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382 分身

「はぁい、アンニフィルドです。ちょっと間を空けちゃったけど、地球のパソコンとかいう不完全システムの影響ね。せっかくの原稿10ページ分が飛んじゃったのよぉ。和人に突き返してやるわ、あんなもの!バックアップしてなかったのかって?そんなことするわけがないじゃない。エルフィアのは全部エストロ5級母船、地球風に言うとそのクラウドを利用してるんだから。思ったことをセーブって考えるだけで保存してくれるんだからね。なにも持ってないけれど全部できるのよぉ。すっごいでしょ。あは!」

■分身■




「やぁ、みんな、ベネル・ロミア!」


株式会社セレアムこと在地球エルフィア大使館に、エルフィア文明促進推進支援委員会の最高理事のエルドが精神体で現れた。


「まぁ、エルド、どうしたのですか?」


にっこり。

突然のエルドの訪問に、ユティスはびっくりしつつも嬉しそうに微笑んだ。


「誠に申し訳ないんだが、ランベル・ベニオスの確保に手を焼いている。転送アルゴリズの変更作業もまだ半ば。きみたちのエルフィア行きはもう少しお預けになりそうだ」


「まぁ、そんなことでいらっしゃったんですか?」

「ユティス、そんなことで片付けられるほど単純ではないんだよ」

エルドは少し心配そうに言った。


「あら、どうして?」

アンニフィルドがきいた。


「つまり、エルフィアの全超銀河間転送システムのアルゴリズム変更にはまだ1ヶ月やそこらかかるってことだよ」


「その間は一切の超銀河間転送はできないということなのね?」

エルドの言葉を受けて、クリステアが言った。


「リーエス。転送者の生体振動パターンの認識アルゴリズムをそっくり変更するということなんだが、そこに大きな問題があるんだよ」

エルドは心なしか疲れているように見えた。


「それはなんですの?」

ユティスも心配そうにきいた。


「ことはユティスやエルフィア人に及ぶだけではないんだ」

「どういうこと?」

アンニフィルドがエルドの精神体を見つめた。


「ブレストのイラージュの転送システムにも、エルフィアの技術が転用されていてるのがはっきりした・・・」

エルドは静かに宣言した。


「転用?やはり、そうなんですか・・・」

ユティスも声を低くした。


「うむ・・・」

「しかし、制御装置はそんなに簡単に複製なんかできないわよ」

クリステアがエルドに答えた。


「リーエス。転用するということはだ、転送システム制御用の量子コンピュータのコア部分をブレストが相当前からストックをイラージュに横流ししていたんだ」


「まぁ、盗みを働いていたのね・・・」

アンニフィルドがあきれたように言った。


「もちろん、彼自身ではない」

「けど、彼の指示よ」

クリステアが断言した。


「とにかく、確認できているだけで十数台ある。しかも、ランベル・ベニオスによって、こちらのアクセスを拒否する回避機能を追加でOSに施しているらしい」


「なんですって?回避機能ってことは、こっちは処置なしってこと?」

「方法を探せないなら、きみの言うとおりだね、アンニフィルド」


「まるで、カテゴリー1じゃないの?」

アンニフィルドが呆れかえった。


「こっちはなにもできないのに、ブレストたちはやりたい放題というわけね・・・」

クリステアは目を閉じた。


「まさしく。もし、それがユティスや他の特定個人をターゲットにしたら、こっちの転送システムを持ち出すまでもない。彼らのシステムで転送されてしまうというわけだ・・・」


「まさか・・・」

「そう願っているが、ブレストの意図がわかった以上、それを阻止せねばならない」


「わかるわ」

「けれど、委員会には有効な手立てがないということなんですの?」

ユティスがそっと言った。


「情けない話だが・・・」


「ちょっと待ってください・・・」

その時、和人がエルドに口を開いた。


「うん?和人、きみになんか考えでもあるのかな?」

エルドの精神体は驚いて和人を見つめた。


「リーエス。いくらシステムに精通したエンジニアが、複製したものとはいえ、ハードのコア部分はエルフィアから横流し・・・。つまり、ハードのコアな部分はブレストたちも同じく手が出せないんではないでしょうか?」


