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037 朝一

■朝一■




和人はいつもより早く事務所に来た。


「おう、和人。早いな。」

「おはようございます、常務・・・」


「昨日は悪かったな」

俊介が事務所で和人に言った。


「いえ。こちらこそお二人にご心配をおかけして・・・」

和人はかしこまった。


「バカ言え。礼を言うべきはこっちさ。姉貴も感動してたろ?」

「あ、はい・・・」


「オレたちはやっと自分たちのことを話せる仲間を見つけたんだ。だから、嬉しいんだよ」


ぱちっ。

俊介は和人に向かってウィンクした。


「常務・・・」

「わかってるって。そっちの件なら、なんでも相談していいぞ」


「はい・・・。それで・・・」

「二宮には当分口止めさせる。安心しろ」


「は、はい・・・。これからどうなるんでしょうか?」

不安げに和人は俊介を見つめた。


「幸せな結婚。可愛い子供たち。盆と正月には、超時空転送で親子揃ってエルフィアに里帰り・・・。『じぃ、お年玉ぁーーー!』」


--- ^_^ わっはっは! ---


「・・・てのは、どうだぁ?」

「常務まで、なに早合点してるんですか。オレのいいたいのは・・・」


「わかってるって。ユティスの身の安全だろ?」

「はい」


「もし、彼女がここに現われたら、必ず狙われるな・・・」


ぴかっ。

俊介の目が鋭く輝いた。


「ええ。エルフィアのテクノロジーはよく知りませんが、大変な価値があることくらいオレだって容易に想像できます。ユティスの奪い合いが起きて、国際紛争になりにでもしたら・・・」


「そうだな。おまえの心配はもっともだ。オレのじいさんの大田原太郎にまかせろ。ユティスを守るために必ず政府を動かしてやる」

「ありがとうございます」


「そっちの件はオレが担当する。おまえはユティスの信用を勝ち取れ」

「信用?」


「当たり前だ。ユティスの信用をもらえないなら、地球の未来はない。おまえの幸せな家庭もな・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「は、はい・・・」

俊介の真剣な眼差しに、和人は今度はからかわれたような気はしなかった。


にやり。

ところが、一転、俊介は悪戯っぽく笑った。


「それまでに、オレは主賓スピーチの練習をせんといかんなぁ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あれ、仲人は主賓じゃないかぁ・・・。えーとぉ・・・」

「常務!」

「わっはっは!」




一方、二宮の方は大変なことになっていた。


「バ、バカにしないでくれますか、茂木さん」

二宮は憮然とした表情で茂木に文句を言った。


「だって、あんた、イザベルにまともに扱ってもらえてないんでしょーが」

「んなことないっすよ」


「ほう・・・。デートもしてもらえない癖して、よく言うわねぇ・・・」


ぴき・・・。

二宮が切れた。


「へん。オレだって、イザベルちゃんとツーショトくらいありますよぉ」

「ほーーーぉ、それ、たまたま稽古で、道場にはあなたたち二人しかいなかったってことじゃないのぉ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「くっくっく・・・」

「ふふふ・・・」

事務所の女性たちが含み笑いを始めた。


むっかぁ・・・。


「そんなんじゃありませんね。ちゃんとしたツーショット、道場以外でね」


「じゃ、コンビニ弁当の購入ね。イザベルがレジであなたが客。『いらっしゃませ』、『のり弁』、『380円です』、『どうも』、『ありがとうございました』。あーーー、なんて安上がりでロマチックなツーショットでしょう・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


ふん!


「違いますね。ちゃんとしたショッピングを二人でしたんですからね」


にたり・・・。

二宮は勝ち誇ったように言った。


「ウソばっか」

「ウソじゃないですよぉーーーだ」


「イザベルがあなたと一緒にショッピングだってぇ?」


「そうっすよぉ。買い物中に身体と身体が触れ合うほど近寄り、二人はお互いがお互いを意識し合い、でもってショッピングの後には駅までイザベルちゃんを守って送ってあげて、そこで悲しいかな行き先の違う二人はホームを隔てて互いに見つめ合い・・・、そこに電車がやってきて無常にも、二人はその日別れを告げざるを得なかった・・・。以上、ウソ偽りありません・・・」


「超ありえなぁーーーい」」

茂木は信じられないような顔になった。


稽古の後、二宮はコンビニでビールを買おうとして、1億の1億分の1の単位の偶然でイザベルにぶつかり、20メート先の駅まで死ぬほどゆっくり歩いてやっと3分稼いだ、なんてことは誰も知らなかった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「真実ですとも、ウソだと思うなら、外のコンビニでイザベルちゃんに聞いてみてくださいよ」

