が火の玉と化す可能性は10パーセント。衝突の衝撃で数年にわたり主星の光は大幅に遮られ、気温は急激に下がるでしょう。ほとんどの生命体は死に絶えるでしょう」


「なんですって・・・?」

「そんなぁ・・・」

岡本も茂木も声を失った。


「1400光年先の星について、そんなことまでわかるんですか・・・?」

茂木が石橋の後ろからシャディオンを見つめた。


「ええ。そういうわけで、ここを選んだのはでたらめではありません」


「どうして、そんなことをわたしたちに・・・?はぁ、はぁ・・・」

一気にその場を包む重苦しい空気が漂い、皆が息が苦しくなった。


「社員教育ってなんなのよぉ・・・」

社員たちの声が上がった。


「それはだ。きみら、みんなが地球代表としての自覚を持ってもらうことにある。これから株式会社セレアムの社員は地球で最先端をいく人間となる。その下準備だ」


「どういうことよ、俊介?」

茂木がきいた。


「地球はそういう人間を必要とするからだ。カテゴリー2へのインストラクターの養成だな。きっといいビジネスになる」

にや。


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんですってぇ?」

真紀が俊介を睨んだ。


「いや、冗談だ。これはボランティアだ。必要経費は政府からもらっている。きみらへの報酬は保証付きだ」


「本当に、それだけの理由なの?」

茂木が疑わしそうに俊介を見た。


「他所の星を見てみたいとは思わんのか?」

「そりゃ、まぁ、見たいけど・・・」


「ねぇ・・・」

こくり。

社員たちは頷き合った。




「お義父さん、お義母さん・・・」


地球上空32000キロにステルス待機している、エルフィアの直径2000のエストロ5級母船の中で、リッキーとジェニーは二人の両親と奇跡的な再会をしていた。


「本当にパパ、ママなのね・・・?」


ぎゅぅ・・・。

ジェニーは両手で両親を抱きしめていた。


「ああ。本当だとも」

「わたしたちは助け出されたのよ」


「助け出されたって、だれにだ?」

リッキーは両親を見つめた。


「話は長くなる。結論から言うと、エルフィアのエージェントだよ」

リッキーの義父が他の3人と頷いた。


「アンニフィルドたちか?」

「ええ。その杏仁豆腐アンニンドーフさんとかの上司だっていう人」


「杏仁豆腐?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ははは・・・」

リッキーはずっこけた。


「ママ、アンニフィルドよ。プラチナブロンドで目が赤いきれいな人」

ジェニーが母親を訂正した。


「まぁ。とにかく難しい名前ね。その方の上司のフェ、フェ・・・」

「ストップ。言わなくていいわ。またリッキーがずっこけるから」


--- ^_^ わっはっは! ---


ジェニーがすぐに母親を制した。


「フェリシアスでしょ?」

「そう、そう。そのフェリシリアスさん」


「彼がわたしたちが4人が拘束されている特別監房から出してくれたんだよ」

ジェニーの父親が言った。


「特別監房といえば、ものすごい監視のはずだ。いったい、どうやって・・・?」

リッキーがジェニーの父親にきいた。


「なぁに、わたしたちにはわからん魔法でね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「魔法?」


「そうなの。監房の中の空中にその人が現れて、これからここから出してあげるって言うと、部屋の中に白い光が充満したと思ったら、もうここにいたのよ」


その信じられなかった時のことを思い出すようにジェニーの母親が言った。


「近距離転送ね・・・」

「ああ。近距離転送だ」

ジェニーとリッキーは頷き合った。




セレアムの宇宙船の中では、シャディオンによる説明が続いていた。


「惑星には幸せな時も幸せでない時もあります。宇宙全体で考えると、そういった小惑星の衝突はそこら中で起こっています。この惑星は、数か月前に、地球派遣船が旅の途中にたまたま発見しましたが、観測中に小惑星が衝突コースにかなりの確率で乗ったことを確認しています」


「本当に、そうなるんでしょうか・・・?」

和人が暗い表情で言った。


「どうして、なにもしようとしないのですか?」

石橋は小声で振り絞るように言った。


「われわれが大いなる宇宙の自然に人為的に介入するということですね?」

「そうだと思います。このままではここは死の惑星と化してしまいます」

石橋は耐えられないというように言った。


「なんとかならないんでしょうか?」

「待って、石橋、シャディオンの意見を聞きましょう」

真紀が冷静に言った。


「それができたとして、実際に介入していいかどうかはわれわれ自身、人間としての価値観の問題になります」


「どういうことですか?」


「小惑星の衝突は悪いことばかりを引き起こすのではないのです。生命に必要なミネラルなどの鉱物をもたらします。また、その世界の支配生物の交代を促します」


「そうですか・・・」


「例えば、地球の恐竜のような大型の肉食動物が闊歩する世界では、何億年もの間彼らがいる限り、知的に進化する可能性がある生物は1メートルにも育ちません」


「大きくなればすぐに見つかるし、捕まってしまうのね」

岡本が言った。


「ということは、体が大きくなる前に、恐竜の餌になるだけっすかぁ・・・?」

二宮が淡々と言った。


「そうです。大型肉食生物の身体能力は桁外れに違うからです。そして、小惑星の衝突でそういった大型肉食生物が死に絶え、その後、知的に進化する生物が巣穴から出て、進化するチャンスを得るのだとしたら?」

シャディオンは地球の歴史になぞらえて話を進めた。


「そんなことあるんですか?」

和人はシャディオンの言葉を噛み締めながら考えた。


「可能性はあるかもしれません」

シャディオンは言い切らなかった。


「とにかく、われわれがこのカテゴリー0の惑星を見て、その・・・、なんだ、感じることをだな・・・」

俊介はしどろもどろになった。


「俊介、これはカテゴリー2への重要な思考と感情の教育機会です。価値観のもんだでもあります。価値観というのは、どれが正解ということはありません。感じ、考える。そして、より好ましいと思われる結論を導き出す。この過程こそが最も重要なのです。恐らく、みなさんの一人一人が感じたことのすべてが正解なのです」


「・・・」

一同はなんとなくシャディオンの言わんとすることがわかったような気になった。


「では、惑星上空に移動します。いえ、その前にかの小惑星をご覧いただくことにしましょう」

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