「それは本当なの、エルド?」

クリステアがエルドに確認を求めた。


「和人、もう一度説明してくれたまえ」

エルドの精神体は和人に依頼した。


「リーエス。予め転送システムの制御装置のハードに組み込まれたプロシジャなら、エルフィアの自由になるはずです。例えば、地球のコンピュータもそうですが、OSやアプリではなく、もっとハードウェア寄りの核となるCPUのスーパーバイザーレベルでの制御です」

和人はエルドを真剣に見つめた。


「それで?」


「なにか緊急事態に備えて、コード化されたプロシジャがあるんではないでしょうか?制御システムにもシリアルナンバーがあるはずですし、もし、それを特定することができてストップをかけれるなら、イラージュの転送システムにもストップをかけられるんじゃないんでしょうか?」


「制御装置のスーパーバイザーですってぇ・・・?」

アンニフィルドがすっとんきょうな声を出した。


「確かに、それならランベル・ベニオスにも手が出せないわ・・・」

クリステアがアンニフィルドと頷き合った。


「リーエス。だから、エルド、それが可能かどうかお調べしてください」

和人はエルドの目をじっと覗き込んだ。




「ランベニオか?どうしたというのですか?」

合衆国の空軍基地での秘密質疑を終えて大統領官邸に戻ったブレストの頭脳に、ランベル・ベニオスのハイパーラインによる声が響いた。


「エルドが動いた。ケームの大統領府にわしを捕らえるよう要請をしたぞ」

「ふっふ。そう言うことですか・・・」


「そう言うこととはなんじゃ?えらく軽く言ってくれるのう・・・」

ランベル・ベニオス声は不機嫌そうにブレストの頭脳に響いた。


「じきに、ばれるとは思っていましたものでね・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ブレスト、わしは逮捕されそうになったんじゃぞ!?」

ランベル・ベニオスの語気が鋭くなった。


「だが、逮捕されていないんでしょう?ちゃんとわたしの教えたとおり、ピュレステル・デュレッカに退避したんじゃないいですか?」

ブレストはよどみなく続けた。


「そりゃ、そうじゃが、あまりに相手の動きが早いではないか!」

「確かに少々早いとは思いますが、十分間に合いましたでしょう?」


「少々ではのうて、あまりにじゃ!」

ランベル・ベニオスの声がブレストの頭の中で炸裂した。


「まぁ、落ち着いてください、ランベニオ。こちらは既にイラージュの文明支援を地球の最高文明地域の大統領に申し出したところです」


「では、伝えたのじゃな?」


「リーエス。合衆国は今では他地域に科学技術で追いつかれ焦っています。加えて、日本という地域にユティスが本拠地を構えたもので、自分たちの支援が後回しにされると憂ってもいます」


「頃合じゃと言うわけじゃな?」

ランベル・ベニオスの声が落ち着きを取り戻した。


「リーエス。確認までについでに言うと、エルフィアはユティスを予備調査で派遣しているに過ぎないということですよ。文明支援の本格的活動は予備調査の結果を見てということです」


「少なくとも数年先になるわけじゃな?」

ランベル・ベニオスはそれを確認しようとした。


「リーエス。ユティスがいればね・・・」

「ふむ。それで、その先は?」


「そこでイラージュは大統領より合衆国大統領に本格支援を申し出た。イラージュはカテゴリー3ですから、恒星間移動のテクノロジーは確立しています。合衆国にとって、それをすぐに手に入れることができるとなると、大統領の心は動くはずです」


「そんなに簡単にいくのかのう・・・?」

ランベル・ベニオスはいぶかった。


「イラージュが文明支援するには銀河内外への移動手段が必要です。だから、あなたの力が必要ということですよ」


「それは心配ない。制御装置はすこぶる調子がいい。エルフィアの超銀河間転送システムはそのままそっくり転用できておる」


「では、わたしの転送ももう可能ということですかね?」

ブレストはランベル・ベニオスの準備がプランどおりにできているかを確認した。


「そうじゃのう。そっちは完了しておる。しかしじゃ、このわしをどうしてくれる?このまま、エストロ5級母船に居座っても時間の問題じゃぞ。いずれ、ケームに加えてエルフィアからわしを捕らえにやってくるではないか!」


きっ!