二宮は窓から見える道を隔てた向こうのコンビニに目をやった。


「ありゃ・・・?」

だが、今日はイザベルはコンビニは非番で学校だった。


--- ^_^ わっはっは! ---




「やってる、やってる。ガキのケンカね、あれ・・・」

開発部マネージャーの岡本は、そんな二人を避けながら、石橋のところにやってきた。


「いいですよね、二宮さん・・・」

「ええ?」

岡本はきょとんとした。


「二宮のどこがいいのよ?石橋、まさかとは思うけど鞍替えしたぁ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


石橋は自分の言い間違いに気づいた。


「あ、いいえ。わたしがいいと思ってるのは二宮さんが好きだって意味じゃなくて、二宮さんが好きな人とデートできて羨ましいなぁということです」


「そ、そうよね・・・。あーーー、びっくりした・・・」


(一瞬、石橋、変体かと思っちゃった・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「あの、鞍替えって、どういう意味ですか、岡本さん・・・?」

石橋は目を伏せながら、岡本にきいた。


「あ、悪い・・・。朝一で真紀に報告あるんだった。ごめんね、石橋」


そさくさ・・・。


岡本はとりあえず、その場を逃れた。




イザベルの本当の言い分はこうだった。


「悪いな、喜連川、朝一のクラス持ってもらって」

「おす。師範、今日は休講だったんで、バイトに行こうかどうしようかと迷ってたんです」


「いやぁ、昨日のうち、電話入れといて良かったよぉ」

足利師範は安堵の表情になった。


「おす」


「あれから、西方のヤツがどうしても用事があって、今日の朝は出られないって連絡があってな・・・。オレは10時には本部の会議に出なきゃならんし・・・、ほとほと困ってたんだ」


足利はイザベルに笑いかけた。


「おす。朝のクラスは初心者ばかりなんて、わたしにも負担にはなりませんから・・・」

「いやぁ、ホント、助かったよ、喜連川!」


ぽん。

足利はイザベルの肩を叩いた。


「おす」


「それでな、昨日の晩は、稽古の後二宮と一緒だったのか?」

「おす。二宮さんとですか・・?」


「何でもコンビニから仲良く一緒に駅まで話しながら歩いていってたってな、誰か言ってたぞぉ」

足利はにやりとした。


「おす。あれは、二宮さんにコンビニで出会って、駅まで一緒に行っただけですよぉ」

イザベルは表情一つ変えなかった。


「はっは。んなことだろうと思ってたよ。喜連川!」

「お、おす・・・」


「お前は可愛いからなぁーーー」

「おす。ありがとうございます。でも、なんなんですか、師範?」

イザベルは理由をきいた。


「なぁに、おまえを落とそうと企んどるヤツが多くてな。正直、困っとる」

「お、おす・・・。どういうことでしょうか?」


「三部のビジネスクラスに出たことあるだろう?」

「おす・・・。3回くらいですけど・・・」


にたにた・・・。

「えらい噂になっとるぞぉ・・・」


「おす・・・」

「あいつら、おまえの左上段を知らんらしい」


びゅっ!

びしっ!

どったーーーん・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「おす・・・」


「二宮は十分知っているがな」

「おす」


--- ^_^ わっはっは! ---


「一本、喜連川!」

「審査中止!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「二宮には、ちと、サービス、し過ぎじゃないかぁ?」


--- ^_^ わっはっは! ---




エルフィアの朝はというと、いつものようにユティスがエルドに会見を申し込んでいた。


「エルドは、いらして、メローズ?」

「ユティス、エルドは会議中ですよ」


「ごめんなさい、メローズ・・・」

ユティスは頭を下げた。


「お急ぎですか?」

「ナナン。そういうわけじゃないんですが、ちょっと確かめたいことがありますの・・・」


「それなら、わたくしではダメですか?」

「ナナン。そんなことはありません」


「よろしければ、おうかがいしますよ」

にこ。

メローズは微笑んだ。


「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)。わたくしが、和人さんのところにいる時でした。和人さんがご上司とお話ししている時に、別の支援世界のことが話題に上りました」


「お側で聞いてらしたのね?」

「リーエス」


「ユティス?今、別の世界の話って・・・、おっしゃいましたか?」

「リーエス」


「驚きました、地球に既に別世界の住人が訪問し、しかも住んでいて、子孫まで残されてるなんて・・・。たった今、自星を出たばかりというカテゴリー2に成り立ての地球に、そのようなことがありえるのでしょうか?」


「リーエス。わたくしも不思議に思いました」

「その世界は、なんと呼ばれてるのですか?」


「リーエス。セレアムという世界なのです。メローズはご存知ですか?」

ユティスはその言葉を噛み締めるように言った。


「セレアムですか・・・」

メローズはしばらく考えた後、静かに首を横に振った。


「ナナン。わたくしは存じあげません・・・」


「いいんですの。わたくしも知りませんでしたから。ただ、そこは1万年以上前に、『エルフィアの文明促進支援を受けたことがある』、とおっしゃられていたのです・・・」


「なんと・・・」

メローズは信じられないというように、目を大きく開いた。


「それはどういうことですか?」


「セレアムはエルフィアの文明促進支援で、カテゴリー2からカテゴリー3におなりになったとか・・・。そして、偶然、セレアムのある方たちが地球に人類が文明を築いているとお知りになり、調査訪問をしたのです。しかし、ある天体による事故で訪問使節は・・・、お一人を除き全員・・・」


「まぁ・・・。それはお気の毒に・・・」

メローズは沈痛な表情になった。


「でも、そのお一人は地球人女性の介護で助かり、その方と連れ合いになられたのです。そして、そのまま地球人として地球に残りました。そのお孫さんというのが、ウツノミヤ・カズトさんのご上司なんです」


「ええ・・・?そんな、まさか、ユティス・・・」

「ナナン。事実です」


「本当なんですか?もし、そういうことなら・・・」

メローズはすぐにそれから導き出せることを考えた。


「リーエス。是非とも確かめていただきたいの、メローズ。本当にエルフィアはセレアムの文明促進支援をしたことがあるのでしょうか?」


「リーエス、ぜひとも調査が必要です」

こくん。

メローズは頷いた。


「そのセレアム人はオオタワラ・タローと名乗られていますわ。でも、本当のお名前は異なるかもしれません。地球の文字で正しい発音を言い表すことは大変ですから・・・。オオタワラさんは、とてもセレアムに連絡を取りたがっておられます」


「そうでしたか・・・。その方がお一人で地球に残られたのは止むを得ずなんですね?」

「リーエス。ですからセレアムがどこかわかれば・・・」


「地球の座標がわかる手がかりが掴めるというのですか?」

「リーエス。お話だけですが、セレアムは地球があるという天の川銀河と5ないし、6000万光年ほど離れていると・・・」


「それは、とても重要な情報だと思います。エルドに最初にお伝えしますか?」

「リーエス。是非、そうお願いしますわ」

にっこり。


「リーエス。ユティス」

にこっ。


「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)。メローズ」

「パジューレ(どういたしまして)、ユティス」




そして、エルフィア文明促進推進支援委員会のもう一人の方は、地球支援を阻止する方向に策を巡らせていた。


「トルフォ、いかがです?」


委員会理事のトルフォは、自分の参謀の委員会参事、ブレストと自宅の今で語り合っていた。


「ユティスは、やはり、コンタクティーのウツノミヤ・カズトとかいう現地の男に相当熱をあげている・・・」

「予定どおりではないですか・・・」


「なにを悠長なことを言っている!ユティスが本気であやつに夢中になっているのだぞ!ブレスト、この事態をどう打開するつもりだ?」

トルフォは明らかに気分を害していた。


「今しばらく・・・。トルフォ、あなたは大船に乗った気分で、でんとお構えいただければ・・・」


「わからんわ!このままだと、どうなるというんだ?」

トルフォは切れていた。


「そうあせっては、うまく行くことも行きませんよ」

ブレストは落ち着いた低い声で、ゆっくりと言った。


「すべては予定通りなのです。今は、『二人が仲良くなればなるほどよいのです』ご安心ください・・・」


「ふっふ・・・」

ブレストは自信ありげに微笑んだ。


「ふん!ブレスト、おまえの言うとおり、ユティスがあやつに夢中になることを利用するということを、ユティスやエルドが知っておるということはないのか?」


「それは知らないでしょうね。ただ・・・」

「なんだとぉ?それこそ、大間抜けの大たわけ。委員会のいい恥さらし者だ!」

トルフォは息巻いた。


「まぁ、心配には及びません。『急いてはことを仕損じる』と申しますでしょう・・・。ふっふっふ・・・」

「わからん。さっぱり、わからん!」


ばん!

トルフォはブレストを睨みつけ、机を叩いた。


「後、もうすこしの辛抱です。ユティスの公私混同をだれもが認めれる事態になれば、そこに疑惑の種を落とすだけです・・・。疑惑の花は、養分を得て、あっという間に大輪まで咲き誇ります・・・」


ぐびっ・・・。

トルフォは獅子のように吼えると、グラスの液体を一気に飲み干した。

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