ランベル・ベニオスの声が再び怒りを帯びてきた。


「ナナン。お忘れかな、ランベニオ?」

「なにがじゃ?」


「今現在、あなたの仕掛けが完了したことを知ったエルドたちは超銀河転送を凍結しています。これは、ケーム上空のエストロ5級母船、ピュレステル・デュレッカに対しても同じく適用されているということです。わかりますか?」


「リーエス・・・」

ランベル・ベニオスはブレストの説明に同意した。


「つまり、エルフィアからケームに人を送り込むことも、ケームからエルフィアに人を引き上げることも、しばらくはできないというわけです。地球に派遣したドクター・エスチェルたちも地球に足止めを食らっているのは、そういう理由があるからですよ」


「やつら、まだ、地球見物をしておったのか?」

ブレストの説明はランベル・ベニオスの再び怒りを静めた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ、そういうことです」

「しかし、転送アルゴリズムの変更と生態振動パターン管理アルゴリズムの変更を終えておるやもしれん・・・」


「それには甚だ時間が足りないことくらい、ランベニオ、あなた自身が一番知っていることではないですか?」


「ふん・・・」

ランベル・ベニオスの語調がさらに落ち着いてきた。


「それで、ランベニオ、あなたの次の仕事ですが、イラージュの宇宙機を地球の50光年近郊に転送してもらいたいですね。それ以下でもそれ以上でもだめです。あのイケズのアンデフロル・デュメーラが感づいてしまいますから」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わかっておるわ」


「イラージュがカテゴリー3であるのは変わりませんが、その宇宙母船にある転送機はエルフィアの技術が取り入れられていますよね?」


「もちろんじゃ」

ランベル・ベニオスの声は自信に溢れていた。


「では、あなたが特殊コードさえ入れれば超銀河間転送も可能なはずです」

「ブレスト、それで、おまいさんもイラージュに高飛びということか?」


「ナナン。ユティスの転送準備です」

ブレストは訂正した。


「ユティス・・・?ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ユティスとな!」

「なにか疑問でも?」


「ユティスを手に入れようとしておるのはトルフォであろう?まさか、おまいさんじゃったとは・・・」


「ナナン。トルフォですよ。すべてはトルフォが仕組んだこと・・・」

ブレストの声は落ち着いていた。


「じゃが、ブレスト。間違うでない。わしはトルフォの叔父じゃぞ?」

ランベル・ベニオスの声は一段と低くなった。


「ランベニオ、あなたとトルフォの血は繋がってはいないでしょう?あなたは彼に特別に情を持っているわけでもない。知っていますよ」

「・・・」


「いかがですか?」

ブレストは静かに言った。


「ふっふ・・・。確かにな。わしはトルフォに対する特別な思い入れなどない」

ランベル・ベニオスは一呼吸置いて観念しているかのようにブレストに答えた。


「それに、イラージュによる文明支援はカテゴリー1に対してもするんです。あなたの望む冒険とやらで、本物のヒーローになれんですよ。策略あり、美少女あり、マッチョあり・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そんじゃそこらのロールプレイング・ゲームより面白いと思いませんか?」


にたり・・・。


「ふん。喰えんやつじゃ!」


ランベル・ベニオスは、美少女攻略ゲームという自分の嗜好を、ブレストにすっかり見極められていることを知って、不満そうに鼻を鳴らした。




そして、ここはとある銀河のとある恒星系、エルフィアの文明促進推進支援を受けている一つの惑星、シュリオンにエルフィアの文明促進推進支援委員会の重鎮、理事のトルフォがその公式訪問要請で来ていた。


「まったく、つまらん・・・」


何ヶ月もの間、トルフォはブレストの計画に基づき、ユティスを手に入れるための自分の役割について、いい加減にあきあきしていた。


とん、とん、とん。


「トルフォさま、わたくしです」

だれかがトルフォの部屋をノックした。


「リーエス。入っていいぞ」

「失礼いたします」


昨日の夜遅く到着したトルフォは今日がこの惑星の公式面会日だった。


「今日は、ここの担当エージェントにお会いしていただくことになっています」


トルフォはその訪問行程中の雑務に現地の臨時秘書を雇っていた。


どっきん!


「リーエス。お、おまえ、その姿・・・」

トルフォは臨時秘書にすぐさま反応した。


「あ、はい。エルフィアのエージェントの一人をお会いすることになっていると・・・」


しかし、その姿を見て、ある人物にあまりに似ているので声を失った。


「名は?名はなんという・・・?」

「リュディス・・・、リュディス・ランセリアです」


がばっ!

トルフォはソファーから飛び起きた。


(そんな、ばかな・・・。ユティスは地球にいるのだぞ・・・)


ぷるぷる・・・。

トルフォは頭を振った。


「ユティス、きみか・・・?」


「ナナン。リュディス・ランセリアです、トルフォさま。なにか・・・?」

すぐに臨時秘書が繰り返して言った。


「リュディス・ランセリア?冗談だとしたら、ただでは済まさんぞ・・・」


きらり。

トルフォの目が光った。


「リーエス。わたくしがなにか・・・?」

リュディス・ランセリアと名乗った臨時秘書はトルフォを恐る恐る見つめた。


「目、目の色が違う・・・」

彼女の目は明るい茶色で、ユティスのアメジスト色とは異なっていた。


(いや。分身か、別人か・・・。名前までそっくりだ・・・)


「ええい、紛らわしい!」


ばん!


「きゃあっ!」

トルフォの声に臨時秘書はおっかなびっくりした。


「おお、すまん!驚かすつもりはなかった。独り言だ」


ぱさっ。

トルフォは自分に毒づくと上着を羽織り臨時秘書に言った。


「わかったから、さっさとエージェントのところへ連れて行ってもらおうか」


にたらぁ・・・。


とはいえ、根が女好きの上、自分の連れ合いに望んでいる美しい女性にそのままの臨時秘書に、トルフォはまんざらでもない気分になるのは当然だった。


「リーエス。ただちに。こちらです」

臨時秘書は気を取り直すとトルフォと一緒に部屋を出て行った。


かつん、かつん・・・。


(びっくりさせおって・・・。しかし、あまりに似ている・・・)

トルフォは彼女の後ろ姿をしげしげと見入ってしまった。


(背格好といい、もし、目の色を変え髪を染め結っていたなら、ユティスに瓜二つではないか・・・)


髪の色や形こそ違え、そこにある姿は、ユティス・アマリア・エルド・アンティリア・ベネルディン、地球に予備調査で派遣されている超A級エージェントにそっくりであった。


(待てよ。だれかの差し金では・・・?)

ふと、トルフォは裏を感じた。


「あの・・・、どうかしましたか?」


くるっ。

臨時秘書はきびすを返すと不安そうにトルフォに聞き返した。


「リュディス、おまえは、どこで、だれにより臨時秘書に採用された?」

「1週間前に、ここのエルフィア領事館で・・・」

臨時秘書は恐る恐る言った。


「ここのエルフィア領事館・・・。そうか・・・。で、採用者は?」

「エルフィア領事の人事担当者です」


「その人事担当者はエルフィア人か?」

「ナナン。ここの世界の方です・・・」

臨時秘書は不安そうに小声になった。


「ナナン。恐れなくてもよい。別に取って食おうというわけではないぞ」

「た、食べる・・・?きゃあーーー!」


ばさっ!

臨時秘書はスカートをしっかりと押さえた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「違う!ものの例えだ。で、そいつはシュリオン人か?」

トルフォは彼にしては最大限に優しく言った。


「リーエス・・・。シュリオン人です」


「名は?」

「モルナさんです」


「モルナ?女か?」

「ナナン。男性です」


「男か・・・?」

途端にトルフォは関心を失ったようだった。


「リーエス。とても男性らしい立派な方です」

「まぁ、男らしい名前かもしれんな・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


トルフォはそこまで聞くと左手を顎にやった。


「ふむ・・・。で、リュディス、おまえ自身はシュリオン人なのか?」

「リ・・・、リーエス。シュリオン人です」

リュディスは一瞬ためらった後トルフォに答えた。


「ま、よかろう・・・」

そして、トルフォは臨時秘書のリュディスをしげしげと眺めた。


(他人の空似とは言え、声や器量までユティスに似ている・・・。やはり、だれかの・・・、ブレストか・・・、まさかな・・・)


トルフォにしてはけっこうな深読みをしていた。




一方、エルフィアでは文明促進推進支援委員会の最高理事エルドが地球支援賛成派の理事たちに内密で招集をかけていた。


「みなさん、お忙しいところご参集いただき感謝する」


「して、エルド、例の超銀河間転送システムについて進展があったのかね?」

地球支援賛成派の理事パルメンダールがきいてきた。


「リーエス。ランベル・ベニオスの居所を突き止め確保寸前までいった。しかし、ケーム上空待機中の母船ピュレステル・デュレッカに逃げ込んだ」


「はっは。ピュレステル・デュレッカだってぇ?それじゃ、逃げ込んだことにならないじゃないぞ、エルド。こちらから彼を引き渡すように、さっさと彼女に指示を出せばいいことではないか」


「リーエス。パルメンダールの意見に賛成だわ。エルド、あなたがピュレステル・デュレッカに最高理事権限のコードを発令すればお仕舞いなんじゃない?」


「ミクセラーナ、ことはそう簡単ではないんだよ。ランベル・ベニオスを確保し、エルフィアに送還するということは、超銀河転送を行うということだ。もし、今のまま転送を行えば、次に彼が現れるところはエルフィアとは限らない」

エルドはゆっくりと言った。


「どうしてですか?」


「ランベル・ベニオスが予め自身の緊急事態用に転送プログラムを仕組んでいたらどうするんだね?」

エルドはミクセラーナを優しく見つめた。


「しかし、転送ログは残るでしょう?」

「ミクセラーナ、そんな簡単にログを残すなんてこと彼がすると思う?」

女性理事のロンバルディーナが指摘した。


「ロンバルディーナ、彼は恐ろしくシステムに精通している。彼の思いどおりにシステムを操るその秘密がなにか、それを知らないで転送はできない」

エルドは二人を見つめて言った。


「しかし、そのランベル・ベニオス自身が自身の転送を指示することだって考えられるわ」

「それはブロックしてあるよ、ミクセラーナ」


「ブロック?]

「ああ。この際だから、みんなに説明しておこう」

エルドは理事たちに向き合った。


「ランベル・ベニオスが超銀河間転送システムを意のままに操れるかもしれないという今の状態を放置するわけにはいかない。ブレストはユティスを筆頭に自分の計画に必要な委員会の人間を抱き込む算段だろう」

エルドはメンバーを見回した。


「まさか、理事や参事たちまでを・・・?」


「ありうるな。地球支援反対派はなにをしでかすかわかったもんじゃないぞ・・・」

グレンデルがエルドを援護した。


「例え反対派だって、片端から引き込まれたら委員会は立ち行かなくなるわ」

「委員会の危機だわ」

ミクセラーナとディリスが同時に言った。


「いかにも、お二方の仰せのとおりだ。そこでだ。なにものも超銀河間転送を行えないように、すべてのエルフィア方式の超銀河転送システムに最高理事権限緊急コード000を発信した」

エルドが一大決定を伝えた。


「コード000ね・・・」

「コード000だ」

理事たちはそれがどういうことかようやく理解した。


「まったく使えなくなるのかね?」

「恒星間転送以上はそういうことだ」


「この大宇宙に何百万台あるかもしれないシステムのどれ一つとして?」

グレンデルがきいた。


「リーエス。エルフィア方式の転送システムについて、コード000は安全面での欠陥が発見された時等のために用意された恒星間転送を強制停止する緊急コードだ。もちろん、超銀河間転送もね。われわれも転送を行えないが、ランベル・ベニオスも。そして・・・」


「イラージュもでしょ?」


「恐らくは・・・。ランベル・ベニオスが正直にエルフィア方式を移植していてくれたらね。あは」


にや。

エルドはユーモアたっぷりに笑った。


「彼、正直なの?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そう願うね」

くす。

グレンデルが顔を崩した。


--- ^_^ わっはっは! ---


「本当なのか?」

パルメンダールはそれには笑わずにエルドにきいた。


「リーエス。コード000は実際はオペレーション・システムやアプリケーション・プログラムではなく、複数のプロシジャから構成されているCPU組み込みのスーパーバイザーだ。特殊ツールをもってしても、設計エンジニアでも変更できる人間は限られる。保守エンジニアならなおさらだ。ランベル・ベニオスがいくらシステムのプログラムに精通しているとはいえ、量子コンピュータのCPUのスーパーバイザーに忍び込めるとは思えないね」


エルドはみんなを安心させようとした。


「リーエス。スーパーバイザーはシステムのハードに直接組み込まれる。一度書き込んだらその後の書き換えはほぼ不可能だよ」

エルドは続けた。


「そうでないとしたら?」

「イラージュが銀河転送できるだけだ。非常に問題だがね・・・」


「イラージュか・・・」

パルメンダールは心配の種が増えたのを憂っていた。


「エルド、それはブレストにとって寝耳に水になる可能性だってあるんじゃない?」

ディリスが論点を反対派側からどうなのかというところに変えた。


「仰せのとおりだよ、ディリス。実は、わたしがこれから話したかったことなんだ。事実上、コード000発令で彼らの転送システムは恒星系内を除いて一切作動できなくなる」


「すごいじゃない、エルド。いつ、そんなこと思いついたのよ」

ディリスは目を輝かせた。


「わたしじゃないさ。カズトだよ」

にやり。


「カズトというと・・・?」

「あの地球人ですか?」

ロンバルディーナがみんなに和人が地球人であることを思い出させた。


「いかにも。その和人の一言さ。彼の父親はコンピュータのエンンジニアなんだ。和人はコンピュータや制御装置のことを、幼少の時から父親から、あれこれと聞かされていたらしい。地球のコンピュータはバイナリだが、エルフィアの量子コンピュータと言えども、基本的アーキテクチャは対して変わらんものさ」




ぎゅ。

ぎゅ。


「ああ、トルフォ。お久しぶりです!」

「リーエス。リンメルト」

シュリオンのチーフ・エージェントはトルフォと抱き合った。


「びっくりしたでしょう?」

にたり。

リンメルトはトルフォの臨時秘書のリュディスを見やった。


「ああ。一瞬、わが目を疑ったぞ・・・」

「名前までそっくりなんですよ」


「聞いた。どういうつもりだ?」

きっ!

突然、トルフォは眼光鋭くシュリオンのA級エージェントを睨みつけた。


「た、単にトルフォ理事を驚かそうと・・・」

リンメルトは言い訳した。


「それだけではなかろう・・・?」

「ええ?なにを言ってるんですか、トルフォ・・・?」

リンメルトはなにも知っているような様子ではなかった。


「臨時秘書のこと、エルフィアには報告してあるのか?」

「リュディス・ランセリアのことですか?」

リンメルトはびっくりしたように聞き返した。


「リーエス。エルフィアの委員会には報告してあるのか?」


ぎろりっ。

トルフォは再び詰問した。


「滅相もない。シュリオンでのあなたの臨時秘書ですよ。こちらで用意しただけですから、エルフィアの委員会への申請許可など必要ありません」


「では、エルドも委員会もユティスも知らんということだな?」

トルフォは早速裏を取ろうとした。


「もちろん。エルフィアの委員会の人間はどなたも・・・」

「ほう・・・。そういうことか・・・

にたり。

きゅ。

トルフォはなにかいいことを思いついたのか右の口元を少し引き上げた。


「いいか、リンメルト。このことは内密にしておけ。特に委員会にはな・・・」


ぎろっ。

トルフォはまたまた睨み付けるようにエージェントの目を覗き込んだ。


「あ、リーエス・・・」

「そして、ブレストにも・・・」

トルフォはエージェントに口止めをしようとした。


「ブレスト?」


ブレストは委員会の時期理事候補の噂高い参事であったが、地球でのユティス拉致に絡む一件で、その悪行は宇宙中に散らばっているエルフィアのエージェントやSSたちにも知れ渡っていた。


「リーエス。そのブレストだ・・・」

トルフォはリンメルトをじっと見つめた。


「さもなくば・・・」


(そう言えば、ブレストはつい最近までトルフォのブレーンだったはずだぞ・・・)


「本人ではないとわかっていても・・・」

トルフォはリュディス・ランセリアを見つめて目を細めた。


「なかなかだな。うん・・・?」

にたっ。


「でしょ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わ、わかりました・・・」


リンメルトはトルフォがユティスを自分のものにしたがっていることをよく知っていたが、いつものように、そっくりさんにも手を出そうとしているただの助平だと直感した。


(結局、トルフォは外観さえユティスだったらいいのかなぁ・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「リュディス。おまえは誰かに似てると言われたことはないか?」


くるり。

トルフォは突然リュディスを振り向いた。


「わたくしですか・・・?」

きょとん・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ふふふ・・・。そうか、そうか・・・、ユティスがおまえに似ているんだ」

トルフォは面白そうに一人頷いた。


「わたくしはトルフォさまのどなたかお知り合いに似てるのでしょうか?」

リュディスは二人の会話を耳にすると、トルフォを見つめ不安そうに言った。


「リュデス・ランセリア、いいから、その髪を後ろで結わくように両手で上げてみろ」

トルフォはそれには答えず自分でもこうやるんだとばかりに合図した。


「そ、それはいわゆるセクハラというものじゃあ・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「かわまん。わたしが許す」

「リーエス?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あの、了承をするのはわたしなんですけど・・・」

「では、了承してくれ」

「リーエス?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「リーエス、と言ったな。おまえの了承はわたしが承知した。さぁ、髪を上げてみろ」


「もう・・・。わかりました、トルフォ様」

ぱさ・・・。


臨時秘書はこの話題から早く解放されたいと思ったのか、トルフォの言われるがままに髪を両手で上げた。


「こ、こうですか?」

「リーエス。そう、その調子だ」


きゅ。


そっして、リュディス・ランセリアはそのスーパーロングの茶色の髪を頭の後ろで束ねる格好をした。


「もう少し上のほうで束ねてみてくれ」

「これで・・・?」


きゅ。

彼女の白いうなじがさらに露になった。


「リーエス。そして少し笑ってみろ」

「リーエス・・・」


にっこり。

リュディス・ランセリアが少し恥らうように微笑んだ。


「あ・・・!」


どきどき・・・。


(なんてことだ・・・)

トルフォは驚きとともに笑みをこぼした。


「よし、決まりだ。今からその髪型にしてくれ」

「い、今からですか・・・?」

臨時秘書はさらに驚くとトルフォをまじまじと見つめた。


「ああ、リュディス・ランセリア、今すぐにだ。2時間あげよう。シュシュはきみの好みを選ぶといい」

トルフォが臨時秘書のことを『おまえ』から『きみ』に変えた。


「は、はぁ・・・」

「リュディス・ランセリア、すこぶる似ているぞ。わたしの未来の連れ合いにな・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「トルフォさまの未来の奥さまに・・・。フィ、フィアンセですか・・・?」

「リーエス。よって、今日からは、わたしはすこぶる機嫌が良くなった」

にこっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


例え目の前にいるのがユティス本人ではなくとも、彼女にあまりにも似ている美しいリュディス・ランセリアに、トルフォはたちまち好意を抱いた。


「うん?どうかしたか、リュディス・ランセリア?」

「ナナン。別に・・・」


(お、お持ち帰りされたら、どうしましょうか・・・)

ぞぞぉ・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「では、行ってまいります」

「うむ。待っているぞ」


どかっ。


「さぁ、シュリオンの支援状況を報告してくれんか、リンメルト」


ソファーに腰を落とすと、部屋を出て行くリュディス・ランセリアの背中エージェントを見つめるとトルフォは余裕たっぷりに言った。

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